2021年03月01日
2021年02月08日
関西外大ストライキ権行使に対する処分事件、大阪高裁不当判決
■私大教連かんさい(Email版)№142 2021年1月28日関西外大21世紀教職員組合は、ストライキ権行使に対する処分撤回を求めて大阪高裁に控訴していましたが、1月22日、「本件各控訴をいずれも棄却する」との不当な判決が下されました。
原告と弁護団、私大教連は大阪高裁での逆転勝利に向け、経験豊富な弁護士を2名補強し、関西外大のストライキに関する学者の鑑定意見書、理事会の不誠実さを示す団体交渉のテープを起こして提出しました。しかし高裁判決ではそれらのものは一切顧みず、理事会主張をそのままなぞるような不当なものとなりました。
関西外大理事会は団体交渉で、資料を提示して説明するようなことは一切行わず、どんな要求であっても組合が求めたものについて全く前向きな回答をしませんでした。しかし判決では、事実を検討する前提として「被控訴人(理事会)において、団体交渉を拒否し、あるいは不誠実な団体交渉を行ったものとは認められず」としています。「担当コマ数をめぐる団体交渉が何年にもわたって平行線をたどった」原因は、組合の責任と事実誤認の判断をしています。また2コマ授業のストライキについては、「担当しない授業科目を自らにおいて選択し、決定」し、「週6コマとするという要求を単に自力執行の形で実現する目的に出た」と決めつけ、「その授業科目を、他の教員に担当させざるを得なくなった」から「(理事会の)人事権を行使するもの」で、「正当なものであるということはできない」としています。
加えて、判決では、大学教員は「1年間のうち、授業期間が9カ月間、それ以外の期間が3カ月間あり、授業期間以外の期間に教授会、委員会活動及び入学試験監督等の業務のほか、研究活動や授業の準備活動を行える」などと荒唐無稽な主張を展開し、「(大学教員は)その才覚と裁量により、柔軟に時間配分をして対処することができる」などとし、大学教員の働き方について極めて平板で、かつ偏見に満ちた見解を示していることも看過できません。
また関西外大の労務管理の実態や組合差別の実態を示した証拠については、「主張が時機に後れたことについて控訴人(組合側)らの重過失も認められる」として、却下されました。これではどのような職場環境の中で、今回の事態が起こったかについての検証が全くできないものとなってしまいます。
組合と原告、私大教連はこのような不当な判決を許さず、最高裁に上告し、たたかいを継続する決意を固めています。引き続きのご支援をよろしくお願いします。
シリーズ「学問の自由」第4弾『表現の自由と学問の自由――日本学術会議問題の背景』が出ました。
現代日本の大学が直面する諸問題に切り込んでいくシリーズ「学問の自由」第4弾が出ました。
■『表現の自由と学問の自由――日本学術会議問題の背景』
https://www.amazon.co.jp/dp/4784515895
■寄川条路/編
■稲正樹/榎本文雄/島崎隆/末木文美士/不破茂/山田省三/渡辺恒夫/著
■A5判並製128頁、本体1,000円+税、ISBN 978-4-7845-1589-9 C0030
■社会評論社
■目 次
序 章 「学問の自由」は成り立つか?:末木文美士(東京大学名誉教授・日本思想史)
第1章 「表現の自由」「学問の自由」がいま侵される:島崎隆(一橋大学名誉教授・哲学)
第2章 明治学院大学事件への意見書:山田省三(中央大学名誉教授・労働法)
第3章 大学はパワハラ・アカハラの巣窟:不破茂(愛媛大学法文学部准教授・国際関係法)
第4章 学問・教育の自由をめぐって:榎本文雄(大阪大学名誉教授・仏教学)
第5章 日本学術会議の軍事的安全保障研究に関する声明と報告について:稲正樹(元国際基督教大学教授・憲法学)
第6章 学問の自由と民主主義のための現象学:渡辺恒夫(東邦大学名誉教授・心理学)
終 章 未来に開かれた表現の自由:寄川条路(元明治学院大学教授・倫理学)
2021年02月06日
梅光学院大教員が全面勝訴、地裁下関・学院側の主張退ける
■長周新聞(2021年2月5日)
新聞記事の全面PDFは,こちら。
下関市の梅光学院大学の教員有志一〇人が労働条件などを一方的に変更したことについて学院を訴えた裁判の一審判決が二日に山口地裁下関支部であり、梅光学院に未払い賃金など計約六〇〇〇万円の支払いを命じる判決が下った。原告団のほぼ全面勝利となり、判決を受けて原告団の教員は弁護士とともに報告会を開き、二年以上にわたる裁判を支えてきた支援者に結果を報告した。……
2021年02月05日
中京大事件、2月3日控訴審期日 和解成立
■組合の権利ニュース(2021年2月4日東海地区私立大学教職員組合連合第110号)
中京大事件、2月3日控訴審期日 和解成立祝 羅教授原職復帰!
東海私大教連組合員の皆さん、 吉報です。 中京大事件 (地位確認等請求事件、賞与等返還等請求事
件) ですが、 2月3日控訴審期日にて、和解が成立しました。
以下に、和解成立 直 後に 羅教授 から 投稿していただいた 支援者へのお礼 文 を掲載します。支援者の皆様へ 今日、素晴らしい和解が成立し言葉では言い表せないほど嬉しいです。今回の和解は皆様 との連帯の賜物と心より感謝致しております。コロナが沈静化したら、今日の喜びを皆様と 分かち合いたいと願います。まずは失礼ながら 書面してとりあえず御礼を申し上げます 2021年2月3日羅一慶
2021年02月04日
梅光学院に6千万円超支払い命令 給与など減額支払い訴訟
下関市向洋町の梅光学院大の教員と元教員計10人が同大を運営する学校法人梅光学院を相手に給与規定を含む就業規則の変更で減額された給与や退職金の差額約6230万円の支払いなどを求めた訴訟の判決が2日、地裁下関支部であった。種村好子裁判長は「就業規則の変更は合理的なものとは言えない」として、同法人に約6180万円の支払いを命じた。……
6180万円の支払い 梅光学院に命令 地裁下関支部判決
給与減額訴訟 梅光学院に支払い命令 教授ら10人に6000万円 地裁下関判決
不当に給与や退職金が減額されたとして、梅光学院大(下関市)の教授や元教員ら計10人が同大を運営する学校法人梅光学院を相手取り、差額の支払いなどを求めた訴訟の判決が2日、山口地裁下関支部(種村好子裁判長)であった。判決は、原告の主張を大筋で認め、約6000万円を支払うよう学院側に命じた。 ……
2021年01月30日
早稲田大学の教員採用をめぐる裁判(続報)
■Facebook(Okayama Shigeru,2021/01/30)
早稲田大学の教員採用をめぐる裁判(続報)大学はいまや終身雇用ではなくなっています。多くの大学で任期制が導入され、3年とか5年で首を切られるようになりました。採用の5年後にテニュア(終身在職権)が取れるかどうかの審査があるテニュア・トラック制も導入されています。また私立大学でも教員の採用が公募で行われることが多くなっています。
そのなかで、教員の採用をどうすれば透明で公正なものにできるかが問われています。大学が一部の学閥エリートによって支配される閉ざされた空間ではなく、すべての人に開かれた自由な空間になるにはどうすればよいのかが、いま問われているのです。
ここにいる原告の明治大学教員の石井さんは、早稲田大学政治経済学部の非常勤講師でもあり、早稲田大学のアジア太平洋研究科の専任教員の公募に応募したのですが、第一次選考で落とされました。応募の要件はみたしていたはずなので納得のいかなかった石井さんは、研究科長に宛てて事実確認を求めました。しかし研究科長が回答を拒否したため、こんどは大学の総長あてにそれを求めましたが、それも拒否されたため、石井さんは労働組合東京ユニオンに加盟し、早稲田大学の労働者(非常勤講師)として早稲田大学と団交を行いました。しかし早稲田大学はこの団交においても教員の採用は団交事項には当たらないとして話し合いを拒否したのです。石井さんと労働組合東京ユニオンはこうして早稲田大学を相手に訴訟を起こすことになりました。
たしかに「大学の自治」は保障されるべきです。しかし大学の自治は「学問の自由」を守るためにあります。そして「学問の自由」は「労働権」とともに憲法によって護られているすべての人の権利です。それをあたかも大学の権利であるかのように語る早稲田大学は、なにか考え違いをしているとしか思えません。
教員および研究者の採用は思想の検閲であってはいけません。昨年来、菅首相は日本学術会議の6名の新会員候補者の任命を拒んでいます。理由をいわないので想像するしかないのですが、6名の候補者の思想・信条が日本学術会議にふさわしくないと考えてのことでしょう。ところで早稲田大学は菅首相と同じことを学内の教員採用においておこなっているのです。
たしかに原告は、中国政治というたいへんセンシティブな分野の研究者です。中国の政権におもねり、中国からの留学生をふやし、孔子学院という中国の体制側の機関の事務所を大学の構内に招き、江沢民や胡錦涛などの国家主席に大隈講堂で講演させている早稲田大学にとって、原告はちょっとやっかいな人物です。しかしそういう候補者を第一次選考ではじくということは、早稲田大学が自由な学問のための場ではなくなってしまっているということを意味します。
私たちは早稲田大学の田中総長を相手取って裁判をしています。田中総長は、自らの思想・信条によって大学の構成員になろうとするものの思想・信条の自由を踏みにじることを許されるのでしょうか。大学のなかのアジア太平洋研究科という箇所が、そのような教員採用をしていることを許しておいてよいのでしょうか。
大学側の弁護士は、大学は自治がみとめられているがゆえに一般の企業よりも大きな採用の自由をもつと言います。そういう弁護士を雇っておいて、早稲田大学は自由な研究のための空間であり続けることができるのでしょうか。早稲田大学はそこで学び問おうとする者の「学問の自由」を、これからも護りつづけることはできるのでしょうか。私たちはいまそういう闘いを行っています。どうかご支援をよろしくお願いします。
岡山茂(早稲田大学政経学部教授、東京ユニオン早稲田大学支部長、2021年1月28日東京地裁前)
資料「学校法人追手門学院(懲戒解雇)事件
労働判例(2021年2月1日号)
http://university.main.jp/blog/bunsyo/20210201.pdf
2021年01月22日
羽衣国際大学事件、女性講師を支援する会を結成
■民主法律協会
∟●羽衣国際大学事件、女性講師を支援する会を結成
羽衣国際大学事件、女性講師を支援する会を結成2020年10月15日弁護士 西川 翔大1 はじめに
2020年9月 日(金)18時半から、社会福祉会館で、zoomと併用して「羽衣国際大学(女性講師)を支援する会」結成総会が開催されました。会場には、羽衣国際大学教職員組合、関西私大教連、堺労連、弁護団、羽衣国際大学卒業生(女性講師の教え子)などが集いました。
2 事案の概要
本件は、羽衣国際大学で有期雇用契約により非常勤講師、専任講師として、通算すると約9年間勤務した女性講師が、労働契約法18条1項に基づき無期転換権を行使しようとしたのに対して、大学側は大学教員等の任期に関する法律(以下「大学教員任期法」といいます。)第7条の適用により無期転換権の発生する期間が「5年」ではなく「10年」であると主張して、その行使を認めず、女性講師に対して2019年3月31日をもって雇止めを強行した事件です。
女性講師は、2019年5月31日に学校法人羽衣学園に対して無期雇用契約を前提とした労働契約上の地位確認等を求めて大阪地裁に提訴しました。
3 訴訟の経過
提訴後に大きく報道された新聞記事を見て、理事長が女性講師には「気持ちよく戻ってもらう」と発言したため、女性講師の早期職場復帰を目指して、羽衣国際大学教職員組合と大学側の団体交渉を継続し、和解による解決が模索され、裁判所においても、計7回に及ぶ進行協議の中で和解の可能性が検討されました。しかし、大学側は無期雇用を受け入れることはできないと回答し、現時点で和解は困難と判断され、訴訟を進行しています。
4 大学教員任期法7条の適用がないこと
本件の主な争点は、女性講師に対して大学教員等任期法7条の適用があるのかという点です。
大学教員等任期法7条とは、大学等で先端的・総合的な研究や計画的な教育研究などを対象にして、多様な知識や経験を有する教員相互の学問的交流が行われる状況を創出することを目的に、労働契約法 条1項の特例として無期転換権の通算期間を5年ではなく10年とするものです。
大学側は任期を定めて雇用した女性講師について当然にこの法律の適用があるものと主張しています。
しかし、常に雇用の不安にさらされる有期雇用労働者にとって無期転換権は非常に重要な権限であり、無期転換権の通算期間を10年に延長する大学教員任期法7条の適用によって大学教員の身分保障は不安定なものになります。そのため、立法趣旨においても、任期制の適用が恣意的にならないように、任期制適用にかかる手続(学長の意見聴取手続、公表、本人に対する説明等)を経ることを前提とした限定的な適用が想定されています。
少なくとも大学側がこれらの手続を経たことは不明瞭であり、任期を定めた女性講師について当然に大学教員等任期法7条の適用があると主張する大学側の主張は認められません。女性講師には原則どおり労働契約法18条1項に基づき5年間での無期転換権行使が認められるべきです。
5 最後に
2013(平成 )年4月1日に労働契約法改正により無期転換権が導入されたことは有期雇用労働者にとって重要な意義を有しており、大学教員であってもそれは変わりません。大学教員の身分保障を蔑ろにする大学教員任期法は時代に逆行するものであり、関西圏の他の大学でも教員に対して当然に適用する事例が複数見られます。全国的に大学教員任期法の適用に関して正面から判断した事案はなく、今回判決までいけば全国でも大きな影響を与えることになります。今後も、結成した女性講師を支援する会を中心に、弁護団ともども女性講師の早期職場復帰を目指して取り組みたいと考えていますので、ご支援いただきますようよろしくお願いいたします。
(弁護団は鎌田幸夫、中西基、西川翔大
ネット署名、羽衣国際大学を解雇された女性講師を早期に復帰させよう!
羽衣国際大学で、2010年から2013年まで非常勤講師、2013年から2016年まで期限付き専任講師(再任1回で2年間)として勤務、2016年には当初2年とされていた雇用期限が3年に延長され、合計9年間途切れることなく勤務した女性講師が解雇されました。女性講師は、当時の学長からは「介護分野は閉鎖するので終了するが、子供系の科目を立ち上げる可能性があるので、福祉・子ども分野の研究を積んでほしい」と言われたこともあり、任期終了後には労働契約法18条1項に基づいた無期雇用に転換するものと確信していました。しかし、羽衣国際大学理事会は女性講師が行った労働契約法に基づいた無期労働契約の転換の申し入れを無視し、契約が優先として2019年4月に解雇を強行しました。教職員組合が団体交渉等で女性講師の無期転換を主張し、大阪労働局からも「無期転換権が発生している」と指摘されていたにも関わらずです。
2019年5月、女性講師は不当解雇であるとして大阪地裁に提訴し、それが新聞記事として大きく扱われました。6月5日には、理事長が組合委員長に対して「完全に学園側のミスです」「女性講師には気持ちよく戻ってもらいたい」「ちゃんとした制度にしていきたい」と話しました。その後、常任理事会決定に基づき一旦和解に向けて動き始めましたが、突如学長、大学事務局長は「理事長の発言は個人的感想」だと述べ、和解の動きを止めました。これは理事長が理事会を代表する立場である以上、社会的に通用するものではありません。
また、理事会は「女性講師は大学教員任期法適用職員だから、無期転換は10年経過後である」と主張しています。しかし、羽衣国際大学には大学教員任期法に基づいた学内規定は整備されておらず、また、女性講師に採用時点で大学教員任期法敵将職員であることの説明もなく、そのことは契約書にも記載されていません。
女性講師は教職員から信頼され学生から慕われながら、長年羽衣国際大学の発展に尽力してきました。早急に羽衣国際大学が女性講師の解雇を撤回し、早急に現職に復帰させて、女性講師が羽衣国際大学の教育と研究の発展、学生指導に邁進できるよう求めるものです。
2021年01月07日
梅光学院、ブラインアカデミーの「研修」実態 人格否定し退職強要
2021年01月04日
安倍前首相の地元・下関で先鋭化する「大学破壊」。理事会の独裁、学長専決の教員採用…全国に波及も
■BUSINESS INSIDER JAPAN(2020/12/29(火))
安倍前首相の地元・下関で先鋭化する「大学破壊」。理事会の独裁、学長専決の教員採用…全国に波及も
「桜を見る会」前夜祭をめぐる政治資金規正法違反事件について、東京地検特捜部は安倍晋三前?相から任意で事情聴取したうえで、安倍氏を不起訴とし、公設第一秘書を略式起訴した。安倍氏はその後、衆参両院の議院運営委員会に出席し、在任中の国会答弁を「結果として事実に反する」などと謝罪したが、議員辞職を求める声は日に日に高まっている。
そんななか、全国紙ではあまり報道されていないが、渦中の安倍氏の地元・下関市(山口4区)で、また別の不可解で深刻な問題がくすぶり、火の手が上がろうとしている。
各地の大学で「学長の独裁化」が問題に
22020年10月18日、下関市から南東におよそ100キロ、同じ瀬戸内海を望む大分市の中?部で、「大分大学のガバナンスを考える市民の会」(以下、市民の会)が主催するシンポジウム「大学の権力的支配を許していいのか!」が開かれた。
基調講演者は、大学のガバナンス問題について全国を飛び回り取材を重ねているジャーナリストの田中圭太郎氏。日本各地で、天下り官僚や地方自治体幹部、弁護士らが大学経営のトップあるいは幹部ポストを占め、「改革」の名のもとに大学の私物化や教育・研究への介入支配が進んでいる現状を紹介した。
続いて登壇したのは、市民の会のメンバーでもある大分大学の二宮孝富名誉教授。かつて自身が教鞭をとっていた大分大で、学長が教員や学部長の人事に介入するといった「独裁化」が進んでいる現状を報告した。
大分大学では2015年、医学部教授出身の北野正剛学長のもとで、学長の再任回数制限が撤廃されるとともに、学?選出の際には必ず行われていた教職員の意向投票も廃?された。
さらに、北野学長は2019年、経済学部の教授会が推薦した学部長候補の任命を拒否し、専決で他の教員を学部長に任命。医学部でも、審査委員会や教授会の審査を経て教授候補者に選出されていた准教授の任命を拒否し、事実上の学長直接指名によって他の人物を教授に任命している。
シンポジウムでは続いて、下関市立大学経済学部の飯塚靖教授が、同大学の設置者である下関市当局や元市役所職員らによって、教育・研究内容や教員人事が不正に歪められている現状を報告した(筆者も総合コメンテーターとして発言)。
実はいま筑波大学でも、学長の再任回数制限の撤廃と教職員意向投票の撤廃が行われ、学長の「終身化」「独裁化」が問題化し、(悪い意味で)全国区の注目を集めつつある。そして、これらが地域限定の、属人的な問題ではないことが明らかになってきている。
大学の現状を批判した理事が突如解任
さて、上記のシンポジウム「大学の権力的支配を許していいのか!」は、(もちろん感染予防に十分留意しつつ)大分大学の教職員、元教員、現役学生や卒業生のほか、地元市民など100名ほどが集まり、活発な質疑応答も交わされて盛況のうちに閉会した。
ところが、それから10日ほど経って、シンポジウム関係者にショッキングなニュースが伝えられた。
下関市大の飯塚教授が、直後に開催された学校法人の理事会で、本人以外の全理事の賛成によって理事を解任されたというのだ。
飯塚教授は理事会の席上、大分のシンポジウムで下関市大の現状を批判的に報告したことについて、当日配布したレジュメのコピーを示されて詰問されたという。
飯塚教授は下関市大の経済学部長を務めているが、同大は経済に特化した単科大学(=経済学部のみ)なので、学部長は飯塚教授ただ一人。そのため、理事会においては、従来から在職する専任教員を代表する唯一の存在だった。にもかかわらず、飯塚教授が理事を解任された事実は、専任教員の大多数にたった1通のメールで通知された。
筆者が関係者から確認した情報によれば、飯塚教授の理事解任を主導した山村重彰理事長は下関市の元副市長。安倍晋三前?相の秘書を務めた前田晋太郎市長と市議会与党の自民党系会派(創世下関)の支持を背景に、下関市大の理事長に就任したとされる。
安倍前首相の秘書を務めた市長の「大学への要請」
こうした下関市大の決定機構のあり方は、飯塚教授の理事解任に始まったことではない。
2019年5月、前田市長が下関市大の山村理事長や学長・学部長ら大学幹部を市長室に呼び出し、特別支援教育を担う「特別専攻科」を新設し、市長が推薦した候補者を専任教員として採用するよう要請したのが、その端緒だった。
下関市大の教員の大多数は、学内の(教員・研究者から成る)「資格審査委員会」による業績審査、教授会への諮問といった、採用に必要な手続きを経ていないとして猛反発。大学など高等教育機関を所管する文部科学省からも、採用手続きについて指導が入った。
ところが、経営陣はそうした内外の意見に耳を貸さず、翌6月に特別専攻科(およびリカレント教育課程)の設置と、ハン・チャンワン(韓昌完)琉球大学教授の招へいを含む新任教員3名の採用を強行する。
※戦後日本の大学ガバナンス……「学問の自由」を定めた日本国憲法23条と、そこから導かれる「大学の自治」の理念に基づき、戦前・戦時期の弾圧への反省を踏まえ、ふたつの原則が貫かれている。ひとつは、大学内部において、教育・研究の自由と教員人事の自治が、経営陣による支配から守られること。ふたつは、大学外部との関係において、政官財界などの勢力から、教育・研究の自由と教員人事の自治が守られること。例えば、教員の採用や昇任に関しては、学内の専門家による慎重な審査・審議(ピア・レビュー)を経なければならない。また、国公立大学の設置者(政府・自治体)の長や議会多数派や事務方は、大学に対して新設の学部・コースなどの大まかな方向性について要請することは許容されるが、具体的な教育・研究内容や教員人事を左右することまでは認められていない。
学長の独断による教員採用が可能に
しかも、事態は学科の新設や新任教員人事の強行にとどまらなかった。
下関市当局は、市大の教育・研究・教員人事に関する最高審議機関である教育研究審議会(教研審)や教授会に諮問することなく、大学の定款変更の議案を市議会に提出、これを可決させた。
変更後の定款では、新たに理事会(解任された飯塚教授もこのとき理事に選任)を設置することが定められた。さらに、教育・研究に関する重要事項や、採用・昇任など教員人事に関する審議権を教研審から奪い、教員・研究者以外が多数含まれる新設の理事会に権限を集中させた。
2020年4月に開催された第1回理事会は、さっそく「教員人事評価委員会規程」を決定する。
同規定により、教員の採用・昇任の審査を担当する「資格審査委員会」の委員5名のうち過半数の3名には、学長が直接指名する「教員人事評価委員」が充てられることになった。同時に、最高審議機関だった教研審と教授会は教員人事に一切関与できなくなった。
さらに、翌5月の第3回理事会では「教員採用選考規程」の導入が決まった。この規定には驚くべき条文が組み込まれた。
雑則第11条の「学長は、教員採用に関し、全学的な観点及び総合的な判断により必要があると認めた場合は、この規程によらない取り扱いをすることができる」というのがそれで、要するに、上述の「資格審査委員会」による審査も経ず、学長単独での教員採用・昇任決定への道が開かれたわけだ。
※教員採用・昇任の決定プロセス……大学教員を採用する際には、学内の専任教員のなかから当該分野や隣接分野の専問家を集めて研究・教育業績を精査したうえで、教授会や教育研究評議会(下関市大の場合は教研審)の審査を経る必要がある。2014年に学校教育法93条が改正され、それまで「重要な事項を審議する」と定められていた教授会の権限は「学長に意見を述べる」役割へと格下げされたものの、教員採用にあたって教授会からの意見聴取を省略し、学長が直接指名した者が過半数を占める委員会のみに審査を担わせることまでは想定されていない。ましてや、 ひとつの学術分野の専門家にすぎない学長が、 単独あるいは専決で、多様な専門分野の教員を指名採用することは、戦後日本を含む自由民主主義諸国の大学ガバナンスの観点から、到底容認されるものではない。
新設された「理事会」の顔ぶれ
ここまで経緯を記したように、下関市大に新設された理事会は、教研審や教授会から教育・研究・教員人事の審査権を完全にはく奪した。
いったいどんな人たちが理事を務めているのか、そこでどのように意思決定が行われているのか、公になっている情報や複数の関係者からの情報提供をもとに整理してみたい。
飯塚教授が解任されたあとの理事会は、6名の理事のうち半数の3名が非研究者で占められており、それぞれ、元市役所職員で副市長を務めた山村理事長、元市役所職員で大学事務局長の砂原雅夫氏(副学長を兼務)、学外から経営担当理事の地元財界幹部(山口銀行取締役)という顔ぶれだ。
一方、残り半数の理事は研究者3名が占め、川波洋一学長と、特別専攻科の新設に伴って招へいされたハン・チャンワン教授(副学長を兼務)、学外からの教育研究担当理事(元下関短期大学教授)が名を連ねる(いずれも2020年10月29日時点)。
なお、川波氏は?2016年から下関市大学長を務め、2018年末の学長選に再選を期して立候補したものの、教職員による学内の意向投票で大差をつけられて敗北。にもかかわらず、その後、大学事務局長の砂原氏を議長とし、ほかに民間金融機関出身の2名、現役の教員3名の計6名から成る「学長選考会議」の決定により、学?続投が決まっている。
理事や副学長、教員の任命をめぐる不可解な動き
そうした不可解な学長再選の経緯以上に、大学関係者や下関市民に驚きをもって受けとめられたのが、ハン・チャンワン氏の理事就任だ。2020年1月に非常勤の理事として迎えられ、4月には専任教授として着任、いきなり(常勤の)理事兼副学長に任命された。
このとき同時に、砂原事務局長が副学長に任命されたことも、学内の専任教員に衝撃を与えた。教育・研究をつかさどる副学長は、経営をつかさどる理事とは異なり、学内の専任教員から選ばれるのが一般的で、少なくとも研究・教育の実績を持たない事務職員出身者が担える役職とは思われないからだ。
また、2020年4月にハン氏とともに特別専攻科の准教授および専任講師として着任した2名は、ハン氏の前任校である琉球大学教育学部の元専任講師と元特命助教だった。ともに琉球大学時代のハン氏の教え子だという。
この2名もハン氏と同様、専任教員による業績の精査、前述の教研審や教授会への諮問といった審査・審議(ピア・レビュー)を経ずに採用されている。
それからまもない6、7月には、ハン氏が韓国時代に教員として勤めていた大学出身の研究者2名が、やはり学長と理事会の指名により、大学院教育経済学領域の准教授として採用された。
こちらの2名の採用は、大学院教授会に相当する経済学研究科委員会や教研審の審査を経ないばかりか、学長が任命する委員が過半数を占める「資格審査委員会」にすら諮問せず、(先述した)4月の理事会で決定したばかりの「教員採用選考規程」雑則11条を使って、学長が単独で決定した。
さらに、ハン教授は着任後すぐ理事兼副学長に就任しただけでなく、「教員人事評価委員会委員長」「教員懲戒委員会委員長」「相談支援センター(ハラスメント相談含む)統括責任者」を兼任することになった。
これは、経済学部のすべての専任教員に対して、昇任・懲戒・人事評価・ハラスメント相談の最終的な権限を一手に掌握したことを意味する。
教研審や教授会から教員人事の審査権をはく奪して理事会に権限を集中したうえで、理事のひとりに教員人事権を集中させれば、何が起こるかは誰でも容易に想像がつく。
事態はすでに深刻で、筆者が複数の関係者に直接確認したところでは、大学ガバナンスのあり方や学長専決人事に批判的な複数の専任教員に対して、さまざまな理由で懲戒処分が進められている。
安倍政権で進んだ、憲法と学校教育法の「曲解」
第二次安倍政権は、自民党の歴代内閣のなかでは珍しく、大学・高等教育政策に大きな関心を示した政権だった。
同政権下では、文部科学大臣を3年間務めた下村博文氏や経済団体など、政官財界から大学に対して激しい「改革」圧力がかかった。2000年代までの大学改革とは異次元のものだった。
少なくとも戦後75年、専門家・研究者のピア・レビューを経ずには決定できなかった、教員人事や業績審査、教育・研究内容、カリキュラムやコース編成など、大学自治の「最後の砦」と言うべき部分に、研究者以外の専問家でもない人間が安易に手を突っ込めるような「ガバナンス改革」が進められた。
下村氏らが主導した学校教育法93条の改正により、すでに述べたように、教授会が「重要な事項を審議する」機関から「学長に意見を述べる」機関へと格下げされたことで、学長や理事会、あるいは政府や首長、議会与党がトップダウンで教育・研究内容や教員人事さえ決定できるかのような、学校教育法の趣旨の曲解、憲法23条の「解釈改憲」が、地方の国公大学を中心に広がっている。
大学経営陣を占める政官財界出身者らによる、教育・研究への介入や利益誘導も深刻化している。
こうした動向に異議を唱える全国各地の研究者たちが、大学経営陣からの懲戒や恫喝、いじめや嫌がらせにさらされ、業績評価・賞与査定や昇任審査で不当な扱いを受けて苦しんでいる。
近代の先進諸国の大学は、約100年間かけて、政治や行政、経営による教育・研究の支配を克服し、学問の自由と大学の自治を勝ちとってきた。
下関市大の現状を地方の一公立大学の問題として放置・無視すれば、日本の大学の多くは遠からず、19世紀以前に逆戻りしてしまうおそれがある。教育・研究のすそ野や学術文化の多様性は急速に狭められ、地方を中心に経済力のない若者の学びの機会は奪われていくだろう。
わたしたちはいまこそ、第二次安倍政権の縁故政治と大学ガバナンス「改革」が残した負の遺産とも言える下関市大の問題と真剣に向き合う必要がある。
(文:石原俊)
石原俊(いしはら・しゅん):明治学院大学社会学部教授。1974年、京都市生まれ。京都大学大学院文学研究科(社会学専修)博士後期課程修了。博士(文学)。千葉大学などを経て現職。2018~20年、毎日新聞「月刊時論フォーラム」担当。専門は、社会学・歴史社会学。著書に『近代日本と小笠原諸島──移動民の島々と帝国』(平凡社、2007年:第7回日本社会学会奨励賞受賞)『〈群島〉の歴史社会学』(弘文堂、2013年)『群島と大学──冷戦ガラパゴスを超えて』(共和国、2017年)『硫黄島 国策に翻弄された130年』(中公新書、2019年)など。大学ガバナンス問題に関する論文・記事も多数寄稿。
地方私大はなぜ「留学生ばかり」になるのか? 「生き残り戦略」の難しい舵取り 大月隆寛
地方私大はなぜ「留学生ばかり」になるのか? 「生き残り戦略」の難しい舵取り 大月隆寛大月氏(本人提供)NHK『BSマンガ夜話』の司会などで知られる民俗学者の大月隆寛氏が、勤務先だった札幌国際大からの懲戒解雇を不当として、裁判で争っている。背景には、留学生の受け入れをめぐる経営側との対立がある。
同大は、2018年度の留学生が3人だったところ、2019年度には65人(全入学者の約15%に相当)を入学させた。定員充足率が上がり、私学助成が千数百万円増額された。
ただ、地元誌の北方ジャーナルによると、この65人中40人近くが、文部科学省が留学生の目安としてあげる日本語能力試験のレベル「N2」相当に達しておらず、教員から苦情が出ることもあったという(2020年5月号)。
●大学側は適正と主張「在籍管理なくして、受け入れはできない」
留学生をめぐっては、東京福祉大で2019年に大量失踪が発覚。日本語能力に関係ない受け入れが問題視された。
一方、札幌国際大は2019年度に入学した留学生の合格率は70%台だったとし、選抜は適切だと説明する。2020年度入学の合格率は50%を切っていた(65人が入学)といい、これに対して日本人学生の合格率はほぼ全入に近い。
また、北海道新聞によると、告発を受けて調査した札幌入管は、試験問題の一部使い回しなどについて指導はしたものの、9月15日付で「法令違反は認められない」旨の通知を出している(2020年9月18日付)。
「勉強せず、働いてばかりということは防がなくてはならない。授業を休めば連絡を入れるし、アルバイトも週28時間の規定を超えないようチェックしている。日本語を学ぶ授業もある。在籍管理なくして、受け入れはできないと考えています」(札幌国際大担当者)
大学側が受験生の日本語能力をどのように認識していたかなどについては裁判で明らかになるとみられるが、地方私大が意識してアジア系の留学生を受け入れているのは事実だ。
大月氏は、留学生受け入れの是非はおくとしたうえで、次のように主張する。
「札幌国際大の場合、中国系の留学生は、富裕層の子どもが多く、もはや少し前までのような労働目当ては少ない。とはいえ、大学で正規に学べるだけの日本語能力が不足しているのなら、まずは準備教育として学内に留学生別科を置き、日本語を教えるべき」
地方私大の現状について、大月氏に寄稿してもらった。
●地方私大、積極的に留学生を取り込む
少子化に伴う経営難で、国内の大学はいずこも大きな荒波に巻き込まれています。定員割れを補い、各種公的な助成金を穴埋めするためのあの手この手の一環で、外国人留学生を受け入れて何とかしようとする施策もここ10年ほどの間、政府の「留学生30万人計画」に後押しされて全国の大学、殊に苦境がより深刻な地方の私大では積極的に行われてきていました。
それにつけ込んだ業者の類も跋扈、いわゆる留学生ブローカー的な人がたがそれらの需要を満たす構造も作り上げられてゆき、「留学生」というたてつけでの実質労働力が国内にあふれることになった。
そのような中、2019年、東京都内の東京福祉大学の留学生が大量に行方不明になっていることが発覚、これら留学生をめぐる制度の運用のずさんさが露わになり、「大学の責任は重大」として研究生の受け入れを当面停止するよう文科省と出入国在留管理庁が協力して指導を行う事態になったことなどもあり、これまでのような形での留学生の大幅受け入れを前提とした政策の事実上の「見直し」が文科省から発表されたのが2020年の秋。
加えて、安全保障面からそれら留学生も含めた在留外国人に関する政策の大きな方針転換が国策レベルでも打ち出され、いずれにせよ今世紀に入ってこのかた、わが国の大学や専門学校を中心に拡大してきた留学生ビジネスのあり方を洗い直し、健全化する動きが加速化されているのは確かです。
【編注:コロナ禍での移動制限もあり、萩生田光一文科相は30万人計画を「やり直し」と表現。また、2021年度から安全保障の観点から留学生ビザの厳格化の方針が報じられている】
●「留学生だのみ」の北海道
一方、ご当地北海道は、中国人にも人気の観光地である種のブランドにもなっています。その中で、中国・瀋陽に提携する日本語学校を設立、留学生ビジネスで大きく業績を伸ばしていた京都育英館という日本語学校が、苫小牧駒澤大学、稚内北星大学を事実上買収、その他高校にも手を出して、いずれも中国人留学生の受け皿としての意味あいを強めた再編を始めています。
【編注:京都育英館系列の学校は、東大や京大などの難関大や大学院に留学生を合格させることで知られている】
また、これも関西を地盤とした滋慶学園という専門学校を中心とした学校法人が、札幌学院大学と協力して市内新札幌の再開発事業と連携、新たなキャンパスを作り、そこに相乗りのような形で看護医療系の専門学校を新設して、留学生含みの道内進出の橋頭堡を作り始めています。
さらには、同じく札幌郊外にある北海道文教大学も、既存の外国語学部を国際学部に改編して明らかに留学生を視野に入れた手直しをしたりと、どこも背に腹は代えられないということなのでしょうか、相変わらず外国人留学生を織り込んだ生き残り策をあれこれ講じているようです。
そんな中、留学生を送り込むに際してブローカー的な動きをした国内外の人がたと共に、どうやら霞が関界隈の影までもちらほらしているのは、何より自分をむりやり懲戒解雇に処した札幌国際大学の理事会のメンバーに、かの文科省天下り問題で物議を醸した前川喜平元文科次官の片腕だったとされる嶋貫和男氏の名前があることなどからも、期せずして明るみに出始めていますし、また、政権与党の二階俊博幹事長周辺につながる公明党なども含めた中央政界のからみなども陰に陽に見え隠れしている。
たかだか地方の小さな私大の内紛に等しいような騒動であるはずのできごとが、北海道に対する外国勢力からの「浸透」政策の一環でもあるような可能性までも含めた、意外にも大きな話につながっていることも、どうやら考えねばならなくなってきているようにも思えます。
単に自分の懲戒解雇の件に関してならば、法廷で公正な判断をしてさえもらえればしかるべき結果になるだろう、それくらい理不尽で論外な処分だと思っていますし、その意味で割と呑気に構えているつもりなのです。
ただ、はっきり言っておきたいのは、公益法人である大学という機関がこのような異常とも言える処分をくだすにいたった、その背景の詳細とその是非について、法と正義に基づいたまっとうな判断を下してもらいたいこと、そしてその過程で、いまどきの大学の中がどうなっているのか、そこでどれだけ無理無体なことがうっかりと日々起こり得るようになっているのかについて、世間の方々にも広く知っていただきたいと思っています。
【大月隆寛(おおつき・たかひろ)】
1959年生まれ。札幌国際大学人文学部教授(係争中)。早稲田大学法学部卒。東京外国語大学助手、国立歴史民俗博物館助教授などを経て、「懲戒解雇」で現在、再び野良の民俗学者に。著書に『厩舎物語』『無法松の影』『民俗学という不幸』など、多数。
2020年12月26日
2020年12月13日
2020年12月11日
再来年春、稚内北星大を育英館大に 市長が議会で特別発言 抜海駅は存続する方向に
工藤市長は10日午後の市議会本会議で特別発言し、稚内北星大学の大学名が再来年4月から「育英館大学」に変更されることと、JR抜海駅について来年度の維持管理を市が負担し駅を存続させることを明らかにした。
今年春から京都市伏見区の学校法人育英館に経営が移管された稚内北星大学について、市長は大学を運営する学校法人稚内北星学園を来年4月から学校法人「北辰学堂」に改め所在地を伏見区に移した上で、京都市内に稚内北星大学のサテライト校と留学生別科を設けること、再来年4月から学校名を変更する手続きを進めていくことを大学の松尾英孝理事長から連絡を受けたことを報告した。
法人名や大学名を替えることについては、大学側からは学生確保で稚内市内や道内に留まらず、広く大学の周知や募集を行うためにも京都の知名度を活かし、一定の学生数を確保して全体の収支安定に繋げるとし、留学生別科の設置で修了生が稚内本校や京都サテライト校に編入することも見込めることになり学生確保策としてより実効性の高いものに考えられるとした。
大学名などの変更などは大学再建に向け早期の経営安定化のために必要な経営判断であると受け止めているとした市長は「慣れ親しんだ大学の名称が変わったとしても稚内北星大学が地域における高等教育の要として、この地に根を張り、大学として存続し続けることが最も大事。松尾理事長からも、これまで大学が育んできた30数年の歴史と文化を尊重継承し地域の発展に貢献していきたいと伺っている」と述べた。
JR抜海駅については、これまでも地域の意向もあり、JR北海道に対し存続を要請する一方で、必要時における臨時停車の可能性など地域にとって駅の存続に繋がるようなアイデア含め様々な話をしてきたとした市長は「抜海・クトネベツ両町内会長との話でも地域と市の協議は未だ時間を要すると受け止めており、そのことを考えれば協議継続に当たっても当面抜海駅の維持管理費は市が負担せざるを得ない。このため来年度はJR北海道が示していた市が抜海駅の維持管理費を負担することを受け入れることとしました」と述べた。
傍聴席で市長の特別発言を聞いた抜海町内会の森寛泰会長(58)は「昨年11月から存廃について話があり、存続になったことは嬉しい。きょうは市長から直接言葉を聞きたくて来ましたが、今後は市と話し合いながら観光面など利用が増えるよう考えていきたい」と語っていた。eスポーツなど新科目 理事長がリモート会見
稚内北星大学の松尾英孝理事長は11日、京都からオンラインで記者会見し、大学名や学校法人の変更、京都サテライト校を開設することなどについて「新しい大学が京都と稚内に出来ることを全国に向け強力に発信し自身の教育に関わる仕事の再スタートにしたい」などと思いを語った。
再来年4月から大学名を育英館大学に変更することについて、過去に大学が閉学するという噂となって未だイメージが悪いことを挙げ「これまでの学校運営で社会に認知されている育英館を大学の名にすることで、小規模とはいえ一流の大学にする」と強調し、法人名を北辰学堂にすることには稚内北星大学を設置した元市長の浜森辰雄氏の功績を称えるためにも〝辰〟という字を充て、学堂というのは知識振興の思いが込められているとした。
サテライト校開設や新たな大学での学生募集に繋げるため情報メディア学部に今後、ドローン技術や世界各国で大会が開かれ成長分野である〝eスポーツ〟を学ぶ科目を導入する考えを明らかにし「eスポーツは日本の大学で学ぶところは少なく、稚内の大学で導入し若者が入ってくる魅力ある大学にして学生確保に繋げ経営の安定化と、世界で活躍する人材を輩出したい」と今後の展望についても語った。
来年4月から開校する京都サテライト校と稚内本校を合わせた1学年の定員は50人。大学として今後、新たな科目を導入することで来年の新入生について松尾理事長は「30~40人を確保したい。新体制での2年目は更に学生を増やしていきたい」と述べた。
2020年12月05日
北大前総長の名和豊春氏、解任取り消し求め12月10日提訴
■リアルエコノミー「2020/12/03)
ハラスメントなど威圧的行為などを理由として北海道大学総長を解任された名和豊春氏(66)が、文部科学大臣を相手取って解任処分の取り消しなどを求める訴訟を12月10日、札幌地裁に提訴する。また、国と北大に報酬相当額や慰謝料約1500万円の損害賠償を求める。併せて解任後に名和氏が、北大に個人情報開示を求めたことに対し、北大が不開示したことへの取り消し訴訟も提起する。(写真は、訴訟提起について説明する佐藤博文弁護士=左と小野寺信勝弁護士)名和氏は、2017年の総長選に関わる学内意向投票1位を受け、総長選考会議による候補者決定を経て2017年4月に文科相から任期6年の総長に任命された。しかし、18年9月に総長選考会議議長や副議長、顧問弁護士がパワハラの公益通報を元に名和氏に辞任を求めたことを発端に、総長選考会議が調査委員会を設置。調査委員会は、名和氏の学内関係者への威圧的言動34件を事実と認定。総長選考会議は、そのうち30件を認定して文科相へ解任申し出を決議、19年7月に文科相に申し出した。文科相はそれを受け聴聞などを実施、28件を認定して20年6月に名和氏に解任を通知した。
名和氏の代理人を務める小野寺信勝弁護士は、「総長選考会議や調査委員会の事実認定で、名和氏の弁明の機会が実質的に与えられておらず手続き的な瑕疵(かし)がある。また、文科相は28件の非違行為を認めているが、一つひとつが事実誤認、評価が誤っていることを主張する」とした。また、威圧的行為が解任に値するほどの理由にはならないことも主張する。
さらに名和氏は、解任後に北大に対して在職中の個人情報について開示請求したが、北大はハラスメントの可否について不開示(存否応答拒否)処分とした。名和氏はこれを不服として不開示取り消し訴訟も提起する。代理人の佐藤博文弁護士は、「不開示というのは、あるかないかも含めて回答しないということ。これは極めて問題」と話した。
国立大学総長(学長)の解任を巡る取り消し訴訟が提起されるのは、今回が初めて。佐藤弁護士は「この裁判は解雇事件とは性格が違い、違法性の確認訴訟というべきもの。手続きの違法性をはっきりとさせたい。大学側がどれだけ情報を開示するかがこの裁判のポイントになる」と指摘した。
2020年12月02日
明治学院大学事件と日本学術会議問題、社会批評研究会で取り上げられる!
明治学院大学事件と日本学術会議問題、社会批評研究会で取り上げられる!■社会批評研究会第5回研究会
・日時:2020年12月19日(土)14時00分~17時00分
・会場:本郷会館(東京都文京区本郷2丁目21?7)
・テーマ:明治学院大学事件と日本学術会議問題:コンプライアンス、インテグリティ、レピュテーション
・発表者:寄川条路(yorikawa@gmail.com)■発表要旨:
学問の自由とは、政治と宗教から独立して学問の中立を守るためにヨーロッパで確立された原則であるが、歴史上この原則が破られた事件がある。宗教による学問の自由の侵害としてはガリレオ裁判があり、政治による学問の自由の侵害としては京大事件と天皇機関説事件が有名である。今般の日本学術会議問題も政府による学問の自由の侵害であるといえるが、表現の自由を抑制し学問の自由を侵害していた事例として明治学院大学事件がある。明治学院大学事件とは、大学当局がキリスト教に反する教員の授業を盗聴し録音していた事件であり、事件をきっかけにして発表者は表現の自由と学問の自由について考えるようになった。
明治学院大学事件は宗教による学問の自由の侵害であり、日本学術会議問題は政治による学問の自由の侵害であるともいえようが、ここでは、法律上の問題として事件を取り扱うのではなく、むしろ、法律上の問題はクリアしていても道徳上の問題や倫理上の問題が残る一例として、授業を盗聴したり教科書を検閲したりして、大学の方針(キリスト教主義)に反対する教員を調査し解雇していた明治学院大学事件を検討してみたい。
会社や学校などが法令や規則を守ることをコンプライアンスと呼び、法令遵守を最低限の基準としていても、昨今ではこれだけでは足りず、経営者や設置者の高潔さや誠実さをもって法律を補完する必要が説かれるようになった。しかしながら、形式的な法令遵守であるコンプライアンスは、内面的な道徳であるインテグリティによっては補われず、社会的な倫理であるレピュテーションによって完成される、というのが発表者の差し当たっての結論である。
本発表では、明治学院大学事件と日本学術会議問題を手がかりにして、法律上のコンプライアンス問題と、それを超えた道徳上のインテグリティ問題、そして倫理上のレピュテーション問題を考えていく。そこから翻って、法律と道徳と倫理の関係のみならず、政治と宗教と学問の関係も明確にしておきたい。
■参考文献:
・寄川条路編『表現の自由と学問の自由――日本学術会議問題の背景』(社会評論社、2020年近刊)。
・寄川条路編『大学の自治と学問の自由』(晃洋書房、2020年)。
・紀川しのろ『シノロ教授の大学事件』(世界書院、2019年)。
・寄川条路編『大学の危機と学問の自由』(法律文化社、2019年)。
・寄川条路編『大学における〈学問・教育・表現の自由〉を問う』(法律文化社、2018年)。
・寄川条路編『実録・明治学院大学事件』(近刊)。■参考サイト:
・「明治学院大学事件」https://sites.google.com/view/meiji-gakuin-university-jiken/
・「全国国公私立大学の事件情報」http://university.main.jp/blog8/archives/cat120/
2020年11月28日
下関市立大学の暴走、学長・市役所OBらの独裁…理事を突然解任、無審査で次々と縁故採用
■Business Journal
∟下関市立大学の暴走、学長・市役所OBらの独裁…理事を突然解任、無審査で次々と縁故採用
下関市立大学の暴走、学長・市役所OBらの独裁…理事を突然解任、無審査で次々と縁故採用文=田中圭太郎/ジャーナリスト大学の権力的支配を許していいのか――。
全国の大学で「大学改革」の名のもとで学長への権限集中が進められ、教員の意思が軽んじられているとして、大学運営のあり方を考えるシンポジウムが10月18日、大分市で開催された。
報告されたのは2つの国公立大学の現状だった。ひとつは大分大学。2015年に学長の任期上限と、学長選考の教員による意向投票が撤廃された。その結果、学長に権限が集中し、昨年には経済学部長の選考をめぐり学長が教授会の意向を無視して学部長を決めたほか、医学部の教授採用でも学長が教授会が選んだ候補者とは別の人物を採用した。大分大学の問題については、『大分大学、学長“独裁化”で教授会と内紛』(リンク)に経緯を書いた。
もうひとつの報告は下関市立大学。安倍前首相の元秘書である前田晋太郎下関市長によって「私物化」が進められている公立大学だ。
昨年6月、前田市長の要請で経済学部しかない大学に、特別支援教育などについて研究する専攻科設置と、それに伴う教授ら数人の採用を、学内で定められた手続きを踏まずに強引に決定。この決定に教員の9割が反対すると、市議会に定款の変更を提案し可決。学内の審査がなくても教育研究に関することや、教員の人事・懲戒などを決定するのを、理事会の審理だけで可能にした。
すると今年1月、教授に採用されたハン・チャンワン氏が大学の理事に就任。4月には新たに2人の副学長を置くことになり、1人は市役所職員OBの現事務局長、もう1人はなんと着任したばかりのハン氏が就任した。ここまでの経緯は、『下関市立大学が“無法地帯化”』(リンク)で伝えている。
シンポジウムでは、二宮孝富大分大学名誉教授が大分大学の問題点を報告。学長が任命する権限と選任権を分離して考えていない点は、日本学術会議の任命拒否問題と共通しており、権力的支配は大学のみならず学術の分野全体やそれ以上に広がりつつあると指摘した。
下関市立大学からは飯塚靖経済学部長が参加し、4月以降に大学で何が起きているのかを報告。大学のガバナンス問題について警鐘を鳴らしている明治学院大学の石原俊教授がコメンテーターとして出席し、筆者も全国の大学を取り巻く状況を報告した。
特に参加者を驚かせたのは、下関市立大学で4月以降に進行した異常ともいえる権力的支配だった。本稿では、特に下関市立大学の現状と、このシンポジウムに対する大学側の驚くべき反応について触れたい。
就任したばかりの副学長に権力集中
前田下関市長による強引な採用によって下関市立大学の副学長に就任したのは、前琉球大学教授のハン・チャンワン氏。4月に設立されたリカレント教育センターの教授に就任し、ハン氏の弟子に当たる人物2人が准教授、講師として着任した。
そこから大学は、ハン副学長に次々と権限を集中させる決定をする。副学長としては教育と研究に加え、大学院も担当。理事としては「経営理事」に就任し、教育、研究、経営すべてに権限を持つ立場になった。
既存の組織も改編され、これまでの教職員一体で体制を作ってきたハラスメント防止委員会を廃止し、相談支援センターを置いた。国際交流を推進する国際交流委員会も国際交流センターに移行。いずれの組織も統括責任者に就いたのはハン副学長だ。
さらにハン副学長は、教員人事評価委員会の委員長と、教員懲戒委員会の委員長も兼任。着任したばかりの人物に、教員の採用や昇任に関する権限と、懲戒に関する決定まで集中させてしまった。
ハン副学長は就任前に、自身の採用に反対した当時の経済学部長の飯塚学部長と副学部長に対し、「プライバシーの侵害」と「名誉毀損」があったとして損害賠償を求める民事訴訟を起こしている。そのような人物が、教員を懲戒処分する責任者になっているのだ。
副学長の人脈で相次ぐ教員採用
ハン副学長に権力が集中することで、下関市立大学の運営は健全な状態とはいえなくなっている。その最たるものが教員の採用だ。
まず、ハン副学長とともに4月に着任した准教授と講師は、ハン副学長が副理事長を務める学会の会員であり、ハン副学長の前任校の琉球大学出身だった。
縁故ともいえる採用は、それだけにとどまらない。関係者によると、5月には教員採用選考規程が決定され、人事評価委員会での選考過程を省略して、学長単独の判断で教員の選考や採用を可能にした。
すると、6月と7月の理事会では、ハン副学長の主導で開設されることになった「大学院教育経済学領域」に2人の准教授が採用された。この2人も同じ学会の会員で、ハン副学長が勤務していた韓国の大学の卒業生だという。
しかも、ハン副学長を含む全員が、東北大学大学院の医学系研究科に在籍したことがある。公募をするわけでもなく、研究者による資格審査もないまま、ハン副学長と関係がある教員が次々と採用されているのだ。これは国公立大学の教員採用人事としては、異例の事態と言えるだろう。
さらに、今後は学長の選考についても、教員は事実上候補者の推薦ができなくなった。学長選考会議の規程が改定され、推薦には理事2人の連名が必要になったが、教員出身の理事は飯塚教授しかいないためだ。他の理事の構成は、理事長を含む2人の理事が市役所OBで、外部理事が2人、それにハン副学長。学長の選考に教員の意見がまったく反映されない体制ができ上がったのだ。また、これまでは認められていた教員による学長候補者の推薦や教職員による意向投票も廃止された。
シンポジウムに参加した教授を理事解任
下関市立大学の現状を知り、シンポジウムの参加者は驚きを隠せなかった。明治学院大学の石原教授は「副学長を前面に出しながら、下関市長と市役所出身者が教育、研究、教員の人事権を全て握る大学支配が完成しようとしている。この異常な権力構造を問題にしていかないといけない」と警鐘を鳴らした。
ところが、シンポジウムの数日後、関係者にさらなる衝撃が走った。下関市立大学の飯塚学部長が理事を解任されたのだ。
解任の理由はシンポジウムに参加して報告をしたことが「地方独立行政法人法第17条」に違反するだという。飯塚学部長は「シンポジウムでの報告のどこが問題なのか明確な説明もなく、理事会において突然理事を解任されたことは納得できない」と主張している。
学外での意見表明のみを理由にした今回の理事解任は、とても民主的な組織運営とは言えない。しかも、学問研究の場である大学で平然となされたことは、社会通念上も許されないのではないだろうか。下関市立大学は公立大学でありながら、市長を中心とする政治の意向によって、教育や研究が事実上破壊されようとしている。このような政治の介入による権力的支配が許されるのであれば、全国の大学にも広がってしまうだろう。
シンポジウムが開催された時期には、大分大学と同様に学長の任期上限と意向投票を撤廃した筑波大学学長選が紛糾し、選考が不透明だとして東京大学の総長選考が大混乱した。さらには日本学術会議の任命問題など、大学や学問に対する権力的支配がクローズアップされている。その中でも、悪い意味で先頭を行く下関市立大学の問題の行方は、今後も注視する必要がある。
(文=田中圭太郎/ジャーナリスト)
2020年11月14日
国士舘大、不正通報の元教授ら勝訴 懲戒処分は無効
■静岡新聞 (2020/11/12)
∟●不正通報の元教授ら勝訴 国士舘大、懲戒処分は無効
国士舘大(東京)で同僚教員の研究不正を通報した元教授の男性2人が、大学側に「不当な通報」と判断され、違法な懲戒処分を受けたとして、処分無効を求めた訴訟の判決で、東京地裁は12日、元教授側の主張を認め、いずれの処分も無効とした。
判決によると、元教授らは2017年、教員が他の学術誌などに発表している論文を「二重投稿している」と大学内の担当機関に通報。提出書面に「本人が(不正を)認めた」などと記載したが、大学側は「教員が不正を認めた事実はなく、虚偽の報告をした」とし、2人を戒告処分とした。
判決は二重投稿が疑われる行為があり、書面は真実の可能性が高いとした。