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 カテゴリー 2016年12月

2016年12月29日

これはひどい! 広島大学原爆放射線医科学研究所、提訴の報復として原告教員の再任を拒否

パワハラ被害訴え
広島大学を提訴の准教授再任せず

■中国新聞(2016年12月29日)

 パワハラを受けたとして広島大学と教授を提訴している同大原爆放射線医科学研究所(広島市南区)の准教授(59)が、大学側から任期(7年)を更新せず来年3月で退職とする通知を受けたことが28日、分かった。
 准教授によると、通知は27日付。「研究活動を中心に総合的に評価し、再任不可」としている。
 准教授は、実験室から機器を撤去させるなどの嫌がらせを受けたとして、もう1人の准教授(当時)とともに2014年、同大と教授に損害賠償を求めて広島地裁に提訴。大学側は「研究スペースの配分を巡る上司の裁定に従わなかった」などと主張している。
 准教授は「実験ができず研究は滞ったが、授業や学会発表はしている。再任不可は恣意的で、提訴への報復ではないか」と話す。同大広報グループは「人事の個人情報にはコメントできない」としている。


2016年12月28日

オリバー・ストーン監督、米日韓加中英豪沖台の専門家など53名、真珠湾訪問にあたっての安倍首相への公開質問状

Peace Philosophy Centre

真珠湾訪問にあたっての安倍首相への公開質問状

2016年12月25日

親愛なる安倍首相、

安倍首相は先日、1941年12月8日(日本時間)に日本海軍が米国の海軍基地を攻撃した際の「犠牲者を慰霊する」目的で、12月末にハワイの真珠湾を訪問する計画を発表しました。

実際のところ、その日に日本が攻撃した場所は真珠湾だけではありませんでした。その約1時間前には日本陸軍はマレー半島の北東沿岸を攻撃、同日にはアジア太平洋地域の他の幾つかの英米の植民地や基地を攻撃しています。日本は、中国に対する侵略戦争を続行するために不可欠な石油や他の資源を東南アジアに求めてこれらの攻撃を開始したのです。

米日の開戦の場所をあなたが公式に訪問するのが初めてであることからも、私たちは以下の質問をしたく思います。

1) あなたは、1994年末に、日本の侵略戦争を反省する国会決議に対抗する目的で結成された「終戦五十周年議員連盟」の事務局長代理を務めていました。その結成趣意書には、日本の200万余の戦没者が「日本の自存自衛とアジアの平和」のために命を捧げたとあります。この連盟の1995年4月13日の運動方針では、終戦50周年を記念する国会決議に謝罪や不戦の誓いを入れることを拒否しています。1995年6月8日の声明では、与党の決議案が「侵略的行為」や「植民地支配」を認めていることから賛成できないと表明しています。安倍首相、あなたは今でもこの戦争についてこのような認識をお持ちですか。

2) 2013年4月23日の国会答弁では、首相として「侵略の定義は学界的にも国際的にも定まっていない」と答弁しています。ということは、あなたは、連合国およびアジア太平洋諸国に対する戦争と、すでに続行していた対中戦争を侵略戦争とは認めないということでしょうか。

3) あなたは、真珠湾攻撃で亡くなった約2400人の米国人の「慰霊」のために訪問するということです。それなら、中国や、朝鮮半島、他のアジア太平洋諸国、他の連合国における数千万にも上る戦争被害者の「慰霊」にも行く予定はありますか。

首相としてあなたは、憲法9条を再解釈あるいは改定して自衛隊に海外のどこでも戦争ができるようにすることを推進してきました。これがアジア太平洋戦争において日本に被害を受けた国々にどのような合図として映るのか、考えてみてください。

1. Ikuro Anzai, Professor Emeritus, Ritsumeikan University 安斎育郎、立命館大学名誉教授

2. Herbert P. Bix, emeritus professor of history and sociology, Binghamton University, SUNY ハーバート・P・ビックス、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校歴史学・社会学名誉教授

3. Peter van den Dungen, Formerly, Lecturer in Peace Studies, University of Bradford, UK, and general coordinator of the International Network of Museums for Peace ピーター・バン・デン・デュンゲン、元ブラッドフォード大学(英国)平和学教員、世界平和博物館ネットワーク総括コーディネーター

4. Alexis Dudden, Professor of History, University of Connecticut アレクシス・ダディン、コネチカット大学歴史学教授

5. Richard Falk, Albert G. Professor of International Law and Practice, Emeritus, Princeton University リチャード・フォーク、プリンストン大学国際法名誉教授

6. John Feffer, Director, Foreign Policy In Focus, ジョン・フェッファー、「フォーリン・ポリシー・イン・フォーカス」ディレクター

7. Norma Field, Professor emerita, University of Chicago ノーマ・フィールド、シカゴ大学名誉教授

8. Kay Fischer, Instructor, Ethnic Studies, Chabot Collegeケイ・フィッシャー、シャボット・カレッジ(カリフォルニア州)講師

9. Atsushi Fujioka, Emeritus Professor, Ritsumeikan University 藤岡惇、立命館大学名誉教授

10. Joseph Gerson (PhD), Vice-President, International Peace Bureau ジョセフ・ガーソン、国際平和ビューロー副会長

11. Geoffrey C. Gunn, Emeritus, Nagasaki University ジェフリー・C・ガン、長崎大学名誉教授

12. Kyung Hee Ha, Assistant Professor, Meiji University 河庚希、明治大学特任講師

13. Laura Hein, Professor, Northwestern University ローラ・ハイン、ノースウェスタン大学教授(米国シカゴ)

14. Hirofumi Hayashi, Professor, Kanto Gakuin University 林博史、関東学院大学教授

15. Katsuya Hirano, Associate Professor of History, UCLA平野克弥、カリフォルニア大学ロスアンゼルス校准教授

16. IKEDA Eriko, Chair of the Board, Women's Active Museum on War and Peace(wam) 池田恵理子 アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)館長

17. Masaie Ishihara, Professor Emeritus Okinawa International University 石原昌家、沖縄国際大学名誉教授

18. Paul Jobin, Associate Research Fellow, Academia Sinica, Institute of Sociology
ポール・ジョバン 台湾国立中央研究院社会学研究所 アソシエート・リサーチ・フェロー

19. John Junkerman, Documentary Filmmaker ジャン・ユンカーマン、ドキュメンタリー映画監督

20. Nan Kim, Associate Professor, University of Wisconsin-Milwaukee ナン・キム(金永蘭)、ウィスコンシン大学ミルウォーキー校准教授

21. KIM Puja, Professor of Gender History, Tokyo University of Foreign Studies金 富子、ジェンダー史、東京外国語大学教授

22. Akira Kimura, Professor, Kagoshima University 木村朗、鹿児島大学教授

23. Tomomi Kinukawa, Instructor, San Francisco State University絹川知美、サンフランシスコ州立大学講師

24. Peter Kuznick, Professor of History, American University ピーター・カズニック、アメリカン大学歴史学教授

25. Kwon, Heok-Tae, Professor, Sungkonghoe University, Korea 権赫泰(クォン・ヒョクテ)、韓国・聖公会大学教授

26. Lee Kyeong-Ju, Professor, Inha University (Korea) 李京柱、仁荷大学教授

27. Miho Kim Lee, Co-founder of Eclipse Rising ミホ・キム・リー、「エクリプス・ライジング」共同創立者

28. Lim Jie-Hyun, Professor of transnational history, director of Critical Global Studies Institute, Sogang University 林志弦(イム・ジヒョン)、西江大学教授(韓国)

29. Akira Maeda, Professor, Tokyo Zokei University 前田 朗、東京造形大学教授

30. Janice Matsumura, Associate Professor of History, Simon Fraser University, Canada ジャニス・マツムラ、サイモンフレイザー大学(カナダ)歴史学准教授

31. Tanya Maus, PhD, Director, Wilmington College Peace Resource Center, Wilmington, Ohio タニア・マウス、ウィルミントン大学(オハイオ州)平和資料センターディレクター

32. David McNeill, Adjunct Professor, Sophia University デイビッド・マクニール、上智大学非常勤講師

33. Gavan McCormack, Emeritus Professor, Australian National University ガバン・マコーマック、オーストラリア国立大学名誉教授

34. Katherine Muzik, Ph.D., marine biologist, Kauai Island キャサリン・ミュージック、海洋生物学者(ハワイ・カウアイ島)

35. Koichi Nakano, Professor, Sophia University 中野晃一、上智大学教授

36. NAKANO Toshio, Professor Emeritus, Tokyo University of Foreign Studies中野敏男、社会理論・社会思想、東京外国語大学名誉教授

37. Narusawa Muneo, Editor, Weekly Kinyobi, 成澤宗男、『週刊金曜日』編集部

38. Satoko Oka Norimatsu, Editor, Asia-Pacific Journal: Japan Focus 乗松聡子、『アジア太平洋ジャーナル:ジャパンフォーカス』エディター

39. John Price, Professor of History, University of Victoria, Canada ジョン・プライス、ビクトリア大学(カナダ)歴史学教授

40. Steve Rabson, Professor Emeritus, Brown University (U.S.A.) Veteran, United States Armyスティーブ・ラブソン、ブラウン大学(米国)名誉教授 米国陸軍退役軍人

41. Sonia Ryang, Director, Chao Center for Asian Studies, Rice University ソニア・リャン、ライス大学(テキサス州)チャオ・アジア研究センターディレクター

42. Daiyo Sawada, Emeritus Professor, University of Alberta ダイヨウ・サワダ、アルバータ大学名誉教授

43. Mark Selden, Senior Research Associate, East Asia Program, Cornell University マーク・セルダン、コーネル大学東アジア研究プログラム上級研究員

44. Oliver Stone, Academy Award-Winning Filmmaker オリバー・ストーン、アカデミー賞受賞映画監督

45. Tetsuya Takahashi, Professor, University of Tokyo 高橋哲哉、東京大学教授

46. Nobuyoshi Takashima, Professor Emeritus, the University of Ryukyus 高嶋伸欣、琉球大学名誉教授

47. Akiko Takenaka, Associate Professor of Japanese History, University of Kentucky竹中晶子、ケンタッキー大学准教授

48. Wesley Ueunten, Associate Professor, Asian American Studies Department, San Francisco State University ウェスリー・ウエウンテン、サンフランシスコ州立大学アジア・アメリカ研究学部准教授

49. Aiko Utsumi, Professor Emeritus, Keisen University内海愛子、恵泉女学園大学名誉教授

50. Shue Tuck Wong, Professor Emeritus, Simon Fraser University シュエ・タク・ウォング、サイモンフレーザー大学(カナダ)名誉教授

51. Yi Wu, Assistant Professor, Department of Sociology and Anthropology, Clemson University イー・ウー、クレムゾン大学社会学・人類学部助教授

52. Tomomi Yamaguchi, Associate Professor of Anthropology, Montana State University 山口智美、モンタナ州立大学人類学准教授

53. Lisa Yoneyama, Professor, University of Toronto リサ・ヨネヤマ、トロント大学教授

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Those whose signatures arrived after we released the letter. 発表後に署名が届いた方たちをここに記します(到着順)

Jenny Chan 陳慧玲, Assistant Professor of Sociology and China Studies, Department of Applied Social Sciences, The Hong Kong Polytechnic University 

Matthew Penny, Associate Professor, Concordia University (Canada)

Aisa Kiyosue, Associate Professor, Muroran Institute of Technology (Hokkaido, Japan)
清末愛砂、室蘭工業大学大学院工学研究科准教授

Tetsumi Takara, Professor, the University of Ryukyus
高良鉄美、琉球大学教授

Dave Webb, Emeritus Professor of Peace and Conflict Studies, Leeds Met University, UK, Chair, CND


2016年12月05日

富山大学懲戒解雇事件、懲戒解雇撤回の和解についての原告および「支援する会」世話人一 同のコメント

竹内潔氏のコメント
「竹内潔氏の復職を支援する会」・世話人一同のコメント
「シュレッダーから甦った書類ー富山大学懲戒解雇事件を考える」

竹内潔氏のコメント

2016年11月29日

■裁判では無根拠で不適正な手続きによる処分であることを主張

 懲戒解雇処分では、教授昇任人事応募、研究費申請、大学院設置申請の際の書類に、私が「架空」、「虚偽」の著書や論文を記載したとされました。
 裁判では、教授昇任人事の際に提出した書類は、応募者の教育研究従事年数と論文・著書の「点数」が教授資格を満たしているかを確認する予備選考の段階で提出したものであり、富山大学が「架空」の記載とした論文は、ページ数や雑誌名を誤記しただけで実物があり、1点としてカウントされたことに間違いはないこと、富山大学がやはり「架空」とした著書の記載については、出版社等と刊行契約があり原稿もあったので「刊行予定」等と記載しましたが、これは文系の業績の記載慣行に照らしてなんら「虚偽」ではないことを立証しました。また、富山大学が、私が「刊行予定」等と記載した著書を「点数」としてカウントしたかどうか明らかにしていないことなども立証しました。さらに、誤記した論文と「刊行予定」等と記載した著書を除いても、私には教授資格の基準点数の2倍の点数の業績があったので、わざわざ「虚偽」を記載する動機がないことも明らかにしました。
 なお、私は教授に昇任していませんが、これは、業績記載とは関係のない所属学部内の事情によるものです。
 また、研究費申請書類については、たとえば、「架空」、「虚偽」の記載によって、富山大学の「学長裁量経費」1490万円(研究費)を私一人が不正に取得したという富山大学の主張に対して、刊行契約があった著書の記載が「虚偽」ではないことを主張するとともに、実際は私を含めて18名の教員が共同で申請した応募書類には応募者全員の多数の業績が記載されており、審査をおこなった富山大学自身が、私の1,2点の記載が経費の獲得に影響があったかどうか分からないとしていることも立証しました。なお、獲得した経費は、申請者全員でほぼ均等配分しており、私一人が1490万円全額を受領したという事実はありません。
 大学院設置申請の際の書類については、事務で書式の点検を受けるために出した準備段階の書類に、記載の指示にしたがって刊行予定の著書を記載しましたが、文部科学省に提出した正本(署名・捺印した書類)には刊行が遅れた著書の記載を削除していて瑕疵がないこと、富山大学が懲戒処分の対象とした準備段階の書類は扱った事務職員が不要書類として廃棄したことなどを明らかにしました。裁判において、富山大学は、この準備段階書類をどこから入手したのか、最後まで明らかにしませんでした。
 以上のように、裁判では、私が「架空」、「虚偽」の業績記載をおこなったという富山大学の主張は、文系の記載慣行や多種多様な書類の性格や審査状況を度外視して、廃棄された書類までかき集めて恣意的に「不正」の例数だけを積み上げた根拠が無いものであることを立証しました。

 懲戒処分に至る経緯では、私が病院で検診を受けるために届けを出して欠席した教授会で、あたかも私が虚偽の記載をしたことを認めたかのような報告がなされて、私は懲戒の審査にかけられることになりました。また、富山大学の内部規則になんの規程もない「疑義調査会」という組織が設置されて、組織の懲戒の審査との関連やメンバーシップを私に知らせず、秘密裡に図書館員に業務を装わせて出版社や他大学に問い合わせをさせるといった不公正な手続きがとられました。さらに、懲戒処分を審査する「懲戒委員会」の構成が理系の教員に偏っており、私の発言が理解されず何度も嘲笑を浴びたことを私が抗議したところ、同会の委員長からかえって処分を重くするという回答がありました。私は、富山大学内では公平な審査は期待できないと判断し、2013年1月に富山地裁に処分差し止めの仮処分命令を申し立てました。
 富山大学は、この申立のために事務負担が倍加したという理由で、懲戒解雇処分の量定に加えましたが、裁判では、これは、憲法が基本的人権として保障している「裁判を受ける権利」を富山大学が否定したものと主張しました。また、富山大学は、私の「虚偽」、「架空」の記載のために、富山大学の教員が、日本学術振興会の科学研究費を獲得する割合が低下するとして、やはり量定に加えましたが、私は、日本学術振興会は私の記載を「虚偽」とはしていないことや税金が原資の科学研究費の審査において連帯責任制のような不当審査がおこなわれるはずがないことを主張しました。さらに、上記の不公正な手続きや審査がおこなわれた背景には、私がおこなった内部通報が関連していると指摘しました。

■和解を受け入れた事情

 私は、以上の立証と主張によって、そもそも私の事案は懲戒処分の対象になるものではなかったことを明らかにしようとしました。したがって、出勤停止処分への変更という今回の和解は、懲戒権の濫用を富山大学が認めたという点では成果があったと考えますが、懲戒解雇によって、長く研究と家計の経済的基盤を奪われ、家族までが社会的な差別を受けることになった私にとって、十分に満足のいくものではありません。また、私は16年の富山大学在職中に、およそ170名の学生を指導して社会に送り出しましたが、富山大学には真摯に学問を学ぼうとする学生が多く、もう一度彼らの教育を継続したいという思いも強くあります。
 しかし、申立の裁判に勝訴しても、富山大学が異議申立や本裁判を求めると、さらに最低でも3年、裁判が続くことになります。申立の裁判に約2年かかったため、家計の逼迫の度合いが増して家族の将来が危ういこと、また、最終的に勝訴が確定したとしても、その頃には、定年間際になってしまうことを考えて、和解の道を選ぶことにしました。また、富山大学は、この2年の間の裁判書面に、私の人格を否定する罵倒句をこれでもかというほど書き続けました。もはや、富山大学には、私の戻る場所はありません。新しい場所を探して、処分で喪った3年の間にできたことを少しでもとりもどしたいと思います。
 このような次第で、私は和解を受け入れましたが、今後、富山大学で、不公正かつ恣意的な手続きや審査による処分がおこなわれて、教員の研究や教育の途が閉ざされる事態が二度と生じないよう、強く希望します。

「竹内潔氏の復職を支援する会」・世話人一同のコメント

2016年11月29日

■全国の大学に例をみない異常で杜撰な処分で竹内潔氏の社会的生命が奪われたこと
 
 竹内潔氏に対する懲戒解雇処分は、文系研究者の常識から見て、きわめて異例で、異常なものでした。たとえば人事の場合、文系では、公刊され内容が確定している著書は研究業績として認められ審査対象となりますが、研究業績リスト等に「刊行予定」等と記載された未公刊の著書は実際に公刊されるまで内容が確定しませんから、研究業績として認めるかどうかは、個々の人事選考を担当する委員会の責任と裁量に任されます。委員会では、一切認めない場合もありますし、研究業績として認める基準(原稿、出版証明書、ゲラの提出など)を設定する場合もあります。研究業績リストに記した著書が設定された基準から外れた場合、記載したことが咎められるということは生じません。たんに、その著書が審査対象から外されるだけです。
 つまり、応募者は、研究業績リストに記載した未公刊の著書の取り扱いを審査側に委ねるのが文系の慣行です。まして、竹内氏の人事や学長裁量経費の場合では、審査側から、研究業績として認める基準が示されることさえなかったのですから、同氏の記載が問題になるはずはありません。実際、私たちが知るかぎり、全国の文系学部で、研究業績リスト等の業績記載で、懲戒解雇はおろか、軽度の懲戒処分を受けたという事例もありません。富山大学は、学術雑誌に受理された時点で論文の記述内容が確定するために厳密な基準が設定できる理系の基準を援用して、強引に竹内氏の記載を「虚偽」・「架空」と断じ、さらに研究者にとっては目次にすぎない研究業績リストの記載を「経歴の詐称」とみなすという著しい拡大解釈をおこなったのです。
 このように、竹内潔氏に対する懲戒解雇処分は、異例かつ異常なものと言わざるをえないのですが、富山大学自身が不要として破棄した書類の記載までが問題となったことや竹内氏のために富山大学教員の科学研究費の採択率が低下するという主張、竹内氏が処分差し止めの申立をおこなったことについての憲法を無視した罪状の付加などにいたっては、常軌を逸しているとしか表現できません。この種の理由がまかりとおるのであれば、どの大学のどの教員もいつ懲戒処分を受けても不思議ではないと言っても過言ではありません。
 懲戒解雇は、再就職が困難なため、「労働者に対する死刑宣告」と呼ばれますが、社会的信用が重視される大学教員の場合は、社会的生命を完全に断たれるのに等しい処分です。さらに、竹内潔氏の場合は、ご家族にまで、誹謗や友人関係の断交という苦痛がもたらされました。とりわけ慎重であるべき大学における懲戒解雇が、大学人の常識からかけはなれた杜撰な理由でおこなわれたのが、富山大学が竹内潔氏におこなった処分なのです。

■国立大学法人2例目の懲戒解雇取り消しの和解は実質的に勝訴であること■

 和解については、国際的に評価を得ている研究の総括の時期に入っていた竹内氏が懲戒解雇処分や長期化した裁判のために研究が継続できなくなっていることやご家族の逼迫した事情を考慮すると、竹内氏の復職を願っていた私たちとしては残念ではありますが、受諾が現実的な選択肢だと考えています。
 ただし、私たちは、今回の和解で懲戒解雇処分が取り消されたことについては、富山大学による懲戒権の濫用が認められた実質的な勝訴であると、一定の評価を下しています。巨大な大学組織を相手とする裁判は個人にとってはきわめて困難なものです。国立大学の法人化以降の12年間で、今回の竹内氏の件以外で、国立大学がおこなった懲戒解雇処分が取り消された例は、2011年3月の那覇地裁における琉球大学教員の事例(停職10ヶ月への変更)だけです。今回の和解での懲戒解雇取り消しは、この例に次ぐ2例目となりますが、この点でも評価しうると言えます。
 私たちは、2004年の国立大学の独立行政法人化以降、学内行政が管理側による恣意的な「支配」に変わりつつあるという危惧を持っていますが、竹内氏の懲戒解雇は、このような変容がもたらした突出した事例だと考えています。竹内氏の懲戒解雇問題は、裁判では和解で終結しましたが、この処分は大学の民主的で創造的なあり方を考える際の多数の問題を含んでおり、今後、多くの大学人によるより詳細な検討が必要だと考えています。

懲戒解雇取り消し、富大と元准教授が和解

毎日新聞(2016年11月30日)地方版

 富山大から懲戒解雇された元准教授の竹内潔さん(60)が処分取り消しを求めた仮処分は29日、富山地裁で和解が成立した。竹内さん側によると、地裁の和解案を受け入れ、大学側が懲戒解雇処分を取り消し、60日間の出勤停止に変更することなどで合意した。

 竹内さんは富山大人文学部准教授だった2013年6月、文部科学省の科学研究費補助金や民間団体の助成金などを申請する際、架空の業績や刊行予定のない論文の出版時期などを記載し、研究業績の虚偽申告をしたとされ、懲戒解雇処分を受けた。しかし、「契約もしており、論文は刊行予定だった。虚偽ではない」と反論し、翌14年12月、懲戒解雇の取り消しを求めて仮処分を申し立てた。

 竹内さん側によると和解内容は他に、▽竹内さんは13年9月に自己都合で退職したとする▽富山大は退職手当の残額約500万円と解決金255万円を支払う--などとしている。

 竹内さんは「大学教員は社会的信用で成り立っており、解雇は死刑のようなもの。大学は二度と同じ過ちを起こさないでほしい」と話した。

 富山大は「大学側の主張通り、業績の虚偽記載は認定され、復職も認められなかった」との見解を発表した。

富山大元准教授、懲戒解雇処分変更で大学と和解

読売新聞(2016年12月02日)

 虚偽の業績を書類に記載したとして富山大に懲戒解雇された元准教授の竹内潔氏(60)が、富山地裁に地位保全の仮処分命令を申し立てていた問題で、竹内氏側は29日、富山大と和解が成立したと発表した。

 和解では、富山大が退職手当と解決金計757万4690円を竹内氏に支払い、処分を懲戒解雇から60日間の出勤停止に変更して自己都合退職とする。

 富山大人文学部の准教授だった竹内氏は2013年6月、2000~12年度に教授昇任選考書類などに虚偽の業績を延べ37回記載したとして懲戒解雇された。竹内氏は処分を不服として14年12月、富山地裁に地位保全の仮処分命令を申し立てた。富山地裁は今月9日、和解条項案を提示し、両者が受け入れた。

 竹内氏は「懲戒権の濫用を富山大が認めたという成果があったと考えるが、十分に満足いくものではない。今後、不公正かつ恣意的な手続きや審査による処分で教員の研究や教育の途が閉ざされる事態が二度と生じないよう強く希望する」との談話を出した。

 富山大は、和解に応じたことを認め、「60日間の出勤停止は懲戒処分。業績の虚偽記載を行ったことは裁判所で認定され、復職も認められなかったと考えている」とコメントしている。


2016年12月02日

下関市立大、「健全運営を」 教員ら市議会に請願書

朝日新聞・山口版(2016年11月29日)

市立大「健全運営を」 教員ら市議会に請願書

 昨年に実施された学長選をめぐり、下関市立大学(川波洋一学長)の教員ら38人が、大学の運営健全化を求める請願書を25日付で市議会に提出した。教員らはこれまで、「新学長の選考手続きには大きな問題がある」として、昨年12月の学長選考会議の検証などを大学側に求めていた。
 学長選をめぐっては、選考会議に先立って行われた教員らの「意向投票」で、川波氏の29票に対し、落選した対立候補は38票を獲得。だが選考会議では議長裁定で川波氏が選出された。このため、「9票もの大差を覆す明確な理由が無い」として、選考委員の半数が選考結果に反発していた。
 提出された請願書では、「学長選考の過程を検証する会議が紛糾して流会になった。学内では、教職員の携帯電話記録の提出を求めるプライバシー権侵害や、教職員に対する複数のハラスメント行為など異常な事態が起きている」と指摘。
 ①学長選考においては教職員の意向を尊重する②理事長らの任命は、公正で民主的な大学運営を進める能力のある人材を選ぶ③ハラスメント調査などについては学外有識者の観点を取り入れることなどを要求している。
 請願書に署名した教員の1人は取材に対し、「いまの市立大に自浄作用は期待できない。市議会に大学の運営を正してほしい」と話した。請願書は12月1日開会の市議会で審査される。