2017年02月21日
同志社大学・浅野教授定年延長拒否事件について-概要とサイト紹介-
同志社大学大学院から不当な処分を受けた権利侵害事件について,原告教授から事実経過と裁判に関して寄稿の依頼を受けた。本HPでは,はじめに同事件の概要と支援団体のホームページを紹介したい。(2017年2月21日,ホームページ管理人)
この事件は,浅野健一同志社大学大学院社会学研究科メディア専攻教授が,2014年3月末,学校法人同志社大学から定年延長拒否という形で不当解雇された事件である。原告の浅野教授は,2013年12月,学校法人同志社大学を相手取り京都地裁に地位保全の仮処分を申し立てた。しかし,残念ながら仮処分の決定がでなかったため,現在,京都地裁に本訴を提訴している。
定年延長拒否の経緯は,以下のようである(引用は山口正紀「同志社大学が浅野教授を『追放』-「私怨」による定年延長妨害を容認した大学当局-」『進歩と改革』(2014年7月号)より)。
同志社大学では,大学院教授について65歳の定年を超えても満70歳まで毎年定年を延長できる制度がある(その手続きとして,専攻会議が研究科委員会に候補者を提案し,同委員会が承認する。承認されれば大学の理事会に提案され,決定される)。「この制度によって,定年を希望した大学院教授は従来,ほぼ自動的に定年が延長されてきた。浅野さんの属する社会学研究科でも,定年延長を希望している教授が延長を拒まれた例はなく,浅野さんも自動的に定年延長されるものと思っていた。」
ところが,定年延長を審議する研究科委員会では,一部教員により浅野教授を「排除するため」「一方的人格攻撃の怪文書」が提出され,定年延長が否決された。浅野教授への人権侵害は今に始まったことではない。同大学院メディア専攻内では,一部教員により「2005年11月の『週刊文春』を使った『セクハラ疑惑』でっち上げをはじめ、浅野さんに対して様々な攻撃が繰り返されてきた」(その内容は,正確を期すため上記『進歩と改革』を参照されたい-引用者)。これらの攻撃に対して,浅野教授は名譽毀損訴訟を起こし,全面的に勝訴してきた(例えば,2010年3月対文春名譽毀損訴訟・全面勝訴,2013年2月「セクハラ疑惑」をつくった同僚の教授に対する名譽毀損訴訟・全面勝訴)。2013年の「定年延長妨害」は,そうした攻撃の延長線上にある。
学校法人同志社は,こうした「私怨」による「定年延長妨害」を認めた。これに対して,浅野教授は,2014年2月,「従業員地位確認等請求訴訟」を京都地裁に提訴した。京都地裁では,これまで15回の口頭弁論が開かれ,今年3月1日(水)午後1時10分,203号法廷で判決の言い渡しがある。
なお,浅野教授の裁判については,支援する会等のHPが作成されている。
浅野教授を支援する会
http://www.support-asano.net/index.html
人権と報道・連絡会
http://www.jca.apc.org/~jimporen/
また,浅野教授の雇用闘争では、以下の4団体が支援している。
■「浅野先生の教壇復帰を求める会」(大内健史・代表幹事、同志社大学文学部2016年卒、mr.ootake(at)gmail.com)
■「浅野先生を守る会」(吉川幸祐会長=同大政策学部2015年卒astrophysik928(at)gmail.com、木平良史事務局長=同大法学部卒)
「浅野健一ゼミ・OBG会」(馬場尚子会長、bbnaoko(at)gmail.com)
「浅野教授の労働裁判を支援する会」(山際永三代表・〒168-0064 東京都杉並区永福4-3-2、電話 03-3328-7609、eizoyama(at)asahi.email.ne.jp)
2017年02月18日
梅光は正常化に向かったのか、更なる教員の雇い止め続 1年経て混乱に拍車
■長周新聞
∟●梅光は正常化に向かったのか、更なる教員の雇い止め続く
梅光は正常化に向かったのか
更なる教員の雇い止め続く
1年経て混乱に拍車2017年2月10日付
下関市にある梅光学院(幼、中高、大学)では、昨年度末で中・高、大学ともに大量に教師らの首切りをおこなったことをきっかけに、現経営陣の「財政赤字の解消」を掲げた「改革」に対して、生徒・学生、教師、保護者、同窓生らが学院の正常化を求める運動を展開してきた。このもとで学内の問題を隠蔽するかのように恣意的な解雇や体制変更があいつぎ、教育機関として体をなさない状況がさらに深まっている。生徒や学生たちがあたりまえに学ぶことができない環境になっていることを誰もが心配し、下関市で140年にわたって伝統ある教育機関としての地位を築いてきた梅光学院の正常化を求める世論はますます強いものになっている。1年をへてどうなっているのか、取材にかかわってきた記者たちで論議した。学生かき集め学習環境は貧弱 子ども学部の学生が署名提出
A 梅光の問題が表面化したきっかけは、昨年度末で中高のベテラン教師が14人、大学で11人が辞職に追い込まれたり、解雇されたことだった。その辞めさせ方があまりにもひどいと、かつての梅光を知る下関市民に衝撃を与えた。中高の生徒が真っ先に動き始め、慕っていた先生の解雇を止めようと署名運動をし、大学では文学部の矢本准教授の雇い止めに対して学生たちが署名を集めるなど行動に踏み出した。梅光学院始まって以来の大リストラに、同窓生や保護者らも危機感を抱き、「梅光の未来を考える会」を設立して経営陣の退陣と学院の正常化を求める署名運動を展開した。しかし、経営陣はその声に耳を傾けることもなく、多くの教師が学院を去った。
しかし「改革」した結果ベテラン教員が多数いなくなり、県内外でブレインアカデミーが非正規教員をかき集めるなどして何とか今年度をスタートしたが、中高にせよ大学にせよ、薄氷を踏むような体制で年度当初からミスや混乱が続き、今ですら落ち着いて勉学に励む環境ではないといわれている。それなのに今年度末でさらに教職員を雇い止めするという。
B 大学では子ども学部の30代の若手教員に対して1月半ばに雇い止めが通告された。学生の授業評価も高く、信頼の厚い教員だったようで、学生も教員らも継続雇用を当然視していた存在だった。それが「積極的ではない」という理由で雇い止めになり、かわりに公募で50代の教員が雇われることになった。それを知った子ども学部の学生有志が契約更新を求める署名をとりくみ、7日に樋口学長に宛てて提出した。事前に4年生が学部長に嘆願書を出す動きもあったようだ。
学生有志から届いた文書によると、1月25日から2月1日までのわずか8日間で225人の署名が集まったそうだ。「学生の悩みや思いに耳を傾け、親身になって相談に乗ってくださり、教諭や保育士を目指す学生たちへの教育や指導も丁寧にしてくださるため、学生からの信頼度や人気も高く、今後もこの大学で教鞭をとり続けてくださると信じていた」と記している。続けて指導を受けることは、学生が本来持っている安心できる環境で質の高い教育を受ける権利であること、後輩たちのためにも将来にわたって梅光学院に残ってほしい、という強い願いを記している。この要望に対する回答を、2月10日午後5時までに全学集会を開催するか、学内全掲示板とポータルサイトに掲示するかのいずれかの形で示すことを求めている。学生たちの切実な思いに大学側がどのような対応をするか注目されている。
C この教員は3年生のゼミも持っていた。卒論のテーマを定め、これから準備していくという時点で担当教員がいなくなり、かわりに来るのは専門分野の違う教員だ。ゼミがどうなるかも知らされず、放り出された状態で年度末を迎えている学生たちの不安ははかりしれないものがある。
子ども学部では、公立小学校の教師をめざす学生の就職活動にもっともかかわっていた教員も今年度末での雇い止めが決まっており、公立保育園・幼稚園の窓口になってきた教員2人を含む3人に来年度いっぱいでの雇い止めが通告されている。昨年、教員らの反対を押し切って子ども学部の定員を拡大したばかりだが、今度はつぶすつもりなのかと思うほど、中核を担っている教員を首にしようとしている。
A 学院全体で今わかっているだけでも、大学では子ども学部の教員2人、文学部の教員3人の計5人、職員ではアドミッションセンターの20代と50代の職員2人と秘書が1人、今年度いっぱいで雇い止めになるようだ。中高では10月から休職していた校長が2月末で退職届けを出しており、今でも校長不在という異常事態だが、教頭も他校に就職するために3月末で退職するし、社会科の教員も雇い止めなどで2人退職するという。具体的に考えたとき、来年度の学校運営が成り立つのか心配になる。
D 今回は学院に協力的だった教職員も雇い止めになったという。理由なく切られるため大学内は戦戦恐恐という空気もあるようだが、客観的に見ると、むしろ経営陣の方が学内の様子を知られることを極度に恐れていることをあらわしている。
この間、「赤字経営」といいながら、本間理事長や只木統轄本部長らは月額100万円の法人カードを使い放題だとか、理事長が下関に来たときはグランドホテルの最上階を定宿にしているとか、役員報酬を1000万円以上に引き上げることを要求したことなど、さまざまな問題が明らかになった。とくに学院の資産30億円(現在は28億円)の半分をつぎ込んでいる運用について実態解明を求める世論が強まってきた。理事会も評議委員会も意に添わないメンバーを入れ替えて外部に経営実態が漏れない体制をつくったが、どこからか学内の様子が広まるので、本部の2階にあった総務を1階に降ろして狭い部屋に押し込めたり、中高の運動会を部外者立ち入り禁止にしたり、閉鎖的な対応が続いている。開かれた学校でみんなが安心できる教育環境が望ましいだろうに、一体何を隠したがっているのだろうかと不思議がられている。学内で疑わしい教職員を血眼になって探している様子もたびたび話題にされている。やましいことが何もない以上、堂堂としていればよいのだ。何をそんなに警戒しているのかと逆に関心を呼ぶものだ。紙おむつすら買わない 保育士めざす実習
B 本間理事長や只木統轄本部長、中野学院長、樋口学長ら経営陣が自慢しているのは、大学入学者の「V字回復」だ。少子化のもとで、私学にとって学生数の確保が死活問題であるのは間違いない。しかし梅光の場合、問題なのは学生をかき集めておいて学ぶ環境は驚くほど粗末なことだ。人事にもその姿勢が出ているが、故・佐藤泰正氏が常常いってきた「一人一人を大切にする」梅光の教育を否定して、学生=金ないしはモノとしか見ない傾向が顕在化している。
A 保育士をめざす学生は、おむつ替えや沐浴の実習などをするが、練習に使う紙おむつは使い回しでベロンベロンだと嘆いていた。昨年頃、非常勤講師が「紙おむつを買ってくれ」と頼んだら断られたようだ。その話を漏れ聞いた学生が購入の要望をあげると、逆に非常勤講師が叱られたという。沐浴の練習も給湯器の湯が出ないから、冷たい水を使っている。赤ちゃんの沐浴を冷たい水でするのか? 離乳食をつくる練習をしようと調理室に行けば、ホコリをかぶっている鍋等を洗おうにも洗剤はなく、タオルはカピカピになって不衛生きわまりない状態。「保育士になりたい」と志して梅光を選んで入学したのに、基本的なことを学ぶことができない。
B 最近ではピアノが3台なくなって、気づいた学生たちのあいだで「売られたようだ」と話題になっている。それも試験の直前で、家や下宿先にピアノを持っていない学生が練習に使う時期だ。「電子ピアノを入れる」という説明があったものの、コンセントがなく、今になって工事が始まっているという。ピアノは調律さえすればいくらでも使えるし、幼稚園・保育園ではピアノを使うところが多いのに、なぜ電子ピアノをわざわざ買うのか? との疑問を学生たちは持っている。
A 「学生生活充実度2年連続NO1」の横断幕を掲げているけれど「どこで調査したのか?」というのが学生の実感だ。まともに学べないうえに、頼りにしていた教員が次次にいなくなる。卒論も就職も不安ばかりだ。子ども学部の場合、幼稚園教諭、保育士、小学校教師の3つの免許が取得できることを売りにしているが、カリキュラム上、現1年生は3免許を取得することは不可能だといわれている。入学当初は「介護士の資格がとれる」という話だったのに、いざとろうとすると「開講していない」といわれた学生もいたりと、学費を払っている親たちが知ったら詐欺だと思うのではないか。
B ANAエアラインスクールとの提携や東京アカデミーの公務員講座、教員養成講座など、民間業者との提携を売り出しているが、この契約のために学生たちに講座に参加するようハッパを掛けるという本末転倒な状況も生まれている。
「成績がよければ受講料を安くする」などするから、よけいでも金がかかるようだ。派手にこうした提携を売り出しているが、それが逆に「この学校は自分の大学で教育ができないのだろうか」という印象を深めるものにもなっている。混乱は大学改革の産物 文科省天下り
C なぜこれほど学生、生徒や大学・中高の教員ら、保護者や同窓生らが意見しても聞く耳なく暴走できるのか。背景には教授会の権限を弱め、理事会・学長への権限集中を図る文科省の動きがあり、実は梅光だけでなく全国の私立大学でも似たような事件が頻発している。「ガバナンス強化」などといいながら、逆にチェック機関の無力化や、気に入った人物中心の統治などがはびこるようになり、理事会のいいなりになって意見しない、理事会にとり入るなど、大学の自由な雰囲気を破壊する事態が進行している状況を危惧する大学人も少なくない。これは国立大学で先行してきたものでもある。
文科省天下りの本間理事長らが、こうした動きを知ったうえで梅光学院に乗り込んで来て、もともと家父長的校風で理事会権限の強かった梅光で「改革」を進め、経営陣の権限を利用して現在のような混乱状況をもたらしたともいえる。最近、文科省が組織ぐるみで天下り先を斡旋していたことがとり沙汰されている。OBが月2日の勤務で大手保険会社から年収1000万円を得ていたとか、早稲田大学に天下った人物が1400万円の契約だったなどなど、今更ながら驚いたように報じられるが、月4日ほど梅光学院に来て報酬を得ていく本間理事長とそっくりだ。理事会を内部の教職員ばかりにしてしまったので、いくら報酬を得ているのか、1000万円以上に引き上げる案が通ったのか、教職員も含めて知りようのない状態になっているが…。
D 「中高が毎年1億円の赤字を出している」という理由で「改革」を始めたが、むしろ資産は減り、赤字も拡大している。10年の長期運用に回している13億円とも17億円ともいわれる金も現時点でどれだけの損失を出しているのか明らかにするべきだろう。28億円のうち動かせる金は半分の15億円程度だという。仮に毎年1億円以上の赤字が出続けたとき、梅光学院の存続は時間の問題になってくる。今年の新年会の場では、実質機能していなかった教職員会を解散して、300万円ほどの積立金のうち一定額を返却し、残りを学院に寄付する提案もあったという。金に困っているのか? と思わせている。仮に梅光が本当に行き詰まったとき、本間理事長なり只木統轄本部長なりが最後まで責任を持って梅光に残るだろうか。
C この間、同窓生や父母、学生だけでなく市民を巻き込む形で、140年にわたって培ってきた梅光の教育を子どもたちのために守ろうという運動が広がってきた。昨年度は「文学部の問題だ」と思っていた学生たちも、「大学全体で考えなければ」と連携をとりつつ動き始めている。今の大学なり中高の現状をおおいに父母や市民に知らせ、世論を強めていくことが求められている。
A 梅光の混乱状況は文科省天下り問題や大学改革の産物であって、決して梅光に限った特別なものでもない。全国の私学や国公立でも似たような問題が起こっている。しかし、余りにも酷すぎる。佐藤元学院長や歴代の教員たちが聞いたら嘆くのはあたりまえだ。仏作って魂入れずといったら宗教的に違うのかもしれないが、その逆で魂が抜かれていくような事態にも見える。女子教育とかかわって歴史的な伝統も蓄積してきた教育機関が、これほど横暴によそ者に踏みにじられて良いのだろうか。30億円の現金資産の心配もさることながら、教育機関として変質してしまうことの損失の方が甚大だ。少なくとも、中高、大学にしても子どもたちや学生たちが置かれている状況はかわいそうの一言に尽きる。教員がモノ扱いされてコロコロ首を切られるような状況は改めさせないと、安心して勉学に励むことができない。
B 理事長が月4~5日で報酬を得ている実態についても「ここにもいるよ! 天下り!」といって全市的に周知するとか、そのもとで学生や生徒たちがどのような難儀を強いられているかを世間に訴えることも必要ではないか。メディアも踏み込んでとりあげないが、大学改革の最たる例として下関で起きている実態を全国に発信することが重要だ。宗教的には「オンヌリの乗っとり」とかさまざまな背景もあるのかもしれないが、間違いなく梅光が別物にされようとしている。そして、気付いた時には現金資産もスッカラカンになっていた――というオチすら想定される。大学や教育機関は学問探究や子どもの教育が中心的な仕事であって、もうけるためにあるのではない。いくら少子化とはいえ、そこをはき違えたなら経営も成り立たない。その存在意義や教育理念をはっきりさせて正常化の力を発動することが求められている。
2017年02月17日
共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明
共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明2017年2月1日政府は、これまでに何度も廃案となっている共謀罪を、「テロ等準備罪」の呼び名のもとに新設する法案を国会に提出する予定であると報道されています。しかし、この立法は以下に述べるように、犯罪対策にとって不要であるばかりでなく、市民生活の重大な制約をもたらします。
1. テロ対策立法はすでに完結しています。
テロ対策の国際的枠組みとして、「爆弾テロ防止条約」や「テロ資金供与防止条約」を始めとする5つの国連条約、および、その他8つの国際条約が採択されています。日本は2001年9月11日の同時多発テロ後に採択された条約への対応も含め、早期に国内立法を行って、これらをすべて締結しています。
2. 国連国際組織犯罪防止条約の締結に、このような立法は不要です。
2000年に採択された国連国際組織犯罪防止条約は、国際的な組織犯罪への対策を目的とし、組織的な犯罪集団に参加する「参加罪」か、4年以上の自由刑を法定刑に含む犯罪の「共謀罪」のいずれかの処罰を締約国に義務づけているとされます。しかし、条約は、形式的にこの法定刑に該当するすべての罪の共謀罪の処罰を求めるものではありません。本条約についての国連の「立法ガイド」第51項は、もともと共謀罪や参加罪の概念を持っていなかった国が、それらを導入せずに、組織犯罪集団に対して有効な措置を講ずることも条約上認められるとしています。
政府は、同条約の締約国の中で、形式的な基準をそのまま適用する共謀罪立法を行った国として、ノルウェーとブルガリアを挙げています。しかし、これらの国は従来、予備行為の処罰を大幅に制限していたり、捜査・訴追権限の濫用を防止する各種の制度を充実させたりするなど、その立法の背景は日本とは相当に異なっています。ほとんどすべての締約国はこのような立法を行わず、条約の目的に沿った形で、自国の法制度に適合する法改正をしています。国内法で共謀罪を処罰してきた米国でさえ、共謀罪の処罰範囲を制限する留保を付した上で条約に参加しているのです。このような留保は、国会で留保なしに条約を承認した後でも可能です。
日本の法制度は、もともと「予備罪」や「準備罪」を極めて広く処罰してきた点に、他国とは異なる特徴があります。上記のテロ対策で一連の立法が実現したほか、従来から、刑法上の殺人予備罪・放火予備罪・内乱予備陰謀罪・凶器準備集合罪などのほか、爆発物取締罰則や破壊活動防止法などの特別法による予備罪・陰謀罪・教唆罪・せん動罪の処罰が広く法定されており、それらの数は70以上にも及びます。
一方、今般検討されている法案で「共謀罪」が新設される予定の犯罪の中には、大麻栽培罪など、テロとは関係のない内容のものが多数あります。そもそも、本条約はテロ対策のために採択されたものではなく、「共謀罪」の基準もテロとは全く関連づけられていません。本条約は、国境を越える経済犯罪への対処を主眼とし、「組織的な犯罪集団」の定義においても「直接又は間接に金銭的利益その他の物質的利益を得る」目的を要件としています。3. 極めて広い範囲にわたって捜査権限が濫用されるおそれがあります。
政府は、現在検討している法案で、(1)適用対象の「組織的犯罪集団」を4年以上の自由刑にあたる罪の実行を目的とする団体とするとともに、共謀罪の処罰に(2)具体的・現実的な「合意」と(3)「準備行為」の実行を要件とすることで、範囲を限定すると主張しています。しかし、(1)「目的」を客観的に認定しようとすれば、結局、集団で対象犯罪を行おうとしているか、また、これまで行ってきたかというところから導かざるをえなくなり、さしたる限定の意味がなく、(2)概括的・黙示的・順次的な「合意」が排除されておらず、(3)「準備行為」の範囲も無限定です。
また、「共謀罪」の新設は、共謀の疑いを理由とする早期からの捜査を可能にします。およそ犯罪とは考えられない行為までが捜査の対象とされ、人が集まって話しているだけで容疑者とされてしまうかもしれません。大分県警別府署違法盗撮事件のような、警察による捜査権限の行使の現状を見ると、共謀罪の新設による捜査権限の前倒しは、捜査の公正性に対するさらに強い懸念を生みます。これまで基本的に許されないと解されてきた、犯罪の実行に着手する前の逮捕・勾留、捜索・差押えなどの強制捜査が可能になるためです。とりわけ、通信傍受(盗聴)の対象犯罪が大幅に拡大された現在、共謀罪が新設されれば、両者が相まって、電子メールも含めた市民の日常的な通信がたやすく傍受されかねません。将来的に、共謀罪の摘発の必要性を名目とする会話盗聴や身分秘匿捜査官の投入といった、歯止めのない捜査権限の拡大につながるおそれもあります。実行前の準備行為を犯罪化することには、捜査法の観点からも極めて慎重でなければなりません。4. 日本は組織犯罪も含めた犯罪情勢を改善してきており、治安の悪い国のまねをする必要はありません。
公式統計によれば、組織犯罪を含む日本の過去15年間の犯罪情勢は大きく改善されています。日本は依然として世界で最も治安の良い国の1つであり、膨大な数の共謀罪を創設しなければならないような状況にはありません。今後犯罪情勢が変化するかもしれませんが、具体的な事実をふまえなければ、どのような対応が有効かつ適切なのかも吟味できないはずです。具体的な必要性もないのに、条約締結を口実として非常に多くの犯罪類型を一気に増やすべきではありません。
そればかりでなく、広範囲にわたる「共謀罪」の新設は、内心や思想ではなく行為を処罰するとする行為主義、現実的結果を発生させた既遂の処罰が原則であって既遂に至らない未遂・予備の処罰は例外であること、処罰が真に必要な場合に市民の自由を過度に脅かさない範囲でのみ処罰が許されることなどの、日本の刑事司法と刑法理論の伝統を破壊してしまうものです。5. 武力行使をせずに、交渉によって平和的に物事を解決していく姿勢を示すことが、有効なテロ対策です。
イスラム国などの過激派組織は、米国と共に武力を行使する国を敵とみなします。すでに、バングラデシュでは日本人農業家暗殺事件と、日本人をも被害者とする飲食店のテロ事件がありました。シリアではジャーナリストの拘束がありました。安保法制を廃止し、武力行使をしない国であると内外に示すことこそが、安全につながる方策です。
こうした多くの問題にかんがみ、私たちは、「テロ等準備罪」処罰を名目とする今般の法案の提出に反対します。呼びかけ人(五十音順)
葛野尋之(一橋大学教授)
高山佳奈子(京都大学教授)
田淵浩二(九州大学教授)
本庄武(一橋大学教授)
松宮孝明(立命館大学教授)
三島聡(大阪市立大学教授)
水谷規男(大阪大学教授)
賛同者赤池一将(龍谷大学教授)
浅田和茂(立命館大学教授)
足立昌勝(関東学院大学名誉教授)
安達光治(立命館大学教授)
雨宮敬博(宮崎産業経営大学准教授)
荒川雅行(関西学院大学教授)
荒木伸怡(立教大学名誉教授)
生田勝義(立命館大学名誉教授)
石川友佳子(福岡大学准教授)
石田倫識(愛知学院大学准教授)
石塚伸一(龍谷大学教授)
石松竹雄(大阪弁護士会)
一原亜貴子(岡山大学准教授)
伊藤睦(三重大学教授)
稲田朗子(高知大学准教授)
稲田隆司(新潟大学教授)
指宿信(成城大学教授)
上田寛(立命館大学名誉教授)
上田信太郎(北海道大学教授)
上野達彦(三重大学名誉教授)
内田博文(九州大学名誉教授、神戸学院大学教授)
内山真由美(佐賀大学准教授)
内山安夫(東海大学教授)
梅崎進哉(西南学院大学教授)
梅田豊(愛知学院大学教授)
大貝葵(金沢大学准教授)
大久保哲(宮崎産業経営大学教授)
大出良知(東京経済大学教授)
大場史朗(大阪経済法科大学准教授)
大薮志保子(久留米大学准教授)
岡田行雄(熊本大学教授)
岡本洋一(熊本大学准教授)
小田中聰樹(東北大学名誉教授)
海渡雄一(第二東京弁護士会)
香川達夫(学習院大学名誉教授)
春日勉(神戸学院大学教授)
門田(秋野)成人(広島大学教授)
金澤文雄(広島大学名誉教授・岡山商科大学名誉教授)
金澤真理(大阪市立大学教授)
神山敏雄(岡山大学名誉教授)
嘉門優(立命館大学教授)
川崎英明(関西学院大学教授)
川口浩一(関西大学教授)
神例康博(岡山大学教授)
木谷明(元裁判官、元法政大学法科大学院教授、第二東京弁護士会)
北野通世(福岡大学教授・山形大学名誉教授)
金尚均(龍谷大学教授)
楠本孝(三重短期大学教授)
公文孝佳(神奈川大学准教授)
黒川亨子(宇都宮大学専任講師)
小浦美保(岡山大学准教授)
古川原明子(龍谷大学准教授)
後藤昭(青山学院大学教授)
小山雅亀(西南学院大学教授)
斎藤司(龍谷大学教授)
斉藤豊治(甲南大学名誉教授、大阪弁護士会)
三枝有(信州大学教授)
坂本学史(神戸学院大学准教授)
佐川友佳子(香川大学准教授)
櫻庭総(山口大学准教授)
佐々木光明(神戸学院大学教授)
笹倉香奈(甲南大学教授)
佐藤博史(元東京大学客員教授・元早稲田大学教授、第二東京弁護士会)
佐藤元治(岡山理科大学准教授)
塩谷毅(岡山大学教授)
島岡まな(大阪大学教授)
白井諭(岡山商科大学准教授)
白取祐司(神奈川大学教授・北海道大学名誉教授)
新屋達之(福岡大学教授)
鈴木博康(九州国際大学教授)
末道康之(南山大学教授)
陶山二郎(茨城大学准教授)
関哲夫(國學院大学教授)
関口和徳(愛媛大学准教授)
園田寿(甲南大学教授、大阪弁護士会)
高倉新喜(山形大学教授)
高田昭正(立命館大学教授)
高橋有紀(福島大学准教授)
高平奇恵(九州大学助教)
武内謙治(九州大学教授)
多田庶弘(神奈川工科大学非常勤講師)
辰井聡子(立教大学教授)
田中輝和(東北学院大学名誉教授)
恒光徹(大阪市立大学教授)
寺中誠(東京経済大学非常勤講師)
土井政和(九州大学教授)
戸浦雄史(大阪学院大学准教授)
徳永光(獨協大学教授)
冨田真(東北学院大学)
友田博之(立正大学准教授)
豊崎七絵(九州大学教授)
豊田兼彦(関西学院大学教授)
内藤大海(熊本大学法学部准教授)
長井長信(明治学院大学教授)
長井圓(中央大学教授)
永井善之(金沢大学教授)
中川孝博(國學院大學教授)
中島洋樹(関西大学教授)
中島宏(鹿児島大学教授)
中村悠人(東京経済大学准教授)
名和鐵郎(静岡大学名誉教授)
新倉修(青山学院大学教授)
新村繁文(福島大学特任教授)
庭山英雄(元専修大学教授、東京弁護士会)
朴元奎(北九州市立大学教授)
東澤靖(明治学院大学教授、第二東京弁護士会)
玄守道(龍谷大学教授)
平井佐和子(西南学院大学准教授)
平川宗信(名古屋大学名誉教授・中京大学名誉教授)
平田元(熊本大学教授)
福井厚(京都女子大学教授)
福島至(龍谷大学教授)
福永俊輔(西南学院大学准教授)
渕野貴生(立命館大学教授)
保条成宏(福岡教育大学教授)
本田稔(立命館大学教授)
前田朗(東京造形大学教授)
前野育三(関西学院大学名誉教授、兵庫県弁護士会)
前原宏一(札幌大学教授)
正木祐史(静岡大学教授)
松岡正章(甲南大学名誉教授、大阪弁護士会)
松倉治代(大阪市立大学准教授)
松本英俊(駒澤大学教授)
丸山泰弘(立正大学准教授)
水野陽一(北九州市立大学専任講師)
緑大輔(一橋大学准教授)
光藤景皎(大阪市立大学名誉教授)
三宅孝之(島根大学名誉教授)
宮澤節生(神戸大学名誉教授・カリフォルニア大学ヘイスティングス・ロースクール教授)
宮本弘典(関東学院大学教授)
村井敏邦(一橋大学名誉教授)
村岡啓一(白鴎大学教授)
村田和宏(立正大学准教授)
森尾亮(久留米大学教授)
森川恭剛(琉球大学教授)
森下忠(広島大学名誉教授)
森久智江(立命館大学准教授)
守屋克彦(元東北学院法科大学院教授)
安田恵美(國學院大學専任講師)
山口直也(立命館大学教授)
山﨑俊恵(広島修道大学准教授)
山名京子(関西大学教授)
山中友理(関西大学准教授)
吉弘光男(久留米大学教授)
吉村真性(九州国際大学教授)
その他氏名非公開賛同者 3名
呼びかけ人・賛同者合計155名(2017年2月12日現在)
呼びかけ人・賛同者合計154名(2017年2月10日現在)
呼びかけ人・賛同者合計152名(2017年2月9日現在)
呼びかけ人・賛同者合計150名(2017年2月8日現在)
呼びかけ人・賛同者合計149名(2017年2月7日現在)
呼びかけ人・賛同者合計148名(2017年2月6日現在)
呼びかけ人・賛同者合計147名(2017年2月5日現在)
呼びかけ人・賛同者合計146名(2017年2月3日現在)
呼びかけ人・賛同者合計143名(2017年2月2日現在)
呼びかけ人・賛同者合計137名(2017年2月1日現在)
※ 賛同者としてのご参加を募集いたします。
ご賛同いただける刑事法研究者の方は、お名前と肩書を
高山佳奈子 takayama@law.kyoto-u.ac.jp
までお知らせください。五十音順のリストを公表いたします。
2017年02月08日
常葉大学短大部公益通報者解雇事件、静岡朝日テレビ報道
■大学オンブズマン
∟●常葉大学短大部公益通報者解雇事件、静岡朝日テレビ報道
2017年2月7日火曜日常葉大学短大部公益通報者解雇事件、静岡朝日テレビ報道抜粋
リンク:ANN系列静岡朝日テレビ報道抜粋(17年1月31日放映)先月、朝日テレビで報道された内容です。
2017年02月05日
崖っぷちの筑紫女学園、崩壊の危機に居直る笠・長谷川派
崖っぷちの筑紫女学園、崩壊の危機に居直る笠・長谷川派
約10億円の補助金交付に影響理事会運営をめぐる混乱が続いている学校法人 筑紫女学園が、存続さえ危ぶまれる危機的状況に陥っていることがわかった。福岡地裁の決定により、昨年(2016年)8月31日付で、理事長としての職務執行が停止されている長谷川裕一氏が、教職員宛てで1月23日に出した所感によると、理事会の正常化がなされない場合、国(文部科学省)および福岡県からの約10億円の経常費補助金の交付が受けられないほか、来年度の予算編成、人事、各種契約の締結に支障をきたすという。また、昨年11月、文部科学大臣が認める評価機関が実施した大学認証評価の調査報告案で、大学運営や理事会機能について、厳しい指摘がなされており、「大学として『不適合』と見なされる可能性がある」(学校関係者)という。
発端は、ほとんどの教職員の反発を招いた笠信暁理事長の学園経営にあった。理事会内は、長谷川氏を含む笠氏の支持派(以下、笠・長谷川派)と反対派に分かれ、昨年3月25日には、笠氏の理事長解任案が反対派から提出される事態に至る。その際、笠・長谷川派は示し合わせて欠席し、笠氏の理事長解任を逃れた。そして昨年6月10日の理事会で、新理事の選任によって反対派を一掃。笠・長谷川派の仏壇業界最大手(株)はせがわの相談役・長谷川裕一氏を新理事長に擁立した。しかし、昨年7月8日、反対派の理事2名が、6月10日の理事選任決議を無効として仮処分を申し立てる。福岡地裁は決議を無効と判断し、8月31日付で「理事長長谷川裕一の職務執行停止」が決定された。(詳細は関連記事参照)
新理事選任決議の無効を認める
最悪の事態を回避するためのタイムリミットを「本年度の補助金の交付決定が判断される2月中旬~下旬」とする長谷川氏。1月23日の所感のなかで、昨年6月10日の新理事選任決議を無効とする部分について認諾する方針を示し、新理事選任決議のやり直しを行う意思を示した。だが、同時に、仮処分の申し立てを行った反対派理事2名が学園の危機的状況を招いていると主張。この主張に対し、教職員側から反発の声があがっている。
筑紫女学園三学部長は1月25日、長谷川氏の所感に対し、複数の誤認があるとして同氏宛ての意見表明文を発表した。主な指摘は以下の通り。(1)反対派理事2名からは和解の提案がなされたが長谷川氏側は受け入れず、また、職務執行停止の決定が下された翌日(昨年9月1日)に、不服申し立てを行った。(2)11月25日に不服申し立てが却下されたが、抗告を高等裁判所に行った。(3)1月20日、福岡地裁の進行協議で、絶対に和解しないと公言した。三学部長は、混乱を長引かせる要因を作り出したのは、むしろ長谷川氏の側にあるのではないかという疑問を呈している。
6月10日の理事会のやり直しに関する笠・長谷川派の主張は、自分たちにとって優位に進めたいとの意図がうかがえる。長谷川氏は、6月10日の理事会に理事として参加していた上山大峻前学長を、すでに退職し学長の身分を喪失していることから、当然に理事の地位を失っていると主張。笠氏を含む12名の理事で理事会を開催するよう求めている。これは、上山前学長が参加すれば、反対派が数的優位に立つ可能性があるからだ。
一方、反対派は1月17日、筑紫女学園の代表代行者選任の申し立てを福岡地裁に行っている。笠・長谷川派が代表代行者とする現事務局長を宛名にすると反対派の訴状が届かないからだという。これは、現事務局長が、無効とされた6月10日の新理事選任決議で選任されており、その正当性に裁判所が疑義を持っているからだと考えられる。これまでの経緯に詳しい卒業生の父兄は、長谷川氏の所感について、「あまりにも馬鹿げた責任論。学園の危機を招いたのは笠氏らの私物化違法経営であり、正常化を求める反対派理事が起こした訴訟が原因ではない」と、怒りを露わにした。
2017年02月01日
パワハラ訴訟で常葉学園側控訴
■静岡新聞2017年1月31日
パワハラ被害の告訴で懲戒解雇されたのは不当だとして、常葉大学短大部の准教授の40台男性が常葉学園(静岡市葵区)などを相手取り、処分の無効確認を求めた訴訟で、
学園側は30日、懲戒解雇の無効を認めた静岡地裁判決を不服として、東京高裁に控訴した。学園幹部の一人は「詳しい主張は今後、控訴理由所で明らかにしたい」と述べ、同日地裁に控訴場を提出したことを明らかにした。
一方、男性の代理人弁護士は31日に正式に控訴を行うか決めたいと話していた。
苫駒大経営移管、新体制で再生を 教職員に不安と動揺
■苫小牧民報社(2017年1月28日)
苫小牧駒沢大学が2018年4月に京都育英館に経営移管されることを受け、市民の間に期待と不安の声が上がっている。27日の記者会見で示された看護学部の創設を含めた新たな大学体制に対し、在校生や大学関係者らが率直な思いを語った。同大1年の向山阿良大(あらた)さん(19)は、「教授との距離が近い教育・研究ができる少人数ならではの魅力は感じていたが、学生数が増えれば大学や地域の活性化につながる。これを機によい風向きになれば」と前向きに捉えていた。
1期生でアイスホッケー部の初代主将だった新谷昌洋さん(37)=日新町=は「新聞で知り、ショックだった。これからOB会のメンバーとも存続に向けて協力していこうと話していた。苫小牧駒沢大学がなくなるのは寂しい。広大な土地を生かし、スポーツ面にも力を入れてほしい」と話していた。
短大時代から約20年にわたり、社会福祉の非常勤講師を務めた、緑星の里の森岡永吾名誉理事長(83)=柳町=は、「就職に直結しない学部だったため、学生集めが難しかったのでは」と分析。看護学部創設の構想には「医療や福祉は現場のニーズがある。実現すれば大学が大きく発展できる」と期待を寄せた。
一方で、現役の教職員には不安と動揺が広がっている。教職員は、移管する18年3月末付で駒沢大学を解雇された後、京都育英館が雇用するとしているが、ある教職員は「駒沢大学は運営から手を引くので、『雇用を維持する』と言われても不安は残る」と表情を曇らせた。
学生数の減少と経営難を受け、存続に向けてさまざまな団体が支援を続けてきた。苫小牧商工会議所(宮本知治会頭)では、市内の経済人から業界動向や経営について講義する「地域経済論」の講義への協力を控えていた矢先といい、宮本会頭は「大変驚いている。『親に負担をかけずに進学できる』という、大学誘致当初の原点に立ち返り、地域の人が学べる大学として再出発してほしい」と地域密着型の大学としての再生を願う。
市議会5会派で構成する苫小牧駒沢大学を支援する議員の会の岩田典一会長(64)=豊川町=は、「市民の税金も使った大学が残り、安心した。駒大苫小牧高校を卒業しているので、駒沢の名に愛着があり、名前が変わるなら残念。今後も協力の仕方を模索していきたい」と継続的に支援する方向で考えている。
16年3月には、東胆振・日高地域に唯一の4年制大学を残そうと、苫小牧駒沢大学と共に歩む市民の会が発足。津川義信会長(81)=明徳町=は「移管後も会の活動は続くと思う。今も会員が増えており、約240人に上る。大学周辺にとどまらず関心の高さを感じているので、よい方向に変わってほしい」と期待する。
同大学は、27日付で保護者者宛てに文書で移管を通知しており、1月中に学生向けの説明会を開くとしている。