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2018年07月17日

都留文科大学における執行部による大学私物化とその背景

法と民主主義 2017/6 No.519

地方独法法+学校教育法改悪=大学ではないもの
-都留文科大学における執行部による大学私物化とその背景-

都留文科大学文学部教員有志

 国公立大学の法人化(二〇〇四年度~)後、日本の大学の劣化がさまざまに報じられている。石原都政下での東京都立大学への攻撃や、福岡教育大学の例がある(福岡教育大学教員有志FUEの会「大学ガバナンス強化の最悪の帰結」、『日本の科学者』一七年七月号)。都留文科大学で近年行われている「改革」も常軌を逸したものであって、本学は「大学ではないもの」に変質しつつあると言わざるをえない。このことは、JSA・全大数など主催「大学間題シンポジウム」第三回(一七年三月二〇日)の討論でも告発された。それをもとにここに論考を発表し、全国の大学人、法律専門家諸氏への訴えとしたい。本学を転落の淵から救い出す運動を強化するべく、みなさんからのご支援をぜひとも賜りたい。
 都留文科大学(以下、都留文大と略記。)は、山梨県都留市(人口釣三万二千人)という地方小都市に立地し、一九六〇年に文学部のみの市立四年制単科大学となった。二〇〇九年度からは地方独立行政法人法(以下、地方独法法と略記。)に基づき公立大学法人に転換した。約八五人の常勤教員と約九〇人の職員は「非公務員」となった。常勤教員にはいわゆる専任教員(任期なし、学部ゼミを担当、教授会メンバーとなる)と一〇人程度の各種の任期付き教員がおり、たいして非常勤教員が約三〇〇人と異様に多い。職員は、都留市からの出向等職員約三五名(幹部層)、法人固有職員、各種非正規職員の三階層からなる。大学の歳入は、地方交付税大学分を源とする市からの運営費交付金が約三分の一、入学金・授業料収入が約六割で、国立大学と私立大学の中間型である。

一 法人化による大学運営の改悪

 都留文大では、太田堯学長(一九七七~八三年)のもとで大学運営が民主化され、①学長の事実上の教授会直接選出、②役員を多く置かず、あらゆる議題を教授会で討議し、その下に各種委員会を置いて教員と職員の熟議と協働による全員参加型大学運営を行う、④教授会、教職員組合、学生・院生自治会との四者協議などの慣行が確立していた。
 しかし、地方独法法により公立大学の法人化が可能となった。都留市では〇五年の市長選挙で小林義光氏(右派系)が大学法人化を公約して四選され、〇七年度をとおして議論が行われた。大学側と市側の決裂答申となったが、市長=市議会多数派が学内の「穏健な法人化」論を押し切った。市側は全員参加型大学運営を嫌悪し、(ア)市の言うことを聞く大学に作り替えるとともに、(イ)地方交付税大学分と大学の積立金等への介入権を強化するべく、地方独法法を利用したのである。
 この際、全員参加型大学運営を快く思っていなかった教授会少数派が市長・市役所と組み、アカい大学だというイメージを払拭しないとこれからの時代には生き残れないなどの宣伝を陰で拡散させるなどし、〇七年秋の学長選挙で「強硬な法人化」派を当選させた。その陰の中心人物が福田誠治氏(ソビエト型集団主義教育の研究者であったが、ソ連崩壊後転向し、現在はグローバル化時代のPISA型学力等の論考を発表している)、新保祐司氏(フジサンケイグループ主催「正論大賞」新風賞を受賞した右派系文芸評論家でもある)などであった。法人化を利用して自派の権力を奪取することが彼らの目的だったように思われる。
 法人化された二〇〇九年四月、激変が起こつた。第一に、都留市議会が議決した法人の定款に基づき、役員体制は、理事長・学長別置型の理事会方式となった。学長は、(a)教授会メンバーに新たに市出向職員等を加えた意向投票を行う→(b)その結果も一つの参考として、法人に置かれる学長選考会議が選考し理事長が任命する、という新方式で選ばれることとなった。その後三回の学長選挙が行われ、教授会レベルでは福田・新保両氏らに付き従う人びとと全員参加型大学運営をできるだけ残そうとする人びととは括抗していたが、職員票に支えられた福田民らが多数派を握れる様相となっている。
 第二に、専任教員の採用・昇任等人事は、従来は①文学部内の五学科間の協議により年度人事計画を立てる→②各学科の人事要望も尊重しながら候補の選考を行う→③教授会で熟議のすえ投票で決する→④大学当局・労組双方で構成する人事委員会での合意により格付けをするという方式であったが、法人化後は人事案件がすべて教授会の審議事項からはずされ、①法人組織である教育研究者議会(以下、教研審と略記。)で執行部主導による年度人事計画の決定→②教研審の下に置かれる選考委員会での選考→③教研審での採決→理事会での承認→④大学当局による一方的な各付け決定という方式に変更された。このことの影響は甚大で、福田・新保両氏らの意に沿わない採用人事の否決や、昇任を気にして教授会で発言しない若手教員の増大、新任教員の低賃金化などが起こっている。
 第三に、大学の中期計画策定、予算編成、学部・学科再編、キャンパス再編や校舎増改築などの研究教育上の重要案件もまた、教授会の単なる報告事項とされ、実質的には執行部、理事会、経営協議会(もう一つの法人組織)の間で決められることとなった。
 ここまでを法人化の第一段階ということができる。第二段階は第二代学長下で、上記の法人化の枠内にとどまるもののそれなりに均衡のとれた大学運営が行われ、教授会では全員参加型大学運営を主張する人びとの理にかなった発言に多数の支持が集まることもしばしばであった。それが福田・新保両氏らには耐えがたかったのであろう。

二 学校教育法改悪後の大学運営の野蛮化

 二〇一三年秋の学長選挙で職員票を固めた福田氏が当選し、一四年四月から学長に就任した。副学長には新保民らが任命された。また一四年通常国会で学校教育法九三条が改悪され、本学の法人化は第三段階を迎えた。
 学校教育法九三条の改悪とは、同第二項で「教授会は、学長が次に掲げる事項について決定を行うに当たり意見を述べるものとする」とし、教授会=意見具申機関に格下げし、学長=単独の決定権者としたことをさす。しかしそうであっても、教育研究に関する重要事項で学長が定めたもの(文科省があげる例は専任教員採用人事、教育課程、学部学科再編、キャンパス移転など)について教授会は意見を述べる(同第二項3)。ここで「意見を述べる」とは文科省見解によれば、従来の「議決する」に準じる行為であって、自由聞達に審議したうえで教授会の見解(賛否など)をまとめることをさしている。
 ところが福田学長は、「意見を述べる」とは教授会の場で各教員が個別発言を行うことであり、「教授会は意見を述べるのみで審議してはいけないのだ」との独自解釈を大声で延々とまくしたて、審議を封じにかかる。これに異論を唱えると二人の副学長が「発言中止!」「黙れ!」と叫ぶ-本学の教授会はこうした異様な状況になっている。この結果、教授会は次第に単なる事務連絡会議に堕しつつある。
 教研審の変質も著しい。従来、学部の下にある五つの学科の長は、学科の互選であったが、福田執行部は一方的に学科長任命制を導入し、意に沿わない人物の学科長就任を拒否した。このため教研審の大半が学長任命の「イエスマン」となった。
 こうした変化がもたらしたものを、以下、都留文大ホームページ、都留文大数職員組合ニュース、地元紙「山梨日日新聞」記事によりつつ、具体的に紹介したい(注記は省略)。

三 大学を「大学ではないもの」にする異常人事

 福田学長下での第一の特徴は、野蛮な人事の連発である。三例だけ指摘しよう。二〇一四年の地方自治論専任教員採用では、学長によって専断的に任命された選考委員会が、T氏を最終候補とした。選考委員の一人は副学長と密約を結び、一度も委員会に出席せず、業績も読まず、T氏を推した(定年後、この人物は学長から任期付き教員として再雇用された)。しかしT氏には地方自治にかんする研究論文が一本も存在しないことが判明し、所属学科から抗議声明が繰り返しだされた。だが学長はT氏の着任を強行した。その後丁氏が地方自治論ゼミを指導できないとわかると、学長は担当変更を求めてきた。地元密着の公立大学をうたう本学で地方自治を学習できる唯一のゼミが、こうして廃止されたのだった。
 本学は教員養成系大学とされており、中学社会・高校地歴教員免許課程をもつが、そこでは地理学の専任教員は必須である。二〇一三年度で同数員が定年退職したが、福田副学長(当時)らが後任の採用を拒否したため、一四年度当初、同教員はゼロとなった。彼は、地理学の専任教員がいなくとも、文科省が査察に来たりはしない。来ても夏休み明けだから、その時には来年に向けてこれから採用人事を始めますと言えば、許される」とニヤニヤしながら言ったそうである。一四年度の社会科教育法の専任教員採用についても、選考委員会で満場一致で決まった候補に対して、新保副学長らが「日韓共同教科書づくり」にかかわる者だから認められないとの根回しをして、教研審で否決する策動を行った。これらの結果、この学科では一四年度には一六ゼミのうち七を非常勤教員に任せる異常事態に陥った。その果てに、一六年秋、文科省から中学社会教免課程等で大量の学生が長年履修漏れしていたので改善せよとの行政指導を本学が受けることになった。しかし学長らはこの事実を学生に告げずに繕おうとした。これは同年末、新聞・TVで大きく告発されたところである。
 とくに重大なのが、本学で唯一の日本国憲法専任教員採用問題である(二〇一七年)。副学長・学長補佐など学長の意に沿う教員で固められた選考委員会はH氏を候補に推薦したが、H氏は法学の学位を持たず、日本国憲法にかんする研究論文が一本もなく、民族主義改憲派の集団「憲法学会」に所属していた。教授会で再三にわたって抗議声明が出されたが、学長らは採用を強行した。そして着任直後、H氏が学長補佐に任命されたのである。
 
四 退職金裁判

 大学当局と市側が大学を私物化している例として、退職金裁判をとりあげたい。二〇一二年度の国家公務員給与削減政策に影響されて、都留市でも市職員の退職金削減を決定した。本学当局は、市側に右へ倣えして本学教職員の退職金削減を画策した。二二年三月、大学労組との団体交渉もなく、また教職員への周知もなく、本学退職手当規程を、旧来から市側の規程を準用することになっていたかのように書き換え、同月退職教職員の退職金を一方的に削減したのである。
 これに対し、当該教員六名が東京地裁に提訴した(第一次訴訟、一五年四月地裁判決)。大学労組は原告団を支援することを決定した。一五年、最高裁は大学当局の労働契約法・労働基準法違反を認め、原告に削減分を還付する決定を行った。ところが大学当局は何ら反省しなかった。そこで新たに五名が甲府地裁に一七年六月、第二次訴訟を提訴したところである。
 この事件の意義は二つある。第一に、東京地裁判決は、法人化し「非公務員型」の大学は設置者たる市側から経営上独立しているとの判断を示したことである。第二に、大学当局=市側は逆に、大学を市役所の従属物とみていることが明らかになったことである。

五 学部・学科再編と不当労働行為

 福田学長は当選後、「選挙公約」でほぼ触れなかった学部学科再編を開始する。
 第一は、文科省路線に沿った、国際バカロレア課程と連携した全科目英語授業の「国際教育学科」新設である(二〇一七年度開設)。その持続可能性は学内では大いに疑問視されている。
 第二は、現「社会学科」廃止、「地域社会学科」新設と「教養学部」新設である二八年度予定)。その新学科準備室は副学長・学長補佐・学長側近でかため、現学科の中心メンバーを一切排除し、また新学科の重要方針案は現学科メンバーから意見を聴くことなく、三菱総研に委託して作成させた。新学科の教育課程案も準備室が専断的に作成した。
 第三は新校舎建設で、落札業者には前・現市長系土建会社が含まれ、落札率は九九・七%となっている。
 特に深刻なのは、二〇一六年軟、学長らが社会学科の三教員について新学科への移籍拒否を強行してきたことである。この三教員は、第一次退職金訴訟の東京地裁提訴時、大学労組による原告団支援決定時、最高裁決定時それぞれで大学労組書記長だった者で、異常人事について教授会で「モノ言う」教員でもあった。本学では他学科等への移籍については本人同意を得るという雇用慣行が確立していたにもかかわらず、学長らは三教員の意思確認を一切拒否し、団体交渉では配置転換先も提示しない不誠実な態度を繰り返した。これは大学労組への弾圧(不当労働行為)であり、本年三月、山梨労働委員会に救済申し立てが行われたところである。学長・副学長によるパワーハラスメントでもあるため、三教員は学内の人権委員会、山梨県弁護士会人権擁護委員会にも救済を申し立て、公立大学職員組合連合会からの支援も得ている。

 おわりに

 二〇一五年、文科省通知「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」が教員養成系・人文社会科学系学部の「組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換」を打ち出し、大学人にショックを与えた。前述のように、都留文大での異常人事、学部・学科再編はその都留文大バージョンと言ってよい。ここでの最大の被害者は学習主体=学生たちである。
 国立大学では、安倍政権の教育再生実行会議「これからの大学教育等の在り方について」および文部科学省「国立大学改革プラン」(二〇一三年)などをとおして、大学の安倍政権の経済政策(アベノミクス)への従属と新自由主義的グローバル化が進んでいる。公立大学では、ローカルな諸事情に媒介されながら、輪をかけて野蛮な「改革」が進んでいる。「軍学共同」、新自由主義的グローバル化に対応した一七年度小中学校学習指導要領改訂(アクティヴエフーニングと道徳教科化など)の影響も及んできている。
 「改革」が強行された英国には、大学の「資格付与工場」化に反対し、人類・社会・自然への深い洞察に貢献する「博物館」的な大学をと訴える大学人の運動がある(S.Collini, What are Universities for ?, Penguin Books, 2012)。そして今年の総選挙では大学授業料無料化などの野党の公約に共鳴して学生・若者たちが政治変革の波を作り出した。
 私たち都留文大数員有志はローカルな野蛮さと闘い、本学が「大学ではないもの」に転落することへの抵抗運動を粘り強く広汎に展開したい。安倍政権下で大学が「大学ではないもの」に転落することに粘り強く立ち向かっている全国の大学人や本誌読者と連帯しながら。


2018年07月14日

明治学院大学、授業無断録音に抗議した教授の解雇は「無効」判決(東京地裁)

『アクセスジャーナル』(2018年7月12日)

明治学院大学―授業無断録音に抗議した教授の解雇は「無効」判決(東京地裁)

山岡俊介

 本紙で今年2月20日に取り上げた、明治学院大学教授が大学側に授業中に無断録音されていたことを知り抗議したところ、目を付けられ、その後、授業で使用していた教科書や授業内容がキリスト教を批判しているなどとして解雇されたことに端を発する「授業無断録音訴訟」につき、6月28日に一審判決が出ていた。
 もっとも、大手マスコミで報じたのは唯一、「東京新聞」のみのようだ。
 7月3日、原告の教授側が司法記者クラブで記者会見まで開いたにも拘わらずだ。
 この訴訟、いくら教授も雇われとはいえ、授業に関して自由に研究や発言する「学問の自由」(憲法23条)が保障されないようではとんでもないということで本紙は注目していた。
 何しろ、明治学院大学(東京都港区。経営は「明治学院」)では、授業の盗聴が慣例として行われているという。大学の権威、キリスト教主義を批判していないかなど授業を担う教授らをチェックするためで、授業で使う教科書や教材の検閲も同様だという。
 そんななか、授業中に無断録音されたことに倫理学担当の寄川条路教授(横写真。56)が抗議したところ、15年12月、大学から「厳重注意」に。それを告発したところ、16年10月、今度は懲戒解雇されたという。
 そこで寄川氏は東京地裁に地位確認の労働審判を申し立て。
 16年12月、地裁は解雇は無効として寄川氏の復職を提案したが、大学側が拒否したことから提訴して争われていた。
 東京地裁は6月28日、解雇権の濫用だとして、教授としての地位確認と賃金の支払いを命じた。
 もっとも、この一審判決、(1)無断録音に関与したと思われる教員の氏名を公開したこと、(2)教授会の要請に応じなかったことに寄川氏も落ち度があると認定。しかしながら、教授会の要請が原告の認識に反するような見解を表明させるものであるなど、原告にも酌むべき事情があるとして、解雇は相当でないと判断した。
 また、寄川氏は無断録音は学問の自由を侵害する違法なものなどとして、損害賠償請求も行っていたが、これに対し一審判決は、録音対象の大半は授業ではなくガイダンス部分だったとして、これを認めなかった。
 一方、大学側は「解雇は録音を告発したことが理由ではない」「(東京地裁判決は)録音の対象は、初回授業におけるガイダンスの部分で講義ではなく、大学の管理運営のための権限の範囲内において適法に行われた、と判示された」としている。
 こうした見解の相違から、大学側も原告側も控訴する方針。
 なお、寄川氏、代理人の太期宗平弁護士と共に記者会見に同席した小林節慶應大学名誉教授は、「学者は個性的で、それをお互いに許容し合って、歴史のなかで評価が定まって来るもの。個性を尊重しない多数決で押さえ込もうということが日本中で起きている」と懸念を表明した。
 学問の自由がどこまで守られるか、控訴審の行方にも要注目だ。


2018年07月09日

都留文科大学、ブラック大学(人権侵害大学)の先端をいく

都留文科大学事件一覧

■労働組合役職者に対する所属学科からの不当な排除事件
  2018年3月26日東京地裁に提訴(3人)
1.異を唱えた専任教員3名を所属学科から不当に排除 (三多摩法律事務所)
2.組合理由に排除は不当 都留文科大学教授ら提訴 (日本共産党山梨県委員会)

■根拠のないパワハラを理由とした授業・ゼミ担当外し事件
  2018年2月1日東京地裁に提訴 (1名)

■東京地裁無実確定後も授業を外し研究室などへの立ち入りを妨害する事件
 2018年7月4日東京地裁に提訴(1名)

■労働組合に所属の教員6名に対して違法な退職金減額事件
 東京地裁(2015年6月13日)二審高裁高裁判決(2015年10月28日),最高裁で大学側敗訴(2016年6月)

■上と同様の事件で,別の6人による提訴(不当に退職金を減額した事件)
  甲府地裁判決(2018年1月18日)約1250万円の支払い命令

この大学、かなり異常! 
80人が所属するこの大学で,少なくとも2年間に11名が不法な扱いで大学を提訴。

2018年07月08日

盗聴告発教授の解雇は「無効」、改めて問われる明学の体質

『日刊ゲンダイ』(2018年7月4日)

盗聴告発教授の解雇は「無効」 改めて問われる明学の体質

 明治学院大学が揺れている。大学当局が教授に無断で授業を録音し、それを告発した教授が解雇され、その無効を争った裁判の判決が先月28日に下された。東京地裁は「教授の解雇は無効である」と判断した。
 3日、原告の寄川条路教授と太期宗平弁護士、法学者の小林節慶大名誉教授が司法記者クラブで会見を行った。
 寄川教授の担当は倫理学。盗聴が行われたのは、2015年4月の授業で、300人の学生を相手に行われたものだった。
 寄川教授によると明治学院大学では大学組織を守るために、授業の盗聴が慣例として行われており、今回とは別の教員も授業を盗聴されて解雇されたという。
 大学に批判的な教員を選別して盗聴している可能性が高い。小林氏はこう言う。
「学者は個性的で、それをお互いに許容し合って、歴史のなかで評価が定まってくるもの。個性を尊重しない多数決で押さえ込もうということが日本中で起きている」
 大学側は判決について同日付の文書で、解雇理由は録音を告発したことではなく、原告の「不適切な言動」と説明。具体的な内容については、係争中の事柄につきコメントを控えるとし、控訴を予定している。
 学問の自由がどこまで守られるのか注目が集まる。


明治学院大、元教授の解雇「無効」 東京地裁判決 授業無断録音訴訟

■東京新聞(2018年7月4日)

明治学院大 元教授の解雇「無効」 東京地裁判決 授業無断録音訴訟

 授業を無断録音され、懲戒解雇されたのは不当として、明治学院大学(東京都港区)の元教授寄川条路(よりかわじょうじ)さん(56)が、教授としての地位確認などを求めた訴訟で、東京地裁(江原健志裁判長)は、同大を運営する学校法人明治学院に解雇無効を命じる判決を言い渡した。授業の録音については違法性を認めなかった。3日、記者会見した寄川さんは「無断録音は客観的事実なのに違法性を認めないのは筋が通らない」と述べた。判決言い渡しは6月28日。
 訴えなどによると、寄川さんは同大の教授だった2015年、授業で大学の運営方針を批判したことなどを理由に大学側から厳重注意を受けた。大学側が授業の録音を聞いて寄川さんの批判を知ったと認めたため、寄川さんは教授名を挙げて「録音テープを渡した人を探している」とテスト用紙の余白に印刷し、学生に情報提供を呼び掛けた。
 大学側は、その教授が録音にかかわった印象を与え、名誉毀損に当たるなどとして、16年に寄川さんを懲戒解雇。寄川さんは「授業の無断録音は表現の自由や学問の自由の侵害だ」と訴えていた。
 江原裁判長は判決理由で、授業での寄川さんの態度が不適切だったと認定したが、解雇は「客観的に合理的な理由を欠く」として無効と結論付けた。一方、録音した授業は年度初めのガイダンスで、講義ではなかったなどと判断、「大学の管理運営のための権限の範囲内」と指摘した。双方が控訴する方針。


2018年07月07日

地位確認求め都留文大提訴、男性教授

■山梨日日新聞(2018年7月5日)

 研究室などへの立ち入りを妨害されて研究や授業が行えないなどとして、都留文科大文学部の男性教授(53)が4日、同大と理事7人を相手取り、地位確認などを求める訴訟を東京地裁立川支部に起こした。

 訴状や原告代理人によると、都留文科大は2012年7月、教授が以前勤めていた大学の処分を躇まえ、教授を解雇。その後、教授は地位確認を求めて提訴し、14年11月に復職することなどで同大と和解した。しかし、和解後も「教授会に出席できず、研究や授業ができない状態が続いているとし、実際には復職が認められていないと主張している。

 訴訟では、①教授が国語学の指導を担当する地位にあることの確認②教授が同大の研究室などへの立ち入りや教授会への出席などを妨害しないこと③慰謝料などとして約665万円を支払うこと-などを求めている。

 提訴後、会見した教授は「嫌がらせもあり、大学の対応は異常だ。研究や学生指導など教員として仕事を全うさせてほしい」と訴えた。

 同大総務課は取材に「訴状の内容義認し、対応を検討していく」とした。教授の現状については「教授として在籍しているが担当する業務はない」と説明している。
(小池直輝、岡達也)(共同〉

都留文大教授、復職を求めて提訴

NHK News(2018年07月04日)

山梨県の都留文科大学の教授が、セクハラ行為があったとする疑いで解雇されたあと、裁判で、教授としての地位を認めることで和解したにも関わらず、業務が出来ない状態が続いているなどとして、大学側に業務が出来るよう復職などを求める訴えを東京地方裁判所立川支部に起こしました。

訴えを起こしたのは、山梨県都留市にある都留文科大学の53歳の男性教授です。
訴えによりますと、男性教授は以前務めていた大学でセクハラ行為があったとする疑いで6年前に解雇されましたが、その後、解雇をめぐる裁判で大学側が教授の地位や賃金の支払いを認めることなどで和解したということです。
しかし、賃金の支払いは行われているものの、復職が認められず、大学への立ち入りや教授会への出席なども出来ない状態が続いているということです。
これをうけて男性教授は、大学と大学の理事らに対し、教授として復職し業務を出来るようにすることや、慰謝料などとして900万円あまりの支払いを求める訴えを4日、東京地方裁判所立川支部に起こしました。
訴えについて都留文科大学は「訴状が届いていないので詳しい内容はコメントできません」としています。


都留文科大学に異を唱えた専任教員3名が所属学科から不当に排除された問題で大学を提訴

三多摩法律事務所
 ∟●都留文科大学に異を唱えた専任教員3名が所属学科から不当に排除された問題で大学を提訴(2018-06-20)

 公立大学法人都留文科大学は、2012年3月から違法に退職手当の一部を不払いにしており、2度にわたる訴訟では、いずれも教員の完全勝訴判決が確定しました。

 この問題や不合理な人事その他の不当労働行為等に対して、都留文科大学教職員組合(労働組合)は大学教職員の権利を守るために、法令に基づく健全な大学運営を求めて、裁判支援や労働委員会への救済手続きの申し立てなど、活発に活動しました。

 これに対し大学当局は、本年4月より「社会学科」を「地域社会学科」へ変更することに乗じて、他の教員は全員を引き続き「地域社会学科」へ配属したにもかかわらず、組合の書記長を経験し、学長の専断的な大学運営に対する意見を述べてきた3名の専任教員に対しては、意向確認すらせず、理由なく「地域社会学科」から排除しました。公的性格を有する公立大学で、このような露骨な不当労働行為が許されるはずもありません。

 この問題について、上記3名の専任教員が原告となり、「地域社会学科」に所属していることの地位確認を求めるとともに、学科から排除されるためにゼミ(演習)の担当を外される等によって被る精神的苦痛について慰謝料500万円の支払いを求める裁判を3月に提起しました。原告となった3名の権利を守るために尽力する所存です。ご支援をお願いいたします。


組合理由に排除は不当 都留文科大学教授ら提訴

日本共産党山梨県委員会(04/03/2018)

組合理由に排除は不当 都留文科大学教授ら提訴

 都留文科大学の教授2人と准教授1人の3氏が3月26日、教職員組合活動などを理由に改編される新学科に配属されないのは不当だとして専任教員としての地位確認と慰謝料など2130万円を大学に求めて東京地裁に提訴しました。

 訴状によれば、大学は4月から社会学科が地域社会学科に改編されるにあたり、社会学科の原告3人には意向を確認しないで新学科配属を認めず専任教員としてゼミを担当させないなどの決定をしたとしています。

 原告は、3人が労働組合の中心的役割を担うとともに、大学の自治や民主的運営、教員の権利実現のために積極的意見を述べてきたことによる報復的で不当労働行為だと主張しています。

 都留文科大学では学校教育法の改正により、学長の権限が強まり、2013年には退職手当規程の不利益変更が強行され、退職者6名による訴訟(2016年最高裁で大学側敗訴確定)などの労働争議が起こっています。

 記者会見で原告の教授は「教員や公務員を多く養成している大学で学長によるトップダウンが進められ、異論を指摘する人を排除する。日本の大学のあり方が問われている。日本社会にとって見過ごせない問題だという思いで提訴した」と語りました。


2018年07月06日

大学の方針を批判、明治学院大教授の「解雇」は無効…東京地裁

弁護士ドットコム
 ∟●大学の方針を批判、明治学院大教授の「解雇」は無効…東京地裁

明治学院大で、倫理学を担当していた寄川条路教授が、不当な解雇をされたとして、大学を運営する学校法人「明治学院」(東京都・港区)を相手取り、教授としての地位確認や賃金の支払いなどを求めていた訴訟で、東京地裁(江原健志裁判長)は、解雇は無効とする判決を下した。判決は6月28日付。

寄川さんと代理人弁護士らが7月3日、東京・霞が関の司法記者クラブで会見を開いて、明らかにした。寄川さんは「地位確認が認められて、ホッとしている」と心境を打ち明けた。一方で、大学側は、判決を不服として、控訴する方針を示している。

●解雇権濫用で「無効」に
判決によると、大学側は2015年4月、寄川さんに断りを入れず、授業のガイダンスなどを録音。さらに同年12月、寄川さんが、大学の方針を批判していたとして、厳重注意とした。寄川さんは授業の中で、特定の教員の名前をあげて、無断録音に関する情報提供を学生たちに呼びかけた。大学側は2016年10月、寄川さんを懲戒解雇とした。

東京地裁の江原裁判長は、原告に、教職員や学生に対する不適切な言動や、大学の方針に反する言動があったことは認めながらも、「職務上の義務に反したとまでいえない」「酌むべき事情があった」と判断。大学による解雇権の濫用だとして、教授としての地位確認と賃金の支払いを命じた。

寄川さんは、大学側による授業の録音行為を「教授の人格権」(学問の自由)を侵害するものとして、慰謝料をもとめていた。こちらについては、江原裁判長は「録音対象は、講義そのものではなく、ガイダンス部分だった」「録音は不当な目的や動機によるものではない」として棄却した。

明治学院大は、弁護士ドットコムニュースの取材に「解雇は録音を告発したことを理由にされたものではない」「(東京地裁で)録音の対象は、初回授業におけるガイダンスの部分であって講義そのものではなく、大学の管理運営のための権限の範囲内において適法におこなわれた、と判示された」などと回答した。今後、控訴する予定としている。


明治学院大学不当解雇事件、東京地裁・勝訴判決(2018年6月28日)主文

東京地裁・判決(2018年6月28日)主文

「明治学院大学事件」の判決(主文)

 大学当局が教授に無断で授業を録音し、無断録音を告発した教授を解雇した「明治学院大学事件」。学問の自由、教育の自由、表現の自由の根幹を揺るがした事件の判決が出ました。以下は判決の主文です。

1 原告が被告に対して労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は、原告に対し、33万2714円及びこれに対する平成28年10月23日から支払い済みまで年5%の割合による金員を支払え。
3 被告は、原告に対し、平成28年11月22日からこの判決の確定の日まで、毎月22日限り、69万8700円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済まで年5%の割合による金員を支払え。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを14分し、その5を原告の負担とし、その余は、被告の負担とする。