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2022年04月28日

ついに市職員が教授に就任 教員大量流出の下関市立大学 3年で半数が去る異常

長周新聞(2022年4月15日)
 ∟●ついに市職員が教授に就任 教員大量流出の下関市立大学 3年で半数が去る異常

 全国の大学関係者のなかで、ここ数年は「日本で一番崩壊している大学」と評されるようになっている下関市立大学では、市長や政治家、市幹部職員OBの介入による恣意的な人事や独裁的な大学運営に愛想を尽かせて、毎年のように教員が大量流出してきた。今年3月末にも同大学を支えてきたベテランたちを含む教員8人が去り、この3年間で合わせて25人(定年退職者を含む)がやめ、その数は50数人の教員集団の半数にものぼっている。「大学間競争にうち勝つための大学改革が必要だ。そのために“カレッジ(単科大学)からユニバーシティ(総合大学)に持って行きたい」といって、人事も教育内容も理事会で決定できるように定款を変更し、教員らがもの言えぬ体制をつくった結果、わずか3年で教員の半数が逃散していく事態となっている。本紙ではくり返し市立大学の実情について伝えてきたが、新年度の人事を巡ってまたまた物議を醸す事態が起こっていることから、その実態を記者たちで描いてみた。

 ここ数年は教員が次々と他大学に転出していく流れに歯止めがかからず、今年も3月末で8人(うち2人は定年退職)の教員がやめた。一部の定年退職者を除いて多くの教員が大学運営に嫌気がさして、逃げるように次の勤務先へ転出している。教員に対する恫喝や処分がくり返され、「もうやってらんない…」というのが本音だろう。「今のご時世に次の勤務先がすぐに決まるのは、市大には優秀な教員が多かったという証左だ」という声もあるが、多くが前途ある比較的若い教員か、長年、市立大学で研究と教育に従事してきたベテラン教員だ。屋台骨を支えてきたといっても過言でない教員も含まれている。

 一方で新規採用者は10人と発表された。うち4人は数学やデータサイエンス、経済学を専門とする教員で、山口大学大学院や帝京大学、防衛省海上自衛隊小月教育航空隊などから赴任した。そして残り六人が一年契約の「特命教授」「特別招聘教授」だ。驚くのは3月末まで事務局長で副学長も兼務していた砂原雅夫氏(市役所OB)が公共マネジメント学科の特命教授となっていることだ。また3月まで学長だった川波洋一氏が、学長ポストを追われて姿を消すのかと思いきや、大学院の特別招聘教授となった。お役御免と思われたところ、しっかりと下関市立大学のなかにポストを得ている。

 その他、九州大学の年配の関係者が3人と、クジラ研究者の市役所職員が早期退職して特命教授となっている。砂原と合わせると市役所職員が2人も大学教員デビューを果たしたことになる。これには、いったい何を学生たちに教えるというのだろうか? と市役所内部でも大半の人が疑問視している状態だ。「砂原さんは退職後も何年も年収1000万円以上の事務局長ポストにしがみついてきて、今度は特命教授として給料をもらうなんてずるい」という市職員だっている。「砂原教授」という響きにみんなが「はぁ?」と反応している。

 3月末で市大を去った教員のうち3人は周南公立大学(旧徳山大学)へと移っていった。周南公立大学は、この4月から周南市が設置者となり公立大学へと移行した。元々が私立の徳山大学だ。周南公立大学は、学費の値下げなど「公立ブランド」で、昨年は志願者が1・04倍だったものが、今年は11倍の13・47倍となった。大学が大きく変わった場合、初年度は「ご祝儀入学」があるとはよくいわれるものの、県内に市が設置した公立大学が2校となったことで大学間競争も激しくなると見られている。3人の転出は、まるで人材が引っこ抜かれたような光景にも見える。

 下関市立大学の2022年度の新体制を見てみると、理事長として市幹部職員OBの山村重彰氏(江島市長時代の副市長)、学長(副理事長)が韓昌完氏(前田市長が2019年に規程などを飛びこえて採用)、副学長が教授の杉浦勝章氏、そして事務局長が吉鹿雅彦氏(元市役所総務部長)となった。大きな変化は、韓氏が副学長から学長になり、川波氏が大学院に招聘教授として引き続き在籍することと、事務局長だった砂原氏が公共マネジメント学科の特命教授となったことだ。

 砂原氏は2016年3月に市役所を退職し、1年間は「天下り待機室」と呼ばれた退職OBたちの特別室にいた。2017年4月から下関市立大学の事務局長となり、2020年度からは新たに設けられた副学長ポストを兼務してきた。下関市立大学の事務局長ポストといえば、役所の天下りポストとしては水道局長などと並んで厚遇ポストになるわけだが、そこで5年間収入が保証されてきた関係だ。今後は「特命教授」として残るようで、年俸制の1年契約の教員で、年収約600万円といわれている。他の市退職者たちの嘱託としての給料に比べると、はるかに恵まれているといえる。

 昨年7月、韓昌完(ハン・チャンワン)氏が次期学長に選任されることが明らかになったさい、市役所界隈では「砂原事務局長が次期理事長ポストを狙っているのではないか」と話題になっていた。前田市長及び安倍派の面々が崇め奉るように連れてきた教授の採用をやってのけ、就任早々に理事に就任させ、副学長ポストをはじめとした権限を集中させ、定款変更については議会の承認をとり付けるために貢献したのが砂原氏で、市立大学改革の最大の功労者(執行部から見た)は「砂原以外にいない」からだ。

 ところが今年1月末に山口県労働委員会が、大学が設置した理事会規程など3つの規程について、大学の教員組合とのあいだでの「不当労働行為」と認定し、法人側に対して組合との団体交渉を誠実におこなうことなどを求めた。この3年間、「大学の自治」などあってないような恣意的人事などが公然とおこなわれてきたが、第三者の行政機関である労働委員会が、大学法人側を問題視する認定を下した。これは大学執行部側にとって「誤算」だったのかも知れない。

 砂原氏が事務局長や副学長をやめたのも、今回の労働委員会の認定に対する「詰め腹を切らされた」という見方もある。大学の関係者は「この2、3年で経験のある優秀な教員が、他大学に引っぱられて活躍されている。教員を次々やめさせたあげくに市役所OBの自分が教授になるとはめちゃくちゃだ。前田市長は“総合大学化”を公約に掲げてきたが、教員がいなくなっている実態を知っているのだろうか」と首を傾げていた。教員がいなくなるなら、自分たち(市職員)が教授になってしまえ! をやっているようにも見えて、この先、本当に下関市立大学は大丈夫なのか? と思われている。

公募審査も会議もなし 強まるトップダウン

 「学問の自由」「大学の自治」といわれるが、それは公平で客観的な人事方法にあらわれてきた。学長の判断で人事が決まること自体、学術的世界の常識とかけ離れているが、規程変更でそれさえも可能になった。また月に一度、定期的に開かれていた教授会も昨年度からまったく開かれなくなり、カリキュラムなど教育内容を論議する場に教員が関われないシステムがつくられており、大学内の情報が共有されない。これが大学関係者たちの認識形成を非常に困難にしている。

 また大学で教員採用するさいは公募が基本で、その人物の経歴や論文などについて教授会で審査し、意見聴取をするのが本来であればあたりまえだ。ところが市立大学の場合は、4月に入っても、新たに採用された人物が、どんな研究や業績を残してきたのか教員たちは何も知らない。通常、大学でカリキュラムがかわる場合は、学科会議や教務委員会で検討され教授会で報告されるが、市立大学では担当教員に対して昨年夏ごろに事後報告されただけだ。まるで教員はコマ扱いみたいになっている。トップダウンで物事が決められるように定款変更や規程変更がやられてきた結果、命令する側と命令されるコマみたいな関係となり、教員たちの創造性や能動性を発揮して文殊の知恵で大学を作り上げていくという風土が失われてしまった。定款変更や規程変更がもたらした権力一極集中の結果、必然的にそのようになっている。

 全国の大学関係者に下関市立大学の現状について意見を求めてみると、「文科省でさえ“大学の三つのポリシー”といって、“ディプロマ・ポリシー”“カリキュラム・ポリシー”“アドミッション・ポリシー”の三つの方針を明確にして大学運営をおこなえといっている。大学の方向性について教員はじめ全体で共有して進むということで、ある意味大学としてあたりまえのことだ。“大学の自治”の根底をなすものだ。市立大学の話を聞くと、“大学の自治”以前の問題であり、もう大学ではない」という意見もあった。

 そうしたなかで下関市は新学部設置に向けて予算を発表した。「データサイエンス学部」(2024年度設置)、「看護学部」(2025年度設置)のデータサイエンス棟建設経費と看護棟建設経費として、単年度で1億6920万円を計上しており、校舎建設に係る調査や設計業務委託などに予算を充てるとしている。2023、2024年度に本格的な建設が始まる予定だ。

 しかし、果たして前田晋太郎の願望通りに総合大学化とやらは動くのかだ。先ほどから指摘しているように、これまで市立大学を支えてきた教員が次々と流出するなかで、十分な教員の補充はなされていない。ポスドク問題も深刻なご時世なのに、あの小さな大学から3年で半数の教員が逃げていくというのは異常極まりない事態だ。はっきりいって、経済の単科大学としても大丈夫なのか? と心配されている有り様だ。特命教授はゼミは担当しないため、一人の教員が担当するゼミ定員がさらに増えると見られる。この2年間はコロナ禍でオンライン授業であったため、教員不足の実態は明るみになっていないが、対面授業が完全に再開されたときにどうなるのか、全体像が見えないなかで教員も心配している。

 これまで教員が足りない場合、退職教員にも幾つかコマを持ってもらったりもしていたが、この数年で退職した教員のなかには、すべての関係を断ち切って完全退職する人も少なくない。「もう関わりたくない」という感情があるのだろう。困っている大学を支えてやろうという気持ちにすらならないというのは考えさせられるものがある。ゼミについていえば、これまでも他大学に比べて下関市立大学の教員が受け持つ学生数は多い(教員数がそもそも少ないため)のが特徴だったが、こんなにやめていく教員が多くては、学生たちも卒業までに継続した学びができないことも心配されている。ただでさえ教員が少ないのに、そんな大学を支えてきた教員がさらに去って行き、苦肉の策で「特命教授」なる者をたくさん雇っているようなのだ。しまいには市退職者のただの公務員が「教授」を拝命する事態にまで行き着いている。それで果たして学問レベルが担保されるのかは疑問だ。

 総合大学化は前田晋太郎の公約で、目下、その開設を目指して市役所としては力を入れている。この春も市立大学の事務局に3人の職員が本庁から配置され、もともと同大学事務についてもベテラン組というから、あまりの崩壊っぷりに体制立て直しの力も加わっているのかも知れない。新しく事務局長ポストについた吉鹿氏(元市総務部長)については、「火中の栗を拾うようなもの…。よく引き受けたよな」と役所内でも驚きの声があったり、「今井さん(吉鹿氏の前の総務部長)なら蹴っているだろうな」とか反応はさまざまだ。この間、山村理事長と砂原事務局長との不和が生じていたり、それこそ教員の大量逃散が起きていたりするなかで、経済の単科大学どころか総合大学化を進めるというのだから大変な役回りであることは疑いない。同大学の運営について役所側で所管だった総務部長の新事務局長就任で、事態はどうなっていくのかは注目されている。

 ただ総合大学化といっても、現状ではデータサイエンス学部と看護学部くらいなわけだが、この教員確保が大きな難関のようだ。データサイエンスはいま持て囃されている分野で、全国的にも研究者の引っ張り合いがすごいという。年収3000万円くらい支払わないと来ないのではないか? という指摘もあるほどだ。福岡の大学ではベネッセの通信教育でデータサイエンス部門を補っている例もある。そのなかで下関市立大学にわざわざ優秀な教授が来てくれるのか? だ。また、来てくれたとして下関市立大学の悪弊というか、経営側の恫喝や制裁体質に付き合ってくれるというのだろうか? という疑問もある。

 総合大学化を否定するつもりなどないが、いずれにしてもまずは大学運営の体質を変えることが先なのではないか。現状でも3年で半数の教員がやめていくほど荒れているのに、規模をでかくして果たして管理しきれるのかだ。それよりも、大学として安定した状態をとり戻す事の方が課題として急がれるように思う。その桎梏になっているのは市長や役所OB介在によるトップダウン型の運営であり、教員をことのほか抑え込んでいる状態だろう。大学運営の問題点について異なる意見をのべたりすると裁判に訴えられたり、市議会議員に実態を訴えたりすると情報漏洩といって懲戒処分を受けたり、幾人もの教員が経験してきた。嫌気がさして三行半を突きつける気持ちもわかる。こうした現状や体質そのままに規模拡大といっても、それは無理があるというのが客観的に見た姿だろう。

 教員が足りないなら市役所退職者が「教授」をやってしまえ、というような大学に果たして行きたいと思うだろうか。というか、市退職者の天下りポストを年収1000万円ごえの理事長や事務局長だけでなく、ちゃっかり「特命教授」にまで広げたわけで、どれだけ厚かましいのだろうかと思う。「それはおこがましいので引き受けられない」と断るのが普通だろうが、一線をこえているように思えてならない。およそ学術探究とは真反対の世界がそこにはある。大学をいったいなんだと思っているのかだ。

 下関市立大学は江島が市長だった頃も、中尾が市長だった頃も市長界隈の私物化がいつも問題視されてきたが、前田晋太郎が市長になったもとで、とりわけ恣意的な教員採用がやられて以後に混乱に拍車がかかっているように思う。この3年で半数の教員がやめていったのも、引き金はそこだった。現状の混乱の責任の一端は前田晋太郎にある。

 歴史的にも「変な教員がいる」「教員がけしからん」といって散々教員叩きをやってきたが、終いには役所退職者自身が教員になってしまうという笑えない事態であろう。それこそ世間的には「変な教員がいる」になってもおかしくないだけに心配している。一般的にはどうして市職員だった人間が教授なの?という素朴な疑問は生じるわけで、下関市民に対しても丁寧な説明が必要であろう。六月議会あたりで本池涼子の一般質問としてとりあげてもよいかもしれない。どう教授としてふさわしいと認識しているのか、学術的にどのような実績があるというのか、大学としての公式見解を聞いてみたいものだ。

 勤労青年の学びの場として開設された下関市立大学だが、昔のような教員たちの結束や熱気が影を潜め、物言えば唇寒しで元気を失っているのが一番の心配点だ。大学に王様と奴隷みたいな主従関係が持ち込まれているような光景で、支えていたみんなが逃げていく。「大学改革」なるものも足がからまってしまい、全国的にも悪い意味で注目される大学になってしまった。崩壊した状況を立て直すためにすべきは、まず教員と経営側の信頼関係を築くことだろうが、理事会がなんでもかんでも独善的に決めていく体制を改めることだろう。現場の教員の創意性ややる気に依拠しなければ展望はないのではないか。市議会が可決した定款変更を機に今日の混乱がもたらされているわけで、是正しなければいつまでも落ち着きなどとり戻せないように思う。


2022年04月09日

理化学研究所は約600人の研究系職員の雇止めをやめてください!

■理研非正規雇用問題解決ネットワーク
 ∟●進捗状況のご報告と更なるご支援のお願い

2022年4月8日

進捗状況のご報告と更なるご支援のお願い

キャンペーンの進捗状況

ご賛同者の皆さま

3月7日、理化学研究所 松本 紘理事長宛てに、皆さまの署名(約20,000筆)と紙での署名(約10,000筆)をもって、以下の要請を致しました。
 1.2023年3月末の約600人の研究系職員の雇止めの撤回
 2.無期転換ルールの適用を意図的に避けるための雇用上限の撤廃

しかしながら、3月23日付け松本理事長からの回答は、要請には全く応じないというものでした。

そこで、3月25日午前に、末松信介文部科学大臣、後藤茂之厚生労働大臣に、理化学研究所に対して、
 1.約600人の研究系職員の雇止めの撤回、
 2.労働契約法の趣旨に則って雇用上限を撤廃すること
を求めるよう要請しました。

さらに、3月25日午後、上記の内容について記者会見を行い、このような雇止めが理化学研究所の研究開発力の低下を招き、日本の研究力低下に拍車をかけることになることを訴えました。
記者会見以後、多くの報道機関がこの問題を取り上げております。

このような状況下で、4月1日に、五神 真 氏が理化学研究所の新理事長に就任致しました。我々理研ネットでは3月7日以降に寄せられた署名を添え、4月11日に再度、五神理事長に対して雇止めの撤回を要請致します。

理化学研究所の研究開発力を低下させる約600人の研究系職員の雇止めと、雇用上限の撤廃を求めて、引き続き署名活動を継続いたします。

皆さまの、さらなるご支援をお願いいたします。

尚、進捗状況のご報告が遅れたこと、ご容赦ください。

2022年04月08日

理化学研究所は約600人の研究系職員の雇止めをやめてください! 研究の発展のために雇用上限の撤廃を求めます。

■理研非正規雇用問題解決ネットワーク
 ∟●理化学研究所は約600人の研究系職員の雇止めをやめてください!

理化学研究所は約600人の研究系職員の雇止めをやめてください!

研究の発展のために雇用上限の撤廃を求めます。

発信者:理研非正規雇用問題解決ネットワーク 宛先:理化学研究所理事長

理化学研究所は、2023年3月末に約600人の研究系職員の雇止めを強行しようとしています。

コロナ禍のもとで雇止め・解雇の嵐が吹き荒れる中で、公的研究機関が大量雇止めを強行するなど絶対に許されません。

2013年の労働契約法18条の改正などにより、研究者は有期契約が10年を超えた場合、労働者本人の申し出があれば無期雇用契約に転換することが使用者に義務付けられました(無期転換ルール)。2016年、理研は不当にも一方的に就業規則を変更して、無期転換権を与えないために10年の雇用上限を研究者に押し付ける不利益変更を強行しました。

このため2023年3月末に約300人の研究者が雇止めになります。また、そこに含まれる研究室・研究チームの責任者が雇止めになることで、研究室・研究チームそのものが廃止となり、そこで働く研究系職員も雇止めとなります。その結果、合計で約600人の研究系職員が雇止めとなります。

厚生労働省は「無期転換ルールの適用を意図的に避ける目的で雇止めを行うことは、労働契約法の趣旨に照らして望ましくない」と国会でくり返し答弁しています。また、就業規則で労働者に不利益変更をする場合には合理的な理由がない限り認められないことが、最高裁の判例などで原則となっています。

10年の雇用上限を理由とする約300名の雇止めは、労働契約法の趣旨に反する不利益変更によるものです。これを理由に雇止めする合理的な根拠はなく、雇止めは明白な違法行為です。

約4800人の理研職員の8分の1(約600人)が一度に職を失うことは、理研の研究活動に支障が出ることは明らかです。

理研で新元素113番「ニホニウム」を発見した森田浩介さんは「当時の理研がこのような雇用制度であったとしたら、理研の研究者は自由で創造的に長期的な研究テーマに全く取り組むことができずに、私はニホニウムを発見することが出来なかった」と語っています。

 私たち理研非正規雇用問題解決ネットワークは、理研の非正規雇用問題を解決するために集まった、理研本部のある和光市の市民、労働組合、理化学研究所労働組合の役員などによる有志グループです。

趣旨をご理解のうえ、署名活動にご協力お願いします。

【要請内容】

理化学研究所は、2023年3月末の約600人の研究系職員の雇止めを撤回してください。無期転換ルールの適用を意図的に避けるための雇用上限は撤廃してください。

以上

2022年04月05日

ネット署名、「稼げる大学」法案(国際卓越研究大学法案)に反対します!大学における多様な学びの機会を保障することを求めます!

内閣総理大臣  岸田文雄 殿
財務大臣 鈴木俊一 殿
文部科学大臣 末松信介 殿

「選択と集中」の弊害:大学の疲弊と研究者の焦燥を生む
法案の問題:卓越大学は政治的に選び出され、大学間格差を拡大する


 岸田内閣は、通常国会に「国際卓越研究大学」法案(国際卓越研究大学の研究及び研究成果の活用のための体制の強化に関する法律案)を上程しました。かねて内閣府総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)が打ち出してきた「稼げる大学」というコンセプトを具体化したこの法案は、国・公・私立大学の内の「数校程度」を選んで国際卓越研究大学として認定し、10兆円規模の大学ファンドの運用益を年「数百億円」単位で助成し、さらに「授業料の柔軟化」や、大学所有資産の貸付などにかかわる規制を緩和することで大学の財務体質を強化するという内容です。認定した大学には年3%程度の事業規模の成長を求め、これを達成できない場合に認定を取り消すこともあり得るということです(「世界と伍する研究大学の在り方について最終まとめ」2022年2月1日)。

【「選択と集中」の弊害】

 わたしたちは、「選択と集中」の弊害をさらに助長する恐れの強いこの法案に反対し、国会における慎重審議を求めます。なぜなら、政府主導の「選択と集中」は財政配分と大学評価を直結することで大学を政府の目指す方向へと誘導する仕掛けとなってきただけでなく、「選択と集中」こそが大学の「研究力」を低下させてきた根本原因であるからです。教育も研究も人間が行うものである以上、数値指標による安直な評価は現場を疲弊させ、短期間に成果を挙げられないことへの恐れから挑戦的試みを困難とし、時代の常識を超えた真に革新的な発見とイノベーションの誕生を妨げます。

 およそ20年近く前から、政府は、大学財政を全体として削減しながら重点的な配分を図る「選択と集中」を進めてきました。これにより、本来ならば有為の若手研究者に対して開かれるべき常勤の教員ポストが削られてきました。たとえ「競争的資金」が獲得できだとしても「任期あり、退職金なし」の非常勤ポストしかない状況で、大学院博士課程への進学者は2003年をピークにほぼ一貫して減少傾向にあります。職員組織についても「コストカット」のために非正規化と派遣職員への置き換えが進み、業務の外注化が図られることで「ベテラン職員」として成長する機会を奪われてきました。政府の意向に忠実な学長や理事長による独裁的なガバナンス体制が多くの大学でつくられ、教職員や学生・院生の不満を権威主義的に抑えつけ、政府・財界と持ちつ持たれつの関係で大学を「私物化」してきました。

【法案の問題点】

 今回、内閣が国会に提出した法案は、こうした「選択と集中」の原理を見直すどころか、以下の点でむしろこれをいっそう強化しようとするものです。

 第一に、大学の研究と研究成果の活用にかかわる「基本方針」の策定、国際卓越研究大学の認定などに際して、CSTIの意見聴取を文科大臣に義務づけているほか、事業計画の認可に際しては内閣総理大臣・財務大臣との協議も必須としています。内閣総理大臣を議長とするCSTIの議員14名の内の6名は閣僚、7名は内閣総理大臣の指定した有識者議員であり、助成すべき大学の選択に際して政治判断が優越しやすい仕組みとなっています。現状では「関係機関の長」として日本学術会議の会長が入っていますが、菅内閣による学術会議会員任命拒否、岸田内閣によるその追認を想起するならば、学術会議会長の発言力は限定されてしまっていると考えざるをえません。
 第二に、国際卓越研究大学の事業計画は、その進捗状況を文部科学大臣から定期的にモニタリングされることになっています。事業規模の年3%成長という数値は欧米主要大学の「平均成長率」から割り出された数値に過ぎないにもかかわらず、この年3%成長という数値が助成の条件として一人歩きを始める恐れがあります。しばしば引き合いに出されるアメリカの大学では、たとえ奨学金制度が充実しているとしても、500万円を軽く越える授業料が設定されているという事実も軽視されています。認定を受けた大学の側では授業料の値上げを図り、「稼げる」研究分野を優遇する一方、「稼げない」とみなした研究分野や研究者を淘汰することでしょう。
 第三に、今回の法案は附則において「経営管理体制に係る改革」を早急に実施せよと定めているにもかかわらず、このガナバンス改革の内実を定めた法案を政府はいまだ上程していません。CSTIの資料に見る限り、国立大学の場合には学外者を中心とする「合議体」、公立・私立大学の場合にはやはり学外者を中心とする理事会などに大きな権限を持たせようとしていることが見てとれますが、この最高意思決定機関の構成員をどのように選出するのかすら曖昧なままであり、これまで以上に大学の「私物化」を促す恐れがあります。前のめりの経営戦略が損失をもたらした場合、誰がどのように経営責任をとるのかも定めていません。大多数の大学の基盤的経費の総額を超える「数百億円」というニンジンをちらつかせながら、その対価として求める「改革」については曖昧なままに後出しする手法は「詐欺的」と称しても過言ではありません。

【法案への対案】

 国際卓越研究大学は、「令和版帝国大学」創出プランと揶揄されることもあるように、大学間の格差、地域間の格差を著しく拡大するものです。CSTIは「地域中核・特色ある研究大学総合振興パッケージ」も打ち出していますが、「令和版帝国大学」以外では地域経済に密着した実学を学べばよいという機能分化は地元で学びたい学生の選択肢を狭め、いっそうの大都市集中を促します。そればかりか、「国際卓越研究大学」に認定された大学についても、意思決定・執行を内閣府主導の科学技術・イノベーション体制に従属させてしまいます。制度発足当初はたとえ「数校程度」に対象を限定していたとしても、これをモデルとしてあらゆる大学を「稼げる大学」に仕立てる近未来が待ち受けていると予想せざるをえません。この近未来の大学においてよりよい社会を形成するのに必須な批判能力は失われ、「学問の自由」「大学の自治」は完全なる死語となることでしょう。

 真の発見とイノベーションを育むためには、わたしたちの予想を超えたアイデアを持つ若く有能な研究者が任期を気にせずに研究に没頭できるようなポストを、できるだけ広い基幹分野に、できるだけ多く用意すべきです。そのためにも、大学評価と財政配分を切り離し、大学評価とこれに基づいた教育・研究の質保障は、専門性と自律性を備えた大学基準協会、日本学術会議、個別学会などに委ねるべきです。教職員数・学生数などに基づいて基盤的経費(国立大学法人運営費交付金、公立大学法人の運営費交付金、私立大学経常費補助金)を安定的・継続的に供給することにより大学で学ぶ権利をひとしく保障し、大学の特色、専門分野の多様性、多彩な着想の揺藍を維持すべきです。

 以上の理由から、わたしたちは「稼げる大学」法案に反対し、慎重の上にも慎重な審議を求め、かつこの機会に「選択と集中」の原理を抜本的に見直し、未来ある若者たちにとって望ましい高等教育体制を実現することを求めます。

2022年3月31日

「稼げる大学」法案の廃案を求める大学横断ネットワーク

・呼びかけ人(4月1日現在、あいうえお順)

石原俊(明治学院大学教員)、指宿昭一(弁護士)、遠藤泰弘(松山大学教員)、大河内泰樹(京都大学教員)、岡野勉(新潟大学教員)、河かおる(滋賀県立大学教員)、神戸輝夫(大分大学名誉教授)、鬼界彰夫(筑波大学名誉教授)、木戸衛一(大阪大学教員)、喜多加実代(福岡教育大学教員)、河野真太郎(専修大学教員)、駒込武(京都大学教員)、鈴木泉(東京大学教員)、関耕平(島根大学教員)、宗川吉汪(京都工芸繊維大学名誉教授)、竹永三男(島根大学名誉教授)、田中純(東京大学教員)、戸田聡(北海道大学教員)、二宮孝富(大分大学名誉教授)、広川禎秀(大阪市立大学名誉教授)、古川雄嗣(北海道教育大学旭川校教員)、細見和之(京都大学教員)、松本尚(奈良女子大学教員)、光本滋(北海道大学教員)、吉田修(広島大学教員)、吉原ゆかり(筑波大学教員)、米田俊彦(お茶の水女子大学教員)

・呼びかけ団体(4月3日現在、あいうえお順)

大分大学のガバナンスを考える市民の会、自由と平和のための京大有志の会、大学の自治の恢復を求める会、筑波大学の学長選考を考える会、ハラスメント防止学生団体EquAll


理研600人雇い止めがネットで話題、中国への相次ぐ人材流出に政府危機感 !?

SAKISIRU(2022年4月5日)

国立理化学研究所(理研)の研究者らの“雇い止め”がネットで話題になっている。きっかけは理化学研究所労働組合(理研労)からの問題提起。労組は3月25日、厚生労働省に要望書を提出するとともに記者会見を開催。2022年度末に600人の研究者が雇い止めになる可能性があると指摘した。

理研労はツイッターでも精力的に発信。会見に先立ってこの雇い止めの問題点を次々とツイートして注目を集めている。

労組「成果が出ていないから雇い止めではない」

「なぜこれほどの大量雇止めが起きようとしているか」と題したツイートでは、「予算がないから雇止めではない」「成果が出ていないから雇止めではない」「研究者は冷遇されても文句など言わない文化」「目先の研究費を獲得するためには、これまでの人材・成果を大切にするよりそのとき限りの人材を揃える方が都合が良い」などと、理研が抱える構造的な問題点を指摘した。

さらに、今回の雇い止めで失われるものとして、「大量の世界最先端の現存研究設備・施設」「多くの研究人材」「プライスレスの研究成果」を挙げ、結果的に「莫大なお金(税金)、研究成果、人材、時間のムダ使い」となってしまうなどとツイートした。

この件を報じたNHKによると、理研は「研究所の社会的な使命や役割を踏まえつつ、労働組合との協議を含め、職員との対話を重ねてまいります」とコメントしているという。

中国人技術者「中国は日本人研究者のおかげで大国」

理研の雇いい止めについては、3日にNEWSポストセブンが配信した記事がネット上で話題となり、多くの人の知るところとなった。

この記事では、俳人で著作家の日野百草氏が中国人ITエンジニアに、日本の研究者や技術者がおかれた環境をどう見ているのかをインタビューしてまとめた。記事で、中国人ITエンジニアは「中国は日本人研究者や技術者のおかげで大国です。本当にありがたい話です」と皮肉交じりに言い放っていた。

記事を執筆した日野氏は中国人技術者のこの言葉に、「これまでも自動車、精密機械、重電、通信、鉄道、鉄鋼、農業、エンタメ、ありとあらゆる技術や研究は中国に渡った」と振り返っている。

中国が日本人を引き抜いているというより、日本側の問題を指摘する見方もある。病理専門医で科学・医療ジャーナリストの榎木英介氏は「Yahoo!ニュース個人」で、中国に渡る日本人研究者が多い理由について、「高給により研究者が次々と中国に引き抜かれているといった理由より、日本側がむしろ積極的に追い出しているというのが実情だ」との見方を示している。

日本でも研究者の価値が見直されつつある?

ただ、理研も理研労が訴えているような有期雇用による弊害を認識していないわけではないようだ。理研が2018年に、2024年度までに任期なしの無期雇用研究者の割合を現状の1割から4割に高める方針を打ち出しているのがその証左だ。

また、この4月から東京大学元総長の五神真氏が理研の新理事長に就任した。五神氏は、若手教員の「無期雇用化促進制度」や「卓越研究員制度」などを打ち出し、総長就任前8年間で16ポイントも増えていた東大の有期雇用教員割合を減少に転じさせるなど、卓越した手腕を発揮した。五神氏を新理事長に据えたのも理研、ひいては日本政府の危機感の表れだと見ることができる。

そんな中、国内に11カ所の研究拠点を持ち、約2300名の研究者が所属する「国立研究開発法人産業技術総合研究所(産総研)」が、すべての研究者を無期雇用に切り替えたことが分かった。現在、無期雇用の新たな研究者も募集している。これも、日本政府の危機感の表れだろう。

遅まきながら、日本でもようやく研究者の価値が見直されようとしつつあるのだろうか。まずは、600人に上る理研の雇い止め研究者が、どのような処遇となるのかを注目したい。