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2022年04月28日

ついに市職員が教授に就任 教員大量流出の下関市立大学 3年で半数が去る異常

長周新聞(2022年4月15日)
 ∟●ついに市職員が教授に就任 教員大量流出の下関市立大学 3年で半数が去る異常

 全国の大学関係者のなかで、ここ数年は「日本で一番崩壊している大学」と評されるようになっている下関市立大学では、市長や政治家、市幹部職員OBの介入による恣意的な人事や独裁的な大学運営に愛想を尽かせて、毎年のように教員が大量流出してきた。今年3月末にも同大学を支えてきたベテランたちを含む教員8人が去り、この3年間で合わせて25人(定年退職者を含む)がやめ、その数は50数人の教員集団の半数にものぼっている。「大学間競争にうち勝つための大学改革が必要だ。そのために“カレッジ(単科大学)からユニバーシティ(総合大学)に持って行きたい」といって、人事も教育内容も理事会で決定できるように定款を変更し、教員らがもの言えぬ体制をつくった結果、わずか3年で教員の半数が逃散していく事態となっている。本紙ではくり返し市立大学の実情について伝えてきたが、新年度の人事を巡ってまたまた物議を醸す事態が起こっていることから、その実態を記者たちで描いてみた。

 ここ数年は教員が次々と他大学に転出していく流れに歯止めがかからず、今年も3月末で8人(うち2人は定年退職)の教員がやめた。一部の定年退職者を除いて多くの教員が大学運営に嫌気がさして、逃げるように次の勤務先へ転出している。教員に対する恫喝や処分がくり返され、「もうやってらんない…」というのが本音だろう。「今のご時世に次の勤務先がすぐに決まるのは、市大には優秀な教員が多かったという証左だ」という声もあるが、多くが前途ある比較的若い教員か、長年、市立大学で研究と教育に従事してきたベテラン教員だ。屋台骨を支えてきたといっても過言でない教員も含まれている。

 一方で新規採用者は10人と発表された。うち4人は数学やデータサイエンス、経済学を専門とする教員で、山口大学大学院や帝京大学、防衛省海上自衛隊小月教育航空隊などから赴任した。そして残り六人が一年契約の「特命教授」「特別招聘教授」だ。驚くのは3月末まで事務局長で副学長も兼務していた砂原雅夫氏(市役所OB)が公共マネジメント学科の特命教授となっていることだ。また3月まで学長だった川波洋一氏が、学長ポストを追われて姿を消すのかと思いきや、大学院の特別招聘教授となった。お役御免と思われたところ、しっかりと下関市立大学のなかにポストを得ている。

 その他、九州大学の年配の関係者が3人と、クジラ研究者の市役所職員が早期退職して特命教授となっている。砂原と合わせると市役所職員が2人も大学教員デビューを果たしたことになる。これには、いったい何を学生たちに教えるというのだろうか? と市役所内部でも大半の人が疑問視している状態だ。「砂原さんは退職後も何年も年収1000万円以上の事務局長ポストにしがみついてきて、今度は特命教授として給料をもらうなんてずるい」という市職員だっている。「砂原教授」という響きにみんなが「はぁ?」と反応している。

 3月末で市大を去った教員のうち3人は周南公立大学(旧徳山大学)へと移っていった。周南公立大学は、この4月から周南市が設置者となり公立大学へと移行した。元々が私立の徳山大学だ。周南公立大学は、学費の値下げなど「公立ブランド」で、昨年は志願者が1・04倍だったものが、今年は11倍の13・47倍となった。大学が大きく変わった場合、初年度は「ご祝儀入学」があるとはよくいわれるものの、県内に市が設置した公立大学が2校となったことで大学間競争も激しくなると見られている。3人の転出は、まるで人材が引っこ抜かれたような光景にも見える。

 下関市立大学の2022年度の新体制を見てみると、理事長として市幹部職員OBの山村重彰氏(江島市長時代の副市長)、学長(副理事長)が韓昌完氏(前田市長が2019年に規程などを飛びこえて採用)、副学長が教授の杉浦勝章氏、そして事務局長が吉鹿雅彦氏(元市役所総務部長)となった。大きな変化は、韓氏が副学長から学長になり、川波氏が大学院に招聘教授として引き続き在籍することと、事務局長だった砂原氏が公共マネジメント学科の特命教授となったことだ。

 砂原氏は2016年3月に市役所を退職し、1年間は「天下り待機室」と呼ばれた退職OBたちの特別室にいた。2017年4月から下関市立大学の事務局長となり、2020年度からは新たに設けられた副学長ポストを兼務してきた。下関市立大学の事務局長ポストといえば、役所の天下りポストとしては水道局長などと並んで厚遇ポストになるわけだが、そこで5年間収入が保証されてきた関係だ。今後は「特命教授」として残るようで、年俸制の1年契約の教員で、年収約600万円といわれている。他の市退職者たちの嘱託としての給料に比べると、はるかに恵まれているといえる。

 昨年7月、韓昌完(ハン・チャンワン)氏が次期学長に選任されることが明らかになったさい、市役所界隈では「砂原事務局長が次期理事長ポストを狙っているのではないか」と話題になっていた。前田市長及び安倍派の面々が崇め奉るように連れてきた教授の採用をやってのけ、就任早々に理事に就任させ、副学長ポストをはじめとした権限を集中させ、定款変更については議会の承認をとり付けるために貢献したのが砂原氏で、市立大学改革の最大の功労者(執行部から見た)は「砂原以外にいない」からだ。

 ところが今年1月末に山口県労働委員会が、大学が設置した理事会規程など3つの規程について、大学の教員組合とのあいだでの「不当労働行為」と認定し、法人側に対して組合との団体交渉を誠実におこなうことなどを求めた。この3年間、「大学の自治」などあってないような恣意的人事などが公然とおこなわれてきたが、第三者の行政機関である労働委員会が、大学法人側を問題視する認定を下した。これは大学執行部側にとって「誤算」だったのかも知れない。

 砂原氏が事務局長や副学長をやめたのも、今回の労働委員会の認定に対する「詰め腹を切らされた」という見方もある。大学の関係者は「この2、3年で経験のある優秀な教員が、他大学に引っぱられて活躍されている。教員を次々やめさせたあげくに市役所OBの自分が教授になるとはめちゃくちゃだ。前田市長は“総合大学化”を公約に掲げてきたが、教員がいなくなっている実態を知っているのだろうか」と首を傾げていた。教員がいなくなるなら、自分たち(市職員)が教授になってしまえ! をやっているようにも見えて、この先、本当に下関市立大学は大丈夫なのか? と思われている。

公募審査も会議もなし 強まるトップダウン

 「学問の自由」「大学の自治」といわれるが、それは公平で客観的な人事方法にあらわれてきた。学長の判断で人事が決まること自体、学術的世界の常識とかけ離れているが、規程変更でそれさえも可能になった。また月に一度、定期的に開かれていた教授会も昨年度からまったく開かれなくなり、カリキュラムなど教育内容を論議する場に教員が関われないシステムがつくられており、大学内の情報が共有されない。これが大学関係者たちの認識形成を非常に困難にしている。

 また大学で教員採用するさいは公募が基本で、その人物の経歴や論文などについて教授会で審査し、意見聴取をするのが本来であればあたりまえだ。ところが市立大学の場合は、4月に入っても、新たに採用された人物が、どんな研究や業績を残してきたのか教員たちは何も知らない。通常、大学でカリキュラムがかわる場合は、学科会議や教務委員会で検討され教授会で報告されるが、市立大学では担当教員に対して昨年夏ごろに事後報告されただけだ。まるで教員はコマ扱いみたいになっている。トップダウンで物事が決められるように定款変更や規程変更がやられてきた結果、命令する側と命令されるコマみたいな関係となり、教員たちの創造性や能動性を発揮して文殊の知恵で大学を作り上げていくという風土が失われてしまった。定款変更や規程変更がもたらした権力一極集中の結果、必然的にそのようになっている。

 全国の大学関係者に下関市立大学の現状について意見を求めてみると、「文科省でさえ“大学の三つのポリシー”といって、“ディプロマ・ポリシー”“カリキュラム・ポリシー”“アドミッション・ポリシー”の三つの方針を明確にして大学運営をおこなえといっている。大学の方向性について教員はじめ全体で共有して進むということで、ある意味大学としてあたりまえのことだ。“大学の自治”の根底をなすものだ。市立大学の話を聞くと、“大学の自治”以前の問題であり、もう大学ではない」という意見もあった。

 そうしたなかで下関市は新学部設置に向けて予算を発表した。「データサイエンス学部」(2024年度設置)、「看護学部」(2025年度設置)のデータサイエンス棟建設経費と看護棟建設経費として、単年度で1億6920万円を計上しており、校舎建設に係る調査や設計業務委託などに予算を充てるとしている。2023、2024年度に本格的な建設が始まる予定だ。

 しかし、果たして前田晋太郎の願望通りに総合大学化とやらは動くのかだ。先ほどから指摘しているように、これまで市立大学を支えてきた教員が次々と流出するなかで、十分な教員の補充はなされていない。ポスドク問題も深刻なご時世なのに、あの小さな大学から3年で半数の教員が逃げていくというのは異常極まりない事態だ。はっきりいって、経済の単科大学としても大丈夫なのか? と心配されている有り様だ。特命教授はゼミは担当しないため、一人の教員が担当するゼミ定員がさらに増えると見られる。この2年間はコロナ禍でオンライン授業であったため、教員不足の実態は明るみになっていないが、対面授業が完全に再開されたときにどうなるのか、全体像が見えないなかで教員も心配している。

 これまで教員が足りない場合、退職教員にも幾つかコマを持ってもらったりもしていたが、この数年で退職した教員のなかには、すべての関係を断ち切って完全退職する人も少なくない。「もう関わりたくない」という感情があるのだろう。困っている大学を支えてやろうという気持ちにすらならないというのは考えさせられるものがある。ゼミについていえば、これまでも他大学に比べて下関市立大学の教員が受け持つ学生数は多い(教員数がそもそも少ないため)のが特徴だったが、こんなにやめていく教員が多くては、学生たちも卒業までに継続した学びができないことも心配されている。ただでさえ教員が少ないのに、そんな大学を支えてきた教員がさらに去って行き、苦肉の策で「特命教授」なる者をたくさん雇っているようなのだ。しまいには市退職者のただの公務員が「教授」を拝命する事態にまで行き着いている。それで果たして学問レベルが担保されるのかは疑問だ。

 総合大学化は前田晋太郎の公約で、目下、その開設を目指して市役所としては力を入れている。この春も市立大学の事務局に3人の職員が本庁から配置され、もともと同大学事務についてもベテラン組というから、あまりの崩壊っぷりに体制立て直しの力も加わっているのかも知れない。新しく事務局長ポストについた吉鹿氏(元市総務部長)については、「火中の栗を拾うようなもの…。よく引き受けたよな」と役所内でも驚きの声があったり、「今井さん(吉鹿氏の前の総務部長)なら蹴っているだろうな」とか反応はさまざまだ。この間、山村理事長と砂原事務局長との不和が生じていたり、それこそ教員の大量逃散が起きていたりするなかで、経済の単科大学どころか総合大学化を進めるというのだから大変な役回りであることは疑いない。同大学の運営について役所側で所管だった総務部長の新事務局長就任で、事態はどうなっていくのかは注目されている。

 ただ総合大学化といっても、現状ではデータサイエンス学部と看護学部くらいなわけだが、この教員確保が大きな難関のようだ。データサイエンスはいま持て囃されている分野で、全国的にも研究者の引っ張り合いがすごいという。年収3000万円くらい支払わないと来ないのではないか? という指摘もあるほどだ。福岡の大学ではベネッセの通信教育でデータサイエンス部門を補っている例もある。そのなかで下関市立大学にわざわざ優秀な教授が来てくれるのか? だ。また、来てくれたとして下関市立大学の悪弊というか、経営側の恫喝や制裁体質に付き合ってくれるというのだろうか? という疑問もある。

 総合大学化を否定するつもりなどないが、いずれにしてもまずは大学運営の体質を変えることが先なのではないか。現状でも3年で半数の教員がやめていくほど荒れているのに、規模をでかくして果たして管理しきれるのかだ。それよりも、大学として安定した状態をとり戻す事の方が課題として急がれるように思う。その桎梏になっているのは市長や役所OB介在によるトップダウン型の運営であり、教員をことのほか抑え込んでいる状態だろう。大学運営の問題点について異なる意見をのべたりすると裁判に訴えられたり、市議会議員に実態を訴えたりすると情報漏洩といって懲戒処分を受けたり、幾人もの教員が経験してきた。嫌気がさして三行半を突きつける気持ちもわかる。こうした現状や体質そのままに規模拡大といっても、それは無理があるというのが客観的に見た姿だろう。

 教員が足りないなら市役所退職者が「教授」をやってしまえ、というような大学に果たして行きたいと思うだろうか。というか、市退職者の天下りポストを年収1000万円ごえの理事長や事務局長だけでなく、ちゃっかり「特命教授」にまで広げたわけで、どれだけ厚かましいのだろうかと思う。「それはおこがましいので引き受けられない」と断るのが普通だろうが、一線をこえているように思えてならない。およそ学術探究とは真反対の世界がそこにはある。大学をいったいなんだと思っているのかだ。

 下関市立大学は江島が市長だった頃も、中尾が市長だった頃も市長界隈の私物化がいつも問題視されてきたが、前田晋太郎が市長になったもとで、とりわけ恣意的な教員採用がやられて以後に混乱に拍車がかかっているように思う。この3年で半数の教員がやめていったのも、引き金はそこだった。現状の混乱の責任の一端は前田晋太郎にある。

 歴史的にも「変な教員がいる」「教員がけしからん」といって散々教員叩きをやってきたが、終いには役所退職者自身が教員になってしまうという笑えない事態であろう。それこそ世間的には「変な教員がいる」になってもおかしくないだけに心配している。一般的にはどうして市職員だった人間が教授なの?という素朴な疑問は生じるわけで、下関市民に対しても丁寧な説明が必要であろう。六月議会あたりで本池涼子の一般質問としてとりあげてもよいかもしれない。どう教授としてふさわしいと認識しているのか、学術的にどのような実績があるというのか、大学としての公式見解を聞いてみたいものだ。

 勤労青年の学びの場として開設された下関市立大学だが、昔のような教員たちの結束や熱気が影を潜め、物言えば唇寒しで元気を失っているのが一番の心配点だ。大学に王様と奴隷みたいな主従関係が持ち込まれているような光景で、支えていたみんなが逃げていく。「大学改革」なるものも足がからまってしまい、全国的にも悪い意味で注目される大学になってしまった。崩壊した状況を立て直すためにすべきは、まず教員と経営側の信頼関係を築くことだろうが、理事会がなんでもかんでも独善的に決めていく体制を改めることだろう。現場の教員の創意性ややる気に依拠しなければ展望はないのではないか。市議会が可決した定款変更を機に今日の混乱がもたらされているわけで、是正しなければいつまでも落ち着きなどとり戻せないように思う。


2021年10月18日

下関市立大、理事解任無効確認訴訟 ご支援のお願い

飯塚靖先生の裁判闘争へのご支援のお願い

飯塚靖先生の裁判闘争へのご支援のお願い

2021年9月15日

飯塚靖先生の裁判を支援する会
世話人代表 木村健二(下関市立大学名誉教授)
同副代表 相原信彦(下関市立大学名誉教授)

皆さま

 2021年7月29日、下関市立大学経済学部教授の飯塚靖先生が、昨年10月の同大学理事長による理事解任は不当であるとして、大学を相手とした「理事解任無効確認等」を求めた訴訟を山口地裁下関支部に起こしました。

 飯塚先生は2019年4月より学部長として理事を兼務していましたが、同年6月には前田晋太郎下関市長の意向を受けて、教授会での意見聴取や教育研究審議会での議決を経ることなく、特別支援教育特別専攻科等の設置と担当教員人事が理事長・学長により強行されました。飯塚先生は法令・定款・各種規程を無視したそうした大学運営に対して強く抗議し、大学運営の正常化を求めてきました。しかし、2020年4月には下関市により大学定款が変更され、教育研究審議会から「教育研究の重要事項の審議権」が剥奪され、さらには大学教員の採用・昇任・懲戒などの人事権が新設の「理事会」及び学長に集中されました。飯塚先生は理事・学部長としてそうした事態を憂慮し、学内諸会議でその問題点を常に指摘してきました。2020年10月には「大分大学のガバナンスを考える市民の会」シンポジウムに出席して、大学の「自治破壊」と「権力的支配」の現状を報告しました。しかし、その直後に理事長より、本報告及び資料配布が「役員たるに適しない」として理事解任を通告されました。

 飯塚先生のシンポジウムでの報告は、①下関市の介入で正規の手続きを経ずに新教育課程が設置されたこと、②定款変更で教育研究審議会から「教育研究の重要事項の審議権」が剥奪されたこと、③新たな教育課程の教授に就任した人物が副学長になり権限が集中していること、④教員人事が学長単独で可能となり「学校教育法」などの法令違反の疑いがあること、などの事実を指摘したものであります。本報告は理事の立場ではなく、下関市立大学教授としての個人の立場で行ったものであり、個人としての表現の自由の保障を受けるものであります。あるいは仮に、本報告が理事の立場で行われたとしても、役員が法人の法令違反を認知してそれを指摘し是正を求めることは、理事としての忠実義務に基づいた正当な行為であります。まして、本件は「憲法23条」により制度的に保障された「大学の自治」に関する重大問題であり、教員を代表する理事として当然の責務であります。

 飯塚先生は、本解任は不当であり受け入れることはできず、さらに解任に至る過程での諸会議において理事長などより様々な人格権侵害を受けたとして提訴に踏み切りました。飯塚先生の提訴に込めた思いは、下記に添付しました7月30日の記者発表の文書をお読み下さい。また、提訴の具体的内容については、「訴訟の概略」(別添ファイル)をご一読下さい。なお、下関市立大学の「自治破壊」と「私物化」の経緯と現状については、駒込武編『「私物化」される国公立大学』(岩波ブックレット)が刊行され、詳しいレポートが掲載されていますので、ご参照下さい。

 本裁判は、飯塚先生個人の権利侵害の不当性を争うだけではなく、下関市立大学のガバナンスの在り方をめぐって、「憲法23条」及びそれが制度的に保障する「大学の自治」とは何かを争う重要な裁判でもあります。その判決の帰趨によっては、同大学のような「強権的」な運営が司法によっても容認されたとして、全国に広まる可能性もあります。あるいは、全国の国公立大学で進む「トップダウン型の大学改革」に対して、司法が一石を投じる可能性もあります。全国の市民及び研究者、大学人の皆さまにおかれましては、本裁判の重要性をぜひご理解いただき、支援の輪をどうぞ広げて下さい。また、裁判費用について、皆さまからのご寄付をいただければ、大きな力となります。

 以上、どうぞ宜しくお願い申し上げます。

ご寄付は次の銀行口座にお振込み下さい。
山口銀行山の田支店(店番105)普通預金 口座番号 5108918 口座名 「飯塚靖先生の裁判を支援する会 会計 関野秀明」
※なお、ご寄付者氏名、金額は支援する会のみで共有し、外部には秘匿致します。


提訴に込めた私の思い

2021年7月30日 記者会見 飯塚 靖

①2019年4月から2020年10月の理事解任に至るまで、教育研究審議会、経営審議会、理事会などの会議の中で、理事長、学長(副理事長)、理事2名(副学長)から、人格権の侵害ともいえる数々の不当行為を受け、精神的に大きな苦痛を味わってきました。本学役員によるこうした不当行為は、私の人生の中でこれまで味わったことのない屈辱的なものであり、私の名誉を著しく棄損し、かつ精神的不調をもたらしました。こうした不当行為は断じて許すことはできず、司法の判断を仰ぎ、適切な謝罪と賠償を求めるために訴訟に踏み切ったものであります。そして裁判の中で、理事長などによる不当行為を明らかにし、裁判に勝利することで、精神的安定を取り戻したいと希求しております。

②下関市立大学は、市からの運営費交付金が少なく、設備が充分とは言えず、教員数 も少ないなどの問題はありました。しかし、そうしたハンディを乗り越え、民主的な 運営により、教職員が力を合わせて、より良い大学となるように頑張ってきました。 私も、優秀な同僚教員に恵まれ、教育と研究さらには学内業務に尽力してきました。 そして、こうした大学で働けることにやりがいと誇りを感じてきました。しかし、 2019年6月の唐突な専攻科設置と採用人事の強行以来、大学は大きく様変わりをしてし まいました。定款や諸規程の改悪により、教職員による民主的な運営体制は解体され、さらには教育課程編成や採用・昇任・懲戒などの教員人事からまで教員が排除されて しまいました。そして、教員の採用や昇任などの人事が学長単独で可能となり、全国 の国公立大学の中でも異例な形となってしまいました。さらに2021年度に入ると、教授会の毎月の定例開催まで取り止めとなり、教員に対する説明が一切なされないまま新学部開設の構想が進んでいます。こうした本学の現状を嫌い、この2年間で12名もの専任教員が本学を離れ、教育環境が急激に悪化しています。特に教育熱心で学生の人気があった若手の教員が多数転出してしまい、学生の期待を大きく裏切っています。私は、こうした本学の悲惨な状況を見過ごすことはできず、その是正を求めるためにも訴訟に踏み切ったものであります。これが、不本意な形で本学を離れられた先生方の気持ちに少しでも報いるものであると考えます。

③2019年6月の専攻科設置と教員採用の強行は、市長が推薦した特定の人物を正式の資 格審査も行わず、教授会での意見聴取や教育研究審議会での議決も経ずに採用すると いう不正な内容でありました。これは、「学問の自由」を定めた憲法23条、学校教育法、地方独立行政法人法に違反する内容であります。これに対して、定款や諸規程違反だとして本学教員の9割が反対すると、今度はルールそのものを変えれば良いとして、無理やり定款そのものが変えられてしまいました。そして理事会が新設され、教員の採用・昇任・懲戒などの教員人事が理事会のみで審議されることとなり、教授会での意見聴取や教育研究審議会での審議は剥奪されてしまいました。こうした本学の現行の定款や諸規程は、憲法および上記法令に違反する内容であり、裁判の中でこの点の不当も強く訴えて行きたいと考えております。


2021年08月08日

下関市立大・元理事、解任無効を求め提訴

毎日新聞(2021/7/30)

下関市立大元理事、解任無効求め提訴 270万円の損害賠償も 地裁下関

 下関市立大(下関市大学町)の専攻科新設などを巡って外部のシンポジウムで発言したことが不適当とされ、理事を解任された同大の男性教授が、同大に解任処分の無効などを求めて山口地裁下関支部に提訴していたことが分かった。

 男性は同大経済学部の教授(63)。2019年4月に理事となり、教員らが教員人事や教育課程の編成について意思決定する教育研究審議会(教研審)の委員にも任命された。

 同大では特別支援教育の専攻科新設や新学部の教授採用を検討していたが、定款に沿った教研審の意見聴取を経ず、教授採用計画などを内定。また、大学設置者である市が定款変更を申請し、2019年11月に認可された。新しい定款では教研審の権限が新設された理事会に移されるなどしていたこともあり、経営側と教員らの対立が続いている。


2021年04月05日

下関市大・飯塚靖先生の理事解任に抗議し撤回を求める 「大学自治」の恢復を求める会が声明

■長周新聞
 ∟●下関市大・飯塚靖先生の理事解任に抗議し撤回を求める 「大学自治」の恢復を求める会が声明(2021年4月4日)

 下関市立大学の学部長を務め理事でもあった飯塚靖教授が、昨年秋におこなわれた大分でのシンポジウム「大学の権力的支配を許すな!」のなかで同大学の現状をのべ、大学運営の在り方について憲法や法律に照らして疑義があると指摘した後、同大学から理事を解任されたことをめぐって、3月25日に『「大学自治」の恢復(かいふく)を求める会』が全国の大学関係者65人の連名で抗議声明を発表した。以下、その内容を紹介する。

◇-----声明-----◇

 昨年10月18日、「大学の権力的支配を許すな!」(主催「大分大学のガバナンスを考える市民の会」)のテーマで、シンポジウムが行われました。このテーマは、一昨年大分大学でおきた学長の不当な権限行使が、現在問題となっている学術会議会員の任命拒否とも通じることがらであり、大学のあり方として見過ごすことができない、との認識から設定されたものです。そして、今、全国の大学で学長権限が強化され、大学が強権的に支配されつつある現状を、大学の自治・学問の自由の点から考えることとし、全国的な状況と大分大学の事例及び下関市立大学(以下、「同大学」という)の事例の報告をメインに討議がなされました。

 ところが、このシンポジウムで同大学の事例を報告された飯塚先生が、その後ほどなくして、理事を解任されました。解任の理由は、「地方独立行政法人法」第一七条二項の「役員たるに適しないと認めるとき」に該当するとのことです。しかし、飯塚先生の報告は、同大学で起きた事態や同大学の規程が、法律や文科省の通知に照らして疑問があることを、教員・研究者として学問的見地から報告されたものです。この報告について、理事としての資格を理由に、「役員たるに適しない」とされる理由は全くありません。

 既に、飯塚先生は、それまで同大学で起きている事態の問題点を学内で指摘されていました。そもそも、大学の運営に憲法や法律に照らして疑義がある場合に、それを是正するために発言することは、教員・研究者そして理事としても当然の行動です。まして、理事の忠実義務に違反するものでないことはいうまでもありません。仮に、理事長が法律や重要な法慣行に抵触することを行っている場合や、行おうとする場合に、それを諫めずに、ただ従順に理事長に従うとすれば、むしろそのような態度こそが理事の忠実義務に違反するものというべきです。

 また、公的機関である大学の運営に関し、理事として問題点を指摘することは、大学の運営に携わる者として当然の責任であり、忠実義務の核心をなすものです。言葉を変えれば、理事長の方針に反対の立場を表明した理事を理事長が解任することは、イエスマンだけの理事からなる理事会にすることであり、多様な意見を出し合って妥当な結論を導き出すという合議体本来のあり方を損ない、理事長独裁体制になることを意味します。

 言うまでもなく、大学は、学問研究の場として自由な討論が保障されなければなりません。そのことは大学の管理運営についても同様であり、憲法が保障する学問の自由として、「大学の自治」が制度的に保障される趣旨が及ぶものといえます。その意味で、今回、飯塚先生の理事解任は、理事長の権力的な支配を強化する象徴的な出来事であり、同大学のこのような措置は憲法上の問題としても重大なものです。

 加えて、今回は、「理事」としての行動ではなく、休日における「個人」としての学外の市民団体の集会での発言が問題にされています。勤務時間外の学外での個人的な言動をもって、「役員たるに適しない」として責任を問うことは、憲法で保障された、思想・表現の自由の侵害であり、この点も厳しく批判しなければなりません。

 さらに、同大学で生じている事態は、現在、全国の大学においてガバナンスが強化されている状況において、大学本来の使命を無視した権力者によって大学が支配されれば、大学がどのように破壊されていくかを示す最先端の事例としてとらえることができ、このような大学当局の姿勢を厳しく批判し、同様のことが起こらないようにしなければなりません。

 以上のことから、私どもは、飯塚先生の理事解任に強く抗議し、撤回を求めます。以上

2021年3月25日
「大学の自治」の恢復を求める会


変貌する下関市立大学への危惧、2年間で3分の1の教員去る 前田市長ごり押しの教員採用が契機

■長周新聞
 ∟●変貌する下関市立大学への危惧、2年間で3分の1の教員去る 前田市長ごり押しの教員採用が契機(2021年4月4日)

 市長や政治家、市幹部職員OBの介入による私物化や独裁的な大学運営が問題視されてきた下関市立大学で、今年度末に12人の教員が退職することが明らかとなり衝撃が走っている。昨年度の退職者も合わせると、2年間で17人が大学を去ったことになる。全教員が50人前後しかいないのに3分の1がわずか2年で去っていき、退職後の教員補充は数人にとどまっている。一昨年から前田市長がごり押しした教員の採用をめぐって、学内で定められた手続きを経ることなく決定したのを機に、今年度はさらに理事会や学長権限を強めた独裁的な大学運営に拍車がかかり、嫌気がさしたり精神的に疲弊させられた教員たちが他大学へ転出していく動きが加速している。大学に在籍する学生からは「とりたい専攻の先生がいない」「ゼミ定員が14人から18人に増えて、少人数教育とはいえない状況」という声も上がっている。下関市立大学でいったい何が起こっているのか、取材してきた記者たちで状況を集中してみた。

 A 独法化以後の下関市立大学をめぐる問題は多々あったが、この数年で特に変質に拍車がかかったのは、2019年5月末以後、前田晋太郎市長が当時、琉球大学に在籍していた韓昌完(ハン・チャンワン)教授とその研究チームを下関市立大学に迎え入れようと専攻科設置に向けて動き出したことが発端だった。

 通常なら専攻科設置は大学内で何年にもわたって議論を重ねて進めていくものだ。なぜか? 大学の将来像を描きながら、それを支えるスタッフや教員が一丸となって建設していくからで、みなの共通の合意なり意志が欠かせないからだ。ところが前田市長の意向で唐突に動き始め、教育研究審議会も経ずにハン教授と研究チームの女性2人の採用を決めた。6月には大学で専攻科設置と教員採用が動き始め、寝耳に水だった教員たちは驚いた。経済の単科大学にいきなり教育学部の専攻科を設置するわけで、「小学校教員の免許がとれるなど初等教育の基盤のうえでの専攻科設置なら理解はできる。だが今回の専攻科設置はわかりやすくいえば市大に宝塚劇団をつくるのと同じぐらいあり得ないこと」(大学教員)ともいわれていた。学術的な専門性がない市長の思いつきや一存で、大学の教員採用や専攻科設置が決まるなど、大学の常識からしてあり得ないことで、これに対して9割の教員が撤回を要求する事態に発展した。

 下関市立大学ではこれまで教員人事や教育・研究内容について、教授会や教育研究審議会などに権限があり、客観的な評価に基づいた厳正な選考がおこなわれてきた。ところが今回の専攻科設置や人事については、その審議などまったく経ぬままで、それに対して教員が反発すると、人事や教育内容などについてすべて理事会で決定できるように定款変更議案を同年9月議会に提案し、ろくな審議もなく自民党多数の議会が採決した。

 この定款変更によってたがが外れたように大学運営はさらに暴走を始めることとなった。ルールを逸脱したことが問題視されたら、ルールそのものを変えてしまえばいいじゃないか! をやったわけだ。まるで安倍晋三の解釈変更とそっくりなのだが、この定款変更によって大学運営の在り方は大幅に変化した。2020年1月にはハン教授を市立大学の外部理事に任命し、4月からは新たに副学長ポストをもうけて、ハン教授と事務局長の砂原雅夫(市役所元総合政策部長)を副学長に任命した。

 B 市役所の幹部職員OBが副学長というのも、役所関係者のなかでは「通常なら学位もない者が“おこがましいことです…”といって本人が断るだろうに、砂原さんは就任しちゃうんだ」「公務員としては一丁上がりで、次はどこを目指しているんだろうか?」と驚きの面持ちで語られていた。事務局長ポストも市役所退職者としては大概な高給取りの天下り先ではあるが、学長に次ぐ地位に就いたということでどよめいていた。大学理事長には江島市長時代の副市長だった山村氏が前田市長の任命でポストを得て、山村&砂原コンビでいわゆる「大学改革」が始まったのだ。理事長、学長、副学長2人の報酬だけで6000万円というから、一般の市民からすると驚きだ。「市役所を退職してもそんなに高給なイスがあるんだ」と--。

 C 昨年度と今年度末で17人も転出していったのは、やはりこの1、2年の大学運営の在り方への反発が主因だ。「なぜ先生たちは辞めるのか?」と尋ねると、「もうやってられない…」と疲れ果てた感じで胸中を吐露する人も少なくなかった。懲戒をちらつかされたり、物言えば唇寒しで精神的にも参っていたり、昔の自由闊達だった頃の市立大学の先生たちのイメージとはほど遠い重い空気が覆っている。それ自体、市立大学の変貌ぶりを示していると思う。侃々諤々(かんかんがくがく)で自由に意見をのべ、時として感情的にぶつかることはあっても、議論が終わればみんなで飲みに行くとか、カラっとした空気が昔はあったという。立場にかかわらず、思ったことをのべる自由は保証されていたし、そんな熱い議論のなかから下関市立大学をみんなで盛り上げてきたという自負みたいなものを語る元教員は多い。

 ところが、ここ数年は上意下達で意見をのべることすらはばかられ、息苦しいと教員の多くが口にしている。大学としては言論の自由とか、民主的な組織運営が生命線だと思うのだが、如何せん体制上も教員に発言権がなくなってしまっている。かつて在籍していた先生たちが見たらさぞかし驚かれると思う。携帯に「下関市立大学は大丈夫なのか!」と連絡してくる元教員や転出された教員の方もいるのだけど、この間の顛末を話すとみな仰天している。「植田(元事務局長・市役所OB)・松藤(元理事長・市役所OB)も大概だったが、私たちが在籍していたときよりひどくなっているじゃないか!」と   。

 A 2020年度に入って、とりわけハン教授を招聘してからの変化がとくに大きいと誰もが指摘している。なぜそんなにとり立てられるのか意味がわからないのだけど、赴任半年で「副学長」「経営理事」「大学院担当副学長」「相談支援センター(ハラスメント相談含む)統括責任者」「国際交流センター統括責任者」「教員人事評価委員会委員長」「教員懲戒委員会委員長」を兼任するようになった。教員人事も教員の懲戒もすべて握ることになり、異常な権限集中がおこなわれたのも特徴だ。

 同年5月には『教員採用選考規程』を変更し、第一一条(雑則)に、「学長は、教員採用に関し、全学的な観点及び総合的な判断により必要があると認めた場合は、この規程によらない取り扱いをすることができる」と規定した。つまり教員の採用については公募、面接試験、教授会や教育研究審議会の業績審査なしで、学長の権限で採用を可能とするものだ。そして新規程によって6人の教員が採用された。2019年度に採用が決まったハン教授を含むチーム3人を合わせるとその関係者は9人になる。一方で在籍する教員らは、新たに採用された人物が、どんな研究や業績を残してきたのかも知らされぬまま、「採用決定」というメールにて事実を知らされるという状態だ。

 C 「学問の自由」「大学の自治」といわれるが、それは公平で客観的な人事方法にあらわれてきた。学長の判断で人事が決まること自体、学術的世界の常識とかけ離れているのだが、規程変更でそれさえも可能になった。

 教員の一人は「新しく教員を採用する際、私たちも事前にその人たちの論文を読む。文体からその人の癖とか性格などが見える。だから採用の審査を通じて、その人の基本的なことがわかるようになっていた。ところがそれを“スピーディーな人事が必要”といって学長権限で次々に採用する。新しく採用された人物がどんな人かもまったくわからないままだ。私立大学であっても教員採用について教授会の審査や意見聴取をするのがあたりまえだ。公立大学を名乗るならなおさらだが、在籍する教員が知らないうちに学長の判断で採用されるなど、もはや大学ではない」と語っていた。

 別の教員は「採用される場合、私たちはまな板の鯉状態だ。これまでの経歴や論文などをすべてさらけ出さなければならない。市立大学は採用規程が厳しいことで有名で、私たちは100人のなかから選ばれている。そのなかで教育や研究の質が担保されてきた」と語っていた。

 そうした厳しい採用規程で選別された教員たちによって下関市立大学の教育の質も担保されてきたわけだが、学長なり大学上層部の一存によって採用が決まっていく方式へと変貌したのだ。これは回り回って学生たちに響いていくから、教育の質がどうなっていくのかが心配でならない点だ。

大学院でも学長の判断で教員任命

 A この4月から新たに大学院の新領域として教育経済学領域をもうけたのだが、フタを開けてみれば一般選抜(口述試験のみ)で選ばれた合格者は、市役所OBの砂原雅夫氏(下関市立大学副学長、事務局長)や安倍派の旅館経営者、ハン教授がつくるH財団が住所をおく市大の元経営審議委員のメンバーやその関係者も合格者に含まれており、お友だちや関係者ばかりであることが話題になっている。

 さらに教育経済学領域の大学院の教員メンバーも、ハン教授と研究グループの女性2人、その後採用された韓国人准教授2人、そして4月から着任する男性教授(前任校は岡山理科大学)の6人だ。通常ならば大学院の教員になるのは厳正な資格審査等が必要になるが、今年2月には「大学院教員資格審査規程」の変更をおこない、学長が認めれば大学院への任命が可能になった。つまり教える側も教えられる側もハン教授の界隈の人たちということになり、いったい何が始まるのだろうか? と不思議がられている。しかし、こればかりは始まってみなければ良いものなのかどうかも周囲にはわからない。「大学院の教育経済学領域でどんな教育や講義がおこなわれるのかは、彼らの関係者以外はまったく他の人の目にふれることができない状態になる」と危惧する教員もいた。

 B 別の教員は「大学院で教鞭をとることを許されるというのは、私たち大学教員としては嬉しいことだ。大学研究者としての経歴や論文、実績について厳正な資格審査や検証を経て認められてようやくその資格を得ることができるからだ。ところが今回の規程変更で、学長の判断だけで大学院の教員として任命できることになった。何の専門性もない学長の一存でなぜ決められるのか。長期的に見れば大学としての名声も落ちていくし、何よりも専門性が失われていくことが一番心配だ」と話していた。

 体制上は学長権限が強まっているのだけど、川波学長の存在感よりもハン副学長の存在感の方がはるかに上のような印象すら受ける。鳴り物入りで招聘されて、来るなり理事や副学長はじめとしたポスト・権限を総なめにするかのように与えられて今に至る。市長の私物化人事とはいえ、これほどまでに持ち上げられる意味が第三者からするとよくわからないのだ。しかし、前田市長をはじめとした下関側の関係者がことのほか大先生のように持ち上げているから、下関市立大学がこんなことになっているのだ。それで教員がみな逃げていくというのでは本末転倒にも思えるが、結果的に嫌気がさして辞めていく人が後を絶たない状況なのだ。

 A 教員が大量に辞めてしまったことで、授業のカリキュラムやゼミの体制などが危ぶまれている。そりゃ五十数人の教員のうち2年で17人も辞めていったのだから、無理が祟るのも当然だ。穴埋めで誰でもいいから雇ってしまえみたいな格好になってしまうと、これまた教育の質にも直結してしまうから心配なのだ。学生たちからすると学びに来ている訳で、ゼミを担当していた教員がいきなり辞めていったり、おかげで選択肢が狭まったり、そんなはずじゃなかった事態でもあると思う。

 こうした事態を招いたことについて、前田晋太郎やその仲間たち、下関市議会はどう責任を負うのだろうか。下関市立大学を崩壊させているではないかというのが率直な思いだ。やはり教員というのが大学にとっては人財であって、人材ではないことを物語っているように思う。材料ではなく財産なのだ。

 C 下関市立大学は公立ということで、他大学の受験に失敗した学生なども多く入っていた。一度目標を失いかけた学生に対しても、新しい目標設定をさせて卒業させる、そういうセーフティネットを支える教員がいた。ところが教員がやめていき、補充されたのはハン教授のグループの9人。市民の税金を元手にする公立大学のあり方として、市長やその周囲のお友だちのために予算が投入されるのが妥当なのかどうかも問われている。

 他大学の教授たちとも話になるのだが、いわゆる大学の人事の暗黙の了解として“自分よりアホはとるな”というのがあるそうだ。上下関係をつくってしまうと学問、研究にもよからぬ影響が及ぶもので、自分の教え子や後輩といった学閥関係や地縁、血縁がからむ人事は避けるべきというのがルールとしてあるのだという。公表している経歴を見ると、この間に下関市立大学で採用された教員の多くが、ハン教授の学閥や同窓や教え子などだ。いったいこの先どんな大学にしようとしているのだろうかと思う。下関市が税金を投入している大学なのだから、しっかり議会にも報告させなければならない。私物ではないのだから、役所OBなり大学上層部の勝手でしょという訳にはいかないのだ。最大の責任は前田晋太郎にある。

 B 大学では教員たちが疲弊しきっている。物いえぬ空気が強まり、鬱屈した思いを抱えながら吐き出せず、吐き出せば懲戒になるのではないかといった恐怖政治が敷かれているからだ。不自由で非民主的というのは、人間を萎縮させ、創造的で能動的な思考を阻害し、息苦しさがつきまとう。時として人の顔つきまで変えてしまう。そうではなく自由で創造性に満ちた、のびのびとした環境が学問や研究には大切だ。しかし、その環境が日本全国の大学でも奪われつつある。下関市立大学の変貌はその最先端を行っているようにも思えてならないが、昨今の大学改革なるものの普遍性と特殊性を包含していると思う。その行き着いた先が教員の大量流出・退職で、「そして誰もいなくなった…」というのではお粗末極まりないとも思う。世界的に認められる優れた論文が減っていると問題になっているが、昨今の「大学改革」なるもののおかげで、日本の学術世界が萎縮し展望のない状況に追い込まれていることが原因だと思う。

 A 一下関市民からしたら、勤労学生たちを集めて夜間大学から出発し、今日まで築き上げてきた郷土の大学に何してくれているんだという思いもあるが、下関市立大学である以上、その実情について関心を寄せて見守っていきたいと思う。そして「おかしい」と思ったことについては、「おかしい!」と自由に意見をのべることこそが、下関市立大学への愛情だと思う。2年で17人の教員が辞めるなど、よっぽどだというのが率直な感想だ。

2021年01月04日

安倍前首相の地元・下関で先鋭化する「大学破壊」。理事会の独裁、学長専決の教員採用…全国に波及も

BUSINESS INSIDER JAPAN(2020/12/29(火))

安倍前首相の地元・下関で先鋭化する「大学破壊」。理事会の独裁、学長専決の教員採用…全国に波及も


「桜を見る会」前夜祭をめぐる政治資金規正法違反事件について、東京地検特捜部は安倍晋三前?相から任意で事情聴取したうえで、安倍氏を不起訴とし、公設第一秘書を略式起訴した。

安倍氏はその後、衆参両院の議院運営委員会に出席し、在任中の国会答弁を「結果として事実に反する」などと謝罪したが、議員辞職を求める声は日に日に高まっている。

そんななか、全国紙ではあまり報道されていないが、渦中の安倍氏の地元・下関市(山口4区)で、また別の不可解で深刻な問題がくすぶり、火の手が上がろうとしている。

各地の大学で「学長の独裁化」が問題に

22020年10月18日、下関市から南東におよそ100キロ、同じ瀬戸内海を望む大分市の中?部で、「大分大学のガバナンスを考える市民の会」(以下、市民の会)が主催するシンポジウム「大学の権力的支配を許していいのか!」が開かれた。

基調講演者は、大学のガバナンス問題について全国を飛び回り取材を重ねているジャーナリストの田中圭太郎氏。日本各地で、天下り官僚や地方自治体幹部、弁護士らが大学経営のトップあるいは幹部ポストを占め、「改革」の名のもとに大学の私物化や教育・研究への介入支配が進んでいる現状を紹介した。

続いて登壇したのは、市民の会のメンバーでもある大分大学の二宮孝富名誉教授。かつて自身が教鞭をとっていた大分大で、学長が教員や学部長の人事に介入するといった「独裁化」が進んでいる現状を報告した。

大分大学では2015年、医学部教授出身の北野正剛学長のもとで、学長の再任回数制限が撤廃されるとともに、学?選出の際には必ず行われていた教職員の意向投票も廃?された。

さらに、北野学長は2019年、経済学部の教授会が推薦した学部長候補の任命を拒否し、専決で他の教員を学部長に任命。医学部でも、審査委員会や教授会の審査を経て教授候補者に選出されていた准教授の任命を拒否し、事実上の学長直接指名によって他の人物を教授に任命している。

シンポジウムでは続いて、下関市立大学経済学部の飯塚靖教授が、同大学の設置者である下関市当局や元市役所職員らによって、教育・研究内容や教員人事が不正に歪められている現状を報告した(筆者も総合コメンテーターとして発言)。

実はいま筑波大学でも、学長の再任回数制限の撤廃と教職員意向投票の撤廃が行われ、学長の「終身化」「独裁化」が問題化し、(悪い意味で)全国区の注目を集めつつある。そして、これらが地域限定の、属人的な問題ではないことが明らかになってきている。

大学の現状を批判した理事が突如解任

さて、上記のシンポジウム「大学の権力的支配を許していいのか!」は、(もちろん感染予防に十分留意しつつ)大分大学の教職員、元教員、現役学生や卒業生のほか、地元市民など100名ほどが集まり、活発な質疑応答も交わされて盛況のうちに閉会した。

ところが、それから10日ほど経って、シンポジウム関係者にショッキングなニュースが伝えられた。

下関市大の飯塚教授が、直後に開催された学校法人の理事会で、本人以外の全理事の賛成によって理事を解任されたというのだ。

飯塚教授は理事会の席上、大分のシンポジウムで下関市大の現状を批判的に報告したことについて、当日配布したレジュメのコピーを示されて詰問されたという。

飯塚教授は下関市大の経済学部長を務めているが、同大は経済に特化した単科大学(=経済学部のみ)なので、学部長は飯塚教授ただ一人。そのため、理事会においては、従来から在職する専任教員を代表する唯一の存在だった。にもかかわらず、飯塚教授が理事を解任された事実は、専任教員の大多数にたった1通のメールで通知された。

筆者が関係者から確認した情報によれば、飯塚教授の理事解任を主導した山村重彰理事長は下関市の元副市長。安倍晋三前?相の秘書を務めた前田晋太郎市長と市議会与党の自民党系会派(創世下関)の支持を背景に、下関市大の理事長に就任したとされる。

安倍前首相の秘書を務めた市長の「大学への要請」

こうした下関市大の決定機構のあり方は、飯塚教授の理事解任に始まったことではない。

2019年5月、前田市長が下関市大の山村理事長や学長・学部長ら大学幹部を市長室に呼び出し、特別支援教育を担う「特別専攻科」を新設し、市長が推薦した候補者を専任教員として採用するよう要請したのが、その端緒だった。

下関市大の教員の大多数は、学内の(教員・研究者から成る)「資格審査委員会」による業績審査、教授会への諮問といった、採用に必要な手続きを経ていないとして猛反発。大学など高等教育機関を所管する文部科学省からも、採用手続きについて指導が入った。

ところが、経営陣はそうした内外の意見に耳を貸さず、翌6月に特別専攻科(およびリカレント教育課程)の設置と、ハン・チャンワン(韓昌完)琉球大学教授の招へいを含む新任教員3名の採用を強行する。

※戦後日本の大学ガバナンス……「学問の自由」を定めた日本国憲法23条と、そこから導かれる「大学の自治」の理念に基づき、戦前・戦時期の弾圧への反省を踏まえ、ふたつの原則が貫かれている。ひとつは、大学内部において、教育・研究の自由と教員人事の自治が、経営陣による支配から守られること。ふたつは、大学外部との関係において、政官財界などの勢力から、教育・研究の自由と教員人事の自治が守られること。例えば、教員の採用や昇任に関しては、学内の専門家による慎重な審査・審議(ピア・レビュー)を経なければならない。また、国公立大学の設置者(政府・自治体)の長や議会多数派や事務方は、大学に対して新設の学部・コースなどの大まかな方向性について要請することは許容されるが、具体的な教育・研究内容や教員人事を左右することまでは認められていない。

学長の独断による教員採用が可能に

しかも、事態は学科の新設や新任教員人事の強行にとどまらなかった。

下関市当局は、市大の教育・研究・教員人事に関する最高審議機関である教育研究審議会(教研審)や教授会に諮問することなく、大学の定款変更の議案を市議会に提出、これを可決させた。

変更後の定款では、新たに理事会(解任された飯塚教授もこのとき理事に選任)を設置することが定められた。さらに、教育・研究に関する重要事項や、採用・昇任など教員人事に関する審議権を教研審から奪い、教員・研究者以外が多数含まれる新設の理事会に権限を集中させた。

2020年4月に開催された第1回理事会は、さっそく「教員人事評価委員会規程」を決定する。

同規定により、教員の採用・昇任の審査を担当する「資格審査委員会」の委員5名のうち過半数の3名には、学長が直接指名する「教員人事評価委員」が充てられることになった。同時に、最高審議機関だった教研審と教授会は教員人事に一切関与できなくなった。

さらに、翌5月の第3回理事会では「教員採用選考規程」の導入が決まった。この規定には驚くべき条文が組み込まれた。

雑則第11条の「学長は、教員採用に関し、全学的な観点及び総合的な判断により必要があると認めた場合は、この規程によらない取り扱いをすることができる」というのがそれで、要するに、上述の「資格審査委員会」による審査も経ず、学長単独での教員採用・昇任決定への道が開かれたわけだ。

※教員採用・昇任の決定プロセス……大学教員を採用する際には、学内の専任教員のなかから当該分野や隣接分野の専問家を集めて研究・教育業績を精査したうえで、教授会や教育研究評議会(下関市大の場合は教研審)の審査を経る必要がある。2014年に学校教育法93条が改正され、それまで「重要な事項を審議する」と定められていた教授会の権限は「学長に意見を述べる」役割へと格下げされたものの、教員採用にあたって教授会からの意見聴取を省略し、学長が直接指名した者が過半数を占める委員会のみに審査を担わせることまでは想定されていない。ましてや、 ひとつの学術分野の専門家にすぎない学長が、 単独あるいは専決で、多様な専門分野の教員を指名採用することは、戦後日本を含む自由民主主義諸国の大学ガバナンスの観点から、到底容認されるものではない。

新設された「理事会」の顔ぶれ

ここまで経緯を記したように、下関市大に新設された理事会は、教研審や教授会から教育・研究・教員人事の審査権を完全にはく奪した。

いったいどんな人たちが理事を務めているのか、そこでどのように意思決定が行われているのか、公になっている情報や複数の関係者からの情報提供をもとに整理してみたい。

飯塚教授が解任されたあとの理事会は、6名の理事のうち半数の3名が非研究者で占められており、それぞれ、元市役所職員で副市長を務めた山村理事長、元市役所職員で大学事務局長の砂原雅夫氏(副学長を兼務)、学外から経営担当理事の地元財界幹部(山口銀行取締役)という顔ぶれだ。

一方、残り半数の理事は研究者3名が占め、川波洋一学長と、特別専攻科の新設に伴って招へいされたハン・チャンワン教授(副学長を兼務)、学外からの教育研究担当理事(元下関短期大学教授)が名を連ねる(いずれも2020年10月29日時点)。

なお、川波氏は?2016年から下関市大学長を務め、2018年末の学長選に再選を期して立候補したものの、教職員による学内の意向投票で大差をつけられて敗北。にもかかわらず、その後、大学事務局長の砂原氏を議長とし、ほかに民間金融機関出身の2名、現役の教員3名の計6名から成る「学長選考会議」の決定により、学?続投が決まっている。

理事や副学長、教員の任命をめぐる不可解な動き

そうした不可解な学長再選の経緯以上に、大学関係者や下関市民に驚きをもって受けとめられたのが、ハン・チャンワン氏の理事就任だ。2020年1月に非常勤の理事として迎えられ、4月には専任教授として着任、いきなり(常勤の)理事兼副学長に任命された。

このとき同時に、砂原事務局長が副学長に任命されたことも、学内の専任教員に衝撃を与えた。教育・研究をつかさどる副学長は、経営をつかさどる理事とは異なり、学内の専任教員から選ばれるのが一般的で、少なくとも研究・教育の実績を持たない事務職員出身者が担える役職とは思われないからだ。

また、2020年4月にハン氏とともに特別専攻科の准教授および専任講師として着任した2名は、ハン氏の前任校である琉球大学教育学部の元専任講師と元特命助教だった。ともに琉球大学時代のハン氏の教え子だという。

この2名もハン氏と同様、専任教員による業績の精査、前述の教研審や教授会への諮問といった審査・審議(ピア・レビュー)を経ずに採用されている。

それからまもない6、7月には、ハン氏が韓国時代に教員として勤めていた大学出身の研究者2名が、やはり学長と理事会の指名により、大学院教育経済学領域の准教授として採用された。

こちらの2名の採用は、大学院教授会に相当する経済学研究科委員会や教研審の審査を経ないばかりか、学長が任命する委員が過半数を占める「資格審査委員会」にすら諮問せず、(先述した)4月の理事会で決定したばかりの「教員採用選考規程」雑則11条を使って、学長が単独で決定した。

さらに、ハン教授は着任後すぐ理事兼副学長に就任しただけでなく、「教員人事評価委員会委員長」「教員懲戒委員会委員長」「相談支援センター(ハラスメント相談含む)統括責任者」を兼任することになった。

これは、経済学部のすべての専任教員に対して、昇任・懲戒・人事評価・ハラスメント相談の最終的な権限を一手に掌握したことを意味する。

教研審や教授会から教員人事の審査権をはく奪して理事会に権限を集中したうえで、理事のひとりに教員人事権を集中させれば、何が起こるかは誰でも容易に想像がつく。

事態はすでに深刻で、筆者が複数の関係者に直接確認したところでは、大学ガバナンスのあり方や学長専決人事に批判的な複数の専任教員に対して、さまざまな理由で懲戒処分が進められている。

安倍政権で進んだ、憲法と学校教育法の「曲解」

第二次安倍政権は、自民党の歴代内閣のなかでは珍しく、大学・高等教育政策に大きな関心を示した政権だった。

同政権下では、文部科学大臣を3年間務めた下村博文氏や経済団体など、政官財界から大学に対して激しい「改革」圧力がかかった。2000年代までの大学改革とは異次元のものだった。

少なくとも戦後75年、専門家・研究者のピア・レビューを経ずには決定できなかった、教員人事や業績審査、教育・研究内容、カリキュラムやコース編成など、大学自治の「最後の砦」と言うべき部分に、研究者以外の専問家でもない人間が安易に手を突っ込めるような「ガバナンス改革」が進められた。

下村氏らが主導した学校教育法93条の改正により、すでに述べたように、教授会が「重要な事項を審議する」機関から「学長に意見を述べる」機関へと格下げされたことで、学長や理事会、あるいは政府や首長、議会与党がトップダウンで教育・研究内容や教員人事さえ決定できるかのような、学校教育法の趣旨の曲解、憲法23条の「解釈改憲」が、地方の国公大学を中心に広がっている。

大学経営陣を占める政官財界出身者らによる、教育・研究への介入や利益誘導も深刻化している。

こうした動向に異議を唱える全国各地の研究者たちが、大学経営陣からの懲戒や恫喝、いじめや嫌がらせにさらされ、業績評価・賞与査定や昇任審査で不当な扱いを受けて苦しんでいる。

近代の先進諸国の大学は、約100年間かけて、政治や行政、経営による教育・研究の支配を克服し、学問の自由と大学の自治を勝ちとってきた。

下関市大の現状を地方の一公立大学の問題として放置・無視すれば、日本の大学の多くは遠からず、19世紀以前に逆戻りしてしまうおそれがある。教育・研究のすそ野や学術文化の多様性は急速に狭められ、地方を中心に経済力のない若者の学びの機会は奪われていくだろう。

わたしたちはいまこそ、第二次安倍政権の縁故政治と大学ガバナンス「改革」が残した負の遺産とも言える下関市大の問題と真剣に向き合う必要がある。

(文:石原俊)

石原俊(いしはら・しゅん):明治学院大学社会学部教授。1974年、京都市生まれ。京都大学大学院文学研究科(社会学専修)博士後期課程修了。博士(文学)。千葉大学などを経て現職。2018~20年、毎日新聞「月刊時論フォーラム」担当。専門は、社会学・歴史社会学。著書に『近代日本と小笠原諸島──移動民の島々と帝国』(平凡社、2007年:第7回日本社会学会奨励賞受賞)『〈群島〉の歴史社会学』(弘文堂、2013年)『群島と大学──冷戦ガラパゴスを超えて』(共和国、2017年)『硫黄島 国策に翻弄された130年』(中公新書、2019年)など。大学ガバナンス問題に関する論文・記事も多数寄稿。


2020年11月28日

下関市立大学の暴走、学長・市役所OBらの独裁…理事を突然解任、無審査で次々と縁故採用

Business Journal
 ∟下関市立大学の暴走、学長・市役所OBらの独裁…理事を突然解任、無審査で次々と縁故採用

下関市立大学の暴走、学長・市役所OBらの独裁…理事を突然解任、無審査で次々と縁故採用

文=田中圭太郎/ジャーナリスト

 大学の権力的支配を許していいのか――。

 全国の大学で「大学改革」の名のもとで学長への権限集中が進められ、教員の意思が軽んじられているとして、大学運営のあり方を考えるシンポジウムが10月18日、大分市で開催された。

 報告されたのは2つの国公立大学の現状だった。ひとつは大分大学。2015年に学長の任期上限と、学長選考の教員による意向投票が撤廃された。その結果、学長に権限が集中し、昨年には経済学部長の選考をめぐり学長が教授会の意向を無視して学部長を決めたほか、医学部の教授採用でも学長が教授会が選んだ候補者とは別の人物を採用した。大分大学の問題については、『大分大学、学長“独裁化”で教授会と内紛』(リンク)に経緯を書いた。

 もうひとつの報告は下関市立大学。安倍前首相の元秘書である前田晋太郎下関市長によって「私物化」が進められている公立大学だ。

 昨年6月、前田市長の要請で経済学部しかない大学に、特別支援教育などについて研究する専攻科設置と、それに伴う教授ら数人の採用を、学内で定められた手続きを踏まずに強引に決定。この決定に教員の9割が反対すると、市議会に定款の変更を提案し可決。学内の審査がなくても教育研究に関することや、教員の人事・懲戒などを決定するのを、理事会の審理だけで可能にした。

 すると今年1月、教授に採用されたハン・チャンワン氏が大学の理事に就任。4月には新たに2人の副学長を置くことになり、1人は市役所職員OBの現事務局長、もう1人はなんと着任したばかりのハン氏が就任した。ここまでの経緯は、『下関市立大学が“無法地帯化”』(リンク)で伝えている。

 シンポジウムでは、二宮孝富大分大学名誉教授が大分大学の問題点を報告。学長が任命する権限と選任権を分離して考えていない点は、日本学術会議の任命拒否問題と共通しており、権力的支配は大学のみならず学術の分野全体やそれ以上に広がりつつあると指摘した。

 下関市立大学からは飯塚靖経済学部長が参加し、4月以降に大学で何が起きているのかを報告。大学のガバナンス問題について警鐘を鳴らしている明治学院大学の石原俊教授がコメンテーターとして出席し、筆者も全国の大学を取り巻く状況を報告した。

 特に参加者を驚かせたのは、下関市立大学で4月以降に進行した異常ともいえる権力的支配だった。本稿では、特に下関市立大学の現状と、このシンポジウムに対する大学側の驚くべき反応について触れたい。

就任したばかりの副学長に権力集中

 前田下関市長による強引な採用によって下関市立大学の副学長に就任したのは、前琉球大学教授のハン・チャンワン氏。4月に設立されたリカレント教育センターの教授に就任し、ハン氏の弟子に当たる人物2人が准教授、講師として着任した。

 そこから大学は、ハン副学長に次々と権限を集中させる決定をする。副学長としては教育と研究に加え、大学院も担当。理事としては「経営理事」に就任し、教育、研究、経営すべてに権限を持つ立場になった。

 既存の組織も改編され、これまでの教職員一体で体制を作ってきたハラスメント防止委員会を廃止し、相談支援センターを置いた。国際交流を推進する国際交流委員会も国際交流センターに移行。いずれの組織も統括責任者に就いたのはハン副学長だ。

 さらにハン副学長は、教員人事評価委員会の委員長と、教員懲戒委員会の委員長も兼任。着任したばかりの人物に、教員の採用や昇任に関する権限と、懲戒に関する決定まで集中させてしまった。

 ハン副学長は就任前に、自身の採用に反対した当時の経済学部長の飯塚学部長と副学部長に対し、「プライバシーの侵害」と「名誉毀損」があったとして損害賠償を求める民事訴訟を起こしている。そのような人物が、教員を懲戒処分する責任者になっているのだ。

副学長の人脈で相次ぐ教員採用

 ハン副学長に権力が集中することで、下関市立大学の運営は健全な状態とはいえなくなっている。その最たるものが教員の採用だ。

 まず、ハン副学長とともに4月に着任した准教授と講師は、ハン副学長が副理事長を務める学会の会員であり、ハン副学長の前任校の琉球大学出身だった。

 縁故ともいえる採用は、それだけにとどまらない。関係者によると、5月には教員採用選考規程が決定され、人事評価委員会での選考過程を省略して、学長単独の判断で教員の選考や採用を可能にした。

 すると、6月と7月の理事会では、ハン副学長の主導で開設されることになった「大学院教育経済学領域」に2人の准教授が採用された。この2人も同じ学会の会員で、ハン副学長が勤務していた韓国の大学の卒業生だという。

 しかも、ハン副学長を含む全員が、東北大学大学院の医学系研究科に在籍したことがある。公募をするわけでもなく、研究者による資格審査もないまま、ハン副学長と関係がある教員が次々と採用されているのだ。これは国公立大学の教員採用人事としては、異例の事態と言えるだろう。

 さらに、今後は学長の選考についても、教員は事実上候補者の推薦ができなくなった。学長選考会議の規程が改定され、推薦には理事2人の連名が必要になったが、教員出身の理事は飯塚教授しかいないためだ。他の理事の構成は、理事長を含む2人の理事が市役所OBで、外部理事が2人、それにハン副学長。学長の選考に教員の意見がまったく反映されない体制ができ上がったのだ。また、これまでは認められていた教員による学長候補者の推薦や教職員による意向投票も廃止された。

シンポジウムに参加した教授を理事解任

 下関市立大学の現状を知り、シンポジウムの参加者は驚きを隠せなかった。明治学院大学の石原教授は「副学長を前面に出しながら、下関市長と市役所出身者が教育、研究、教員の人事権を全て握る大学支配が完成しようとしている。この異常な権力構造を問題にしていかないといけない」と警鐘を鳴らした。

 ところが、シンポジウムの数日後、関係者にさらなる衝撃が走った。下関市立大学の飯塚学部長が理事を解任されたのだ。

 解任の理由はシンポジウムに参加して報告をしたことが「地方独立行政法人法第17条」に違反するだという。飯塚学部長は「シンポジウムでの報告のどこが問題なのか明確な説明もなく、理事会において突然理事を解任されたことは納得できない」と主張している。

 学外での意見表明のみを理由にした今回の理事解任は、とても民主的な組織運営とは言えない。しかも、学問研究の場である大学で平然となされたことは、社会通念上も許されないのではないだろうか。下関市立大学は公立大学でありながら、市長を中心とする政治の意向によって、教育や研究が事実上破壊されようとしている。このような政治の介入による権力的支配が許されるのであれば、全国の大学にも広がってしまうだろう。

 シンポジウムが開催された時期には、大分大学と同様に学長の任期上限と意向投票を撤廃した筑波大学学長選が紛糾し、選考が不透明だとして東京大学の総長選考が大混乱した。さらには日本学術会議の任命問題など、大学や学問に対する権力的支配がクローズアップされている。その中でも、悪い意味で先頭を行く下関市立大学の問題の行方は、今後も注視する必要がある。

(文=田中圭太郎/ジャーナリスト)

2020年05月12日

下関市立大学が“無法地帯化”…安倍首相元秘書の市長、無審査で人事・教育内容決定を可能に

Business Journal, 2020年5月12日

下関市立大学が“無法地帯化”…安倍首相元秘書の市長、無審査で人事・教育内容決定を可能に

文=田中圭太郎/ジャーナリスト

 安倍晋三首相の元秘書である前田晋太郎下関市長が、「私物化」を進めている下関市立大学。昨年6月、経済学部しかない大学に、特別支援教育などについて研究する専攻科設置と、それに伴う教授ら数人の採用を、学内で定められた手続きを踏まず前田市長の要請で強引に決めた。

 この決定に教員の9割が反対すると、9月に前田市長は学内の審査がなくても教育研究に関することや、教員の人事・懲戒などを理事会の審理だけで可能とする定款変更の議案を市議会に提案。市長派の議員によって可決された。こうした「私物化」に、識者からも「見逃すことができない大学破壊だ」と声が上がっている状況を、前回の記事(『安倍首相元秘書の前田市長、下関市立大学を私物化…ルール無視し人事と教育内容に介入』)でお伝えした。

 4月に入り、この定款変更が有効になった。新型コロナウイルスの感染拡大で大学の授業はまだ始まっていないが、定款変更に伴う教育内容や人事、懲戒などの規程について審議が行われないまま新年度を迎えてしまった。しかも、副学長人事などが教員を無視して行われている。「無法地帯」状態とも言える下関市立大学の現状を、整理してみたい。

強引に採用した教授と市職員OBを副学長に

 下関市立大学の川波洋一学長は3月16日、大学に新たに2人の副学長ポストを置くことと、その人選について発表した。しかし、その内容に下関市立大学の教員のみならず、市長による大学の「私物化」に疑問を呈している市民も、呆れざるを得なかった。

 副学長の一人は、専攻科の教授に内定していた、ハン・チャンワン氏。前田市長が大学に採用を要請して、学内の教授らで構成される教育研究審議会の承諾を得ぬまま、強引に教授内定が決まっていた人物だ。しかもハン氏は、今年1月に、大学の経営側とも言える理事に任命されていた。

 下関市立大学には経済学部しかないが、ハン氏は特別支援教育の研究者である。大学の従来の教育分野とは関係ない人物が、市長の要請によって採用されただけではなく、副学長に就任してしまった。理事としても、教育研究を担当するという。あからさまなコネ人事に、「ここまでやるのか」と驚きを通り越して呆れる声があがっている。

 さらに、もう一人の副学長は前事務局長の砂原雅夫氏で、下関市の職員OBだ。学識経験者でもない人物が副学長に就任したことにも、「なぜ教育者でもない人間が副学長に就任するのか」と関係者は怒りを隠せない。こうした人事は、大学内の教員に事前に通知されることなく、報道機関に発表されたという。

 下関市立大学の理事長も、元副市長だった山村重彰氏が務める。理事会だけで教育内容も人事も決めることができて、なおかつ市長が強引に採用した人物と、市職員OBが副学長に就任することで、市長の意向を受けた大学運営が可能になってしまった。

市民団体が定款変更と専攻科設置の停止求める要望書

 副学長人事が発表される前から、教員OBや市民からは市のやり方に反発する声があがっていた。1月31日には下関市民会館で元東京地検特捜部の郷原信郎弁護士、元文部科学省官僚の寺脇研京都造形芸術大学教授、作曲家・指揮者の伊東乾東京大学准教授によるシンポジウムが開かれた。3人は下関市立大学の問題点を指摘し、「見逃すことができない大学破壊」だと断じた。

 3月14日には、市民団体「下関市立大学“私物化”を許さず大学を守り発展させる会」が、大学の定款変更と専攻科設置計画の停止などを求める要望書を、下関市と市議会、それに下関市立大学に提出している。

 一方、学内では昨年12月に、前田市長や理事長の意向を受けて専攻科設置と採用人事を進めた学長の解任を教育研究審議会が議決した。この議決を受けて、学長選考会議で解任について議論したが、会議のメンバーが経営側3人、教員側3人の6人の構成だったことから、3対3で解任は不成立に終わった。

 こうした状況の中、3月をもって他の大学に移っていった教員も数人いるという。理不尽な決定の数々に対して、抵抗しなければならなかった状況に、疲れてしまったのではないだろうか。

 さらに、定款が変更されたことによる「教育人事評価委員会規程」「教員懲戒委員会規程」「教育研究審議会規程」など、新たな規程の案は審議されないまま。今後、大学でどのように物事が決まっていくのか、教員がわからないという異常事態になっている。

下関市立大学の今後に注視が必要

 新年度を迎えたものの、新型コロナウイルスの影響で、下関市立大学ではまだ授業は始まっていない。5月18日から遠隔授業を始める予定で、教員は授業の準備に追われている。

 一方で教員は、今後大学が正常に運営されていくのかどうか、大きな不安を抱えている。大学では教員全体の9割がハン氏の教授採用や定款変更に反対してきた。教員たちは、これから理事会によって一方的な懲戒処分など、強権的な弾圧が行われるのではないかと危惧している。

 その危惧には理由がある。すでにハン氏が、自分の採用に反対した経済学部の学部長と副学部長の2人に対し、「プライバシーの侵害」と「名誉毀損」があったとして損害賠償を求める民事訴訟を起こしているからだ。

ハン氏の教授、理事、副学長就任以外にも、首を傾げざるを得ない人事が次々と明らかになっている。専攻科設置に伴いハン氏とともに採用された数人のうちの1人は、専任講師と昨年9月の教育研究審議会で報告されていたが、准教授として採用されたことがわかった。さらに、専攻科の事務職員が不正に採用された疑いもあるという。

 下関市立大学は1956年創立の下関商業短期大学を前身として、1962年に4年生大学になり、経済学部だけの単科大学としてこれまで実績を積み上げてきた。安定した黒字経営で、学生の就職状況も良好で、地方の名門公立大学として知られている存在だ。

 しかし、昨年6月以降生じている問題は、その実績だけでなく、今後の教育にも大きな影を落とす可能性がある。下関市立大学の動向は、今後も注視すべきだろう。

(文=田中圭太郎/ジャーナリスト)

2020年02月26日

安倍首相元秘書の前田市長、下関市立大学を私物化…ルール無視し人事と教育内容に介入

Business Journal(2020年02月26日)

安倍首相元秘書の前田市長、下関市立大学を私物化…ルール無視し人事と教育内容に介入

田中圭太郎/ジャーナリスト

 公職選挙法や政治資金規制法に違反している疑いがある、安倍首相主催の「桜を見る会」。疑惑について国会で議論されている最中の1月31日、安倍首相のお膝元である山口県下関市で、市民によるシンポジウムが開催された。シンポジウムのテーマは「桜を見る会疑惑」と「下関市立大学私物化」。会場の下関市民会館の中ホールは、350人の市民で満員となった。

 下関市は「桜を見る会」疑惑における重要な土地だ。安倍首相の事務所が、下関市などの地元後援会員を数百人規模で「桜を見る会」に招待していた。公式行事の私物化ともいえるこの行為を擁護しているのが、安部首相の元秘書、前田晋太郎下関市長。昨年11月18日の定例記者会見で「何十年も応援した代議士がトップを取り、招待状が届いて、今まで応援してきてよかったなって、いいじゃないですか」などと発言し、全国から批判を浴びた。

 この前田市長が主導しているのが、下関市立大学の「私物化」と言われる事態だ。経済学部しかない下関市立大学に、2021年4月から特別支援教育や、障害のある子どもと障害のない子どもがともに学ぶインクルーシブ教育について研究する専攻科を設置し、それに伴って教授ら数人の教員を採用することが昨年6月に決まった。専攻科は1年制の大学院のようなものだ。

 問題なのは、専攻科設置と採用が、大学の定款で定めている資格審査を経ずに、前田市長の要請によって強引に進められたことだ。その手法に専任教員の9割が反発。文部科学省も「規程に沿った適切な手続きを採ることが必要」とする「助言」を昨年8月に行った。

 すると前田市長は、学内の審査がなくても教育研究に関することや、教員の人事・懲戒などを理事会の審理だけで可能とする定款変更の議案を、昨年9月の市議会に提案。議案は市長派の議員によって可決された。理事長は下関市の元副市長であり、この行為は事実上、前田市長と市議会による大学の自治の破壊といえる。

 シンポジウムには、前田市長による下関市立大学の私物化に異を唱える識者が集結した。元東京地検特捜部の郷原信郎弁護士、元文部科学省官僚の寺脇研京都造形芸術大学教授、それに作曲家・指揮者の伊東乾東京大学准教授。3人は「桜を見る会」とは政治家による私物化という意味で共通する、下関市立大学の問題点を指摘し、「見逃すことができない大学破壊」だと断じた。シンポジウムの一部を、3人の発言から見ていきたい。

「違法ではない」からと言って許されるのか

 郷原氏はまず講演に登壇し、「桜を見る会」と「下関市立大学の私物化」を考えるうえで、コンプライアンスと法令遵守を結びつける考え方をいう発想を、頭の中から取り除いてほしいと説明。「法令に違反しなかったら何をやってもいいという考え方が組織の私物化を許すことになる」と訴えた。

 その上で、学内の審査を経ることなく、市の主導で教授などの採用を行うことを合法化した定款変更は、政治権力による「大学破壊」だと述べた。

 専攻科の設置と教員採用のきっかけは昨年5月。前田市長が大学の理事や管理職を市長応接室に呼び集めて、ある研究者を大学に招き入れたいと話したことだった。前田市長は「すごく人間味があって情熱的」「下関の何か役に立ってくれる方になりそう」などと発言。すると学内のルールを無視して、わずか3週間後にこの人物が教授に就くことなど、あわせて3人の採用が内定した。

 郷原氏は、「これでは大学は下関市の部局みたいなもの。大学はなんのためにあるのかを無視している。前田市長は桜を見る会の安倍首相による私物化を公然と擁護するような人物です。このような人物が主導して行う大学改革を許していいのでしょうか」と市民に問いかけた。

下関市立大学だけの問題ではない

 続いて開かれたパネルディスカッションでは、寺脇氏と伊東氏が参加し、郷原氏がモデレーターを務めた。

 下関市立大学は、国立大学が独立行政法人化したことを受けて、学内の議論の末に、2007年に公立大学法人に移行した。定款が変更されるまでは、教育や人事などの重要な内容は、学内の教授らで構成される教育研究審議会の審査を経て決定していた。それが定款変更によって、下関市の意向と、元副市長がトップを務める理事会の決定だけで教育も人事も決められるようになってしまったのだ。

 寺脇氏によると、文部科学省はそもそも国立大学を法人化する考えは持っていなかったという。ところが、2001年から2006年まで続いた小泉内閣で、国立大学を民営化する案が浮上。そんなわけにはいかないと、落とし所として独立行政法人化が決まったと説明した。大学の経営者が好き勝手に経営できないように、独立行政法人化することで歯止めをかけた形だ。

 その上で寺脇氏は「法律には違反していないからといって、なんでもできるようにすると、経営者が好きなようにできる。これは下関市立大学だけではなく、他の国立大学や公立大学でも問題になっている」として、「どこで食い止めるのかを、国民のみなさんにわかってもらわなければいけない」と警鐘を鳴らした。

 また伊東氏は、「学術的な水準を守るためには、教授会や学内審査などの仕掛けが必要不可欠」と述べ、教授会が軽い扱いになった下関市立大学の状態について、「教授会をないがしろにしてしまうと、大学は本当に大学でなくなる」と危惧した。

 さらに、経済学部しかない大学に特別支援教育の専攻科を設置することについては、「1人の先生と数人のスタッフ以外は誰もわからない専攻科をつくって、そこで出す学位は信用できるのでしょうか。学位としてほとんど意味のないものを出せば大学の自殺であり、学術的なガバナンスが完全になくなってしまう」と批判した。

 下関市立大学では昨年12月、前田市長や理事長の意向を受けて専攻科設置と採用人事を進めた学長の解任を、教育研究審議会が議決。現在、学長の解任を学長選考会議で議論しているが、結論が出る見通しは立っていない。そのなかで今年1月、専攻科の教授に内定している人物が、大学の理事に就任する不可解な事実も判明した。郷原氏は「下関市の介入がどうして正当化できるのか疑問。大学版桜を見る会問題として注目すべき問題だ」と話している。

(文=田中圭太郎/ジャーナリスト)


2019年12月18日

下関市立大、安倍首相の「お膝元」で進む元秘書市長主導の“大学破壊”

下関市立大、安倍首相の「お膝元」で進む元秘書市長主導の“大学破壊”

「詰んだ盤面のまま『説明』から逃げ続ける安倍首相」

 総理大臣主催の「桜を見る会」前夜祭に関する問題、安倍首相は「説明不能」の状態に陥り、将棋に例えれば、完全に「詰んだ」状況になったことは、【「桜を見る会」前夜祭、安倍首相説明の「詰み」を盤面解説】で詳述した。

 安倍首相が、いくら「詰んで」いても、潔く「投了」するような人物ではないことは、これまでの森友・加計問題などへの対応からも予測はしていたが(【“安倍王将”は「詰み」まで指し続けるのか】)、その後の展開は、まさにその予測どおりとなっている。

 私が「詰み」を指摘して以降、この問題への安倍首相の発言は、12月2日の参議院本会議の代表質問で、従来と同様の(詰んでいる)説明を「棒読み」しただけ、委員会での質疑も回避し続け、当初は、異例に時間をかけて行っていた官邸での「ぶら下がり会見」も一切行っていない。臨時国会閉会時の官邸での記者会見も、日頃から手懐けている「御用記者」に質問させ、従来どおりの説明を繰り返しただけだった。

 「一問一答」形式の対応、つまり「盤面に向かう」ということを行えば、「指せる手がない」ことが露見し、「投了」せざるを得なくなるので、それが、一切できないのだ。

 一方で、ニューオータニ側への「口封じ」の効果は続いているようで、内閣府から総理大臣夫妻主催晩餐会などの受注をしている受注業者が、内閣府のトップの首相側への利益供与が疑われるという、深刻な事態に至っているのに、前夜祭の主催者に対して当然発行されているはずの明細書の提示も説明も拒否している。日本の一流ホテル企業としてのブランドや信用が毀損しかねない状況に至っている。

 このように、「詰んだ盤面」のまま、一国の首相が説明責任から逃げ続けるという醜態を晒していても、その指揮下にある政府の各部門では業務が日々処理され、年の瀬が近づきつつある。

下関市大で起きている「大学版『桜を見る会』問題」

 こうした中、私は、先週末、安倍首相のお膝元の下関市に乗り込み、大学学会主催の、あるシンポジウムに参加し、基調講演者・パネラーとして登壇した。

 テーマは「大学改革の潮流と下関市立大学の将来」、それ自体は、近年、文科省が進めてきた「国公立大学改革」の中で、下関市立大学において、従来、教授会での慎重な審議を経て行われていた教員人事を外部者中心の理事会の権限だけで行えるようにする定款変更が、市議会の議決で行われようとしていることなどについて、大学のガバナンス・大学の自治・学問の自由という観点から議論する「学術シンポジウム」であった。

 しかし、今、下関市大で起きていることは、単に学術的な議論を行うことだけで済むような問題ではない。60年を超える歴史と伝統のある公立大学の下関市大に対して、安倍首相の元秘書の前田晋太郎市長を中心とする安倍首相直系の政治勢力が、大学を丸ごとその支配下に収めようとする露骨な画策をしている。それに対して、本来、歯止めになるべき山口県も、文科省も、安倍首相の政治権力に「忖度」しているためか、何も口を出さず、凄まじい勢いで「大学破壊」が行われようとしているのだ。

 「桜を見る会」問題の本質は、公費によって功労・功績者を慰労する目的で行われる会が、「安倍首相による地元有権者の歓待行事」と化し、後援会関係の招待者が膨れ上がって開催経費が予算を超えて膨張しても、安倍後援会関係者が傍若無人に大型バスで会場に乗り込んできても、何も物を言えず、黙認するしかないという、政府職員の「忖度」と「無力化」の構図である。

 前田市長は、その「桜を見る会」に毎年参加し、安倍首相の地元後援者の公費による歓待が問題化したことに対しても「何十年も応援した代議士がトップを取り、招待状が届いて、今まで応援してきてよかったなって、いいじゃないですか」などと放言し(【桜を見る会 安倍首相の元秘書・下関市長はこう答えた…定例記者会見・一問一答】)、ネット上の批判が炎上した人物だ。その市長が、下関市大への市の権限強化を強引に進めようとすることに対して、市も県も国も、全く異を唱えようとしない。

 下関市大で起きていることは、まさに、“大学版「桜を見る会」問題”に他ならない。

定款変更の策動の背景にある市長主導の「違法な教授採用」

 文科省が進めてきた「国公立大学改革」の下でも、さすがに今回のような定款変更は行われなかった。なぜ、下関市大でそのような暴挙が行われようとしているのか。そこには、大学側が公式には明らかにしていないものの、既に、市議会で取り上げられ、マスコミも報道している「専攻科の創設」とその教授等の採用人事の問題がある。(日刊ゲンダイ12月13日【“安倍側近”の下関市長 市立大人事「私物化疑惑」が大炎上】)

 報道によれば、下関市長は、某大学教員を、市立大学教員として採用するよう大学側に要請し、それを受けて、市長の意を汲む大学の幹部は、定款で定められている学内での資格審査等を経ずに専攻科設置方針の決定と教授等(3名の研究チーム)の採用内定を強行し、教員採用を内定し、しかも、下関市大は経済学部だけの単科大学なのに、その教授の専門分野の「特別支援教育」に関して、通常は、教育学部に設置される「特別専攻科」を設置させようとしている。これに対し専任教員の9割超が、専攻科構想の白紙撤回を求める署名を理事長に提出したとのことである。

 大学の教員採用には、その大学での研究教育を行うのに相応しい研究教育者を採用するための審査の手続が定められている。その手続について、大学の歴史の中で、過去の失敗も含めて議論を重ね、ルールが形成され、現在の下関市大には、しっかりしたルールが存在する。ところが、そのような大学教員の選任ルールが踏みにじられ、市長主導で、強引な「一本釣り人事」が行われようとしているというのである。

 そして、そのような人事が、「教員の人事は教育研究審議会での議を経る」こと、およびその前提として、すべての教員について、公募を前提とする厳正な審査や教授会での意見聴取を経ることなど、下関市大の「定款」以下諸規程の定める手続に違反しているとの批判を受けたことから、今度は、市主導で学内での審査を経ることなく教員採用の人事を合法的に行えるようにしたのが、今回の定款変更の動きなのである。

市立大学の経営・運営に対する市の責任とは

 前田市長が、選挙で選ばれた市のトップの市長は、同様に選挙で選ばれた市議会の多数の賛成を得れば、市立大学の予算も人事も好きなようにできると考えているのだとすれば、それは大きな間違いである。

 設置自治体と市立大学の関係は、そのような単純なものではない。

 確かに、市立大学の経営や運営について最終的な責任を負うのは市である。もし、市立大学の経営が悪化し、市に多額の財政負担を生じているような場合や大学の研究教育の成果が上がらず、それが募集倍率の低迷、就職率の悪化等で客観的に明らかになった場合などには、経営責任を負う市として、経営不振の原因になっている研究教育や教員人事、組織体制の構築等への介入が必要になることもあり得る。また、市の施策として、専門的な見地からの検討を行った上で、相応の予算と人員の投入を含めた市立大学の組織体制の抜本的変更の方針を打ち出すということも考えられないわけではない。

 しかし、下関市大の場合には、そのような事情は全くない。募集倍率も特に低くはなく、定員割れの学科もなく、就職率も安定して高い。また、比較的コストがかからない経済学部の単科大学ということもあり、大学の収支は良好で、市に財政的な負担をかけているわけではない。また、下関市大について、総合大学化などが、学内からの構想として検討されたことは何回かあるが、下関市の側で大学の組織体制の根本的な変更に向けて検討され、特定の学問分野について具体的な構想が提示されたことはないようである。
政治的意図による「大学破壊」で、学生、卒業生利益を害してはならない

 今回の下関市主導の「一本釣り教員人事」と、それを可能にする理事会主導のガバナンスに向けての定款変更は、設置者の下関市としての経営責任の観点によるものでも、大学の組織改革の構想に基づくものでもないことは明らかである。学内手続を無視した教授人事を強行しようとしている背景が、安倍首相自身、或いは、昭恵夫人の意向なのか、前田市長自身の個人的意向なのかはわからない。しかし、いずれにしても、政治的な意図から、違法な教授人事と、公立大学を安倍首相直系の政治勢力の支配下に収めようとする策謀が進められようとしていることは紛れもない事実である。

 このようなことを許せば、これまで以上に、学生が負担する授業料の安定的な収益が市の財政に流用され、大学の教育環境が破壊されていくおそれがある(現在も、市の公共工事による校舎整備にはふんだんに予算が使われているが、その一方で、パソコン環境も十分に整備されていないことを、シンポジウムで学生の一人が訴えていた)。

 また、下関市大が、「加計学園の大学のように安倍首相のお友達を集めた大学」と世の中に認識されるようなことになれば、伝統ある下関市大の卒業生にとって、これ程不幸なことはない。

大学幹部も、市も、県も文科省も、なぜ「長いものに巻かれてしまう」のか

 それにしても、今、安倍首相のお膝元の下関市で市立大学をめぐって起きていることを知れば知るほど、本当に「絶望的な思い」にかられる。このような明らかに不当な政治的動機による教員採用人事、専攻科設置とそれを契機とする定款変更などの「大学破壊」に、なぜ、理事長、学長など大学幹部が唯々諾々と応じるのか。教授等の人事は、学内規程で定められている「教育研究審議会の議」も、さらにその前提となる公募、審査や教授会の意見聴取等も経ておらず、明らかに違法であるのに、なぜ、弁護士たる監事が、「違法ではない」などという弁護士倫理にも反する監査意見書を提出するのか(これについては、他の中立的立場の4人の弁護士が「違法」との意見書を提出している。毎日新聞12月7日地方版【下関市立大専攻科新設手続き巡り 弁護士の意見書提出 副学部長、教員採用過程検証求める /山口】)。市大の設置者の下関市の担当部局は、このような露骨な不当な大学への政治介入を推し進めることに良心の呵責を感じないのか。山口県の担当部局は、過去に公立大学ではあり得なかった不当な定款変更の認可に抵抗を覚えないのか。そして、大学の自治、学問の自由にも配慮しつつ高等学校教育に関する行政を進めてきた文科省は、このような違法な教員人事や不当な定款変更の動きに対して、なぜ手をこまねいて見ているのか。これらすべてが、「安倍一強の権力集中」の中では「長いものにはまかれろ」ということなのであろうか。

 「桜を見る会」をめぐる問題について完全に「説明不能」の状況に陥っている安倍首相を、「当然の辞任」に一日も早く追い込むこと以外に、この国を救う手立てはない。


“安倍側近”の下関市長 市立大人事「私物化疑惑」が大炎上

■日刊現代
 ∟●“安倍側近”の下関市長 市立大人事「私物化疑惑」が大炎上

 第2の「加計問題」か。安倍首相の「お膝元」山口・下関市で“側近”による「大学私物化疑惑」が取り沙汰され、大炎上している。

 舞台となっているのは、経済学部のみの単科大学として1962年に設置された「下関市立大学」。突然「専攻科」の新設が決まったうえ、かつて安倍首相の秘書だった前田晋太郎市長が、教員人事をトップダウンで決めたのではないか、という疑惑が浮上しているのだ。

 教員の9割超から計画の白紙撤回を求める署名が集まる、異常事態になっている。

 市立大に新設されるのは「特別支援教育特別専攻科」。発達障害のある子供らの教育支援のため、専門的知識を持つ人材を育てるのが目的で、1学年定員10人を予定している。1年間学ぶと特別支援教員免許を取得できる専攻科は、2021年4月開設予定だ。来年度初頭からは、一般向けのリカレント(学び直し)センターを設置する方針となっている。

■規定の審議会を経ずに決定

 不自然なのは、新設計画が「降って湧いた」(地元関係者)ことだ。計画について教職員らが知らされたのは今年5月末。大学事務局から突然メールが送られてきたという。6月6日には、計画の中身と3人の教員採用について、理事長から一方的な説明がなされたそうだ。大学の定款では、教員人事や教育課程について、学内の「教育研究審議会」などの審議を経ることが規定されているが、こうした過程を経ずに決められたという。

 さすがに、この拙速な決定に、市議会では疑問の声が噴出している。きのう(12日)の市議会では、田辺よし子議員(無所属)が、「なぜこんなにバタバタと決まったのか」「科を新設するのなら、学内でじっくり協議すべきではないのか」「前田市長の独断で決まったように見える」と追及。今井弘文総務部長は「市長公約の『総合大学化』ということもありまして……」と本音をチラリとのぞかせていた。田辺議員はこう憤る。

「人事について、学内の審議も経ていないわけですから、民主主義からはほど遠い決定です。仮に市長が大学の人事に手を突っ込んだとなると、大学のガバナンスにもかかわる問題です」

 加計問題では“総理のご意向”で新学部設置が優先的に認可された。下関では“市長のご意向”が働いたということなのか。


2019年12月08日

弁護士の意見書提出 下関市立大専攻科新設手続き巡り 副学部長 教員採用過程検証求める

毎日新聞(下関)2019年12月07日

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下関市立大教員任用、4弁護士「違反」 大学側に意見書

朝日新聞(山口・下関)2019年12月07日

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2019年11月01日

下関市立大、臨時監査結果報告書提出 不正行為「認められず」

毎日新聞・下関(2019年10月31日)

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下関市立大監査、教授側が「不当」

朝日新聞・下関(2019年11月1日)

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下関l市大の専攻科新設、臨時監査「手続きは拙速」

朝日新聞・下関(2019年10月31日)

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2019年10月30日

下関市大問題、臨時監査 大学側の手続きは拙速

NHK山口(2019年10月30日)

下関市立大学が、新たな教員の採用に向けて定款の変更を県に申請したことに、学部長などが反発している問題について、弁護士などによる臨時監査が行われ、「著しく不当な事実は認められなかった」とする一方で、「大学側の手続きが拙速だ」と指摘して、より丁寧な対応を求めました。

下関市立大学では、新たな専攻科の設置に向け、教員の採用や定款変更の手続きを進めていますが、大学の学部長などが「定款の変更は透明性や公正さを損なう恐れがある」などと反発し、県に定款変更を認可しないよう求めています。
こうした中、大学の監事の弁護士と税理士が、この問題について臨時監査を行い、30日、報告書をまとめました。
それによりますと、「大学側に不正行為は認められず、法令違反や著しく不当な事実は認められなかった」としています。
その一方で、一連の手続きの進め方について、「拙速で、教授側に強い抵抗感があることは理解できた」などと指摘し、大学側により丁寧な対応を求めています。
これについて、下関市立大学の砂原雅夫事務局長は、「今後も法令などを順守し、引き続き、専攻科の設置に向けて準備を進めていく」とコメントしています。


2019年10月26日

専攻科新設を見直せ、下関市大学部長ら作業中断を請願

しんぶん赤旗(2019年10月25日)

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2019年10月23日

下関市立大、大学定款変更に瑕疵 学部長ら山口県に留保請願

しんぶん赤旗(2019年10月19日)

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下関市立大定款変更、同大理事ら県に不認可申し入れ

毎日新聞(2019年10月19日)

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2019年10月19日

下関市立大、学部長らが県に請願

NHK山口(2019年10月18日)

下関市にある市立の単科大学で、教員の人事などをめぐり、市議会が大学の定款を変更する議決をしたことは問題だとして、学部長らが、定款の変更を認可する県に対して、留保を求める請願を行いました。

下関市立大学の教員の人事などをめぐっては、市が先月、大学の経済学部の教授などが入る審議会を経ずに、新たに設けられる▼諮問機関としての「人事評価委員会」や▼外部の有識者も加わった議決機関としての「理事会」を経るように、大学の定款を変更する議案を議会に提出し、議決されました。
これについて、大学で唯一となる経済学部の飯塚靖学部長は、18日県庁を訪れ、定款を変更するのは問題だとして、変更を認可するかどうかを決める県に対して、留保を求める請願書を担当者に手渡しました。
請願書では、審議会を経ずに教員人事などが行われれば、透明性や公正さを損なう恐れがあるなどと指摘しています。
請願書を県に提出したあと、飯塚学部長は記者会見し、「定款変更の議決は極めて遺憾だ。県にはきちんと内容を吟味して審査してほしい」と述べました。
下関市立大学は経済学部だけの単科大学ですが、前田市長は多様な人材の輩出をめざして、総合大学にすることを公約に掲げていて、障害がある子どもへの教育法を学ぶ、新たな「専攻科」を設置する準備を進めています。
飯塚学部長などは、前田市長などが一方的に、新たな教員の人選も進めているなどと批判し、一連の手続きを問題視していますが、これについて下関市の山田之彦総務課長は、「手続きに問題はなかった。県に適正に審査してもらいたい」とコメントしています。


下関市大、県に定款変更の留保 学部長ら請願書

朝日新聞、山口・下関版(2019年10月19日)

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下関市大、専攻科巡り教授ら県に定款変更の留保要望

毎日新聞、下関版(2019年10月19日)

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2019年10月18日

下関市立大学、「戦後の大学が保障されてきた専門家によるピア・レビュー体制を破壊する計画が進行中」石原俊・明治学院大学教授が批判

論座
 ∟●「戦後文教行政の「最後の一線」が決壊する」より抜粋

 下関市立大学は、経済学部のみの小規模な単科大学ながら、前身の短期大学から数えれば60年以上の歴史をもつ、西南日本の名門公立大学だ。この大学をめぐっていま、戦後の大学が保障されてきた専門家によるピア・レビュー体制を破壊する計画が進行中である。

 今年5月末、前田晋太郎・下関市長(安倍首相の元秘書)が、下関市大の理事長(元副市長)や学長ら幹部を市長室に呼び出し、インクルーシブ教育(または特別支援教育)の「専攻科」を学内に新設し、市長が推薦した特定の候補者を教員として採用するよう要請した。

 市長の意向を受けた下関市大の法人幹部は、教育・研究に関する学内の最高審議機関である教育研究審議会(教研審:国立大学の教育研究評議会に相当)を招集して、3名の教員候補者の採用について承認を取り付けようとした。だが、学内教員・研究者からなる審査委員会による業績審査、教授会への諮問といった、人事に必要な手続きを一切経ていないとして、教員の大多数が猛反発するなか、教研審は流会となってしまった。

 ところが大学法人幹部は、経営に関する学内の最高審議機関である経営審議会(経営審:国立大学の経営協議会に相当)を開催して「専攻科」新設方針を決定し、さらにその後まもなく、3名の候補者に対して「内定」を通知したのである。これは、「教育研究に関する規程の制定・改廃」「教員の人事」等について教研審の審議が必要であるとする、下関市大の定款(学則)さえもないがしろにする行為だ(朝日新聞9月19日朝刊 山口版、毎日新聞9月11日朝刊 山口・下関版)。

 こうした異常事態を受けて8月に入ると、文部科学省高等教育局大学振興課法規係が大学側に対し、「教員採用手続の適切性に疑義が生じていることは好ましくない」としてメールで「助言」をおこなった。担当官は、「教授会に対する意見聴取を経ずに採用を内定とすること」が、「学内規程に則らない手続となっているおそれがある」としたうえで、「全学教授会、学部教授会の位置づけや権能を明確にするよう学則を見直した上で、学内規程に沿った適切な手続を採ることが必要になる」と述べた(『山口民報』9月15日)。文科省から下関市大への事実上の指導であった。

 ところが8月末、下関市当局は大学側に一切の相談もなく、もちろん学内の教研審や経営審の審議を経ることもなく、大学の定款変更の議案を市議会に提出した。この議案は、教研審の審議事項から「教育研究に関する規程の制定・改廃」「教員の人事」等を除外し、非研究者を多数含む新設の理事会がこれらの権限を吸収するというものだった。当然にも市議会野党議員から批判が相次いだが、9月26日(「あいトリ」への補助金不交付決定と同じ日だ!)、与党会派(安倍首相に近い会派)などの賛成多数によって、議案は原案通り可決されてしまったのである――加えて本件では、市議会与党会派議員の一部と大学経営審委員の一部に、それぞれ重大な利益相反の疑惑があるのだが、本稿ではあえて横に置く――。

 戦後日本の大学は、憲法23条の原則のもと、教育内容・研究内容やカリキュラム、研究者・教員の人事に関しては、学内に従来から所属する専門家の審査や審議を経て決められるという、ピア・レビューに支えられた自治制度を維持してきた。ましてや戦後日本の大学制度は、行政(政府・自治体)の長や議会が教育研究内容や教員・研究者の人事を左右することなど認めていない――新設部局・コースのおおまかな方向性を行政権力が大学側に要請することなら認められているが――。日本の大学のガバナンスにおいて、想定されていないこと、あってはならないことが、いま下関市の行政権力によって進められているのだ。

 文科省側は下関市大側に対して、専門家による最低限のピア・レビュー(人事評価委員会による業績審査、教授会への諮問、教研審での審議)を経ることを含め、学則にしたがった手続きをやり直すよう「助言」した。これに対して、下関市当局は、後出しジャンケンで自らの「違法」行為を追認する定款(学則)改正をおこなったことになる。言葉は悪いが、文科省の指導は、下関市の行政権力によってコケにされたというわけだ。文科省は25万都市の首長と市議会与党から、完全に「足元をみられている」。


2019年09月25日

下関市立大・専攻科設置問題、「引くわけにはいかない」市長による市議会答弁

毎日新聞(山口・下関)2019年9月25日付

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下関市立大学を私物化するな 市長による教員の縁故採用は許されるのか モリカケに通じる問題の性質

■長周新聞
 ∟●下関市立大学を私物化するな 市長による教員の縁故採用は許されるのか モリカケに通じる問題の性質(2019年9月21日)

 下関市議会9月定例会で本紙記者でもある本池涼子市議は18日、一般質問に立ち、下関市立大学に新しい専攻科を設置する動きが9割の教員の反対を押し切って強引に進められている問題について追及した。その質問と答弁の要旨を紹介する。

 本池 下関市立大学への専攻科の設置について質問する。9月11日付の毎日新聞で報道され、既にご存じの方も多いかと思うが、「日本の大学のシステムとして想定されていないこと」がこの下関の街で、下関市長や元副市長たちがかかわった下関市立大学で起こっているという事実に衝撃を受けている。

 その記事の見出しには「教研審経ずに計画進行」「理事長(元副市長の山村氏) 市長の要望受け担当教員採用」「教員9割が撤回求める」とあり、「ガバナンス上大いに問題」として、大学のガバナンス(統治)に詳しい明治学院大の石原教授の話として、「学内にこれまでなかった組織をつくるときには、従来いる専門家(教員)の意見を聞きながら進めるのが当然だ。そもそも、事前に教育研究審議会で承認を得ない限り、教育研究の中身に関わる人事やカリキュラムを決めることはできない。日本の大学のシステムとして想定されていないことを市長と理事長が決めているということは、大学のガバナンス上、大いに問題がある」との意見が紹介されていた。

 何度も申し上げるが、「日本の大学のシステムとして想定されていないこと」が下関市立大学では起こっているというのだ。……(以下,省略,あとは当該新聞記事で)


2019年09月21日

文科省が下関市大に助言、事案は規定に則らぬ恐れ

山口民報(2019年9月15日)

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下関l市大専攻科設置、「要望」巡り食い違い

朝日新聞(2019年9月19日)

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下関下関市大の定款大幅変更へ、市議会委「可決すべき」

朝日新聞(2019年9月4日)
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2019年09月13日

下関市立大専攻科新設計画問題、「ガバナンス上大いに問題」

■毎日新聞
 ∟●下関市立大、揺れる専攻科新設計画 理事長、市長の要望受け担当教員採用(2019年9月11日)

同記事には,この問題に詳しい研究者による以下のようなコメントが付いていた。それを掲載する。

ガバナンス上 大いに問題

大学のガバナンス(統治)に詳しい石原俊・明治学院大教授(社会学)の話 学内にこれまで無かった組織を作る時には、従来いる専門家(教員)の意見を聴きながら進めるのが当然だ。そもそも、事前に教育研究審議会で承認を得ない限り、教育研究の中身に関わる人事やカリキュラムを決めることはできない。日本の大学のシステムとして想定されていないことを市長と理事長が決めているということは、大学のガバナンス上、大いに問題がある。計画がこのまま進めば、学長や理事長に教員が協力せず、大学が機能しなくなるおそれがある。


2019年09月11日

下関市立大、揺れる専攻科新設計画 理事長、市長の要望受け担当教員採用

■毎日新聞
 ∟●下関市立大、揺れる専攻科新設計画 理事長、市長の要望受け担当教員採用(2019年9月11日)

 山口県下関市の市立大学(川波洋一学長)が、特別支援教育の専攻科を新設する計画を巡って揺れている。計画は、同大設置者である市の前田晋太郎市長の要望を受け、山村重彰理事長ら大学経営側が教授らの審議を経ずに約1カ月で方針を決め、担当教員の採用を内定した。専門家は、学内に新しい組織を作る際は、既にいる教授らの意見を聴きながら進めるべきだと指摘している。【佐藤緑平】

教研審経ずに計画進行

 前田市長は6月4日、山村理事長宛ての文書で、大卒者らを対象とするインクルーシブ教育(障害児と健常児が共に学ぶ教育法)の専攻科設置などに取り組むよう要請した。

 同大の定款は教員人事や、教育課程の編成に関する事項は、教育研究審議会(教研審)で教授らの意見を聴くよう定めている。関係者によると大学側は今回、教研審を開いていない段階で教員に対し、専攻科の組織概要を説明し、担当教授として「採用を想定している」とし、特定の研究者の名を挙げたという。同20日の教授会では山村理事長が「市長の意を介して、私も意志を持って(計画を)実行している」などと話したとされる。

 大学側は同25、26両日、専攻科設置などの議題で教研審開催を呼び掛けたが、反対する教授らの欠席で流会。欠席した1人は「市長が意向を示し、理事長が実行するのは学則に違反する。そのことについて議論はできなかった」と話す。

 大学側は欠席を事実上の権利放棄と判断し、同26日の経営審議会で、2021年度に専攻科を開設するなどの方針を決めた。同28日には担当の教授、准教授、講師として、名前を挙げていた研究者ら3人に採用内定を通知。関係者によると、内定した教授は事前に前田市長が大学側に推薦していた研究者で、5月30日に市長応接室で山村理事長らに対し「(研究者と)ぜひ会ってほしい。下関の何か役に立ってくれる方になりそうだ」などと話していたという。

教員9割が撤回求める

 毎日新聞の取材に前田市長は「(内定した教授は)情熱的で頭が良く、改革志向で前進しようという気持ちが強い。下関で発達障害の子に対応する良い仕組みを取り入れたかった」と発言を認めた。「個人的な利益誘導や、誰かの思いでやっていることではない」とし「大学が少子化に立ち向かうため、変化を求めて良くしていかないと維持できない危機感がある」と話した。

 計画を巡っては、同大教授会の9割を超える教員51人が撤回を求めて文書に署名し、7月に大学側に提出している。


下関市立大学で何が起きているか、「市長が持ち出した人物をルールを破って教授に採用」

山口民報(2019年9月8日)の「下関市立大学で何が起きているか」の記事を掲載します。
http://university.main.jp/blog/bunsyo/190908yamaguchiminpou.pdf

2019年07月30日

下関市大、経営側と教授ら専攻科新設巡り対立

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下関市大、専攻科の新設「白紙撤回を」教授会の9割が反対署名

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下関市立大 新専攻科設置巡り対立 経営陣に撤回求め署名提出 教員側「実績ないのに学生集まるか」

■毎日新聞(2019年7月27日)

下関市立大の理事長らが強引に新たな専攻科などを設置しようとしているとして、撤回を求める署名を同大の教授会の9割を超える教員51人が25日、大学側に提出した。大学の理事を務める飯塚靖経済学部長を含む教授4人が26日、記者会見して明らかにした。

 教授らによると、大学側が設置を計画しているのは「特別支援教育特別専攻科」。発達障害児などの教育を支援するため、専門的な知識を持つ人材を育てるのが目的としている。1学年10人が1年間学び、特別支援教員免許1種を取得できるほか、学内外向けの講座なども開く予定。2021年春の開設を目指しているという。

 教職員は5月31日に突然大学事務局からメールで計画を知らされ、6月6日に山村重彰理事長から説明があ…


2018年09月24日

彼らは何を隠しているのか?(3) 下関市立大学トイレ改修工事損害賠償事件の調査報告書より

長周新聞
 ∟●彼らは何を隠しているのか? (3) 下関市立大学トイレ改修工事損害賠償事件の調査報告書より

彼らは何を隠しているのか? (3) 下関市立大学トイレ改修工事損害賠償事件の調査報告書より

山口県2018年9月19日

1、市民からの主要な意見等

・この件は市大での出来事なのに、どうして市大が議会に出て説明しないのか。その方が話が早い。
・市大は法律的には市とは別団体かも知れないが、市民から見たら市役所内の一組織である。
・荻野理事長と砂原事務局長の発言には腹が立った。無責任のうえに人を小馬鹿にしている。市大への愛情を感じない。10月に市大の議会審議があるというので、どのようなことが聞けるのか楽しみだ。
・U事務局長、Sグループ長のみに責任を負わせ、それで済ませようとするのはおかしい。M元理事長、荻野元副理事長にも責任がある。UとSに責任を押しつけたのか。
・市大はどうなっているのか。高い報酬をもらっているというが、M元理事長も荻野現理事長も組織管理が出来ていないし責任もとっていない。会社で不祥事があればトップが謝罪し、トップがそれなりの責任をとっている。
・調査報告書を読むと、市大にとっては公金を失い、その回収の処理がまずく、その後の市大幹部の対応も最悪。市大にとってはお金の損失であり、名誉の大損失である。こんな時に理事長や事務局長が積極的に表に出てこないでどうする。事態収拾や名誉回復に向けて、誤解が生じているのなら誤解の解消に向けて、汗をかくのが常識的対応ではないか。その為の地位であり、高額報酬ではないか。このような時に役に立たない理事長や事務局長なら不要だ。一生懸命頑張っている市大の教職員のためにもトップが早く積極的に出てきて事態収拾を図ってほしい。
・和解をした当人の答弁が和解内容を知らない人の「知らない」という答弁と同じだということはあり得ません。ウソです。荻野理事長は学長から理事長になったということですから教育者です。教育者のトップを勤められた人が礼儀を失したことをする、ウソを云うでは困ったものです。
・今回の調査報告書では荻野理事長の責任論を厳しく指摘しているが、これまでこの問題の一番の責任者である荻野理事長に対する責任論が余り言われてこなかったのはおかしかった。万一、全額(1610万5000円)の返済が終わっていなかったら、荻野理事長の背任的行為が原因であり、荻野理事長が賠償責任を負うべきである。

2、市民の疑問、意見等をお聞きして

 責任を負うべきは市大なのに、市大はなぜ議会に出てこないのか。U事務局長、Sグループ長のみに責任を負わせてそれで済むのか。責任を負うべき者がいるのになぜ責任を負わせないのか。なぜ表に出てこないのか、というご意見をいただいたが、その通りだと思う。

 市大の市議会への出席であるが、市大も以前は市の一組織として議会審議に出ていたが、独立行政法人化してからは議会には出なくなった。このため市大に関する議会対応は市総務部、総務課が行うこととなっている。しかし、市が全額出資している団体、法人が市議会のチェックを何も受けないのはおかしいということで、毎年特別委員会を設置し、年1回審査していた。この時は市大が議会に出席した。

 しかし、今年はどのような理由からか分からないが、特別委員会の設置はやめて、総務委員会で審査することにしたとのことである。当初は9月議会の後、10月に開催するといわれていたが、先日の総務委員会のなかで「市大の要望により」急遽9月19日、つまり9月定例会の会期中に開催することが決まったようである。日程からすると一般質問よりも先になる。ここに市大の理事長、事務局長が出席する予定のようである。

 本事件は、その損害の発生から和解まで全て市大での事件である。この点では、新旧総務部長と元総務課長は市大が起こした事件のとばっちりを受けたともいえよう。そのとばっちりを上手に処理できなかった、議会での答弁がまずかったという責任はあるが、本件の責任論からいえば2次的立場である。

 これまでは議会対応がまずかったのは市の責任であると考えていた。多くの市民もそのように思っていたが、実際には市よりまだ重い責任を負うべきなのは市大であるということが明確になった。

 先の調査報告書にあるように、砂原事務局長は本池市議が荻野理事長への面会を要請した際、質問内容まで聞いたうえ「荻野理事長も総務部長答弁と同じだから面会しない」と明言した。砂原事務局長自身も質問事項を知ったうえで、「総務部長答弁と同じ」と明言した。調べればすぐ分かることを「知らない」と。荻野理事長は和解した当事者である。和解内容は当然知っているはずである。その人が「和解内容は知らない、市大から聞いていない」という答弁をした市総務部長と同じと考えられないようなことを明言した。荻野、砂原答弁で本件についての議会対応は総務部の責任と考えていたが、市大と総務部に共同責任があることが分かった。

 荻野理事長はこれまで議会にも出ず発言しなくて済んだし、大学という高い壁に守られて表に出ることが少ないため、議員や市民の批判を直接受けることもなくて済んだ。責任を問う声を受けたこともなかったと思う。しかし、ここにきてやっと本人の自覚はともかく、重い責任を負っているということがはっきりしてきた。市大が出席する市議会総務委員会に期待したい。

 次にM元理事長の責任については、調査報告書でも述べたように990万円の損害については、前払金支払いの書類を見ていなくても、組織のトップとしての責任がある。620万5000円の損害については、業者決定の書類を決裁しているのだから、直接的責任があった。賠償責任金額については別途精査する必要があるだろう。本人がなぜ賠償しようとしなかったのか、市大がなぜ損害賠償の請求をしなかったのか不思議である。

 M元理事長の責任問題については、平成24年7月17日の市議会総務委員会に市は「損害賠償にかかる訴えの提起について(下関市立大学A講義棟トイレ改修工事)」を報告したが、その際、議員(当時)C氏が「理事長がすべての責任があるにもかかわらず、3人ではなく、なぜ2人を提訴するのか」と発言している。損害賠償請求の相手方(被告)としてU事務局長、Sグループ長だけではなくM理事長も入れるべきだと主張している。市民からもそのような声は寄せられている。M元理事長がどのように考えているのか、一度聞いてみたいものである。

 市民からの意見にもあった損害賠償金が全額回収できなかった場合の荻野理事長の責任についてであるが、まず回収状況、遅延損害金の状況などを明確にすることが第一である。明確にすることは荻野理事長の責務である。そして、万一損害賠償金が全額完納されていない場合の荻野理事長の賠償責任であるが、990万円については裁判上の和解であり、強制執行ができるので完納はされるはずである。ただ、当然もらうべき遅延損害金がどうなっているかは問題である。

 620万5000円については、どのような賠償条件になっているのかが解らないが(先の報告書でも触れているが、620万5000円については議会での質問に答える義務があるのに答えていない。下関市議会では極めて不適正な議会・議員無視のようなことが何年にもわたって行われている)、強制徴収はできないと思われる。平成25年7月16日の和解からすでに5年が経過している。この間、何回も回収状況を問われ、賠償金の確実な回収を言われながら回収状況は答えず、賠償金の確実な回収策も取らなかった。従って、もしも全額完納されていないなら、荻野理事長に賠償責任が生じるのは当然である。職務を果たさなかったために損害金の回収ができなかったのだから。

 民間会社では、似たようなケースで民法644条で規定された善管注意義務違反にあたるとして賠償するよう命じた判決もある。本件のケースは賠償されない可能性があることが十分に予見され、指摘されながら放置したため、損害が発生し、市大の名誉も傷つけられたというケースなので、賠償はもちろんのこと、引責辞任も求められるものであろう。そうでなければ下関市民の理解は得られない。下関市民は納得しない。それほど責任の重いものだと考える。9月19日の開かれる市議会総務委員会でどのような進展を見せるのか注視したい。

 なお、先の報告書の「市立大学の不誠実かつ不可解な対応」の中でも書いているが、本池市議が砂原事務局長に荻野理事長への面会を要請したが、結局、拒否された。そのため本池市議が7月下旬頃「面会拒否の理由をちゃんと書いてもらいたい」と頼んだら、砂原事務局長は「わかった」と答えた。ここまでが先の調査報告書に書いたやりとりである。あれから相当時間が経つし、どうなったか本池市議に聞いたところ、9月11日現在、未だにもらっていないということだった。どうしてこのようなことができるのかよく分からない。一般社会の感覚では理解し難いが、公務員の世界、あるいは下関市役所ではこのようなことは普通のことなのだろうか。

「秘密条項付の和解」は本当に秘密が保たれていたのか

 市と市大の論理は破たんしている。いや、最初から論理などなかったと思われる。市と市大は次のように考えたのではないか。

 裁判上(訴訟上)の和解であり、裁判所で和解内容は非公表ということが決まったと裁判所の名前を出せば、市議会も市民も権威ある決定と思い、何も言わないだろう。たとえ質問があっても「裁判所で非公表が決まったので公表できない」と言えばしのげるだろう。そのように安易に考えたとしか思えない。

 そして、和解内容を少しでも答えると、矛盾が次々に生じ、次々に答えないといけないようになり、結局隠すことが難しくなってしまう。もし、和解内容がバレると「公益(市大の利益)より私益(被告の利益)を優先した和解だ」と市議会や市民から批判、追及される恐れがある。また、和解条項の中に「和解内容は非公表とする。ただし、原告が議会に報告する場合はこの限りではないが(以下略)」という条項もある。これも隠す必要がある。

 このようなことから「裁判上の和解で非公表に決まった」と裁判(所)を強調し、これを盾にすれば完全黙秘で議会をすり抜けることが出来るはずだ。このように考えたのではないか。

 裁判上の和解とは、訴訟中であっても、裁判所の関与のもとで、両当事者が譲り合い、和解して訴訟が終了する。そして、和解の条件を裁判所の調書に記載すると、その記載は「和解調書」となり、確定判決と同じ効力を有する、というものである。

 あくまでも和解は両当事者が納得しないと成立しないものである。本件は、裁判所が非公表にせよと言ったのではない。市大が被告との話し合いの中で非公表を支持したのである。それを裁判所が認め、いわばそれにお墨付きを与えたというものである。

 議会も、和解内容を議会にも一切言わないというのは納得がいかないという議員もいたが、大勢にはならず、結局抑えられてしまった。議会もなめられてしまったものである。法律専門家を自負する議員や論客を自負する議員もいるのに。

 市も市大もこれで完全黙秘が成功したと思ったに違いない。しかし、市民はそう簡単には騙されない。市民の中には本当の法律専門家もいるし、理屈、理論に鋭い人もいる。あるいは真実は何か、本来どうあるべきなのかを冷静に判断できる人もいる。

 このたび調査チームを結成してみて、改めてそのように実感した。調査チームに多くの情報が寄せられるが、その中で分かったことは、市や市大が隠し通していると思っていた和解内容は、すでに一部市民にはもれていたようである。

 市も市大も、真実を話さないと大変なことになるということを自覚した方が良い。もう無責任答弁が許される状況ではないことを自覚した方が良い。今井総務部長も従来の答弁に縛られるのではなく、自分がその答弁に責任を負えると確信できる答弁をするようにした方が良い。本件について、その犠牲者を少なくし、市民の理解を得るためには、まず関係職員が真実を隠さず話すことが第一。事実関係を明確にすることが第一。それに向けて議長が尽力すべきである。市長がリーダーシップを発揮するべきである。

 和解(秘密条項付の和解)は、平成25年7月16日に成立した。

 この和解内容の一部を、平成25年8月29日にY新聞が報道した。

 原告、被告ともに裁判上の秘密条項付の和解なので、新聞報道があるまでは和解内容が外部に漏れることはないと考えていたようである。しかし、民事訴訟法ではだれでも訴訟記録の閲覧ができると規定されており、たとえ秘密条項付の和解であっても訴訟記録は原則公開である。閲覧等の制限は別途、裁判所の決定を必要としている。

 Y新聞は閲覧制限のかかっていない訴訟記録を見て和解内容を報道したものと思われる。ここで早くも和解内容は漏れているのである。このため原告、被告ともにあわてて閲覧等の制限の決定を得るための諸手続きを行い、その後、ようやく閲覧等の制限の決定がなされた。

 しかし、和解成立から訴訟記録等の閲覧制限の決定までおよそ2カ月の期間を要し、この間は訴訟記録の閲覧は自由であった。この間は和解の内容を見ることは自由であった。とても完全に秘密を保てる状況ではなかったということである。

 訴訟記録等の閲覧制限については、民事訴訟法92条に規定されている。本件は92条第1項を適用したと思われるが、92条第1項は次のようになっている。

 「訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され、又は記載されており、かつ、第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより、その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあること」。このように訴訟記録の閲覧制限にはかなり厳しい要件が必要になっている。本件は何度も述べているように職員の違法かつ不適正な行為、事務処理による公金の損害賠償請求事件である。その違法行為や不適正な事務処理は議会にも報告されている。新聞にも報じられている。その和解についての訴訟記録が閲覧されるとどうして、どのような「当事者が社会生活を営むのに著しい支障が生じる恐れがある」というのか疑問である。

 本件は再三主張しているように、一定の被告のプライバシーに配慮することは必要だろうが、本来、議会(市民)に和解内容を言って、議会にその和解内容を理解してもらうようにすべきであって、こっそりと都合よく内緒に処理すべき事案ではない。事態は本来のあるべき方向に進みつつあるように感じる。また、進めなければならない。

 国政においては、虚偽答弁で結局辞職に追い込まれた官僚もいたが、私たちはそのようなことが目的ではない。また、本件は議会答弁にあたった市職員の責任が最も重いとは考えていない。たしかに実質的な答弁拒否の連続で議会審議の停滞を招いたことには大きな責任があるが、市大から答弁できる資料の提示がなかったということで、積極的に隠そうとしたのではないような印象も受ける。ただ、資料の提出を求めたのに市大に拒否されたのか、それとも最初から資料の提出を求めなかったのか如何によって責任は大きく変わってくるが。

 本件で最も重い責任を負っているのは市大である。もう他人事のような対応は許されないことを自覚してほしい。市大の責任者は、市大がどれほど市民から高く評価されているか。市民からの高い評価を得られる今日の市大を築くまでに、どれほどの先輩教職員が努力し頑張ってきたかに思いを巡らせてほしい。本件については、損害の発生からその処理に至るまで大学の対応は最低で、大学に対する市民の評価を著しく傷つけるものになっている。

 市大のために一生懸命頑張っている現職の教職員をがっかりさせているという声が多く聞こえてくる。本件以外のことについても「責任の自覚」という声が多く聞こえてくる。いずれにしろ、市民のための市政である。関係者は真実を述べ、反省すべきは反省していただきたい。

 これ以上真実が隠されると、市民感情がますます厳しくなって、責任追及論になってきそうである。そのようなことにならないことを願っている。


彼らは何を隠しているのか?(2) 下関市立大学トイレ改修問題調査チームより

長周新聞
 ∟●彼らは何を隠しているのか?(2) 下関市立大学トイレ改修問題調査チームより

彼らは何を隠しているのか?(2) 下関市立大学トイレ改修問題調査チームより

山口県2018年8月23日

調査チームより皆様へ

 この問題に市民の関心は深いようで、いろいろなご意見、情報、疑問などをお寄せいただきました。今後、皆様から寄せられたご意見や情報、疑問点などを参考にさせていただき、調査チームで調査のうえ、お知らせする予定です。

 なお、ご意見等は要約させていただくことと、全ての方のご意見をお知らせすることは難しいと思いますので、予めご了承下さい。ご意見等をお寄せ頂いた方々、ありがとうございました。皆様の率直なご意見をお待ちしています。

1 市民からの主要な意見等

・公金の損害賠償の和解内容を議会でも言わないのはおかしい。それが解っているから、「和解内容は公表しないこととするが議会には報告する」となっていると思う。それなのに、市は議会で「和解内容は非公表なので知らない」と答弁した。それで良しとしている議会も市執行部と同様におかしい。

・和解を市議会にどのように報告したのか? 市議会は報告にどう対処したのか?

・市は市大に交付金などを渡している。市大が公金を失ったのに、市は和解について市大からの相談を受けていない。和解内容も知らないと言っている。市大が相談もなく和解したことを市は何故怒らなかったのか。調査権があるのに何故調査しなかったのか。理解できないことばかりだ。市がやっていることは、市民、市議会なり市をないがしろにしたやり方ばかりしている市大の方を大事にしている。市は大学に弱みでもあるのか。

・市は和解については「知らない」で押し通そうとしているが、市と市大は当初から意思を通じ合わせているのではないか。そう考えた方が理解しやすい。

・総務部長、総務課長といえば、組織の中心の部長、課長であるはず。下関市役所も窓口や現場の職員など市民と接することが多い職員は親切で丁寧な人が多いと評判が良い。また、中堅クラスまでは評判は悪くない。市民と接する機会の少ない部門の人たちや幹部職員も市民第一で仕事をしてもらいたい。

・失くした市民のお金がいつ返されたかなどを市民に説明しないのは言語道断。やましいことがあるから言えないのではないか。そんな市を信用して税金を払う気になれないのは私一人だけではないはず。

・市長が部下に「市民が納得できるような答弁をしなさい」と一言いえば解決が早い。トップの姿勢一つ。9月議会で市の態度に軌道修正があるのか注視したい。

2 市民の疑問、意見等をお聞きして

 本件については、先の報告書でも再三指摘したように、市民のお金を職員の不祥事や組織としてのガバナンスの欠如により失ったものであり、本来、失ったお金をどのように回収するかは市民に公表し、市民の納得した形で回収すべきものである。

 この公金の損害賠償請求の和解を非公表という条件をつけて和解(秘密条項付きの和解)したことが、本件損害賠償を不透明にし、市民の信頼を失うこととなった発端である。

 ただ、この秘密条項付きの和解には、「公表しない。ただし…」とあって、非公表の例外規定の文言が付されている。にもかかわらず、市は議会での質問に対して、非公表という原則的文言だけを利用し、これを盾にほとんど実質的な答弁をしてこなかったことが、この問題を大きくした。損害にあった「何円のお金」が「いつまでに回収されるのか」「遅延損害金の扱いはどうなるのか」「現時点で何円回収できているのか」等、聞かれたら秘密条項付き和解には関係なく、市民に当然答えなければならない。そのような事項まで「知らない」で押し通し、ほとんど答えなかった。これで市民に納得してくれ、信頼してくれというのは無理である。

 それでは、和解条項中の「公表しない。ただし…」という条項はどのような条項なのか。本当に議会で非公表条項を盾に答弁拒否することは可能なのか。その条項は正しく守られてきたのかを検証してみよう。

 この条項は先の報告書でもお知らせしたが、次のようになっている。

「原告及び被告らは、本件和解内容を公表しないこととする。ただし、原告が市議会に報告する場合は、この限りではないが、原告は本和解条項の趣旨を尊重して市議会に報告し、市議会に対しても本和解条項の尊重を求めるものとする」
 この条文から、市が市議会で「非公表という和解だから」といってゼロ回答に近い回答を続けてきたことが大きく間違っていたということがわかる。

 次に、これと関連して問題なのは、この条項では原告すなわち市大が議会に報告するとなっている。市はこの和解は裁判上の和解であり、必ず守らなければならない強制力があると力説した。しかし、「市大が議会に報告する」となっているのに「市が議会に報告」した。和解条項に違反している。

 市と市大との間で市議会出席について、どのようなやりとりがあったのかは分からないが、原告であり和解当事者であり、本件損害賠償請求事件とその和解に最も精通している市大が議会で報告するのが、和解条項からも市議会報告を実あるものにするという点からも正当であった。

 また、市は和解条項に制約される立場にはないのに、何故「非公表」だけは守ったのか。それも非公表の条項には例外があることを議会に隠して。

 市民からの疑問としてあげられた市議会への報告であるが、平成25年9月3日、市は市議会総務委員会に本件和解について報告している。これが本件和解についての最初の議会答弁であるが、この議会答弁がその後の答弁のベースになっている。市議会総務委員会での本件和解報告に関する部分の議事録は次のようになっている。

 総務課長 市立大学の和解の件であるが、損害賠償請求は民事裁判になっており、その件について和解しましたと新聞各社に報道があった。市立大学のほうからは、和解はしているという口頭の報告はいただいている。金額はいずれ大学のほうにいただける予定だということで、そのほか詳しい内容については、その和解は、任意の和解ではなく「裁判上の和解」というものであり、裁判の中で裁判官からどうでしょうかと。刑事ではなく民事であるので、そういう中で和解の提案があって、白黒を全部つけずに双方譲歩して納得できるところでおさまったというところで、大学は損しないという報告を受けて、ただその中の条件に「和解の内容については公表しない」ということであるので、私共のほうはそれ以上詳しいことは聞いていない。

 F市議 和解であるのに、民間同士、いわゆる民事上のことであるから、公開をしないということでいいんですね。もう一度確認すると。「しない」ということですね。市側も。

 総務課長 そうである。

 F市議 なんか納得いかないね。

 M市議 先の市大のことであるが、白黒つけずに和解をして、金は損をしないと。金額的には損をしないということは、九九〇万円でしたか、そのままということなのか。よくわからないが。そして、もう一度聞くが、公表しないというのは、大学側の判断ということか。

 総務課長 裁判上の和解の条件である。

 M市議 裁判上の和解の条件…ということは、どこがつけた条件か。

 総務課長 裁判上の和解をするにあたって、両者どちらが提案されたかはわからないが、その上で決まったことである。

 K市議 和解の仕方について、裁判官が和解を指導する場合であれば、原告なり被告が出す場合があるが、ただ、私は新聞報道を見て、要するにこれが和解ではなく、市の職員が間違っていたんだから払えという判決になったらどうなるのか。退職金その他の問題も出てくるのではないか。その在職中に起こした過ちでしょう。民事とはいえどうなるのか。

 総務課長 刑事事件ではないので。刑事は刑事で片がついている話だろうと思うので、民事の話だというふうになろうかと思う。それで、大学のほうがご判断されたことであると理解している。

 総務委員長 いいですね。打ち切ります。それでは、以上をもって総務部の審査はこれで終わる。

 林総務課長(現こども未来部長)が報告しているが、名目的には報告といえても、とても和解条項に記されている「市議会への報告」といえるものではない。報告になっていない。また、市議会としても、これまで「市議会への報告事項」として認めてきたものは、このような全く内容のない報告ではなかったはずである。本件について、市と市大との間でどのようなやりとりがあったか分からないし、市が本当に和解内容を知らなかったのかは疑問だが、実態として市は何ら答えられない立場、当事者能力がない状態で市議会へ出席し、報告している。市は当事者能力を欠く状態で市議会へ出るべきではない。これでは市議会に対しても礼を失している。

 また、和解条項では「市議会に報告し、市議会にも本和解条項の尊重を求めるものとする」となっているが、この議事録を見ると議会に尊重を求めるということは全くなされていない。議員の質問に対し「知らない」が答弁では、どのように考えても議会に尊重を求めたとはいえない。このようなことから和解条項に定められた「議会への報告」はされていない。従って、和解条項は守られていない。

 この条項を最大限拡大解釈しても(あるいは解釈の限界を超えているかも知れないが)、原告(市大)ではなく市が出席するのなら、市は和解内容を承知したうえで和解したことを議会に報告し、「和解内容は公表しないという和解になっているので、議会もその趣旨を尊重していただきたい」旨説明し、議会に「非公表」の尊重を求めるべきである。それでも議員が「市大の損害賠償請求の和解なので、本来、議会に和解内容を説明すべきだ。非公表に決めたからといって、全く内容のない報告をすることは納得できない」として和解内容について質問があった場合は、氏名を出さない等の配慮をしたうえで、できる限り答えるべきである。これがこの条項に沿ったものとして、議会にも市民にも納得してもらえる対応であろう。

 それでは、市の報告に対して市議会はどのような対応をしたのか。これも問題である。本件について発言したのは、総務委員会所属議員8人中3人であった。3人ともこの和解についての市議会報告に疑問を呈しているが、3人以外の議員は和解報告に対して発言なしである。市の説明に納得できなくても、市が「知らない」と答弁したので、あきらめて質問しなかったのかも知れない。しかし、この総務委員会で本件和解を報告したことになっている。当事者能力を欠くような市議会への報告は、保留にするなりしてもう1回改めて報告を求めるなり、何らかの方法はなかったのだろうか。

 なお、市の報告に対してF議員が「納得できない」と明言した(議員が居た)ことは、市民にとっても議会の名誉にかけても良かった。F議員は平成24年7月17日、本件訴えの報告があった時もスジを通している。

 原告と被告間で、市にも市議会にも相談なく和解内容は秘密にしようと決め、今度は秘密にしようと決めたから市にも議会にも言わない。そんな理屈が議会制民主主義の国で通るはずがない。そんな理屈が通るなら議会は要らない。

 市は和解条項中の非公表部分は全てに優先するかのように強調してきた。その一方で、和解条項中の「市議会に報告する」という市が市大にとって都合の悪い部分は勝手に無視し、守らないできた。市議会にも知らせないできた。

 公正公平な行政をおこなうべき市が、不公正不公平な対応をしてきたといっても過言ではないほどダブルスタンダードで、都合良く和解を利用している。また、市と市大は、ある時は一体化した動きをし、ある時は別法人を強調し、都合の良いように使い分けている。市と市大との間で意思の疎通があったのではないか、市は和解について聞いているのではないか、という市民の意見があったが、これまでの市議会答弁などで矛盾が露呈してきている。今後、ますます矛盾が拡大するにつれ責任逃れの答弁などで真相が明らかになるのではなかろうか。

 本件に対する市の対応にはおかしなことが多かった。そして、本件に関する議会審議を実りないものとしてしまった。この点は大いに反省してもらいたい。市の部長も課長もあのような答弁をせざるを得なかったのかも知れない。ただ、一連の答弁をみると、どのような理由があったにせよ、ダメなものはダメと指摘せざるを得ない。

 本件に対する前田市長のリーダーシップを期待する市民の声は多いが、前田市長は組織トップとしての責任の在り方、リーダーシップの必要性は分かっていると思うので、9月議会では担当部局や市大に対し、市民が納得できる議論を進めるようリーダーシップを発揮するものと思う。市民と共に期待したい。

 市大に対する意見も多く寄せられていますので、後刻お知らせする予定です。

◆寄せられた感想から

◇『下関市立大学トイレ改修工事損害賠償請求事件についての調査報告書』の連載は大変興味深く読ませて頂きました。率直な感想として、「どうしてそこまで頑なに真相を隠蔽するのだろうか?」「市役所、議会、市立大学の3者が守っているのは誰なのだろうか?」という疑問を抱きました。報告書のなかでも多少ふれられていましたが、日頃から市民に対して市役所は税金滞納への差押えを問答無用でおこなうのに、特別な誰かさんが損害を与えた場合は、返済されたか否かすら誤魔化して素通りしてしまうのでしょうか? 税の公平性を語る以上、厳密に対処すべきであり、決して曖昧にしてはならない問題だと思いました。

 私は仕事柄、下関市立大学にも知りあいが幾人かおります。従って、この問題が他人事には思えません。単刀直入に申し上げると、トイレ工事を受注したS社のMさんは大学評議委員でもあり、江島市長の選挙を熱心にとりくんでおられた仲間だったということは、業界では広く知られている周知の事実だと思います。そして、副議長をされていたCさんは、確かS社の関連会社の社員でもあったと記憶しております。U事務局長(元市部長)とCさんが大変懇意だったことは、彼らの地元では有名な話でもありますし、Cさんは当時大学父母後援会の会長もされていました。登場人物たちの人間関係や役職について理解を深めると、より報告書の背景が読みとれるのではないかと思った次第です。

 さて、S社の経営が傾いているさいに、海峡沿いの立体駐車場の運営権を市に無断で売却し、そのおかげで豊北道の駅の工事請負議案を議会に否決されてしまいました。すると、そんな市の入札参加資格すらないS社に対して、市立大学を経由して仕事があてがわれました。しかも、業者選定をしたのもS社で、保証もなしに6割もの工事代金の前払いがおこなわれていたのです。通常であればあり得ない事です。まるで資金繰りを援助するかのようにタイミングよく工事が発注されていたともいえます。そして案の定、S社は事業停止に追い込まれ、市立大学が損害を被りました。これは一般的に市立大学と距離のある企業がひき起こした事件ではなく、前述したように人脈や人間関係が濃密な人人のあいだで起きた事件であるという点について、着目すべきであると考えます。偶然ではあり得ない事だからです。

 問題は、報告書のなかでも書かれていたように、市立大学なり市が賠償請求してしっかりと回収状況を明らかにしていたなら、本来これほどの問題にはならなかったということです。公明正大でなかったことが逆に「何を隠蔽しているのか?」「誰を守っているのか?」という疑問につながっていきました。市立大学も下関市も、和解条項を盾にのらりくらりと追及をかわし続け、市議会議員や市民に対して誠実に対応しませんでした。そのやりとりを読んでみて、改めて総務部長答弁のいい加減さには絶句してしまいますし、まるで国会の財務省答弁を見せられているような気すらしました。市議会の権威などあったものではありません。本池市議には、あのようないい加減な答弁の上をゆく追及をお願いしたいと思った次第です。

 ただ同時に、そのやりとりのなかから「620万円は返済されていないのではないか?」「実はチャラにされているのではないか?」という疑問も浮かび上がってきました。なぜ「620万円も返済された」とはっきり答弁できないのか、しないのか? です。あと、市議会はなぜ「和解条項について報告せよ」と求めないのだろうか? という点も不思議でなりません。ひょっとしてC元副議長やその周囲に遠慮されているのでしょうか? 市立大学の不誠実な対応についても同じです。副理事長だった当事者が和解し、真相を有耶無耶にしてしまうなど、あってはならないことです。それで損害金が返済されていないのだとしたら、背任になってしまいます。一連の経過を通じて、守られるべきが公金ではなく、損害を与えた側が一貫して守られていることに特徴があるように思えてなりません。

 丁寧に事実を積み上げた報告書であり、真相解明のために尽力されたチームの皆さんには感謝致します。願わくば今回に限らず、今後とも下関の街で起こる不正不当な事案については、同じように真相究明チームを結成して、広く市民に問題提起して頂けることを願っています。緊張感がない「一強」では街が腐るとでもいいましょうか、政治や行政が壊れてしまうと危惧するからです。「守る」べき特定の何者かにおもねっているような行政であってはならないし、行政が本来守るべきは等しく市民であるべきです。

 市立大学のトイレ改修事件は、モリカケに比べれば金額的には微々たるものかもしれません。しかし、公金を巡っていい加減な行政対応がやられているという問題に金額の大小は関係ありません。いまや国も地方も乱れに乱れ、モリカケとて真相解明は何もないまま有耶無耶にされたままです。締まりもなければケジメもないような状況にありながら、一方では立憲政治や議会制民主主義の建前だけはあり、それらは飾り物のようにおとしめられています。踏みつけられています。私には、このちぐはぐさが今の時代をあらわしているように思えてなりません。

 報告書のタイトルにあるように、「彼らは何を隠しているのか?」を今後とも注目したいと思っています。だって、彼らはひき続き誰かさんを守り、真相を隠しているのですから--。(匿名希望)

◇ 下関市立大学の連載を読んでみて、驚くことばかりでした。公金が失われているのに、どうして総務部長をはじめとした役所の方方まで言葉を濁されるのか不思議でなりません。監督官庁としては必死になって損害回収のために力を尽くすのが本来の姿だと思います。損害を与えた方方というのは、それほどまでに市職員から見て「怖い」人人なのでしょうか? なぜ損害を与えた側を下関市、市立大学が一緒になって守っているのか意味がわかりません。損害を与えられた側(市、市立大学)は条件反射で怒るのが普通ではないでしょうか。
 この連載を読みながら頭に浮かんできたのは、日頃からの税金滞納者への差押えのひどさです。990万円とか620万円とか、1人1人の市民の滞納額に比べたらはるかに巨額の損害なはずですが、そちらには目を伏せ、数万のお金に行き詰まっている市民からは遠慮なく剥ぎとっていく。これはどう見てもダブルスタンダードです。和解において、損害を与えた側の就職や社会生活のことを心配して秘密条項にしたとありましたが、私の周囲ではいきなり会社にやってきて、給料を差し押さえられた知人もいました。「世の中甘くない」というのであれば、990万円や620万円をきっちり回収することにも本気でとりくまなければ、公正公平ではありません。

 常識的に考えてみて、公金の扱いについてはオープンでなければならないはずです。最低でも返済されているのか、いないのかくらいは白黒はっきりさせなければ、市民は納得しないのではないでしょうか。今後とも例の和解条項を盾に不問に付す対応をするのであれば、法的手段に訴えて広く社会にも問題を投げかけ、是非を問うやり方も考えてはいかがでしょうか。情けない話ではありますが、下関以外の都市でも果たして通用するのか、公金のあり方をはっきりさせるという点で意義は大きいはずです。

 でなければ、第2、第3のトイレ事件が起こり得るでしょうし、和解条項を盾にすれば逃げ切れるという悪しき前例を認めてしまうことになります。このようなやり方が裏技として正当化された場合、役所あるいは市出資法人と相手方が結託してしまえば、全てを闇に葬ってしまうことも可能になるのかなと想像しています。下関発の有耶無耶テクニックとして、悪知恵が働く人が悪用することすら危惧するものです。

 議会でも執行部は「知らない」ととぼけ続ければ良いというふざけた態度です。下関市役所の歴代の総務部長とは、あの程度なのかと愕然としました。現在の今井総務部長さんは若い頃から真面目な職員の方だと知人より評判を聞いていただけに、個人的には残念でなりません。執行部答弁は、なにをおっしゃっているのか意味不明だった三木副市長の答弁も含めて、議会を冒涜しているとも思えるのですが、議員さんたちには冒涜されている自覚がないのかもしれません。これまた情けないものです。

 若き前田市政において、「私たちはきっちり解決するのだ」という姿勢を示すのか、それともひき続き江島、中尾時代の未解決事件をそのまま闇に葬るというのか、9月議会を注目したいと思います。ふざけた答弁をするのであれば、そのまま新聞紙面にて全文をご紹介下さい。私たちの会社でも、社員一同が新聞を広げながら話題にしています。

 ところで、調査チームに本池市議が加わっていることはわかったのですが、現役の市職員の方も加わっておられるのでしょうか? 行政的な対処については素人にはわかりにくいのですが、「本来こうすべき」という点がわかりやすく、かつ鋭く執拗で、専門的知識に裏付けられた説得力を感じました。勝手な想像なのですが、仮にそのような市職員の方がいらっしゃるのであれば、是非とも実力を発揮していただき、将来の総務部長を目指してほしいものです。やはり公職ですから、公正公平な行政運営への熱意がなければ、どうしても歪んだ私物化行政に侵食されてしまいます。なかなか綺麗事ばかりでは済まない世の中ですが、役所の良識がねじ曲げられるのか、守られるのか、その辺りの問題を教えられているような気がしています。(60代男性 会社経営)


彼らは何を隠しているのか?(1) 下関市立大学トイレ改修工事損害賠償請求事件についての調査報告書

長周新聞(2018年8月14日)
 ∟●彼らは何を隠しているのか?(1) 下関市立大学トイレ改修工事損害賠償請求事件についての調査報告書

彼らは何を隠しているのか?(1) 下関市立大学トイレ改修工事損害賠償請求事件についての調査報告書

山口県2018年8月14日

 本紙でも事あるごとにとりあげてきた下関市立大学のトイレ改修工事を巡る損害賠償請求事件について、その真相があまりにも隠蔽され、消えた公金の行方があいまいなまま済まされようとしていることを問題視した有志が、このほど調査グループを結成して広く市民にもわかるよう調査報告書を作成した。下関市、下関市議会、下関市立大学の三者がかたくなに隠蔽し、守っているものは何なのか? だれなのか? さらに、その対応は地方公共団体としてまっとうなものといえるのか等等、下関市役所や市議会の在り方ともかかわってさまざまな問題を投げかけている。事実を丹念に追っていることから長編となっているが、紙面上で連載したものを紹介したい。

Ⅰ はじめに

 市民の皆さん、森友・加計の問題が大きく報道されていましたが、モリカケ問題についてどのようにお考えでしょうか。学校、学園を舞台に明らかに不正、不適正な行政が行われていたのに、国会の場でも文書隠蔽、改ざん、虚偽答弁などをくり返し、疑惑を必死に隠そうとする政府。そして、それに手を貸すかのように真相究明に消極的な与党の対応。この現状に腹立たしい思いをしている人は多いはずです。そこには「政治、行政は国民のためにある」という当たり前のことが全く無視されています。モリカケ問題は、権力の私物化、権力者のおごりが象徴的にあらわれた事件だと思います。

 下関市立大学トイレ工事の記事を読んだり、議会での傍聴の度に、どこかモリカケ問題に通ずる事件だと感じ、激しい憤りを覚えます。市大トイレ工事事件は、下関市民のためにあるはずの下関市政が下関市民無視市政になっている典型的な事件です。市民のお金(公金)約1610万円が市大職員の不正、不適正行為によって失われたという事件です。

 市民のお金がいつまでに、どのように回収されるのか、そして実際にどのように回収されているのかということを市民に知らせるのは当然のことです。それなのに、どのように回収されるかについては、市民には内緒にするという条件で和解(秘密条項付きの和解)した大学、市大を指導する責任と権限があるのに、全く無責任な対応に終始している市、市民代表として市政をチェックし、市大や市の無責任を正すべき責任があるのに、この事件を積極的に解明しようとしない市議会。常識では考えられない状況です。これ程おかしなことが平気でまかり通るのは、この事件の背後に何かあるに違いないと思ってしまいます。

 当時、市大トイレ工事を請け負った業者と深いつながりがあり、大学にも市にも、市議会にも、いわゆる“顔が効く”市会議員(当時)C氏の存在が噂されましたが、本当にそのことが影響したのでしょうか。

 本件は、色々な問題を含んでいますが、本来、それほど複雑な事件ではなかったはずです。市または大学が「このような和解をしました。いつまでに全額回収できる見込みです」と議会へ報告し、その後質問された都度、回収状況を誠実に答弁すれば済む問題でした。しかし結局、この事件は多くの問題を抱えてしまい、決して看過できない事件になりました。これを許すと、こんなやり方が今後の前例になってしまい、モリカケ問題以上に違法、不適正な下関市民不在の下関市政がまかり通ってしまう恐れがあります。

 このようなことから、本事件の真相や問題点を多くの市民の皆さんに知っていただきたいと考え、有志で調査グループを結成し、市議会でのやりとり、マスコミ報道等も参考にまとめたものです。これがその第一弾ですが、これからも調査を続行していきます。なお、この問題に関係した職員の氏名はマスコミで報じられており、公表しても問題ないと思いますが、一応、現職以外は氏名を出さない扱いにしました。

Ⅱ 事件の概要

1 指名業者の選定、落札、契約の締結について

 平成22年12月、市大はトイレ改修工事を行うため、市内業者6社を指名することとし、市大事務局のS総務グループ長を中心に6社を選定した。入札の結果、この6社のなかからS社が落札した(落札率99・7%)。S社は平成22年8月、市の入札で「豊北道の駅」工事を落札したが、市営駐車場の管理権の無断譲渡問題に関連した問題業者だということで、9月市議会でも工事議案が認められず、継続審議になっていた。このようなことはマスコミでも報じられており、S社が問題企業だということは市大も当然知っていたはずだが、市大はS社を指名した。そしてS社が落札したものである。

 12月初旬、市議会は「道の駅工事議案」を否決した。S社は市から市の工事を請け負う資格なしとされた。経営不振も噂されていた。このような状況にあるなか、市大は12月中旬にトイレ改修工事請負契約をS社と締結した。この指名業者の選定、及び契約の締結については、いずれもM理事長まで書類が上げられ、M理事長がそれで良しと決定している。荻野現理事長も副理事長としてこの書類に押印している。

2 工事前払金の支払い

 工事請負契約の締結後、すぐにS社から工事前払金の請求があった。前払金はS社が保証会社との間で前払金保証契約を締結していないので支払うことはできない。にもかかわらず、平成22年12月末、翌年1月と2回にわたり工事代金の6割にあたる2260万円を契約等に違反してS社に支払った。この契約等に違反した前払金の支払いについては、U事務局長まで書類がまわり、U事務局長が支払いを決定した。

3 請負業者S社の工事中断とこれに伴う損害の発生

 ①990万円の損害の発生
 噂通りS社は経営悪化で事業停止に追い込まれ、平成23年3月初めにはトイレ工事が行われなくなった。このため大学は3月31日に記者会見を開き、工事の中断と契約書に違反した不適正な支払い(工事代金の前払い)があったことを発表した。S社の工事中断までの工事出来高は約32%、金額にして1270万円と認定され、前払金2260万円と工事出来高1270万円との差額990万円がS社への過払額、すなわち市大の損害金と決定した。

 ②620万5000円の損害の発生
 違法な手続きでS社に仕事をさせ、結局、S社が仕事を途中で止めたため、再度別の業者に頼まざるを得なくなった。工期を短縮せざるを得なくなった等の理由から、工事費が620万5000円余計にかかることになった。市は議会で、この620万5000円もトイレ改修工事に伴う市大の損害金であると答弁している。本件トイレ改修工事に伴う市大の損害金は上記①と②の合計額1610万5000円である。

4 損害賠償請求

 違法な業者指名を決裁したM理事長と、不適正な前払金の支払いを決裁したU事務局長は共に平成23年3月末任期満了によって退任した。4月から新たにH理事長と新事務局長が就任。市大幹部は荻野副理事長(当時学長)を除き新体制となった。

①990万円の損害賠償請求
 市大はS社に工事執行能力がないと判断し、同社との契約を解除するとともに、損害賠償を求めたが、S社には支払う意思がなかった。このため損害発生の原因のうち、過払金(前払金)による損害990万円について、法的に損害賠償責任があると考えられるS元グループ長とU元事務局長に支払いを求めた。

 しかし2人とも誠意ある対応を示さないため、平成24年7月12日、2人に対して990万円の支払いと平成24年6月1日から完納まで年5%の支払いを求める損害賠償請求の訴えを山口地裁下関支部に起こした。市が訴えを起こす場合は法律上、市議会の議決を必要とするが、市大は独立行政法人化しており、市とは別団体ということで議会の議決は必要としない。

 しかし、設置者は市であり、市から交付金を受けているということ等から、市大は訴えの提起に関して平成24年7月12日に記者会見を行った。また市は7月17日、市議会総務委員会に本件を報告している。公金の損害賠償事件を市民に説明するというこの考え方は妥当であろう。

②620万5000円の損害賠償請求
 違法な業者選定に伴って発生した損害金620万5000円については、市大は法律上の措置は講じていない。市大はS社に請求していると答えているが、支払能力が疑わしいS社に何故請求したのか。回収方法やその回収がどのように担保されているか、又、いくら回収されているか等については答えていない。

5 裁判上の和解

 本件損害賠償事件は訴えてから約1年後の平成25年7月16日付で大学側と被告側(U元事務局長とS元グループ長)が次のような内容で和解したとY新聞で報じられた。
 主たる和解条項は
ア U元事務局長は大学側に200万円支払う
イ S元グループ長はS社の大学側に対する債務のうち990万円までを連帯保証する。
ウ この和解条項は公表しないこととする。市が議会に報告する場合も非公表の趣旨を体して報告すること。議会も非公表の趣旨を尊重するよう求めること
等であった。
 なお、Y新聞の報じた和解条項では、完納時期や遅延損害金の扱いなどは不明である。

 大学側の要求どおりの和解であれば判決までいかなくても市民は納得するだろう。しかし、大学側の要求(訴訟内容)とは異なるのに、どのような理由で和解したのか。和解内容をなぜ非公表としたのか。大学側はどのような手続きで和解したのか。和解について市と協議したのか。市民には真相がよくわからないし、理解し難いことばかりである。

 裁判上の和解は990万円であり、620万5000円については回収が確実なのかはっきりしていない。

6 損害金の回収状況

①990万円について
 平成25年7月の和解以降、市議会で本池市議が何回か質問しているが、市側からは明確な答弁はなかった。

 平成30年6月議会で、市は「和解内容による損害金の回収は完了したと聞いている。利息等の有無や内容については、市としても知らない」と答弁した。

②620万5000円について
 これについても990万円の損害金と同様、これまで市側から明確な答弁はなかった。
 平成30年6月議会で市は「和解の内容による損害金の回収は全て完了したということだ。金額については承知していない」と答弁。ここでも回収金額、遅延損害金等については知らないという。

Ⅲ 本事件の問題点

1 指名業者の選定、契約の締結について

 事件の概要で述べたように、当時の状況下、普通では考えられないS社選定であった。

 指名(入札)業者6社は、実際にはS社が選定したもので、それを大学案としていたことが判明した。違法かつ不公正な指名業者の選定であった。

 Sグループ長は、入札等妨害罪及び官制談合防止法違反容疑で送検され、その後容疑は確定している。指名業者の選定と契約の締結は当時のM理事長が決裁している。従って、M理事長、荻野副理事長(当時)まで責任が及ぶ。M、荻野両氏が全く知らないで行われたとしても組織上の管理監督責任がある。ましてや決裁文書に押印しているのだから、損害発生とその損害の賠償には直接的責任がある。しかしながらM理事長は1円の損害賠償金を払うことなく、満額の報酬と退職金を得て退職し、何らの責任もとっていない。荻野副理事長(現理事長)も何らの責任をとっていない。当時の最高幹部で損害の発生と組織管理に責任ある両氏が何ら責任をとっていない。多くの市民は納得できるだろうか。

2 工事前払金の支払いについて

 工事代金は後払いが原則だが、資材の購入等、工事着手前にお金が必要なことがあるので、例外的に前払いを認めている。

 しかし、前払金は支払ったのに工事に着手しないとか、工事を途中で投げ出すということがあってはいけないので、前払金を支払うことができるのは請負業者が保証会社との間で前払金保証契約をしている場合に限られる。この保証契約を担保として前払金を支払うことができるという決まりになっている。この場合でも4割しか支払うことができない。

 本件前払金の支払いで問題なのは、
 ・請負契約書上支払わないことになっているのに契約に違反して支払ったこと
 ・前払金を支払う契約になっていても、前払金保証契約を締結していないと支払うことはできないのに支払ったこと
 ・契約書上支払うことが出来、前払金保証契約を締結していても4割しか支払ってはいけないのに6割も支払ったこと
 このように三重に違反した、不正な前払金の支払いであり、常識では考えられない職員の背任行為である。

3 損害賠償請求事件の和解と損害金620万5000円の処理について

①損害金990万円について
 市大職員による工事請負業者の違法な選定と規定に違反した不正な前払金の支払いによって生じた公金の損害であり、本来裁判で訴える前に損害発生に関係したM理事長以下の職員が早期に損害賠償を行うべきものである。それがなされなかったために訴訟になったものだが、関係職員の自覚と責任感のないことにはあきれてしまう。

 今回の損害発生の原因、経緯等から考えると訴えたとおりの判決を求めるべきである。ただ、訴えたとおりになるのであれば和解することに市民も納得するだろう。従って、市民が納得できる和解になっているのかどうか、和解の内容が問題となる。その重大な和解の内容を市民に非公表としたことは、まさに市民無視の大問題である。市民の納得を得るという和解の大原則を無視したのである。

 それでは、なぜ非公表とする条件で和解したのだろうか。

 Y新聞が報じた和解内容だと、違法行為によって市大に損害を与えたSグループ長は、本来なら損害賠償の最も重い責任者であるはずなのに請負業者Sの連帯保証人という立場になっている。連帯保証人なのでSとS社は同等の損害賠償責任者となるが、そもそもS社には支払能力も支払う意思もなかったから、SとUに支払いを求めたものである。S社は本件訴訟の被告ではない。従って、和解の当事者でもない。そのS社をなぜ主たる和解条項のなかに入れたのだろうか。疑問である。

 この和解条項だと市大の利益(公益)より損害賠償責任のある職員(UとS)の利益の方を優先している。市民から公益より利益優先の和解ではないかという批判が出ることを恐れて非公表としたのではないか。

 先日も「父親の入院、介護等で苦労した後、アルバイトで働き始めたが、そこで働いた給料9万円から固定資産税の滞納の一部として7万円が差し押さえで天引きされた。これからの生活が大変だ」という市税滞納者に対する厳しい徴収が記事に出ていた。方々で市税徴収が厳しいという声を聞く。市税徴収の現状とこの損害金回収の和解内容は格差があり過ぎる。

 和解は荻野理事長と損害賠償責任のある被告側とで行われているが、まず荻野理事長の立場である。荻野理事長は違法な業者選定をした伺書に市大ナンバー2の副理事長として押印している。市大に損害を与えた側の責任者の一人である。加害者側として責任のある者が被害者側代表として和解している。しかも、その和解内容は公表せず、秘密にしようという和解をである。そして今度は自分たちが勝手に結んだその秘密条項をタテに市議会でも事実上の答弁拒否をしている。(市議会で答弁するのは市総務部長であるが、総務部長は「和解内容は市大が公表しないということなので知らない」と答弁している)。

 次に和解に至る手続きである。

 訴えの提起のときは当時のH理事長は記者会見を開いて市民に公表したし、市は市議会総務委員会にも訴えの内容について報告した。しかし和解については、荻野理事長は記者会見を開いていない。市大には理事会もないようである。荻野理事長が独断でこのようにおかしな和解をしたのではないかと批判されても当然である。

 市は平成25年9月3日の市議会総務委員会に和解したことを報告したが、質問に対して「和解内容については公表しないことを条件にしている」ことを理由に和解内容について答えていない。賠償金額、完納時期、分割支払いなら遅延損害金の扱い等は議会に対する最低限の報告事項である。それらも報告しないのなら議会への報告にはならない。

 市執行部は議会を無視しているのに、議会はそれを甘受している。議員は市民を代表して行政をチェックするのが主要な職務である。「職員の不祥事により公金が失われた損害賠償なのに、どうして金額や完納時期が明らかにできないのか。議会に報告するのは当然ではないか。

 これらのことも明らかにしないという和解なら、和解そのものが問題だ」と主張する議員が居なかったのは不思議であり、残念である。市大も市執行部も市議会も、市民に対して無責任ではないか。

 以上見てきたように、本件和解はまず和解内容が市大の利益より職員の利益を優先している。被害者より加害者を優先している。このことが大問題である。次に和解内容を非公表としたことは市民無視の行為であり、これも大問題である。市立大学が「公益軽視の和解内容」で「秘密条項付きの和解」を行うことは違法性があると言わざるを得ない。

 市が訴訟で和解する場合は、訴えを起こすときと同じように法律上、市議会の議決を要することとなっている。市大は現在、独立行政法人として法律上、市とは別団体になっているが、市が設置し、市から交付金が出ている大学である。和解する場合、市に準じてできる限り市議会、市民に和解の事実と和解の内容を報告、公表すべきである。理屈上はそうなる。

 このようなことから「和解内容を市議会にも報告しないということは難しいだろう。秘密条項付きの和解とするが、市議会には和解内容を報告することができるようにしておこう」と考えて、「議会に対しては和解内容を報告する。ただ、その場合も非公表の趣旨を尊重するよう議会にも求める」という条件をつけたものと思われる。

 市大も市も「和解条項の非公表」ばかりを主張し、この「和解内容を議会に報告できる」という条項を無視した対応(「和解内容は非公表ということなので知らない」との市答弁等)をし続けたことが、市行政の信頼を失墜させ、事態を悪化させた。議会での本池議員の質問に対して、嘘を言わず誠実に答えていればここまでおかしなことにならなかったかも知れない。

②損害金620万5000円について
 これについてはS社と和解し、S社に請求していると市は答えている。支払能力が疑わしいS社に請求しているのか、それで良しというのは無責任である。大学職員の違法、不適正な行為による公金の損害賠償事件であり、大学当局は速やかに、確実に全額回収できる措置を講ずべき責任がある。

 その点から考えると、決裁した当時のM理事長以下、荻野副理事長、U事務局長、Sグループ長に損害賠償の連帯責任があるのだから、支払能力の疑わしいS社に請求するより、まずM理事長以下の連帯責任者が責任をとって速やかに賠償すべきである。そのような方策をとるよう荻野現理事長がリーダーシップを発揮すべきであった。それこそが高額報酬を得ている荻野現理事長の最低限の職務である。

4 損害金の回収状況について

①裁判上の和解をした損害金990万円について
 損害金を現在までにいくら回収できたのかは、秘密条項付きの和解条項には含まれないことであり、当然市民に公表すべきである。しかし、市は市議会での本池市議の質問に対して、和解条項を理由に明確に答えてこなかった。これは本件和解条項に対する違法な拡大解釈である。

 その後、平成30年6月議会で市は「和解内容による損害金の回収は完了したと聞いている」と答弁したが、回収完了年月日、遅延損害金の有無等については知らぬ存ぜぬで押し通している。無責任であるし、「知らない」で済ませられる問題ではない。子どもだましのような答弁で押し通すことが許されているのが下関市議会の現状である。

②損害金620万5000円について
 この損害金は裁判とは無関係であり、従って秘密条項付きの和解とは全く無関係である。これまで市議会での質問に明確に答えなかったのは答弁拒否であり、市民を無視した市の対応であった。平成30年6月議会で本池市議が「返済完了と答えたが620万円についてもか」と質問したのに対して、市は「双方の和解による損害金はすべて完了したということだ。金額については承知していない」と答弁。相変わらず子どもだましのような誤魔化し答弁、無責任答弁をくり返している。①の損害金と同じく、今後も追及が必要である。

 公金の損害賠償事件の和解を秘密条項付きとしたことは大問題だが、この秘密条項も完全な秘密とすることにはなっていない。先述のように議会への報告については一定の条件が付されてはいるが、報告できるようになっている。また訴訟記録の閲覧制限申立書では、非公表の理由として、公表すると

・被告に背任行為があったように思われること
・社会的評価を落とすこと
・就職にも支障が出ること
としている。秘密条項付きの和解にしたのも上記理由からだと思われる。

 市大トイレ工事に関して違法行為があったこと、大学職員が逮捕されたこと、損害が発生し損害賠償請求の訴えを起こしたこと等はすでにマスコミで報じられており、公知の事実である。これについての和解であり、和解内容が公表されると被告の就職等にどのような影響を及ぼすというのか、全く理解できない。せいぜい氏名を隠せば良いだけのことである。むしろ、和解内容を公表した方がこの問題に一定の責任を果たしたということを市民に知ってもらう良い機会だと思う。

 以上のことから市(大学)が議会での質問に対し、秘密を主張できるのは、
 ①和解調書に記載された事項であり、かつ
 ②その事実を公表すると被告の就職等に支障が出ると客観的に考えられる事項に限られる。
 和解調書に記載されていない事項や、和解調書に記載されていてもそれを公表すると就職等に支障を及ぼすとは客観的に考えられない事項は誠実に答弁しなければならない。なお、就職等に支障をきたすような事項でも議会が秘密会等、秘密を保てるよう配慮すれば市(大学)は答弁を拒否することはできない。

 以上が本件に関する市の議会答弁の基本的ルールである。しかし、市議会では本池市議の質問に対し、秘密条項付きの和解を理由に答弁拒否できない事項まで、ほとんど全て答弁拒否している。

 質問事項は予め通知している。市は市大に対する調査権、指導権を持っている。市は調査権限を行使して調査し、議会で明確に答える義務がある。それでも松崎総務部長(現水道局長)は他人事のような答弁をくり返した。議会もそれを許してきた。

 本池市議は本件に対する市民や大学関係者の疑問をふまえて的確な質問をしている。松崎部長が本池市議の質問に誠実に答弁していれば、ここまでこじれることはなかったと思う。以下、虚偽的答弁、誤魔化し答弁の一部を別示する。

1 平成25年9月議会

 本池市議 訴訟していたのに、なぜ和解したのか。回収の見込みがたったから和解したというが、990万円とは別に620万5000円の損害がある。これは誰が負担するのか?
 松崎総務部長 990万円+620万5000円の合計額1610万5000円の和解が成立した。
※訴訟について和解したのは990万円についてのみであって、1610万5000円を裁判上の和解額としたのなら虚偽答弁。本当に知らなかったのなら、職責を果たしていない。

2 平成26年6月議会

 本池市議 裁判上の和解金額、遅延損害金の扱い、完納時期は?
 松崎総務部長 損害金の回収は順調に進んでいる。和解内容は公表しないことになっているので。
※答弁拒否の理由にならないのに答弁を拒否

 本池市議 和解内容を市は把握しているのか?
 松崎総務部長 和解内容は公表しないということなので具体的な話は市は承知していない。
※市には法的に市大を調査する権限がある。その権限を行使せず、議会での質問に「知らない」は職責を果たしていない。無責任である。和解には和解内容を議会に報告できるという条項が付されている。それを「知らない」は議会軽視ではないか。

 本池市議 和解条項中に議会への報告ができる旨の条項があるが?
 松崎総務部長 市としては訴訟記録も見ていないし、言われたのは伝聞の話しだから確認できない。
※平成25年9月議会で本池市議が和解について質問しているし、今回も質問通告している。それなのに、まだ訴訟記録を見ていないというのは常識では考えにくい。本当に見ていないのなら無責任。

3 平成26年12月議会

 本池市議 現時点の回収額、利息延滞金、完納時期は?
 松崎総務部長 市大の財務諸表から平成25年度中に420万円の回収があったものと推測される。完納時期、利息等については和解内容は公表しないということで知らない。
※回収額等については秘密条項付き和解を理由に秘密にすることは出来ない。当然答えるべきことなのに答弁拒否している。

 本池市議 和解条項の中に議会には報告できるようになっているのに、どうして議会に報告することがはばかられるのか?
 松崎総務部長 ア 和解の内容については公表しないということなので知らない(「議会に報告する」は知らない)。
 イ 市とは別人格をもった市大の話なので内容については話すことができない。
※アについては、6月議会で本池市議が同じ質問をしている。従って、「議会に報告する」ことは市も知っているはず。「知らない」は虚偽答弁ではないか。イについては無責任な答弁。市大は別人格団体なので、市議会で話せないという法令的制約は何もないので話すことはできる。市立病院についても、市はノータッチか、議会審議なしか。

4 平成30年6月議会

 本池市議 損害金の回収状況は?
 今井総務部長 和解内容非公表のため具体的な金額はわからないが、平成30年4月、大学との協議のなかで和解内容による損害金の回収は完了したと聞いた。利息等の有無や内容については市は知らない。
※回収金額等について議会で「知らない」と答えることは市議会軽視、市民無視に等しい。秘密条項付き和解で制約される問題ではない。回収金額等を答えることが被告の就職等に悪影響があるとは思わない。

 本池市議 620万円についても企業が620万円をすべて支払ったのか?
 今井総務部長 これについても承知していない。
※無責任答弁。職務怠慢

 本池市議 和解条項のなかに「原告は和解条項を尊重して市議会に報告し、市議会に対しても本和解条項の尊重を求めるものとする」という記載があり、公表しないでよいというものではない。
 今井総務部長 「議会に対しても和解条項の尊重を求める」ということだが、市としてはそのへんのことは承知していない。
※議会に報告するという和解条項を知らないということなら虚偽答弁ではないか。これを知らないはずがない。和解条項の内容を知らないということなら無責任。

 三木副市長 市大の担当の副市長としてお答えする。議会に報告をして尊重を求めるということについては、和解の内容について議会に報告して尊重を求めるということなので、これを公表しないという和解の内容についても議会にご報告申し上げ、その尊重することを求めるということなので内容についてすべて公表する。そこを議会に報告しなさいということをいっているのではないということ、そういうふうなわれわれは理解をしている。

※この三木副市長答弁は、市は「議会に報告する…の条項を知っていた」「知っていただけではなく、実質的にこの条項を理解したうえで、この条項を基に、極論すればこの条項に支配されて議会対応してきた」ということを示した。発言の意味が、市は和解内容を議会に「報告する」と理解していたのか、「報告しない」と理解していたのか、肝心な点が不明確だが、どちらにしろ今後に大きな問題を提起した発言である。

 これまで再々述べてきたように、双方代理のような立場の荻野理事長が本来、市民に公表すべき事項まで秘密とする和解をした。そのうえ、実質的に市を制約する条項または和解通りの実行ができない条項を入れたという非常に問題のある和解である。特にこの条項が「報告しない」という趣旨で入れた条項なら、まさに議会制民主主義の否定を強いた和解であり、荻野理事長の責任は極めて重い。また、市大を監督指導する立場にある市が、この条項に何一つの問題も感じず、それどころかこの条項を金科玉条のように信じ、この条項に縛られた議会対応をしてきたというのは驚きであり、市の責任も重い。

 長年にわたりこの問題の真相究明に取り組まれている本池市議に、これまでの問題点、取組への反省点、今後の見通しなどを聞き意見交換した。そのなかで、次のような市大の不誠実かつ不可解な対応が明らかになった。以下、本池市議の語ったところを要約すると「6月議会の一般質問は新総務部長の答弁なので少しは前進するかと期待したが、相変わらず他人事のような要領を得ない答弁だった。何人もの方たちから“あのような答弁で済ませていたら疑問点は何一つ解消されない”“何のための議会かわからない”などと怒りの声が多く寄せられ、私も叱責を受けた。市民代表の市会議員として市民の疑問に応えるためには、市大理事長と市大事務局長に直接会って話を聞くしかないと考え、砂原事務局長に会って、荻野理事長に面会したい旨要請した。しかし、いろいろなやりとりがあった後、結局面会は拒否された」ということであった。

 荻野理事長が面会要請を受けて実際に面会したのなら面会までのやりとりはどうでも良いことで、市民にも関心はないことであろう。しかし、荻野理事長は面会を拒否した。その面会拒否は、市民目線で見て妥当なのか、市民が納得できるものなのか、市民の判断を仰ぐためにはどのような経過、やりとりを経たうえでの面会拒否なのかを市民に知ってもらう必要がある。このように考えて、本池市議に市大とのやりとりを詳しく聞いた。以下がそのやりとりの抜粋である。

6月28日 荻野理事長出張。砂原市大事務局長に荻野理事長と面会したいと要請。

 本池 「6月議会の一般質問でも取り上げたが、要領を得ない答弁なので、大学としての考え方を確認したい。場合によっては9月議会において、再度取り上げることも考えている。荻野理事長に面会をお願いしたい。荻野理事長は当初からの当事者であり、現在の最高責任者だ」
 砂原 「先日の総務部長の答弁と同じことしかないと思う」
 本池 「あれではわからないからじかに聞きたい」
 砂原「たしかに、今いるもののなかでは一番かかわってはいるが、部長がいったことと同じだというと思う」

 本池「理事長本人に聞きたいことがある。事務局長さんには損害賠償金返済状況を答えてほしい。990万、620万5000円はどうか、利息と延滞金はどうかを」
 砂原 「それも、総務部長がいったでしょう。私も詳しいことはよくわかりませんよ。もちろん議事録は読みましたよ」「聞くのは議員としてか、長周新聞としてか。違ってくるので」
 本池 「議員としてだ」
 砂原 「一応、理事長には話してみる。今日は出張なので、数日かかる。連絡先を教えてくれ」

7月3日 砂原事務局長から電話。

 砂原 「総務部長が答弁しているので話すことはないので(理事長は)会う必要はないといっている。私も総務部長と同じだ。もう一度聞くが、取材なのか、議員としてなのか」。
 本池 「答弁ではわからないからだ。議員としての立場で面会をお願いしている」
 砂原 「また連絡させてもらう」

 その後1週間近く経っても返事がないので電話した。

 本池 「返事がないがどうなったのか」

 砂原 「理事長は総務部長の答弁と同じだから会う必要はないといっている。何が聞きたいのか」

 本池 「最終的に損害金がどうなったのかを聞きたい。あなたには990万と620万はどうなったのか聞きたい。理事長には一つは、和解条項を市に報告したのか、議会に報告したのかは聞きたい。そのほかも聞く」

 砂原 「市出資法人の委員会が、今年は総務委員会でおこなわれるからそこで話になるのではないか。理事長も出席すると思う」

 本池 「9月議会に取り上げるかもしれない。市大問題の総務委員会は10月だ」

 砂原 「会わないといっているから」

 本池 「その理由をちゃんと書いてもらいたい」

 砂原 「わかった」

 その後今日(7月25日時点)まで市大からの連絡はない。

 このやりとりを見て、市民の皆さんはどのように思われたでしょうか。市会議員が多くの市民の声(市民が損害を被っているのではないか、市民の知る権利が阻害されているのではないか)を受けて、市政に対する市民の疑問を解消するために面会を要請した。特定の一個人や一団体の利害のために会いたいと言っているのではない。これに対して、砂原事務局長は市会議員としての立場での面会かと2度も確認した。また、面会での質問項目までも聞いた。そのうえでの面会拒否である。

 しかも、次に述べるように全く理由にならない理由をつけてである。一般常識からすれば最低でも会って話をし、話を聞くのが普通ではなかろうか。また、面会要請に対して返事をしていない、再度本池市議から電話したあげくの面会拒否である。不誠実というより、むしろ失礼な対応だと思う。市大理事長や事務局長という立場から見ると、市会議員はその程度というように思っているのかなと思ってしまう。

 本件に関して最も重要な点は、「総務部長答弁と同じだから」という、面会拒否の理由である。松崎・今井新旧総務部長はこれまで「和解内容、和解金額、回収額、完納時期などは市大は公表しないということなので知らない」と他人事のような答弁に終始してきている。これらの事項はこれまで再々述べてきたように、非公表とすることはできない事項があるにもかかわらずである。

 荻野理事長は、損害発生の責任者の1人であり、この損害賠償請求事件を不透明にし、市民の疑惑解明の妨げになる秘密条項付きの和解をした当事者である。その当事者が、和解金額、回収額、完納時期などは知らないと言っているのである。損害発生責任者の一人であり、市大の最高責任者がこのような無責任な発言をすることに怒りさえ覚える。市民に対して申し訳ないという気持ちは微塵も無いようである。下関市民をバカにしていませんかと問いただしたくなる。

 また、砂原事務局長の対応も問題である。面会要請に対して返事をしないというのも問題だが、最も問題なのは損害金の回収状況についてきちんと答えないことである。「総務部長回答と同じ」という考えられないような回答が平然とできるのも驚きである。しかも総務部長答弁の議事録を読んだうえでの回答というから二重の驚きである。

 市大のナンバー1、ナンバー2がこのような状況である。

 市民の皆さん、市大の対応に納得できたでしょうか。市大の対応を見ると、何かおかしい、全額回収できたというのは本当だろうか、何かを隠しているに違いないという思いを強くするばかりである。真実ほど強いものはない。何事にしろ、隠してだましてやり過ごそうとしても、結局、嘘はバレるものである。

まとめ

 これまで述べたように本件は市大職員の不祥事と組織ぐるみとさえいえる不適正な事務処理が原因で発生した公金の損害賠償事件である。

 損害発生に対しては厳しく問われて然るべきだが、回収については市及び市大が議会で誠実に答弁し、市民への説明責任を果たして「市民が納得できる形」で回収できれば、本来、それほど問題は生じない事件であった。

 しかし、損害の発生から一連の議会審議を通じてわかったことは、市民に知らせるべきことが秘密にされ、そこに無理が生じたために、市は無責任な対応に終始し、責任ある行政、市民に信頼される行政とはとても言えない状況を呈してきた。和解以来、市大が一切表に出てこず、市のみが議会対応してきたことも、市、市大両者の無責任に拍車をかけたようである。

 平成30年6月議会で一応、損害金は全額回収できたようだという答弁はあったが、回収金額は知らないという無責任答弁であった。今後に残された問題は多い。お金が回収できたというのだからと、この問題を終わりにしてはならない。今後、市議会での虚偽、誤魔化し無責任答弁を防ぐためにも、また市政の信頼回復のためにも次の事項の真相究明を図り、その責任の所在を明らかにしなければならない。

 1 損害賠償金の回収について(990万円と620万5000円)
 ①損害金の回収状況(年毎の回収額)と完納時期
 ②遅延損害金額
 ③上記①②について市は知らないと言ってきたが、本当に知らなかったのか。知らなかったとしたらその理由は?

 2 和解について
 「原告及び被告らは、本件和解内容を公表しないこととする。ただし、原告が市議会に報告する場合はこの限りではないが、原告は本和解条項の趣旨を尊重して市議会に報告し、市議会に対しても本和解条項の尊重を求める」(和解条項)
 ①市大はなぜ秘密条項付きの和解をしたのか?
 ②市大は和解することについて市と協議あるいは報告をしたのか、したのならいつしたのか?
 ③市大は市に和解内容を報告しなかったのか?なぜか?(市は和解内容は知らないと答弁しているが)
 ④市大は上記1の①②③(損害金の回収状況等)は秘密条項付きの和解で秘密にしなければならない事項と考えているのか? その理由は?
 ⑤市は和解内容を市大に聞かなかったのか?聞いたが市大に拒否されたのか? 市は権限に基づいて市大に和解内容を聞かなかったのか?
 ⑥市は訴訟記録を閲覧していないのか。閲覧したのなら、いつ閲覧したのか?

 3 行政の信頼と議会審議の信頼を失墜させた市執行部発言の確認と責任の所在の明確化。市議会での虚偽答弁は許されない。

 4 秘密条項付きの和解にも市議会に報告するという条項がある。
 ・市大は如何なる理由でこの条項を入れたのか?
 ・市はこの条項であることをいつ知ったのか?
 ・市はこの条項をどのように解釈(理解)したのか?

 以上の点については今後も究明し、行政の信頼の確保を図らなければならない。

 本問題の真相究明と解決のためには、今後、荻野市大理事長が市民への説明責任を果たすことが最重要である。この問題の根源を知り、キーマンである荻野理事長が真実を話さないと、市民が納得する真相究明は難しい。もう逃げやいい加減な答弁、説明を許してはならない。

 本件は江島元市長時代に損害が発生し、中尾前市長時代に損害賠償請求訴訟を起こし、和解した問題であるが、現在、前田市長がこの問題をどう解決に導くかが問われている。従前と変わらない対応を続けていると、結局、前田市長の責任となってしまう。前田市長にはリーダーシップを発揮して市民が納得できる解決を図ってほしい。また、市議会はチェック機能を働かせ、下関市議会の権威と各議員の名誉のためにも市民が納得する形での解決を図って欲しい。

報告書作成にあたって

 報告書作成のため、各メンバーが資料を持ち寄ったが、その中で本池市議の一般質問(記事)が大変参考になった。本池市議は、この問題が発生した当初から市民の声を受けて真相究明に努力してこられた。おかしいことはおかしいと終始一貫ブレることなく、市民代表としての責任を全うしようと努力されてこられた。その信念と行動には共感するし、敬意を表したいと思う。今期で退かれるようですが、まだ時間があります。この問題を追及し続けて下さい。私どもも多くの市民の方たちと共にバックアップします。そして、失礼な言い方を許してもらえるなら、下関市政、下関市議会にはあなたのような「愚直」な議員が絶対に必要ですので、今後もあなたと同じように市民を第一に考える議員の育成に努められるよう期待しています。

 なお、連載中から大きな反響があり、いろいろな意見が寄せられた。市大トイレ工事の損害賠償について、あるいはこの調査報告に関して、ご意見、ご感想、疑問点などがあったら是非お寄せ下さい。(おわり)


2017年03月29日

下関市立大パワハラ訴訟判決訴訟判決、事務局長に賠償命令 地裁下関 一部不法行為と判断

毎日新聞(2017年(平成29年)3月29日 地域・下関)

 市立大パワハラ訴訟判決訴訟判決 事務局長に賠償命令 地裁下関 一部不法行為と判断

 下関市立大の教授が研究妨害やパワーハラスメントによって精神的に不安定となり、適応障害を発症したなどとして、同大理事長と事務局長に対し、損害賠償を求めていた裁判で、山口地裁下関支部(泉薫裁判長)は事務局長に5万5千円を支払うよう命じる判決を出した。判決は21日付。判決では、研究妨害やパワハラは認定しなかったが、事務局長の行為の一部を不法行為と判断した。

 判決によると、2012年9月、原告は事務局長らにパワハラを受けたとして、同大のハラスメント委員会に調査を申し立てたが、同委員会はパワハラとは認められないとの結論を出した。その後、14年3月ごろ、今度は事務局長が、原告がハラスメント被害を教授会などで訴えたことで名誉を棄損されたとして、同委員会に調査を申し立てたが、委員会は「委員会が取り扱うべき案件ではない」などとして申し立てを却下した。

 判決では事務局長による委員会への申し立てを「報復目的によるもの」と認定し、不法行為があったと判断した。泉裁判長は「本来、職員をハラスメントから保護すべき立場にある被告から報復的申し立てを受けた原告の精神的苦痛は大きい」と述べた。取材に対し、事務局長は「大学には関係のない個人間のことであるので、コメントは申し上げられない」と語った。

下関市立大学に関する過去記事
下関市立大、「健全運営を」 教員ら市議会に請願書
学長選考「無効」訴え,下関市立大 選考委員の半数
下関市立大学、敗北した者が学長に 民主主義のない大学

教授に精神的苦痛、下関市大の事務局長に賠償命令 地裁支部

山口新聞(2017年(平成29年)3月28日 社会)

 下関市大の教授がパワハラなどを受け適応障害を発症したとして同大の理事長と事務局長に損害賠償を求める訴訟を山口地裁下関支部(泉薫裁判長)に起こし、同支部が事務局長に5万5千円の賠償を命じる判決を出したことが27日、分かった。判決は21日。

 判決によると、2012年9月、原告は事務局長らにハラスメント行為を受けたとして、同大ハラスメント防止委員会に申し立てを行った。しかし、同委員会はハラスメントがあったとは認めなかった。一方で事務局長は14年3月ごろ、原告が教授会で事務局長に対する名誉棄損発言をしたとして、同委員会に調査を申し立てたが却下された。

 泉裁判長は「職員をハラスメント行為から保護すべき立場の事務局長から申し立てを受けた原告の精神的苦痛は相応に大きい」と指摘。事務局長の報復的な申し立てを不法行為と認め、慰謝料の支払いを命じた。

 事務局長は取材に「個人的な訴訟のためコメントは差し控える」と述べた。


2016年12月02日

下関市立大、「健全運営を」 教員ら市議会に請願書

朝日新聞・山口版(2016年11月29日)

市立大「健全運営を」 教員ら市議会に請願書

 昨年に実施された学長選をめぐり、下関市立大学(川波洋一学長)の教員ら38人が、大学の運営健全化を求める請願書を25日付で市議会に提出した。教員らはこれまで、「新学長の選考手続きには大きな問題がある」として、昨年12月の学長選考会議の検証などを大学側に求めていた。
 学長選をめぐっては、選考会議に先立って行われた教員らの「意向投票」で、川波氏の29票に対し、落選した対立候補は38票を獲得。だが選考会議では議長裁定で川波氏が選出された。このため、「9票もの大差を覆す明確な理由が無い」として、選考委員の半数が選考結果に反発していた。
 提出された請願書では、「学長選考の過程を検証する会議が紛糾して流会になった。学内では、教職員の携帯電話記録の提出を求めるプライバシー権侵害や、教職員に対する複数のハラスメント行為など異常な事態が起きている」と指摘。
 ①学長選考においては教職員の意向を尊重する②理事長らの任命は、公正で民主的な大学運営を進める能力のある人材を選ぶ③ハラスメント調査などについては学外有識者の観点を取り入れることなどを要求している。
 請願書に署名した教員の1人は取材に対し、「いまの市立大に自浄作用は期待できない。市議会に大学の運営を正してほしい」と話した。請願書は12月1日開会の市議会で審査される。


2016年03月18日

学長選考「無効」訴え,下関市立大 選考委員の半数

■朝日新聞(2016年03月15日 西部 朝刊 山口・1地方)

 下関市立大学の次期学長を選んだ昨年12月の選考会議をめぐり、「教員らによる意向投票の結果を覆すなど、選考手続きに大きな問題がある」として、選考委員の半数が決議の無効と審議再開を求めている。教授会構成員の過半数も事実関係の調査などを要求している。一方、同大側は「大学の規程に従って選考した」と反論している。

大学側「規程に従って選考」

 同大によると、昨年12月開催の「学長選考会議」(議長=佐々木孝則同大事務局長)では2人の候補者の中から、次期学長に九州大学付属図書館付設記録資料館長の川波洋一氏を選出した。任期は4月からの3年間。
 朝日新聞が入手した同大教員でつくる[大学の現状を憂える教員一同」が大学側に提出した文書「次期学長候補者選考に関する調査請求」などによると、学長選考会議に先立って行われた教員らの「意向投票」では、川波氏の29票に対し、落選した対立候補は9票上回る38票を獲得していた。
 だが、「選考会議」では議長の佐々木事務局長を含む委員6人が投票を行い、3対3の同数となったため、議長裁定で川波氏を選出したという。
 対立候補に投票した3人の委員は「9票もの大差を覆す明確な理由が無い」「議長が投票権と決定権を二重行使できるかについては結論が得られていない」などと反発。同大理事長にあてた「学長選考結果報告書」の書面への署名捺印を拒否し、公式文書とは認められないと主張している。
 また、同大教授会構成員の過半数にあたる33人の教員も連名で、選考手続きの事実関係の調査と説明を求めている。
 教員の一人は朝日新聞の取材に対し、「学長選考会議は問題の多い選考過程を隠蔽しようとしており,説明責任を果たそうとしていない。公立大学法人に求められるコンプライアンスに明確に抵触する」と話した。
 一方、同大の佐々木事務局長は「学長選考に関する大学の規程では教員の意向投票結果は『参考にして審議』するもので選考結果を縛るものではない」と指摘。「『議事は出席した委員の過半数で決し、可否同数のときは、議長の決するところによる』とも定めており、議長の投票権を排除していない」としている。(白石昌幸)

2015年12月28日

下関市立大学、敗北した者が学長に 民主主義のない大学

長周新聞
 ∟●敗北した者が学長に(2015年12月28日付)

敗北した者が学長に
下関市立大学学長選
民主主義のない大学

2015年12月28日付

 あの下関市立大学で、またもや大学の民主的な運営を破壊するような出来事が起きて物議を醸している。この間、吉津直樹学長の任期満了に伴う学長選がおこなわれてきたが、11月末の意向投票で圧倒していたはずの候補者が、その後の学長選考会議で振るい落とされ、敗北した側が学長に選ばれるという珍事に発展している。70人近い大学関係者の意向を覆して山口銀行幹部などの外部委員2人、さらに大学事務局長(市役所OB)を加えた3人の意志によって新学長を「決定」するというもので、民主的な意志決定ができない大学の姿を暴露している。

 意向投票では38対29だったはずが…… 選考会議で覆す

 学長選には京都大学名誉教授の橘木俊昭氏(専攻・労働経済学)と九州大学付属図書館付設記録資料館長の川波洋一氏の2人が立候補していた。市立大学の教員たちの多数が橘木氏の側に結集し、対する川波氏は前回の学長選で吉津学長に敗れた後、中尾市長から理事長に任命されていた荻野理事長(九州大学出身)が引っぱってきた人物といわれていた。
 11月26日の意向投票では67人が投票し、橘木氏が38票を獲得したのに対して川波氏は29票にとどまった。川波氏の29票のなかから投票権を持っている幹部職員たちの組織票12票を除くと、教員たちの判断としては38対17、つまりダブルスコアの差で橘木氏が次期学長にふさわしいと見なされた。
 ところがその後、「意向投票を参考にする」として開かれた学長選考会議で、投票結果を覆す決定がやられた。学長選考会議は同大学の経営審議会メンバーである佐々木幸則事務局長のほかに、外部委員である財満寛・山口銀行専務と冨成信太郎・武久病院事務部長の2人、教育研究審議会から選出された3人の教員たちの6人で構成していた。協議では決まらず、最終的に多数決をした結果3対3で判断は真っ二つに割れ、最後は議長役の佐々木事務局長の采配で川波洋一氏が次期学長に「決定」した。
 複数の大学関係者たちに取材したところ、選考会議のなかでどのような論議がくり広げられたのか真相がわからず、6人以外には知りようがないと語られている。ただ、メンバーである教員3人が「学長選考結果報告書」の署名捺印に応じておらず、「川波洋一氏に決まりました」の文書には外部委員2人と事務局長の3人の署名捺印しかないことが語られている。議長役が多数決で議決権を行使して3対3の一員として加わった上に、最終的には自分判断で押し切っていくことへの疑問も語られている。
 その後、師走の喧騒に紛れて事務局側は山口新聞その他に出向いて新学長体制を発表し、既成事実にしてしまう動きを見せた。それをメディアが取材もせずに掲載した。ただ、学内では誰も納得しておらず、「佐々木幸則の独断」及び「荻野理事長のお友達人事」で新学長が決まることへの不快感が強烈に渦巻いている。一部では提訴を検討する動きに発展している。
 選考会議の議事録を公表するのはもちろんのこと、いかなる理由で意向投票に敗北した者を学長に抜擢したのか、みなが説明を求めている。学長という大学を代表する人物の選考を巡って、みなの総意に反して選考会議の六人が決める、いわんや3人で決めることができるというのなら、それは民主主義的な意志決定の方法などこの大学は知らないことをあらわしている。
 それにしても、荻野理事長はじめ九州大学の関係者が揃いも揃って下関市立大学を「上がり」の天下りポストのように私物化していく様は、見ている者を困惑させている。いくら九州大学の総長ポストその他に手が届かないからといって、今回のようなずるい手口で地方大学の学長や理事長の肩書きを得て、彼らは恥ずかしくないのだろうか? これは九州大学をあぶれた者の体質なのだろうか? 九州大学の名前を汚す行為ではないのか? という世論が広がっている。天下の旧帝大といっているのに、そこからやってくる関係者が大学において貫かれるべき基本原則であるはずの民主主義を知らないというのである。学内で否定されているのに就任する本人も本人で、一般人には理解し難い思考回路の持ち主というほかない。

 市長の修士論文騒ぎに続き

 下関市立大学では、以前にも学内の意向投票を覆して選考会議が学長を決めたことがあった。前回選挙では学内の意向投票の結果が尊重されたものの、学長選で敗北したはずの荻野元学長がその後、中尾市長によって理事長に引き上げられるという前代未聞の事態に発展していた。それは中尾市長の修士論文を荻野氏が指導していたからであった。そして市長の500ページにも及ぶ修士論文は「ただの自慢話」だったことが露呈して、教員たちの投票により修士号は与えないことが決まり、憤慨した市長・理事長側と大学教員たちの紛争が全国に知れ渡って騒動になった。
 さすが安倍晋三のお膝元で、政治、経済、教育にいたるまで、上に立つ者が民主主義を知らず、万事がこの調子である。「安倍先生! 安倍先生!」といっておべんちゃらをしてさえいれば市長ポストはじめ市政上層の地位は安泰と見なし、自分まで安倍晋三になりきったつもりで思い上がるのである。市役所OBというだけなのに、歴代の大学事務局長までが独裁者然として威張り始めるのも下関市立大学の重要な特徴で、大学や教育について知らない者が知性を排斥して大学を利権の具にしたり、天下りOBたちが年収1200万円を稼いでいく場所にしたり真理真実の探求とは縁もゆかりもないことをやり始めるのである。
 学長選考会議の「決定」は、意向投票で敗北した者が学長になるという極めて不透明なものとなった。さては修士論文を否定された中尾市長が、修士号欲しさに川波学長体制をつくったのではないのか? という新たな疑惑を生んでいる。