全国
 カテゴリー (私)埼玉女子短期大学

2010年04月07日

埼玉女子短期大学事件(通称「お菓子解雇事件」)の高裁判決を受けて、前代未聞の不当判決に強く抗議します

首都圏大学非常勤講師組合
 ∟●『控室』第74 号、2010 年3月21日発行

埼玉女子短期大学事件(通称「お菓子解雇事件」)の高裁判決を受けて
前代未聞の不当判決に強く抗議します!!

 平成21 年12 月24 日、元埼玉女子短期大学の専任教員(准教授)であり、首都圏大学非常勤講師組合の組合員でもある衣川清子氏の地位確認等請求訴訟に対して、東京高等裁判所の判決が下りました。
 今回の判決は、地裁判決をほぼ踏襲したもので、(1)総合的に教員としての適格性・協調性に欠けると認められれば、とくに重大な損害の事実がなくとも解雇できる、(2)その適格性・協調性の判断は厳密な事実の認定を必要としない、という点が重要です。地裁判決は、当短期大学の就業規則に「教育職員として著しく品位に欠ける行為があり本件短大の体面を汚したとき、及び本件短大の秩序を著しく乱したときには当該教育職員を懲戒解雇する旨の定めがある」ことを根拠に、衣川さんの研究者としての誠実で正直な発言の多くを、明確な証拠もなく誹謗中傷と切り捨て、懲戒解雇の事由があるが普通解雇としたという大学の主張を正当と認めました。
 今回の判決では、私たちが「お菓子解雇事件」と命名しているように、お菓子を学生に《頻繁に》配布したことが重大な解雇理由となっていますが、それに関連して判決で確認されたのは、研究室で学生が騒いだため(学生が先生のためにバースデイケーキを持ち込み、バースデイソングを歌ったのが真相)、後日教授会で研究室での飲食禁止となったという事実です。判決はこの事実を研究室使用規定違反と認定しています。しかし衣川さんは禁止された後に研究室で飲食は一切していないと言明していますし、判決もそれを認めています。ここでの論理矛盾は明らかです。また解雇理由になる学生への不適切な対応として、お菓子の配布を判決文では強調していますが、《頻繁に》の根拠も、また、どう不適切なのかについても明らかにしていません。
 その他の解雇理由として「学長批判」というのがありますが、学長の発言内容の誤謬を指摘した行為がそれに当たるようです。しかし「本件短大の体面」とは学長のプライドを指すのでしょうか。憲法上、学問の自由の下に大学の自治が保障されると解されるのは、大学が学長の所有物ではないからです。しかも解雇事由とされる事例は、いずれも事後に注意も戒告も受けていません。他の教員による連名書の存在も、解雇理由の一つです。どうも教員としての適性より、協調性が解雇の基準となっているようです。
 衣川さんは大学の専任教員でしたが、新設・中小規模の多くの大学では、そもそも教職員組合が結成されておらず、個人で入れる外部の教職員組合もあまりありません。衣川さんも現在では非正規教員として生計を立てており、また、この裁判は、高等教育に携わる教職員の公正な処遇を求める当組合の趣旨に合致すると考え、途中から当組合が積極的に支援することになりました。
 今回の判決は、高等教育機関で働く多くの人々にとって、注目すべき判決だといえます。非正規雇用の不安定な実態が国会でも注目されていますが、正規雇用までがこれほど不安定な状況に置かれつつあることを、政治家はどこまで把握しているのでしょうか。昨今は全国で解雇・雇い止めの嵐が吹き荒れていますが、このような些末な理由で解雇が正当となるのであれば、とりわけ連名書の存在が解雇理由になるのであれば、まさに職場のいじめを推奨するようなものです。くり返しますが、大学の自治は、「学問の自由」を前提として保障されたものです。連名書で解雇されるならば、もはや言論の自由はありません。つまり学問研究の自由も保障されないということになります。他人の顔色を窺う研究などというのは学問研究の崩壊に他なりません。
 今回の判決の内容を世間に広めることによって、不当な雇い止めとそれを追認するかのような判決の増加を少しでも食い止め、多様な才能を持つ人々が一方的に序列化され排除されることはおかしいという声を大きくしていかなければなりません。また、衣川さんのように、専任の教職員組合のない大学でのトラブルや、任期制教員として困難を抱えている方々は、今後さらに増えるでしょう。しかし当組合はそういう方々のためにも開かれた組織ですので、非常勤講師はもとより、組合のない専任教職員の方々も一人で苦しまずにぜひ相談に来て下さいと強く呼びかけます。
 あなたの抱えている問題は、実はあなた一人の問題ではありません。自由な研究と知性を大切にする社会を求め、非正規・正規雇用の区別を超えて志を同じくする研究・教育労働者として共に闘おうではありませんか。(松村比奈子)