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2021年08月05日

早稲田大学教員公募・団交拒否事件、第12回裁判

Okayama Shigeru
 ∟●早稲田大学教員公募・団交拒否事件、第12回裁判

早稲田大学教員公募・団交拒否事件

第12回裁判 2021年8月5日(木)13時10分
東京地裁 709号法廷
連絡先:労働組合東京ユニオン 電話03-6709‐8954

大学教員の公募における公正について

明治大学の専任教員である石井さんは、非常勤講師として教えている早稲田大学のある研究科の専任教員の公募に応募し、その第一次の選考で落とされました。しかし選考のプロセスに問題があったという告発が石井さんのもとに寄せられたため、石井さんは自分が落とされた理由を明らかにすることを大学側に求めることにしました。ふつう大学教員の採用において、採用されなかった者がその不採用の理由を大学側に訊ねることはありません。自分には縁がなかったと思ってあきらめるか、あらたな公募に応募するかのいずれかです。しかし労働問題の専門家でもある石井さんは、大学教員の採用の問題に関心があったたため、またすでに他大学の専任教員でもあったがゆえに、あえて早稲田大学に自分の不採用の理由を問うことにしたのです。

彼はまず当該の研究科(早稲田大学アジア太平洋研究科)に、選考のプロセスを定めた内規や選考会議の議事録を示すよう求めました。そしてそれが断られると、大学にも同じことを求めました。そしてそれも断られると、こんどは労働組合東京ユニオンとともに団体交渉によって大学から回答を引き出そうとしました。しかし大学側は、教員の採用は団体交渉事項には当たらないとして、交渉そのものを拒否したのです。大学側の言い分は、まだ大学に専任教員として採用されていない者が、大学の一員としての知る権利を主張することはできない、というものでした。また大学には企業と同じように「採用の自由」があり、自治が保障されている大学においては、その自由は企業よりも大きいというものでした。この対立は、石井さんと労働組合東京ユニオンが早稲田大学を訴えることで裁判になっています(今回はその12回目の法廷です)。

焦点となっているのは、①公募においてなんらかの疑念が生じた場合、それを晴らすのは公募を行う側の義務ではないのか、②石井さんは早稲田大学で非常勤講師をしているけれども、非常勤講師は大学の一員ではないのか、という2点です。

まず①については、公募である以上、大学が選考の公正にできるかぎりの配慮をしなければならないのは当然です。「一本釣り」による採用なら選考の手続きを学内の規程に則って行なえばよいのですが、公募による採用においては、学内の規程に則る以上に、応募したすべての候補者に対する責任が生じます。まして候補者から疑念が示されれば、それを無視することはできません。大学は自治を保障されているゆえに、企業にもまして採用における責任が問われるのです。

つぎに②に関しては、早稲田大学は専任教員と非常勤教員に別個の雇用規程をもうけていますが、その授業の多くを非常勤教員に依存している現状や、専任教員と非常勤教員の待遇に差別的状況があることにかんがみ、むしろ非常勤教員を大学の構成員としてみとめることが必要になっています。大学が自治に支えられた空間なら、非常勤教員にも「学問の自由」と「労働の権利」が認められねばなりません。

文科省は大学の教員に流動性をもたせるとして、任期制をおしすすめ、公募を行うように推奨しています。しかし公募における公正に目を光らせているわけではありません。全国の大学に公募が普及することは、ポスドクや専業非常勤の人たちにも専任教員となるチャンスが増えることだから、悪いことではありません。しかし公募における公正をチェックできる仕組みを文科省が創らないものだから、大学界に混乱が生じているのです。

文科省は国立大学法人の学長選挙などで「大学の自治」を切り崩そうとしているにもかかわらず、教員の採用に関してはすべてを大学の自己責任にしています。そのなかで早稲田大学のように、文科省の意を汲んで積極的に公募を行う大学もあらわれれます。

大学教員の公募においては一つのポストに100名以上の応募者があるのもざらです。50回以上応募しつづけているポスドクや非常勤講師もいます。それも公正な選考がなされているなら許されるかもしれませんが、そうでない恣意的な選考がまかり通っているとしたらたまりません。選考が公正に行われたというなら、早稲田大学は石井さんを第一次選考で落とした理由も明らかにできるはずです。

「採用の自由」はボス支配を許し、ボス支配は「学問の自由」を侵害します。大学の教員の公募においては、応募する者がどのような「思想・良心」を持つかではなく、その「思想・良心」をどれだけ正当化しうるかの能力が問われます。それゆえ採用する側も、自らの内部に巣くう「ボス支配」と闘わねばならないのです。学問と労働の自由をめぐるこの裁判の行方にご注目ください。


2021年03月13日

早稲田大学教員公募・団交拒否事件第9回裁判

岡山茂(東京ユニオン早稲田大学支部長、早稲田大学政治経済学部教授)
https://www.facebook.com/okayama.shigeru/posts/10217780177688779

早稲田大学教員公募・団交拒否事件第9回裁判

東京地裁 709号法廷 3月11日(木)15時30分
連絡先:労働組合東京ユニオン 電話03-6709‐8954

原告の石井さんはすでに専任の職にあるのになぜ早稲田大学の専任の公募に応募したのでしょうか。その公募の書類選考で落とされ、面接にも残れませんでしたが、なぜ執拗に自分が落とされた理由を知ろうとするのでしょうか。いまいる大学で退職のときまで好きな研究をすることもできるのに、どうして裁判なのでしょうか。
これは私の考えにすぎませんが、まず石井さんが中国政治の研究者であるということが理由にあげられると思います。いまの早稲田大学は、江沢民や胡錦涛が来日すれば、学生やチベット出身の人たちの抗議があっても大隈講堂で講演をさせ、孔子学院の事務所を構内につくらせ、中国からの留学生をふやすのに熱心な大学になっています。石井さんは天安門事件以降の中国政府の動きを一貫して批判的に論じてきた研究者です。政治的な中立性において問題がないとはいえないこの早稲田大学の現状に、自らの研究でもって一石投じたいのであろうと思います。

つぎに、石井さんに「学問の自由」への強いこだわりがあることがあげられます。研究者として十分な業績と実績がある候補者を、その「思想・信条」(たとえば反中国政府的であるなど)を理由に門前払いにされてよいわけはありません。もちろん大学は石井さんを落とした理由をいいませんが、大学側の弁護士は、企業における「採用の自由」が大学にもあるのだと言います。「採用の自由」とは、候補者の「思想・信条」に問題があれば、採用しなくともよいということのようです。しかし大学側の弁護士はさらに、「大学には自治が保障されているのだから、企業以上に採用の自由がある」と主張してはばかりません。
大学とりわけ私立大学が企業のようなものになってしまっていることは事実です。国立大学も法人化され、その教職員は公務員ではなくなりました。しかしそうであるからといって、大学には企業以上の採用の自由があるというのは、暴言ではないでしょうか。大学も企業であるというなら、企業としての倫理をもたねばなりません。そしてたいていの企業は、みずからを大学と言いつのるようなことはありません。

「思想および良心の自由」は憲法で保障されたすべての人の権利です。しかし大学で教えるにあたっては、教員は自らの「思想・良心」がどんなものであれ、それを学問的に正当化したかたちで語ることができなければなりません(さもないと「歴史修正主義」もイデオロギーも「思想・良心」として次世代に伝えられてしまうでしょう)。教員の公募において問われるのは、その正当化の能力であって、その人の「思想・信条」ではありません。ところで石井さんは、学問におけるその正当化の能力にかんして自信をもっているドン・キホーテのような人なのです。それゆえ自分が落とされた理由を、どうしても知らなければならないのです。
菅首相は昨年9月末、日本学術会議が推薦した新会員候補者6名の任命を拒否しました。首相は6名の候補者の学問上の業績を評価するわけではありませんから、彼らの「思想・信条」がおもしろくなかったに違いありません。しかしそうすると、菅首相は自らの「思想・信条」によって「学問の自由」を否定しているということになります。ところで早稲田大学の田中総長もまた、菅首相と同じ過ちを犯しているのです。二人とも「学問の自由」をまもらねばならない立場にあるにもかかわらず、「採用の自由」によって「学問の自由」を侵害しています。ところで大学の学長とは、だれよりも「学問の自由」を守る人ではないのでしょうか。早稲田大学の田中総長は、日本学術会議とともに首相に対して任命拒否の撤回を求めるべきであるのに、自らの意見は述べないと学術院長会議で述べたそうです。

石井さんがあえて闘いつづける理由としてもうひとつ、非常勤講師の問題があると思います。彼は早稲田大学政治経済学部で非常勤講師もしていますが、専任の職のない非常勤講師の人たちが日本の大学でおかれている状況に対して黙ってはいられないのです。
大学はいまや終身雇用の場ではなくなりました。任期つきの採用や「テニュア・トラック制」が導入され、専任教員の身分も不安定になっています。それゆえ教授会でも、とりわけ若手の教員は、テニュア(終身在職権)をもたないうちは自由に発言もできません。また専任教員が非常勤講師の代弁をしようとすると、あなたは専任教員だからそんなことが言えるのだと、専任教員ばかりでなく非常勤講師からも言われてしまうほど、専任と非常勤のあいだにきびしい断絶があるのです。
もとより早稲田大学は非常勤講師に大幅に依存しているにもかかわらず、彼らを「大学人」とみなしておりません。「大学人」とは大学にいて「学問の自由」を享受しうる人間をいうのでしょうが、非常勤講師は大学に雇用される労働者にすぎません(かつて非常勤はどこかの大学に専任の職のある教員が小遣い稼ぎのためにやるものでしたが、いまではどこにも専任のない非常勤が非正規労働者として雇われるという状況が一般化しています)。
専任教員もかすみを食って生きているわけではなく、学生もアルバイトをしないと生きていけません。それゆえ「大学人」もまた労働者であるにもかかわらず、そして労働の権利はすべての人が享受しうる権利であるにもかかわらず。自らを労働者ではないと思っている教員や学生が日本にはまだたくさんいます。フランスでは68年5月に学生と労働者がともに立ち上がり、自分たちの大学を要求しました。そして当時のドゴール大統領を政権の座から引きずり下ろすのに成功しました。ドレフュス事件のときに「知識人」が誕生したフランスだからこそできたことかもしれません。

石井さんはこの日本で「知識人」たろうとしているドン・キホーテのような人なのです。「知識人」とはもとは蔑称で(いまでも「インテリ」にはそういうニュアンスがあります)、ドレフュス事件のころモーリス・バレスのような右翼文化人が、ほんらい形容詞であるアンテレクチュエル(知性的な)ということばを名詞として用いて、「有名でもないのに知識があるのをよいことに偉そうなことをいう生意気なやつら」という意味で使ったのでした。しかしその「知識人」がドレフュスを冤罪から救ったことにより、このことばもよりポジティブな意味をもつようになりました(とはいえいまでも両義的です)。
いまの日本は、石井さんのような人がいないと「学問の自由」も守れないし、大学も救えないところにまできています。できるだけ多くの人がこの裁判に興味をもち、石井さんを支援してくれようお願いしたいと思います。

岡山茂(東京ユニオン早稲田大学支部長、早稲田大学政治経済学部教授)


2021年01月30日

早稲田大学の教員採用をめぐる裁判(続報)

Facebook(Okayama Shigeru,2021/01/30)

早稲田大学の教員採用をめぐる裁判(続報)

大学はいまや終身雇用ではなくなっています。多くの大学で任期制が導入され、3年とか5年で首を切られるようになりました。採用の5年後にテニュア(終身在職権)が取れるかどうかの審査があるテニュア・トラック制も導入されています。また私立大学でも教員の採用が公募で行われることが多くなっています。

そのなかで、教員の採用をどうすれば透明で公正なものにできるかが問われています。大学が一部の学閥エリートによって支配される閉ざされた空間ではなく、すべての人に開かれた自由な空間になるにはどうすればよいのかが、いま問われているのです。

ここにいる原告の明治大学教員の石井さんは、早稲田大学政治経済学部の非常勤講師でもあり、早稲田大学のアジア太平洋研究科の専任教員の公募に応募したのですが、第一次選考で落とされました。応募の要件はみたしていたはずなので納得のいかなかった石井さんは、研究科長に宛てて事実確認を求めました。しかし研究科長が回答を拒否したため、こんどは大学の総長あてにそれを求めましたが、それも拒否されたため、石井さんは労働組合東京ユニオンに加盟し、早稲田大学の労働者(非常勤講師)として早稲田大学と団交を行いました。しかし早稲田大学はこの団交においても教員の採用は団交事項には当たらないとして話し合いを拒否したのです。石井さんと労働組合東京ユニオンはこうして早稲田大学を相手に訴訟を起こすことになりました。

たしかに「大学の自治」は保障されるべきです。しかし大学の自治は「学問の自由」を守るためにあります。そして「学問の自由」は「労働権」とともに憲法によって護られているすべての人の権利です。それをあたかも大学の権利であるかのように語る早稲田大学は、なにか考え違いをしているとしか思えません。

教員および研究者の採用は思想の検閲であってはいけません。昨年来、菅首相は日本学術会議の6名の新会員候補者の任命を拒んでいます。理由をいわないので想像するしかないのですが、6名の候補者の思想・信条が日本学術会議にふさわしくないと考えてのことでしょう。ところで早稲田大学は菅首相と同じことを学内の教員採用においておこなっているのです。

たしかに原告は、中国政治というたいへんセンシティブな分野の研究者です。中国の政権におもねり、中国からの留学生をふやし、孔子学院という中国の体制側の機関の事務所を大学の構内に招き、江沢民や胡錦涛などの国家主席に大隈講堂で講演させている早稲田大学にとって、原告はちょっとやっかいな人物です。しかしそういう候補者を第一次選考ではじくということは、早稲田大学が自由な学問のための場ではなくなってしまっているということを意味します。

私たちは早稲田大学の田中総長を相手取って裁判をしています。田中総長は、自らの思想・信条によって大学の構成員になろうとするものの思想・信条の自由を踏みにじることを許されるのでしょうか。大学のなかのアジア太平洋研究科という箇所が、そのような教員採用をしていることを許しておいてよいのでしょうか。

大学側の弁護士は、大学は自治がみとめられているがゆえに一般の企業よりも大きな採用の自由をもつと言います。そういう弁護士を雇っておいて、早稲田大学は自由な研究のための空間であり続けることができるのでしょうか。早稲田大学はそこで学び問おうとする者の「学問の自由」を、これからも護りつづけることはできるのでしょうか。私たちはいまそういう闘いを行っています。どうかご支援をよろしくお願いします。

岡山茂(早稲田大学政経学部教授、東京ユニオン早稲田大学支部長、2021年1月28日東京地裁前)


2020年10月14日

サイト紹介「ながみねWeb研究室」、早稲田大学学術研究倫理委員会は,剽窃に係わる調査報告書を公開すべきである。

■「ながみねWeb研究室」
http://eba-www.yokohama-cu.ac.jp/~kogiseminagamine/

学術研究倫理問題 : 早稲田大学学術研究倫理委員会の調査報告書

2020‐10‐09

 早稲田大学学術研究倫理委員会の調査報告書(2020‐02‐25)を、10月1日に、「原朗氏を支援する会」ウェブサイトに掲載したが、10月9日、早稲田大学学術研究倫理委員会事務局から「著作権」等を理由に削除を求められ、ひとまずは削除することになろう。

 「原朗氏を支援する会」事務局は、2020年2月25日の盗作判定から7か月以上たっても、不正行為に基づくその後の対応(処分)に関しての問い合わせに対し、早稲田からは何の反応もないので、調査報告書の公開(9月15に、回答期限を月30日までと切っておいたので)に踏み切った。それは公益を考えて、やむにやまれず執った行為であった。
 問い合わせは、6月初旬、7月末におこない、何の回答もない場合、公開に踏み切らざるを得なくなるということは、8月初めに伝えた。そして、最後に9月15日,期限を切っての問い合わせを行った。

 しかし、早稲田サイドからは、こちらの問い合わせに対し、今日現在に至るまで、まったく何の回答もない。「支援する会」ウェブサイト責任者宛てにとどいたのは、学術研究倫理調査委員会事務局からで、しかも、「著作権」を理由とする削除要求だけである。

 これは、大学として誠実なやり方であろうか? 
 自治自立の大学として制定し、内外に公開している大学規程(不正行為に関する規程公開している大学規程)に合致することか?
 
 早稲田大学規程によれば、不正行為案件を適切に公表することを規定している。たしかに、公表期限を区切ってはいないが、審理進行状況・公開見通し等を伝えるくらいは、通報者に対する責務ではないのだろうか?
 不正行為を適切に審議処理して、再発を防ぐためには、迅速な公開こそが当然ではないのか? 不正行為の再発防止という見地からは。加害者・被害者をできるだけ出さないように迅速に対応すべきではないのか?

 今問題になっている学術会議の委員任命問題では、政府の問答無用の任命拒否について、全国的に各界から批判・抗議の声明等があがっている。
 しかし、その場合にも、任命拒否できる正当な理由として、ありうるのは、候補者の学術研究上盗作があった証拠・判定が挙げられており、その場合ならば、任命拒否はありうるだろうと例示されるくらい、盗作案件は、研究者のもっとも基本的要件にかかわるものである。
 
 それだけに、学術研究倫理委員会が下した判断の意味は重い。
 その判断を大学として、今後の不正防止・学術研究の健全な発展のためにどう生かしていくのか、どのような理由付けで不正行為の証拠と判断を社会に公開するのか、その周知徹底こそは、大学の重大な社会的学術倫理的責任であろう。

 学術研究倫理委員会の調査報告書(2020年2月25日)を通報者だけに知らせて事足れり、とはならないはずである。
 学術研究倫理は、大学の生命ともいうべきものである。学生・院生・研究者の全体に知らせるべきものである。
 事実、小保方問題ではごく短期間に総長が処分を発表したのではないか?
 公開している大学規程にてらしても、それが必然ではないか。それが大学規程というものではないのか?

その点に関する当方の問い合わせには、7か月以上、何の回答もないということは、社会通念として、許されるのであろうか?
いつまで待てというのか? 

早稲田大学学術研究倫理委員会は、著作権を理由に、調査報告書の公開を削除させる権利を有するのか?
 真実・真理の探究を、著作権を理由にして重要文書を非公開にし、抑圧してもいいのか?
 それが、真実・真理探究のための学問の自由・大学の自治を基本理念とする大学の取るべき態度か?
 事実・データを隠蔽すれば、事実・データの捏造と同じく、真実・真理の解明の阻害になるのではないか? 
 これは大学の存立・核心的使命に係ることである。

2020年10月10日

小林英夫の剽窃に関する早稲田大学学術研究倫理委員会「調査報告書」の公表にあたって

「原朗氏を支援する会」

早稲田大学学術研究倫理委員会「調査報告書」の公表にあたって(2020年10月1日更新、10月9日再更新)

 小林英夫氏が原朗氏を訴えていた裁判の経過の中で、小林氏が原氏の論文だけでなく、他にも多くの剽窃を行っていた事実が明らかになっていました。裁判所はそれについて全く関心を示しませんでしたが、それに気づいた人たちはその調査を継続していました。

 一方、小林氏が勤務していた早稲田大学は、小保方事件の後、学術倫理に厳しい姿勢を持ち、同大学関係者に関わる学術不正に気付いた者は誰でも、同大学本部に通報することを歓迎され、通報後4か月以内には結論を通知されるという規程を設けていました。

 原朗氏を支援していたA氏は、この規程にしたがって小林氏の一論文について同大学に通報したところ、同大学学術研究倫理委員会からはA氏に対して、通報を正式に受理したこと、判定のための調査委員を決定したこと、倫理委員会として小林氏に「不正あり」の認定をしたこと、小林氏からは「不服申し立て」が出されたが却下されたことなど、順を追って経過報告がなされるとともに、倫理委員会の「調査報告書」(2020年2月25日付)もお送りいただきました。

 同大学のこのような対応は、学術研究上の不正事案に対しては学術界が責任をもって対処している点でも、規則通りの厳格な手続きを経て正当な結論に至っている点でも、学術機関として模範的な対応であったと評価できます。

 以上のような判断に立って私たちは、この文書の内容を学術研究倫理の前進を求める多くの方々に知っていただきたく、このホームページに掲載する形で、資料として情報提供させていただくことといたしました。

 文書のPDFは、こちらよりご覧ください。(早稲田大学学術研究倫理委員会事務局からの申し出により、2020年10月9日に削除しました。)

2020年10月1日  

原朗氏を支援する会・事務局

原朗氏を支援する会、声明「最高裁判決を受けて-批判と決意-」

原朗氏を支援する会
 ∟最高裁判決を受けて-批判と決意-

最高裁判決を受けて──批判と決意──

 6月15日最高裁判所は、原朗氏・小林英夫氏名誉毀損訴訟について、原朗氏側敗訴の決定を下しました。大変残念な結末になりましたが、これまでご支援くださったみなさまに、結果報告と現時点での所信表明を行うことにいたしました。

 本裁判は2013年に小林英夫氏によって、「名誉毀損」の名のもとに地裁への提訴がなされ、5年余の年月を経て、2019年1月21日に、小林英夫氏側の勝訴判決が言いわたされました。そして原朗氏の控訴によって開かれた高等裁判所の判決(2019年9月18日)も、原判決の結論を維持しました。そこで、原朗氏は、直ちに、最高裁判所への上告を決意し、2019年11月26日には、「上告理由書」「上告受理申立理由書」ほか関連書類を提出し、2020年4月13日には、「上告受理申立理由補充書」を最高裁判所に提出しました。以下、上告の経緯、内容を簡潔にふりかえっておきます。

 「上告提起」の理由として、高裁の判決が1剽窃の判断についての学界における学問的手法に反し、裁判官が自己流に造りあげた判断基準を使うことにより、小林英夫著書が原朗論文等を剽窃している事実を否定している、2「歴史的事実」などの用語を無理解のまま使用して原朗論文の学問的成果を否定している、3表記・表現方法の記載についてもその学問的意義を否定し、4先行研究の成果としての図表や地図について学界の慣行となっている記述方法を無視することによって、剽窃の事実を否定している、と批判したのです。そして、高裁判決は原朗氏が学問的立場から判断した発言や記述について、名誉毀損の成立を認めることによって、原朗氏の学問の自由(憲法23条)及び表現の自由(憲法21 条)を侵害するものになっているので、取り消されるべきである、と主張しました。

 また、「上告受理申し立て」の理由として、高裁判決には次のような誤りと法令違反があると主張しました。1高裁判決は、学界における剽窃の判断基準と著しく異なる、裁判官の恣意的な判断基準に基づいて剽窃の有無について判断し、当該学問分野である歴史学界の共通認識に反する認識をおしつけ、経験則違反をくりかえしている。2高裁判決の剽窃に関する判断基準は,現在確立している判例・実務の判断基準とも異なり、推定と反証を用いるべき判断方法を採用せず、絶対的論証を上告人に要求している。3高裁判決を維持すれば、学界において剽窃と判断されたものが裁判において剽窃を否定されるという、学問上一般社会上極めて不都合な結果を生じることになる。このように、高裁判決は、既存の判例・法令に反し、学界における不正剽窃に対する厳しいルールを覆し、学界的に深刻な混乱を引き起こすので、破棄されなければならない。以上が、主張点の概要です。

 さらに、原朗氏は、上告審の過程で明らかになった新事実をもって、「上告受理申立補充書」を提出しました。その一つは、小林英夫氏が係争中の著書の基礎の一つだとする「元山ゼネスト」論文(1966 年公表 2011 年再録)が、北朝鮮の歴史学者・尹亨彬氏の論文(1964年刊)を大量に剽窃(字数 48%)していることが早稲田大学学術研究倫理委員会によって本年 2 月 25 日に盗作と認定された事実です。いま一つは、小林英夫氏が早稲田大学在職中(2013 年)に発表した論文が、若手研究者の論文を剽窃した事実が明らかになったことでした。

 ところが、2020年6月15日、最高裁が本件に下した判決は、以下の通りでした。「上告を棄却する。」その理由は、「民事事件について最高裁判所に上告をすることが許されるのは民訴法 312 条1項又は2項所定の場合に限られる所、本件上告の理由は、違憲をいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに上記各項に規定する事由に該当しない」というものです。また、上告内容が、最高裁の判例と相反する判断がある事件、その他の法令解釈に関する重要な事項を含む事件とは認められないため、上告申立てを受理できないというのです。

 最高裁は「上告提起」と「上告受理申し立て」のいずれについても、審査の対象でないとして、上告人である原朗氏の訴えを退けました。日本の三審制ではこれ以上訴える術がなく、これで高裁判決は確定することになりました。しかし、原朗氏側が指摘した判決における多くの深刻な問題点は、最高裁が退けたところで、何一つ解決したわけではありません。研究倫理の喪失が引き起こしたこの事件は、業績主義が浸透を見せている今日の学界に、深刻な問題を引き起こすことが憂慮されます。すなわち、学術不正を行い学界で自律的に処分された研究者が、「名誉毀損」の名目で裁判に訴えた場合に、学界基準と異なる判定を手にする可能性が生まれたのです。このようなことは、日本の学術研究の健全な発展に、大きな歪みをもたらすことになります。

 地裁と高裁の担当裁判官は、学術研究の蓄積とそれに関する評価の基準を無視し、専門研究者の知見や証言を謙虚にうけとめることなく、自らが自己流に設定した非学問的恣意的・思いつき的な基準によって学術研究の内容に対し甚だしい誤判を下し、最高裁の担当裁判官は上告審としてそれを放置し、「学問の自由」への侵害に途を開く判決を容認したとみなすことができます。彼らの理解力の低さと見識の欠如は、司法に対する国民の負託を甚だしく裏切るものであり、私達は、これらの裁判官の歴史的責任を追及するものです。また、1966 年から剽窃行為を繰り返してきた小林英夫氏が、被害を受けた当事者から事実を指摘されると、学界に訴えるのでなく、司法界に訴えたことは、日本の学術研究体制に計り知れない損傷を与えたものということができます。研究の自由と学問の独立を自ら破壊したその行為も、歴史的責任を負い続けることになります。私達は、これら一連の判決が、学術研究と社会の要請に反するものであることを重視し、今後生じうる大小の研究不正事件の隠蔽や黙殺、被害者の沈黙という事態を生み出さないために、多面的で系統的な努力を学界内外で強めていくことを決意するものです。

 7年間に及ぶこの裁判の成り行きを粘り強く注視し、裁判傍聴・署名・資金カンパなどをはじめ、有形無形の支援をしてくださった多くの研究者、市民の皆様に、心から感謝申し上げます。

2020年6月27日
原朗氏を支援する会事務局

2019年08月08日

サイト紹介、「原朗氏を支援する会」ウェブサイト 小林英夫氏盗作行為の起源

「原朗氏を支援する会」ウェブサイト

堀和生「小林英夫氏盗作行為の起源」

構成
はじめに
(1)引用注
(2)二重の背信行為
(3)剽窃の重み
おわりに
参考資料
剽窃箇所対照表(一部)
・参考資料B:尹亨彬「1929年元山労働者のゼネスト」(堀監訳訂正版)
・参考資料C:小林英夫「元山ゼネスト─一九二九年朝鮮人民のたたかい」(一部)
小林氏自身による改題(小林英夫・ 福井紳一著『論戦「満洲国」・満鉄調査部事件 ―― 学問的論争の深まりを期して』彩流社 2011年より一部引用)

2019年5月17日

堀 和生

はじめに

本件の訴訟の冒頭において、小林英夫氏(以下、「小林」と呼ぶ)は、自分は「学会上の常識や倫理上批判を受けうる、いかなる行為も行っていない」(原告「第2準備書面」2014年1月21日 4頁)、と述べている。はたしてそうであろうか。本稿の目的は、小林の主張とは異なり、彼が研究活動の当初から、甚だしく研究倫理を欠いた行為を行っていたことを、わかりやすく示すことである。

取りあげる論文は、小林英夫「元山ゼネスト-1929年朝鮮人民のたたかい」(労働運動史研究会『労働運動史研究』44号 1966年7月。小林英夫・ 福井紳一著『論戦「満洲国」・満鉄調査部事件 ―― 学問的論争の深まりを期して』彩流社 2011年 再録)である。これは小林が、裁判所に提出した自己の「発表論文目録」(甲第5号証)でその第一番目に掲げたもので、上記の「第二準備書面」(2頁)では次のように述べている。「原告は、その著作の主要部分を既に学会誌等への12本の論文を通じて発表し(甲5)、本件学会発表の前に、原告著書の主要な章節は既に完成していた。原告著書の内容・編別構成は、被告の学会発表前に、上記12本の論文の中でほとんど発表しているものであり、当然の帰結として、被告の学会発表に依拠したものではない」。このように、小林の本論文(以後、「小林論文」と呼ぶ)は、本件訴訟の資料の一部を構成するものであり、当然にこの論文中における剽窃問題は、自らこれを組み込んだと主張する本件小林著書に対する学術的な信頼性に直結するものである。

小林論文との関係を検討するのは、北朝鮮の学術雑誌に発表された論文、尹亨彬「1929年元山労働者の総罷業とその教訓」(『歴史科学』1964年2号。以後、「尹亨彬論文」と呼ぶ)である。小林論文の2年半前に発表されており、同じく1929年朝鮮の元山府で勃発した著名な総罷業(ゼネラル・ストライキ)を対象としている。この論文を取りあげるのは、表題に掲げた問題を第三者が簡単明瞭に理解することができる素材であるからである。

本論に入る前に、2つの論文の対象となった事件の概略を紹介したうえで、当時までの研究史について説明しておこう。1928年英蘭系石油会社ロイヤル・ダッチシェルの子会社ライジングサンの朝鮮元山の油槽所でおこった労働争議が、警察署長や商工会議所の調停では解決できず、やがて運送労働者・埠頭労働者までを巻き込み、最終的に1929年1月から商店の同情ストまでよびおこす全市的な総罷業にまで拡大した。この3ヶ月に及ぶ総罷業は、朝鮮の労働・民族運動としても、近代日本帝国における社会運動としても規模が大きく、当時から注目を集めた大事件であった。ただし、その事件は日本の植民地統治に関わるものであったために、注目度の高さに比して公開された報道・情報資料は多くはなかった。最もまとまったものは、同時代資料である×(ふ)×(せ)×(字)「元山に於ける総同盟罷業」(『新興科学の旗のもとに』1929年7月号)であり、その他は断片的な報道、伝聞資料のみであった。戦後の研究においてもそれら戦前の報道、伝聞資料を再引用する状態に留まっていたなかで、事実発掘の密度を格段に引き上げた時代を画する研究として登場したのが、ここで紹介する尹亨彬論文である。そして、日本における新しい水準の研究が、それから若干遅れて公刊された小林論文であった。

尹亨彬論文の全文を掲げたのが資料Aで、朝鮮語文で17頁である。尹亨彬論文を筆者の責任で日本語翻訳したものが資料Bで、A4で17枚である。小林論文の全文が資料Cで、4段組10頁のものである(以下,単に「A」「B」「C」という。)。この3つの文献を比較することによって論を進める。小林論文の文章を基準として重複する箇所に赤線引いて明示した。接続詞の違いやわずかな表現の変更相違、AからCに至る過程で少しの省略や加筆があっても、それらがおおむね文章の10%以内のものであれ、重複と判断した。表現の変更とは、日帝?日本あるいは日本資本主義のような言い換えや、文章の圧縮のことである。当該箇所の重複の実相については、読者が直接に照合して読み合わせていただきたい。

筆者がA・BとCを比較検討した結論は、次の3点に要約される。

……以下,略……


2019年08月07日

早稲田大学教員公募事件、大学教員の真の公募制のために

■労働組合東京ユニオン早稲田大学支部
 ∟●大学教員の真の公募制のために

大学教員の真の公募制のために

2019年8月6日

大学教員の公募はいかなる専門領域(ディシプリン)にあっても、その分野が学問として自律しているか否かを知るためのよい機会となる。それが政治学であるなら、政治学という学問の自律性が問われることになる。

中国政治の研究者は、いまの中国の体制を肯定するのでも否定するのでもなく、中国の歴史の全体を把握しようと努めながら中国政治のいまについて語らねばならない。公募とはそうした者を公に募ることだから、もとより公正かつ透明なものでなければならない。

しかしそれはなかなか難しい。早稲田大学は学内に多くの反対意見があったにもかかわらず、江沢民や胡錦涛が日本を訪れたときには大講堂で講演をさせた。いまでも孔子学院の事務所が学内にあり、構内には中国からたくさんの留学生がいる。たしかにそれは日中両国の交流を深めるのに貢献するかもしれない。しかし天安門事件以降の中国の政治体制に批判的な研究者は、中国にはいまだに子供を大学にやれない貧しい家庭も多いし、日本に留学できるのは都市に暮らすゆたかな家庭の子に限られるという現実も見ている。早稲田大学で働く者ならだれでも、政治学を研究する者はなおさら、大学の政治的選択(総長がそれを代表する)を批判してもよい。なぜならそこに学問の自律がかかっており、大学とは学問の自律を保障すべきところだからである(「建学の精神」)。

わたしたちは2019年6月11日に早稲田大学を東京地裁に提訴した。2016年度に早稲田大学アジア太平洋研究科で行なわれた中国政治の専任教員の公募において不当な差別があったと訴えている。選考の結果に不満があるのではなく、そのプロセスにおいて生じた疑念について大学側に何度も説明を求めたけれども、拒否されたためである(団交の拒否)。

公募に関して、大学は外に向かって公明正大であるばかりでなく、その内部においても公募による選考のプロセスが学則や内規に抵触していないかどうかの検証をおこなわれねばならない。早稲田大学の田中総長は自ら積極的に公募での教員採用をおし進めており、しかも政治学の研究者である。われわれの疑問に法廷で答えるべきだろう。

開かれた公募制のために

大学がすべて国立であり、教員がすべて国家公務員であるフランスには、CNU(全国大学評議会)という組織がある。CNUは専門分野ごとの分科会をもち、それぞれの分野で各大学の教員の採用や昇進を全国レベルでチェックしている。私立大学が75%を超える日本では、フランスのCNUのような組織をつくるのは難しいかもしれない。しかし国公私立のすべての大学を文科省が管理している日本のシステムは、フランスの中央集権的なシステムとよく似たところがある。ゆたかな自己資本をもつアングロサクソン諸国の有名私立大学とは異なり、日本の私立大学は一九一八年の大学令以来、文科省(文部省)の管理のもとでしか機能しえない貧しい状況にいる(「私学助成」)。

フランスの大学は数のうえでは70ほどだが、すべて博士課程までそなえている。そのため地方の大学でも大学教員を養成できる。しかし地方とパリとでは提出される博士論文の数も違うし、審査のきびしさも異なる。またいずれの大学においても自分のところで育てた学生を教員にしたいという閥族主義(ネポティスム)がはびこりやすい。そのためパリで大量に生産される博士たちは、いかに優秀であってもなかなか就職できないというジレンマにおちいる。しかしCNUは「大学自治」とぶつかることも多く、必ずしもうまく機能していないのが実情である(アレゼール日本編『大学界改造要綱』参照)。

日本には800近い大学があるが、博士課程までそなえている大学は東京などの都市圏に偏っている。それゆえ博士課程を修了した者は、たやすく地方の大学にポストを得られそうにみえる。しかし事実はそうではない。すべての大学が公募をおこなうわけではないし、たとえ公募が行われていても、その公正をチェックできるCNUのような組織がない。

そこでは「採用の自由」がものをいう。公募が中教審と文科省によって推奨されるなか、私立大学においても公募による採用は増えたけれども、公募における選考のプロセスは不透明なままである。こうして日本にもフランスと同じように、大学教員の採用における「不公正と怨恨の連鎖」が生じてしまう。

バランスを欠いた国と文科省の大学政策

若年人口も減少するなか、日本の大学はアジアから留学生をあつめて経営を支えようしている。しかしその留学生はたいてい裕福な家庭のこどもたちである。日本の大学は、日本の社会の階層間に「流動性」をもたらさないばかりか、アジアの国々のエリートと大衆の二極化に貢献するものとなってしまっている。

文科省は公募の公正については何の対策も取ってこなかったにもかかわらず、「任期制」を導入して大学教員の「流動性」を高めようとしている。まるで大学から「自治」をうばうことによって、その「ガバナンス」(トップダウンの「統治」)を完成させようとしているかのようだ。財政基盤の弱い日本の大学の学内政治は国や文科省の影響をもろに受ける。たとえ総長(学長)が選挙で選ばれる大学でも、選ばれた総長(学長)が競争型資金の獲得競争に参入できる大学をめざせば、文科省のいう「ガバナンス」に組み込まれざるをえない。早稲田大学はむしろ積極的にそこに組みこまれようとしている大学なのである(「ヴィジョン150」)。

今回の訴訟の原告は早稲田大学では非常勤講師をしているが、他大学にすでに専任教員の職を持っている。非常勤の職しか持たない教員やポスドクは、応募における選考の公正に疑問を感じても声をあげることは難しい。大学側の採用の自由ばかりがまかりとおり、応募者の人権がおろそかにされている。私たちは日本の大学のこのような実情を広く社会に訴えるためにこの訴訟を起こした。

石井知章(早稲田大学非常勤講師)
岡山茂(早稲田大学教授)

早稲田大学教員公募事件

■労働組合東京ユニオン早稲田大学支部
 ∟●早稲田大学教員公募事件

早稲田大学教員公募事件

 明治大学教員の石井知章氏と労働組合東京ユニオンは、早稲田大学における教員の公募の問題をめぐってこの6月に東京地裁に提訴しました。

 国立大学ばかりでなく私立大学でも、教員採用のさいに公募がよく行われるようになりました。より公正で透明な採用をおこなうという趣旨から、文科省がそれを推奨しているという背景があります。しかし2016年に早稲田大学アジア太平洋研究科で行われた公募では、その選考の経過に疑念をいだいた応募者(原告となった石井氏自身)が、研究科の科長に事実確認を求めるという事態が発生しました。研究科の科長が回答することを拒否したため、応募者は大学当局にも訴えましたが、それも拒否されました。

 もとより大学教員の採用にあっては、採用する側が選考の経過を明らかにすることはありません。しかしこの件にかんしては、内規違反の可能性があるという情報を落選した本人がつかんでいました。大学教員の採用はそれぞれの大学の学部や研究科が独自に行いますが、そのさいには定められたプロセスに従います。そこに問題がなければ何も言えません。しかしそこに疑念がある場合、それを晴らそうとすることは応募した者の権利であると思います。公募とはいってもあまりにも恣意的な選考が行われており、しかも応募者は採用してもらうという弱い立場にあるため、声も上げられずにいるのが日本の大学の実情です。

 今回原告となった本人は明治大学の専任教員であり、早稲田大学政治経済学部で非常勤講師をしているということもあって、あえてこの問題を追及することにしました。そしてそのために東京ユニオンに加盟し、早稲田大学支部を立ち上げました。大学側とは2回団体交渉をおこないましたが、大学側は非常勤講師の労働条件などについては議論に応じたものの、公募の問題については団交事項ではないとして交渉を拒否しました。裁判に訴えることになったのはそのためです。

 私たちの主張は公募をやりなおせというのではありません。すでに選ばれた候補者が優秀であることを疑うものでもありません。ただし、①大学は公募をやるからには公正と透明性を保障すべきである、②大学はこの問題にかんして団交に応じるべきである、ということを裁判でも主張していきたいと思います。

 この問題には二つの背景があります。一つは、日本の私立大学が大学としての自律性を失ってしまっているということ、もう一つは、文科省自体も政策を誤っているということです。

 国立大学法人ばかりでなく学校法人(私立大学)においても、文科省への「忖度」は働きます。文科省は「大学自治」を理由に公募を推奨するだけにとどめていますが、国の私学助成費を少しでも多くもらうためには、その意向に沿うのが一番です。それゆえ形だけの公募をおこなう私立大学が増えています。また文科省は90年代中頃から任期制もおし進めていますが、任期切れであらたな職を探さないといけない教員・研究者も増えています。

 全国の「教員市場」を真の意味で「流動化」させるためには、私立大学を含めたすべての大学に公募を義務づけるとともに、公募の公正と透明性を確保するための全国的な仕組みが必要です。バランスを欠いた文科省の「ガバナンス」によって苦しめられているのは、テニュア(終身)職のないすべてのポスドク、非常勤講師、教員、研究者です。応募のたびに膨大な資料を作成する時間と労力を要求され、論文のコピーや面接の移動に多額の出費を強いられ、ふつうは落選してしまいます。多くの研究者の時間、労力、意欲を無駄にし、疲弊させているのがいまの公募の実態なのです。

8月22日の東京地裁での第一回裁判期日への傍聴をよろしくお願いします。
2019年8月22日(木)13時15分 東京地裁709号法廷
連絡先:労働組合東京ユニオン 電話03-5354-6251 FAX03-5354-6252

2019年06月15日

労働組合東京ユニオン早稲田大学支部、公募制度への問題提起にご理解をお願いします

公募制度への問題提起にご理解をお願いします

公募制度への問題提起にご理解をお願いします

このたび私たちは、大学の専任教員の公募という問題をめぐって訴訟を起こすことになりました。公募による選考は、公正に、しかも透明性に配慮してなされねばなりなせんが、現状では、公正への疑問を感じても泣き寝入りするしかないため、とりわけ非常勤の人たちは絶望しています。今回は、すでに他大学に専任の職があり、公募をおこなった大学で非常勤講師をしている候補者が、選考のプロセスで内規違反があったとの通報をもとに、訴訟に踏み切りました。当該研究科に訴え、大学当局に訴え、さらに組合を介して団交しようとしても断られたため、訴訟を起こすことになったものです。

本件は、東京地方裁判所民事部に対して行なう訴訟であり、本来は司法記者クラブにおいて会見を行うのが、あるいは本筋なのかもしれません。しかし、私たちの考えでは、本件はこれまで文科省が1990年代後半から現在に至るまで、日本の高等教育分野で進めてきたいわゆる「任期制」の導入という、全国の国公立・私立大学労働・人事政策の改変という流れのなかで発生した事案であると思われ、そのことの背景と問題点を提起したく、文科省記者クラブでの記者会見に臨むこととなりました。

これまで中央教育審議会では、「大学教育の改善について」、「大学院・大学の自己点検・評価システムの導入」、「高等教育の質的向上」など、さまざまなかたちで議論がなされています。とりわけ、こうした一連の流れで審議された「教員採用の改善について」(答申:平成6年6月28日)では、「各大学が、それぞれの理念・目的に基づき、多様で個性ある教育研究を推進していくためには、大学の教育研究の中心を担う教員に優れた人材を確保し、その能力を最大限に発揮できるよう、教員の人事の在り方について改善を図っていくことが必要」であり、そのために、①他大学出身者・社会人・女性等多様な経験・経歴を持つ者を積極的に採用するよう配慮する、②公募制を積極的に活用し、採用に関する情報を収集・提供する機関を整備し,公募制を実施しやすくする仕組みをつくる、③選考基準については、教育能力を積極的に評価するとともに、研究能力についても論文の質を重視する、などと建議されています。

そうした答申を受け、国と文科省の政策のもと、「任期制」が全国の国公立・私立大学に広く行き渡ることになりましたが、「公募制」については、公正と透明性を確保するための全国的な取り組みがなされているわけではありません。こうした政策上のアンバランスが一端となって、今回の事案も生じているということを広く社会に問うべく、私たちは文科省で記者会見を行うことにいたしました。各社の報道につき、どうかご理解とご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。

2019年6月11日
労働組合東京ユニオン早稲田大学支部 支部長 岡山 茂
書記長 石井知章


労働組合東京ユニオン早稲田大学支部、大学教員採用における「公募制度の問題」と「採用問題の団体交渉拒否」を問う

大学教員採用における「公募制度の問題」と「採用問題の団体交渉拒否」を問う

大学教員採用における「公募制度の問題」と「採用問題の団体交渉拒否」を問う
前例のない提訴です

原告 石井知章
        労働組合東京ユニオン 
  原告代理人 中野麻美(りべるて・えがりて法律事務所)
        宮里邦雄(東京共同法律事務所)
  被告 早稲田大学及び大学院アジア太平洋研究科・アジア太平洋研究センター

(経過)
石井組合員は、2016年4月に早稲田大学アジア太平洋研究科専任教員の公募に応募した。公募の要件を十分に満たしているにも関わらず、一次選考で落とされ、二次面接に進むことができなかった。二次面接に進んだ3名の経歴と比較して、石井組合員が落ちる理由は見つからず、落選理由の説明を求めたことが発端である。
石井組合員は選考のやり直しを求めているのではなく、公正であるべき公募が適切に運用されず、不採用となった者に理由の開示をしないことを問題視している。また、理由のわからない不名誉な落選は研究者としての名誉を傷つけるものである。
また、大学は、義務的団交事項ではないとして話し合いすら拒否しているが、組合は労働者となろうとする者の権利も団体交渉の議題となりうると考える。

(文科省が勧める公募制度の問題点)
公募とは文字のとおり、公に募るもので、公正性が問われるものである。しかし、実際行われている大学教員採用における公募は、今でも出来レースが少なからず横行し、はじめから採用する人物を決めていて、形式的に公募制度をとっているにすぎないというケースが多々見られる。採用したい人物が決まっているのであれば、俗に言う「一本釣り」をすればよい話である。大学が公募制度を使いたがるのは、文部科学省の方向性に合わせようとする大学の忖度が働いているのである。応募する者は、膨大な資料を作成する時間と労力を要するが、応募するだけ無駄で落選する。多くの研究者の時間、労力、意欲を無駄にし、疲弊させていくのが、現在の公募制度である。昨年問題となった「東京医大の女子学生の入学人数抑制」と同様に、応募する前から結果が決まっているのである。

(団体交渉権は無形の財産権)
 早稲田大学は、現在非常勤である者に常勤採用の説明は必要なく、採用の自由があるから公募における採用過程は説明しないとし、団体交渉の議題としないとした。しかし、今回の採用は公募であり、非常に高い要件を課し、それを満たしたにも関わらず一次選考すら通過しなかったことに関しては、疑義をもたないほうが不思議な状況であった。非常勤が常勤となり、研究活動を行うことは研究者としての将来をかけてのことで、今までの実績を評価されるのであるから、理由の説明を求めることは当然である。現在非常勤である者が、常勤となろうとする際の過程、評価内容を議題とする団体交渉は開催されるべきであり、それを可能としない事は無形の財産権を侵害しているものとなる。

上記、経過と問題点を記載しました。
大学教員となるべく公募に応募する研究者、ポスドクの大多数が同様のことを問題視してきました。大学の教員採用の現場で表に出なかった公募制度にスポットを当てることと、労働者となる者についての団体交渉応諾の問題を社会的にお知らせし、問題提起を行いたいと考えております。

お忙しいことと存じますが、会見への出席と取材をよろしくお願い致します。

日 時:2019年6月17日(月)14時30分~
会 場:文部科学省記者会(千代田区霞が関3-2-2 12階)
連絡先:〒151-0053渋谷区代々木4-29-4 西新宿ミノシマビル2F
    労働組合東京ユニオン(執行委員長 渡辺秀雄 担当:書記長 志賀千秋)
    電話/03-5354-6251 fax/03-5354-6252 メール/shiga@t-union.or.jp

当日出席者
 中野麻美 弁護士(りべるて・えがりて法律事務所)
 岡山 茂 早稲田大学教授 東京ユニオン早稲田大学支部支部長
 石井知章 早稲田大学非常勤講師 東京ユニオン早稲田大学支部書記長
 渡辺秀雄 東京ユニオン執行委員長
 志賀千秋 東京ユニオン書記長

2015年12月01日

論文不正相次ぐ早稲田大 今度は准教授が教え子の論文を無断使用!? そのトンデモない言い分とは

産経新聞(2015年11月30日)

 教員の立場を利用したズルを許していては“私学の雄”は名乗れまい。早稲田大学で商学学術院の50代男性准教授が、教え子の修士論文を無断使用し、自分の単独論文として学会誌に発表していた問題が明らかになった。早大は今月13日、准教授に対する停職4カ月の懲戒処分を決定。早大と言えば、小保方晴子氏のSTAP細胞問題が記憶に新しいが、商学学術院は論文不正問題での教員の懲戒処分は2年連続になる。産経新聞の直撃取材に准教授が語った“トンデモ”言い分とは、どんなものだったのか。

著作権侵害と断罪

 大学関係者によると、問題の論文は、男性准教授が平成25、26年に発表した企業の経営戦略などに関する論文計4本。2本は「日本経営学会」の会誌に掲載され、残り2本は大学内での紀要「早稲田国際経営研究」に掲載された。

 これらの論文で使用された企業の事例研究データ部分が、当時専門職課程だった教え子3人の専門職論文で使用されたものとほぼ同一だった。さらに複数箇所で似たような表現が多用されていたという。一方で、男性准教授が発表した論文4本には、元論文からの引用や教え子の学生に対する謝辞などの表記がなかったという。

 早大は昨年夏ごろに内部からの指摘で問題を把握し、学内に調査委員会を設置。関係者への聞き取り調査から、男性准教授が論文を単独名で学会誌などで発表することを、著者である教え子たちに知らせていなかったことが判明した。

 調査委は4本の論文について「出典を明示せずに他人が発表した資料を盗用する著作権侵害があった」などとして研究不正を認定したという。

 男性准教授に対する処分は、商学学術院内での追加調査を経て今年10月、教授会で停職4カ月の原案が決定。大学の理事会で11月13日に処分を最終決定した。

「共著で出すつもり」

 なぜ准教授は教え子の論文を無断使用するような暴挙に出たのか。

 そもそもこの問題は当初、「二重投稿ではないか」との疑念から始まったという。二重投稿とは論文を複数の学術誌などに投稿することで、研究不正ではなく「不適切行為」とされている。投稿論文の著作権は掲載誌にあるため、同一論文の著作権が複数存在することになるからだ。

 ここで、論文を無断使用された教え子の学生を、平成20年修了のX氏、21年修了のY氏、23年修了のZ氏とする。調査の結果、判明したのは以下の事実だ。

 准教授は、X、Y、Z3氏がそれぞれ書いた専門職論文を基に、共著の形で論文をそれぞれリライトし、各方面に投稿。X氏との共著論文だけが学内の「早稲田国際経営研究」に掲載された。

 その後、准教授はそれぞれの共著論文を基にして単独名で論文4本を執筆した。Z氏との共著論文を基にしたZ論文、X論文が25、26年に日本経営学会誌に掲載された。さらに26年にはY論文、加筆修正されたZ論文が早稲田国際経営研究に掲載されたのだった。ここでよく似たZ論文が学会誌と学内誌の両方に二重投稿されたため、問題発覚の端緒となった。

 産経新聞の取材に自宅で応じた男性准教授とのやり取りは以下の通り。

――教え子の論文を盗用したか

 准教授「それは事実と違う。学生と一緒に書いていた(共著の)論文案があって、いろいろな雑誌に投稿したが、(審査を)通らないものが何回もたまっていた。(理由を)聞いたら、このままでは絶対通らない。先生が相当書き直さないと載りませんよということだった」

――いわゆる共著論文のことか

 准教授「そう。それで私が相当書き直して何とか学会誌に載った。誤解のないように詳しく言うと、(日本経営)学会が学生登録が難しかった。(中略)投稿論文自体はクオリティに達しているという連絡があった。それで悩んだ。別に修士論文を要約したわけではないが、修士論文のテーマと関連あるのは間違いないし、修士論文は非公開だったので、表記上どう書いていいのか手慣れていないので分からなかった」

 准教授はこう釈明した上で、不正行為について「不適切な点があり、注意怠慢だった」と自らの非を認めたのだった。

甘すぎる処分

 「数年前に学外の学会誌に掲載された論文が停職4カ月では甘すぎる」

 停職4カ月の処分で幕切れを図ろうとする大学側に対し、こうした不満の声も上がっている。声の主は、早大から論文不正疑惑を問われ、昨年11月に懲戒解雇処分を受けた商学学術院の元准教授の弁護人だ。

 元男性准教授は平成13、15年に商学部発行の紀要「早稲田商学」で発表した2本の論文で、アメリカの研究論文を盗用したとされた。今回の処分について、元准教授の弁護士は「学会誌への投稿と学内紀要での投稿では社会への影響力がまったく異なる」と話す。

 一般的に審査の厳しい学会誌での掲載は業績として評価されるが、審査の緩い学内誌での掲載は評価点が低い。結果、学外の学会誌に掲載した方が執筆者の社会的評価も高まるため、著作権を侵害された原作者の被害感情も大きいのだという。

 この元准教授は今年4月、早大を相手取り、東京地裁に不当解雇を訴えている。弁護士は「処分の公平性がまったく守られていない。基準がなく、場の雰囲気で決まってしまう傾向もありそう。STAP問題のあった昨年は厳罰姿勢で、今年は逆にストップがかかったのではないか」と疑問を呈する。

 実は大学関係者によると、准教授の処分案を決定した商学学術院の教授会は大荒れだったそうだ。

 不正を認定した内部調査委員会の報告書や論文そのものは配布されず、学術院での聞き取り調査に基づく「故意に流用したとは言い切れない」などとする准教授側の言い分が書かれた資料が配られたという。

 この点について大学側は「准教授本人が(流用を)認めているので資料は必要ない」と説明したという。処分案に反対する一部の教授から異論が続出し、決議直前には退出する教授も出たが、定足数を満たすために事務方が欠席していた教授を呼び出すなどの対応が取られ、停職4カ月の処分案が決議された。「まるで国会の強硬採決を見ているようだった」(ある関係者)という。

 こうした処分の決定過程について、早大広報は「過程のことはお話できないし、学術院内のことには関与していないので分からない」と話す。

 ある大学関係者は「2年連続で懲戒免職者を出したくないという意識が働いたのではないか。外聞を気にして問題を矮小化している」と大学側を批判した。 


2015年11月14日

早大准教授 教え子の論文データを無断使用

日テレ(2015年11月13日)

 早稲田大学商学学術院の50代の男性准教授が、教え子の論文のデータを無断使用する著作権侵害があったとして、停職4か月の処分を受けた。

 著作権の侵害を行い、大学の名誉を傷つけたとして停職4か月の処分を受けたのは早稲田大学商学学術院の准教授(51)。

 早稲田大学によると、准教授は2013年から2014年にわたって、自らが指導する学生3人の修士論文から本人の承諾を得ずに企業研究のデータなどを4つの論文に引用したという。

 大学の調べに田村准教授は「出典を明示する必要があったが、投稿上での制約があったり、査読段階で不採択になったりしたので自らの単独論文として公開してしまった」と無断使用を認めているという。

 早稲田大学は「再発防止に徹底した取り組みを行います」とコメントしている。

2014年10月03日

早大総長の不起訴は「不当」 労基法違反容疑で検察審査会

共同通信(2014/10/02)

 早稲田大の非常勤講師の就業規則を作成する手続きに不正があったとして、労働基準法違反容疑で刑事告発された鎌田薫総長と人事担当理事を不起訴(嫌疑なし)とした東京地検の処分について、東京第4検察審査会は2日までに「不起訴不当」と議決した。地検は再捜査する。

 議決書では、労基法が就業規則作成の際に従業員過半数の代表者から意見を聴くよう規定している点を挙げ、早大側が代表者の選出方法を非常勤講師に十分に周知しなかったのは「違法性の疑いがある」と指摘した。

 「首都圏大学非常勤講師組合」委員長らが総長、理事ら計18人を刑事告発し、地検は昨年、全員を不起訴にした。


2014年04月21日

ブラック大学早稲田、「最低賃金未満、常勤の論文作成に駆り出され、給与や交通費も遅延―これが早稲田大学日本語教育研究センターの実態だ!」

My News Japan(04/18 2014)

最低賃金未満、常勤の論文作成に駆り出され、給与や交通費も遅延――これが早稲田大学日本語教育研究センターの実態だ!

非常勤の日本語インストラクター全員に宛てたBCCメール。過払いをしてしまい、別の月に給与から引くことを告げている。

 鎌田薫総長ら理事18人が刑事告発(不起訴⇒告発人が検察審査会へ申立⇒第四検察審査会受理)されるなど、ここ1年あまり争議が続く早稲田大学では、非常勤講師よりもさらに下の身分に位置付けられた日本語非常勤インストラクター(留学生に日本語を教授する)推定20人が、3月末日に5年上限の就業規程によって雇い止めにされた。それに先立つ2月、雇止めは不当だと、早稲田ユニオンなどが東京都労働委員会に、不当労働行為救済の申し立てをする事態に発展している。これを機に、職を失うことを恐れて匿名ですら取材に応じてこなかった当事者が、初めて口を開き、実質労働時間で計算すると最低賃金を下回る悪条件、交通費振込忘れや給与振込ミスが多発する事務の混乱、常勤インストラクターが他の就職先を探すための論文手伝いを非常勤が無償で強いられるなどの現場の実情を語った。(「不当労働行為救済申立書」はPDFダウンロード可)
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【Digest】
◇10回の給与等振込ミス、交通費振込ゼロという大混乱
◇実質的時給は667円
◇コロコロと変わる担当授業
◇直接雇用に転換しかえって条件悪化
◇常勤の論文作成に非常勤インストラクターが無償で使われる
◇差別スパイラルの最大の被害者は学生と親
◇5年雇止めは大学院ビジネスのためか?

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 →連載単行本化「ブラック大学 早稲田」(同時代社)

◇10回の給与等振込ミス、交通費振込ゼロという大混乱

 国際化を謳う早稲田大学では4331人の留学生や研究生が勉強し、そのうち1590人(2012年秋学期)が学内の「日本語教育研究センター」で日本語を学んでいる。

 同センターは日本最大規模の日本語教育機関であり、留学生に教える教員が「日本語インストラクター」である。

 かつては、大学子会社の㈱早稲田総研インターナショナル(4月1日から株式会社早稲田大学アカデミックソリューション)がインストラクターを募集し、更新期限なく安定的に雇っていたが、2009年4月から大学本体内の「日本語教育研究センター」に移行した。

 そのときに当局は契約期間の通算5年で雇い止めの就業規程を制定したことで様々な問題が噴出し現在に至っている。

 問題の本質に迫る前に、重い口を開いた当事者のひとりAさんから聞いた、混乱を象徴するようなエピソードから紹介しよう。

 「給与明細は毎月2種類が届けられますが、どの授業をいつ何コマ行なったのか明記されていないので、一人ひとりがしっかり管理していないとわからなくなります。私の場合は任期の5年間で10回以上は間違えられました。
 他の大学でも働いたことがありますが、こんなのは初めてです。何コマ分かの給与が払われなかったり、過払いもありました。

 過払いのときは、『翌月の振込で調整します』とお知らせをもらうのですが、辞めてしまった人(あるいは辞めさせられた人)に対してはどうするのでしょうか。

 翌月の分から引く、というメールすら本人に届けられないことになります。現に私は今年の3月で辞めさせられていますし。

 それから、交通費が全く振り込まれていなかったこともあります。一部のインストラクターに対する間違いというのではなく、全インストラクターに対してお金の振込で間違いがあったというのも何度もあるのです」

非常勤インストラクターらによると、日本語教育センターの担当者が振込のデータを給与課に渡すというが、相当混乱しているようである。

 「人の入れ替わりが激しく、担当授業も激変するために、給料振込の間違いが多いんですね。

 一人が、いろいろなレベルの授業を担当すると間違いが生じやすいのではないですか。たとえば、毎回、初級コースだけとか上級だけとか、ある程度決まっていれば間違いも少なくなると思います。

 自分の希望したコマ数がもらえないと、二次募集、三次募集でとにかくコマ数を増やしていろいろな授業を受け持つと、事務の人が大変になってしまうのでしょう。

 ともかく、全員の交通費が複数回まったく支払われなかったことがあるのは、事務処理のダブルチェックをまったくしていないということです」

 普通、企業・学校・組織で給与関係の振込がこれだけ間違うのは、考えられない。その背景には相当な混乱があると見たほうがいいだろう。

給与振込額を間違え、3か月後の振込で清算すると伝えた文書。5年間で10回以上の間違えがあった。混乱を象徴している。

◇実質的時給は667円

 金銭の振込関係の混乱と無関係とは言えない、早稲田大学における身分差別の象徴・非常勤の日本語インストラクターの問題を見ていきたい。さらにAさんの話を続ける。

 「長年、外国人学生に日本語を教える仕事をしていましたが、応募して受かり、早稲田総研インターナショナルと契約して2008年9月から教えるようになりました。当時は任期もなく、待遇は今よりよかったです」
 1授業(2時間とみなされる)4000円から始まり、経験を積んでいくうちに給与が上がるシステムは、Aさんがインストラクターを始めたときと現在も変わらない。
 2年目まで1授業4000円
 3年目     5000円
 4年目     6000円
 5年目     7000円

 他の非常勤講師に合わせて年間講義回数を30回として計算すれば、一コマ担当すると2年目までは年収ベースで12万円。最終の5年目になると年収ベースで21万円となる。

 ちなみに、文部科学省の見解によれば、準備その他を含めると1回(2時間相当)の授業で労働時間は3倍の6時間かかるとみなされる。そうなると、.....この続きの文章、および全ての拡大画像は、会員のみに提供されております。


2014年02月27日

早稲田大、非常勤講師の組合が救済申し立て 団交めぐり

毎日新聞(2014年02月26日)

 首都圏大学非常勤講師組合(松村比奈子委員長)は26日、早稲田大学(鎌田薫総長)との非常勤講師の雇い止めを巡る団体交渉で不当労働行為があったとして、東京都労働委員会に救済を申し立てたと発表した。

 同組合は、2009年4月から契約更新を重ねていた非常勤講師が、14年3月で5年を迎えることから退職に合意するよう求められたことについて、大学側と団体交渉を行ってきた。組合員である非常勤講師の名前を明らかにすることを拒否したところ、大学側が団体交渉に応じなくなったといい、交渉開催と雇い止め凍結を求めている。

 早稲田大学広報室は「粛々と対応する」としている。【東海林智】


2014年01月28日

新刊紹介、「ブラック大学 早稲田」

「ブラック大学 早稲田」

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2013年12月29日

首都圏非常勤講師組合、早稲田大学を偽装請負容疑で東京労働局に追加申立

首都圏非常勤講師組合
 ∟●早稲田大学の偽装請負疑惑に関する追加の申し立て

「偽装請負」(労働者派遣法違反ないし職業安定法違反)についての調査および是正勧告に関する申立書(2013年(平成25年)10月23日付)にかかわる追加の立証資料提出の件


2013年(平成25年)11月27日


厚生労働大臣
田村 憲久 殿

東京労働局長
伊岐 典子 殿


〒170-0005 東京都豊島区南大塚2-33-10 東京労働会館5階
申告者 首都圏大学非常勤講師組合
執行委員長 松村比奈子
同 早稲田ユニオン分会
分会長 大野 英士


〒169-0071 東京都新宿区戸塚町1 丁目 104
被申告者 学校法人 早稲田大学
代表者理事長 鎌田 薫


〒162-0045 東京都新宿区馬場下町5 番地 早稲田駅前ビル 3F
被申告者 株式会社早稲田総研インターナショナル
代表者代表取締役社長 天野 紀明

第1 追加の立証資料提出の趣旨
1 被申告者らが学校法人早稲田大学との間で業務委託契約(請負)の下でおこなっているチュートリアル・イングリッシュの実態が「偽装請負」(労働者派遣法違反ないし労働者供給事業の禁止)に該当することを具体的に立証する資料を提出し、貴労働局によるさらなる厳密な調査を求める。

2 被申告者らに対して、チュートリアル・イングリッシュ担当講師の「偽装請負」が確認された場合には、それを是正するように、指導、助言、勧告することを求める。

第2 申告の理由
1 当事者
①被申告者学校法人早稲田大学(以下「早稲田大学」という。)は、東京都新宿区戸塚町に本部を置く学校法人である。

②被申告者株式会社早稲田総研インターナショナル(以下「早稲田総研」という。)は、東京都新宿区馬場下町に本社を置く株式会社である。

2 契約形態
業務委託契約である。
早稲田大学は、2002 年(平成 14 年)から同大学での英語授業について、チュートリアル・イングリッシュと称する英語の授業を正規のカリキュラムに組み入れた。
当初は、早稲田大学に属する早稲田大学オープン教育センターが早稲田大学インターナショナル社(2000年10月設立、早稲田大学が51%出資)に語学教育を委託した。同社の派遣する「教員」(チューターと呼ばれる)
は早稲田大学の担当教授(コーディネーター)の下で講義を行っていた。
現在は、早稲田大学と早稲田総研(2004 年 8 月 2 日設立)との間で業務委託契約が締結され、その下で同授業が行われている。早稲田大学の説明によれば、現在「チュートリアル・イングリッシュの科目総数は 4 学期で 410 科目クラス、受講生総数は春学期・夏季集中でのべ 3,385 名、本学の担当教員は 4 学期でのべ 12 名」であり、「秋学期・春季集中の受講生は」現在集計中とされている。
外部講師(チューター)と早稲田総研との間の契約は有期雇用契約である。

3 「大学が当該大学以外の教育施設等と連携協力して授業を実施すること」にかかわる文部科学省管轄の法律および行政指導
この点に関しては、学校教育法をはじめ諸法律および以下に示す二つの行政指導に関する文書によって、早稲田総研が実施する本件チュートリアル・イングリッシュについても基本的には学校法人早稲田大学の関与が義務付けられている。
とくに、「LEC東京リーガルマインド大学」(東京・千代田区)の問題がきっかけとなり、いわゆる「丸投げ」について一定の歯止めをかける必要から大学設置基準の一部改正(Bの「通知」)が行われた経緯がある。
(証拠資料 ①から⑤まで )

A)「大学において請負契約等に基づいて授業を行うことについて
文部科学省 大振―8 平成 18 年 1 月」(証拠資料 ⑥)
学校教育法の規定上、「大学の『教員』にも、学長の権限と責任の下に授業を行うことが求められている。」
「近時、大学と企業が『請負契約』を締結し、企業に雇用されている者が、当該契約に基づき『外部講師』として大学において授業を行う(単独で/授業を行う教員の補助者として)ような構想が散見されるが、この場合では、以下の諸点に留意すべきであるので、その具体的な取扱については、文部科学省及び地方労働局等の確認を得ることが望ましい。」
以下の点とは、1)大学教員の位置づけ 2)請負契約の性質、である。
「一般的には、請負契約による講師は、学長の権限と責任の下において、自ら授業を行うことが困難であり、その役割は、授業を行う教員を補助する業務に限定される可能性が高い。」
B)「大学設置基準等の一部を改正する省令等の施行について(通知)19文科高第 281 号 平成 19 年 7 月 31 日」 (証拠資料 ⑦)
① 授業の内容、方法、実施計画、成績評価基準及び当該教育施設等との役割分担等の必要な事項を協定書に定めている。
② 大学の授業担当教員の各授業時間ごとの指導計画の下に実施されている。
③ 大学の授業担当教員が当該授業の実施状況を十分に把握している。
④ 大学の授業担当教員による成績評価が行われる。
など、当該大学が主体性と責任を持って、当該大学の授業として適切に位置づけて行われることが必要であることに留意すること。

4 本件チュートリアル・イングリッシュの実態
1)「チュートリアル・イングリッシュの概要」によれば、テキストは早稲田総研発行の独自テキスト「リーチ・アウト」を使用する。
(証拠資料 ⑧ )
チューターの仕事は「学生の成績をつけなければ」ならないことであり、4人分の評価と1件のコメントを書かなければならないことである。とくに成績評価の基準は、「できること」、出席、予習、授業への参加、チューターのコメントへの返答ということである。
(証拠資料 ⑨ 、英語版は資料 ⑩ )
2)チューターの労務管理(指揮命令)は実際だれがやっているのか
実際の労務管理(指揮命令)は、早稲田大学専任教員である中野美知子 (チュートリアルコーディネーター)である。(証拠資料 ⑪ ⑫ ) 実際半期に一回、オブザベーション(授業風景をビデオ撮影し、シニア チューターが授業を評価。)がある。当然、その場合、シニアチュータ ーは、専任教員である中野美知子(チュートリアルコーディネーター) の管理(指揮命令)下にあることになり、指揮命令系統に組み込まれ、 かつ日常的に労務管理されていることは明らかである。
(証拠資料 ⑬ )
3)チューターとは実際インストラクター(教員)である。
早稲田大学では、通常、「インストラクター」の職務内容は「『統括するセンター常勤教員(以下『コーディネーター』という。)の指示に従い』とされている。
(証拠資料 ⑭ ⑮ ) インストラクターの面接も管理者がおこなう。(証拠資料 ⑯ )
4)学生に対するオリエンテーション 担当教員すなわち、専任教員である中野美知子(チュートリアルコーディネーター)によるオリエンテーションビデオを視聴することになっている。(証拠資料 ⑰ )
5)成績発表
成績発表は所属学部がおこなうこととされている。 (証拠資料 ⑱ )

6 問題点の整理
 上記の事実の通り、早稲田大学は、早稲田総研との間の業務委託契約(請負)により、外部講師に大学の正規の必修科目であって、しかも有料(43000円を受講生が負担する)の形態で、さらに文部科学省も想定していない授業担当のしかた、すなわち 1 学期あたり 100 科目クラス以上を 3 人の教員が単位認定するなど教育の最終責任を負うかたちで、英語(英会話)教育を行っている。実際には、他の非常勤講師と同様に日常的に雇用管理といえる状態で労務管理がなされている。
他方、学校法人が独自におこなっているのは、オリエンテーションと成績発表しかないのではないかという疑いを持たざるを得ない。 業務請負という名目ではあるが、その実態は早稲田大学からの「在籍出向」、「兼業」あるいは早稲田大学の業務を遂行する専任教員らが外部講師に指揮命令等を行っており、業務委託契約(請負)には該当せず、いわゆる「偽装請負」(労働者派遣法違反ないし職業安定法違反)である。
 なお、早稲田大学は、申告者組合との団交の場において「チュートリアル・イングリッシュに関しては、文部科学省の指導により契約を結んでいるので偽装請負(派遣法違反)ではない」と回答した。
 前回の団交(2013 年 10 月29 日)では、早稲田大学は貴労働局に出向いて説明をしたと回答したが、なぜかそれがいつのことなのか日時については回答を拒否した。

 結論をいえば、チュートリアル・イングリッシュは形式的には請負契約に基づいておこなわれているが、実質的には日常的に学校法人早稲田大学の専任教員による指揮命令下で業務遂行されている。

第3 結論
 上記のとおり指摘してきたように、申告者は、早稲田大学が早稲田総研との間で締結した業務委託契約は実態においていわゆる「偽装請負契約」であり、労働者派遣法違反ないし職業安定法違反(労働者供給事業の禁止に該当する)のものであり、これらの事実について貴労働局が厳密なる調査を行った上で、必要な是正措置を至急執ることを求めて申告をするものである。

以上


早大が不当労働行為、非常勤講師組合 救済申し立て 都労委に

しんぶん赤旗(2013年12月29日)

 首都圏大学非常勤講師組合(東京公務公共一般労働組合加盟)と同組合早稲田ユニオンは26日、早稲田大学が団体交渉の進展を妨害し、組合差別を行ったとして、東京都労働委員会に不当労働行為の救済を申し立てました。

 早大は、有期雇用労働者が5年以上継続して働けば無期雇用に転換できるとした改定労働契約法の規定を回避するため、非常勤講師らを5年上限で雇い止めにする就業規則制定を強行しました。

 組合側は、就業規則制定の手続きに、当事者の意見を聞かない重大な問題があると主張。第1回団交(3月19日)では、早大側の人事担当常任理事が自らの問題を認めました。ところが、次の団交からこの人事責任者が欠席し、弁護士が代理人となって「問題なかった」とこれまでの話し合いをくつがえしました。

 組合側は、団交申し入れに対しても早大が回答を遅延し、早期開催の求めに応じないなど不誠実だとしています。

 組合員100人を超えた早稲田ユニオンが組合室確保を求めたところ、専任教員の組合には要求したことのない名簿提出を要求してきました。組合側は非正規雇用に対する差別待遇だと批判しています。


2013年12月25日

早大総長ら、不起訴に 非常勤講師の就業規則めぐり

毎日新聞(2013年12月24日)

 東京地検は24日までに、労働基準法違反の疑いで告訴・告発されていた早稲田大学と、鎌田薫総長ら理事計18人について、不起訴処分(嫌疑なし)とし、発表した。処分は20日付。

 告訴・告発内容は、非常勤講師の就業規則を制定する際、早大側は労働者の過半数を代表する者の意見を聞く必要があると同法で定められているのに、意見を聞かずに今年4月施行の就業規則を制定したとするもの。地検は「故意は認められず、犯罪の嫌疑がない」と判断した。


2013年11月07日

早稲田大学がコスト削減で授業を外部委託し“偽装請負”の疑い、労組が労働局に調査申立 必修科目なのに4万3千円追加徴収も

My News Japan
 ∟●早稲田大学がコスト削減で授業を外部委託し“偽装請負”の疑い、労組が労働局に調査申立 必修科目なのに4万3千円追加徴収も

早稲田大学がコスト削減で授業を外部委託し“偽装請負”の疑い、労組が労働局に調査申立 必修科目なのに4万3千円追加徴収も

林 克明
22:16 11/07


 労組が鎌田薫・早稲田大学総長に宛てた公開質問状。商学部の必修英語授業の外部委託が労働者派遣法に違反する疑いがあることや、「非常勤講師を5年で雇止めすることが教育の質を高める」と大野高裕教務部長が繰り返し団交で述べたことなどに対し質問(全文は記事末尾でダウンロード可)。

 労働契約法改訂にともない非常勤講師の契約期間を最長5年にする就業規則を強行導入した早稲田大学で、新たな火種が発覚した。商学部の必修科目「英語Ⅰビジネス会話」を廃止し、代わりに、同大学の子会社で社長も大学職員が兼務する㈱早稲田総研インターナショナルに授業をアウトソーシング(業務委託)し、「チュートリアル・イングリッシュ」と称する新授業を導入する計画について、偽装請負の疑いが強いのである。請け負う会社の役員は早大教職員が6割を占め、テキスト、成績評価などを大学の専任教員が指揮監督するため、首都圏大学非常勤組合らは10月23日、東京労働局長に対し、偽装請負についての調査と是正勧告を求める申立書を提出した。さらに本件では、必修科目にもかかわらず授業料に4万3千円の履修費用を追加徴収するなど、なりふり構わず金儲けを企む早稲田商法の貧困さが次々と明らかになっている。(質問書、申立書など関連書類はPDFダウンロード可)
【Digest】
◇一週4時限制限の撤廃要求中に発覚
◇必修科目の授業を株式会社に丸投げ
◇請負会社の役員は、軒並み早稲田の専任教員
◇大学設置基準との矛盾はないか
◇早稲田大学問題は関ヶ原の戦い
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◇一週4時限制限の撤廃要求中に発覚

 契約期間の上限を5年にする就業規則は、4000人近い非常勤講師らに衝撃を与えた。また、学内名誉教授らが鎌田薫総長などを東京地検に刑事告発、15名の早大非常勤講師が新宿労基署に刑事告訴したことも、大学界に波紋を投げかけている。
 まずは、混乱に追い打ちをかけるような今回の「偽装請負疑惑」が発覚するまでの流れを説明しておこう。

 「5年でクビ」を定めた就業規則の第11条には、「1週における授業担当時間の上限は4時限を原則とする」という文言が入っていた。同大の非常勤講師の報酬は1時限(1コマ)約3万円。単純計算だが、1週4コマなら、早稲田だけで授業を担当していると年収144万円にしかならない。

 首都圏非常勤講師組合としては、これを撤回させるために団体交渉を求め、結局は専任教員と同じ1週6コマ上限にすることで落ち着いた。ところが、8月23日に実施された団体交渉で新たな問題が浮上したのだ。志田昇書記長が説明する。

 「一方的な就業規則制定によると、非常勤講師の1週間の授業上限を4時限とし、それを徹底させるために6月18日に文書を大学は出してきました。それによると、上限4時限を2018年までに達成することを目標とし、現在1週10時限(全学合計)を超える非常勤講師の授業を2013年中に10時限以下に減らそうとしているのです。
 こうした流れのなかで、商学部で必修科目のビジネス英会話を教える非常勤講師の仕事がなくなるか、あるいは授業数が減らされることになり、これを撤回させようと団体交渉で質問したのです。

 それに対する大学の回答は、授業時間の制限のためではなく、あくまでも『カリキュラムが変わるから』だということでした。授業時間を減らす政策によって『英語Ⅰビジネス会話』担当の非常勤講師が仕事を失うとなると抵抗が大きいため、都合よくもってきたのがカリキュラム変更です。授業そのものがなくなってしまえば、非常勤講師が契約できないのは当たり前、というわけです」

 しかし問題は、その「カリキュラム変更」の中身であり、ここから㈱早稲田総研インターナショナルによる偽装請負の疑惑が湧き上がることになる。
 大学経営サイドの立場で説明したのは、教務部長である大野高裕教授(理工学部・経営工学)である。

 大野教務部長の説明によると、商学部では2010年から基本的なカリキュラムについて検討を始めており、その一環として必修科目の「英語Ⅰビジネス会話」を廃止して、代わりに「チュートリアル・イングリッシュ」という科目に移行するが、その授業をすべて㈱早稲田総研インターナショナルに業務委託する。

 チューターとは少人数クラスを教える個別指導教師のことで、アメリカの大学ではインストラクターの下位の大学講師を指すこともある。彼らによる英語授業を「チュートリアル・イングリッシュ」と称する。この授業は2002年から各学部のカリキュラムに組み込まれるようになったが、商学部にはこれまで導入されていなかった。

◇必修科目の授業を株式会社に丸投げ
 それでは、商学部の必修科目である「チュートリアル・イングリッシュ」の内容と、授業を請け負う㈱早稲田総研インターナショナル(以下、㈱早稲田総研)、そして早稲田大学との関係はどうなっているのか。

 ㈱早稲田総研が外部講師(チューター)を雇い、彼らが授業を行う。しかし、学生を評価する際の権限など、表向きは、早稲田大学の専任教員の名前が表記されている。しかも、.....以下,略……


2013年10月04日

組合員102人で早稲田ユニオン分会が発足!

首都圏大学非常勤講師組合
 ∟●早稲田ユニオン分会発足にあたって

早稲田ユニオン分会発足にあたって

 9 月 21 日土曜、早稲田大学戸山キャンパス 36 号館 581 教室にて首都圏大学非常勤講師組合の臨時総会・早稲田ユニオン分会設立集会が開かれました。臨時総会での議決の結果、早稲田大学に勤める 102 人の組合員を擁する早稲田大学ユニオン分会がついに結成され、早稲田大学文学学術院非常勤講師、大野英士(おおのひでし)が同分会の代表に選ばれました。また母胎である首都圏大学非常勤講師組合も組合員 409 人を数える大きな組合に成長いたしました。

 当日は 14 時より多数のマスコミ関係者の参加を得て記者会見が行われました。記者会見では、首都圏大学非常勤講師組合委員長、松村比奈子が、非常勤講師に契約年限 5 年上限、持ちコマ4コマ制限を課した早稲田大学の就業規則制定後から最近までの情勢と首都圏大学非常勤講師組合の精力的な取り組みを強力にアピールしました。この模様は IWJ 様のご協力により、Youtube で全国に配信・中継されました。

 早稲田大学の今回の一連の動きは労働契約法 18 条「有期雇用労働者の無期労働者への転換」、19条「不合理な解雇理由による解雇の制限」、20 条「有期と無期の間の不合理な労働条件の禁止」をすべて脱法することが目的となっていました。しかし、組合の精力的な取り組みにより早稲田大学は窮地に陥っており、5 年上限の切り札と考えていたクーリングオフを撤回せざるをえなくなるなど大幅な譲歩を迫られています。また労働基準局も組合の告発・告訴を受けて、労働基準法の規定を無視して行われた就業規則制定を問題視し、積極的な捜査を行っており、早稲田はこの面からも追い詰められています。

 15 時より行われた臨時総会は、54 名の出席によって成立し、分会の設立、5年雇い止め・早稲田問題への対応、早稲田ユニオン分会の設立などが、満場一致(採決時 49 名+委任状 166=215)で決定されました。そして臨時総会・結成集会の参加者全員の拍手によって「結成宣言」が採択されました。

 お忙しいなかで参加された組合員の皆様に感謝いたします。早稲田一文出身で会場に駆けつけていただいた日本共産党参議院議員吉良よし子さんをはじめ支援者の方からも力強い支持・支援のご挨拶をいただきました。10 月より専任教職員組合委員長就任が決まっている岡山茂政経学部教授からは、専任教員組合も非常勤組合と全面的に協力し、共に5年上限等の撤廃に向け闘っていくことを確約していただきました。あわせて感謝申し上げます。

 多方面から追い詰められた状況にある早稲田大学理事会ですが、雇い止め確認を求めた雇用条件確認書に組合のすすめに従って留保をつけた日本語インストラクターに、あくまで来年 3 月末の 5 年雇い止めを通告するなど、頑迷な迷走を依然として続けています。クーリングオフを封じられた早稲田は秋以降、非常勤講師に対しても、雇用条件確認書の提出・署名を求めるなど、より露骨な恫喝をかけてくることも考えられます。

 この早稲田理事会の方針を撤回させ早稲田大学をその名にふさわしい教育・学術の府に戻すためには、不安定な労働条件のもと早稲田大学を支えてきた非常勤講師をはじめとする、皆様、全ての非正規雇用労働者の協力が必要です。組合は、非常勤講師はもとより、日本語インストラクター、早稲田インターナショナル、キャンパスなど、早稲田で働く全ての非常勤雇用教職員に開かれています。

 是非この機会に非常勤組合・早稲田ユニオン分会にご加入いただき、早稲田大学による不当な雇用条件の不利益変更に反対の声を挙げていただければと思います。 非常勤講師組合・早稲田ユニオン分会は皆様の立場を危険にさらすことなく、早稲田からの攻撃の矢面に立ってあらゆる手段を動員して戦う決意を固めております。何卒、皆様のご支持・ご協力をお願いします。

2013 年 9 月 23 日
首都圏大学非常勤講師組合執行委員・早稲田ユニオン分会代表
大野英士

早稲田大学、脱法行為はしないと約束

しんぶん赤旗(2013年9月26)

 早稲田大学では、首都圏大学非常勤講師組合との団体交渉で、大学側が改定労働契約法に対する脱法行為は行わないと約束しています。

 改定労働契約法は、有期雇用を5年継続すると無期雇用へ転換できる、とする規定を導入。早大はこれを回避するため、非常勤講師を5年で雇い止めとする就業規則改定を強行しました。

 しかし、約4000人いる非常勤講師を失えば大学運営が成り立ちません。法学部では、非常勤講師を5年の間に順次、半年間休職させて契約期間をリセットして再雇用する「クーリング偽装」を計画するアンケートが配布されていました。

 組合側によると、7月22日の団交で、理事会側は「教務主任会を開催して、法学部の事例は不適切な取り扱いであると説明しています」と回答しました。

 8月22日の団交では、組合側が「クーリングは使わないということですね」と念押ししたことに対し、人事部長が「それは法的に違反なわけですよね。大学としてはやるつもりはありません」と答えています。

 組合側は、早大が「クーリング偽装」を違法だと認めて行わないとしたことは、他大学にも影響を与え、重要な意義がある、としています。

 日本共産党の田村智子参院議員は6月の質問で、谷川弥一文科副大臣から、「学校法人においても労働関係法に従う」という答弁を引き出しています。

 早大では、5年雇い止めの撤回を求めて、100人以上の非常勤講師が加入する早稲田ユニオン分会が21日に結成されています。


2013年08月09日

早稲田大学が今度は無期転換回避で迷走中? さらに私大連合会がアパルトヘイト化を要請

首都圏大学非常勤講師組合
 ∟●『控室』(2013年7月24日)

早稲田大学が今度は無期転換回避で迷走中?
さらに私大連合会がアパルトヘイト化を要請

 早稲田大学は今春、突然非常勤講師の就業規則を制定し5年の更新上限をつけたため、労基法90条違反として4/8に当組合委員長・松村比奈子と早稲田大学名誉教授・佐藤昭夫両氏に刑事告発され、6/21に非常勤講師ら15名に刑事告訴されました(なお東京検察庁は6/4に告発を正式受理)。すると早稲田大学は、今度はクーリング(期間)を入れることを非常勤講師らに強要し始めています。また日本私立大学団体連合会は6/26、文科大臣に対し、私立大学の全有期契約労働者について労働契約法の適用除外を要請しました。 7/10、当組合はこれらを厚労省にて記者会見で公表しました。

(1)事実の概要
 具体的には、法学部で「今後の授業計画に関するアンケート」と称して、6ヶ月の空白期間を空ければ再契約すると誘導し、どの時期に空けるかを申告させようとしています。しかもそれは「労働基準法(ママ)の改訂」のためであり、英文版の説明メールでは、労働法令を守るためとも説明しています。また日本私立大学団体連合会は6/26、文部科学大臣に対し大学の特殊性を訴え、私立大学の「有期契約労働者」の労働契約法からの適用除外を要望しました。これは大学におけるアパルトヘイト体制の要求に他なりません。

(2)クーリング期間強要の背景
 有期雇用労働者の契約更新が5年を超えた場合、労働者の申込みにより無期雇用に転換できるという5年ルールが新たに導入された改正労働契約法が4/1から施行されました。ただし6ヶ月以上の「クーリング」期間があれば、通算契約期間に含まれないとされています。この法改正で、複数の大学で非常勤の契約に新たに上限を設ける動きがあります。

(3)「今後の授業計画に関するアンケート」
 7月初め、早稲田大学・法学部の語学関係の非常勤講師たちに対し、「今後の授業計画に関するアンケート」が配布されました。そこには「労働基準法(ママ)の改訂」のためと称して、5年更新で契約を打ち切るが「一且六ヶ月の休職期間を置いたのちに再契約を結ぶという方針」が示されたとしています(しかしそのような方針は今まで公表されたことはありません)。しかも「5年継続して勤められたならば、1学期の間お休みしていただくということになります」とし、非常勤講師たちに、更新してもらいたければ、いわゆる「クーリング(期間)」を置けと要求しています。
 さらに文中では「カウントをリセットするための休職期間」として、複数の学期を選択するよう指示しています。これでは、無期転換を避けるための方策だと公言しているようなものです。つまり厚労省サイトにある「労働契約法改正のあらまし」5ページに記載の「無期転換を申し込まないことを契約更新の条件とするなど、あらかじめ労働者に無期転換権を放棄させることはできません(法の趣旨から、そのような意思表示は無効と解されます)」に限りなく近い対応です。

 (4)なぜクーリングの強要なのか?
 まず、大学は非常勤講師を必要としており、しかも可能な限り長く働いてもらわなければ困るという事情があります。しかし一方で、有期雇用のままにしておきたいと考えています。そこで早稲田大学は当初、非常勤講師の無期転換を回避するために違法な手続きで就業規則を作り、更新5年上限をかけようとしましたが、これに対し刑事告発・刑事告訴がされました。仮にその就業規則が有効だとしても、4000人の非常勤講師に対して、5年上限を導入するのは非現実的です。2018年に4000人を総入れ替えして大学の質の保証さるとも思えません。また非常勤講師の多くは、すでに何年も契約更新を重ねてきています。その状態で一方的に更新上限を通知しても、労契法19条の期待権が否定されるわけではありません。
 そのため、5年上限以外の方策で無期転換を回避する必要が大学に生じました。それが、今回のクーリングの強要です。

 (5)クーリング強要の矛盾点
 大学は非常勤講師に対して、5年上限の理由を労契法対策ではなく、「Waeda Vision 150」構想により教育研究者の流動性が必要であるからと説明しています。しかし6ヶ月のクーリング後の再契約はその流動性を否定するものです。アンケ-トに添付された英文メールでは、労働法令を守るために行わざるを得ないという趣旨の説明もしています。
 結局、大学の一連の対策の目的は無期転換阻止のみであり、法の趣旨である雇用の安定を否定し、不安定雇用を固定化するためだけに行われています。
 マツダの「派遣切り」地裁判決(2013年3月13日)は、「単にクーリング期間を満たすためだけの方便として導入されたのは明らか」として、雇用身分の変更制度を違法と判示しました。この早稲田大学の件もこれに該当することは明らかです。

 (5)私立大学全体の問題
 しかしこのような異常なまでの無期転換阻止の動きは、私立大学全体に波及しつつあります。日本私立大学団体連合会は6/26、文部科学大臣に対し大学の特殊性を訴え、私立大学の「有期契約労働者」の労契法からの適用除外を求める要望書を提出しました。5年上限・クーリングの強要ができなければ、残るのは法の適用除外です。この要望書では、大学における研究者の流動性・若手研究者の人材育成を根拠にしながら、なぜかこれらとは関係の薄い非常勤講師や非常勤職員を含めた「有期契約労働者」全体の労契法からの適用除外を要望しています。これはまさに期間の定めがあることを理由にした不合理な労働条件の要求(労契法20条違反)であり、かつ大学におけるアパルトヘイト体制の要求に他なりません。
 このような「法の下の平等・社会的身分による差別の禁止」を定めた憲法14条を平気で踏みにじる高等教育機関の要求に対して、組合は今後も徹底抗戦していくつもりです。


2013年08月06日

早稲田大学を刑事告発、首都圏非常勤講師組合 松村比奈子委員長インタビュー

▼早稲田大学を刑事告発!非常勤講師と驚愕の「偽装選挙」:松村比奈子インタビュー①

▼平均年収306万円!非常勤講師の耐えられない格差:松村比奈子インタビュー②

▼非常勤講師問題から見えるもの 自立した国民をつくる教育とは:松村比奈子インタビュー③

首都圏大学非常勤講師組合、ブラック早稲田大学を刑事告発

BLOGOS
 ∟●ブラック早稲田大学を刑事告発-教員の6割占める非常勤講師4千人を捏造規則で雇い止め|松村比奈子氏(2013年07月29日)

ブラック早稲田大学を刑事告発、教員の6割占める非常勤講師4千人を捏造規則で雇い止め

 非常勤講師の5年雇い止めをめぐる問題で、早稲田大学を刑事告発した首都圏大学非常勤講師組合の松村比奈子委員長 にインタビューしました。その要旨を紹介します。(※本文中のゴシック体はインタビューの設問です。byノックオン。ツイッターアカウントはkokkoippan)

教員の6割占める非常勤講師4千人をねつ造した就業規則で5年雇い止め

――ブラック早稲田大学を刑事告発
 首都圏大学非常勤講師組合 松村比奈子委員長 インタビュー

労働契約法改正で非常勤講師が5年経過し
無期転換しても専任の教員になれるわけではない

 ――今回の早稲田大学における非常勤講師雇い止めの背景にあるのが労働契約法改正問題ですが、そもそも非常勤講師は5年経過して無期雇用に転換されたとしても専任の教員になれるわけではありませんよね?

 そうです。今年4月から施行された労働契約法改正は、すべての有期雇用労働者が5年を超えて更新していく場合は、6年目に労働者の申し入れにより無期雇用に転換できるという画期的なルールが導入されたと言われているので、私たちも無期雇用とはすばらしいなと最初は思いました。

 ところが、いろいろ考えていくとそうではない。たとえば大学の非常勤講師は細切れパート労働なんですね。極端な場合は週1回、大学で1コマ90分だけの授業をやることもあります。その場合に、それが無期雇用に転換されるというのがどういうことかというと、お互いに辞めたいと言い出さない限り、週1回1コマの授業がずっと続くというだけのことです。労働条件は直近のものでかまわないと法律の中にも書いてあるので、賃金が上がるわけでもありません。ただ単に、カリキュラムの変更などがない限り働き続けられるというだけです。それは今回の労働契約法改正以前からそうでした。授業が存在していればずっと雇用が継続されて、10年も20年も働き続けている非常勤講師は多かった。だから事実上、私たちは無期雇用されていたので、「無期雇用に転換されました」という言葉ですごく評価されたような気がするけれど実はまったく現状は変わらないわけです。

「任期付き教員の無期雇用」への波及を恐れた?
 ――それを早大当局は誤解して、5年雇い止めを強行してきたということでしょうか?

 早大は労働法学者の先生が2人も理事会に入っているので、この法律の趣旨を知らないはずはありません。一般企業や他の大学のような誤解や勘違いというレベルではないと思います。

 私たちが考えている理由は2つあります。1つは、有期雇用の研究員や任期付き教員が無期転換されると、立場的には専任教員になるので、その場合は財政負担が出て来ますので大学当局は非常に困るわけですね。そういう流れに非常勤講師の無期転換がつながる危険性があると早稲田大学は考えたのではないでしょうか。

 もう1つは、労働契約法改正で非常勤講師を無期転換した場合、将来的に雇い止めする事態になっても労働者側がおそらく反発してくるのではないかと考えたのだと思います。今は雇い止めしやすいが、将来的には雇い止めが困難になることを恐れたのではないでしょうか。

 ――5年雇い止めの就業規則をつくるために、大学側はいろいろ不当なことをやっていますね。

 早稲田の中で非常勤講師の就業規則がつくられているらしいということに私たちが気づいたのは、去年の12月です。それでいろいろと資料などを調べてみたら、どうやらかなり早い段階で早稲田はこの件について対策を考えていたということが分かりました。少なくとも私たちが把握している範囲では、遅くとも昨年11月には労働契約法改正に向けて早稲田内の任期付き教職員を何とかしなければいけないと話し合っていました。どこの大学でも、雇用管理は非常にルーズなところがあったので、労働者側はこの法律が出てきて期待をするのではないか。だからそれに対抗する必要があると考えたのだろうと思います。

 労働契約法の今回の問題では6年目に入る前に18条で規定された無期転換を阻止する必要があるから5年上限を就業規則でかけてしまえばいい。ただ単純に5年上限をかけると、労働契約法の趣旨に反するということで裁判などの問題が起きるかもしれない。そういうことを昨年11月の時点で予測しているんですね。

 その後、今年1月にもいろいろ議論されているようなんですが、非常勤講師の方にいきなり送りつけてきた就業規則には、「早稲田ビジョン150」という早稲田の将来計画を推進するために、このような対応を取らせていただきますという文書が来ています。要するに、昨年11月時点での早稲田の考え方によれば、単に5年上限にすれば労働契約法の趣旨に反することが明白になってしまうので、何か別の理由が必要だろうと考えて、「早稲田ビジョン150」に基づいて「教員を流動的に雇用する」というのがいい。これを使おうということになったのではないかと思われます。

 実際に私たちは、早稲田の職員が持っている「非常勤講師から就業規則に関する質問が来たらどう対応するか?」というマニュアルを入手しました。そのマニュアルには徹頭徹尾「早稲田ビジョン150」を根拠に、「5年上限や4コマ上限について説明してください」ということが書かれています。明らかに労働契約法改正18条に対する対策が、早くから検討されていたということが分かります。

 それから、20条の対策もあります。20条というのは、有期のみを理由とした差別の禁止です。少なくとも非常勤講師は、授業を行っている段階においては専任教員と全く責任は異なりません。ですが、専任教員と非常勤講師との間には説明の付かない賃金格差がありますので、何かそこに職務内容の格差を設けないと、説明がつかないということで法に引っかかる可能性がある。これは早稲田だけの問題ではありませんが、そういう理由で4コマ上限を設け、一方で専任教員にはもっとたくさんコマ数を持てと言って、専任教員と非常勤講師ではもともと職務内容が違うんだという形を取ろうとしている。そうした動きがあったことが今年1月までの大学側の資料等を調べると分かってくるんですね。

“幻の信任投票用紙”
 ――実際に新しい就業規則をつくる際には、労働基準法では労働者の過半数代表から意見を聞く義務がありますが、この点についての経緯はどうだったのでしょうか?

 そうしたことは、労働法の先生が理事ですから知らないわけはありません。ですから早大当局は実際に非常勤講師の教員ボックスに労働者代表を選ぶ信任投票用紙を配布したと言っています。しかし、大学当局が配ったと称する春休み期間に非常勤講師の中で見た人が誰もいないのです。ですから、私たちはこれを“幻の信任投票用紙”と呼んでいます。

 ――非常勤講師の皆さんが春休みで見る機会がない時に用紙が配られたということですか?

 そういうことですね。たとえば法学部では2月6日からはロックアウトされてしまう。閉室されて大学に入ることができなくなるので、その期間に非常勤講師が来ることはありません。大学のホームページによると、ロックアウトは2月6日から2月23日までと書かれています。大学に入ることもできない時期に、大学側は配布したと言っている。

 また、その幻の信任投票用紙には、すでに立候補者名が書かれていました。早稲田大学には7つの事業所があるようなのですが、それぞれの事業所の代表の氏名が書かれていて、それを信任してくれということなんです。そして不信任の場合のみ郵送で投票用紙を送れとあり、しかもその郵送先は選挙管理委員会ではなく、専任の教員組合内です。しかも不信任にする場合は、その事業所名と代表候補者名を書き、自分の所属と自分の氏名を書いて判子まで押さなければならない記名投票なんですね。非常勤講師にとって専任教員というのは、自分の授業の雇い止めに関係してくる人達です。決めるのは教授会ですが、専任教員に自分の名前が知られるということは自分のクビが危うくなる危険性がある。とてもそんなことはできるはずがありません。しかも投票期間は2月14日から28日までの2週間で、すでに候補者は決まっている。そうした状況からして、非常勤講師が投票できる可能性はほとんどありません。

「幻のポータルサイト」と「誰も見ない教員ボックス」
 ――大学側はサイトに掲示したと言っていますね。

 そうです。早稲田大学には教員が見られるポータルサイトがあるのですが、大学側はそこに掲載したと言っています。ですが、そもそもポータルサイトを見る義務は非常勤講師にはありませんでした。しかも年度の授業は1月で終わっています。次の契約更新で授業が始まるのは4月ですが、普通、大学というのは次年度の授業に関してはすべて郵送で文書を送ってきますから、そういう時期に掲載しても、ポータルサイトを見る人はいないでしょう。ですから周知したことにはならないのです。

 それから、政経学部では、1月頃に非常勤講師の控え室に「閉室する前に教員ボックスの中身を整理してください」というお知らせが出るそうです。それは教員ボックスも移動したりするので、来年度の仕事をされない先生がいると教員ボックスの位置が変わってくるわけです。だからロックアウトまでに教員ボックスを空にしろという趣旨の掲示が貼られるのです。そうすると、もう授業が終わって来年度を待つばかりの時期に、そもそも教員ボックスにお知らせが入るわけもありませんし、非常勤講師の方も大学の教員ボックスを見るということは考えられないわけです。大学当局自身が教員ボックスを空にして掃除しろと言っているわけですからどう考えてもおかしな話なので、「本当は入れてないんじゃないか?」と疑う非常勤講師の方もいるほどです。そしてポータルサイトの方も掲載されていたかもしれないけれど、義務はないし実際に見た人も誰もいないので、これも実際は分からないのです。

「手続き通りの就業規則の制定は事実上できない」と発言
 ――1回目の団交はどういう状況だったのでしょうか?

 1回目の団体交渉は、3月19日の7時から10時まで3時間に及びました。その意味では大学当局は誠実な対応だったとは思います。ただ、冒頭に「通常は参加しないが、今回は特別」と触れ込みが付いて、人事常任担当理事が出席しました。その理事が冒頭に延々と「早稲田ビジョン150」の説明をして、そこから団体交渉が始まったんですが、私たちはその時はまだ投票が行われていたことは知りませんでした。ただ就業規則をつくる予定だと聞いていたので、その件について団体交渉に臨んでいました。ところが理事側が言うには、就業規則はもう出来ているというわけです。就業規則は今までになかったものですから、それを制定するには過半数代表の労働者の意見が必要でその手続きはどうしたのか?と聞いたら、すでに意見は聴取していると言う。非常勤講師も労働者ですから、少なくとも何らかの関与がなければいけません。非常勤講師は何も聞かされていないが、どうやったのか?と聞いたところ、過半数代表選挙をやったと言うわけです。そこで出てきたのが、“幻の信任投票用紙”でした。私たちはそこで初めて投票用紙を見たのです。団交の場には早大の非常勤講師の当事者も参加していたのですが、その方も「この投票用紙を私は初めて見ました」と言っていました。

 それをどうやって非常勤講師に配ったのか聞いたところ、3,799枚を各事業所に配布するよう通知し、教員ボックスに配布したという説明だったのです。その文書の日付を見ますと、信任投票用紙の告示日が2月14日で投票日は2月28日までとなっていたので、「この期間はすでに大学の授業は終わっていませんか?」と聞きました。参加していた当事者である早大の非常勤講師の方も「これ間違いじゃないですか?」「2月14日なんて誰も大学に来てないですよ。ロックアウトされているじゃないですか」と指摘しました。

 早稲田は事業所が多いので、学部ごとに異なる可能性があって一概にすべてがそうだとは決めつけられないのですが、少なくとも本部キャンパスや西早稲田キャンパスは「間違いなくこの時期の選挙は変だ」と非常勤講師の方から問題提起されたわけです。そこからやりとりが始まっていったんです。しかし大学側はとにかく教員ボックスに入れたし、ポータルサイトでもお知らせしたんだから知ってるはずだと言い張る。いろいろ議論した結果、理事が「非常勤講師の就業規則を制定するのに、手続き通りやろうとした時、これは事実上できません」と言ったのです。これは団交の時に双方が録音していますので、向こうももちろん分かっているのですが、この言葉が出た時、私たちは本当に驚きました。手続き通りやろうとした時できないというのは、明らかに違法であることを認識してやっていると言わざるを得ません。

 理事が「手続き通りやったらできない」と言ったことに対して私たちは驚いたけれど、そうであればなおのこと、つまり理事が違法性を認識しているのであるから、これは問題だということで、もう一度過半数代表選挙をやり直したらどうか?と私たちは提案しました。確かに就業規則をつくる権限は大学側にありますが、過半数代表選挙に問題があるのならば、それをやり直せばいい話です。やり直すこと自体はそんなに難しいことでも何でもないはずです。それでやり直しを提案したのですが、「お話は伺っておく」と理事は答えるだけで、団交は打ち切られ、その後、3月25日に「やはり就業規則は予定通り施行する」と言ってきたわけです。

 ――それで3月28日に緊急院内集会を開催して、対応を検討して4月8日に刑事告発をしたわけですね

 集会は、早稲田のためではなく予防策でしたが、結果としてそうなりました。

労働者の過半数代表選挙のねつ造
 ――労基法90条違反ということですが、その中身を説明していただけますか?

 その時点で知り得た情報の中で、明らかに労働基準法違反だろうと思ったことはいくつかあります。

 ひとつは、労働者の過半数代表選挙です。就業規則そのものが違法ということではなく、それを制定する際に伴う手続きに瑕疵があると私たちは主張しているわけですが、その理由の1つは、先ほどの理事が言ったような、手続き通りにやろうとした時にそれはできないと違法性を認識しているということです。つまり、故意です。また、幻の信任投票用紙には「労働基準法90条の規定に則って代表選挙をやる」と書かれていますから、過半数代表選挙をやると言っていて、かつ手続き通りにやろうとした時にできないのであれば、偽装したことになりますよね。

 大学というのは研究機関でもあるわけです。今、研究者の論文や実験のねつ造が非常に問題視されている中で、やはり早稲田大学は日本でも一流の大学ですから、教育機関でもあり研究機関でもあるところが事実をねつ造するというのはあってはならない。企業が違反するのとは別の意味で、大学だからこそ、そういったねつ造はやめるべきだということを、私は学者として強く思います。ねつ造、すなわち悪質であることが刑事告発の2つめの理由です。

 3つめの理由は、この違法行為は何度も繰り返される恐れがあり、これを放置していると「これでいいんだ」ということで反復される恐れがある。現時点でもいくつか反復の跡が見られます。たとえば職員の36協定に関しても、非常にいい加減な過半数選挙をやろうとしているといった経緯を見ると、やはり反復性がある。故意性・悪質性・反復性の3点が揃えば、当然犯罪として処罰されるべきだと私たち法学者は考えます。

国際的に見ても許されない行為
 ――国際的に見てもユネスコから高等教育教員の地位の安定について勧告が出ていますね。

 これは大学の内部でほとんど顧みられていないのかもしれませんが、ユネスコでは1966年の段階で「教員の地位に関する勧告」を出しています。そこでは、「教職における雇用の安定と身分保障が、単に教員の利益にとってだけでなく、教育の利益にとっても不可欠である」と指摘しているんですね。つまり教員が安定して教育できることが、結局、教育業界全体の利益になるんだということです。さらに1974年には「科学研究者の地位に関する勧告」も出しています。この場合の科学は、いわゆるサイエンスだけでなく社会科学や文学もサイエンスに入るので、ここで言っているのは大学教員と実質的には同じと考えていいと思います。

 この勧告には、「国の科学および技術関係要員の不断の十分な再生産を維持するため、高度の才能を有する若い人々が科学研究者としての職業に十分な魅力を感じ、かつ科学研究および実験的開発が適度な将来性とかなりの安定性ある職業であるという十分な確信を得ることを確保すること」と明記されています。

 これがユネスコが締約国に対して要求していることです。国際的な視点からも、安定した地位が科学研究や教育に欠かせないということが、繰り返し言われているということです。

 また、1966年の勧告は小中高の教員もすべて含めていますが、1997年には同じユネスコで「高等教育教員の地位に関する勧告」というのも出ています。これがまさに大学教員の地位に対する勧告で、「高等教育教員の勤務条件は、効果的な教授、学問、研究および地域社会における活動を最大限に促進し、ならびに高等教育教員がその職務を遂行できる最善のものであるべきである」と最初に前置きした上で、さらに46項で「雇用の保障(中略)は、高等教育および高等教育教員の利益に欠くことのできないものであり、確保されるべきである」とダイレクトに大学教員の雇用の保障が謳われているんですね。さらに53項にも「高等教育教員の給与、勤務条件および雇用条件に関する全ての実行は、高等教育教員を代表する組織と高等教育教員の雇用者との間の任意の交渉の過程を通じて決定されるべきである」としています。

 つまり話し合いと合意に基づいて、高等教育教員の労働条件を決定すべきだと指摘しているわけですね。もちろん話し合いと合意というのは民主主義におけるすべての基本です。それを改めてここで言っている。これに対して早稲田のやっていることは、話し合いと合意と言えるのか?ということです。今後、早稲田大学が国際的な地位を確保していきたいのであれば、ユネスコが勧告していることを真摯に考え、自分たちのやってきたことをきちんと検証すべきだと思います。

話し合いと合意は人権尊重の根本

 それと、私は憲法学が専門ですが、話し合いと合意というのは単に民主主義だけでなく、憲法の人権尊重の根本だと思うのです。日本国憲法の条文の中で、いちばん重要な条文はどこか? と聞かれたら、それは憲法13条だと私は答えます。そこには「すべて国民は個人として尊重される」と書かれています。つまり私たちは集団の一部ではなく個人なんだと書かれています。個人として尊重されるというのは具体的にどういうことか。たとえば目の前にいる人に対して「あなたを大事に思っていますよ」というイメージを伝えたい時にどうするか。その場合、たとえば相手が何か言いたいことがある、あるいは相手が一生懸命自分に向かってしゃべっている時に、その人の目を見て答えたり聞いてあげたりすることです。話を聞くというのは、個人の尊重のいちばん分かりやすい基本的な姿勢なんです。もちろん就業規則については労働者の就業規則ですから、労働者の話を聞くということが法律で要求されています。しかし別に法律で要求しなくても、人権を尊重するならば、まずその人の話を聞くことが重要です。これは最低限の国民としての義務だと思うんですね。あるいは社会人としての義務です。その上で、「しかしあなたの言い分は受け入れられません」という場合もあるでしょう。ですから就業規則というのは、意見書を添付して労働基準監督署に出せば有効になるわけです。意見を聞いたということですから。つまりその意見書は必ずしも就業規則に賛同していなくてもいいのです。

 だから、法律で強要されているかどうかという以前に、その人に関することはその人に聞くということが人権として要請されている。しかも大学というのは、社会人を教育する、社会人を生産する機関ですよね。そういった教養ある人を生産するところが、人権の尊重に反するような行為をやるというのは許せない。この点が今回、早稲田大学を刑事告発する根本にあるといえます。

2回目の団交で矛盾深める早大当局
 ――2回目の団交の状況はどうでしたか?

 6月6日に行った2回目の団交も午後7時から11時くらいまで4時間に及んだのですが、中身は1回目の団交よりも後退して、進展がほとんどありませんでした。原因は理事が今回出て来ず、代わりに代理人と称する弁護士が出てきて、しかもその弁護士が前回の理事とは違うことを言い始めたからです。そうすると、話が矛盾しているので結局そこで止まってしまうのですね。前はこう言っていたのに、「いや違う、そんなことは言っていない」という会話に終始してしまい、それより前に進まない。そうしたことの応酬で終わってしまったというのが2回目の団交です。

 ただ、2回目の団交で分かったことは、1回目と矛盾することでもあるんですが、教員ボックスにも入れたがメインとなる周知はポータルサイトであると言う。教員ボックスはおまけで、ポータルサイトに掲載したことが重要なんだと今度は言い始めた。だけどそこに対する閲覧の義務が非常勤講師にはないわけですので、ますます迷路に入っていくような感じです。ポータルサイトで周知したと強調することの意味は、ポータルサイトは非常勤講師だけではなく、専任教員も見ることができるからです。

 つまり、大学側は当初は非常勤講師に3,799枚の信任投票用紙を配ったと1回目の団交で主張していたのですが、今度はポータルサイトに置いたから専任の教員も信任投票の対象であったと主張しているんですね。大学内の全労働者のうち、専任教員と非常勤講師が過半数代表選挙に参加しているというのです。しかし一方で職員の方にはどうも周知していないようなので、結局過半数代表選挙ではないんですけどね。多少は人数が広がったといいますか、そこで違法性を薄めたいというのが大学側の目論見かもしれません。大学側の主張が変わってきていますが、それ以外の進展はありませんでした。

早稲田大学の非常勤講師15人が集団で刑事告訴
 ――そういう中で昨日、当事者が刑事告訴しましたね。

 6月21日に、東京労働局へ早稲田大学の非常勤講師15人が集団で刑事告訴しました。ただ、持っていった先は東京労働局で、告訴の名宛人は新宿の労働基準監督署長になっています。なぜ労働基準監督署長宛の告訴状を東京労働局に持っていったかといいますと、私たちが4月8日に刑事告発をした時は検察庁に持っていったんですね。検察庁から捜査をいつするかということははっきり私たちに伝えられていないのですが、その後東京労働局から電話があり、この件について話を聞きたいということでした。それで私たちが伺ったところ、検察庁の指揮下で事情を伺いたいということでした。ということは事情聴取が始まったということで、今後は東京労働局が中心になって、この問題を捜査していく可能性がある。それならこの告訴状もそちらに持っていった方が手っ取り早いだろうということで、告訴状自体は東京労働局に持っていったということなんです。そして、告発状は6月4日に正式に受理されました。

早大でまかり通れば全国の大学や企業に波及してしまう

 ――この問題について、首都圏大学非常勤講師組合は今後どんな展望を持っていますか?

 この問題からは絶対に手を引きません。こんなことが許されていいとは思わない。話し合いと合意というのは、労働者だけではなく民主主義社会の基本です。そういう意味でも話し合いと合意を否定するような行為は、しかも今回の場合、特に法律に反しているわけですから、これは徹底的に追及していきます。これを認めれば全国の大学で同じようなことが行われることにもつながっていきますし、ましてや企業は当然、利益追求のために喜んで真似をするでしょうから、ここは私たちとしても引くことはできません。

3万人の講師が失職の恐れ 法改正で揺れる大学の危機

ダイヤモンド・オンライン
 ∟●3万人の講師が失職の恐れ 法改正で揺れる大学の危機(2013年8月1日)

改正労働契約法の施行で、今後、契約期間が5年を超える非常勤講師は無期雇用に転換が可能となった。だが大学側は無期雇用の回避に躍起だ。大量の雇い止めによって現場が混乱に陥る恐れがある。

 「明らかに確信犯であり、許し難い行為だ」。早稲田大学の非常勤講師15人は、6月21日、就業規則作成をめぐる手続きで大学に不正があったとして、鎌田薫総長と常任理事ら計18人を、労働基準法違反で刑事告訴した。

 非常勤講師らが怒る理由は大きく二つある。

 一つ目は今年4月から実施された就業規則の中身だ。早大は非常勤講師を5年で雇い止めにすると決めたため、規則に従えば、2018年3月で職を失うことになる。

 二つ目は就業規則を決める手続きである。労基法では事業者に対し、就業規則を作成する場合は事業場(キャンパス等)の労働者の過半数代表などから意見を聞くことを定めている。だが、後述するように、早大は姑息とも思える手段によって、非常勤講師の知らないうちに就業規則を作成した。

 今回の刑事告訴に先立つ4月上旬には、各大学の非常勤講師から成る首都圏大学非常勤講師組合(以下、非常勤講師組合)の松村比奈子委員長および佐藤昭夫・早大名誉教授(専門は労働法)が、鎌田総長と常任理事ら計18人を労基法違反で東京地方検察庁に刑事告発。

 松村委員長は「早大が非常勤講師に対して行っている不正行為は他にもある。今後、第2、第3の刑事告発を予定している」と全面対決の構えだ。

非常勤講師がいない
春休み期間に
過半数代表を選出

 非常勤講師とは、教授や准教授などの専任教員とは異なり、授業科目ごとに大学と契約する有期契約教員のことである。

 早大の専任教員が約1800人なのに対し、非常勤講師は約2900人に上っており、授業の多くは非常勤講師によって支えられている。

 その非常勤講師が大学側と対立する発端は3月中旬のことだった。

 非常勤講師組合の要請で実現した団体交渉において、大学側は就業規則を初めて公表。さらに過半数代表を選出して意見を聞いており、就業規則作成に必要な手続きは行ったと説明した。

 しかし、実際には非常勤講師が大学に来ない春休み期間中に、学内の連絡用ポストに公示文を投函。各事業場で過半数代表者に立候補した専任教員7人に不信任の場合のみ連絡するよう求めた。当然、非常勤講師たちは選出手続きの事実を知る由もなく、不信任票はゼロだった。

 こうした大学側の不誠実な対応に対し、非常勤講師組合は過半数代表選出のやり直しと就業規則の導入延期を要請したが、大学側は拒否した。

 そもそも非常勤講師の収入は低く、いわゆる高学歴ワーキングプアが多い。早大に限らず、多くの大学では非常勤講師の月収は1コマで約3万円。非常勤講師組合などが10年に行った調査によれば、平均年収は約300万円で、全体の4割の人たちが年収250万円以下だった。

 一方、早大の専任教員の年収は「おおむね1500万円」(団交時の清水敏・常任理事の発言)とみられる。

 専任教員は非常勤講師と異なり、研究や会議、入試準備などの業務も受け持つとはいえ、その差はあまりに大きい。

 とにもかくにも、非常勤講師は、人件費は安く、多くは1年契約の更新故、大学からすれば都合のよい人材だった。

 にもかかわらず、今回、早大が5年雇い止めを強行した最大の理由、それは今年4月から施行された改正労働契約法にある。

 同法によって、今年4月以降に雇用期間が5年を超えた場合、労働者が希望すれば無期雇用に転換できるようになった。

 しかし、大学からすれば、「授業科目がなくなることもあるため、すべての非常勤講師を定年の70歳まで雇用するのは難しい」(早大人事部)。

 もともと労契法が改正された目的は、有期契約から無期契約への切り替えを進めることで雇用の安定を図ることにある。ところが、事実上の無期雇用だった非常勤講師は、法改正によって雇い止めを迫られるという、法改正の趣旨とは逆行する状況に陥っている。

私大がタッグで
適用除外まで要請し
無期雇用回避に躍起

 1991年以降、国が大学院生を増やす政策を採ってきたこともあり(上グラフ参照)、その受け皿として非常勤講師の数は年々増加してきた。

 現在、非常勤講師を専業で行っている人の数は延べ8万2800人(下グラフ参照)。1人で平均3校の授業をかけ持ちしているといわれることから、実際の人数は約2万8000人に上ると推測される。

 だが、労契法改正を機に、非常勤講師の雇い止めの動きは早大以外でも広がっている。

 大阪大学、神戸大学、法政大学はすでに5年雇い止めの就業規則を作成している。

 こうした中、早大で刑事告訴にまで至ったことで、法政大学は「これから過半数代表を選出し、今秋以降に就業規則の是非をあらためて判断する」と実施を見合わせた。神戸大学も「大学が必要と判断した人は5年を過ぎても雇用を継続する」と、一部の非常勤講師は無期雇用に転換する方針だ。

 一方、大阪大学は実施を強行し、非常勤講師組合と対立している。

 昨年11月、「非常勤講師との契約は労働契約ではなく、民法に基づく準委任契約なので労働者ではない」として、過半数代表からの意見を聞かずに規定変更を行った。

 これに対し、大阪大学の非常勤講師である新屋敷健・関西圏大学非常勤講師組合執行委員長は、「非常勤講師が労働者でないと主張するなら、労契法に基づく5年雇い止めの規定は不要のはず。大学の言い分は矛盾しており全く理解できない」として、労基法違反で8月にも大阪地検に刑事告訴する予定だ。

 私立大学関連の3団体計500校以上が加入する日本私立大学団体連合会(私大連合会)によれば、非常勤講師の5年雇い止め規則の導入について「ほとんどの大学が検討中」としており、今後、多くの大学で雇い止めの規定が導入される可能性がある。

 実際、ある大学関係者は「全国の大学が早大の行方に注目している。5年雇い止めが認められれば、多くの大学が追随するだろう」と語る。

 また、雇い止めの動きの一方で、多くの大学から労契法の適用除外を求める声も高まっている。私大連合会の清家篤会長(慶應義塾大学塾長)は6月26日、下村博文・文部科学大臣へ要望書を提出し、私立大学の有期契約労働者については無期労働契約への転換ルールの適用除外とするよう要望した。

 いずれにせよ、現状を放置すれば5年後に大量の非常勤講師が雇い止めになる可能性が高く、教育現場が混乱するのは必至だ。また、ベテラン講師がいなくなる上、「いずれ雇い止めになると知っていたら、授業への熱意を維持できない」と、教育の質低下を懸念する声も上がる。

 非常勤講師の雇用のあり方について、早急に議論する必要がある。

 (「週刊ダイヤモンド」編集部 松本裕樹)

2013年07月12日

早大が労契法を脱法、非常勤講師の無期化回避狙う 労組が記者会見

しんぶん赤旗(2013年7月11日)

 早稲田大学が、非常勤講師に対して5年の契約更新による無期雇用転換を回避するため、半年間休職させて契約期間をリセットする「クーリング期間」偽装の脱法行為を計画していることが分かりました。10日、首都圏大学非常勤講師組合が東京都内の記者会見で明らかにしました。

 同大学法学部の非常勤講師に、「今後の授業計画に関するアンケート」が配布され、「5年間継続して勤められたならば、1学期の間お休みしていただく」として、2014年度~18年度の前後期で授業担当の希望を聞き、休職へ誘導しています。

 改定労働契約法では、5年間契約を継続すると有期雇用から無期雇用へ転換できる、という規定が導入されました。厚労省発行の『労働契約法改正のあらまし』は、「あらかじめ労働者に無期転換申込権を放棄させることはできません」としています。

 非常勤講師組合は、早大の行為が雇用安定という法の趣旨に反すると批判。非常勤講師に対して、アンケートにはすべての期間で「授業担当を強く希望する」と回答するよう呼びかけています。

 早大は、さまざまな無期転換回避策をこころみており、4月には就業規則改定を強行して、契約期間5年上限で雇い止めにすると決めました。非常勤講師と組合から労働基準法違反で刑事告訴・告発をうけています。


2013年04月25日

首都圏大学非常勤講師組合、早稲田大学に対する告発状

首都圏大学非常勤講師組合

告発状証拠資料4 団体交渉時に大学側より提示された資料2(配布したと主張する信任投票用紙) (2013.04.19)※Web版は個人名の上に黒塗りしています。
告発状証拠資料5 団体交渉時に大学側より提示された資料3(早稲田大学の専任教員・非常勤講師総数表) (2013.04.19)
早稲田大学非常勤講師5年雇止め問題・刑事告発ビラ (2013.04.12)
松村比奈子(首都圏大学非常勤講師組合委員長):早稲田大学の理事全員に対する告発状(労働基準法第90条違反) (2013.04.08)
佐藤昭夫(早稲田大学名誉教授):早稲田大学の理事全員に対する告発状(労働基準法第90条違反) (2013.04.08)

2013年04月10日

労働基準法違反:非常勤講師組合、早大総長を告発 「就業規則で不正」

毎日新聞 2013年04月10日 東京朝刊

 早稲田大学が4月から実施した非常勤講師の就業規則を巡り、首都圏大学非常勤講師組合の松村比奈子委員長らは9日、制定手続きに不正があったとして、早大の鎌田薫総長と常任理事ら計18人を、労働基準法違反容疑で刑事告発したと発表した。8日付で告発状を東京地検に提出し、受理されたという。

 告発状によると、大学側は就業規則を作る際、労働者の過半数代表者から意見を聞いたように偽装したとしている。

 東京都内で記者会見した同労組と関西圏大学非常勤講師組合(新屋敷健委員長)によると、労働契約法改正を受け、早稲田大以外に少なくとも大阪大と神戸大が今春から非常勤講師の契約期間の上限を5年とした。

 松村委員長らは「雇用の安定を目指した改正法の趣旨に反する」と批判した。

非常勤講師労組 早大を告発

 早稲田大学が、今月から実施した非常勤講師の雇用期間の上限を5年とする就業規則を巡って、作成手続きに問題があったとして、労働組合のメンバーらが8日、大学の理事らを労働基準法違反の疑いで検察庁に刑事告発しました。

 刑事告発したのは、首都圏の大学の非常勤講師およそ300人でつくる労働組合の松村比奈子委員長らで、8日、東京地検を訪れ告発状を提出しました。

告発状によりますと、労働基準法では就業規則の作成にあたって従業員の過半数の代表者などの意見を聴くよう定めていますが、早稲田大学が今月から実施した非常勤講師の雇用期間の上限を5年とする就業規則を作成した際、理事らはこうした手続きを取っていなかったとしています。

組合によりますと、早稲田大学には、非常勤講師らはおよそ4200人いるということです。

今月から改正された労働契約法では、非常勤講師ら雇用期間に限りのある人が5年を超えて働き続けた場合、期間に限りのない無期雇用に切り替えることができることになっていて、松村委員長は「大学は法律の適用を避けようとしているのだろうが、非常勤講師の安定した雇用に率先して取り組んでほしい」と話しています。

早稲田大学は「詳細が分からないので、コメントは差し控えたい」と話しています。

(NHKニュース配信)

2012年07月22日

「野田首相、すべてを語る」? 早稲田大学総長への要望書

「野田首相、すべてを語る」?
─早稲田大学総長への要望書─

 早稲田大学総長 鎌田薫殿

 野田首相が7月22日に早稲田大学で講演します。これは大学からの依頼によるものと聞きました。しかも、残念ながら一般教職員の参加はできなくなっております。会場となるのは、かつて1998年に中国の江沢民主席が講演したときに学生が声を上げて逮捕され、その後に、聴衆としてそこにいたすべての学生の個人情報が警察に渡されていたことが明らかとなった、大隈講堂です。2004年の最高裁判決においては、このときの大学の行為は違憲であるとされました。また2008年に胡錦濤主席が講演したときには、そのチベット政策に抗議する人たちを講堂に近づけないために、きわめて厳しい警備体制が敷かれました。結果として野田首相も、そのときと同じように、希望した者のなかから「抽選」によって選ばれ、学籍番号や名前が警察に渡されることを承諾した学生のみを相手に、「すべてを語る」ことになるのです。

 首相官邸まえでは、毎週金曜日の夕に、原発の再稼働に反対する数万人規模の抗議行動が繰り返されています。首相は「大きな音だね」と言いこそすれ、真摯にその声に耳を傾けようとするわけでもありません。その首相がわざわざ日曜日に母校にきて、まだ社会経験のない若い学生をまえにいったい何を語るのでしょうか。私たちは首をかしげざるを得ないのです。「何も決まらない」と揶揄される日本で、未来にかかわる重大問題の数々を独断専行にも見える形で「決める」ことの重要性でしょうか。抗議活動に加わり原発の再稼動反対を訴える無数の一般市民と、講堂に集まる1500人ほどの学生のあいだには、いったいどのような関係があるのでしょうか。もとより早稲田大学の一卒業生としての野田佳彦氏は、自らが首相をしているこの日本で、かつて中国の元首たちが行なったのと同じような形で講演することになる「民主」党党首としての自分を、どのように思っておられるのでしょうか。

 私たちは、早稲田大学がこの時期に、このような講演を主催することの意味を問わざるをえません。講演の内容はもちろんのこと、それが実施されること自体、今や社会全体における早稲田大学のイメージを左右することになると思います。大学に熟慮を求めたいところですが、講演は計画通り実施されるとのことですので、少なくとも以下の3点へのご配慮をお願いしたいと思います。

●聴講生の情報を警察に提供することはそもそもあってはならないことです。仮に提出する場合でも、大学は学生の個人情報の保護を図り、学生の不利益になる事態を回避してください。
●講演当日においては、学生が首相の講演内容について自由に質疑応答できるよう、十分な時間と公正なしくみ(例えば事前に質問者を定める等はしないこと)を保証してください。
●講演および質疑応答のすべては、開催後速やかに、編集されることなく公開するようにしてください。

 最後に、私たちの根本的な懸念を記させていただきます。大学は、その構成員である学生および教職員に対して、それぞれの公人としての責任を問うばかりでなく、私人としての「信」(学業を通じて培われる信念)を保証する責務を負うものと私たちは考えます(大学が政教分離の要にあって、政治と宗教を分けるとともに公私をつなぐ役割を果たしうるのは、そのためだと思います)。それゆえ、たとえ一国の首相である卒業生を講演に迎える場合でも、大学は政治的に中立であらねばなりません。この点で早稲田大学がバランスを欠き、大学としての良識を問われたりすることがないようお願い申し上げます。

2012年7月19日

早稲田大学教職員有志

岡山茂 藤森頼明 シルヴィー・ブロッソー(以上、政治経済学術院)、岡田正則 弓削尚子(以上、法学学術院)、伊東一郎 オディル・デュシュッド 藤本一勇(以上、文学学術院)、内山精也 大橋幸泰 岡村遼司 小倉博行[非常勤] 北山雅昭 後藤雄介 近藤庄一、澤口隆[非常勤] 高木徳郎 高橋順一 中嶋隆 野池恵子[非常勤] 浜邦彦 広中由美子、松本直樹 丸川誠司(以上、教育・総合科学学術院)、上野喜三雄(理工学術院)、花光里香(社会科学総合学術院)、樋口清秀 平山廉(以上、国際教養学術院)、神崎巌(名誉教授・人間科学学術院)、榎本隆之 野池宏美(以上、高等学院)、澤口香織(元職員)、ほか1名