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2017年10月03日

東大、職員4800人雇い止めで失職も…組合と大学側が全面対決、国の働き方改革に逆行

ビジネスジャーナル(2017年09月28日)

東大、職員4800人雇い止めで失職も…組合と大学側が全面対決、国の働き方改革に逆行

東京大学安田講堂(「Thinkstock」より)

 東京大学で、政府の進める「働き方改革」に反することが行われようとしているという。詳しく話を聞こうと、東大に向かった。

 赤門をくぐり、三四郎池や安田講堂を見ながら、広大な本郷キャンパスの奥まで進んでいく。周囲と比べると、こぢんまりとした3階建ての建物。入っていくと左右ともにある階段がカーブしながら2階に続いている。2階は生協第2食堂。3階まで上ると、そこから廊下が続いている。古ぼけたソファーや家具、電子オルガンやシタールまでが無造作に置かれている。「楽器は決められた場所で演奏してください」の貼り紙があった。どこかからバイオリンを奏でる音が聞こえてくる。どこの大学も小ぎれいになり、東大も例外ではないだろうが、この一角には昔の大学の空気が流れている気がした。

 長く垂れ下がった白い布暖簾の向こうが、東京大学教職員組合書記局である。入っていくと、執行委員長の佐々木彈氏(社会科学研究所教授)と書記長の高橋登氏(工学系研究科技術専門員)が迎えてくれた。小学生ほどの少年がその部屋にはいる。組合職員のお子さんらしい。

 働き方改革に逆行する東大本部のあり方について、2人は語る。

「男女共同参画とか、一億総活躍、働き方の多様化という世の中の流れに、東大がひとりで逆行しようという企てとしか思えないです」(佐々木氏)

「仕事の内容をよく理解していないから、パートタイムというだけで、単純な作業しかしていないと思い込んでいるんです。実際は常勤職員と同じことをやっていて、長い経験がありますから、常勤職員にスキルを教えていたりします。上は3年くらいで異動するので、深くはわからないのです」(高橋氏)

 2013年4月1日に施行された「改正労働契約法」によって、パートタイムやアルバイト、契約社員、準社員、パートナー社員、メイト社員など、雇用期間の定められた有期契約労働者が、契約の更新の繰り返しによって通算5年を超えた場合、本人の申し込みがあった場合は無期労働契約(期間の定めのない労働契約)に転換しなければならなくなった。働き方が多様化していることを踏まえ、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇の差を少しでも埋めようとする施策である。

 契約期間のカウントは、施行の日から始まる。来年4月から、5年間契約期間が続いた有期雇用労働者に無期転換への申し込みの権利が発生する。東大では、その権利が発生する前に5年で雇い止めする規則を設けていたのだ。これによって、1年に約1000人、5年間で約4800人の有期労働者が職を失うことになる。

●現場の実務の実態を無視

 東大の有期雇用教職員には、2つのタイプがある。ひとつは、週38時間45分働くフルタイムで月給制の「特定有期雇用教職員」だ。もうひとつは、週35時間以内のパートタイムで時間給制の「短時間勤務有期雇用教職員」だ。2人が特に力説したのは後者についてだ。

「ワークシェアリングの考え方が進んでいるヨーロッパでは、部長と次長が両方ともパートタイムで、部長が週に3日出てくる。残りの2日を次長が出てくるということがある。2人とも、子育て中のお母さんだったりするわけですよ。だけど会社に行けば、管理職として2人のどちらかがそこにいる。そういう多様な働き方を認めようというのが、今の世の中の潮流であるにもかかわらず、『フルタイムはいい仕事』『パートタイムは単純な反復作業』というような変な身分差別を設けているのが、東大本部のやり方です。子育て中だとか、病気の親を抱えているとか、家庭責任があって、週2~3日しか働けなくとも、本当にいい仕事をしたいという人はいっぱいいるのに、そんなこと一切考えてない。想像もしたことがない。中年男性正社員だけの人事担当者は、こういうことがみえてないです」(佐々木氏)

 話をしていると、少年が「家庭責任って何?」と聞く。「君がここにいるってことだよ」と佐々木氏が答えた。

 東京大学は来年4月以降、公募選考で採用されれば有期雇用の職員が無期雇用になれる新しい雇用形態をつくるとしている。しかし、これはフルタイムの労働者についてである。現在フルタイムの労働者でも、採用されなければ仕事を失う。パートタイムの労働者なら、フルタイムへの道を選ぶのでなければ、そもそも応募できない。

「東大は『週2~3日で無期転換なんてみみっちいこと言わないで、もっといい職をちゃんと用意するから、こっちに応募してくださいよ』と言っているわけです。『単純な作業を週に3日、それを5年以上やるなんて辛いでしょう』というようなことを説明会でも言っています」(佐々木氏)

「うちの研究室の秘書さんは、週3日の勤務です。『夫の扶養の範囲で働きたいから、3日でいいです。時間も短くしてほしい』と本人が言って、うまく調整して働いてもらっている。実際3日間と残業で、なんとかこなせる業務量なんですよ。それがフルタイムになったら、どっちも困っちゃう。こちらには予算に限りがあるわけだし、秘書さんは扶養から外れてしまう。どっちにとっても、いいことはないのです」(高橋氏)

「たとえばの話、特殊な植物に1週間に1回水をやる係の人がいるかもしれない。10~15年勤めあげていて、職人芸になっていたりする。この人をフルタイムにして週5日職場に来ても、やることはないんですよ。だけど週1日のその仕事に関しては、この人は神の手でこなす。こういう人を5人解雇して、その替わりにフルタイムの人を1人雇っても、何をする気なんだと思います」(佐々木氏)

「工学系の事務でいうと、最高レベルの情報を扱っているわけです。パートタイムでも、常勤職員と同じ仕事をやっている。常勤職員だけではやりきれないくらいの数があるから、パートタイムで分担しているわけですが、質としてはまったく同じだし、高いスキルのいる仕事です」(高橋氏)

「社会系の事務だと、データをくれる取引先との交渉に関して、神業を持つ人がいます。その人が週に1日、たとえば火曜日だけ来るということになれば、取引先は火曜日に集中的に連絡してくるわけです。『コーディングはどうしますか?』などと私に言われても、何もわからない。その人でなければ、何もわからないということがあります。しかし、その人に言えばツーカーとわかるから、取引先は毎週火曜日に連絡してくるわけです。それで仕事は回っているので、フルタイムになる必要はない。『フルタイムだったらいい仕事』『週に1~2日だったら単純作業』ということは、まったくないのです。東大本部は、実務がわかっていないのです」(佐々木氏)

「東大内の財務会計システム、旅費システムや購買システムを、パートタイムの人が扱っていますが、けっこう複雑なので、熟知するまで2~3年はかかります。任期の半分です。それであと任期の半分で辞めさせられちゃうというのは困るわけですよ。5年経ったらもうプロですから、離したくないわけですよ」(高橋氏)

「有能な人が任期の途中でどこかに引き抜かれてしまう事態というのは、結構あります。そういう時、残された我々は血相を変えて、代わりのできる人が誰かいないかと血眼になって探すわけです。週に数日しか来ない人たちのやっている仕事の性質を、東大本部は無視していて、『単純な作業を5年も6年も続けていても、本人も嫌でしょう』などと、貶める発言も目につくのです。しかし本人が嫌どころか、取引先だって『えっ、あの人いなくなっちゃったの?』と頭の中が真っ白になってしまうのです」(佐々木氏)

「本部や部局が、難しい財務会計システムや旅費システムなどの講習会を開く時に、呼びかけている相手は、パートタイムの秘書さんたちです。複雑な作業をやっているとわかっているけど、認めたくない。認めると大変なことになっちゃうから。パートタイムの時給が、今1300円くらいですよ。本部は『それに見合う仕事だけさせてくださいね。させていますね』と言うのですが、実際に部局はそういう決して高くはない給料の人にも、同じ仕事をさせてるわけです。逆にパートタイムから仕事を教わっている常勤職員が、その何倍ももらっていたりする。だから、その人たちは不満だらけですよ。同じことをやっているのに、なんでこんなに差があるんだという不満です」(高橋氏)

●クーリングの主旨

 改正労働契約法には、クーリングという考え方がある。契約のない期間が6カ月以上あれば、それ以前の契約期間は通算契約期間に含めないのだ。有期労働契約が5年を超えたら無期労働契約に切り替えなければならないが、5年に至る前に6カ月のクーリング期間を設ければ、再び有期労働契約ができるということだ。

 厚生労働省によればクーリングの制度はそもそも、デパートなどで繁忙期にだけ働く労働者や季節労働者を想定して設けたものだという。同じ会社で1年間に数カ月だけ毎年働いている労働者に関してまで、無期労働契約への転換を迫るのは使用者に対して酷だ、との考えである。通年働いている有期契約労働者の契約期間が5年に至ろうとする時に、無期への転換を避けるためにクーリングを置くのは、立法の趣旨から逸れており、そうした使われ方には危惧を抱いているが、法的に止める手立てはないとのことだ。

 以前の東大ルールでは、クーリングは3カ月だったが、改正労働契約法の成立に合わせて、6カ月に変えられた。3カ月では改正労働契約法によって、以前の契約期間まで通算契約期間に含まれてしまうからだ。このことから、厚労省が危惧している方向で、東大はクーリングを使おうとしていることも窺える。

「無期転換権が発生しないために6カ月空けるというのは、法の趣旨に反する脱法行為だからやめてくださいと、労働局のホームページでも言っています。6カ月空けて5年来て、また6カ月空けてまた5年来るんだったら、その6カ月になんの意味があるのか。6カ月、その人は何をしてればいいのか。たとえば入札課など、特定業者との癒着を阻止するために、間を空けたほうがいい場合もあるでしょう。しかし、それはごく少数ですし、ほとんどの職種は、継続性があったほうがいいに決まっています。労働契約法が変わった時点で、クーリング期間が3カ月だったのを6カ月にするという業務上の必要性があるのか、と問われれば、これは苦しいですよ。そこを、我々は東大側に団体交渉で突いたのです。そしたら、理事が『今まで3カ月しか雇えなかったところが、6カ月雇えるようになる』とトンチンカンことを言って、あちこちから怒号が飛んで、向こうは黙ってしまったことがありました」(佐々木氏)

「6カ月だけのために働きに来てくれる人がいるのかということと、6カ月で来た人がそれまでのプロフェッショナルと同じだけの仕事ができるのかとを考えたら、無理な話です。無期転換を逃れるためとしか、考えられないです」(高橋氏)

 そもそも東大は、なにゆえ無期労働契約への転換を拒もうとしているのか。

「おそらく、財務が逼迫した場合を想定して、無期契約の職員は解雇しづらいので、雇い止めで人員整理できる有期雇用を残しておきたいという意図があるのではないでしょうか。これが通ってしまったら、他の大学も右へならえで、『東大さんがこうやってますから』というかたちで、間違ったお手本になりかねません」(佐々木氏)

●法的見解

 では、東大のやろうとしていることは、改正労働契約法に照らして、違法にはならないのだろうか。弁護士法人ALG&Associates弁護士の竹中朗氏は、次のように解説する。

「現時点で、東大が定める5年ルールが法の趣旨に反し、違法であるとはいえないと考えられます。そもそも労働契約法18条1項が制定された趣旨は、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し、いつ雇い止めされるかわからないという不安の中働いている有期労働者の雇用の安定を図ることにあります。

 東京大学短時間勤務有期雇用教職員就業規則によると、東大は、有期労働者を採用する際に、5年で雇い止めすることを労働者に伝えていると考えられます。この場合、労働者は採用時から、5年で契約が終わることを予期して働くことが可能なため、いつ雇い止めされるかわからないという状況は事前に回避することができるでしょう。そのため、5年ルールが法の趣旨に違反し、違法であると断言することは困難であると考えられます。

 もっとも、実際に東大が5年ルールを適用し、有期労働者の雇い止めをした場合、労働契約法19条の適用の有無が問題となり、雇い止めの有効性が争われることになるかもしれません。しかしながら、東大が採用時に5年ルールを明確に伝えていれば19条は適用されない可能性もあり、その際、この5年ルールの是非についても争点となるのではないかと考えられます。

 公募選考は、東大の有期労働者が5年ルールにより5年目以降働くことができなくなるという状況の中、5年以上働きたいと考える労働者にとって希望の光となるでしょう。しかし、この公募選考は、5年ルールを前提としたものですので、これが周知されるということは、つまり5年ルールも同時に周知されるものとなり、結果として、雇い止めの有効性を判断する重要な要素である有期労働者の更新への期待はより認められづらくなる可能性があります。その意味では、公募選考は東大の5年ルールによる雇い止めの違法性を弱めるものと考えることができると思います。

 クーリング期間が設けられた趣旨は、無期転換制度が有期労働契約の利用を阻害することを防止することにありますが、無期転換への可能性を狭めるものとして立法段階から問題視されてきたという事情もあります。しかし、実際に施行されている以上、6カ月間のクーリング期間を設け、ある有期労働者を長期間雇い続けることは、18条2項に沿った運用と考えることができると思われます。もっとも、クーリング期間給料は払われず出勤しつつ、再雇用時にクーリング期間分の給与をまとめて払うなど、クーリング期間とは評価できないような運用をしていた場合には、18条の潜脱としてクーリング期間は無効と判断される可能性があります」

●東大の見解

 法曹界に最も多くの人材を送り込んでいるのが、東大法学部である。明らかに違法となることを、東大が行うはずもない。だが、改正労働契約法の趣旨には反しているのではないか。

 東大本部の見解を聞くべく、本部広報課に以下の質問を送った。

【質問1】

 有期雇用の労働者の契約が更新されていき5年を超えた場合、無期契約に転換できる権利を与える、2012年に改正された労働契約法の「5年ルール」は、雇用の安定を図ることが目的だとされています。東京大学は契約が5年に達する前に雇い止めする規則を定めた、と報じられています。財務が逼迫した時に無期契約の労働者は解雇がしにくいなどの意図で、無期転換を拒む動きだと捉える声が聞かれました。実際の意図はどこにあるのでしょうか?

【質問2】

 東京大学は来年4月以降、公募選考で採用されれば有期雇用の職員が無期雇用になれる新しい雇用形態をつくると報じられています。これはフルタイムの労働者についてであると聞いております。有期のうちパートタイム労働者は、女性が4分の3を占めており、育児や介護など家庭責任を抱えながら働いている場合が多いと聞きます。パートタイムのまま無期雇用される道は開かれておらず、政府が掲げている「働き方改革」に逆行しているとの声もあります。いかがお考えでしょうか?

【質問3】

 現場の先生らからは、週1~3日の勤務でも複雑な業務を熟している労働者は多いと聞きます。東京大学本部が呼びかける、財務会計システムや個人情報の講習会に参加するのもパートタイム労働者が多く、彼らが複雑な業務を熟していることは、本部も承知しているはずだとの声もあります。現場が彼らを必要とするなら、6カ月のクーリングを設ければいいわけですが、6カ月クーリングして、また5年働くのだったら、6カ月空ける意味はどこにあるのか、との疑問の声もあります。いかが、お考えでしょうか?

【質問4】

 厚生労働省は無期転換することの企業へのメリットを、「意欲と能力のある労働力を安定的に確保しやすくなる」「長期的な人材活用戦略を立てやすくなる」と説明しています。

 5年を待たずに前倒しで無期転用している一般企業も増えていると聞きます。一般企業が「働き方改革」を進めているのに対して、日本の知のトップリーダーである東京大学がそれに逆行しているように見受けられるのですが、いかがお考えでしょうか? 

 東大本部広報課の返信は、以下の通りであった。

「ご質問いただいた内容については、大学として検討を重ねている最中であり、また、職員組合とも協議を進めているところでございます。それぞれのご質問への回答について、上記の状況を踏まえて、改めてご回答させていただきたいと考えております」

 現在のところ、東大本部は回答を持ち合わせていないようだ。

 東京大学のホームページを開くと、五神真総長による「総長あいさつ」に次のようにある。

「社会の姿が急速に変化する現代において、東京大学憲章に掲げる、人類社会全体の平和と福祉のための学術を現代的な形で押し進めるためには、時代の要請に応える柔らかさを備える必要があります。伝統として守るべきものはしっかり堅持する一方で、システム改革が欠かせません。これまで進めてきた学部の教育改革を定着させつつ、知のプロフェッショナルを鍛え価値創造の主体となる大学院の抜本的改革を進めます。同時に、男女共同参画、若手登用、流動性と安定性を両立させる人事制度の実現、これらは最重要の課題です。この改革を推し進める前提として、科学と学術の社会からの信頼を高めていかねばなりません。その基本である研究倫理と規範の徹底と、産学連携機能の強化は喫緊の課題です」

 働き方の多様化という「時代の要請」に、「世界を担う知の拠点」として、東京大学はしっかりと応えてほしい。
(文=深笛義也/ライター)

2014年10月15日

東京大学職員組合、第30代総長選における声明 「ふさわしい新総長像」

東京大学職員組合
 ∟●東京大学 第30代総長選における声明

東京大学 第30代総長選における声明
「ふさわしい新総長像」


 学校教育法の「改正」をはじめとする、政府・財界による大学のガバナンス強化策によって、本学をめぐる環境は短期間のうちに大きく変化しようとしている。戦後、南原繁によって礎が築かれた、「学問の自由」「大学の自治」を理念とした本学のあり方は、大きな危機を迎えている。現在選考中である次期第 30 代総長は、このような難局においても、学知の府として誇れる東京大学を発展させる人物であることが求められる。東京大学職員組合執行委員会は、こうした状況に鑑みて、次の3項目を理念とする人物が新総長に選ばれるべきと考える。

1 すべての教員・職員が誇りと安心をもって働ける環境の構築
 「構成員の幅広い支持を受け、円滑かつ総合的な合意形成」(今次選考委員会作成「求められる総長像」より)は、使い捨ての労働力、競争原理による管理という地点からは生まれない。学生・院生の模範となるような人間らしい「働きの場」を実現する。

2 東大憲章の自治理念を尊重・遵守
 日本国憲法の定める「学問の自由」は、短期的な経済的利益や国益に左右されず、長期的視点から世界の学術を発展させ協調的人類社会を実現する上で守られるべきものであり、これに基づき、東大憲章の「基本理念としての大学の自治」「基本組織の自治と責務」「人事の自律性」は定められている。この憲章の規定に基づき、構成員の自律性を尊重した運営を行う。

3 国際平和の観点から軍事研究禁止を堅持
 本学の研究は、「人類の平和と福祉の発展に資する」(東大憲章)ためのものである。これは国際紛争の解決手段として武力は使用しないという憲法の理念にもとづく。本学の軍事研究禁止の方針はこうした強い理念に支えられている。武器輸出原則緩和のもとにおける軍事研究は、この理念に抵触する。のみならず特定秘密保護法の対象として機密扱いとなる軍事研究は、「学術情報の公開」(東大憲章)の原則にも違反する。種々の外圧に屈することなく、軍事研究禁止の方針は堅持する。

2014年10月8日

東京大学職員組合

2014年08月02日

東大論文不正、元教授がノートねつ造指示

NHK(8月1日)

東京大学の元教授のグループが発表したホルモンの働きに関する論文など43本に画像の切り貼りなどの不正が見つかった問題で大学の調査委員会は、1日、元教授が、不正が発覚しないよう実験ノートのねつ造を指示していたなどとする調査結果を公表しました。

この問題は東京大学分子細胞生物学研究所の加藤茂明元教授のグループが発表した骨が出来る仕組みやホルモンの働きについての論文など43本に画像の切り貼りなどの不正が見つかったものです。
大学の調査委員会は1日、記者会見し、これまでに調査が終わった5本の論文について加藤元教授と当時の助教授ら合わせて4人が不正に関わっていたとする調査結果を公表しました。
このうち加藤元教授についてはねつ造や改ざんを直接行った事実は確認できなかったものの、研究員に対し、よい実験結果を出すよう強く求め、高圧的な態度で日常的に不適切な指導を行ったことが不正につながったと認定しました。
さらに論文を掲載した科学雑誌から不正の疑いを指摘された際に不正が発覚しないよう研究員らに画像のデータや実験ノートのねつ造などを指示していたとしています。
また残りの3人についても、論文の画像などのねつ造や改ざんをみずから行ったなどと認定しました。
加藤元教授は国から30億円の研究費を受けるなど日本を代表する分子生物学者の一人で、大学では、残りの38本の論文についても不正への関与を調べたうえ関係者を処分する方針です。

元教授がコメント
調査委員会の結果について加藤茂明元教授は、研究員らに実験ノートのねつ造などを指示したとされた点については、「私の不適切な判断がありましたことをおわび申し上げます」とする謝罪のコメントを出しました。
その一方で加藤元教授の不適切な指導が不正につながったとされたことについては、「事実を曲げて私の名誉を毀損しかねないもので、到底承服できない」と反論しています。

[同ニュース]
■東大研究論文不正「4人が関与」と認定 調査チーム
http://news.tv-asahi.co.jp/news_society/articles/000031818.html
■東大論文不正問題、4人の不正関与を認定 「懲戒事由に相当する可能性」も
http://www.j-cast.com/2014/08/01212116.html?p=all
■東大論文捏造(ねつぞう)問題調査結果 元教授ら4人が不正に関与
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00273734.html
■研究論文で不正、東大が4人の関与を認定
http://www.yomiuri.co.jp/national/20140801-OYT1T50094.html
■東大論文不正:元教授強圧的指導 調査委「懲戒処分相当」
http://mainichi.jp/select/news/20140801k0000e040207000c.html

2014年07月18日

東京大学職員組合、東京大学における軍事研究禁止の原則の堅持を訴える声明

東京大学職員組合
 ∟●東京大学における軍事研究禁止の原則の堅持を訴える声明

東京大学における軍事研究禁止の原則の堅持を訴える声明

 特定秘密保護法の制定や憲法第9条の趣旨を空洞化させる解釈改憲、さらに武器輸出三原則の変更などに象徴される政治の右傾化のなかで、昨今東京大学に対して、軍事研究への協力を強要する動きが高まっています。大学当局が軍事研究禁止という東京大学の原則に鑑み、現下こうした圧力を排除していることは評価に値するものながら、政官財を挙げた策動は日に日に強まっており、状況は危急の様相を呈しています。私たちは、東京大学における諸活動に関わるものとして、学知の府たる東京大学が将来にわたって軍事研究禁止の原則を堅持すべきことを強く訴えるとともに、大学当局にあってもかかる認識を更に深化させ、広く学内外にむけて東京大学の社会的責務を発信してゆくことを求めます。

 第二次世界大戦下、日本の諸科学が直接・間接に戦争遂行に協力し、結果として多大な戦禍を内外にもたらしたことは、学術に関わるものとして決して忘れてはなりません。戦後に発足した日本学術会議は、1950年4月に「戦争を目的とする科学研究には絶対従わない決意の表明」を行い、戦時下の反省と総括から学術の再構築を図りました。新制東京大学においても、南原繁総長のもとで「軍事研究に従事しない、外国の軍隊の研究は行わない、軍の援助は受けない」という原則のもと、大学の再建が進められたところです。こうした原則は、歴代総長に受け継がれ、軍事研究との関連が問題となった1959年・1967年には、東京大学評議会においても明確にこれを禁じることを確認しています。さらに東大紛争収束から間もない1969年3月、時の総長代行加藤一郎(後に総長)は、軍事研究に関与しないこと、大学の自主性のない産学共同を廃すべきことを、職員組合に約束し、これを確認書に明記しました。かかる精神は、今日東京大学を運営するにあたっての基本原則たる東京大学憲章に反映され、「東京大学は、研究が人類の平和と福祉の発展に資するべきものであることを認識し、研究の方法および内容をたえず自省する。東京大学は、研究活動を自ら点検し、これを社会に開示するとともに、適切な第三者からの評価を受け、説明責任を果たす。」(「Ⅰ学術」「研究の理念」)と定められています。

 いうまでもなく特定秘密に固められた軍事研究は、「人類の平和と福祉の発展」とは相容れざるものであり、かつ学術活動を社会に開示してゆくという東京大学の基本姿勢になじむものではありません。私たち東京大学の構成員は、先人たちの反省とそれに発した営為を継承し、責任ある学術の姿勢を示してゆかねばなりません。いま安倍政権は、解釈改憲などを通じて、再び世界に軍事力を誇示し、武器輸出を日本経済再生の梃子とすることを目指すとともに、学校教育法の改悪により大学の自治や学問の自由を脅かし、学術的成果を上記の目的に都合よく援用することを狙っています。こうした圧力から大学本来の使命を守るため、東京大学職員組合は、東京大学が軍事研究禁止の原則を堅持し、人類の幸福に寄与する学術・研究に邁進することを強く訴えます。

2014年7月15日

東京大学職員組合

東京大学の軍事研究を行わないという基本原則・慣行に関し、産経新聞紙上に「軍事研究をさせないのは学問の自由に反する」という記事が掲載されました(2014.5/1)。
次いで同じく産経新聞に東大当局と東大職員組合間での軍事研究禁止等の確認書に関し、東大広報課では確認書は現存していないとの回答が掲載されました(5/16)。
東京大学職員組合では昭和44年(1969)3月5日、東職執行委員長と加藤一郎総長代行との間で取り交わされた確認書が現在も有効であること、引き続き軍事研究を行わない基本原則・慣行を堅持すること等、総長へ要望書を提出しました(6/18)。
要望書および確認書はこちらからご覧になれます。⇒
◎2014年6月18日2014年6月18日「軍事研究を行わない管理運営への要望書」
◎1969年3月5日1969年3月5日「東京大学当局と職員組合との確認書」

東京大学職員組合はここに改めて「東京大学における軍事研究禁止の原則の堅持を訴える声明」を公開します(2014.7/15)。


2014年07月07日

東大が防衛省に協力拒否 機体不具合究明「軍事研究」と

共同通信(2014.7.6)

 防衛省が今年5月、強度試験中に不具合が起きた航空自衛隊輸送機の原因究明のため東大大学院教授に協力要請したところ、大学側が「軍事研究」を禁じた東大方針に反すると判断し拒否したことが5日分かった。防衛省は文部科学省を通じ東大に働き掛けを強め、方針変更を促す構えだが、文科省は大学の自治を尊重し消極的。一方、教授は大学側に届けず防衛省の分析チームに個人の立場で参加しており、大学方針の実効性が問われる可能性もある。

 輸送機はC2次期輸送機。離島防衛のため陸上自衛隊部隊が移動する際の主力輸送手段と想定されている。14年度末からの配備を予定していたが、2年延期された。


2014年07月05日

研究不正疑惑「全学生に説明を」 東大医学部生が会見

朝日新聞(2014年7月4日)

 東京大学がかかわる臨床研究で不正疑惑が相次いでいる問題で、東大の医学部生3人が4日、都内で記者会見し、「東大が社会から信頼を失ってしまっている」と疑惑の当事者の教授らに対し、今月中に全学生に説明するよう訴えた。

 学生らは先月下旬、アルツハイマー病研究「J―ADNI」や白血病薬研究などの不正について浜田純一総長に公開質問状を提出したが、理事から「医学部が再発防止策をとりつつある。対応を見守りたい」との回答があっただけという。6年の岡﨑幸治さん(24)は「短期間で問題が次々と起きるのは異常。説明してほしい」と話した。


2014年06月27日

研究不正、東大の学内で議論へ 医学部、学生が要望

共同通信(2014/06/26)

 臨床研究に絡む不正などの指摘が相次ぐ東京大医学部が、学生の要望に応じ、教員と学生による研究倫理に関する会合の開催を検討していることが26日、分かった。「患者を救う真摯な医療ができるのか」と公開質問状を出した学生が、大学側を動かした形だ。

 医学部6年岡崎幸治さん(24)ら有志5人が23日、一連の研究不正について学生への説明を求める公開質問状を浜田純一学長らに宛てて出した。

 質問状は、報道が相次ぐ一方、学生に何の説明もなかったと指摘し「東大医学部で学んでいることに自信が持てなくなっている」「真摯な医療を国民の信用を得て実践できるのか」と訴えた。


2014年06月25日

東京大学職員組合、「軍事研究禁止要望書」を提出

東京大学職員組合
 ∟●要望書

東京大学総長 濱田純一殿

要望書

 2014年5月16日付産経新聞において ,本学における軍事研究の禁止等を確認する1969(昭和44)年3月5日付 『東京大学当局と東京大学職員組合との 確認書』(以下 ,「確認書」)に関する記事が掲載された 。記事の論調自体はここでことさらに取り上げる必要はないと認識している。

 ただし,上記確認書の内容は現在なお重要である 。また,上記記事中で ,本学本部広報課が産経新聞の取材に「確認書は現存していない 。当時,取り交わしがなされたかどうか分からないJ と回答したとされている点は,真偽は不明であるが,もし事実であるならば看過できない問題を含む。

 新制東京大学は ,第二次世界大戦の深刻な反省とともに出発し,日本国憲法 が掲げる平和主義を誠実に遵守するとの理念のもとに運営されてきた。上記確認書は,このような東京大学の確固とした原則 ,『軍事研究は行なわない,また軍からの研究援助は受けない。』という東京大学における慣行を堅持」することを,大学当局としてあらためて確認したものにほかならない。

 同確認書は,当時確かに東京大学当局と東京大学職員組合との間で取り交わされ,現在なお存在するものであることを指摘するとともに,当局は、引き続き、軍事研究を行わないとの基本原則 ・慣行を堅持し 、学術の平和的利用を旨として東京大学の管理運営にあたるよう強く要望する。

2014年6月18日

東京大学職員組合
執行委員長

佐藤 岩夫


添付資料 :
『東京大学当局と東京大学職員組合との確認書』(昭和44年3月5日付)

「東大医学部で学ぶ自信持てない」 不正巡り公開質問状

朝日新聞(2014年6月24日)

 東京大学医学部の学生有志が23日、東大がかかわる臨床研究で不正疑惑が相次いでいることについて浜田純一総長らに公開質問状を提出した。「このままでは東大医学部で学ぶことに自信が持てない」とし、学生に説明するよう求めた。

 質問状を出したのは、東大医学部医学科6年の岡﨑幸治さん(24)ら5人。アルツハイマー病研究「J―ADNI」のデータ改ざん疑惑や、患者情報が製薬会社ノバルティスに渡った白血病薬研究など、東大が関与する問題を質問状に例示し、「先生方のご説明がなければ、信じたくないことも信じざるを得ない」と主張。そしてこう訴えた。

 「東大医学部の先生方にご指導いただいている自分たちは、患者を救う真摯(しんし)な医療を将来国民の信用を得て実践できるのかという不安が拭えない。国民に信頼され得ると確信を持てる医学部においてこそ、将来患者さんに貢献できる医術を学べると信じております」

 岡﨑さんは「教授陣は危機感が薄い。学生が声を上げることで膿(うみ)を出しきり東大の信頼を回復する一助にしたい」。内外の署名を集めて情報公開を求めていく予定だ。東大は「対応は検討中」という。


2014年05月16日

東大の軍事研究禁止、職員労組と秘密合意 昭和44年、産学協同にも「資本への奉仕は否定」

産経新聞(2014.5.15)

 東京大学と同大職員組合が昭和44年に軍事研究と軍からの研究援助を禁止する労使合意を結んでいたことが14日、分かった。東大紛争時に労組の要求に応じ確認書を作成したとみられる。東大は現在も全学部で軍事研究を禁じており、憲法に規定される「学問の自由」を縛りかねない軍事忌避の対応が、労使協調路線のもとで定着していった実態が浮き彫りになった。

 労組関係者が明らかにした。確認書は昭和44年3月、当時の同大総長代行の加藤一郎、職員組合執行委員長の山口啓二の両氏が策定。確認書では軍学協同のあり方について「軍事研究は行わない。軍からの研究援助は受けない」とし、大学と軍の協力関係について「基本的姿勢として持たない」と明記した。

 産学協同についても「資本の利益に奉仕することがあれば否定すべきだ」との考えで一致し、そのことが文書に盛り込まれている。

 同大本部広報課は産経新聞の取材に「確認書は現存していない。当時、取り交わしがなされたかどうか分からない」とし、確認書に実効性があるかどうかについても明らかにしなかった。だが、職員組合は「確認書は成文化している。大学側から廃棄の通知はないので今でも有効だ」としている。

 政府は昨年に閣議決定した国家安全保障戦略で、産学官による研究成果を安保分野で積極活用する方針を明記しており、東大をはじめ軍事研究を禁じている大学側の姿勢が問われる局面となっている。

 東大の軍事研究禁止 東大は昭和34年、42年の評議会で「軍事研究はもちろん、軍事研究として疑われるものも行わない」方針を確認。全学部で軍事研究を禁じているが、複数の教授らが平成17年以降、米空軍傘下の団体から研究費名目などで現金を受け取っていたことが判明している。

 【合意文書骨子】

 ・大学当局は「軍事研究は行わない。軍からの研究援助は受けない」との大学の慣行を堅持し、基本的姿勢として軍との協力関係を持たないことを確認する。

 ・大学当局は、大学の研究が自主性を失って資本の利益に奉仕することがあれば、そのような意味では産学協同を否定すべきであることを確認する。


2014年04月01日

受験前に現金 東大大学院教授解雇

NHK

東京大学大学院の教授が、担当した入学試験を受けた受験生から受験の前に現金100万円を受け取っていたことが分かり、大学は入学試験の公正性などに疑いを持たせる行為だとして、教授を諭旨解雇の処分にしました。

処分を受けたのは、東京大学大学院に勤めていた50代の男性教授です。
大学によりますと、教授は平成23年度の東京大学大学院の入学試験で口述試験の出題や採点を担当していましたが、このときの受験生の1人から、受験の1年ほど前に教授に就任したお祝いとして現金100万円を受け取りました。このあと、受験生が東京大学大学院への受験を希望していることを知り、「来年、受験して合格してほしいと思っている」と伝えるなど、試験で何らかの優遇があるかのように思わせる態度を取っていたということです。
大学の調査では、教授は現金を受け取ったことは認めましたが、試験で便宜を図るなどの不正な行為は確認されなかったということです。
大学は「入学試験の公正性や厳格性に疑いを持たせる行為だ」として、今月28日付けで教授を諭旨解雇の処分にしました。
これについて、東京大学は「教員としてあるまじき行為で、今後、このようなことがないよう再発防止に当たりたい」とコメントしています。

[同ニュース]
東大教授を諭旨解雇 大学院受験生から100万円受領
東大院教授、受験生から現金受領 100万円、諭旨解雇処分