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2004年06月09日

[理系白書・提言]名古屋大教授・池内了さん

毎日新聞(2004/06/08)より

 ◇基礎科学は誰が守る
 国立大学が法人化された。大学の裁量は見かけ上広がるが、運営費交付金は文部科学省が握っている。裁量を広げるにはムダを切り捨て金を稼ぐしかない。その結果、基礎科学はやせ細る。
 あらゆる学問を支えるのが基礎科学だ。言葉への理解や知識が不十分だと深みのある文学が語れないように、自然科学のさまざまな領域が物理学や化学の上に発展してきた。こうした基礎を学ばないと、広い視野も柔軟性も育たない。だが「基礎は重要だ」と叫び続けなければすたれてしまうのが今の時代の現実だ。
 大学の役割は二つあると思う。一つは基礎的な学問を守り育てる。もう一つは社会の要請に応えることだ。法人化は後者を加速させる。物理や地学といった地味な講座を、聞こえのいい新領域に改組する大学も出てくるだろう。
 私立大学に物理学科や天文学科はほとんどない。金がかかる、もうからない、そんな学問は「経営」にはなじまないからだ。だからこそ国立大が担ってきたのだ。
 ゆったりと静かに流れる時間。大学にはこれが必要だ。教員がせき立てられずにじっくり考えて行動することで、研究が深まり、教育も変わる。学生はその様子に刺激を受ける。学問とは何かを学び、考える力を身に着ける。
 ぜいたくに聞こえるかもしれないが、日本は大学教育に金を惜しみすぎる。日本の高等教育への公費支出のGDP(国内総生産)比は0・5%。欧米の約半分である。
 教員も意識を変えなければならない。「教育は雑用、落ち目の教員がやればいい」という風潮がある。教育は産学連携や論文などと違って、成果が出るまで5年10年かかるから、評価が難しい。しかしあえてそこに取り組まない限り、現状は改善しない。
 名古屋大でも教育の再点検が始まった。理学部では学生の必修科目を減らして副専攻を設けることなどを検討中で、視野の広い人材育成への改革を議論している。同様の模索が、法人化を機に各大学で始まっている。
 改革はいいことだが、すべての教員がビジネスマンのようになってしまうと、本当の学問はなくなる。日本の「知」を支える土台が崩れていくのを見過ごしてはいけない。【聞き手・元村有希子】
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 ■人物略歴
 ◇いけうち・さとる
 兵庫県姫路市生まれ。72年京都大大学院理学研究科博士課程修了。京大助手、北海道大助教授、国立天文台教授などを経て97年より現職。専門は天体物理学、宇宙論。

[関連ニュース]
理系白書’04:破れ、専門の壁 人材育成、国立大の模索(毎日新聞6/08)

投稿者 管理者 : 2004年06月09日 00:40

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