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2004年11月02日

教育・研究の場で地位を利用した嫌がらせ 「アカデミックハラスメント(アカハラ)」広がる学内 理不尽さ横行 典型的な事例を紹介

北海道新聞(2004/11/01)

*大学院生メールで訴え
 「やりたい研究テーマがあるのに、担当教授に希望を聞いてもらえない」。道内のある男子大学院生から、アカデミックハラスメント(アカハラ)を訴える相談が、教育取材班に届いた。アカハラは研究・教育の場における権力を利用した嫌がらせ。道内の各大学が相次いで対策に乗り出しているが、まだ十分とは言えない。大学院生の事例を通じ、アカハラの実態や問題点をまとめた。
*事を大きくしない方が
 大学院生は理系。「自分は追い詰められていると思う」と電子メールなどで訴えてきた。
 この院生が教授に不信感を持ったきっかけは、自分の研究テーマなのに希望を聞いてもらえないことだった。自分の希望を言うと、教授は「そんな研究内容は分かりきっていて駄目だ」などと、威圧的な言葉で封じ、指定した研究をさせるという。
 そんなやりとりが何カ月も続き、院生は教授を避けざるを得ないようになった。教授からの電話に出ることができなくなり、「このままではいけない」と、学内の相談窓口に打ち明けた。
 しかし、担当の助教授から返ってきた言葉は「自分より上の立場の教授に、忠告しにくい」「いずれ卒業するのだから、事を大きくしない方がいい」だった。
 この事例について、民間非営利団体(NPO)法人「アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク」(大阪市)は「教授の一方的な押し付けか、院生のテーマ設定の問題かは分からないが、もし後者だとしても、教授は納得がいくよう説明する責任がある。学生は研究内容を決定する権利があるのだから」と説明する。その上で「もっと問題なのは、何もしなかった大学の対応だ」と強調した。
*教育受ける権利を侵害
 同ネットワークによると、アカハラとは、研究・教育の場で教授など優位な立場にある人間がその権力を利用し、学生や部下らの教育を受ける権利や研究を行う権利を奪う行為全般を言う。研究テーマの押し付けや単位認定に関する不公正な対応、研究成果の横取りなどだ。
 そうした行為は以前からあったが、研究室やゼミなど、外部の目が行き届かない密室で行われているため、明るみに出にくかった。
 被害者に「教授に盾つくと、損をするのは自分。自分さえ我慢すればいい」という心理が働くことも、問題の所在をぼかしてきた。
 アカハラが関心を集めるようになったのは、五年ほど前、アカハラという言葉が生まれ、その行為が「教育を受ける権利」の侵害だ、という認識が広がったのが契機。今年三月には東大が大学院生に暴言や暴力を繰り返していた助教授を懲戒免職にした事例が、教育関係者らに大きな衝撃を与えた。

■学業妨害や差別待遇
*防止へ意識改革必要*道情報大が義務を明記
 江別市の道情報大は昨年四月、道内でいち早く、アカハラを含めたハラスメント防止ガイドライン(指針)を策定した。アカハラ防止に対する大学の責任の存在と、大学の全構成員がアカハラを行わないよう努める義務を負うと明記した。
 問題があった場合、教授ら男女の教職員で構成される防止委員会が数人による調査調停委員会を作り、調査に当たる。同委員会は訴えられた人の認否にかかわらず、学業妨害や差別的待遇などの意図があったと判断した場合、アカハラと認め、学長に報告する仕組みだ。学長は委員会の勧告に基づき、学内規定によって処分を行う。
 また、同大は指針を職員、学生に配布し、年に一度、関連の講演会を開いている。指針作りの中心となった広瀬玲子教授は「制度だけでは不十分で、大学構成員全体の意識改革が必要だ。そのために啓発活動、研修に力を入れたい」と話す。
 北大、旭川医大、道教大、帯広畜産大なども本年度、アカハラ防止のための指針や規程作りを進めている。
*訴えに耳を傾けて
 教授からの研究テーマの押し付けに悩む男子大学院生は「理不尽さが許せない」という憤りと、「自分が我慢すれば嵐は過ぎ去る」というあきらめの間で葛藤(かっとう)していた。
 アカハラ問題を担当する教授は「『いい環境で学ぶ権利があるはず』と訴える学生と、『自分も厳しい指導を受けて今がある』と持論を曲げない教官の意識の差は大きい」と打ち明けた。
 重要なのは、「陰湿なアカハラを許さない」という大学の毅然(きぜん)とした態度だと思う。問題を直視し、今はまだ小さい訴えの声に、誠実に耳を傾けることが第一歩だろう。(

 どのような行為がアカハラなのか。「アカデミック・ハラスメントをなくすネットワーク」が実例をもとに制作した啓発ビデオから、典型的な事例を二つ紹介する。
*「ゼミに来なくていい」リポートをゴミ箱に
 ある大学でのゼミ。男子学生Aがリポートを読み終えると、担当の男性教授が「なかなか良かった」と褒めた。
 しかし、男子学生Bの番になると、教授の様子が一変する。「前回も散々だったから」とにらみ、「皆に迷惑をかけたくなかったら手短にな」。Bは緊張しながら発表し、周りの学生はうなずき、聞いている。
 教授は退屈そうにペンで机をコツコツとたたく。しばらくして、「ダメじゃないか。そんな冗長な説明はやめたまえっ」
 驚くB。教授は「準備不足だ。要点がまとまっていない」。Bは「一生懸命準備しました」とノートや資料を見せて反論する。
 教授は「じゃあ能力がないんだろう。バカなんだ。ゼミに来なくていい」とゼミを打ち切り、教室を出て行く。去り際に「人に聞いてもらえる発表ができるまで、何時間でも一人で練習したまえ」と言い、Bのリポートをごみ箱に投げ捨てた。
*「性格がかわいくないから指導は、嫌だ」
 ある大学の教官室で、女子大学院生Cが男性教授から熱心に指導を受けている。終了予定時間を大幅に超過し、次に指導を受ける社会人女性の大学院生Dが、部屋の端で待ち続けている。
 Cへの指導が終わったので、Dが持参した論文原稿を教授に差し出す。すると、教授は「僕は疲れた。もう指導できない。またね」。
 「先日もそうおっしゃって、見ていただけませんでした」とDが言い、「どうか受け取って読んでみてください」と頼む。が、教授は無視している。
 Dは「仕事を切り上げてきょうも来たんです」と、再び原稿を渡そうとすると、教授は追い払うようなしぐさをしながら「君への指導は、嫌だ」。
 Dは驚いて、「どうしてですか」と尋ねる。
 教授は平然と言った。「君は若くないし、性格がかわいくないから、指導する気になれないんだよ」
                   ◇
 同ネットワークはアカハラの被害、対策に関する学生や大学からの相談などを受け付けている。12月には、この啓発ビデオを発売する予定。問い合わせは事務局(電)06・6353・3364へ。


投稿者 管理者 : 2004年11月02日 01:25

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