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2004年11月03日

新卒の紹介予定派遣急増、学生も企業も良かった?

日本経済新聞(2004/11/02)

高い社員採用率
リスク説明課題

 社員としての採用を前提に派遣社員として働き始める「紹介予定派遣」が、大学新卒者の就職スタイルとして定着してきた。新卒者は職場で働きながら、仕事や適性を見極められる。派遣会社が選抜した人材を試用した上で採用判断できるため、企業にも好評だ。しかし、採用されない場合は新卒ではなくなり、次の就職先探しが難しくなる面も。紹介予定派遣の実情とリスクを検証した。
 「ビール大手の内定をもらった後に、希望する仕事ができないと知った。紹介予定派遣ならやりたい仕事を選び企業に入れる」――。都内の有名私大四年の赤川恵さん(22、仮名)は、卒業後の来年四月から大手情報サービスグループの広告会社に勤務する。三カ月は紹介予定派遣社員として働き、採用されれば三年間の契約社員となる。
 今年三月から会社説明会と面接などの就職活動を始め、五月に環境事業に魅力を感じたビール大手に内定した。ところがあいさつに行った大学OBに「環境事業に新人は配属されない」と聞かされ衝撃を受けた。「採用の時期が早過ぎ、OB訪問は内定後になりがち。同じ悩みを抱えた仲間は少なくない」。赤川さんは就職活動を再開し、紹介予定派遣を選んだ。
◎ ◎ ◎
 紹介予定派遣は社員採用を前提にした人材派遣の仕組み。企業は半年以内の採否決定を法的に義務付けられている。赤川さんのように仕事の内容にこだわりを持つ新卒者や、人材をじっくり判断しようとする企業の利用が急増している。
 派遣大手のテンプスタッフ(東京・渋谷、篠原欣子社長)が実施した今春卒の新卒紹介予定派遣者は約六百人と、一九九七年度の十五倍に。リクルートスタッフィング(東京・千代田)も「毎年倍増ペース」という。東京三菱銀行が約百人の新卒紹介予定派遣を受け入れるなど、企業規模や業種も多彩になってきた。
 特筆されるのは社員として採用される率の高さだ。派遣各社は「八―九割」で一致。日本人材派遣協会(東京・千代田)が四百四十二社を対象に行った調査では、昨年度上半期に派遣された新卒二百二十九人全員が、社員採用されたという結果が出ている。
◎ ◎ ◎
 紹介予定派遣は通常の就職活動で内定をとれない学生の行き場とみられがちだが、実態は優秀な学生の選抜制度だからだ。例えばパソナオン(東京・千代田)では、紹介予定派遣を望む学生に、在学中三カ月の研修を求め、適性検査や面談で志望先や姿勢を確かめる。「実際に派遣するのは十人に一人くらい」(パソナオン東京営業部)。その上で企業は職場で人材を見極められる。
 最近は新入社員の三割が三年以内に退職するといわれる。今年受け入れた新卒紹介予定派遣のほとんどを正式採用した東京三菱銀行は、「一般の新卒より安心感があるのは確か」と明かす。
 学生もその選抜過程を前向きに受け止めている。「面接ではお嬢さんぽく見られもどかしかった」と話す青山学院大学の原田幸子さん(22)も、正社員の内定をけって紹介予定派遣を選んだ。
 適性検査では自分の強みと考える行動力に加え、仕事の速さなど意外な能力を指摘され「自信になった」。その結果を基に紹介されたのが、希望の企画の仕事ができる会社。「第三者から見ても適性のある仕事。あとは自分ががむしゃらに働くだけ」。不採用になる不安は感じないという。
◎ ◎ ◎
 気になるのは新卒紹介予定派遣者の採用を確実に監視する体制がないことだ。その役割を担うはずの大学は、紹介予定派遣を活用する学生の総数を把握しきれていない。青山学院大学就職部の関口晃課長は「四千人の卒業生全員の就職先を把握するのは事実上不可能」と話す。文部科学省の基準では紹介予定派遣が就職率に反映されないことも、大学側が注意を向けない理由の一つだ。
 もうひとつ、新卒紹介予定派遣が急拡大する中で、不当な採用拒否を訴える声が目立ち始めているのも気掛かりだ。東京ユニオン(東京・新宿)によると、企業に採用を内示されたが、正式採用直前のリストラなどで取り消しを通告される事例が多い。新卒ではなくなるため、次の就職先探しに苦労したあげく相談に来るという。
 しかも、全国ユニオンの関根秀一郎副事務局長は、「相談に来る人は氷山の一角」とみる。新卒は労働者の権利意識が薄く、泣き寝入りする人がほとんどだからだ。学生に派遣という働き方のリスクが十分示されていないことも懸念する。派遣会社は不採用になった場合、新たな派遣先を紹介するとしているが、その実態や採用率に関する情報は少ない。
 「新卒の就職は社会への第一歩。失敗すれば取り返しがつかないことを、企業も大学ももっと認識すべきだ」と関根氏。雇用情勢にいくぶん明るさが戻った今こそ、不採用となった新卒が安心して就職に再挑戦できる、安全網作りが急がれる。
【表】新卒紹介予定派遣の実績  
紹介予定派遣人数  766人
派遣後に社員採用された人数  229人
社員として就職した人数  231人
(注)日本人材派遣協会の2003年度上半期調査


投稿者 管理者 : 2004年11月03日 01:06

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