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2004年11月08日

熊谷信昭さん/兵庫県立大学長

朝日新聞(11/06)

兵庫県立大学長(75歳)

 異分野間の融合重要 地元住民と共生、開かれた大学に

 ――兵庫県立大は神戸商科大、姫路工大、看護大が統合して発足し、半年が過ぎました。統合でどんなメリットが生まれますか。

 21世紀の大学にとっては「教育」「研究」「社会貢献」のどの面でも、異分野間の融合が重要です。例えば科学技術の安全性について言えば、技術者がどんなに工夫をしても、その技術をつくるのも使うのも人間である以上、必ずミスが起こり得る。だから、心理学や人間科学の専門家らとの融合が必要なんです。兵庫県立大は総合大学になったことで、その融合がやりやすくなっていくはずです。

 ――逆に、神戸市や姫路市などにキャンパスが分散していることで、デメリットもあるのでは。

 運動部が一緒に練習するために集まる時には不便だし、現実的な面で問題点はある。しかし、キャンパス間は日本でも最先端の遠隔授業システムで結んでおり、リアルタイムで受講や質疑応答もできます。教育や研究などの大事な柱に関しては、大きな問題はないと思っています。

 ――国立大は今春から独立行政法人化されました。法人化についてはどう考えますか?

 国立大の法人化の状況をよく見極め、メリットと問題点を冷静に考えた上で判断したい。流行に追随するのではなく、社会に出来る限り貢献するための理想的な大学の形を追究したい。

 ――国立大学法人の制度の中で、良いと思われるものは採り入れていますね。

 学外有識者の意見を大学運営に採り入れるための「運営協議会」を設置し、教授や助手などの採用に任期制を導入することにも取りかかっています。陽(ひ)の当たりにくい基礎研究分野の研究者や、実績はなくても意欲的な若手の研究者など、外部から研究資金を集めにくい人たちへ、学長の裁量で研究費を支援する制度もつくりました。

 ――年内には国内で初めて、災害時に必要な看護のあり方などを専門的に研究する「地域ケア開発研究所」を明石市に開設します。

 阪神大震災の反省もふまえて、災害時の看護を学問的に研究するだけでなく、実際に役立つ人材の育成も行います。理想的な介護・看護のあり方を考える際にも、医学や看護学などの専門に閉じこもってはだめで、心理学や人間科学、社会科学などを総合したものにする必要があります。

 ――産学官の連携はどう考えていますか。

 とにかくまず、大学は最先端の研究をしていないといけない。そして、その研究成果を生かして、県民や企業にとって役立つ大学にしたい。姫路市や姫路商工会議所とは、企業ニーズを発掘して大学に紹介するなど、産学官が連携して地域活性化を図ることを申し合わせた協定を結びました。

 ――将来的には、どんな大学を目指しますか?

 真に社会に役立つ大学となることが理想です。近くに大学があれば、地元の人は親近感や愛着を持ってくれる。全県に広がるキャンパスがそれぞれ地元住民と共生しながら、特性を発揮し、総合大学として県民全体に貢献していきたい。

 (聞き手 緒方謙、生田大介)

     *

 くまがい・のぶあき 大阪府出身。大阪大大学院(旧制)を修了し、同大学の教授などを経て、85~91年に同大学総長。その後、民間の原子力安全システム研究所(福井県)の所長を約10年務めた。今年4月の兵庫県立大開設と同時に現職。

 ○「人生最後の仕事」に情熱

 大阪育ちだが、母の実家が神戸で、子どもの頃は夏休みになると須磨の海でよく泳いだ。「神戸はふるさとみたいなものですわ」と親しみを込める。

 大阪大総長を辞した後は、多くの大学から学長の誘いがあったが、ほとんど気持ちは動かなかった。それが、兵庫県立大の学長の話が来た時には、「神戸とは不思議な縁。天命のような気がして、迷わず受けようと思った」。

 情報通信工学の権威で、科学技術関連の学協会の会長や理事長など、数多くの肩書を持つ。学長就任を機に辞めたものも多いが、細かいものも含めれば、今でも肩書は100を超えるという。

 それでも、口調が最も熱くなったのは、やはり理想の大学像や大学の法人化問題を語る時。「人生最後の仕事を大学人として締めくくれるのは幸せ」。その言葉通り、大学教育にかける情熱を感じた。


投稿者 管理者 : 2004年11月08日 00:30

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