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2005年03月22日

広島大学学長選挙規程に基づいて意向投票対象者 佐藤清隆氏が投票有資格者に示した抱負

Academia e-Network Letter 245より

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#(管理者註:この文書は選考が終了する3月15日までは学外非公開とされていた。)

#(編集人註:広島大学の学長選挙規定では、部局推薦または30名以上の推薦を受け、期限までに辞退しなかった人(今回は12名)から教育研究評議会が
意向投票対象者を選出することになっているが、佐藤教授は所属部局より推薦され、評議会により意向投票対象者7名の一人に選出された。佐藤教授は教職員組合の委員長であるが、組合は中立の立場をとって推薦等はせず、アンケートの項目作成にも佐藤教授はかかわっていないとのことである。上記の結果は、「抱負」やアンケート回答に記された佐藤教授のビジョンが広島大学の教職員の間で幅広い支持を得たことを示唆しており、国立大学法人制度下でも大学らしさを失わない歩みを、今後の広島大学に希望できるように思われる。多くの国立大学法人についても同じ希望を持てると感じる。)
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広島大学学長選挙規程に基づいて意向投票対象者が投票有資格者に示す抱負

意向投票対象者 佐藤清隆


法人化してからの約1年は、本学執行部が選択した方針の問題点が明らかになるために十分な期間である。残念ながら現在の本学には、法人化を見通した真の意味でのリーダーシップが見当たらない。そこで、まず現在の広島大学の問題点を指摘し、それに対する改善策を指摘しながら「抱負」としたい。

I. 現在の広島大学の問題点

広島大学執行部は、「トップダウンによる大学経営」を基本とする国立大学法人化の理念を率先して取り入れたが、その内実は、「世界トップレベルの総合研究大学」の掛け声ばかりが上滑りし、副学長理事に直結する執行組織が、司令塔や横の意思疎通を欠いたままに、上意下達式の指揮を乱発するというものであった。その結果として、以下の問題点が露呈している。

1. ビジョンなき、場当たり的経営

「天文台」や「広大跡地問題」など、広島大学の中・長期計画への位置づけが不明な事業が打ち上げ花火のように行われ、後年度負担への不安を強めている。これは、役員会が大学の経営方針を決定する合議体として機能していないためである。

2. 縦割り「お役所」の出現=副学長理事と「室」の弊害

副学長理事に直結する執行組織が、教職員を含めた縦割り型行政機関となり、それぞれの機関が横の意思疎通を欠いたまま、各部局事務に重複した命令や不要不急の仕事を押し付けている。副学長理事配下の「室」担当を命じられた教職員には、大学全体の運営との関わりが不明なまま仕事量が激増するという事態が、広範囲に生まれている。こうした大学運営が、構成員の士気の低下を招いている。

3. 不透明な予算配分

本年度の運営費交付金の支給額は、昨年度の広島大学への政府予算配分実績と大きく変わらないと説明されたにもかかわらず、教育研究の現場への教育研究費配分額は大幅に落ち込んだ。基盤研究費の減少は、各分野の均衡の取れた形での研究水準の向上や、優秀な人材の確保に齟齬をきたしている。

4. 職員配置の不均衡とサービス残業の蔓延

現場を軽視した仕事を部局に押し付けた結果、現場の職員はただこなすだけの作業でパンク状態になっている。しかも部署、部門による差が大きく、作業量の不均衡を生んでいる。これに対して事務部門は適切な対処ができず、各副学長理事の下に縦割りになったこともあって、職員配置が不均衡なまま放置されている。これが職員の時間外労働の蔓延や過労の蓄積、非常勤職員の雇用不安の放置など、無視できない弊害を生んでいる。

5. 「平成18年度問題」への不安

以上の4点に集約される問題点を放置したまま、平成18年度から「教育プログラム制」や「成果主義」が導入されようとしている(これを、「平成18年度問題」とする)。学生の個性を伸ばしうるかどうかに疑問のある「教育プログラム制」や、先行実施した民間企業ではすでに大幅に見直されている「成果主義賃金」に対して、現場では「このまま実行して大丈夫なのか」という懸念が広がっている。

このような問題点は、法人化後に広島大学が独自に採用した執行組織と、その下で立案された経営方針とに多くが起因しており、学長を始めとする大学執行部が連帯して責任を負うべきものである。これらの問題は、このまま放置すれば高度な高等教育研究を支えるべき人的・物的な基盤を損ない、広島大学が、学生と社会に対する責務を果たすことが出来なくなると危惧される深刻な問題であり、直ちに大幅な方向転換が必要である。

II. 抱負

1. 法人化後も広島大学が「大学」であり続けるために

 大学とは真理が支配する場である。しかし法人化後の広島大学は、カネとそれに伴う権力が支配する場所となってしまった。大学が大学であるためには、真理が探究され続けなければならず、それを可能とする環境を用意することが、学長の最大の責務であると考える。時々の「国策」や社会の短期的な要請に流されることなく、教員が各自の信念に従って真理を探究し、学生が真理を見極める目を養い、職員がそのような教育研究活動を支えるという「知の共同体の創造」が大学の使命である。本学がこの使命を果たすために、学長は大学の自治を掲げ、学問の自由を守ることが求められる。

2.大学のリーダーシップ

広島大学長に求められるリーダーシップは、広島大学がおかれた状況を前提にして、独自の明確なビジョンを構成員に示し、それを達成するための具体的な道筋を提示することである。

広島大学には研究ポテンシャルの高い教員が多数働いており、潜在的可能性を秘めた個性ある優れた学生を惹きつけている。そこで私は、広島大学が「基礎研究力の高い、人を育てる大学」というビジョンを掲げることを提案する。そのビジョンを生かすために学長は、大局を見失わない視野の広さを持ち、的確な状況判断によって各部局、各個人の持てる力量を引き出し、必要な場合には自らの責任を明確にしたうえで決断し、実行するというリーダーシップを発揮するべきである。

一方で、学長のリーダーシップを独善に導かないために、「大学の主人公は、学生と教職員である」ことと、「教育と研究の現場である部局等を重視する」ことを、大学運営の基本精神に据える。学長の「決断」は、この基本精神に照らして評価されるべきであり、またそれには説明責任を課することとする。

3.教育の充実

3.1 個性豊かで優れた学生の獲得

まず、教員が個性豊かで優れた研究を行える環境を整備し、それを通じて学生が広島大学を選ぶ魅力を高める。また、単なる知識の提供でなく、学生一人ひとりの個性と主体性を伸ばす教育を重視し、学生が広島大学の主人公であることを明確にする。現在提案されている「教育プログラム制」では、学生の個性を伸ばすことが難しいので見直す。また、一定の範囲で、学生の創意による諸活動を緊急に支援できる財政的用意を行い、さらに、本学の教育研究上の魅力と目標をわかりやすく社会へ発信する。

3.2 教養的教育の充実

教員数の削減によって、本学の優れた特色の一つである教養的教育が危機に瀕している。学生の視点に立って教養的教育の一層の充実を図るために、教養的教育の全学的実施体制を構築する。

3.3 現場を尊重する教育体制

教育の実施に当たって、トップは大局的な方向を提示し、具体的な達成目標や実施計画の策定は教育組織の自主性を尊重する。全学の教育方針を審議・調整するために、部局の代表者によって構成する委員会を設置する。

4.研究の充実

多様な分野を包含する本学の文系・理系の基礎・応用科学分野の高い実績とポテンシャルを洞察した、広島大学独自の主体的な研究領域を推進する視点が必要である。そのための最善の施策は、個人レベルの基盤的研究費の充実である。また、学術全体の水準向上を図るための財政基盤の確立を、政府に求める。重点施策に関する分野については、巨大資金を一点に集中するだけではなく、拠点形成と個別グループのネットワークを形成して、研究の発展を促すように工夫する。

5.職員の勤務問題

研究者の社会的流動性を保証する環境がない状況下での教員の任期制は、若手研究者の身分の不安定化と長期的研究からの離反とを招くばかりであり、全面廃止の方向での見直しを行う。非常勤職員の均等待遇化、常勤化を進め、教育研究の持続的発展に資する。また、職員の仕事量を的確に把握し、適切な人員配置と、その前提としての正確な労働時間の把握を行う。


プロフィール:大学院生物圏科学研究科教授
(本学の職歴以外の活動)
受賞:アメリカ油化学会:Stephan S. Chang Award (2005年)、日本結晶成長学会論文賞(2001年)など
編集委員等:Crystal Growth & Design, J. Crystal Growth, J. Am. Oil Chem.Soc., Lipid Technology
その他: Thomson ISI Highly-Cited Researcher、東北大学金属材料研究所客員教授(1992.10-1993.3)

広島大学学長選考における意向投票結果の詳細(AcNet Letter 245)

投稿者 管理者 : 2005年03月22日 01:53

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