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2005年03月25日

横浜市立大学問題を考える大学人の会、「横浜市立大学の教員全員任期制・年俸制・評価制導入の撤回を求める」

学問の自由と大学の自治の危機問題
 ∟●「横浜市立大学の教員全員任期制・年俸制・評価制導入の撤回を求める」(2005年3月23日)
大学改革日誌(永岑三千輝教授)-最新日誌(3月24日)

「横浜市立大学の教員全員任期制・年俸制・評価制導入の撤回を求める」
-研究・教育の劣化を押しとどめるために-

 横浜市立大学は、4月から商学部・国際文化学部・理学部を廃して「国際総合科学部」に統合し、医学部と共に地方独立行政法人化した新大学として再出発する。しかし、その再出発は、それぞれ誇るべき歴史と伝統を持ち性格も違う3つの学部を、特別な理念もないまま強引に1学部に統合し、教授会から人事権のみならず教学権まで剥奪するという、まともな大学がどこもしなかった暴挙をあえて行った上で、どたんばで前代未聞の教員全員任期制・年俸制・評価制の導入を強行しようとしている。これらの制度の導入は、大学の最大の資産である「優秀な人材」の確保を保証しないばかりか、大学の存立根拠である「研究・教育の自由」を奪う怖れが極めて強く、ひいては市民の「言論の自由」の侵害にも道を拓きかねない危険性を持つものであり、認め難い。

(1)新大学への応募倍率の低下
去る2月末新大学に学生を迎える初めての入試が行われたが、前期試験の応募倍率は、理学系の5.6倍から2.1倍への低下をはじめ、医学部を除くすべての系で半減または激減する結果となった。この数字は、教員や関係者の多くの反対にもかかわらず強行された「改革」が、受験生からも予想以上に厳しい評価を受けたことを示唆している。

(2)止まらない教員の流出
ある新聞が「隠れFA宣言」と報じたように、横浜市大からの教員の流出も止まらない。定年前に横浜市大から流出した教員は、商学部で26.4%(2002年3月現員比率、以下同)、国際文化学部で24.1%、理学部で16.4%、木原生物学研究所で22.2%に及ぶなど、高率の教員流出が続いている。流出者の中には、若手教員や現・前学部長など、大学の中核を担うと期待されていた人材が少なからず含まれていることは特に注目される。

(3)再三行ってきた批判と検証
 「横浜市大問題を考える大学人の会」は、2003年4月15日「『横浜市立大学のあり方懇談会』答申に関する訴え」を出し、任期制の問題点を明らかにしたことを始めとして、同年11月25日には「横浜市立大学の新たな大学像について」に関する声明を発表し、横浜市が導入しようとしている教員全員任期制は、特に教授会による自治が保障されない状況の下では、研究・教育の自由を侵害するおそれが強いことを指摘した。また、「教員全員に任期制を導入した場合、適任と思われる人材が応募をためらい、注目される教員は任期制でない他大学に引き抜かれるなど、研究・教育水準の低下が懸念される」と危惧を表明した。
 さらに、「大学人の会」は2004年3月28日に、成果主義賃金制度に詳しい経営コンサルタントや米国の大学での管理職経験者等を招いて「任期制・年俸制・教員評価制度の導入は研究・教育にいかなる影響を与えるか」に関するシンポジウムを行った。その結果、①民間企業でも成果主義賃金制度はうまく機能していない。原因は評価制度が社員の労働意欲を低下させてしまっている点にある。②任期制を先行導入した国立研究所では、目先の成果が上がりそうな研究テーマを選ぶようになり、仲間との交流も減った。③アメリカの大学は任期制ではなく、テニュア(終身在職権)制である。⑤日本型任期制は、京都大学の井上事件に象徴されるように「業績のある教員」を排除する制度にもなりうること、等が明らかにされた。

(4)批判と教員大量流出の現実を無視した「教員全員任期制・年俸制・評価制」の導入強行
上に記したわれわれの批判と教員の大量流出にもかかわらず、横浜市は市大における教員全員任期制・年俸制・評価制の具体案を発表し、導入を強行しようとしている。われわれは、この具体案が今後の市大における研究・教育に重大なマイナスの影響を与えるものであることを痛感し、「教員全員任期制」と「年俸制」、提案された「評価制度」の導入を停止し、以下のような措置をとることを求める。

(5)教員組合と協議しその了解を得ること
 雇用者は被雇用者(教員)の身分や労働条件の大幅な変更をともなう「改革」を行う場合には、事前に被雇用者の過半数を代表する組織の了解をえることが義務付けられている。にもかかわらず、昨年12月末に至ってようやく一部の案を提示し、本年の1月25日に初めて説明会が持たれたことが示すように、教員との協議により「改革」を進めようとする姿勢が欠けている。横浜市は性急な「改革」の強行を止め、教員組合と協議しその了解を得て「改革」を行うことをまず、要望する。

(6)「全員任期制」では、優秀な教員を採用・確保できず、教員の流出は止まらない
 京都大学再生医科学研究所における任期制(有期雇用)をめぐる裁判で明らかになったように、任期制のもとではいかに優れた研究成果をあげていても、雇用者は「再雇用をしない」ことが可能である。ほとんどの研究者にとって任期終了による失業は、避けたい事態である。先のシンポジウムでも示されたが、アメリカの大学で終身雇用保障を与える終身在職権(テニュア)制度が拡大したのは、大学間競争の中で大学が優秀な人材を確保するためであった。世界の有力大学で「全員任期制」を採用している大学が皆無であるのは、当然のことである。すでに進行している横浜市大からの人材流出が示唆するように、優秀な人材が任期制ポストへの応募をためらい、在職教員が終身雇用を保障する他大学に移出してゆくのは自然であり、横浜市の「導入の目的」(12月28日付資料)とは逆に「全員任期制」は「優秀な人材の確保」を困難にするであろう。

(7)大学における成果主義(年俸制、評価制)の導入は、研究・教育意欲を向上させない
 すでに「成果主義の導入が企業の生産性上昇を阻害する」ことは、かなり有力な学説となっている。最近の日本能率協会や労働政策・研究機構の調査でも、従業者の多くは、成果主義の導入による「勤労意欲の上昇はない」と回答し、「評価に対する納得度は低下した」と答えている。民間企業の場合、評価者は被評価者とおおよそ同一内容の業務をしており被評価者の仕事内容がかなりよく分かるはずであるにもかかわらず、評価が適切だと納得している従業員は少ない。
 大学の場合は、教員間の専門性の違いは大きく、専門分野ごとに標準的な研究や教育の方法も成果の出方も異なる。この違いを無視して共通の評価基準を作ることはほとんど不可能である。また、専門分野を知らない評価者による評価が被評価者を納得させることは難しい。正当だと思われない評価に基づいて年俸を決められた場合、研究・教育意欲の低下はまぬがれない。まして、市大の場合評価は「相対評価」で行われるから、どんなに努力して業績を上げても、何らかの理由で下位にランクされた教員は、再任の途を断たれるか減俸の対象になる。
 成果主義賃金制度を導入した数少ない大学の一つである北陸大学の場合、制度の導入によって「意欲が高まった」と答えた教員は回答者中の4%に過ぎず、63%は「低下した」と答えている(北陸大学教職員組合調査による)。「不透明、不公平、恣意的な業績評価、それに基づく人事考課は不信と諦めを生み出すだけだ」という意見は、アンケートにみる代表的な意見である。意欲の低下に加え、結果が予想できない困難な研究課題への挑戦を避け、数年で消費され尽すような研究であっても、短期的に成果が予想できる課題を研究テーマに選ぶようになる可能性は高い。

(8)研究・教育の自由を奪う制度
 横浜市立大学の場合、評価を担当する学部・コース・研究院などの組織の長は、教員によって選出されるのでなく、「上から」の一方的任命である。全国の国立大学法人や首都大学東京でさえも、「教員人事に関する事項」は教育研究審議会(評議会)の審議事項であるが、横浜市立大学定款では、教員人事は教育研究審議会(評議会)の審議事項から除外されている。理事会は、横浜市長が任命する理事長がほとんどの理事を決められる制度となっており、横浜市の意向を体したもののみが教員組織の長に任命される、という事態を防止する制度的保障は全くない。憲法が保障する学問の自由と、大学の自治や「大学には重要事項を審議する為に教授会を置く」とする学校教育法の精神に反した制度になっている。
 このように「上から」選ばれた組織の長が、教員の活動の評価者となるため、横浜市の行政に対する忠誠度や思想、個人的関係など学問外の要因が評価に影響する可能性は小さくないし、被評価者が、そうした非学問的な要因や第一次評価者の主観的判断が評価に影響していると推測する可能性は高い。
 まして、横浜市立大学の場合、この評価制度は任期制と結合した「相対評価」だから、威力は相当なものになるであろう。その結果は、評価を上げて再任されるために、教員は、評価者や横浜市の意向に、学問的に、政治的に、社会的に、擦り寄ることを強要されることになりかねない。評価者や設置者の顔色をうかがい、批判的精神を失った研究・教育を行う大学は、大学が社会から負託された社会的責務に応ええないものに変質するといわなければならない。

(9)全員任期制の承認を踏み絵にしてはならない
 横浜市は、任期制度の導入を強行するために「任期制に同意しない教員については(助教授から教授などへの)昇任を認めない」方針である、と伝えられている。教員の昇任は、当該教員の研究・教育の成果に関する専門性をもつ教員集団を中心とした評価と適格性の判断によって決められるべき性格の問題である。「任期制に同意しないと昇任させない」という筋違いの条件をつけること自体、任期制が研究・教育の自由を侵害する怖れが極めて強いものであることを物語っている。

(10)「教員全員任期制・年俸制・評価制」の導入強行に反対し、中止と撤回を求める
 以上、私たちは、横浜市による市大への教員全員任期制・年俸制・評価制の導入強行に反対し、その中止と撤回を求める。それは「研究・教育の自由」を侵害するのみならず、市民の「言論の自由」の抑圧に道を拓くことになる可能性が強いからである。人事制度の変更については教員組合の同意をえること、教員の人事権、教学権については教授会に戻し、教授会の自治ならびに大学の自治を回復することを強く訴える。

2005年3月23日

「横浜市立大学問題を考える大学人の会」(・印呼びかけ人)
相原光(横浜市立大学名誉教授)、浅野洋(神奈川大学特任教授)、伊豆利彦(横浜市立大学名誉教授)、板垣文夫(横浜商科大学教授)、伊東昭雄(横浜市立大学名誉教授)、・伊藤成彦(中央大学名誉教授)、・今井清一(横浜市立大学名誉教授)、・久保新一(関東学院大学教授)、・田中正司(横浜市立大学名誉教授)、玉野研一(横浜国立大学教授)、津久井康之(専修大学教授)、土井日出夫(横浜国立大学教授)、田畑光永(神奈川大学教授)、中川淑郎(横浜市立大学名誉教授)、長谷川宏(東京都立大学教授)、平塚久裕(横浜市立大学名誉教授)、本間龍雄(東京工業大学名誉教授)、宮崎伸光(法政大学教授)、安田八十五(関東学院大学教授)、・柳澤悠(千葉大学教授)、矢吹晋(横浜市立大学名誉教授)、・山極晃(横浜市立大学名誉教授)、吉川智教(早稲田大学大学院教授)


投稿者 管理者 : 2005年03月25日 01:19

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