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2005年04月21日

新首都圏ネット、声明「学校教育法一部改正案に反対する」

新首都圏ネットワーク
 ∟●行政権の強制による企業経営的階層性の押し付けと身分制的助手制度の温存・強化―学校教育法一部改正案に反対する―(2005年4月20日)

行政権の強制による企業経営的階層性の押し付けと身分制的助手制度の温存・強化
―学校教育法一部改正案に反対する―

2005年4月20日
国立大学法人法反対首都圏ネットワーク事務局

1.はじめに

 現在、学校教育法を一部改正する法案(注)が国会に提出されており、5月連休明けには審議に入ると伝えられている。この一部改正は、短期大学卒業者への学位授与(第68条関連)、大学・高等専門学校教員組織の改編(第58条、第70条関連)、という2つの柱からなっている。改正案は、http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htmを参照されたい。

今回の改正案、特に大学の教員組織を規定する第58条関連については、
(1)恣意的解釈可能な職種それぞれの資格要件が新たに詳細に書き込まれている点、
(2)法律で規定されるべき職種間の関係が削除され、行政への丸投げとなっている点、
(3)隷属的な新「助手」が制定される点

という致命的問題が存在する。特に(1)(2)では職務とそれを担う職種間の関係を規定するという当然の構造が改変され、恣意的解釈可能な資格要件が条文として挿入されている。加えて(3)ではもはや時代錯誤となった身分制を温存強化するものとなっている。これらは、法構造上の深刻な改悪であり、到底容認できない。以下、まず改正案の骨子を紹介したうえで、問題点ならびにその根拠について詳述する。なお、高等専門学校関係の第70条も同じ問題点を有する。

2.学校教育法第58条改正の骨子

 現行学校教育法第58条は、大学における教員研究職の種類、および職種間の職務上の関係として、(1)大学に必置されるべき研究教育職として教授、助教授および助手を規定し、(2)3つの教育研究職間の職務上の関係を規定していた。これに対して改正案は、(1)教授、准教授、助教、および助手の4つを大学に原則として必置されるべき研究教育職として規定し、(2)それぞれの職の資格要件を規定し、(3)それぞれの職務の内容を規定し、(4)職務上の関係に関する規定を削除している。詳細は、現行/改正案対照表(http://www.mext.go.jp/b_menu/houan/an/162.htm)を参照されたい。

 「助教授は、教授の職務を助ける。」「助手は、教授と助教授を助ける」といった教授、助教授、助手間の職務上の身分制的ともいえる上下関係規定は改正案から消滅し、これにかえて、教授、助教授、助教の職務内容は、すべて、「学生を教授し、その研究を指導し、又は研究に従事する。」とされ、職務内容上の同質化がはかられている。しかし、「助手」の職務は、「その所属する組織における教育研究の円滑な実施に必要な業務」と規定され、助教以上の教員とは職務内容が明確に区分されている。

3.学校教育法第58条改正案の構造的問題点

 今回の改正案に対して、新しく創設される教授、准教授、および助教が職務遂行上の独立性を認められ、これらの職間の対等性が確保されたとものと評価し、あるいは、多様な性格を持ってきた既存の「助手」が、研究教育を主に行なう「助教」と、研究教育の支援を行なう「助手」(以下、新「助手」)に区分されることを"妥当"なものと評価し、全体として、"時宜にかなったもの"と判断する向きもあると聞く。しかし、このような判断は、その言葉の本来的な意味においてあまりにも"ナイーブ"である。58条改正案には以下のような致命的な問題点がある。

(1)恣意的解釈可能な資格要件の導入

 第1に、改正案では、教員組織の簡素化と逆行し、教授―准教授―助教―助手とする4職種制となっていることに注目する必要がある。一方、教授会の必要的構成員を教授に限定する現行59条がそのまま引き継がれている訳であるから、教員組織の平坦化とは逆方向が志向されていると見るべきである。

 第2に、改正案では、教授・准教授・助教の資格要件を階層的に構成し、それを詳細に書き込んでいることに留意しなければならない。すなわち、教授=教育上、研究上又は実務上の特に優れた知識、能力及び実績を有する者、准教授=教育上、研究上又は実務上の優れた知識、能力及び実績を有する者、助教=教育上、研究上又は実務上の知識及び能力を有する者、とされている。資格要件にこれほどの差違をつけている以上、職務遂行上の独立性と対等性を想定していなことは明白であろう。

 特に重大なことは、上記第2の点である。教員の資格については、現行の大学設置基準14~18条に規定されているが、そこでの要件は修士号、博士号などの学位という客観的な基準によって設定されていた。ところが、改正案では上述のように資格規定が学校教育法という法に「格上げ」されたにもかかわらず、「特に優れた」「優れた」など如何様にも解釈可能な基準が導入されている。ここに、職務遂行上における独立性・対等性確保の放棄と相俟って、58条改正案の第1の致命的問題点がある。

(2)職種間の関係を規律する規定の削除

 改正案では、現行法で規定している職種間の関係を削除している。この規定(現行58条第7、8項)はいわゆる身分制的「助ける」条項であり、内容上廃止されるべきものであることはいうまでもない。しかし、法で複数の職種を設定している以上、それらの間の新たな関係は法で規定するのが当然である。まして(1)で指摘したように、資格要件を法に「格上げ」した以上、その資格要件で選考される職種間の関係は法で規定するべきである。然るに、改正案ではそうした規定をいっさい盛り込まず、省令である大学設置基準に「格下げ」しようとしている。これは法の構造として均衡を欠くものである。新しく創設される教授、准教授、および助教の間における職務遂行上の独立性を法で明記せず、あろうことか職種間の関係規定策定を行政権に丸投げしているのである。ここに、58条改正案の第2の致命的問題点がある。

(3)いっそう隷属的な新「助手」制度の導入

 上述の新教員組織における新「助手」の任務は、改正案の基礎となった中教審大学分科会・大学の教員組織の在り方に関する検討委員会「大学の教員組織の在り方について<審議のまとめ>」(以下、単に、『まとめ』;全文はを参照。)においては「教育研究の補助」とされ、第58条改正案では「所属する組織における教育研究の円滑な実施に必要な業務」と規定されている。このような任務は、いわゆる教育研究支援組織(本来的には「支援」という用語は適切ではなく、教員といわゆる支援職員は、「分担」あるいは「協働」関係とすべきである。ただ、「支援」に代わるべき適切な用語が定着していないので、ここでは慣例的に「支援」を用いる。)がはたすべきものである。周知のように、日本の大学の弱点の一つは、教員組織から自立した独自の支援組織が脆弱なことである。にもかかわらず、ここでの制度設計は、本質的には支援を任務とする新「助手」を教員組織の一部として組み込み、しかも多様性を口実として独自のキャリアパスも準備していない。これでは、新「助手」制度が昇格制度なしの隷属的職種となること、そして、支援組織確立の阻害要因となることは火を見るより明らかではないか。その意味で、この新「助手」制度は第2の教務職員制度ともいえよう。ここに、第3の致命的問題点がある。

 なお、ここで想起されなければならないことは、これまで矛盾に満ちた教務職員制度のためにどれだけ多くの教務職員が辛酸をなめたか、また、今もなめているか、その改善のために各大学、国大協がいかに困難な道を歩まなければならなかったか、ということである。誤りを繰り返してはならない。

4.学校教育法第58条改正は何をもたらすか

(1)企業経営的階層性の出現

 職種間の関係規定が行政権に丸投げされた場合、大学設置基準にはどうような規定が盛り込まれようとしているのであろうか。『まとめ』では「全ての教員について、役割の分担及び連携の組織的な体制が確保され、かつ、責任の所在が明確な教員組織を編制する」とされている。ここでは、現行学校教育法58条が規定している身分制的職務関係に代わって、ミッション・オリエンテッドな企業的職務関係の導入が想定されているとみるべきであろう。実は、これは、国立大学法人法が狙っていた教員組織なのである。この導入を容易にするためには、教育職間の職務上の関係規定を、法律事項から政令事項へ(つまり学校教育法から大学設置基準へ)と移行させること、すなわち、その関係規定を行政権の裁量に丸投げすることが必要なのである。

 だが、本来教育・研究という企業的職務関係にはなじまない分野へ、行政権によって企業的職務関係とその組織編制が持ち込まれるならば、これまで以上に歪んだ、そして事実上の強制力を伴った階層性が、大学に出現することになる。すなわち、教授<任期の定めなし。教授会の必要的構成員、「主たる授業科目」担当>、准教授<任期の定めなし。個々の大学の裁量により教授会の構成員、「主たる授業科目」担当。>、助教<任期付が推奨され、これまで肩代わりしていた大学院生に対する指導、関連諸実務に加えて、組織が決定した方針に基づいて、「主たる授業科目」以外の授業も行う>、そして、助手<研究教育の補助>というのが『まとめ』の想定する階層性なのである。

(2)疲弊する助教、崩壊する若手養成制度

 教育研究を担うと位置づけられている助教にも深刻な問題が発生しよう。助教においては、任期制の下で、しかも階層的な教員組織が要求する責任と任務―とりわけ「主な科目」でない科目の押し付け―が増大することは必至である。「助手」という呼称からは解放されるが、任期がつけられた状況下でありながら新たに授業負担を押し付けられて、その疲弊度は一挙に高まるであろう。

 これまでの現行助手制度においても現場の努力によって保たれてきた若手養成機能が一挙に崩壊するという状況が生じよう。また、『まとめ』では、PDから助教というキャリアパスを想定しているのであるが、これでは、研究者となるためには、現在よりもさらに長期にわたる不安定な地位を経験せざるを得ないことになる。これによって、短期間で成果をもたらす研究を繰り返し行なうことが強制されることになり、若手研究者養成に深刻な打撃を与えることになろう。さらに、PDの一部は、隷属的な新「助手」というポストで生活を立てざるを得ないことになるかも知れない。『まとめ』は声高に若手養成を叫んではいるが、学校教育法一部改正案では、むしろその逆の道を歩むことになろう。

5.学校教育法一部改正案を廃案に

 学校教育法一部改正案は、企業経営に準拠した大学運営という国立大学法人法の想定する組織像を補完するものに他ならない。本改正案は廃案にし、真に対等平等な教員組織、教育研究の本質に即した基礎組織、公正で展望を持ちうる若手養成制度、そして自律的な教育研究支援組織に関する本格的議論を経た上で、改めて学校教育法の改正に取り組むべきである。


投稿者 管理者 : 2005年04月21日 02:12

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