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2005年05月03日

「〈育てる経営〉の戦略」高橋伸夫著、人事の基本壊す成果主義

東京読売新聞(2005/05/01)

 ◇評者・佐伯啓思(京都大学教授)
 成果主義批判を展開する著者の新著。たいへん読みやすく、つい「その通り」とひざを打ちたくなってしまう。というのも、本書は、客観的なデータで知見を示すなどという数値的実証は最初から頭にはなく、ひたすら会社の現場感覚に即し、経営者との対話や聞き取り、著者の経験に即して具体的に話を進めるからだ。そして、そのことは、成果主義という客観的データ主義がいかに経営の現場から隔たったものであるか、を如実に浮かび上がらせる。
 成果主義が唱えられてかなりたつが、評判はよくない。著者によると、それも当然のことで、成果主義は人事の基本を破壊してしまうからだ。企業にとってもっとも重要なことは、優秀な人材の確保、育成である。優秀な人材の育成のためには、上司は部下の性格や能力、将来性などを的確に把握し、「やる気」を引き出さねばならない。これは点数化された客観的数値などでできることではない。むしろ、この種の成果主義は、上司や人事の責任放棄となるだけだし、部下や社員に対しては不信感を与えるだけだ。「社員の多くは、成果主義が、所詮(しょせん)はトカゲの尻尾きりであり、経営者の責任逃れであることに気づいている」のだ。
 要するに、成果主義は、仕事に対するモティベーションとしても機能しないのである。日本企業の仕事に対するモティベーションは、賃金報酬ではなく、次にいっそう重要な仕事を任せるという点にある。ここに「日本型年功制」の特質がある。それは、短期的に即席の成果で評価するのではなく、長期的な雇用のなかで報いるシステムであった。将来の人材育成という「育てる経営」のためには、「日本型年功制」の維持こそが不可欠で、成果主義などに惑わされてはならない、という著者の主張は説得力をもつ。「それにしても、自社の問題点を安易に人事システムに結びつけ、それを日本的な問題点として片付けようとする人々が多いことには驚かされる」という著者の指摘も同感だ。(講談社 1500円)
 
 ◇たかはし・のぶお=東京大学教授。経営学


投稿者 管理者 : 2005年05月03日 00:59

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