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2005年05月24日

今村達宜君をしのぶ

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 ∟●今村達宜君をしのぶ

今村達宜君をしのぶ

 今村君が横浜市大に在学したのは一九六〇年前後だった。激動の時代だった。大学は横浜市の人員縮小を主眼とする大学改革をめぐって大揺れに揺れていた。教授会メンバーも連日対策に奔走していたし、学生は自治会に結集して、ハンストなど、懸命な反対運動を展開していた。教師も学生も一体になってたたかうという気運があった。
 そして、あの六〇年安保闘争だった。学生たちは大きなうねりとなって連日国会前に押し寄せたし、教師もしばしば大学を出てデモをした。横浜大学人の会というようなものも出来て、国大や関東学院大などの教員との交流を深めた。
 今村君は日本史の遠山さんのゼミだったから、在学中の接触はなかった。ただ、のちに生涯の伴侶となった劉燕雪さんは、国文の学生だったから知っていた。しかし、古典専攻で西郷さんのゼミだったから、その考え方や研究の方向は知らなかった。
 結婚ということをふくめて、今村君の生涯はこの学生時代に決定されたのであったろう。闘争は人々を団結させる。大学はすべてにおいて貧困だったが、内部の精神はいきいきしていた。今村君はこの青春の記憶を生涯もちつづけ、卒業後はそれを糧として社会人として生きられたと思う。
 その後三十年たって、市長選挙に私が立候補したとき、今村君は神奈川診療所の仕事をしていて、全力をあげて選挙活動をしてくれた。私はこのとき、はじめて神奈川診療所を訪ね、民主医療活動の実態に触れた。それが地面に足をつけた地味な活動だが、市民の生活に密着して、市民から信頼される運動として発展していることを知り、これこそ民主主義運動のもっとも大きな成果であり、その発展の基盤だと思った。
 民医連の仕事は今村君の生涯を賭けた仕事であったろう。その未来の発展について、さまざまな夢を情熱的に語ってくれた。私は民医連活動で市大の卒業生が大きな役割を果たしていることを知り、現に活動している多くの人たちと接触して、地域医療における市大の役割というようなことについて考えさせられた。
 私は個人的利益を犠牲にしても地域住民の医療のために活動する精神が民医連にはあり、それを横浜市大で過ごした青春が養ったのだと思い、市大の教師として過ごした四十年が決して無駄ではなかったと思った。
 医学の分野に限らず、組合や市民運動などのさまざまな分野で、個人的利害だけにとらわれることなく活動している市大の卒業生が多いような気がする。もしかしたら、これが市大の精神といえるのかも知れないと思う。
 しかし、市大は変わった。一九六〇年代末の全共闘運動は市大を解体した。教師と学生は相互不信に陥り、大学はばらばらになった。大学自治会もなくなり、教師は知識の切り売りをし、学生は利己的目的から学ぶという傾向が強まった。そうして、ついに昨年、大学は改革という名のもとに、大学の名にあたいせぬ実用的な大学になってしまった。横浜市大は死んだのである。
 今村君をはじめ一九六〇年のたたかいをたたかった卒業生が中心になって<市民の会>をつくって反対運動を展開したが、なにしろ、現職の教師たちはひよわく、学生たちはひたすら受動的な坊っちゃん・嬢ちゃんで民主主義に対する自覚がとぼしく、辣腕の市長に立ち向かうすべを知らなかった。
 <市民の会>の奮闘にもかかわらず、結果はみじめだったが、この会の運動は楽しかった。あの時代の青春の情熱がよみがえり、現実の大学は死滅しても、この抵抗のなかに大学の精神があるのだという思いを共有することが出来た。
 今村君はすでに健康を著しく害していたが、そんなことは口にせず、いつも笑みを浮かべ、未来について語っていた。しかし、どれほど口惜しい思いを内に秘めていたかはわからない。
 いま、ここに今村君をしのぶかつての学友をはじめ、多数の仲間たちが集まった。われらが彼の霊前にささげることのできる最大のものはなにか。
 死のときまで彼が思い描いていた夢の実現に一歩でも近づく運動を前進させることだろう。市大の再建を実現するために、この運動でよみがえった市大の精神を市民のものにするために、どんなにささやかでもいいから何らかの運動の拠点を構築することができたら、彼はどんなに喜ぶだろう。
 言い遅れたが、かれの願っていたことは、いうまでもなく、日本にほんとうの民主主義社会を確立することであり、日中の揺るぎない友好とアジアの統合と発展だったと思う。彼は常に遠くを見つめていた。
 死は所詮だれもが避け得ぬものである。最後まで精神を直立させ、前方を夢見て生涯を終り、私たちに希望を残してくれたことに感謝したい。
 
   二〇〇五年五月二十一日


投稿者 管理者 : 2005年05月24日 03:20

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