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2004年04月06日

北見工大、全教員任期制の北海道内私大への影響についての懸念

 北見工大は、4月1日開催された「教育研究評議会」において任期制の導入を正式決定した。この任期制は,新たに採用・昇任する教員全員が適用されるという「極めて異例」な制度であり,私立では長野大学が同じような制度を決めたが,国立大法人では他に例はない。もちろん道内初でもある。
 この任期制の詳細については,手元に資料がなく以下で掲載する新聞報道によらねばならないが,その目的は「大学間の生き残り競争が激化しており、より魅力ある大学に変ぼうするための足掛かり」,「少子化などを背景に、大学が優れた研究成果を挙げ、生き残るためには不可欠」,「地方大学を存続させ、優秀な人材を確保する」等々が唱われている。要するに,任期制導入は「学内の緊張感を高め」一定期間内で必ず研究成果を出させることによって「魅力ある大学」に変え,また「優秀な人材の確保」にもつながるとの判断のようだ。
 この北見の全教員任期制は,大学教員任期制法との関係でいえば,おそらく一般的・包括的な対象規程である「先端的・学際的研究など多様な人材が特に必要な教育研究組織の教員とする場合」を適用したのであろう(そうした適用について学内で問題にならなかったのだろうか)。また新聞報道を見る限り,「教員評価の公平性をどう保つかなど懸念の声」もあるようだから,評価方法に少なからず課題を抱えているのかもしれない。いずれにしても,同大学は大々的に銘打って全教員任期制を導入した。しかも,それは教授会の承認の上で決定されたのである。
 こうした北見工大のやり方は,様々波紋を投げかけた。全国的にもそうであるが,少なくとも道内私立大学に勤務するわれわれ教職員や組合にとっては,迷惑この上ない改革と受けとめざるを得ない。
 今,道内中小私大の多くは入学者の定員割れ(あるいはその寸前)といった経営の岐路に立たされている。各大学とも定員の縮小をも視野に入れた改革を余儀なくされつつある。その中で,教職員の雇用の不安定化は着実に進んでおり,既に一部大学では整理解雇問題も発生している。私学経営サイドは,これまでもそうであるが,学部・学科改変を前提に雇用の柔軟性を確保するため一般非常勤とは異なる有期「契約教員」,「契約特任制」等の導入を模索してきた。こうした状況にあって,北見工大の全教員任期制は,今後の道内他大学における有期雇用等類似制度の導入にきっかけを与え,また確実にそれに拍車をかけたといわざるを得ない(何につけ国立右習え思考の根強い北海道私大ではなおさらだ)。新聞報道によれば,北見工大内部では「制度導入で教員が実際に職場を追われる可能性はそれほど高くはない」とか、常本秀幸学長自身も「運用上の懸念を否定した」というが,もし当該教授会がこうした判断に基づいて導入を決定したとするならば,それ自体他大学への影響を無視した全く一人よがりの決定である(学内では,2004年以降の採用と昇任に適用するのだから既存の教授はこの任期制とは無縁だと考えているのかもしれない)。
 過疎地域も含め広い北海道における均衡ある高等教育機会の保障と魅力ある大学づくりは,いまや市場原理にもとづく個別大学間の競争(それは中小私大の崩壊に導く競争)を促進することで達成されるとは考えられない。北海道高等教育界が問題として抱える進学率の長期低迷や大学生の大規模な道外流出,あるいは郡部大学の危機をどうやって解決すべきか。少なくとも大学間の教育面での相互補完や連携・共同を進め(ある場合には各大学間の学部定員調整への模索も含めて),道内全体の大学教職員の血のにじむような努力の下,多様な学生サービスと教育内容,および提供する教育水準を総体として高め進学率を上げていく以外に活路はないと考える。そしてそれは当然ながら各大学で働く教職員の身分や安定した雇用条件の保障になしには,実現されないのである。その意味で,今回の北見工大の全教員任期制導入は,今後の北海道高等教育の再生と教職員の安定的雇用の確保において,マイナスの方向を決定づけたと評価するものである。
 これまで全国的にもそうであるが,こうした問題について全大教と私大教連が本格的に共同して取り組むことなかったと言ってよい。この点は運動する側の決定的な弱点でもあった。したがって,この際「全大教北海道」と「北海道私大教連」は早急に協議し,取り組みの強化を図るべきである。
(文責 ホームページ運営・管理者)

以下,北見工大の任期制についての新聞報道(小学生向け新聞にも掲載されている実態を見よ!)

教員の任期制導入を承認 法人に移行の北見工大

北海道新聞朝刊(2004/04/02)

 四月に国立大学法人に移行した北見工大で一日、就業規則や予算枠などを検討する各運営組織会議や、役員への辞令交付式が行われた。
 常本秀幸学長と同大教授の計二十四人で構成する教育研究評議会では、本年度から採用する全教員の任期を五年間とする「任期制」の導入を正式に承認した。
 また、学長と学外理事一人を含む計六人の理事で組織する最高決定機関「役員会」や、経営面から予算を検討する「経営協議会」など四つの運営組織の会議が相次いで開かれた。
 国立大学法人は行政機構の一部だった国立大を法人とすることで、各大学の予算や人事面での裁量を大きく広げ、大学間の競争を促す狙いがある。常本学長は「法人化を好機ととらえて組織改革を進め、大学の発展に結び付けたい」と強調した。

国立大法人化 期待と不安 1日から 文科省 研究が活性化/学長 経費減に悲鳴

北海道新聞夕刊(2004/03/29)

 …リストラは人事面にも及ぶ。北見工業大は、○四年度以降採用・昇任する全教員に、五年間の「任期制」を導入する。一定期間内に成果を求めることで「より魅力ある大学に変ぼうするための足がかりとしたい」と常本秀幸学長。
 北大も大学院文学研究科が○四年度から、新たに採用する助手をすべて任期制とし、さらに、全学的にも検討を進める方針だ。…

北見工大が教員に任期制 成績悪ければ退職に

北海道新聞夕刊<道新小学生新聞水ようフムフム なぜなに こどもニュース>(2004/03/24)

 北見工業大学(きたみこうぎょうだいがく)は十七日、四月から採用(さいよう)されたり、昇任(しょうにん)したりする全教員に任期制(にんきせい)を導入(どうにゅう)することを決めました。定年まで職場(しょくば)にいることができた国立大学の先生たちの身分が見直されるのです。全教員の任期制は全国でも異例(いれい)のことです。
 大学の先生には教授(きょうじゅ)、助教授、講師(こうし)、助手がいます。北見工大では、これらの先生の最初(さいしょ)の任期を五年とします。その後、教授と助教授は五年ごとに審査(しんさ)を受け、研究の成果が上がらなければ、退職(たいしょく)となります。講師や助手も一定期間に昇任しなければ退職です。成績(せいせき)が悪ければクビになるわけです。
 国立大学は四月から国立大学法人(ほうじん)になります。国から独立し、個性(こせい)を出せるのです。任期制は時代を先取りしていますが、先生の間では「地味な研究がおろそかにされないか」という不安(ふあん)の声も出ています。

全教員に任期制 北見工大が導入 来月から 教授と助教授5年ごと再任審査 「生き残りに不可欠」 助手・講師は再任制限

北海道新聞朝刊(2004/03/18)

 北見工大(常本秀幸学長)は十七日、二○○四年度以降に採用・昇任する全教員に対し、実績を重視する任期制を導入する方針を決めた。最初の任期は五年間とし、国立大学法人に移行する四月一日の経営協議会で就業規則として正式決定する。講師・助手は再任回数に制限を設ける厳しい内容。少子化などを背景に、大学が優れた研究成果を挙げ、生き残るためには不可欠な措置と判断した。(解説3面に)
 文部科学省によると、九州大学の一部学部などで任期制を導入しているが、全教員対象の制度導入は「極めて異例」という。
 北見工大によると、採用・昇任後の最初の任期は全教員一律五年とし、その後、教授・助教授は五年ごとに再任審査を実施する。再任されなければ自動的に退職となる。
 一方、講師・助手は再任回数に制限を設け、在任期間中に助教授などに昇任できなければ退職となる。
 評価は、学長と三人の理事などで構成する大学の最高意思決定機関・役員会と、内部評価委員会が、論文数などの業績を基に審査した上で決定する。任期制導入については、すでに教授会で承認された。
 北見工大は、国公立大の法人化論議が進む中、○三年秋から任期制の検討に着手。地方大学を存続させ、優秀な人材を確保するうえで導入は不可欠と判断した。
 常本学長は「大学間の生き残り競争が激化しており、より魅力ある大学に変ぼうするための足掛かりにしたい」と話している。
 同大は工学部の単科大学で、機械システム、電気電子、情報システムなど六学科。学生は千六百四十人で、現在百五十二人の教員の内訳は教授六十二人、助教授五十七人、講師一人、助手三十二人。
 文科省によると、九州大では全十一学部のうち、医学、薬学、工学、農学の四学部で○一年度から任期制を導入。東京都立大が来年四月、首都大学東京と名称を変更するのに合わせて導入を検討している。

北見工大が任期制導入へ−競争時代 緊張感高める 評価公平性に不安の声

北海道新聞朝刊(2004/03/18)

 〈解説〉北見工大の任期制導入は、国立大学が四月から一斉に独立行政法人に移行し、生き残りをかけた競争時代に突入するのを踏まえ、学内の緊張感を高めるのが大きな狙いだ。
 同大関係者は「制度導入で教員が実際に職場を追われる可能性はそれほど高くはない。制度はある意味で改革のシンボル」との見方もある一方、地味な基礎研究が軽視される懸念や、教員評価の公平性をどう保つかなど懸念の声も少なくない。
 同大は、交通の便の悪さなどから、存続への危機感が強く、二年前の「道内単科六大学の合併協議」でも熱心な旗振り役を務めた。結局、合併は実現せず、単独での存続が最重要課題となり、先進的な任期制導入につながった。
 常本秀幸学長は「目立つ研究でなくても、五年あれば何らかの成果は出せる」と運用上の懸念を否定するが、北大のある教授は「学者の仕事の評価方法が確立されていない状態での導入は危険」と指摘する。
 企業の成果主義に否定的な高橋伸夫・東大大学院経済学研究科教授は「将来を考える若く優秀な研究者は、じっくりと仕事をできる終身雇用の大学を選ぶ傾向が強く、任期制でむしろ人材確保が難しくなるのではないか」と疑問を呈し、北見工大の試みが奏功するかは不透明だ。


投稿者 管理者 : 2004年04月06日 00:07

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