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2004年04月30日

法律学・教育学者247人、君が代、東京都教委の処分で緊急アピール

毎日新聞(4/28)より部分抜粋

 卒業式の「君が代」斉唱時に起立しなかったなどとして、東京都教委が公立学校の教職員196人を処分した問題で、全国の法律学者や教育学者ら247人が28日、「都教委のやり方は『現代版・踏み絵』だ」と抗議する緊急アピールを出した。研究者らは都教委に「このような措置は、子どもたちの自律的な人格形成を妨げる」と申し入れた。…

緊急アピール文は以下。


東京都教育委員会の「日の丸・君が代」強制に抗議する
《現代版・踏み絵》に異議あり―法律・教育学関係者緊急アピール―

 東京都教育委員会は、今春の卒業式における「君が代」斉唱の際に「起立しなかった」、「ピアノ伴奏をしなかった」都立学校の教職員176名と公立小中学校などの教職員20名を戒告処分に付することを決めました。同教委は今年2月にも、周年行事に際して同様の態度をとった教職員10名を戒告処分としましたが、今回はそれを上回る大量処分であり、しかも弁護士の立ち会いを排除した強引かつ一方的な「事情聴取」を行っただけの極めてずさんな処分です。
 都教委が今回の処分を断行した背景には、昨年10月23日に全都立学校の校長宛に発せられた「国旗・国歌」に関する「通達」および「実施指針」があります。これらの文書において同教委は、「日の丸」掲揚、「君が代」斉唱の具体的な方法について事細かに指示し、さらにこれに従わない教職員は処分の対象となるとしました。今回の処分は、「10・23通達」の本格的な発動ということができます。
 この通達にいたる都教委の議論では、1999年国旗・国歌法制定時に述べられた「国旗・国歌を尊重する気持ちを子どもに強制するものではない」とする政府の説明自体を疑問視して、子どもに強制を働かせるために邪魔になる教師を選別し、追い落とそうとする意図が表われていました。
 さらに3月16日の都議会予算特別委員会において、横山教育長は、「君が代」斉唱時に起立しない、歌わない生徒が多数いた場合は、担任教師等を調査し、不適切な発言等があれば処分するという驚くべき発言をしました。子どもたちに自分で考えることを保証しようとする教師がターゲットとされており、同時に、担任の教師を人質にとって子どもに順応を迫るという極めて卑劣な強制方法であることは明らかです。
 このように、「日の丸・君が代」をめぐる都教委のやり方は、子どもから自主的思考を奪い、ただひたすらに体制に順応することを強制する点で、もはや教育の名に値するものではなく、教育基本法にのっとって子どもの「人格の完成」をめざした教育を行う教師の権利を踏みにじり、同時に、子どもの学ぶ権利、思想・良心の自由を侵害するものです。まさに、《現代版・踏み絵》といわざるをえません。
 日本国憲法19条の「思想および良心の自由」は、個人の人格の核心である思想・信条、つまり内心における精神活動がいかなる外部からの干渉も受けずに、自律的に行われるべきことを保障しています。この自由は、人格形成の途上にある子どもにとっては、とりわけ重要です。子どもが自分と社会や国家との関わりかたを認識し、そのアイデンティティを確立していく過程は、親や教師の援助を受けつつも、可能なかぎり自律的なものでなければならず、これを国家が統制することは、子どもの人格的自律を将来にわたって妨げることになるからです。
 また、親とともに子どもの良心形成に関わる教師が、「国旗・国歌」の問題で吟味された判断の素材を子どもに提供する一方、子どもの自律的な人格形成を阻害するような政府や教育行政当局の干渉に抵抗することは、教育者としての重要な職責に属します。教育基本法10条1項が、教育に対する「不当な支配」を禁止しているのは、このような教育の条理を規範化したものとみることができます。
 なお都教委は、「『内心の自由』は認めるが、それを表現することは職務命令違反になる」と主張しています。しかし、憲法が保障する「内心の自由」は、少なくとも自己の良心に反する行為を拒否する自由(消極的な表現行為の自由)を含むはずです。これを許さないのは、憲法19条を否定するものです。憲法が職務命令よりも優先されることはいうまでもありません。
 以上のように、都教委による「日の丸・君が代」の押しつけは、憲法・教育基本法・子どもの権利条約などに違反するのみならず、制定時に「強制はしない」との政府答弁がなされた国旗・国歌法の趣旨にも反します。学校教育法との関係でいえば、このような強制が同法の定める学校教育の目標である「自主及び自律の精神を養うこと」(小学校・18条)、「公正な判断力を養うこと」(中学校・36条)、「健全な批判力を養い、個性の確立に努めること」(高等学校・42条)などに反することは明らかです。さらに、都教委が強制の《根拠》として持ちだす学習指導要領(文部科学省告示)については、最高裁が、同文書は強制にわたるものであってはならない旨を判示しています(1976年・学力テスト事件判決)。
 政府・文部科学省が推進する「教育改革」では、《自立性・主体性・創造性を備えた人材の育成》が喧伝されていますが、国旗・国歌に向きあう姿勢まで一方的に決めつけ、「起立・斉唱」行動を強制するようなやり方は、いかなる意味でも子どもの自立性・主体性・創造性を養うことにはなりません。
 このように、都教委の《現代版・踏み絵》は、教育のあり方として大いに疑問であり、また憲法・教育基本法が明確に規定している教育に関する法のルールにも反するものです。私たちは、次代を担う子どもたちの自律的な人格形成に重要な責任を自覚する研究者として、このような異常事態を黙認するわけにはいきません。ここに連名により、異議申し立てを行うものです。

2004年4月


投稿者 管理者 : 2004年04月30日 00:05

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