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2004年05月07日

[判例] 東京女子医科大学(退職強要)事件

原告 一部認容 一部棄却〔控訴〕

 最近の大学関連の労働判例を掲載します。以下,この判例のソースは,すべて「労働判例」(No.865)2004年5月1日号によるものです。なお,東京地裁判決文全文は,同誌に掲載。

東京女子医科大学(退職強要)事件
東京地裁 2003年7月15日判決

[平12(ワ)27357号 損害賠償請求]
一部認容 一部棄却〔控訴〕

判   決

原告          ○○○○
原告訴訟代理人弁護士  伊藤 幹郎
同           鴨田 哲朗
同           三竹 厚行
同           菊地 哲也

被告          学校法人東京女子医科大学
同代表者理事      乙山 二郎
被告          ○○ ○○
被告両名訴訟代理人弁護士  石井 成一
同           小田木 毅
同           森脇 純夫
同           佐藤りえ子
同           山田 敏幸
同           岡田 理樹
同           長崎 真実
同           小玉伸一郎
同           柏原 智行

主   文

1 被告らは,原告に対して,連帯して450万円及びこれに対する被告学校法人東京女子医科大学については平成12年12月30日から支払済みまで,被告○○○○については同月31日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求は,いずれも棄却する。
3 訴訟費用については,原告及び被告学校法人東京女子医科大学に生じた費用の各40分の1を被告学校法人東京女子医科大学の負担とし,原告及び被告○○○○に生じた費用の各6分の1を被告○○○○の負担とし,その余の費用全部を原告の負担とする。
4 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。

東京地方裁判所民事第19部
裁判官 渡邉 弘


[事件と裁判所決定の概要](以下,「労働判例」200.5.1(No.865)57〜58頁より抜粋)

(1)事件の概要
 本件は,被告大学医学部の助教授であった原告が,被告大学の被告教授等による退職強要行為により退職を余儀なくされたと主張して,被告大学および被告教授に対して債務不履行(職場整備義務違反)または不法行為に基づく損害賠償請求を行った事案である。
 原告は,被告大学において昭和50年に脳神経外科の助教授に昇任した後,退職するまで25年間助教授を務めた。
 昭和63年と平成4年に被告大学脳神経外科の主任教授選考が実施され,原告はいずれにも応募したが選考から外れた。平成10年の主任教授選考は全国公募とされ,原告や被告教授を含む5名が立候補した。選考委員会はそのうち3名を主任教授会に推薦することとし,業績選考および面接選考が行われたが,原告は業績評価・面接評価・総合評価ともにいずれも5名中4位の評価であり最終候補者に残ることはできず,被告教授が主任教授に就任した。また,平成10年11月から翌年にかけては大学付属病院脳神経外科部長(教授)選考が行われ,原告を含む4名が立候補したが,原告は選から漏れた。
 被告教授は,平成10年10月,主任教授に就任してすぐの脳神経外科職員会議において,スタッフの大改造を考えており定年までとどまる必要はないから自覚のある者は身の振り方を考えるべきとする旨の書面を配布し,原告はこの文書の対象は自分のことだと認識した。被告教授は,原告の同じ出身大学の1年後輩に当たり,原告と一緒に仕事をしていくのはかなりつらいという思いを持っていた。同年12月の医局忘年会でも,被告教授は,
スタッフの中にお荷物的存在の者がいるので死に体で教室に残り生き恥をさらすより英断を願うという内容の書面を配布し,同様の趣旨のスピーチも行った。原告はこの文書の対象者は自分であると感じ,学長やその他の教授もこの文書を読んで対象者は原告であると察し,学長は後日,被告教授に対して注意をした。その2日後の定例職員会議では,被告教授が原告を批判する発言を行い原告と被告教授の口論となった。
 原告は,平成12年4月3日,被告大学学長に対して,職場ハラスメントを退職理由として,同年5月末付で退職する旨の退職届を提出した。学長や他の教授はこれを慰留したが,結局辞職するに至った。
 そこで原告は,被告大学には雇用契約に基づき公正で平等な処遇をする義務を負うもので原告を教授に昇格させる義務があったと主張し,教授昇格差別による差額賞金562万2600円,教授昇格されなかったことに対する慰謝料1000万円を,被告教授による退職強要行為は労働契約上の債務不履行(職場環境整備義務違反)または不法行為に当たると主張して,退職強要行為により受給できなかった企業年金5555万9400円,退職金額1779万2434円,給与額6500万5100円,それから退職強要行為による慰謝料3000万円,弁護士費用1000万円を求めた。

(2)判断のポイント
 争点は,第1に教授昇格差別の有無,第2に嫌がらせないし退職強要行為の有無である。
 第1の争点につき判決は,大学教員の人事における自治も憲法の保障する大学の自治の範囲内にあり,学問の高度の専門性の要請から主任敦授会による高度の裁量権が認められるが,裁量権の行使につき濫用・逸脱があれば違法と評価されるとしたうえで,本件については,いずれも規程・内規に従って専門的な見地から多角的な検討内容に沿って客観的な選考が行われたものでその過程に被告大学の裁量権の濫用・逸脱は認められない等として,原告の主張を退けた。
 第2の争点については,被告教授は原告および関係者に認識されることを承知のうえで忘年会における文書配布などの行動をとったものであり,古くからの知己をも含む衆人環視の下でことさらに侮辱的な表現を用いて原告の名誉を毀損する態様の行為は許容される限界を逸脱したものであり,原告に精神的苦痛を与えるだけでなく医師または教育者としての評価を下げうるもので多大な損害を与え得る違法性の高い行為であるとして,不法行為による損害賠償義務を負うとした。
 また,被告教授の行為は,原告の上司として部下である原告の行為の問題点を指摘して指導監督し退職勧奨するもので,少なくとも外観上は職務執行と同一な外形を有する行為であるとして,被告大学は民法715条により,被告教授の行為による原告の精神的苦痛に対する慰謝料として400万円,弁護士費用として50万円,合計450万円を被告教授と連帯して賠償義務を負うものとされた。

(3)参考判例
 退職強要に関する事例として,労働契約上使用者は労働者がその意に反して退職することがないよう職場環境整備義務を負うとして,定年まで勤務する意思のあった者を退職強要・嫌がらせによって自己都合退職に追い込んだことが当該配慮義務に反し債務不履行ないし不法行為を構成するとして損害賠償義務が認められたエフピコ事件(水戸地下妻支判平11.6.15労判763号7頁)等がある。

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1.大学教具の人手における自治は憲法の保障する大学の自治の範囲内にあり,学問の高度の専門性から選考に高度の裁量権が認められるが,裁量権の行使について濫用・逸脱があれば違法と評価されるとされた例
2.25年間医学部助教授を務めた原告の教授昇格差別の有無につき,かかる量権の濫用・逸脱は謎められないとされた例
3.上司である被告教授による文書配布やスピーチによる原告に対する嫌がらせ・退犠強要行為につき,衆人環視の下でことさらに侮辱的な表現を用いた名誉毀損行為で違法性の高いものであるとして,不法行為による損害賠償責任が認められた例
4.被告教授の上記行為は少なくとも外観上は職務執行と同一な外形を有する行為であるとして,使用者責任(民法715条)に基づき被告大学が連帯して450万円の損害賠償責任を負うとされた例


投稿者 管理者 : 2004年05月07日 00:05

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