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2004年05月25日

東京大学(下)“眠れる資産”を活用(富を生む大学)

日経産業新聞(5/24)より

 東大医学部付属病院が一風変わった共同研究に乗り出す。病院に来る患者や荷物の流れを「ホスピタル・ロジスティックス」と名付け、佐川急便と組んで研究する。
 病院に入退院する患者が荷物を自分で持ち運びするのでなく、専門の業者が配送するサービスにすれば新しいビジネスになるのでは――。発端は永井良三病院長と、外来患者だった佐川急便の別所恭一・環境推進室長の世間話だった。
 今年六月には佐川急便の寄付による講座を医学系研究科内に開設し、共同研究をスタート。東大病院は二〇〇六年度に延べ床面積六千平方メートルの「二十二世紀医療センター」を開く計画で、完成後にはここが研究拠点となる。実用化に成功すれば、“入院パック”などの商品、他の病院への展開などが視野に入る。「医療費抑制ばかりでは病院に未来はない。新しい産業の芽を見つけなくては」と永井病院長は話す。

 東大が法人化を機に「眠れる資産」の活用策に踏み出しつつある。ベッド数約千二百床、入院患者年間一万三千人(二〇〇二年度)という規模を誇る東大病院はその一つ。大学全体の土地・建物などの資産規模は九千八百億円と全国の中で群を抜く。国の財政支援の増加が見込めないなかで教育・研究の質を維持するためには、経費削減だけでなく、資産活用が不可欠だ。
 限られた財源で効率的に施設整備を進める手法として導入しているのが、PFI(民間資金を活用した社会資本整備)方式だ。駒場キャンパス(東京・目黒)の一角、駒場寮跡地ではPFI方式による「駒場コミュニケーション・プラザ」(仮称)の建設計画が進んでいる。
 延べ床面積約一万平方メートルの建物には教養課程の学生のための福利厚生施設などが入る。今年秋にも入札を実施、二〇〇六年の完成予定。東大はこれを含め、四カ所でのPFI方式の採用を中期計画に盛り込んでいる。
 目に見える資産だけではない。「東京大学」ブランドという無形資産も大学の管理下に入る。法人化を機に新しいシンボルマークを作成、商標登録を出願中だ。渡辺浩副学長をトップとする「東大アイデンティティ作業班」が作業を担当した。教職員の名刺、封筒、プレゼンテーション用の資料などにこのマークを刷り込む。東大の教育・研究の質をマークに象徴させ、売り込む戦略だ。
 卒業生のネットワークを意識的に活用しようとの試みも広がり始めた。「卒業生のみなさんのよりどころであるような『母港』でありたい」。今年三月末の卒業式では佐々木毅学長のメッセージが卒業生に配られた。
 十一月には卒業生向けに「ホームカミングデー」を開催する。これまでも実施したことはあるが、初めて学長と各学部長がホストとなる。学長とゲストの対談や運動場を使ったイベント、学内の見学会などを開き、「変わった東大の姿にもう一度接してもらいたい」(池上久雄理事)。全学レベルの同窓会連合組織も発足させる計画だ。
 東大は産業界に卒業生を多数輩出しているが、ネットワークは意識的に形成したものではなく、寄付などで大学に資金が還流する形にはなっていなかった。希薄になりがちだった卒業生と大学の関係を強化し、私大のように寄付などを募れる態勢にしたいとの思惑がちらつく。
 留学生の就職支援などを手掛ける「キャリアサポートセンター」(仮称)も七月をめどに設置する。留学生の採用に積極的な企業を中心に百社の協力企業を集め、セミナーやインターンシップ(就業体験)を通じて留学生に日本企業への理解を深めてもらう。
 東大は現在約二千百人と日本で最大の留学生を抱える。在学中の満足度を高めることで優秀な留学生の確保につなげる狙いで、「将来、留学生OBからの寄付金募集も視野に入れることができれば」(竹原敬二副理事)という狙いもある。
 法人化による経営の自由度の拡大は、東大にとっても総合大学トップの地位が必ずしも安泰だとはいえないことを意味する。優れた研究者、豊富な技術シーズ、断トツの資産規模、幅広い人脈……。こうした優位性を武器に、より強い大学になるための取り組みが始まっている。

投稿者 管理者 : 2004年05月25日 00:07

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