個別エントリー別

« 国立大の出資解禁求める−大阪商工会議所、国に中小対策40項目 | メイン | 「学問の自由を守れ」 東京都内で京大滝川事件記念の集い »

2004年05月27日

法科大学院の大風呂敷−司法試験突破に近道なし?

日本経済新聞(5/24)より

 今春開校した法科大学院六十八校。五千八百人の学生は司法試験突破への近道と信じて入ってきた。約三%という合格率が「大学院を出ると七〇―八〇%になる」という触れ込みだったのだが。
 大宮法科大学院大学(さいたま市)で、夜間講座「現代弁護士論」が始まった。
 「都内の弁護士の七割は収入が四千万円以下です」
 四千万円以下といっても、学生やサラリーマンからみれば相当の水準だ。
 「この収入は売上高のことで、事務所経費もこの中からまかなう必要があります」
 講師がこう言うと、学生たちはうなずいた。
 大宮は他の大学院に比べ弁護士などの実務家教員が多い。夜間コースでは特許庁の職員、広告代理店の社員、医療過誤予防の経営コンサルタントを目指す医師ら現役の社会人が耳を傾ける。
2006年狙い目だが…

 「実務の大宮」と対照的なのが東大。理論重視派だ。

 「大宮と東大、どちらに行こうか悩みましたが、結局、東大に行きます。ブランドに流された感じもしますが」。ネット上でこう述べる中村隆夫氏(38)は元日銀マン。一九九六年に退職、ポータル(玄関)サイト運営のインフォシークの社長などを務めた。
 入学から一カ月余り。中村氏は「授業だけでは新司法試験に受からない」とこぼす。講義がつまらないのではない。実損以上の賠償を認める制度の功罪を論じる授業などには思わず聞き入ってしまうのだが、授業の後、学生からため息が漏れるという。「これ、試験に出ないんだよな」
 当の東大は伝統を強調する。「先端技能は後からでも身につく。理論重視で、法曹トップを送り出してきた従来の路線を引き継ぐ」(井上正仁教授)。大学院による路線の違いが人材育成にどんな影響を及ぼすかは、卒業生から合格者が出始める二〇〇六年以降にはっきりする。
 かつて合格者数トップを誇っていた中大。キャンパスを郊外に移した後、首位を譲った苦い経験がある。そこで、法科大学院は都内に開設した。「合格率を最低七割に保ち、首位を奪回する」(中大の阿部三郎理事長)と鼻息が荒い。
 桐蔭横浜大(横浜市)は六本木ヒルズ(東京・港)に教室を開設した。東京都心部の学生に配慮し、教授のいる本校と双方向の通信回線で結んだ。千種秀夫研究科長は「八割合格を目指す」と意気込む。
 法科大学院は卒業生を合格させないと意味がない。政府の関係審議会が三年ほど前にまとめた報告書は、「相当程度(例えば約七―八割)の者が新司法試験に合格できるよう、充実した教育を行うべきだ」としている。
 試験自体が通りやすくなるのは間違いない。今年千五百人の年間合格者枠を二〇一〇年時点で大学院生以外を含めて三千人に増やす予定だ。しかし、「うちは良くて三割合格」と控えめに見積もる中堅私大関係者もいる。一体、平均合格率はどうなるのか。
 二年後にスタートする新司法試験は法科大学院の修了者に受験資格がある。二〇一〇年までは誰でも受けられる今の司法試験と新試験が併存する。一一年以降は新試験に一本化され、大学院修了者以外の人たちも予備試験を通れば受験できるようになる。
 大学院修了者にとって狙い目は初年度の二〇〇六年。その年の修了者だけが受験し、再挑戦組がいないため、最も高い合格率になりそうだ。
 推計してみよう。二〇〇六年修了を目指す二年コースには今春、二千三百五十人が入った。落第者や現行試験の合格者も出るため、実際は二千人が受験するとしよう。大学院関係者の読みでは、合格者枠は千三百人。その場合、合格率は六五%に達する。

合格率1割台も
 しかし、その後の見通しは厳しい。落ちて再挑戦する人が出るためだ。「一七%にまで下落するかも」と、大手司法試験予備校、辰已法律研究所(東京・新宿)の後藤守男所長は試算する。
 これから開校予定の法科大学院もあり、毎年七千人が修了する事態もあり得る。一度落ちても三回まで受験できるため、年間受験者が一万七千人程度に達する場合も考えられる。二〇一一年以降も合格者数が三千人なら、合格率は一割台後半に落ちる計算だ。
 そもそも七―八割合格という話は「法科大学院が全国で二十―三十校しかできないことを前提にした数字」(大宮の宮沢節生副学長)。各大学が一斉に設置に動いたため、開校数が当初想定の二―三倍に膨らみ、誤算が生じた。合格率が低いと評判が落ちるから、学力の低い学生をとることを見送り、大幅な定員割れに陥っている大学院もある。
 関西のある法科大学院が最近開いたシンポ。司法試験改革にかかわった人たちがパネリストなどとして参加した。その場で学生らから合格率への不満が噴き出した。「詐欺だと言わんばかりだった」。政府関係者は振り返る。
 この関係者はこう応じた。「二〇一〇年に合格者を三千人にするのは当面の目標。天井ではない。それより通った後に何をしたいのか考えて」
 実は、法科大学院は妥協の産物でもある。法曹人口増や人材の多様化を求める経済界に対し、競争激化を警戒する弁護士界は「質が落ちる」と猛反発。弁護士界を説得するため、きっちり教えて人材を育てる場としてできたのだ。
 大学には水面下で三千人超への増員を求める動きがある。しかし、弁護士界には反対論がくすぶり、今後も曲折が予想される。喜んでいるのは「大学院入試対策などで売り上げが大幅増」(東京リーガルマインド)という試験予備校だけかもしれない。
 本来、一定の能力をみるはずの司法試験。しかし、改革後も定員制を維持し、「中途半端な競争が残った」(山口二郎北大教授)のが現状なのだ。

投稿者 管理者 : 2004年05月27日 00:14

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://university.main.jp/cgi/mt/mt-tb.cgi/1049

コメント