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2004年07月20日

産学連携、意識に格差−大学、「市場の声」理解に時間(経営の視点)

日本経済新聞(7/19)

 「連携には、もう疲れた」――。先月、京都で開かれた産学官連携推進会議で、ある国立大の学長が講演でこう漏らした。「おい、おい、一体どうしたんだと言う感じで、聴衆はみんな引いてしまった」(東大先端研の教授)
 もちろん象牙の塔から脱し、産業貢献する大学の熱気を持続しようと、工夫を凝らす大学もある。例えば東京工業大学はある成功報酬制度の検討を進めている。共同研究相手の企業から、実際の研究費に上乗せして図書館などの教育研究基盤の充実に必要な間接費を勝ち取った教員に、特別ボーナスを支払う制度だ。
 「(講演した別大学の)学長の気持ちも分からないではないが、口に出すべきではない。研究、教育をしっかりやり、産学連携もきっちり進めなければ」と東工大の下河辺明副学長。それには企業の間接費支援が必要だという。研究費一億円プラス三千万円の間接費獲得なら「五百万円のボーナスでもいいくらいだ」。
 今春の国立大学法人化などで各校は資金パイプを企業など外部により頼らざるを得なくなった。改革開放路線と国家財政ひっぱくで、中国の大学が「校弁企業」と呼ばれるベンチャー育成に突っ走ったのに似る。もっとも大学自身が企業を経営するなど「産学融合」が進む中国と違い、日本はまだ連携に踏み出したばかり。後に続く者への成功モデルが必要だ。だが先駆者は様々なリスクに直面している。
 遺伝子治療薬の開発に取り組む一九九九年創業の大阪大学発ベンチャー、アンジェスMG。創業一年後に同社に出資し、その一年十カ月後の株式上場時に売却益を得ていた医師が、上場三カ月後に始まった臨床試験に加わっていたことが最近、否定的に報道された。同社は上場時には株主情報を公開、臨床試験も大学の承認を得たものだった。
 「李下に冠を正さずは分かるが、畑を耕しているときに水を飲むなというのでは挑戦者だけでなく協力者もいなくなる」と同社創業者の森下竜一阪大教授。上場時に森下氏が個人資産数千万円を大学に寄付したところ、学内では「そんな汚いカネは受けとるな」との声も噴き出した。
 産業界とのつきあいに不慣れな大学側だけにずさんな点も山ほどある。ある大学では企業への技術移転契約を結んだが、実用化に必要なノウハウを発明したのは実は学生。その学生がライバル企業から就職内定をもらい、移転計画は立ち往生した。学位認定権限を盾に、学生の発明を自分を発明者として特許出願する教員もいる。大学が企業にライセンスした後に真の発明者が名乗り出れば大騒動になる。
 各大学は企業との共同研究成果の取り扱い指針作成に動いているが「東大、京大の案を読んでも内容がよく分からない」(キヤノン)、「契約内容は力関係で決まるものなのに、お上意識がまだ残る」(味の素)。
 米MITなども企業に厳しい契約方針を持つが、それでも多くの企業が押し寄せるのは世界に通用するブランドと技術があるからだ。市場と向き合う意識が国内の大学に浸透し、産学連携が実を結ぶまでの道のりは長い。


投稿者 管理者 : 2004年07月20日 00:07

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