個別エントリー別

« 神戸大学教職員組合、「学長候補者選考のあり方について(その2)」 | メイン | その他大学関係のニュース »

2004年08月13日

国立大学法人法下の大学財政:分析作業と危機打開行動開始の集い、レジュメ

「意見広告の会」ニュース184より

「法人化後の国立大学―政策動向を中心に」

2004年8月14日

一、国立大学法人法で何が起こっているか

1. 国家統制の強化と官僚的業務の肥大化

1.国立大学の運営に対する行政的な統制は形を変えて(変えずに?)継続
2.役員数の増加(89大学503人)、経営協議会への文科省OBの大量浸透(銀行ほか経済人、市長、都道府県幹部、弁護士)、JRは、東大に東日本社長、北大に同会長、京大に元西日本会長、九大に九州社長、「経済官僚、大学へ転出急増」(産経7月4日付)

3.文部科学大臣任命の監事(各法人2名)
4.plan-do-seeのサイクルの開始(学内の「評価室」―弘前)
4.評価疲れの問題(独立行政法人大学評価学位授与機構、文科省国立大学法人評価委員会、総務省政策評価独立行政法人評価委員会、内閣府行政改革推進本部、内閣府総合科学技術会議、経産省・三菱総研・河合塾)

2. 中期目標・中期計画の悲喜劇

○「法人化」といかなる関係にあるのか、○数値目標の妥当性、○大学の教育機能と研究機能、○評価対象(独立行政法人組織の整理・縮小や民営化―6月30日総務省独立行政法人評価委員会分科会)

→行政改革推進本部内に独立行政法人の統廃合を検討する有識者会議(9月初会合)
▽大学院で2005年度から優秀な成績を収めた学生の表彰制度創設(北見工業大)
▽女性の採用・登用を拡大、教職員の20%になるよう努力(岩手大)
▽卒業生の大学評価と、卒業生に対する社会の評価の調査を継続的に実施(秋田大)
▽1年間で5件以上の学部横断的プロジェクト研究を目指す(山形大)
▽医師国家試験で合格率90%以上を維持(筑波大)、95%以上を目指す(滋賀医科大)
▽地域との多様な連携を60件以上実施(東京農工大)
▽学習到達度の指標として、学内英語統一テストなど全学的基準を設定、活用(横浜国立大)
▽学生サービス向上のためトイレの自動洗浄化などを計画的に実施(長岡技術科学大)
▽特許取得数拡大を目指す。本年度25件、中期目標期間中に倍増(静岡大)
▽全教員の個人評価を試行し、06年度から実施(名古屋工業大)
▽全授業の2分の1以上を公開授業として地域住民に提供する(高岡短大)
▽非常勤講師依存率を法人化前の50%をめどに減少。石川県や金沢の地域性を生かした日本文化体験型の教育プログラムの充実(金沢大)、非常勤講師の1割削減(宇都宮大)
▽留学生受け入れを2割増加(兵庫教育大)
▽3次被ばく医療機関としての機能を整備(広島大)
▽卒業研究は原則として一般に公開、社会的評価を受ける。南海大震災を想定、自治体などと防災の準備を整える(高知大)
▽司法試験で法科大学院が全国平均を上回る合格率を目指す(熊本大)、70%程度(横浜国立大)
▽大学を基盤とするスポーツクラブを創設(鹿屋体育大)
▽特化型研究プロジェクト推進のため、学部横断型の「特別研究推進機構」を学長直轄で設置(琉球大)
▽外部資金の調達を50%増(九州工業大)、25%増(熊本大)、10%増(北見工業大)

そのほか、国立病院機構では治療成績評価を指標に

3. 学外者の影響力を通じて企業的大学へ  (日本経団連の2003年3月18日意見書より)
 1.産業技術人材の教育制度の充実
 2.実践重視の工学系大学院教育
 3.社会人等を対象としたMOT(Management of Technology)の普及
 4.共同研究・委託研究への学生の参画
 5.国立大学法人化への期待
 (1)民間的経営手法の導入 (2)学長の権限強化 (3)産学の人材交流知財戦略へ
 1. 企業との包括提携(東大・三菱―交通安全、名古屋・トヨタ―環境・材料、熊本・三洋電気―次世代技術開発、広島・広島銀行―商品開発・人材育成、北大・日本政策投資銀行、大分大・大分銀・豊和銀)、九大は企業の人材育成事業に参入(日経7月23日付)
 2. 産学連携の研究費は02年で513億円(20年間で3倍以上に、医薬品工業が53.6%、食品工業が12.9%)、2003年度の産学共同研究は8023件(日経7月28日付)
 3. 大学発VBは、2003年度末に累計800社
 4. 知的財産のプロを養成する専門大学院―東工大、京大、金沢工大、東京理科大、大阪工大など
 5. 観光学の振興(観光学部・学科を設置する大学には運営費交付金増額)―観光立国構想の一環、琉球・山口・和歌山など
 6. 損保等、「新市場で争奪戦」共同保険を足がかりに、学生・教職員向けの保険に照準
 7. 矛盾の発現
 ○「売れる特許があるのか」(朝日6月30日付)
 ○未公開株の取得=「利益相反」
 ○「国立大特許料:96%が赤崎名大名誉教授の青色LED」(毎日8月1日付)
 ○COEに対する産経新聞の批判(7月22日付)

 ■内容先細り 再検討の時期
COEプログラムは、横並び意識の強かった大学に競争原理を導入する起爆剤として鳴り物入りで始まった。
 「護送船団方式」を排し、大学間の競争を促す方針を打ち出した文部科学省の意向と、国私の別や規模を問わず採択されれば予算が得られることへの大学側の期待が合致した。国立大の法人化といった変革が進むなか、大学の競争意識を高める一定の成果は収めたといえる。
 しかし、世界水準といえる研究拠点が数限りなく存在するはずはなく、トップレベルの研究はすでに出尽くした感が強い。文科省も今回の申請・採択の中に過去の“落選組”の再挑戦があったことを認める。今後、水準に達する研究拠点がどれほど構築されるかは未知数で、現在の選考方法では先細りになるばかりだろう。
 文科省は「今のところ来年度の公募は未定」というが、COEはすでに一定の評価を得て定着しており、大学側からの存続要望は強い。とはいえ、毎年漫然と同じ選考方法を続けるだけでは、選に漏れた研究の救済を繰り返すことにもなり、予算の“ばらまき”との批判を受ける事態になりかねない。
 世界水準という当初の基準は担保した上で、研究拠点を充実させる期間を設ける意味で、例えば数年に一度の申請にするなど、制度の抜本的な見直しを検討する時期に来ているようだ。(田中万紀)(産経新聞)


4. 地方大学の意味の変化
 1. 「国土の均衡ある発展」の放棄
 2. 「地域間競争の促進」への転換(研究重点大学と教育重点大学への種別化)
 3. 知的クラスター創成事業を通じた地域経済への貢献(地方都市との相互協力協定)、「地域密着で生き残りを」(『南日本新聞』社説2004.4.1)、「地域に根差し個性磨け」(『北海道新聞』社説2004.4.1)、北大の産学連携研究施設の建設費を函館市が負担、名工大・犬山市、信州大・長野市→「地域貢献」をめぐる競争的補助金「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」(9月下旬採択結果公表)
 4. 入試の地域推薦枠(滋賀大教育など)
 5. 地方国立大学ネットワークの試み(鹿大田中弘允前学長ら)対大学間競争→「県単位の地方大学は複数県にまたがる地域圏で1校というように再編される、という見方が出ている。」(朝日6月26日付)、「学外委員、「国立大、低評価で淘汰」66%・日経調査」(日経8月3日付)

5. 学生の位置付け―受益者としての学生
 1.新自由主義の人間像―「成熟社会」の個性的で自立した個、「フレキシブルな人間」、「株式会社としての私 Ich-AG」
 2.授業料の将来的な値上げ(受益者負担原則、法科大学院、法人財政の窮乏化)―Userとしての学生(バウチャー制度の導入、日本経団連2004年4月19日意見書「21世紀を生き抜く次世代育成のための提言」)、消費者主権論(八代尚宏編『市場重視の教育改革』日本経済新聞社、1999)
 3.日本育英会の廃止(「民業圧迫」)→教育ローンへの誘導(cf. 法科大学院ローン、授業料型600万円、生活費型1300万円)
 4.「人間力戦略」の対象としての学生(「産業人材供給システム」としての大学)
 5.大学教育の標準化(日本技術者教育認定機構JABEE)―「品質管理」「品質保証」政策
 6.「労働力」としての若手研究者(研究支援職員technicianの激減―国立大学では10次の定員削減)→「余剰博士」対策(文科省)、「大学院版インターンシップ」(毎日8月4日付)

二、法人移行段階の諸問題

1. 運営費交付金の逓減問題(効率化係数1%、附属病院の経営改善係数2%、特別教育研究経費―競争的運営費交付金、裁量的経費のシーリング問題)→「負の護送船団」と資産運用へのインセンティヴ(東大は国債90億円購入)
2. 財政問題に特化した準備作業―非常勤職員の解雇、非常勤講師の削減・給与カット・労働者性の否定・「ゼロ査定」)→常勤・非常勤の「利益相反」という創られた構図(「人員削減先送りするな」『北國新聞』社説2004.4.19)
3. 中期目標・中期計画の書き直し(数値目標、定性的目標の数値的評価基準)
4. 就業規則問題(国家公務員法から労働基準法・労働安全衛生法へ)―過半数代表
5. 管理運営組織(トップダウン症候群=封建制の強化、近代的大学を作る上できわめて重要)、福岡教育大問題
6. 全員任期制(北見工大など)、新規採用全員に任期制(阪大工)、裁量労働制

三、財務

1. 経済財政諮問会議の教育審議
2. 総合科学技術会議の成果主義的研究費配分
3. 大学財政 ○大学間格差 ○大学内格差 ○学問分野間格差→それぞれ、個別大学の解体、個別部局の解体、「学会」の解体へ
参考1)北大の財産 時価2113億円、総面積は琵琶湖に匹敵(大学財産を担保に借入金―「基礎体力」、北海道新聞6月2日付)
参考2)総合科学技術会議の重点分野―ポストゲノム、新興・再興感染症対策、ユビキタスネットワーク、次世代ロボット、バイオマス、水素利用/燃料電池、ナノバイオテクノロジー、地域クラスター
4. 人事管理と財務 ○退職金問題(職員のピークは2007年、教員は「前倒し」)、大学の財務能力→病院の超勤手当不足数十億(朝日7月5日付)、広島大の事例

→株式会社立の大学・大学院プラス「特区」の全国拡大(「設置形態」という概念の変容)

参考)
21世紀を生き抜く次世代育成のための提言−「多様性」「競争」「評価」を基本にさらなる改革の推進を−
2004年4月19日(社)日本経済団体連合会

本年4月1日、国立大学は国立大学法人となり、特徴と魅力ある大学になるための自己改革を行うチャンスを得た。しかしながら、依然として国と国立大学法人とはいわば共同設置者として位置付けられており、運営交付金(ママ)と引き換えに国が管理するという関係が継続され、例えば、国の指導で起債や長期借入れ等も制限されているのが現状である。国立大学の法人化の狙いは、国が高等教育のグランドデザインを描く一方、その具体化の方策は国立大学自らが決定して行動する形へと転換することを目指したものと理解する。したがって、国は、早急に高等教育についての明確なグランドデザインを示すとともに、大学を仔細に指導することは厳に慎むべきである。また、運営交付金(ママ)の配分が透明性の高いものであることに加え、国立大学の教育研究への取り組み、経費節減や外部資金導入などの努力が経営力の強化につながる仕組みであることを求めたい。一方、国立大学においては、経営の自立を目指し、運営交付金(ママ)に依存する体制から早期に脱却できるよう努力すべきである。平成16年度決算から、国立大学の! 会計制度が変わり、教員の人件費と事務職員の人件費が区分されるなど、予算の使途がより明確になる。我々は、こうした点にも注目しつつ、大学経営の効率化に向けた各大学の努力を注視していきたい。
なお、時代が急速に変化する中にあって、教員は、最先端を行く研究、教育を実施することが求められる。その観点から、大学は、教員の人事評価はもとより、任期付き任用を原則とするなどの人事制度改革を行うべきである。


投稿者 管理者 : 2004年08月13日 10:59

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://university.main.jp/cgi/mt/mt-tb.cgi/1629

コメント