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2004年09月02日

孫福 弘氏「外からみた国立大学法人」

Academia e-Network Letter No 170 (2004.09.01 Wed) より

孫福 弘氏「外からみた国立大学法人」
IDE 2004年7月号 <スタートした国立大学法人> p57-62
IDE-現代の高等教育:各号630円送料120円 申込:03-3431-6822
#(編註:孫福氏は2004年6月17日に急逝された:
一楽重雄氏(横浜市立大学)「孫福氏のご逝去を悼む」
http://www5.big.or.jp/~s-yabuki/doc03/came-22.pdf
http://letter.ac-net.org/04/06/26-127.php#2)

#(編註。私立大学での経営と教育・研究の経験を背景に、国立大学法人制度について醒めた吟味と、日本の高等教育のグランドデザインの不可避の課題が記されている。

国立大学法人の役員についてのコメントでは、理事総数404名中341名(87%)が常勤理事であることから、これが実態としては「執行役員会」であり、私学の理事会が、学内外の非常勤理事から構成されて企業の「取締会」に当たり、その下にある「執行役員会」にはそれほど裁量権がない状況とは大きく違うことを指摘している。国立大学法人における学長の際だった権限の大きさは、「組織内部に牽制機能が働きにくい構造を意味しており、いわば両刃の剣なのである」と述べている。

中期目標素案については「職員評価の身分、処遇への反映」の意思を確認するために、旧7帝大といくつかの大学をランダムに選んで精査し「筆者はこれを読んで震撼したというのが偽わらざる感想である。」とある。半数にあたる19大学(東北、群馬、宇都宮、筑波、一橋、東京外語、政策研究大学院、新潟、信州、北陸先端科学技術、静岡、豊橋技術科学、大阪、岡山、徳島、広島、九州、長崎、熊本)が、かなり明確にその制度の確立・導入を目指すことを謳っており、中期計画に書いた以上は、達成の見込みを判断した上での決断と解釈されるので、すべてが6年で達成できるかどうかは不明としても、全国立大学法人の1/3ないし1/4程度はこのような制度が実現される可能性があり、その場合には「波及効果が瞬く間に他の国立大学を覆う」であろう、という予見に震撼した、ということである。

さらに、私学の今後についての考察もある。私立学校法により財団法人の性格を負う私立大学は、公共性の視点から内部牽制機構が組みこまれ、国立大学法人のようなトップダウンが起きないように設計されている、と指摘し、こういった状況で、国立大学法人が私立大学を圧迫していく動きに対し「さらにもう一歩踏みこんで本質的な話をしよう」と、以下のように論説を終えている。

「これまでは実態として不完全ながらも国公私立間の棲み分けが行われていたに等しいところを、国立大学法人化にともなって、国は大学に企業的な攻撃的経営手法で活動を展開していくことを奨励している。その結果、国立大学が野放図に事業拡大していくと、官業による民業圧迫(国民の税金をづぎ込んだいわばダンピング)があちこちに起こる危険がある。筆者が以前に本誌で指摘したビジネススクールへの参入事例はその一端である(「私大経営の現状と課題」本誌2001年10-11月号,12-13頁)。前述の「遠山プラン」にはビジネススクールなどへの独立採算性導入の検討が謳われているものの、いまだ実現したとは聞いていない。このような事態が私学にいっそう厳しい状況をもたらすならば、私学関係者の間からはイコール・フッティングの議論が強まることは間違いないし、国立大学民営化論も勢いを増すだろう。

その意味でも、国立大学法人化の諸整備に合せて、国公立の制度設計と私立のそれとを一段高いところから俯瞰して整合性を保つ政策配慮を期待したい。それは必然的に国、公、私立の違いは何か、役割の差と公費負担のあるべき姿はいかに、というところまで踏みこまざるを得ないかもしれない。しかしそれが長い間になされてこないまま、ここまできてしまったことのツケをどこかで清算しなければならないのは、避けがたい事実なのである。」

編註終)


投稿者 管理者 : 2004年09月02日 00:38

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