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2004年09月02日

私立大学はどのように生き残るのか、「2004年度私立大学・私立短期大学の入学志願動向」

 日本私立学校振興・共済事業団の調査によれば,2004年度私立大学(4年制)の入学定員充足率(入学者÷入学定員)において,100%未満の学校数は全533校中155校であり,その比率は29.1%となった。この数字は学部で定員割れを起こした大学の比率ではなく,大学全体(総定員)でみて定員割れを起こした大学比率であるので,私学関係者にとっては実に恐ろしい数字である。
 他方,私立短大をみると,入学定員充足率100%未満の学校数は、全400校中164校で(41.0%),その割合は低下したという。その要因は「人気学科の定員超過、学科の部分的な定員削減、充足率不足による学科や学校の募集停止、四年制大学への改組による短期大学の廃止など」である。つまり,リストラクチュアリングによるものである。
 4年制大学においても,このリストラは始まっている。一部大手私大は別にして,学部・学科改組が個別私大の志願者全体を大きく引き上げることはまずあり得ない。したがって総体として,リストラは学部・学科の定員削減から始まることは間違いない(大学の縮小再生産)。なぜなら,同共済事業団が行う私学助成の最低基準のクリア(定員の5割確保)がさしあたり至上命令となるからである。
 文科省の私学政策は,文字通り私大のリストラである。経済学の概念になぞらえて言えば「過剰資本の廃棄」である。しかし,この「資本」過剰は,18歳人口減による需要・供給関係の不均衡という自然的過程からのみ発生したものではない。それは一方で人為的に作られた。文科省は,若年人口減が着実に進行することがわかっていながら,これまでおびただしい数の大学を政策的に増やしてきたからである。そして,現在もなおその路線を進めている。著しく設置基準を緩和した株式会社立大学はその典型である。したがって,今日の私学政策は,これまでにない新型大学をも「市場」に投入することによって大学間の大競争の促進し,それによっていわば強制的に社会的な過剰「資本」を廃棄する政策と言えよう。しかもこの「資本」廃棄の過程では,研究および教育は誘導的な資金配分(経常費補助とは異なる様々な特別補助に重点をおいた私学助成)によってその質がコントロールされている。こうして,今や国家の主要な私学政策はこの「資本」廃棄のための競争促進一点のためにフル動員されている(ように見える)。
 こうした大学政策への対抗理念なり対抗軸を打ち立てて,今後の私学のあり方を一体誰が提起しているのであろうか。「大学改革」と名のつく書物をほとんど読んだことがないのでわからない。先月8月初旬に開催された日本私大教連の教研集会に参加したが,そこでもそのような対抗軸がテーマに掲げられていなかったように思う。むしろ,ここで取り上げられていた一つの論点は,各私大教連のHPにも大きく掲載されているが,私立学校法の一部改正である。すなわち,財務公開,理事・監事機能の強化等々の問題である。これを全国組合は,「ガバナンス」論として取り上げ,組合側の武器(経営の民主化手段)になるのかならないのか,その概念はいかに云々といった議論をおこなっていた。しかし,私立学校法の改正は,上で述べた脈絡から言えば,要するに私立大学間の競争条件の整備,つまり「公正競争」のための条件を法的な側面から整えたに過ぎないのではないか(大枠としては競争促進策の一環と捉えてよいように思われる)。したがって,ここから「資本」廃棄によるリストラから雇用不安と自らの生活,そして日本の高等教育を守る課題は当然ながら出てこない。
 ところで,大学間の競争条件整備は,公正競争の観点からのみ行われたわけではない。国立大学独立行政法人化は,その最たるものであろう。完全競争実現のための教育「市場」の改革・解放は,「私学助成は憲法違反である」との恫喝をうちに含みながら,それまでの国家資産を受け継いだ圧倒的競争優位に立つ国公立大学法人とそれまで貧弱な財政基盤で細々とやってきた多数の私立大学の格差をそのまま温存し同じ土俵で競争させるものである。したがって,初めから結果は見えている。独法化問題にあたって,対岸の火事とみなして座視してきた私を含む私学関係者に今度はツケが回るのである。独法化は国公立大学における教職員の直接的な雇用破壊(リストラ解雇)を生み出さなかったと思われるが,私学は違う。それは大量の雇用破壊を伴う過程である(また,同時に政策的に大量に作られ滞留せしめられてきた若い院生研究者の雇用破壊をも意味する)。そしてその際に,国公立大学関係者は,かつて私学関係者と同じように対岸の火事とみなして座視するのであろうか。私たち高等教育に携わる者(大学人)は,こうした競争の強制が生み出す相互関係・作用に対抗して,古典的な言い方をすれば,連帯しなければならないのではなかろうか。(独法化阻止運動において何もしなかった深い自己反省を込めて…ホームページ管理人)

日本私立学校振興・共済事業団広報「月報私学」No.81,2004年9月1日号

2004年度私立大学・私立短期大学の入学志願動向

大学の概況
平成十六年度の入学定員は四二万五千人で、前年度に比べ約二千人増加しました。志願者数は、前年度より約九万四千人(3.0%)減少し、三〇六万七千人となりました。
入学者数は、前年度より約六千人(1.4%)減の四七万人でした。
入学定員充足率が一〇〇%未満の学校数は、全五三三校中一五五校でした(29.1%)。

学部系統別の状況
志願者数を見ると、人間系、情報系、看護・福祉系の順にやや増加しましたが、理工系、経営系、文学系の順に大きく減少しました。入学定員充足率は、法学系、文化系で若干高くなったものの、他の全ての系統で低くなりました。

短期大学の概況
 平成十六年度の入学定員は九万九千人で、前年度に比べ約九千人減少しました。志願者数は前年度より約二千人(一・○%)増加し、一九万一千人となりました。
 入学者数は前年度より約五千人(五・三%)減の九万九千人でした。
 入学定員充足率が一〇〇%未満の学校数は、全四〇〇校中一六四校でした(四一・○%)。その割合は下降しました。

志願者数等の最近十年の推移
 平成四年度前後をピークとして、入学定員をはじめ、志願者数、受験者数、合格者数、入学者数は減少を続けていましたが、十六年度は、志願者数、受験者数が十二年ぶりに前年を若干上回りました。 しかし、ここで下げ止まったかどうかは、今後の推移を見守る必要があります。
 志願倍率及び入学定員充足率は四年度から上昇しており、全体的に好転しています。この背景には、人気学科の定員超過、学科の部分的な定員削減、充足率不足による学科や学校の募集停止、四年制大学への改組による短期大学の廃止などが考えられます。


投稿者 管理者 : 2004年09月02日 03:14

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