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2004年09月07日

私立大学倒産の時代、学生の就学権保障 セーフティネットはあるのか? 

 下記の記事は,この間全国的にも大きく報じられた東北文化学園大学の問題(現在,同大学は民事再生法によって再建途上であり,同大学の教職員の努力を期待するものです)であるが,若干ながら私立大学の危機あるいは破綻処理問題に関して一般論として触れているところがあったので一部掲載する。
 文科省の私大政策は,教育分野における市場原理の導入であり,設置認可・基準の緩和と経営における「自己責任」の追求である。1998年10月の大学審議会答申「21世紀の大学像と今後の改革方策について」は,この点を高らかにうたった。公私立大の設置認可の簡略化と大学の「自主・自律体制」の強化を打ち出したからだ。 そして,この方針のもとに,新設大学が数多く設置された。
 これがいかなる結果をもたらすかは論じるまでもない。その政策理念を分かりやすく言えば,「大学経営」の観点から競争によって力のある大学だけが「生き残り」,「生き残った」大学は社会的に「存在価値がある」大学として認められるであろう。他方,潰れた大学は自主努力が欠落し「魅力がなく」「ニーズにあわない」大学であって,結局のところ社会的に「存在する価値のない」大学である。つまり,大学間の激烈な競争という自然淘汰の過程を通じて,結果としてあるいは予定調和的に「21世紀にふさわしい」高等教育環境が現れるという思考である。あるいは,激烈な競争の外的強制になしには,それが実現できないと考えているのであろう。
 しかし,これははたして「公教育」の政策理念と言えるものだろうか。いま,文科省路線に沿って生き残った「社会的存在価値がある」大学の研究と教育について,その質なり内容を問わないとしても,この政策・理念は別の観点で数多くの問題を引き起こすと思われる。その一つが,学生の就学権の保障という問題である。東北文化学園大学は,経営破綻を引き起こしたが,民事再生法の適用によって現在のところかろうじてこの問題が回避された。同大学の経営破綻は,理事長の経営手法といった個別大学の特殊事情に左右されたが,これからの経営破綻の主流はそうではない。まさに教育市場における「需要」と「供給」の両側面にわたるこれまでの高等教育政策が生み出した構造的問題によって引き起こされる経営破綻である。その意味でこのまま推移すると大量倒産の可能性も否定できない。その場合,学生の就学権はどのように保障されるのであろうか。
 下記に「立志舘大学」の破綻のケースについて,新聞記事をリンク掲載している。同大学の場合には,破綻後在学生は希望者全員呉大に編入できたとされる。ただし,その規模は154名と比較的小さい。もし,経営破綻する大学の学生規模が2000人,3000人,あるいはそれ以上の場合には,どうなるのであろうか。学生当人たちの希望を取り入れながら,数千名という規模の学生の受け入れ先を見つけることは実質上不可能である(まさに今回の東北文化学園大の規模はそれに該当しよう)。この問題,文科省にあっては,「市場原理」に従って破綻を見抜けなかった学生・父母,つまり需要側の「自己責任」とでも言うつもりであろうか。
 周知のように,この問題,日本私大連盟の「学校法人の経営困難回避策とクライシス・マネジメント」などでも触れられている。しかし,ここでは具体的なセーフティネットのシステムなりルールなりが構築されているわけではない。同様に,この文書を批判している日本私大教連の見解(「『学校法人の経営困難回避策とクライシス・マネジメント』に対する見解」(2002年4月28日付)を読んでも,まさに破綻危機に際して学生の就学権保障という観点から経営者および文科省の責任のあり方を問題にしているわけではない。さらに,文科省の態度は,私がネット上で見つけた限りでは,「お話し」にならない(衆議院文部科学委員会議録第156回国会第1号 平成15年2月25日)。ただし,私が知らないだけで,別に文書があるのかもしれないが,それは不勉強でわからない。
 いずれにもしても,競争と大学淘汰の時代は,今のところ「学生の就学権保障」もないらしい。これが文科省の公教育政策の理念であり実態であろう。本来,学生の就学権保障の課題は,安い教育費,あるいは給付奨学金政策の実現等が中心に据えられねばならないし,まずもって公教育の政策理念もここにあると言えよう。今,大学経営者も文科省もこぞって競争的大学事業として産学連携を強調するが,地方の田舎の弱小大学(例えば,広い北海道の郡部の大学)にとって,「産学連携」とは何だろうか。連携する相手はどこにいるのであろうか(さびれていく地元小売り商店ぐらいなもの)。ただし,こうした地方の田舎においても,大学に行きたいが,学費・生活費の工面がかなわない18歳人口が実に多いことも知るべきである。その意味で, 地方の弱小大学の存在価値はあると思う。そして,その存在価値を信じて,低学費維持と入学者減で財政的にはほとんど破綻しかけているにもかかわらず,週10〜12コマという授業負担を負いつつ,涙ぐましい努力をしている地方私立短大の教職員も数多く存在するのである(こうした大学は社会的に存在する意味がないのだろうか)。
 私は大学で学生部の仕事をしており,学内独自奨学金制度の改革のため,学生5500名の家計所得実態を調査した(その多くは家計支持者の源泉徴収票ベースで)。実に全学生の3分の1が,日本学生支援機構(旧日本育英会)第1種奨学金応募条件にある「経済的理由により修学に困難がある家計」基準に該当していた。最近は有利子の奨学金(きぼう21)があるが,これは貸与額が3万,5万,8万円とランクがあり最高で月10万円まで可能である。そして,日本の奨学金政策によって,今やこの有利子貸与者は,無利子貸与者よりも構成比率でみて圧倒的多くなっしまったが,その有利子奨学金貸与者の実に半数以上は8万円と10万円貸与者というのが実態である。学費支弁も織り込んだ貸与希望者が少なくないからである。この場合,学生は卒業時に500万〜600万円もの大金を借金として肩に背負って社会に出て,その後20年間にわたり毎月2万数千円づつ返済しなければならないのである。日本の高等教育政策の本筋は,こうした問題の解消にあるのであって,中小私立大学を潰し,学生にとってみれば高学費を支払わされ,しかも高額有利子奨学金の大借金を長期に背負わされ,そして運悪く大学が破綻した場合には「自己責任」として「行き場」もなくなる,そのような政策ではあるまい。(ホームページ管理人)

毎日新聞(9/06)より部分抜粋

 ◇大学淘汰の時代へ 転学支援態勢は

 大学が破たんした際、学生の就学機会をどう確保するか。そのスキーム(枠組み)づくりの必要性もクローズアップされている。同学園大は、事実上破たんした大学が民事再生法の適用を申請した最初の例でもある。
 大学数は、私立を中心に増え続け、昨年時点で702校(国立100、公立76、私立526)。99年と比べても、80校(国立1、公立10、私立69)増えている。主な要因は短大からの改組で、ある私学関係者は「大学の生き残り競争が激化する中で、就職に不利な短大が学生から嫌われている」とみる。
 一方、少子化で大学・短大の入学志願者数は減り続けている。文科省は7月、志願者数が入学者数と同じになる「大学全入時代」の到来見通しを2年前倒しして、07年度と修正した。現実には人気大学に志願者が集まるため、定員を集められず経営難に陥る大学が増えるのは必至だ。
 立志舘大(広島県)は00年、広島安芸女子大として開学したが、2年連続で大幅な定員割れとなり事実上破たんした。スポンサーの支援を受けて改称、共学化して再建を目指したが果たせず、03年、学生募集停止と休校に追い込まれた。今春の入試でも、定員割れした私立の大学は過去最高の155校(29%)。短大は164校(41%)を数える(日本私立学校振興・共済事業団調べ)。
 「約2500人も学生がいながら、ワンマン経営で破たんした東北文化学園大はレアケース。本当に怖いのは定員割れが続いて倒れることだ」とある私大関係者は明かす。規制緩和の流れに沿って、文科省は基準に照らして不備がなければ新設を認める姿勢に転換している。裏返せば「倒れる時は自己責任でというメッセージ」(私学団体関係者)とも受け取れる。
 再建のめどが立たなければ民事再生法の適用も受けられず、破たんするほかない。東北文化学園大の場合、一度断った医療法人恒昭会(大阪府茨木市)がスポンサーを引き受け、学生の居場所は土壇場で確保された。だが経営危機の表面化から約2カ月。この間の学生の不安を考えれば、スポンサー頼みではなく、地域の国公立大の活用も含めた転学支援体制が求められる。

仙台市議会の「意見書」(2004年6月22日付)は下記のとおり。

意見書第4号

東北文化学園大学及び専門学校の学生の教育機会の確保に関する件

 学校法人東北文化学園大学の一連の不正行為により,同大学及び東北文化学園専門学校で学ぶ学生は,その教育機会をも奪われかねない状況に置かれています。
 法人の不正行為は,学問に携わる者として,あってはならないことであり,その責任が厳しく問われるべきは当然であります。引き続き問題の究明が必要です。
 民事再生手続き開始の申し立てが行われた今,なによりも求められることは,大学と専門学校に学ぶ,5,000人を超える学生の教育機会を十分に確保しながらその再生を図ることであります。
 その責任は,第一には法人が負うべきではありますが,地域社会に与える影響の大きさに鑑み,関係する諸機関や諸団体が一致して対処することが重要です。
 よって,国,県及び仙台市におかれては,それぞれの役割を果たすべく,特段の努力をなされるよう強く要望します。

 以上、地方自治法第99条の規定に基づいて,意見書を提出します。

平成16年6月22日

参議院議長
衆議院議長
内閣総理大臣    あて
文部科学大臣 
宮城県知事
仙台市長

仙台市議会議長  鈴 木 繁 雄

[広島女子商学園のケース]
大学冬の時代(上) 危機の構図  融資厳しく支援模索(中国新聞2001.09.06)
大学冬の時代(下) 規制緩和  問われる「自己責任」 (中国新聞2001.09.07)
広島女子商学園 経営支援受け入れ (中国新聞2001.09.05)
大学に「冬」 地元に衝撃 (中国新聞2001.09.05)
「見通し甘かった」 ―学長会見(中国新聞2001.09.06)
再建策 隠せぬ不安 教職員「最悪免れた」 (中国新聞2001.09.06)
[再建後の破綻]
私立大 定員割れで「破たん」(読売新聞関西2003/04/07)
存亡の岐路に立つ大学(読売新聞2003/04/07)

投稿者 管理者 : 2004年09月07日 03:01

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