個別エントリー別

« 「地域貢献度」考慮せず 50私大に補助金15億円 | メイン | 横浜市立大、新学部のコース長(1年任期)も上から任命 »

2004年10月04日

国家公務員への復帰を予定した理事就任は国立大学法人の独立性を脅かす

「意見広告の会」ニュース198より転載

国家公務員への復帰を予定した理事就任は国立大学法人の独立性を脅かす
東北大学 川端望

 この間、「国立大学法人法案に反対する意見広告の会」のニュースにおいて、国立大学法人の理事に当該大学の元事務局長が就任していることが問題視されています。
 このことについて、私は論文「国立大学法人の管理運営制度と教員の地位」(『全大教時報』第27巻第6号、2004年2月)で次のように述べています。


「従来の国立大学の制度では、副学長をおくとしても教授でなければならなかった(国立学校設置法施行規則第2条第2項)。そして従来の教授会・評議会自治の発想からすれば、この法的制約が外れても、また役員は教員を兼ねることができないとしても、やはり主として教員から登用すべきということになる。しかし、研究・教育と経営の分離を正面から受け止めるならば、役員会はいまや教員の代表ではなく、法人の経営者である。人事・労務担当理事は人事・労務に精通し、これを大学経営の立場から合理的に遂行できる者が就任すべきであり、それが教員でなければならない理由はないことになる。外部から適切な専門家を招聘するか、それができないのであれば、学内の幹部事務職員を人事・労務担当理事とすることも十分に考えられる。学内の事務職員から選任することは、実際にその適性がある人物である限りにおいて、いわゆる「天下り」とは異なるとみなすべきである。教員の側は、教員から理事を登用することに固執するのではなく、人事・労務の専門家たる理事に経営責任を負わせ、自らは労働組合を通してこの理事と交渉すればよいのである」
 この論文では、法人制度化での労使関係の重要性を述べるために役員人事の問題を事例に用いています。つまり、評議会が最高意志決定機関でなくなり、役員会が経営責任を負う制度になってしまった以上、役員会を教員代表とみなして、教員から選任することに固執するのは適当ではない、ということが言いたかったのです。この見解はいまも変わっていません。そして、元事務局長が国立大学法人の理事になること自体は否定されるべきではないと、現在も考えています。
 しかし、「意見広告の会」事務局との情報交換を繰り返すうちに、理事への就任の仕方によっては、重大な問題が生じることがわかってきました。それは、元事務局長などが、「役員出向制度」を利用して、理事に就任している場合です。もっとわかりやすく言うと、元事務局長などが、国家公務員への復帰を予定して、理事に就任している場合です。
 国立大学法人の理事は公務員ではありません。ですから、国家公務員たる文部官僚などが理事に就任しようとすれば、国家公務員を退職しなければなりません。そして、繰り返しますが、退職した上で国立大学法人の理事に就任して、その職務に専念してくれるならば、そのこと自体は問題ないと私は思います。しかし、一時の職として理事となり、その後再び国家公務員となるならば、おおいに問題です。国立大学法人の、国から独立した法人としての立場、大学の自主性が守れなくなるおそれが出てくるからです。
 復帰を予定した退職など、常識的には考えられません。しかし、「意見広告の会」との情報交換により、「役員出向制度」がこれを可能にしていることを知りました。
 「役員出向制度」は、2001年12月25日に閣議決定された「公務員制度改革大綱」に盛り込まれたものです。そして、2003年の国家公務員退職手当法改正によって、制度化されました。「国家公務員が国等への復帰を前提として退職をし、独立行政法人等の役員に就任した場合には、退職手当を国等への復帰後の退職時にのみ支給することとするため、所要の規定を整備」(2003年6月総務省「国家公務員の退職手当制度の一部改正(概要)」)したものであり、条文では同法の第7条の3がこれに該当します。改正以前は、国家公務員が退職して独立行政法人等の役員に就任すると、まず国家公務員退職時点で退職金が支給され、さらに独立行政法人等の役員を退職した時点でまた退職金が支給されていました。これは、「天下りして退職金を二重取りしている」という批判を受けていました。そこで、この改正では、国家公務員への復帰を前提に独立行政法人等の役員に就任することができる制度をつくり、最初に国家公務員を退職した時点や、次に独立行政法人等の役員を降りた時点では退職員を支給せずに、復帰後、国家公務員を最終的に退職した時点でのみ退職金を支給することにしたのです。その際、国家公務員、独立行政法人等役員、国家公務員の前在職期間を通算して退職金の金額を計算するのです。もちろん、このためには独立行政法人等の就業規則が、これに整合する期間通算の規定を持っていることが条件です。
 なお、ここでは「出向」の意味が通常とは大きく異なっており、このことがこの制度のわかりにくさの一つの原因となっています。私もはじめは理解できませんでした。通常の用語では、「出向」とは、出向元の企業の従業員としての身分を保持しながら、他企業(出向先)の指揮監督下で就業することです。そうでなく元の企業を退職して別の企業に移るのは「退職・採用」であり、親会社から子会社への移動などの場合には「転籍」とも言われます。「役員出向制度」の場合は、役員就任時に国家公務員を退職するのですから、通常の用語では「出向」ではないのです。趣旨としては、復帰を予定しているから「出向」だということなのかもしれませんが、民間企業では復帰を予定しない「出向」もありますから、やはりおかしな言い方です。
 ともあれ、これで確かに退職金の二重取りはなくなるのでしょうが、別の問題が生じ
ます。独立行政法人等役員を、公然と、国家公務員のローテーションに組み込むことが可能になってしまうということです。これでは、独立行政法人等の役員職にふさわしくない人物が、省庁のローテーションの都合で送り込まれるのではないか、政府からの独立性が保てないのではないか、といった「天下り」批判で言われる別の問題が、そのまま残るか、かえって悪化しかねません。まして、制度の趣旨からいっても政府からの独立性が強く求められる国立大学法人に「役員出向」するというのはとんでもないことです。文部官僚への復帰を予定した役員は、どうしても文科省の意向に反する行動を取りにくくなります。従来の事務局長がそのような立場にあったことと同じ問題が、法人化後も継続します。しかも、法人化以前は事務局長は評議会に参加してはいなかったのに対して、法人化後は、理事が経営の責任と権限を持っていますから、そうした従属的立場にあることはいっそう問題です。
 したがって、私は拙稿で述べた立場を次のように補充したいと思います。
 「国立大学法人の理事をすべて教員から選出すべきだという立場には合理性がない。人事・労務担当理事などは、実際にそれを担う経営能力がある人物が就任すべきであり、それは外部から来ても元事務局長であっても、それ自体は問題ではない。しかし、元事務局長などの官僚が、国家公務員への復帰を予定して『役員出向』してくることは、国立大学法人の政府からの独立性を損なう危険があるので、行うべきではない」。
 現在、国立大学法人の理事に元事務局長が就任している大学については、それが「役員出向」なのか、そうでないのかをはっきりさせる必要があります。そして、「役員出向」中の理事については、「役員出向」を中止して国家公務員を完全に退職し、国立大学法人の経営に専念することを要求すべきでしょう。それに応じない理事は、経営者としての資格が問われます。また、「役員出向」は今後実施しないことを各大学の方針として明確にさせるとともに、文部科学省には「役員出向」の押しつけを決して行わないことを求めるべきでしょう。

※「役員出向制度」の理解については、「意見広告の会」事務局との情報交換がたいへん役に立ちました。お礼を申し上げます。ただし、この文章に表現されている意見は私個人のものです。

※引用文献
川端望「国立大学法人の管理運営制度と教員の地位」
http://www.econ.tohoku.ac.jp/~kawabata/ronbun.htm
公務員制度改革大綱
http://www.gyoukaku.go.jp/jimukyoku/koumuin/taikou/index.html
国家公務員の退職手当制度の一部改正(概要)
http://www.soumu.go.jp/jinji/pdf/teate_t15a.pdf


投稿者 管理者 : 2004年10月04日 01:08

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://university.main.jp/cgi/mt/mt-tb.cgi/1958

コメント