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2004年10月26日

<試練の国立大 法人化から半年>生き残り戦略 道内7大学の学長に聞く(上)

北海道新聞(2004/10/18)

 国立大学が国から独立し、法人格を持つ「国立大学法人」に移行して半年がたった。道内の国立七大学は、あの手この手で個性を打ち出し、生き残り競争に勝ち抜こうと試行錯誤を重ねている。各学長のインタビューを二回にわたって紹介する。
■北大 中村睦男氏
*入試と就職支援を強化
 −−法人化で最も変わった点を聞かせてください。
 「教育への視点です。国立大学は学生が来ようが、来まいが、関係ありませんでした。これからは学生が定員を割れば、それ自体が(経営上の)欠損となります。また、大学の一番大きな任務は人材養成です。法人化を機に、その考え方を強く打ち出しています」
 −−具体策としては。
 「入り口と出口の強化です。入り口の入試では、受験生への説明会やオープンキャンパス(見学会)に力を入れています。出口の就職について、これまで国立大学は不熱心だと言われてきましたが、本年度から、就職支援のためのキャリアセンターをつくり、企業回りなども積極的にやっています。教員は『自分たちは研究者で、教育は雑用』と思っているところがありましたが、教育が大学にとって大切だという認識が高まっています」
 −−個性の競い合いの中でどのように特色を打ち出していきますか。
 「北大は農学部、獣医学部に限定すれば特徴があります。しかし、文系や理学部、医学部など、特定の分野に偏らず、すべてを網羅せざるを得ません。目を向ける方向も、研究なら世界水準の研究が求められます。地域貢献や産学連携も重要です。北海道、日本、世界のすべてに目を向けなければなりません」
 −−総花的な印象もありますが。
 「従来は学部の自治権が強く、単科大学の集まりのようなものでしたが、法人化に伴い、学長を中心にリーダーシップを発揮できる組織になりました。文部科学省の『21世紀COE(卓越した研究拠点)プログラム』の結果をみると、総合大学が強い。北大も昨年度の六件に続き、本年度も二件選ばれています。北大は研究科間の壁が低く、全学部で取り組む時、チームを組みやすい。総合力を発揮できるのではないでしょうか」
 −−今後、企業や社会を意識した実用研究への比重は高まりますか。
 「それも重要でしょう。しかし、教育研究は連続性が大切です。例えば、鳥インフルエンザが注目されていますが、これは獣医学研究科で二十年前から、渡り鳥を捕まえ、地道に研究しています。当時はあまり相手にされませんでした。無駄をやり続け、二十年後に芽を出す。大学とは、いつ芽が出るかわからない無駄を許容するところです。企業とは違う。そこはぜひ、社会の理解を求めたいですね」
■旭医大 八竹直氏
*地域医療の精神を貫く
 −−法人化で最も変わったのはどこですか。
 「意思決定機関が役員会に一元化され、迅速になりました。小さな例ですが、医大の付属病院は市街地から五キロ離れ、通院には車が欠かせません。患者と教職員、学生用の駐車場(二百五十台分)を約五千万円を投じて九月に造成しました。法人化前は、財源をめぐって国との調整が面倒だったのですが、法人化で意思決定がはるかに簡素化されました」
 −−予算のやりくりの面でも、大学の裁量が広がりましたね。
 「例えば、本年度は学内の予算の中から一千万円を捻出(ねんしゅつ)し、独創性のある生命科学研究に対して助成する新しい制度をつくりました。七月に、どんな研究を進めるかというテーマを募集したところ、学内から十七のアイデアが出ました。これを二つのテーマに絞り、九月に特別プロジェクトを立ち上げました。一千万円を自由に使った研究が将来、医薬品の開発などに結びつくことを期待しています。成果が上がれば、来年度は助成金の増額も検討します」
 −−「日本最北の医科大学」が旭川医大のキャッチフレーズですね。
 「法人化になっても、へき地で自立できる医療人の育成という本学の目標は変わりません。道内の医療過疎の解消を目指した医学教育が必要です。このために、昨年度から、五、六年生の学生を主体に、夏と冬の休業期間に一週間のへき地医療実習も開始しました。本年度は道内三十四の医療機関に学生が出向きます。地域医療の実情を理解することがとても大切で、大学の社会貢献の一つと考えています」
 −−医大の将来を、どのように描きますか。
 「インターネットをうまく活用し、遠隔地の医療過疎を解消していきたい。現在、道北地方を中心に二十九の医療機関をネットで結んだ遠隔医療を行っていますが、これを将来は拡充していきます。入試改革では、医療過疎を解消するためにも一般選抜で『地域枠』をつくってほしいという要望があり、検討中です。地域医療に役立つ医大という建学の精神を、法人化後も愚直に守っていきます」
■道教大 村山紀昭氏
*IT駆使し双方向授業
 −−法人化の中で、道内に五つのキャンパスを持つ特色をどう生かしますか。
 「地域貢献の足場にしたいと思います。旭川校は昨年から、歌登町など南宗谷地方の四町と連携し、子育てセミナーを始めました。大学教員が地域の人たちに『子供の成長と絵本』などをテーマに講義しています。このような貢献を前提に、岩見沢校、旭川校、釧路校が今年、地元自治体と相互協力協定を締結しました。年度内には函館校、札幌校が結ぶ計画です」
 −−学生にはどんなメリットを提供できますか。
 「各キャンパスを情報技術(IT)で結んだ双方向の授業を来年度から本格始動させます。専任教員四百二十人の授業を全校で受けられます。外部講師の力も借りました。アイヌ文化振興・研究推進機構(札幌)から派遣を受け、第一弾として、四月から四キャンパスでアイヌ語の授業を始めました。北洋銀行から金融専門家を招くことも検討しています。最先端の研究を目指す大学ではないのですから、教育の充実を追求します」
 −−「教員養成大」として学校現場の要請にどう応えますか。
 「今夏、道教委の依頼で、生徒指導をテーマに、小中高校教諭約三百人対象の十年経験者研修を初めて行いました。現場に疎くなりがちな教授陣には、苦労や課題を直接聞くまたとない機会でした。来年は札幌校以外にも広げます。五年、十年続けたら教授たちの意識は変わるでしょう。道教大の存在基盤は、都道府県で四番目という四万五千人以上もの先生のサポートをしっかり行い、道内教育の向上に役立つことです。大学教育だけでは、それは果たせません。教員養成と現職研修は車の両輪なのです」
 −−先生の資質をさらに高めるためには。
 「現職向けの実践的な大学院を充実させ、夜間コースに専任教員を配置する計画です。まずは来春、北見市にサテライト大学院を開講し、十数人規模のゼミ形式でスタートさせます。現場の幅広い課題に応じられる先生の育成が今後、重みを増してくるはずです」
 −−変化の実感はありますか。
 「どこに力点を置くか戦略を明確にしないと『大学全入時代』は乗り切れません。今までお話ししたようなアイデアを、法人化でかなり自発的に進められるようになりました。以前なら財源をめぐる国とのやりとりが大変で、多くが棚上げされていたでしょう」


投稿者 管理者 : 2004年10月26日 00:21

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