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2004年10月26日

<試練の国立大 法人化から半年>生き残り戦略 道内7大学の学長に聞く(下)

北海道新聞(2004/10/25)

■北見工大 常本秀幸氏
*「任期制」で緊張感持続
 −−法人化による変化を一番感じるのはどこですか。
 「教員の定員制がなくなり、人事の裁量が広がったことです。十月までに助手三人を助教授にしました。事務職員数や役員給与の削減で浮かせた人件費を回すことで、『昇任はやる気次第』という活気を生み出したいのです」
 −−三−五年ごとに再任するかどうか審査する大胆な「教員任期制」を四月に導入しましたね。
 「評価基準の詳細は教員に伝えてあり、ある程度客観性は保てると考えています。理想を言えば、教育四割、研究四割、大学活性化・社会貢献二割で活動する教員が、学内の八割程度いてほしい。その活動のために緊張感を持続してもらうのが目的です」
 −−六年後、中期計画に基づき大学が国から評価されます。地方の単科大は公平に扱われないのでは、との不安はありますか。
 「旧帝大や都市の大学との格差を考慮してと強く言いたい。例えば共同研究で企業から受け取る外部資金はうちが百万円でも、有名大なら一千万円になるでしょう。でも、額の大きい方が優れた研究とはならないはずです」
 −−道内六単科大の統合構想が法人化の準備を優先するために流れ、二年たちました。連携をどう考えますか。
 「うちの大学はソーラー発電など寒冷地工学が最先端です。このような単科大ならではの個性を残すには、一法人にするより部分連合が現実的でしょう。共同研究からでも良いのですが、北大を含めた分野ごとのグループづくりを急がなければと痛感しています」
■小樽商大 秋山義昭氏
*副読本出版し魅力PR
 −−法人化から半年で何が変化しましたか。
 「教職員一人ひとりが中期目標、中期計画の達成を念頭に学内運営に当たるようになりました。人事面でも、英語の専門家を新たに採用するなど柔軟になりました」
 −−大学としての特色づくりが大切ですね。
 「大学としての個性や魅力を明確に打ち出し、存在感を社会的にアピールすることが、法人化後は特に重要になってきました。本学の特色は、ゼミなどきめ細かな教育内容に加え、国際交流協定を結んでいる十二カ国十七大学から毎年百人の留学生を迎え、国際交流が盛んなことです。産学連携で実学を重視する伝統もあり、社会人教育にも力を入れています」
 −−学生確保も大切な課題ですね。
 「今春は本学の志願者の93%が道内出身者で、そのうちの七割が札幌圏でした。立地条件が良いことは小樽商大の強みですが、半面では弱みともいえます。景気が上向けば、志願者が本州に流れる懸念もあります。本州出身者の比率を増やしたいと思っています」
 −−具体策を教えてください。
 「九月に名古屋で道内国公立大の合同説明会が開かれ、小樽商大も参加しました。また、高校生向けの社会科学の副読本を全国出版したりして、大学の魅力をアピールしています」
 −−悩みは。
 「六年後の国による評価で、社会に直接役立つ研究が評価され、基礎研究がなおざりにされる心配があります。国の交付金も今後、減少します。『北に一星あり。小なれども輝光強し』という言葉が本学にはあります。小さくても存在感のある大学を目指します」
■室蘭工大 田頭博昭氏
*技術生かし地元に貢献
 −−法人化に伴い、どのような特色を打ち出していきますか。
 「無理に特徴をつくろうとはしていません。メディアで太鼓をたたいてくれる際物を作らなければ、大学は生き残れないという考えには疑問を持ちます。法人化にかかわらず、大学は学生に、将来役立つ学問的実力と人間的な幅、深さをどうやって教育するかを考えることが大切です」
 −−研究の方向性についての考えは。
 「二十世紀の科学技術は光と影がありました。影の面を忘れず、社会、自然、人間に反する方向に踏み込まないことが大切です。先端の研究をして、おかしな方向に行くことがあるかもしれません。中期目標、計画でも科学技術と人間、社会のミスマッチを起こさないことを明記しています」
 −−地域のニーズにどう応えていきますか。
 「室蘭市長が環境産業を振興すると打ち出しているのだから、これまで獲得してきた高度な科学技術を生かし、支援していかなければなりません。学内に環境科学センター(仮称)を設置し、室蘭にとって大切なものを一つか二つ選び、学内の環境科学関係の教員を網羅し、集中的に研究費をつぎ込んで地元に貢献していきたいと考えています」
 −−改革をどのように進めますか。
 「毛沢東がいう『永久革命』でありたい。必要な変化を起こしても、時間がたてば風化します。例えば、近代資本主義が出てきた時は崇高な精神でしたが、今は精神が風化してゲーム感覚です。つまり、ある学科に本来の精神があっても、年月がたてば風化することがあります。常に風化をチェックし、革命を続けなければなりません」
■帯広畜産大 鈴木直義氏
*海外と研究の連携強化
 −−法人化後の大学運営の目標は。
 「畜産衛生学の研究に特化した大学づくりという方針を、中期計画に盛り込みました。全国の国立大学法人のなかで、帯畜大は一番規模が小さいのですが、動物に由来する食品衛生に関する科学的研究を行う『専門店』のような大学をつくることを目指しています」
 −−人材養成についてはどうですか。
 「畜産、環境衛生、食品衛生など各研究分野を総合的に学んだ研究者を養成したい。こういう大学は、日本にはありません。例えば牛海綿状脳症(BSE)の安全性が国際政治上の問題になったときに、中立的立場で科学的データを世界に向けて情報発信することが、本学の重要な使命だと考えています」
 −−どうして世界を意識するのですか。
 「学問の世界では各国の研究者が命懸けの競争を続けています。実績に対する国際的な信頼を得ることなしには、競争は勝ち抜けません。帯畜大は現在、米テキサス大やドイツのミュンヘン大と共同研究を続けおり、今後も研究上の連携を強化する考えです」
 −−少子化のなかで、学生確保の見通しは。
 「帯畜大の入試難易度は、畜産分野では東大、北大に次いで高くなっています。現在は学生の八割が本州出身で、このうち半分が道内に残って就職します。良い大学には学生が全国から集まるものです。少子化だから、学生集めに力を入れようという発想はありません。質の高い学生が来るような高いレベルの大学をつくること。これが先決だと思っています」


投稿者 管理者 : 2004年10月26日 00:23

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