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2004年11月22日

大学評価学会、第11回月例研究会(北海道大学)

大学評価学会暫定ホームページ
 ∟●第11回月例研究会(2004年11月20日(土) 北海道大学) 概要

 大学評価学会第11回月例研究会は11月20日(土)午後1時30分より北大農学部で開催された。この研究会では,以下3つの報告がなされた。

1.「大学生の生活・家計調査と大学評価の視点-北海道私大経営危機と学生父母世帯家計実態との関連-」、片山一義(札幌学院大学)
2.「法人化後の北海道大学と評価問題」、伊藤雄三(北海道大学)
3.「国立大学法人化に伴う『イコール・フッティング』論について」、佐藤卓利(学会運営委員、立命館大学)

 報告の要点は次の通り。

1.「大学生の生活・家計調査と大学評価の視点-北海道私大経営危機と学生父母世帯家計実態との関連-」

 大学評価基準を考える際,学費を含めた進学費用全般の問題を踏まえ,各大学がどのような取り組みを行うかが一つの重要な論点となる。この点に関わり,同報告は北海道私立大学学生父母家庭における所得構造をいくつかの調査統計から分析し,合わせて低所得階層の比重の高まりが道内大学進学率の低迷(全国より約10%低い)ひいては道内4年制私立大学の危機(総定員でみた定員割れ4年制私大7校の出現)の規定的要因であることを主張するものであった。
 2003年度道内私大生の進学に関わる総費用は,4年間で平均1,139万円,他方学生父母世帯のうち年間税込み総収入が500万円以下の世帯は17.2%,700万円以下39.2%であり,この比率はほぼ1999~2000年を境に急増加に転じた。同様に,北海道では,世帯主45~54歳層(大学生を子どもにもつ年齢層)48.8万世帯のうち世帯総所得500万円以下は2002年度で18万世帯,全体の36.9%を構成し(1997年度31.5%),低所得階層の比重が5年間で高まっている。このことは道内大学進学率の低さと専門学校進学率の高さ(47都道府県ランキングでみて前者が40位,後者5位)の固定化につながっている。また,同報告では特定の私大を実例に,奨学金貸与者の家計支持者の所得階層分布・構成比率と低所得階層の全学生に占める割合,有利子等政策転換後の日本学生支援機構奨学金制度の現状と問題点についても報告した。

2.「法人化後の北海道大学と評価問題」

 同報告は,法人化後の北海道大学を事例にしながら,多様な視点から大学評価問題を論ずるものであった。ここでは,「科学技術基本計画から見た成果・評価(平成3年から16年まで3期に分けて投じられた総額45兆円を超える巨費を踏まえて)」,「企業社会からみた成果・評価」,「大学側からみた評価(一般研究費・裁量経費・COE研究費等の研究面,TLO・地域連携等の共同研究面,授業評価・資格取得・就職支援・高大連携等の教育面から),「国民・市民から見た評価(何が期待されているのか,教育ををどうするのか,自己点検・説明責任等)」,「その他業績評価問題」として人事制度,任期制等の各評価視点が取りあげられた。
 そして,「大学人の評価問題と絡んで」,1.法人化後の大学運営・トップダウン型大学運営(学部レベルも同じ),2.経営協議会の資質(外部の人を入れることで「知の共同体」としての認識の欠如が進行),3.教育研究評議会の無権限化,4.研究者育成機能の低減(助手の任期制による),5.国立大学法人評価委員会の設置に基づく資金配分,6.学長選考のあり方(学長選考会議のあり方),に関わる問題点が指摘された。国立大学法人化は,基礎研究の軽視,あるいは大学院定員充足の厳格化による質の低下等に象徴されるように,研究・教育機能の高度化ではなく,逆に機能低下をもたらしている現状が議論された。

3.「国立大学法人化に伴う『イコール・フッティング』論について」

 同報告は,大学の設置形態の違いを超えた大学評価の共通基準をどこに求めるのかという問題について,近年日本私大連盟が出した2つの文書「高等教育機関改革の必要性とイコール・フッティング(競争条件の整備・競争機会の均等)形成-真の公正・友好な市場原理導入のために-」と(平成16年3月16日)と「規制改革と『自己責任戦略経営』の確立(平成15年3月18日)を紹介しつつ,批判的に検討するものであった。
 結論から言えば,私大連盟がいう「イコール・フッティング」論は,国の財政支援により競争条件の均等化・国公私立大学間格差の是正を主張するものであるが,大学が担うべき公共性の内容を積極的に提示できていない。いま問われるべきは現代社会における公共性の内容であり,特に私立大学の場合,学園ミッション・独自教学理念の追求により公共性の具体化であろう。この視点も大学評価の基準として不可欠であると主張された。


投稿者 管理者 : 2004年11月22日 01:21

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