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2004年12月27日

国際人権規約の高等教育無償化条項に対する日本政府の留保撤回の課題

京滋私大教連
 ∟●機関誌No95(2004.12.20号) より

「関西私大助成シンポジウム二〇〇四」パネリストから

国際人権規約の高等教育無償化条項に対する日本政府の留保撤回の課題

龍谷大学法学部 田中  則夫

 国際人権規約(社会権規約)の高等教育無償化条項(一三条二C)は、単に理想を述べたに過ぎない規定ではありません。高等教育=大学の学費を無償にするためには、相当の経済力がなくては不可能です。しかし、それにもかかわらず、同規約の制定過程では、社会と人問の発展にとって、教育が果たしうる不可欠の役割にかんがみ、経済力に乏しい、多数の諸国がこの条項の提案者になっていたのです。
 改めて述べるまでもなく、国庫助成の充実を求める運動は、学費の無償化を求める運動ではありません。約280万人をこえる大学生の学費を無償化せよとの要求を、いま直ちに立てることが妥当かどうか、簡単に肯定することはできないように思います。しかし、問題とすべきは、日本の高等教育予算が余りにも貧困な状況にあることです。文部科学省でさえ、高等教育予算が対GDP比(平均)で一・二%ほどのOECD諸国と比べ、わずか〇・五%の水準にとどまっている日本の現状に、警鐘を鳴らし始めています。
 社会権規約の高等教育無償化条項に対して留保を付しているのは、一五〇ヵ国近い締約国の中で、アフリカの二国と日本だけです。日本は世界の国の中で、例外的な立場に立っているのです。日本の留保を撤回させることは、国庫助成を含む高等教育予算の充実を求めるうえで、最大の法的拠り所を得ることを意味します。社会権規約の実施機関である社会権規約委員会の見解(一般的意見)によれば、一三条二cは「漸進的」と規定しているから、無償化に向けて措置をすぐにとらなくても非難されない、ということでなく規約の締約国は、その方向に向けて「できる限り迅速にかつ効果的に移行する」ための措置をとる義務を負っているのです。
 二〇〇一年の社会権規約委員会における国家報告書審査において、日本政府代表は、日本では大学への進学率が非常に高く,高等教育を受ける権利は十分に保障されているから、留保を撤回する考えはないという趣旨のことを述べていました。しかし、同委員会は、審査ののちに採択した結論的所見において、日本政府に対して留保を撤回するよう勧告しました。
 政府は、二〇〇六年六月末までに、日本における社会権規約の実施に関する第三回目の国家報告書を提出しなければなりません。その報告書には、同委員会から受けた勧告を実施するためにとられた措置に関する情報を含めなければならないことになっています。こうした状況に学生、父母、市民のみなさんに訴えていくことが大事だと思います。そのことを通じて、国庫助成運動への社会的な支持の輪を一層拡げていく必要があります。


投稿者 管理者 : 2004年12月27日 02:29

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