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2005年01月07日

「戦争は外交の失敗の結果であり戦場は議場の失敗の形態である」

東京新聞(1/01社説)

年のはじめに考える この国にふさわしい道
……
■敗戦の反省はどこへ

 そのかたわら、憲法を改定して、海外での武力行使、集団的自衛権の発動を可能にし、専守防衛の枠を超えた装備の開発へ向けた動きが活発です。同時に国家権力を強化する法律も着々と。

 小泉政権の延長線上には、必要なら米国と連携して武力行使をという国のあり方がちらちらします。

 イラクへの自衛隊派遣延長に対する六割以上の世論の反対には、そうした不安も込められています。

 六十年前、敗戦の反省から歩き始めた道をかなりはずれてしまったようです。ここは還暦の年、出発点に立ち返って考えてみます。

 「悲しみと苦しみのただ中にありながら、なんと多くの日本人が平和と民主主義の理想を真剣に考えていたことか!」(ジョン・ダワー著「敗北を抱きしめて」岩波書店)

 その中からいまの憲法が生まれ、米国の圧力にもかかわらず、半世紀以上も改定しないことで、自分のものにしたのです。

 国権の強化、軍部独走、そして数百万の生命の犠牲など、戦前への深い反省があったからです。

 国民主権、戦争放棄、基本的人権尊重のもと、私たちは六十年の間、戦火に巻き込まれず、他国民を殺害せず、生活を向上させました。

■武力による安定は困難

 この基本を踏み外さずに、この国の針路を考えてみます。

 憲法九条の理念を最大限に生かし、平和と安定の新しい国際的な秩序づくりに大きな役割を果たす、こんな国のあり方です。

 テロ頻発、中国の軍備増強、北朝鮮のミサイルがいつ飛んでくるか分からないとき、書生論、平和ボケなどの言葉が飛んできそうです。

 しかし、現実はどうでしょう。

 「戦争は外交の失敗の結果であり戦場は議場の失敗の形態である」

 猪口邦子上智大学教授は、軍縮日本大使の経験から断言します。(「戦略的平和思考」NTT出版)

 戦争やテロを防ぐには、あらゆる「武器の不拡散政策の強化、同時に軍備の量的縮減を一対のものとして進める」ことが急務と指摘し、「戦場には参加しにくい日本は一層のこと、平和を画策する議場戦士としての外交力の傑出を」と、日本の役割を描いています。

 この場合、六十年間も戦争を仕掛けず参加せず、武器を輸出せず、核兵器を造らず持たないできたこの国のあり方は、国際的に大きな説得力を持っています。

 それなのに、最近はこの原則をなし崩しにする動きが目立ちます。戦後の六十年で身につけた財産をおろそかにしてはなりません。

 それに世界を見渡すと、武力を使わず紛争を解決し、安定を実現する試みが着実に進んでいます。


 現に起きている地域連携や地域統合です。欧州連合(EU)の加盟国は二十五カ国、巨大な経済圏をなし、憲法までも。長い間、戦争を繰り返した歴史を教訓にしてのことです。

 アジアでも、東南アジア諸国連合(ASEAN)に日中韓を加えた広大な地域で、連携の動きが活発です。信頼をつくり出し、もめ事は話し合いで解決する。補い合って民生の安定を目指す。やがては地域連合へ…。

 時間はかかりますが、こうした模索自体が地域の不安定要因を取り除き、ひいては紛争やテロの温床である地域や宗教の対立、確執を鎮め、貧しさを解消します。

 武力を使わない平和と安定の実現は決して絵空事ではありません。

 むしろ、米国のイラク支配を見ると、武力による安定がいかに難しいかが分かります。武力の行使が憎しみや恨みを生み、さらに武力を、と悪循環に陥っています。

■日本主導による平和を

 「パクス・ヤポニカ」

 「日本主導による世界の平和」とでも訳しますか。宗教学者の山折哲雄さんは、平安三百五十年、江戸二百五十年の長い平和の時代に注目します。それを実現した「武家的なもの」を抑制し、武力の発動を鎮める技術の伝統や知恵を、世界に広く発信するよう提言します。(「日本文明とは何か」角川叢書)

 武力を使わない新しい国際的な秩序づくり-日本にふさわしく、より現実的な役割ではないでしょうか。「戦後零年」に還(かえ)った元旦、あらためて思います。


投稿者 管理者 : 2005年01月07日 00:11

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