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2005年01月18日

教育の国家統制をめざす教育基本法「改正」法案の国会提出に反対する文化人123人の声明

「意見広告の会」ニュース237より

教育の国家統制をめざす教育基本法「改正」法案の国会提出に反対する文化人123人の声明

 与党の「教育基本法改正に関する検討会」は、二〇〇四年六月一六日、「教育基本法に盛り込むべき項目と内容について(中間報告)」を発表しました。これを受けて、合意部分について文部科学省側で具体的な法案作成作業に入ったことが伝えられています。この与党検討会は今後、「愛国心」の表現や宗教教育の扱いなど、意見の分かれている項目に関して引き続き議論することになっています。
 この中間報告では、「別紙」で前文及び各条項について「改正」の概要が記されていますが、中間報告と銘打っているにもかかわらず、文書化されている部分はごく僅かであり、「改正」にあたっての基本的な理念は何一つ示されていません。また個々の改正点について、その改正理由すら全く記されていません。そして、多くの重要論点については、なお検討を要するとして結論が先送りされています。
 にもかかわらず、「別紙」として箇条書き程度に列挙された改正点には、現行教育基本法の基本原理を踏み躙り、その内容を一八〇度転換させようとする意図が随所に見られます。
 私たちは、この中間報告に代表される現在の教育基本法「改正」作業について、特に見過ごす事のできない以下の点を指摘し、警告するものです。

教育の国家統制に道を開く十条「改正」
 現行法は、戦前の教育が、国家による極端な内容統制によって歪められた反省から、教育と教育行政を分離し、教育行政の教育内容への不介入の原則を第十条で打ち立てました。
 ところが中間報告では、この教育と教育行政の分離を定める第十条について、主語を「教育は」から「教育行政は」にすり替え、この一見些細な文言の修正に見せかけによって、教育と教育行政を一体のものとして扱うという重大な改訂を行い、戦前の国家による教育統制を想起させる内容となっています。この改訂と教育振興基本計画の策定がセットで行われれば、現行教育基本法の原理は完全に崩壊し、教育行政の教育内容への無限定の介入を導くことになります。

人間の内心に踏み込む復古主義的な徳目の列挙
とくに問題なのは、復古主義的な徳目の列挙によって教育を統制しようとしていることです。
 与党中間報告では、教育基本法に掲げる「教育の目標」として、二〇もの徳目を列挙しています。現行法にある徳目は、憲法の理念と対応したものになっていますが、中間報告では、「伝統文化の尊重」や「郷土や国を愛する(大切にする)」ことを教育目標に組み入れようとしています。これは、およそ法で統制すべきでない領域、国家が文化や愛国心の内容を定め、人々の内心に踏み込むことを是認するものであり、憲法によって保障された思想良心の自由の侵害にあたるものです。これはさらに、憲法の理想を実現するために一体的に制定された教育基本法を、憲法から切り離すものであります。

強者の論理によって教育を再編
もう一つの重大な問題点は、強者の論理によって教育を再編しようとしていることです。
 中間報告では、「教育の目標」として「一人一人の能力の伸長」を謳ってはいますが、同時に、現行法が「教育の機会均等」で規定する「ひとしく」という文言が削除されています。これは、すべての子どもがひとしく、一人一人の能力や個性に応じ、その可能性を開花させることのできる教育を受ける権利を保障するという現行法の理念を否定し、教育の差別化、序列化を加速するものです。また、義務教育についても、「人格形成の基礎と国民としての素養を身につけるため」として、権利としての教育ではなく、義務としての教育という考えをことさら強調する内容になっています。ここでも戦前の義務教育観を復活させようとする意図が透けて見えます。

教育基本法の基本法的性格に関する認識の欠如
このような与党合意による「改正」への方向づけは、準憲法としての教育基本法の基本法的性格に関する認識の欠如を反映しています。
 中間報告では、教育基本法「改正」の検討にあたって、「格調高い法律を目指す」との前提が示されています。そうであれば、教育基本法の準憲法的な位置づけを踏まえ、憲法との関連が真っ先に検討されて然るべきです。ところが中間報告では、現行法前文中の、「『憲法の精神に則り』の扱いについて、さらに検討を有する」こととし、その扱いを先送りするという本末転倒の過ちを犯しています。これは、最高裁判決でも確認された教育基本法の準憲法的位置づけについての認識が完全に欠落していることを自ら明らかにするものです。

 その他にも、中間報告では、本来法が踏み込むべきでない家庭教育について殊更に項目を設けることによって、家庭教育への国家の介入を企図していることや、本来主役であるはずの子どもの視点からの発想が全く見られないなど、看過することのできない重大な問題が多く含まれています。
 さらに、このような重要な法律の改正作業は広く市民に開かれた形で行われて然るべきですが、中央教育審議会の答申後、「改正」作業が与党の検討会に移ってからは、その検討内容はほとんど密室の作業として行われています。すべての子どもと社会の将来を左右する、世界に開かれるべき教育の在り方を定める基本法の審議が、このようなほとんど密室の作業として行われていること自体、重大な問題と言わざるを得ません。
 私たちはこれまで中教審の教育基本法の「改正」の審議に対し二回にわたり声明を発表し、中教審の教育基本法見直し論議の問題点を指摘してきました。ところが、今回の与党中間報告は、そこで指摘された問題が解消されるどころか、さらに増幅拡大するものとなっていることに、私たちは重大な危機を感じざるを得ません。この中間報告の骨格に従って法案が作成され、上程されるとすれば、日本の将来に重大な禍根を残すことになりかねません。私たちは、以上のように、重大な問題点を含んでいる現在の教育基本法「改正」作業に強く抗議するとともに、「改正」法案を国会ノ提出しないよう求めるものです。

2005年1月20日


賛同人
(50音順、敬称略、1月11日現在、計123人、*印はこの声明の呼びかけ人)

浅井愼平(写真家)
浅田光輝(立正大学名誉教授)
* 味岡尚子(全国PTA問題研究会)
新崎盛暉(沖縄大学名誉教授)
安藤彦太郎(日中学院学院長・早稲田大学名誉教授)
安野光雅(画家)
井家上隆幸(フリーライター)
池田香代子(翻訳家)
伊佐千尋(作家)
石井桃子(著述)
* 石井小夜子(弁護士)
市川昭午(国立学校財務センター名誉教授・前中央教育審議会委員)
一海知義(神戸大学名誉教授)
伊藤成彦(中央大学名誉教授)
伊藤比呂美(詩人)
入江曜子(作家)
色川大吉(歴史家)
岩崎 力(東京外国語大学名誉教授)
宇井 純(沖縄大学名誉教授)
宇佐見圭司(画家・京都市立芸術大学教授)
宇沢弘文(日本学士院会員)
内橋克人(経済評論家)
永六輔(ラジオタレント)
海老坂武(フランス文学者)
大石芳野(フォトジャーナリスト)
大江志乃夫(歴史家)
大久保昭男(イタリア文学)
大城立裕(作家)
岡部伊都子(随筆)
* 尾木直樹(教育評論家)
沖浦和光(桃山学院大学名誉教授)
奥平康弘(憲法研究者)
* 奥地圭子(東京シューレ)
小倉英敬(国際基督教大学講師)
小山内美江子(脚本家)
小沢さとし (信州豊南短期大学講師)
小沢遼子(評論家)
小田実(作家)
片桐ユズル(京都精華大学名誉教授)
桂 敬一(立正大学教授)
加藤幸子(作家)
鹿野政直(歴史学専攻者)
鎌田慧(ルポライター)
上笙一郎(児童文化評論家)
川添登(建築評論家)
* 川田龍平(人権アクティビストの会)
川村湊(文芸評論家・法政大学教授)
* 喜多明人(早稲田大学教授)
北村薫(作家)
北村想(劇作家)
木下順二(劇作家)
金時鐘(詩人)
栗原彬(明治大学教授)
黒古一夫(文芸評論家・筑波大学教授)
河野修一郎(作家)
高史明(作家)
小谷真理(文芸評論家)
小中陽太郎(日本ペンクラブ理事)
小檜山博(作家)
* 小森陽一(東京大学教授)
早乙女勝元(作家)
坂本義和(東京大学名誉教授)
* 佐藤学(東京大学教授)
佐野眞一(ノンフィクション作家)
ジェームス三木(脚本家)
下田治美(著述業)
城山三郎(作家)
杉原泰雄(一橋大学名誉教授)
鈴木道彦(フランス文学者)
徐京植(作家)
高木敏子(児童文学作家)
高橋哲哉(東京大学教授)
高畑勲(アニメーション映画監督)
高柳芳夫(作家)
高良勉(詩人)
田口富久治(名古屋大学名誉教授)
武田清子(国際基督教大学名誉教授)
田島征彦(画家)
巽孝之(慶應義塾大学教授)
辰濃和男(ジャーナリスト)
* 俵義文(子どもと教科書全国ネット21)
* 辻井喬(作家)
津田道夫(著述業・障害者の教育権を実現する会)
角田房子(作家)
鶴見和子(上智大学名誉教授)
* 暉峻淑子(埼玉大学名誉教授)
直木孝次郎(大阪市立大学名誉教授)
永井憲一(愛知学院大学教授)
永井路子(小説家)
* 中川明(弁護士)
中川李枝子(作家)
* なだいなだ(作家・精神科医)
* 西原博史(早稲田大学教授)
野見山暁治(作家)
朴慶南(作家)
秦恒平(作家・日本ペンクラブ理事)
羽田澄子(記録映画作家)
林 郁(作家)
林 京子(著述業)
林 光(作曲家)
針生一郎(和光大学名誉教授)
* 藤田英典(国際基督教大学教授、前教育改革国民会議委員)
古川純(専修大学教授)
古田足日(児童文学者)
* 増田れい子(エッセイスト)
水島朝穂(早稲田大学教授)
水田 洋(名古屋大学名誉教授)
宮内勝典(作家)
宮田光雄(東北大w名誉教授)
宮本憲一(大阪市立大学名誉教授)
* 牟田悌三(俳優)
無着成恭(僧侶)
村上 伸(日本キリスト教団代々木上原教会牧師)
室伏哲郎(創作・評論)
* 毛利子来(小児科医)
持田季未子(大妻女子大学教授)
山口二郎(北海道大学教授)
山田慶兒(科学史家)
山中恒(作家)
梁 石日(作家)
吉岡しげ美(音楽家)
吉永春子(ジャーナリスト)
米川哲夫(東京大学名誉教授)
若桑みどり(美術史家)
和田春樹(東京大学名誉教授)


投稿者 管理者 : 2005年01月18日 00:25

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