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2005年02月28日

日本私大教連、国際人権規約・高等教育無償化条項の留保撒回を!

日本私大教連
 ∟●NEWSLETTER・No59(2005年2月24日) PDF版
国際人権規約・高等教育無償化条項の留保問題 資料コーナー

国際人権規約・高等教育無償化
条項の留保撒回を!

第13条
1.この規約の締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める。締約国は、教育が人格の完成及び人格の尊厳についての意識の十分な発達を指向し並びに人権及び基本的自由の尊重を強化すべきことに同意する。更に、締約国は、教育が、すべての者に対し、自由な社会に効果的に参加すること、諸国民の間及び人種的、種族的又は宗教的集団の間の理解、寛容及び友好を促進すること並びに平和の維持のための国際連合の活動を助長することを可能にすべきことに同意する。
2.この規約の締約国は、1の権利の完全な実現を達成するため、次のことを認める。
(c)高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。

■高等教育無償化条項を頑なに留保する日本政府
 上に掲げた条文は、1966年に国連総会で採択された国際人権規約「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(社会権規約。A規約とも言われる)のうち、高等教育の漸進的無償化を定めた部分です。日本政府は同規約を1979年に批准しながら、この第13条2項(c)をはじめ、4つの条項について留保し続けています。
 高等教育無償化条項を留保している国は、締約国151力国(05年1月25日現在)のうち、日本、マダカスカル、ルワンダの3力国だけです。
 批准から25年あまりの間、日本政府は、留保撤回を求める私たちの声に背を向け、国会附帯決議も無視して、その姿勢をまったく変えようとしていません。

■"2006年問題"とは……
 社会権規約の締約国は、この規約に謳われた権利の実現のためにとった措置などについて、国連に定期報告を行うことが義務づけられていますが、2001年に日本政府が提出した第2回報告に対して、国連の「経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会」(社会権規約委員会)は「最終見解」において、留保の撤回を検討することを強く求める厳しい勧告を行いました。またその中で、2006年6月30日までに第3回報告を提出し、そこでこの勧告を実施するためにとった措置について詳細に報告することを要請されています。これがいわゆる"2006年問題"です。

■2006年に向けて、高等教育無償化条項の留保を撤回させる運動を盛り上げよう。
 日本私大教連は、留保撤回をめざす運動を重点課題の一つとして位置づけ、取り組みを開始しています。昨年12月の中央要請行動では、文科省に対して要請を行っています(ニューズレターNo,56参照)。また、各組織に検討を呼びかけている05年度私大助成国会請願署名案の請願項目にも留保撤回を盛り込んでいます。さらに、この問題で全大教と協議を行い、共同行動に取り組むことに合意しています。
 大学関係団体では、「国庫助成に関する全国私立大学教授会連合」や「大学評価学会」が、2006年問題を重視し、省庁要請など様々な取り組みを開始しています。大学評価学会の「暫定ホームページ」では、昨年末に行った外務省要請の概要報告が掲載されています(http://university.main.jp/blog/hyoukagakkai-main.html)。

■資料を活用し、2006年問題の情宣を
 社会権規約委員会の「最終見解」は政府に対し、それ自体を仕会の全ての層に広く配布し、「市民仕会の構成員と協議することを勧奨」しています。しかしながら、この問題はほとんど知られていないのが現状です。第3回政府報告の作成に向けて、本紙も活用して、各組織で2006年問題を学習・情宣し、「留保撤回を」の声を広げていくことを呼びかけます。


-高等教育無償化条項の留保問題に関する資料-

【資料1】第2回政府報告(2001年、外務省仮訳)
第13条
1.教育についての権利
(3)高等教育
 我が国において、高等教育を利用する機会は、すべての者に対して均等に与えられている。
(中略)
 能力を有しながら経済的理由により修学困難な者のために、日本育英会法に基づき、日本育英会が奨学金の貸与を行っている。また、日本育英会のほか、地方公共団体、公益法人等が奨学事業を行っている。さらに、国公私立の大学では、学生の経済的状況等により、授業料の減免が行われている。
 高等教育の無償化については、下記2を参照されたい。

2.後期中等教育及び高等教育の無償化等
 後期中等教育及び高等教育について私立学校の占める割合の大きい我が国においては、負担衡平の観点から、公立学校進学者についても相当程度の負担を求めることとしている。私学を含めた無償教育の導入は、私学制度の根本原則にも関わる問題であり、我が国としては、第13条2(b)及び(c)にある「特に、無償教育の漸進的な導入により」との規定に拘束されない旨留保したところである。
 しかしながら、教育を受ける機会の確保を図るため、経済的な理由により修学困難の者に対しては、日本育英会及び地方公共団体において奨学金の支給事業が行われるとともに、授業料減免措置が講じられているところである。

【資料2】社会権規約委員会からの質問事項に対する日本政府回答(2001年、外務省仮訳)

問2.社会権規約の第7条(d)、第13条2(b)及び第13条2(c)への留保を維持する必要性について説明して下さい。これらの留保を撤回するために日本が計画しているタイムスケジュールを提供して下さい。


2.第13条2(b)及び(c)への留保
 (1)我が国においては、義務教育終了後の後期中等教育及び高等教育に係る経費について、非進学者との負担の公平の見地から、当該教育を受ける学生等に対して適正な負担を求めるという方針をとっている。
 また、高等教育(大学)において私立学校の占める割合の大きいこともあり、高等教育の無償化の方針を採ることは、困難である。
 なお、後期中等教育及び高等教育に係る機会均等の実現については、経済的な理由により修学困難な者に対する奨学金制度、授業料減免措置等の充実を通じて推進している。
 (2)したがって、我が国は、社会権規約第13条2(b)及び(c)の規定の適用にあたり、これらの規定にいう「特に、無償教育の漸進的な導入により」に拘束されない権利を留保している。

【資料3】社会権規約委員会の「最終見解」(2001年8月30日採択、外務省仮訳)
C.主な懸念される問題
10.委員会は、締約国の規約第7条(d)、第8条2項、第13条2項(b)及び(c)への留保に関し、委員会が受け取った情報によれば、それらの権利の完全な実現はまだ保障されていないことが示されている一方、締約国が前述の条項で保障された権利をかなりの程度実現しているという理由に基づいて、留保を撤回する意図がないことに特に懸念を表明する。
(外務省注:第8条について留保しているのは、第2項ではなく第1項(d)である。)

E.提言及び勧告
34.委員会は、締約国に対し、規約第7条(d)、第8条2項、並びに第13条2項(b)及び(c)への留保の撤回を検討することを要求する。
62.委員会は、締約国に対し、社会の全ての層に最終見解を広く配布し、それらの実施のためにとったすべての措置について委員会に報告することを勧告する。また、委員会は、締約国に対し、第3回報告作成準備の早い段階において、NGO及び他の市民社会の構成員と協議することを勧奨する。

63.最後に、委員会は、締約国に対し、第3回報告を2006年6月30日までに提出し、その報告の中に、この最終見解に含まれている勧告を実施するためにとった手段についての、詳細な情報を含めることを要請する。
(注1:訳文中の「締約国」は、日本を示す)
(注2:段落冒頭の番号は、「最終見解」全文通しの段落番号。63が最終段落)
(原文)
E.Suggestionsandrecommendations
34.TheCommittee urges the State party to consider the withdrawal of its reservations to articles7(d),8(2) and 13(2)(b) and (c)oftheCovenant.

【資料4】国際人権規約批准承認時の国会審議での外務大臣答弁(1979年)
(※土井たか子議員(社会党二当時)の質問に答えて)
○園田直国務大臣
 これは、将来にわたって大事なことでございますから、外務大臣から発言をしておきたいと存じます。
 この人権規約の批准が他国に比べて非常におくれたことを遺憾に思っておるものであります。そこで、だんだん国際情勢、考え方が変わってまいりまして、人間の基本的な人権というものが、やはり政治、外交の中心になってだんだん上ってきた時期に、この批准がおくれていることは、他国と同等の外交というものがなかなかできにくい。そこで、当然、この人権規約というものは、留保条項なしに批准をするのが望ましい姿ではありますけれども、残念ながら、時間その他の関係で政府部内の意見が統一をできなかったということを恥じておるわけであります。いずれにしましても留保事項で、二国間の留保事項では漸進的に解消、解除されていくということがある場合とない場合があるわけでございますが、この人権規約については、留保した事項は、残念ながら留保したわけでありますから、これは当然、将来、法的な解釈その他は別として、解除する方向に努力をし、また、そういう責任があるということで、とりあえずこのような姿で批准、審査をお願いしておるということを明瞭にいたしておきます。
(衆議院一外務委員会一4号(昭和54年03月16日〉議事録より抜粋〉

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【資料5】国際人権規約批准承認時の国会附帯決議
経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約の締結について承認を求めるの件及び市民的及び政治的権利に関する国際規約の締結について承認を求めるの件に対する要望決議(1979年5月8日衆議院外務委員会〉

 国際人権規約を批准するにあたり、人権及び基本的自由の尊重は、日本国憲法を支える理念の一っであることを十分認識し、政府は、左の事項につき誠実に努力すべきである。
一、国際の平和と人権の尊重が不可分の関係にあるとの立場に立脚し、人権及び基本的自由の国際的保障を確保するために、一層の外交的努力を行うこと。
一、国際人権規約において認められる諸権利の完全な実現を達成するため、当該規約の規定に従って必要な国内的措置を講ずること。
一、すべての者は法の前に平等であり、人種、言語、宗教等によるいかなる差別もしてはならないとの原則にのっとり、外国人の基本的人権の保障をさらに充実するよう必要な措置を講ずること。
一、男女平等の原則に基づき、政治・経済・社会・教育等あらゆる分野における婦人の権利の伸張に一層の努力を行うこと。
一、国際人権規約の留保事項につき、将来の諸般の動向を見て検討を行うこと。
一、任意的調停制度の宣言(B規約四十一条宣言)について、その制度の運用の実情を勘案し、積極的に検討すること。
一、選択議定書の締結については、その運用状況を見守り、積極的に検討すること。

*日本育英会法案に対する附帯決議(衆院文教委員会1984年7月4日、参院文教委員会7月26日〉においても、「国際人権規約第十三条2(b〉及び(c〉については、諸般の動向をみて留保の解除を検討すること。」と謳われています。


投稿者 管理者 : 2005年02月28日 00:17

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