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2005年04月30日

横浜市立大学教員組合、理事長宛「就業規則案に関する意見書」を提出

■横浜市立大学教員組合週報 組合ウィークリー (2005.4.28)
学問の自由と大学の自治の危機問題
 ∟●横浜市立大学教員組合週報 組合ウィークリー「就業規則に関する意見書を提出」(2005.4.28)を経由

就業規則案に関する意見書

2005年4月27日

公立大学法人横浜市立大学
 理事長 宝 田 良 一 殿

 2005年3月31日付をもって意見を求められた就業規則の案について、公立大学法人横浜市立大学金沢八景キャンパス事業場における過半数組合としての横浜市立大学教員組合を代表して、別紙のとおり意見を提出します。

横浜市立大学教員組合
執行委員長 上 杉 忍[組合印]

Ⅰ 就業規則にたいする全体的意見

(1)労使対等の原則に立った就業規則となっていない
 就業規則作成が使用者権限であるとしても、その作成は労働条件の決定が労使対等の立場で行われるべきとする労働基準法の精神(第2条)にそって行われるべきものである。提示された就業規則案は使用者の裁量範囲を広く認める一方、逆に、労働者側の遵守すべき事項・範囲については過度に広く規定している。労使が対等の立場で決定する労働条件を反映し、双方が遵守すべき就業規則のあり方にてらし、当就業規則案は著しくバランスを欠いている。

(2)大学という組織や大学教員業務の特性にたいする考慮が払われておらず、不適切な条項、規定が数多く存在する
 公立大学の地方独立行政法人への移行に当たっては大学の自律性に配慮すべきことが附帯決議として謳われているにもかかわらず、当就業規則案は、大学組織が保持すべき自律性や教員業務の特性に応じた就業条件への配慮が欠けている。
 学長、理事長分離型法人の下で教学組織の自律的決定をふまえてなされるべき事項(たとえば配置転換等)について理事長の命令権限のみを規定している。
 就業規則本則が教育職員(教員)と一般職員との区別のない規定となっており、教員の勤務実態にそぐわない規定が存在する。

(3)本来提示されるべき労働条件が提示されておらず、恣意的・差別的運用の危険性がある
 当就業規則案は教員にたいする、任期制、年俸制、評価制度の導入など、重大な労働条件の変更を規定しているにもかかわらず、その制度内容について労働者側に必要不可欠な情報が提示されておらず、規定として整備されていない。たとえば、任期制における再任条件、再任審査の公正性を担保する組織・手続要件、昇格制度、年俸制における業績評価基準、年俸水準、職位と処遇の関係、教員評価の処遇への反映方式と手続など、労働条件の根幹にかかわる重要な事項が未確定のままである。このように曖昧な規定の下では就業規則が恣意的・差別的に運用される恐れが多大に存在する。
 とりわけ座視できないのは、期間の定めのない雇用形態の下にある教員について、任期付き教員との労働条件上の差異は設けないとしつつ、その労働条件について何ら具体的規定を設けておらず、また、実質的差別扱いを示唆していることである。経営側は、公立大学法人への移行に当たって身分を承継される教員全員にたいし任期付教員への移行を促しており、昇格制度や管理職任用、労働時間制、研究条件などの差別的運用を示唆することで任期付き雇用への雇用形態変更を誘導・強要しようとしている。これは、当就業規則案が雇用形態の差異を理由として不公正かつ差別的に運用される危険性を具体的に示すものと言わざるをえない。
 そもそも、経営側が任期付き雇用に教員を移行させる根拠としている労基法14条は、「有期労働契約が労使双方から良好な雇用形態の一つとして活用されるようにすることを目的としている」(労働省労働基準局長通達第1022001号)ものであり、経営側が一方的方針にもとづいて有期労働契約の選択を迫るべきものではなく、まして、有期労働契約に同意しない承継教員にたいし差別的取扱をすることは均等待遇の原則にも悖るものである。先の労基法14条改正にさいしては、使用者側がこの改正を悪用して常用雇用の有期雇用への代替化を無限定に拡大することのないよう戒め、見直しを規定しているが、任期付き教員への移行を促す当法人経営側の姿勢は労基法の趣旨を著しく逸脱するものである。
 また、就業規則として提示されるべき非常勤講師職員、嘱託教員にかかわる規定が提示されていない。非常勤職員一般とは異なる勤務特性をもつものであり、それぞれ当該教員の要求、意見を汲んだ規定を提示すべきである。

(4)就業規則案は任期制、年俸制、勤務時間など、根幹をなす労働条件について不利益変更にあたる規定を行っている。不利益変更が合理的かつ必要不可欠である根拠は示されておらず、また補償措置についても明確に説明されていない
 雇用期間の定めない教員を任期付き教員に移行させることは、一般的には、降格にあたる不利益変更とみなされる。このことは、テニュア(終身在職権)資格の付与が昇格とみなされていることからも、明らかである。また、雇用期間の定めない教員の解雇要件に比して有期契約労働者の雇止めが容易であることも言うをまたない。就業規則案が、期間の定めない雇用形態にある承継教員にたいし任期付き教員への移行を促すべく任期制を前提とした規程整備を行っていることは、したがって、明白な不利益変更を教員に強要するものと判断されても当然である。
 年俸制についても、従来固定的手当として給付されてきた扶養手当、住居手当、調整手当等を廃止し職務・業績給原資に組み入れ、教員評価に連動させた変動給とすることは不利益変更にあたる。若干の移行措置を設けると説明しているにせよ、従来の賃金規程が引き継がれる一般職員と比しても、不利益変更となっている。
 これら不利益変更にあたる規定について同意することはできず、また変更を一方的に押しつけることは許されない。

(5)協議が不十分で拙速に作成された就業規則である
 就業規則本則及び諸規程類が提示されたのは本年2月15日であり、その後教員説明会等での変更を経て過半数代表者に提示されたのは3月31日である。この間、4月になるまで教員組合との実質協議は行われておらず、重大な労働条件変更について協議を経ぬままに推移してきた。労働条件の決定が労使対等の原則に立った協議を経て決せられるべきものとすれば、今回の就業規則提示及びその後の協議過程はきわめて不十分なものと言わざるをえない。この経緯に鑑み、就業規則の見直し、労働条件に関する未決事項について法人経営側は誠実な交渉義務を果たすべきである。


Ⅱ 個別条項にたいする意見

(1)就業規則本則

1 就業規則本則第9条(試用期間)
 教員について試用期間を6ヶ月とすることは、教員採用審査、着任後の勤務実態からみて不適切である。教員にあっては精神規定と説明しているが、より短縮した期間を教員については明文規定すべきである。

2 同10条(労働契約の締結)
 任期付き教員への移行に同意しない承継教員にたいしても「期間の定めのない労働契約を締結する」としているが、承継教員は期間の定めのない雇用を継続するものであって、新たな労働契約を締結する必要はないはずである。

3 同第14条(昇任)
 教員の昇任について適切な規定を別途設けるべきである。
 公立大学横浜市立大学職員任期規程は本規定に基づく昇任を行うとしているが、雇用形態の如何を問わず教員の昇任について本則に規定しておくべきである。

4 同15条(降任)
 任期制規程における降任の事由はこの条に規定された5項目を適用することとしているが、当本則は一般職員、教員を問わず降任にあたる事由を定めたものであり、教員における降任事由を規定する事項としては不適切である。教員の降任事由については別途定める旨規定すべきである。

5 第16条(異動)
 教員の配置換等については教員業務の専門性に鑑み、教育研究組織の自律的検討をふまえた取扱が不可欠であり、理事長命令の前提としてこの点が規定されるべきである。

6 同第24条(退職の手続)
 退職申し出を教員について「退職する日の6ヶ月前」と規定していることは、大学間での教員の移動・転出の現実にてらし無理な場合が大半である。法人経営側は努力規定としているが、その旨確認すべきである。

7 同第33条(職務専念義務)第3項
「法人がなすべき責を有する業務にのみ従事しなければならない。」という規定は、誰にも到底文字通りには実行できない事柄である。はじめから遵守できないことがわかっている規定を定めるのは法的拘束力をもつものとして不適切である。職務専念義務に関しては一般的表現にとどめるべきである。

8 第34条(服務心得)
第1項に「職員は、この規則、関係規程又は関係法令を遵守し、上司等の指揮命令に従って、その職務を遂行しなければならない。」とある。しかし、教員の活動のほとんどは、上司等の指揮命令に従って行なわれるものではない。教員については少なくとも別規定とし、「上司等の指揮命令に従って」の部分を削除すべき、あるいは他の表現に改めるべきである。

9 第35条(禁止行為)
 第4号「その他法人の秩序及び規律を乱すこと」を削除すべきである。職員の権利を不当に侵害するおそれがある。

10 同第39条3項(終業時刻)
 教員の終業時刻について18時15分として拘束時間を延長しているのは不利益変更であり、かつ合理的理由が存在しない。不必要に長い休憩時間を設け拘束時間を延長することは休憩時間の趣旨にも反する。
 法人当局は運用細則により対処するとしているが、教員の終業時刻も当就業規則本則に17時15分と規定しておくべきである。

11 同第39条4項(裁量労働)
 「任期付教員については、労基法38条の3に規定する手続を経て専門業務型裁量労働制を適用することができる」としているが、専門業務型裁量労働を適用しうるかどうかは業務の性格・様態にてらし法制上その要件が限定されている。要件に合致した労働者について労使双方の合意にもとづき裁量労働適用を決定するものであり、任期付教員に適用できるとしている本規定は根拠がなく削除すべきである。

12 同第47条(研修)
 教員の長期にわたる海外研修などの機会がどのように保障されるのか不明である。研修規程によって明記すべきである。

13 同49条(懲戒の事由)
 第5号「法人の名誉又は信用を著しく傷つけた場合」において、「法人」を「法人あるいは大学」とし、「法人あるいは大学の名誉又は信用を著しく傷つける行為に及んだ場合」とすべきである。大学のありかた、方針、制度についての自由な議論を抑圧するおそれがある。第6号「素行不良で法人の秩序又は風紀を乱した場合」を削除すべきである。「素行不良」、「法人の秩序」、「風紀」はいずれも曖昧な概念であり、恣意的な解釈によって不当に職員の権利を制限するおそれがある。第8号「私生活上の非違行為や、法人に対する誹謗中傷等によって法人の名誉を傷つけ業務に影響を及ぼすような行為があった場合」を削除すべきである。法人に関する自由な言論を圧殺する規定である。第9号「又は前各号に準ずる違反があった場合」を削除、もしくは限定的な表現に改めるべきである。このような曖昧な規定があると、恣意的な解釈によっていくらでも職員の権利を制限することができることになる。

(2)任期規程

1 再任基準
公立大学横浜市立大学職員任期規程(以下任期規程)に再任基準を明示すべきである。
 任期付教員が再任される場合の基準について任期規程は明示していない。有期労働契約において更新を認める場合、その判断基準が明示されるべきものとされており、法人当局も「普通にやっていれば再任される」という考え方を示している。この考え方を具体化した判断基準を任期規程に明記すべきである。

2 昇任規定
任期規程第5条における昇任規定は就業規則第14条の一般的昇任規定を援用しているが、就業規則第14条の昇任規定は抽象的一般的に昇任のあることを規定したものであり、任期付教員の昇任要件・基準については別途規定すべきである。

3 降任
同第5条における降任について「就業規則第15条に基づく」としているのは不適切であり、本規程において降任の要件・基準を明示すべきである。
 就業規則第15条の降任規定は、再任審査に基づく降任よりも広い降任要件を規定しており、任期制規程では再任審査によって降任と判断される場合の基準、要件を規定しておくべきである。

4 雇止と判断する基準・要件と降任と判断する基準・要件とのちがいが示されていない
同規程に基づく労働契約の更新・締結には、昇任、再任、降任の場合があると解されるが、雇止と判断する基準・要件と降任と判断する基準・要件とのちがいが示されていない。この点を明示すべきである。

5 同第6条(任期付教員の再任手続き)
 再任審査について審査及び手続の客観性、公正性、透明性を義務づける規定を設けるべきである。
 再任審査は任期付教員の労働条件に重要な変更を及ぼす手続きであり、審査が恣意的に行われることのないよう公正原則を明記するのは当然のことである。本規程がこの点にまったく触れていないことはきわめて遺憾である。

6 教員人事委員会の構成
 同条において規定されている教員人事委員会について、同委員会を教員の業績等について客観的かつ適正に審査できる構成とする旨規定すべきである。

7 同第6条及び同第7条(任期付教員の再任審査)について
 同第6条及び同第7条(任期付教員の再任審査)について、それぞれ審査手続き及び審査事項を、「学長が特に認めた場合」その「一部又は全部を省略することができる」としているが、これは再任審査の極度に恣意的な運用を可能とするものであり、削除すべきである。
 法人当局は、この規定について、博士号を持たない教員の任期上限3年を2年延長する場合に備えた簡便措置であると説明しているが、これらの規定は実質的審査に基づかない再任審査を一般的に許容することとなり、再任審査の公正さを損なうものとなっている。

8 教育研究組織の議を経る旨規定すべきである
 同第10条(その他)において、「この規程の実施に関し必要な事項は、経営審議会の議を経て理事長が定める」としているが、教員業績の審査にあたっては、その性質上、教育研究組織が実施の任にあたるものであり、教育研究組織の議を経ることが必要である。その旨規定すべきである。

9 助手及び準教授の再任回数に制限を設けるべきはない
 同附則別表において助手及び準教授の再任回数を限定していることは合理的根拠がなく、教授と同じく再任回数に制限を設けるべきではない。

(3)年俸制規程

1 年俸制については、不利益変更が生じぬよう制度設計と規定とを行うべきである公立大学法人横浜市立大学職員年俸制規程(以下年俸制規程)は、従来制度に比して不利益変更とならない年俸水準のレンジを明示すべきである。
 年俸制の導入は、職位、経験年数、職務に応じて給与水準が定められ、昇給が行われてきた従来の給与制度からの大幅な変更であり、制度の変更提案にあたっては、不利益変更が生じぬよう制度設計と規定とを行うべきである。

2 従来の扶養手当、住宅手当、調整手当等を廃止して「職務給・業績給」原資に組み入れるとしているのは、業績評価に基づいて支給水準を決定する「職務給・業績給」の性格にてらし重大な不利益変更である
 同規程第3条(年俸の構成)について、法人当局が従来の扶養手当、住宅手当、調整手当等を廃止して「職務給・業績給」原資に組み入れるとしているのは、業績評価に基づいて支給水準を決定する「職務給・業績給」の性格にてらし重大な不利益変更である。不利益変更とならない措置について規定すべきである。

3 年俸額の変動幅の限度を規定しておくべきである
 同第3条について、評価結果に応じた変動幅の限度を規定しておくべきである。なお、そのさい減額幅について労働者の生活を不安定にすることのないよう規定しておくべきである。

4 管理職手当について、支給すべき職、区分及び月額について規程において定めておくべきである
 同条6項は、管理職手当について、その支給すべき職、区分及び月額について理事長が別に定めるとしているが、規程において定めておくべきである。

5 同第4条(年俸の決定)では、公正かつ透明性のある評価を行う旨明記し、恣意的運用の余地ない記述とすべきである
 同第4条(年俸の決定)について、「年俸額は、教員評価制度による評価結果を総合的に勘案して決定する」としているが、公正かつ透明性のある評価を行う旨明記すべきである。
 また、「総合的に勘案して」とあるのは不明瞭であり、恣意的運用の余地ない記述とすべきである。

6 教員評価制度がどのように年俸決定に反映されるか規定がない同条において、教員評価制度がどのように年俸決定に反映されるか規定がなく、その制度内容次第で大きな不利益が生じる恐れがある。労働者の給与水準を決定する重要な規定が欠落しており、労働条件明示の原則からみて問題である。

7 雇用の定めのない教員について、降任、昇任時の年俸決定について規定すべきである同条2項、3項は任期付教員のみについて規定しており、雇用の定めのない教員について、降任、昇任時の年俸決定について規定すべきである。

8 事業場外の勤務にかんする条項を設けるべきである
 公立大学法人横浜市立大学職員の勤務時間・休日及び休暇等に関する規程に事業場外の勤務にかんする条項を設けるべきである。
 法人当局は当初案として示された事業場外勤務にかんする条項(「職員が出張その他の勤務場所を離れて勤務する場合で勤務時間を算定し難い場合は、上司が特に命じた場合を除き、就業規則第41条第2項に定める時間を勤務したものとみなす。」)を説明なく削除しているが、この条項を復活すべきである。大学教員の勤務については、その特性から国立大学法人においても同様の条項をおくのが一般的であり、削除する理由はない。

(4)兼業規程

 理事長の許可が必要な兼業についての規定を限定したものとするべきである公立大学法人横浜市立大学職員兼業規程第3条(兼業の種類)及び同12条(営利企業以外の団体の兼業)は、職員が勤務時間外に従事するあらゆる活動について理事長の許可が必要としているが、これは憲法上認められた市民活動の自由及び学問の自由に制限を加える条項であり、より限定した規定とすべきである。

Ⅲ 就業規則の見直し

 以上のように提示された就業規則は多数の不備、不整合をふくんでおり早急に見直しが必要である。未整備事項をはじめ就業規則の見直しに向けた組合との誠実な協議・交渉を行うべきことを強く求めるものである。

 以上。


投稿者 管理者 : 2005年04月30日 00:45

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