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2005年04月14日

大学市場に挑む 選別時代、財務を磨け

日経金融新聞(2005/04/13)

 日本の大学が市場での選別の正念場を迎えようとしている。少子化による「全入時代」を前に、国立大学の独立行政法人化で国公立、私立の枠を超えた競争は激しさを増す。この先十年間で私立大学数十校が経営破たんに追い込まれるともいわれるなか、生き残りをかけて財務戦略を強化する大学が増えてきた。

格付け19校取得
 「銀行預金に眠らせていた資金を有価証券に回したのが効いた」。千葉工業大学の永田勝利財務部長は、これまでの運用結果に胸を張る。昨年度の運用収益は八億七千万円。受験者数が最も多かった一九九六年度の受験料収入をも上回り、貴重な収益の柱となった。
 永田氏は実は元銀行マン。三菱銀行から九六年、千葉工大に招かれた。財務担当として大胆に見直したのが、予算の編成と資産の運用戦略。とくに運用では仕組み債や外債を積極的に組み入れ、金融資産に占める有価証券の比率は五〇%弱と九六年度の一七%から急上昇した。運用収益は過去五年間で約五十億円に達し、最新設備の研究棟が二棟も建つほどの額だ。
 大学が財務を意識し始めた表れは、格付け取得ラッシュだ。〇三年二月に法政大学が格付投資情報センター(R&I)からダブルA格を取得したのを皮切りに、格付けを通じて市場の評価を得た学校法人は十九に膨らんだ。狙いは、資金調達パイプを太くすることだ。
 「格付けを取得したことで、全くつき合いのなかった生損保からの借り入れが可能になった」。法大の柳沼寿常務理事は明かす。格付け取得後の二年間に生損保四社から合計百億円を借りたが、「金利は期間五年で〇・三―〇・六%と銀行が提示した金利より低く抑えられた」。調達コストを一段と下げるため、証券化の手法を用いて市場から直接資金調達する学校債の発行にも前向きだ。

「買ってほしい」
 十八歳人口の減少で受験料や学費収入が先細るのは確実だ。格付け取得は「いまのところはイメージアップ目的が中心」(R&Iの下山直人シニアアナリスト)だが、独立法人化で経営の自由度が増した国立大学との競争に備え、財務基盤の強化は避けて通れない。
 米国では約四千校ある大学のうち、十分の一以上が格付けを取得・公表している。格付けが大学のガバナンス(統治)や財務状況に対する外部評価として確立、「良い大学イコール高格付けの大学という図式が定着している」(大和総研の宇野健司上席研究員)。
 財務基盤の強い大学は施設の充実や優秀な教員の獲得など教育サービスにカネをかけて学生数を増やし、それが収入増という好循環につながりやすい。財務基盤が弱い大学はこの逆。「財務面から大学の格差拡大が避けられない」と野村証券金融経済研究所の片山英治主任研究員は予測する。
 事実、勝ち組と負け組の二極化は静かに起き始めている。「経営権を買ってくれという要請がいくつかの私立大学から持ち込まれている」。早稲田大学の関昭太郎副総長はこう打ち明ける。

市場がふるいに
 昨年六月、東北文化学園大学が学校法人として初めて民事再生法の適用を申請した。定員割れを起こしている私大はすでに全体の三分の一。これに対し、大学の数は一九九二年度の十八歳人口のピークを過ぎても増え続ける。少子化が進むなかで、資金繰り難で教職員の給与はおろかコピー用紙代まで払えなくなった東北文化学園大のケースは他の大学にとって決して他人事ではない。
 文部科学省の佐野太・高等教育局私学部参事官は、「東北文化学園大のような突発的な破たんが起きることも想定して私学の経営状況把握に努めている」と説明する。大学関係者と大学改革に関心をもつ経済人でつくる21世紀大学経営協会(理事長・宮内義彦オリックス会長)の発起人のひとりでもある有藤正道・日興アイ・アール顧問は、「今後、企業再生ならぬ『大学再生』も起こりうる」と指摘する。
 市場主義の時代とは、選別の時代にほかならない。大学は先端的な運用手法や人材の供給など、市場への影響力を高め始めたとはいえ、市場からの評価を得られなければ容赦なくふるい落とされる。


投稿者 管理者 : 2005年04月14日 00:42

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