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2005年05月04日

憲法9条-識者インタビュー(6完)=香山リカ氏(精神科医)-平和の本質を語ろう

静岡新聞社(2005/05/03)

 ―憲法改正が議論される今の社会の“空気”をどう読みますか。
 「一般の国民が憲法改正を意識し始めたのは、バブルがはじけ、オウム真理教事件や阪神大震災が起こり、世の中が騒然とした一九九〇年代半ば過ぎからだと思います。今まで何となく大丈夫だと思えていた基盤が、多面的に揺らいでいることを意識した時代。そういう時に憲法を変えるというのは、決して生産的な考え方ではなく、自らの不安から目を背け、『自分たちは前向きなんだ』と自己確認しているように感じてしまいます」
 ―若者は特に、不安に過敏な気がします。
 「最初は経済的側面で導入された成果主義や実力主義といった勝ち組・負け組の二層構造が、学校とか、結婚問題にまで浸透している。一歩間違えば自分も負け組になる危機感を感じて暮らしている状況で、弱い者や少数者を排斥したり名指しして、自分の身を守るムードがあります。一生懸命、『日本は普通の国になりましょう』と言うのは、そんな雰囲気と結び付いている印象です。そうでもしないと底が抜けて、みんな負け組に転じてしまうという感じ」
 ―不安社会が、自己保身のための保守化、右傾化を生んでいるということでしょうか。
 「ポリシーとしての保守化ではないんですよ。今までなら、不安を解決するために社会を良くするとか、体制に異議を唱える流れもあったと思います。でも今の若者は、他国や犯罪者には手厳しいが、政府や大学当局とか、身近な強者には逆らわないんですね。『目を付けられてもバカバカしい』と、淡々と受け入れるような保守化です。一方で彼らには、自分の身を挺(てい)して、正しいことをしていると正当化できるような何かに身を投じたいという、切実な欲求もある。怖いのは、その対象がボランティアかもしれないし、軍隊かもしれないということ。そういう若者は『自分の出番』と思ったら、何をするか分からない。雪崩を打って憲法を変えるとか、魅力的なリーダーになびいてしまったり。動員を掛けられたがっているとでも言いましょうか」
 ―精神科医として、そのような風潮をどのように診断しますか。
 「今の若者の心の有り様で象徴的なのは、一つは境界線人格障害といって、二極化した、白か黒かでしか物事を判断できない状態ですね。もう一つは自分の現実と語っている内容に脈絡や連続性がなくて、その場その場で適応しているようなポーズを取ってしまう解離性障害。例えば中国のデモの映像を見て、『戦争は昔のこと。過去にこだわらず前を見てほしい』と主張する人がいます。今の日本と歴史を切り離したような物言いは、どうしても解離的に聞こえてしまうんですね」
 ―ただ、歴史を一時、清算し、現実的に問題を考え直そうとの論理には説得力があります。
 「戦争を起こさないために軍備が必要という意見がある。それを現実主義と呼ぶのならば、軍備すれば平和が守られるというリアリティーを証明してほしい。切実に、軍備するしか日本を守ることができないのならば、納得する。一方で改憲論者からすると、平和主義者は何かあったら平和の歌を歌い、人間の鎖を作るだけだと、現実離れして映るようです。本当は本質論に立ち返り、平和や自由、平等といった基本的な問題を考え直さねばならない。でも、若者は空論と切り捨てて、耳を傾けてくれない。彼らが“現実”にしか反応しないのならば、現実的な平和主義のような、九条や憲法改正を損得勘定で説明せざるを得ないと、不本意ながら思います」
 
 ▼かやま・りか氏
 北海道出身。精神科医。帝塚山学院大教授。専門は精神病理学。『ぷちナショナリズム症候群』『[私]の愛国心』などの著書がある。44歳。


投稿者 管理者 : 2005年05月04日 00:00

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