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2005年07月21日

関西歴史学関係学会共同アピール、『改訂版 新しい歴史教科書』採択に反対する

教科書情報資料センター
 ∟●『改訂版 新しい歴史教科書』採択に反対する(2005年7月13日)

『改訂版 新しい歴史教科書』採択に反対する
関西歴史学関係学会共同アピール

 4年前に扶桑社発行『新しい歴史教科書』(以下、『旧版』)が登場したとき、私たち関西を拠点とする歴史学関係の諸学会はシンポジウムを開催し、その歴史叙述がもつ問題について検討しました。ある事実をとりあげながら他の事実との関連を無視し、従来の歴史学研究の成果を踏まえることなく一方的に評価を下すなど、歴史教科書としてふさわしくないことを私たちは指摘しました。またその特異な歴史叙述は、戦前日本の植民地支配や侵略戦争を正当化し、アジアに対する蔑視や自国中心主義的な歴史認識を歴史教育の場に持ち込むものであると批判したところです。
 本年4月、再び検定に合格した扶桑社発行『改訂版 新しい歴史教科書』(以下、『改訂版』)は、古代史・近現代史を中心に大幅に叙述を改め、研究者によって偽文書であることが指摘された「ペリーが渡した白旗」についての記述を削除するなど、誤りの一部を訂正して、教科書としての体裁を整えているように見えます。
 しかし、『改訂版』は『旧版』の問題点の多くを引き継いでおり、ある面では歴史認識の歪みがいっそう拡大していることを指摘しなければなりません。
 第一に、冒頭で「日本にもみずからの固有の歴史がある。日本の国土は古くから文明を育み、独自の伝統を育てた」と述べ、太古の昔から日本人・日本民族固有の歴史が単一に存在し、それを現在までつづく日本人・日本民族の伝統であるかのように把握させるよう誘導しています。聖徳太子が「天皇」号を創出し、十七条憲法を導入して和の精神を説いたことを強調し、武士道における「忠義」と「公」の観念について詳述するなど、日本らしさの原型を歴史のなかの伝統に見出そうとする姿勢が顕著です。史実を歪曲したり、特定の歴史事実を過度に強調したりすることによって愛国心を高めるような歴史叙述は、国家主義的傾向を助長するものといえます。
 第二に、日本の近代史を対外膨張=国家発展の歴史として描き、そのために献身した指導者の努力を強調し、戦争での勝利、国家の安全保障を最高の価値としています。それは、新たに登場した伊藤博文のコラムや日露戦争を「祖国防衛戦争」として描く記述に典型的に現れており、国民は国家の勝利をひたすらに願う存在として描かれます。これとは裏腹に社会内部の矛盾や民衆運動に関する記述が極端に少なく、社会の変化や変動に関する記述は『旧版』よりも弱まってさえいます。国内外の社会的矛盾を無視し、自国の歴史に一面的な「誇り」を見出そうとする『旧版』以来の性格は増幅されています。このような歴史像が教育の場に持ち込まれることは、9.11以降、アフガン戦争やイラク戦争が引き起こされ、さらには東アジアにおける緊張が喧伝される状況下にあって、国家間対立や非和解的な国際関係を当然視する傾向を助長するものとして憂慮に堪えません。
 第三に、近隣アジア諸国との歴史的関係においては、自国中心史観が強められています。台湾に対する植民地支配の実態にはまったく触れることなく、「台湾の開発に力をつくした八田與一」をコラムで大書特筆し、「中国の排日運動を伝える新聞記事」の写真を掲げ、「日本を解放軍としてむかえたインドネシアの人々」のコラムが加えられるなど、植民地支配と侵略戦争を正当化・美化する歴史認識が示されています。
 『改訂版』は、図版を多数挿入し、コラムを取り入れるなど、表面的には他社の教科書に近いものになっているとはいえ、初歩的な誤り、歴史学の研究成果の無視、植民地支配・侵略戦争の正当化、自国中心史観・他民族蔑視、性別秩序の強化、加害の事実を隠蔽・相対化しようとする歴史修正主義などの問題点は変わっていないということができます。
 以上の点で、私たちは『改訂版』が4年前の『旧版』と同様の問題点を持つばかりか、かえって危険性を増していることを指摘せざるをえません。どのような歴史像・歴史認識を育むにしても、歴史的事実を軽視することはできません。歴史教育においては、歴史的事実を多元的で複眼的な視点からとりあげ、考察する力を培うことが求められます。東アジアにおいて平和で友好的な関係を築いていくことが大きな課題となっている今、近隣諸国からの批判を待たずとも、史実の客観的認識にもとづいて自らの国家や民族の歴史を点検し省察することが必要です。一国主義的な枠組みにしがみついている偏狭な歴史像や国家間対立をあおり立てるような教科書では、現代社会にふさわしい歴史認識を育てることはできません。
 私たちは、『新しい歴史教科書』が教育現場で採択されることに強く反対するものです。

 2005年7月13日

大阪歴史科学協議会(委員長・梅村喬)
大阪歴史学会(代表委員・栄原永遠男)
京都民科歴史部会(代表委員・鈴木栄樹)
「女性・戦争・人権」学会(代表・志水紀代子)
朝鮮史研究会関西部会(代表幹事・水野直樹)
日本史研究会(代表委員・高橋昌明)


投稿者 管理者 : 2005年07月21日 02:35

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