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2005年09月12日

新首都圏ネット、財務諸表の正確な分析作業を進めよう

新首都圏ネット
 ∟●財務諸表の正確な分析作業を進めよう
■「意見広告の会」ニュース298より

財務諸表の正確な分析作業を進めよう

大学財政問題分析検討ワークショップニュースレターNo.5
2005年8月31日
大学財政問題分析検討ワークショップ実行委員会

資料:
国立大学法人の財務諸表とフリーキャッシュフロー(FCF)分析
短期的なフリーキャッシュフロー(FCF)計算のためのワークシート

8月13日に開催した「大学財政問題分析検討ワークショップ」には、全国の大学からの多くの参加者にお越しいただきました。まずここに、実行委員会からお礼申し上げます。

東京大学の醍醐聰教授に当日いただいた講義ならびに演習で我々が得た成果を踏まえ、ワークショップの趣旨と参加者の総意とに基づいて、全国で国立大学の財政問題を考える皆様に財務諸表の分析作業を呼びかけます。

1. マスコミによる評価・評論は大学財政の実体をとらえていない

8月20日付の日経新聞が「国立89大学、純利益合計は1100億円」と報じて以来、全国紙、地方紙とも国立大学の「黒字」を報じている。「民間ベース」で国立大学法人の財政、とりわけ収支を論じるこれらの報道が、来年度の国立大学の運営費交付金を大幅に減額する呼び水となることを危惧する声が聞かれる。

これに対して我々は、そのような危惧に理解を寄せる一方、国立大学法人の会計について報道が欠く認識を指摘しておく。

1.1 法人化初年度の国立大学の「純利益」は特殊要因を含んでいる

報道は、損益計算書に示された当期純利益に着目している。しかし、この数値には法人化に伴う旧国立大学からの物品や債権の受贈益等と法人化関連の諸経費等との差額が含まれることは新聞報道も述べる通りである。損益計算書では、

当期純利益=経常利益+(臨時利益-臨時損失)

と示されているが、法人化に伴う収益、支出の一定部分がそれぞれ臨時利益、臨時損失として処理されている。つまり純利益は法人移行に関わる収支と大学としての恒常的収支との混合物である。法人化以前の国立大学や既存の民間企業と、損益の大小等を比較議論するためには、純利益ではなく経常利益に基づいた議論が必要である。しかも、我々が確認できた範囲では、少なくない大学でこの臨時利益が臨時損失を上回っている。国立大学財政にとって、法人化は特殊要因であり、かりに、国立大学法人の恒常的な業務活動の結果を民間企業に準じた損益計算書で表そうとするのであれば、こうした一過性の特殊要因に起因する臨時損益を除外した数値(具体的には経常利益)を参照するのが合理的である。例えば東京大学の純利益は6,966百万円だが、経常利益は5,277百万円、この二つの数値の間には約3割の差異がある。新聞報道において、見出しで当期純利益に基づく数値を掲げ、本文では臨時利益が純利益をかさ上げしたと一言で解説を終える、という報道手法がとられるならば、それはミスリーディングであると指摘せざるを得ない。

1.2 国立大学法人の損益計算書自体が持つ複雑さには十分な留意が必要

国立大学法人の損益計算書に依拠した議論の問題点について、ここに言及する。結論を初めに記せば、国立大学法人会計基準に則った会計処理における損益計算書上の経常利益にもまた、企業会計原則に基づく損益計算書とは単純に比較できない問題があり、かつ大学財政の実体をとらえきれない。我々は、損益計算書の純利益への着目ではなく、後述するフリーキャッシュフロー(FCF)分析が大学財政の実体の理解により寄与すると考え、これを財務諸表分析の一手法として提起する。

国立大学法人会計基準に基づいて作成される損益計算書に関連して、以下に三点にわたり、その複雑さ、企業会計原則と異なる会計処理を指摘する。

その1  資産取得に伴った、国立大学法人会計基準における会計処理の複雑さ

国立大学法人の損益計算書には、国立大学法人会計基準に照らして次のような複雑さがある。同基準において、固定資産の会計処理は、固定資産の取得の財源別、及び取得した資産の償却資産・非償却資産別に次のように行われる。

A)運営費交付金等が財源の場合

  A-1)償却資産を取得した場合は、減価償却費とマッチするよう、進行基準で交付金が収益化される。

  A-2)土地などの非償却資産を取得した場合は、損益上の減価償却はされずに損益外減価償却が行われる。

B)国家的な資産形成を意図するとされる施設整備費が財源の場合

  取得した資産の償却、非償却にかかわらず、損益外減価償却が行われる。

その2  「損益外減価償却」という概念の複雑さ

このような会計処理を求める国立大学法人会計基準においては、損益外減価償却は損益計算書には表れず、これが表れるのは国立大学法人等業務実施コスト計算書においてである。すなわち、取得された資産のうち、運営費交付金等を財源として取得された償却資産のみが損益計算書に記載され、減価償却が行われる。

その3(まとめ)  資産取得における民間企業と国立大学における考え方の違い

企業の場合は自力で設備を更新するのに対し、国立大学法人の場合は運営費交付金とは別途に措置される施設整備費で、中期計画に基づいて施設を更新する、という資産の取得における考え方の違いがある。こうした根本的な違いを無視して民間企業と国立大
学法人の損益計算書の結果だけを単純に比較したのでは誤解のもとになる。

そもそも一般的に、貸借対照表や損益計算書に記載される減価償却は損益計算目的のための帳簿上での費用計上であって、その期間における資金の流出を表さない。したがって、利潤の追求を目的にしない国立大学法人においては、損益計算目的の減価償却は意味をなさない(だからこそ、損益外減価償却が採用されている)から、減価償却費は「資金の流出を伴わない費用」、すなわち、「資金の内部留保項目」として取り扱うのが妥当である(附属病院への損益計算原理の適用に関する論及はここでは割愛する)。

1.3 フリーキャッシュフロー(FCF)分析への着目と留意点

したがって、我々は損益計算書で記された純利益に基づく議論から距離を置き、FCF分析に着手する。その理由は、損益計算書は国立大学法人の財政実体のうち資金の移動を十分には反映しないからである。企業会計原則と国立大学会計基準との相違に由来する損益計算書の性質の差異があるにもかかわらず、民間と同様な損益計算原理に基づいて損益計算書の数値を比較考察する風潮に、我々自らは与しない意図をこれにより示す。

我々は、国立大学法人が利潤追求を目的としないにもかかわらず、国立大学法人会計基準の大元に、損益計算原理を要素とする企業会計原則が位置することに懸念を覚える。また、企業会計原則には無く国立大学法人会計基準に見られる概念の一部(例えば、国立大学法人等業務実施コスト計算書における「機会費用」、主務大臣の承認による利益処分、など)にも問題性を見出す。したがって、現行の国立大学法人会計基準と会計処理、国立大学法人に対する予算措置を是認する立場をとるものではない。民間企業の財務分析で用いられるFCF分析を国立大学法人の財務分析に適用する際にもこの点に留意した上で財政実体へのより精確な接近を図ることに言及しておく。

2. キャッシュフロー計算書に基づく国立大学法人財務のFCF分析(試案)

一般にキャッシュフロー計算書は、一会計期間における法人のキャッシュフローを3つの活動に区分して表示し、当該法人の正味のキャッシュフローの増減変動の状況を公開するために作成される会計表である。

簡便な算定においてフリーキャッシュフロー(FCF)は、

FCF=
 業務活動(大学の場合は教育研究活動)に伴うキャッシュフロー(多くの場合、収入超過)
+投資活動(大学の場合は資産の取得など)に伴うキャッシュフロー(多くの場合、支出超過)

という計算式から得られる。FCFは、本来の業務から生み出したキャッシュフローのうち当該企業が自由に使える余剰額を指す。

醍醐教授の試案に基づいた国立大学法人のFCF算定式とその趣旨(別紙参照)に基づいて理解するならば、損益計算書では利益を減少させる要素となる減価償却がキャッシュフロー計算書では資金を増加させる要素となることから、FCFは一般に当期純利益よりも大きな額になり、内部留保(当期純利益と減価償却費の和)に照応する値を示す。しかし国立大学の場合、昨年度のFCFには法人化に伴う収支が含まれているほか、恒常的にも、退職金への引当金を含んだ運営費交付金債務や用途が限定される寄付金債務など自由な裁量で使えない資金が、近い将来に予定される支出として含まれている。同様に近い将来に予定される収入(未収附属病院収入など)も考慮し、貸借対照表を参照しながら

FCF-(承継剰余金の受払収支差)
+(近い将来に予定される業務収入)
-(近い将来に予定される業務支出)

を算出することによって、当該国立大学法人の財政状態をより的確に表すFCF(以下、最狭義のFCF)が算定できる。

この算定式の適用例として、東京大学のキャッシュフロー計算書に基づく最狭義のFCFを計算する。

財務諸表が既に公表されている東京大学の数値を代入してその最狭義のFCFを計算すれば、その額は約9億5千万円である。量的な側面だけに着目すれば、経常利益の約53億円、当期純利益の約70億円が、この最狭義のFCFの5倍から7倍の過剰な値を示していることになる。換言すれば、経常利益や当期純利益のうち、国立大学法人として自由に使えない資金が8割程度含まれていることになる。ただし、当期純利益の額から大きく減額されたこの金額の最狭義のFCFでさえも、東京大学の教職員や学生が重大な問題として指摘し批判する、非常勤職員と常勤職員との待遇格差、職員の賃金抑制(不払い残業、労働時間増加分の節減、国家公務員や都内の他の国立大学と比較しても低水準の賃金など)、部局配分額の抑制、学生納付金の値上げ、といった大学運営の中で得ている余剰金であることを指摘する。

3. 各大学の財務諸表の分析結果や疑問を大いに交流しよう

我々は、文科省が各国立大学法人の財務諸表を承認したとされる8月29日を過ぎ、翌30日夜の時点で、計30大学がそのホームページにおいて当該大学の財務諸表を公開していることを確認した。財務諸表の公開を求め、これを入手し、分析に着手される取り組みを、我々はすべての大学の教職員と学生に呼びかける。

各位の分析結果、疑問、コメント等は、当実行委員会(Eメールアドレスはinfo at shutoken-net.jp、" at "をアットマークに置き換え)へぜひお寄せいただきたい。我々は各位からお寄せいただく声にこたえ、財務分析検討の交流を図る所存である。

先に記したFCF分析で得られた指標により我々は、国立大学法人の財務評価に求められる、財務実体をより精確に示す数字を得ることができる。もちろん我々は、財務分析における既存のフレームに甘んじた議論に終始しない意図を持つ。大学に対する学生や教職員の要求の正当性を立証するような、既存のフレームを踏襲しつつ超克した分析手法と指標を案出しこれを援用するとともに、大学人としての知性を動員して我々の要求を実現し自主的な大学づくりのための行動に寄与することを目指して、活動を引き続き展開する。

今後、運営費交付金削減のための様々な攻撃に使われるであろう財務上の数字について、我々が正しく理解し評価していくことが必要不可欠である。その上で、大学単位の財務状況を、各研究単位の状況と関連付けるセグメント情報の分析や、さらには、賃金に直結するような人件費分析の手法の案出、対学生支出比率の算定とその分析など、今後も研究すべき課題となっていることを付言しておく。

最終的には、運営費交付金制度をはじめとする国立大学法人への現行の予算措置の仕組みと、これを前提とした国立大学法人会計基準との変革を、我々はめざす。


投稿者 管理者 : 2005年09月12日 00:00

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