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2006年01月11日

京都大学任期制再任拒否事件控訴審、大阪高裁の不当な判決文(全文)

弁護士湯川二朗のホームページ
 ∟●京都大学任期制教員再任拒否事件(井上事件)大阪高裁不当判決!(05/12/30)

①京都大学任期制教員再任拒否事件(井上事件)大阪高裁不当判決!(05/12/30)
 任期付大学教授の再任拒否をめぐる初めての高裁判決である。現在、大阪高裁第9民事部と第11民事部の2か部に事件が係属している。平成17年12月28日、第11民事部で判決の言い渡しがあった。

 処分性の有無(行政事件訴訟法の取消訴訟の対象に当たるかどうか)が争点であった。行政事件訴訟法の改正もあり、また最高裁も徳州会病院事件判決(H17.7.15二小判、同10.25三小判)に象徴的に見られるように処分性の判断を緩和しつつあったから、地裁の訴え却下判決の見直しは必至であろうと予想していた。

 ところが、あにはからんや、高裁でも処分性なしとの判断で控訴棄却となった。判決文を見ても、地裁判決の上塗りで控訴審での実体審理や私たちの主張が全く考慮されていないものだった。申し訳ないが、高裁の裁判官は私たちの書面を全く読んでおらず(判決文記載の控訴人の主張の要約は理解不足を自認している。)、行政法の解釈論も全く知らず、行訴法改正があったことも最高裁判例の動きも全く理解していないとしか言いようのないものだった。およそ私たちが裁判所に何を求めているのかに真正面から答えていない内容であり、極めて不当な判決であった。

 そこで、私たちは即日、最高裁に上告兼上告受理申立の手続をとった。

1)事件の内容
2)大阪高裁第11民事部判決

控訴人(第1審原告) 井 上  一 知
被控訴人(第1審被告)京都大学総長訴訟承継人
国立大学法人京都大学
同代表者総長  尾  池   和  夫

主    文

1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判
 1 控訴の趣旨
  (1)原判決を取り消す。
  (2)本件を京都地方裁判所に差し戻す。
 2 控訴の趣旨に対する答弁
   主文同旨
第2 事案の概要等
1 事案の概要
 本件は,京都大学総長より,平成10年5月1日,平成15年法律第117号による改正前の大学の教員等の任期に関する法律(平成9年6月13日法律第82号・以下「任期法」という。)に基づき,5年の任期で京都大学再生医科学研究所の教授として任用された控訴人が,京都大学総長が控訴人に対して平成15年4月22日付けでした任期満了退職日通知書による通知は,控訴人の再任を拒否し,控訴人を失職させる旨の行政処分に当たり,同処分は違憲・違法であるなどと主張して,同総長を被告として,同処分の取消しを求める訴訟を京都地方裁判所に提起した(同裁判所平成15年行ウ第16号事件)が,原審が,訴えを却下するとの判決を言い渡したので,これを不服として控訴した事案である。
 (なお,京都大学は,国立大学法人法〔平成15年法律第112号〕により,平成16年4月1日,国立大学法人京都大学となり,同法律附則9条により京都大学総長の権利義務を承継した。以下,便宜上,承継の前後を区別しないで,任有権者と組織体を区別し,控訴人の任命権者であった京都大学総長をいうときは「京都大学総長」と,組織体としての京都大学をいうときは「京都大学」と称し,訴訟上の地位に関連していうときは「被控訴人」と称する。)

2 前提となる事実(争いのない事実及び証樋上容易に詰められる事実)
(1)控訴人は,昭和47年9月30日,京都大学医学部を卒業後,京都大学医学部附属病院外科研修医等を経て,昭和53年4月1日,同大学大学院医学研究科博士課程に入学し,昭和59年1月23日,同博士課程を修了した。その間,アメリカの大学で研究生活等をした。その後,控訴人は,昭和59年10月1日,京都大学助手大学院医学研究科,昭和62年12月1日、同大学講師大学院医学研究科にそれぞれ任用され,平成7年5月TL日,同大学助教授大学院医学研究科に任用されて腫瘍外科学講座の助教授として勤務していた(争いのない事実)。
(2)京都大学は,京都大学胸部疾患研究所及び京都大学生体医療工学研究センターの改組・転換等により,京都大学再生医科学研究所(以下「再生研」という。)を開設することを計画し,平成8年11月にその設置準備委員会を設け,平成1O年4月9日に再生研を設立した(甲6の1,98)。
(3)再生研設立に先立ち,同設置準備委員会委員長本庶佑は,同年1月14日,「京都大学再生医科学研究所教官公募」と題する書面(以下「本件公募要項」という。)で,職務内容を「臨床応用可能な代謝系人工臓器作成をめざす研究」とし,就任時期を同年10月1日(予定)として,再生研再生医学応用部門器官形成応用分野を担当する教授1名を公募した。なお,本件公募要項には,任期についての記載はなかった(甲6の1)。
(4)控訴人は,平成10年1月中句ころ,本件公募要項を知って,上記委員長宛に,履歴書,研究業績日録,主な論文等所定の資料を添えて応募書類を提出した。控訴人は,その後,面接審査を経て,平成10年3月ころ,再生研教授に任用するとの内示を受けた(甲3 0, 乙15)。
(5) 京都大学は,平成10年4月9日,任期法3条1項を受けて,「京都大学教官の任期に関する規程」(以下「本件規程」という。)を定め,これを公表した。本件規程には,任期法4条1項1号及び3号による任期を定めて任用する教官の対象となる教育研究組織とその職及びその任期と再任の可否並びに任期法4条2項の同意に関する書面の様式が定めら  れ,再生研の器官形成応用分野の教授,助教授,講師,助手もその対象とされて,その任期は5年,再任の可否については可と定められている。
 また,京都大学は,同日,「京都大学再生医科学研究所規程」を制定し,これを公表した。この規程には,再生研の目的,所長,研究部門及び施設の設置等の他,重要事項を協議するために協議員会を置くこと,協議員会に必要な事項は別に定めること等が定められている。
 さらに,同日,「京都大学再生医科学研究所協議員会規程」が制定された。この規定には,上記協議員会は,所長,再生研の教授及び京都大学の教授で協議員会の議を経て所長が委嘱した者で組織することのはか,協議員の任期,定足数,議事決定方法等が定められている。
 なお,再生研の教授の任命権者は,国家公務員法55条1項,2項,人事に関する権限の委任等に関する規程(平成13年1月6日文部科学省訓令第3号)3条1項により,京都大学総長であった(甲4,5,乙1)。
(6) 控訴人は,平成10年4月20日,本件規程に定められた同意書の様式に則して,「私は,京都大学再生医科学研究所再生医学応用研究部門器官形成応用分野教授に,就任に際し,大学の教員等の任期に関する法律(平成9年法律第82号)第4条第1項第1号及び京都大学教官の任期に関する規程第2条の規定に基づき,任期を平成10年5月1日から  平成15年4月30日までとされることに同意します。]と記載した平成10年4月20日付けの同意書を作成し,これを,再生研の松本事務長を介して京都大学総長に提出した。(甲6の3,乙4,原審における控訴人本人)
(7)再生研の協議員会は,平成10年4月21日,再生研再生医学応用分野の器官形成応用分野等の研究につき,5年程度で具体的な成果を得て終了することを基本とし,原則として5年の時限を課すと決定した(甲6の2,31)。
(8) 控訴人の上記同意書の提出を受けて,京都大学総長は,平成10年5月1日,控訴人に対し,任期法3条1項1号に基づいて,任期を平成15年4月30日までとするとした上で,京都大学教授再生医科学研究所再生医学応用研究部門器官形成応用分野(京都大学再生研教授)に昇任させる処分(以下「本件昇任処分」という。)をした(甲1)。
(9)再生研において,平成14年4月18日,協議員会決定として,任期制教官の再任に関する手続を定めた「任期制教官の再任審査に関する申し合わせ」(以下「本件申し合わせ」という。)を制定した。
 本件申し合わせには,任期制教官は,任期満了の12か月前までに書面をもって,所長に再任のための審査を請求することができ,その申請者は,該当する任期中の学術的業績,社会的貢献,及び学内の教育・行政への貢献に関する報告書,それらの評価に必要な資料,再任後の研究計画書を申請後1か月以内に所長に提出すること,再任審査申請が前記の期限までに行われなかった場合,及び再任審査申請後に申請を取り下げた場合,身分は任期の末日をもって終了すること,再任審査については,別に設置する外部評価委員会の意見を聴取した上で,協議員会が可否を決定すること,所長は,申請者の学術的業績,社会的貢献について外部評価委員会を設置し,これに評価を委嘱すること,再任の可否決定は,任期満了の6か月前までに行うものとすること等が定められていた(甲7)。
(10)控訴人は,平成15年5月1日以降も再任されることを希望し,平成14年4月23日,再生研の当時の山岡義生所長(以下「山岡所長」という。)に対し,「任期制教官の再任審査申請書」と題する書面により,本件申し合わせによる再任審査を申請した(甲10)。
(11) 再生研において,平成14年7月18日,協議員会決定として,「京都大学再生医科学研究所任期制教官の再任審査に関する内規」(以下「本件内規」という。)を制定するとともに,本件申し合わせを廃止した。
 本件内規の内容は,本件申し合わせとほぼ同様であるが,再任の可否の決定について,「協議員会は,外部評価委員会による評価に基づき,再任の可否について審議決定すること」と改め,再任の可否決定の時期について,「ただし,特別の事情により再任の可否決定を行うことが困難なときは,再任申請者の同意を得てこの期日を変更することができる。」との文言を追加し,外部評価委員会に求める評価対象事項を「学術的業績,学内の教育並びに行政への貢献,社会的貢献及び再任後の研究計画に関する評価」と改めたほか,協議員会の可否決定の方法を,「再任を可とする無記名投票」をし,「再任を可とする投票が,投票総数の過半数に達しない場合,再任を認めないこと」と定めるなど数項の規定が追加されている(甲8)。
(12) 再生研の山岡所長は,控訴人の再任審査をするため,控訴人の任期中の学術的業績,学内の教育・行政への貢献,社会的貢献及び再任後の研究計画に関する評価について,吉田修奈良県立医科大学学長を委員長とする委員7名の外部評価委員会を設置し,外部評価委員会は,平成14年9月18日付けで,山岡所長に対し,求められた評価事項についての評価意見を付した上,結論として,「控訴人の再任を可とすることに全委員が一致して賛成し,今後の活躍に期待をしめした。なお当該研究所の任用に当たっての期精々目標が明確に提示されていないので総合的判断は不可能であり,本答申は国内での一般的な5年任期のポストとしての適否を,与えられた資料と当該者からの意長聴取に基づいて検討した結果の報告であることを付記する。」との報告書(以下「本件報告書」という。)を提出した(甲33の4)。
(13)再生研の協議員会は,本件報告書の提出を受けて数回の協議を経た上,平成14年12月19日開催の協議員会において,控訴人の再任の可否について上記方法で投票を行った結果,投票総数17票中,再任を可とする票が1票で,投票総数の過半数に達しなかったため,控訴人の再任を認めない旨を決定した。
 これを受けて,再生研の山岡所長は,控訴人に対し,平成14年12月20日件けの「任期制教官の再任審査結果について」と題する書面により,協議員会における上記投票結果及び控訴人の再任が認められなかった旨を通知した(甲2 4,25)。
(14) 京都大学総長は,協議員会の審査結果を受けて,平成15年4月22日付けの「任期満了退職日通知書」と通する書面(以下「本件通知」という。)で,「京都大学教官の任期に関する規程第2条第1項の規定による再任については可となりませんでしたので,貴殿の任期満了退職日は,平成15年4月30日であることを通知します。」と通知した(甲39の3,45)。

3 争点
 本件の中心的争点は,①本件通知は,控訴人を失職させるという,行政事件訴訟法3条2項の処分に当たるか,②本件通知が上記処分に当たるとした場合に,これを取り消すべき事由があるか,であるが,控訴人は,①の処分性に関連して,本件昇任処分に付された任期の効力を争っている。
 なお,控訴人及び被控訴人の各主張については,第3の判断欄で,判断の前提として個別に記載することとする。


第3 当裁判所の判断
1 本件昇任処分に付された任期は無効であるとの主張について
 控訴人は,上記のとおり,本件昇任処分に付された任期は無効であると主張するところ,被控訴人は,本件昇任処分に付された任期のみを無効とする控訴人の主張は,主張自体失当であるとする。
 確かに,付政処分に件された期限等の附款が,その処分の重要な要育である場否には,附款が無効であれば,その付政処分自体が無効であって,その附款のみを無効であるとすることはできない。
 しかし,控訴人の主張は,下記2に述べるとおり,本件公募要項では,控訴人の就いた再生研教授職については任期の記載がなく,控訴人の性用の内示の際も性期は付されていなかったこと,無効原因が違憲,違法等であること等を理由として,本件昇任処分に任期を付すこと自体の育効控を争う趣旨と解される。控訴人の主張をこのような趣旨と解するならば,控訴人は,任期の定めなく任用されたものであり,本件通知は,任期のない控訴人に付して失職することを通知するもので,行政処分であると主張する余地も生じうると解することもできる。よって,控訴人の主張を上記の趣旨と解した上で,以下,その当再について検対する。
2 任期法の任期制及び再生研の任期制の違憲,違法性について
 (1)控訴人は,下記の理由により,任期法及び再生研の教員の任期制は,学問の自由を侵害するもので,憲法23条に違反し,また,違法で,無効であると主張する。
 ア 大学教員の任期件き任用制度は,再任の保障のない任期制であり,大学教員の地位を不安定なものにし,これが広く一般化されるならば,大学教員は自由に議論することができなくなり,大学における教育研究を萎縮させる。とりわけ再任に当たって恣意的な人育運用が行われるときは,大学教員の学問の自由を否定することになる。
 任期付き任用は,大学教員の身分保障に対する重大な例外であるから,憲法23条の学問の自由を保障するために,任期付き教員の任用・再任の手続及び審査基準の明確化,透明化を図り,再任拒否に対する不服申立制度を定めるなど法律により制度の詳細を明確に定めておかなければならない。
 しかし,任期法は,その制度設計のすべてを大学が定める規則に白続委任して,再任基準等任期付き教員の身分の消長に明する重大な事項等の任期付き教員の任用制度の根幹を定めていない。
 イ また,本件規程は,控訴人の就いた教授職の公募が行われた被に制定されたものであり,再任手続や再任基準を定めずに,これを再生研の裁量判断に委ねており,任期法3条1項1号に反する。また,本件内携にも再任手続や再任審査基準が明示的に定められておらず,その定める手続及び内容も不適正である。
 ウ 本件規程及び本件内規による再生研の再任審査手続で,正当な理由がないのに,外部評価委員会の評価を覆せるとする運用が許されるとするならば,再任審査をする協議員らの意思で恣意的に再任拒否ができることになる。
(2)これに対し,被控訴人は,憲法23条は,大学の教員の選任につき,その自由な意思に基づいて一定の任期付きで任用することまで禁止していると解することはできないから,任期法に定める任期制自体は同条に違反するものではない,また,再生研の任期付き教員の再任の可否については,控訴人もその制定に携わっている本件申し合わせや本件内規により,協議員会で決定することとされて,恣意的な運用がされないよう所定の手続が定められており,学問の自由に対する配慮をしているから,再生研の任期付き教員採用の制度は,憲法に違反しないし,また,違法ではないと主張する。
(3)ア そこで検討するに,憲法23条は,「学問の自由は,これを保障する。」と規定しており,そのために,大学の教員,研究者による大学の自治が認められ,この具体的内容として,大学の教員,研究者の選任や免職等は大学の自主的判断に基づいてされなければならないということが指摘できる。教育公務員特例法2条4項,5条,9条等は,この趣旨に基づき定められたものであると解される。
 しかし,憲法の規定やその趣旨から,個々の大学の教員・研究者の選任を,任期法の前記各規定に従って,教員らの自由意思に基づいて一定の任期付きで任用することが禁止されていると解することはできない。
イ 任期法は,大学等において多様な知識又は経験を有する教員等相互の学問的交流が不断に行われる状況を創出することが,大学等における教育研究の活性化にとって重要であることにかんがみ,任期を定めることができる場合やその他教員等の任用について,必要な事項を定めることにより,大学等への多様な人材の受入れを図り,もって,大学等における教育研究の進展に寄与することを目的としている(1条)。
 その上で,任期法は,国立大学の学長は,教育公務員特例法2条4項に規定する評議会(評議会を置かない大学にあっては,教授会)の議に基づき,その大学の教授や助教授等の教員について,任期を定めた任用を行う必要があると認めるときは,教員の任期に関する規則を定めなければならないものとされ(3条1項),任命権者は,前記の教員の任期に関する規則が定められている大学について,教育公務員特例法10条の規定に基づきその教員を任用する場合において,任期法の4架1項各号のいずれかに該当するときは,任期を定めることができると規定し,また,同条2項は,任命権者は,任期を定めて教員を任用する場合には,当該任用される者の同意を得なければならない,と規定している。
 そして,上記規定を受けて,本件規程では,任期制を採用する類型,対象となる教育研究組織とその職が定められ,控訴人の就いた教授職もその対象と定められている。さらに,本件内規では,再任審査の申請期限,申請手続,外部評価委員会による評価の対象事項が定められているほか,審査の審議及び再任の可否の決定機関は協議員会とされ,決定方法を無記名の投票によることと定めている。
ウ 上記のとおり,任期法は,大学の自治を尊重し,これを保障する立場から,任期制の採用自体や再任に関する事項を大学の自主的判断に委ね,かつ,任期付きで任用される者の同意を任用の要件としているものである。 したがって,再任に関する手続や再任基準等の事項を法律で定めていないことを理由として,任期法による任期制度が憲法23条に違反するとすることはできない。
エ また,京都大学は,その自主的判断により,再生研の任期付き教員の任用制度を採用し,かつ,同大学の自主的判断により再任の可否を決定する制度として,再生研の任期制度を構築しているものであるから,この再生研の任期制度が,大学の自治ひいては学問の自由の保障に反する制度であるとはいえない。
 この点について,控訴人は,本件規程は,控訴人の就いた教授職の公募後に制定されたものであり,再任手続や再任基準等を定めていないことを理由に,再生研の任期制度を違憲,あるいは違法であると主張する。
 確かに,任期法3条1項等の規定に基づく任期に関する規則に記載すべき事項及び同規則の公表に関する省令(平成9年8月22日文部省令第33号・以下「省令」という。)は,任期法3条1項に基づく大学の制定する規則には,任期法4条1項1号に掲げる教育研究組織や任期として定める期間,再任の可否その他再任に関する事項,その他大学において必要があると認めた事項を記載すること,規則の公表は刊行物への掲載その他広く周知を図ることができる方法によって行うものとすることを規定している。
 そして,本件規程には,上記のうち「その他再任に関する事項,その他大学において必要があると認めた事項」の定めがされず,協議員会決定である本件申し合わせ及び本件内規で「その他再任に関する事項」を定めていることが認められる。
 しかし,大学の自治を尊重し,これを保障するとの点からすると,各学部の自治あるいは教育研究組織の自治も許されるというべきである。そうすると,個別の教育組織とその職についての再任に関する事項については,大学の評議会(教授会)でなく,当該学部や教育研究組織の判断に委ねて,その自主的判断によりこれを定めることは,むしろ,憲法の趣旨により合致するものであるといえる。 したがって,任期法は,任期制による任用を採用した大学が,当該学部や教育研究組織に対して,上記の「その他再任に関する事項」を定めることを委任することまで排除しているとは考えられない。
 そして,本件においては,再生研の協議員会は,再生研の所長,再生研の教授のほかに,京都大学の他学部の教授のうち,協議員会の議を経て所長から委嘱された者で構成されている。このように,評議員会の構成について一定の配慮を示し,その意見についても再生研の関係者だけではなく,他学部の関係者の意見も反映されるようになっていることからすると,「その他再任に関する事項」を,協議員会決定である本件申し合わせや本件内規で定めることが,任期法3条1項の趣旨に反するとはいえない。
 この点につき,本件規程が,再生研の教授を公募する以前に制定されて周知され,また,本件内規も,その任用前に制定されて周知されることが,より望ましく,任期法3条2項や省令の趣旨にも合致することは,控訴人主張のとおりである。
 しかし,本件規程が公募後で,本件昇任処分前に制定され,あるいは,本件内規が本件昇任処分後に制定されたというだけで,再生研の任期制度が違憲,あるいは違法であるとはいえない。
オ さらに,控訴人は,合理的な理由がないのに,外部評価委員会の評価に基づかないで再任の可否を決定できる運用が許される制度は,違憲,違法であるとも主張する。
 しかし,本件内規は,再任の可否について「外部評価委員会の評価に基づいて,協議員会が審議決定する。」と定めているのであって,協議員会において恣意的な運用がされないように配慮されている。 したがって,再生研における任期制度を,控訴人の主張するような運用が許される制度であることを前提として非難するのは相当でない。なお,「外部評価委員会の評価に基づいて」の趣旨を,協議員会は,外部評価委員会の評価に拘束されると解するとするならば,かえって大学の自治を没却することになる。また,本件内規では,外部評価委員会の評価を覆すに足る理由があるか否かを含め,協議員会で審議をした上で,各協議員が再任の可否の判断を,無記名投票によって表明することとされている。
 大学の自治の根幹は,大学教員,研究者の自主的判断を尊重し,保障することにあることを考慮すると,本件規程や本件内規は,大学の自治の保障の趣旨に合致するものであるということができる。したがって,控訴人の上記主張は理由がない。
カ 以上のとおり,任期法の任期制,再生研の任期制が憲法に反するとの控訴人の主張は,いずれも採用できない。また,以上でみてきたところによれば,これらを違法とする控訴人の主張も理由がない。
3 再生研教授職の任期法4条1項1号の該当性について
 (1)控訴人は,控訴人が就いた再生研の教授職は,任期法4条1項1号に定める類型に該当しない,本件規程では任期法4条1項1号に定める類型とされているのに,平成10年4月21日の再生研協議員会決定では,あたかも同条3号の類型(いわゆるプロジェクト型)としている,このように,再生研の教授職を本来本件規程による任期付きで採用することができないものであるのに,京都大学総長は,本件昇任処分に際し,控訴人を任期付きで任用した違法があり,無効であると主張する。
 (2)任期法4条1項は,任期付き教員の任用ができる場合を,先端的,学際的又は総合的な教育研究であることその他の当該教育研究組織で行われる教育研究の分野又は方法の特性にかんがみ,多様な人材の確保が特に求められる教育研究組織の職に就けるとき(1号),助手の職で自ら研究目標を定めて研究を行うことをその職務の主たる内容とするものに就けるとき(2号),大学が定め又は参画する特定の計画に基づき期間を定めて教育研究を行う職に就けるとき(3号)に限定している。
 そして,前提となる事実,甲3,6の2,2 7,9 7,乙15,原審における控訴人本人によれば,再生医学における器官形成応用分野は,再生研の設立に伴い新設された教育研究組織であって,糖尿病の治療に関し膵臓等の消化器外科に関する研究と膵臓移植,膵島細胞移植等の再生医療全般に関する研究の一環として臨床応用可能な代謝系人工臓器作成を目指す研究をするものであって,先端的,学際的な研究であると認められる。そうすると,控訴人の就いた再生研教授職は,任期法4条1項1号の類型に当たるといえる。 したがって,本件規程が,任期付き任用類型を任期法4条1項1号とした上で,控訴人の就いた再生研教授職を対象としたことに誤りはないというべきである。
 なお,本件規程は,任期法4条1項3号の類型として,他の教育組織を任期付き任用とされる対象に指定している。また,協議員会の再生研器官形成応用分野の研究についての平成10年4月21日の決定では,「再生医学応用部門は,再生医学研究の成果を臨床との関連において研究する応用基盤の最先端部門である。」とした上で,「5年程度で具体的な成果を得て終了することを基本とし,原則として5年の時限を課す。」としているのであって,協議員会は,本件規程の内容を前提とし,かつ,1号類型として認識した上で決定したものであることは明らかであり,したがって,控訴人の主張は採用できない。

4 同意の効力について
 (1) 控訴人は,本件昇任処分の際の任期についての控訴人の同意は,任期制に関する誤った情報提供と必要な情報の不提供により詐欺的になされたもので,重大かつ明白な瑕疵があり,有効な同意とはいえず,また,提供された情報から,再任されるものと考えて同意したものであるから,法律行為の要素に錯誤があり,無効であると主張する。
 (2)これに対し,被控訴人は,控訴人は自ら同意書を作成して京都大学総長に提出したものであること,京都大学においては,公募された再生研の教授職が任期法による任期制であることを周知させる推薦を行ったこと,控訴人も,再生研の教授職が任期制教授であることを承知した上で,任期を5年とする本件昇任処分に同意したものであること,このような事情からすると,同意は控訴人の真意に基づいており,要素に錯誤はなく有効であると主張する。
 (3)よって検討するに,前提となる事実,甲3 0,9 8,乙5,15,原審における控訴人本人によれば,本件公募要項には,再生研教授の職が5年の任期制であることの記載がなかったこと,京都大学は,採用の内示をした平成10年3月ころまでの間に,控訴人に対し,本件公募につ いて,任期付きの教授の公募であるということを明確に示したり,説明をしたことがなかったこと,しかし,本件規程は,上記公募後ではあるが,控訴人が本件昇任処分を受けた平成10年5月1日より以前の同年4月9日に制定されて公表されたこと,控訴人は,同年4月20日ごろまでに,再生研の松本事務長から,「京都大学でいくつかの部門で教員の任期制が導入されることになり,控訴人の就く予定の再生研教授職も5年の任期制となるが,再任が可とされており,普通にまともに仕事をすれば,定年まで引き続いて何回でも再任されます。」との説明を受けたが,この「任期」の意味等については特に説明を受けなかったこと,控訴人は,同月20日,松本事務長から,昇任に必要な書類であるとして見本用紙を渡され,「急ぐので,この書面のとおりに書いて下さい。
大至急お願いします。」と言われて,同日付けの同意書を作成して松本事務長を介して京都大学総長に提出したが,同意書の記載内容は,「任期法4条1項1号及び本件規程2条の規定に基づき,任期を平成10年5月から平成15年4月30日までとされることに同意します。」となっていて,控訴人自ら,任期が5年であることを明記したものとなっていること,再生研の協議員会は,同月21日,控訴人が就く予定の教授職の研究に関し,5年程度で具体的な成果を得て終了することを基本とし,原則として5年の時限を課すと決定したが,控訴人は,この協議員会にオブザーバーとして参加していたことが認められる。
 以上の事実からすると,控訴人は,上記同意書提出の前に,控訴人が就く予定の再生研の教授職が5年の任期付きであることを承知し,その上で,任期法による5年の任期付きであることに同意する旨の同意書を提出して,本件昇任処分を受けたものと認められる。したがって,その意思表示に重大かつ明白な瑕疵があるとか,意思表示の要素に錯誤があ
ると認めることはできない。
 なお,以上の事実及び任用の際に,控訴人が当然に再任されることを前提として同意したとの趣旨の発言等をしたことを窺わせる証拠はないこと等からすると,控訴人自身は,再任されるものと内心で期待して前記同意書を作成したと考えられるが,そうであったとしても,控訴人が,これを任命権者に表示したとの事実は認められないから,動機の錯誤の問題も起こり得ない。

5 控訴大の再任拒否と本件通知の処分性等について
 (1) 控訴人は,本件通知には処分性があるとし,その理由付けとして多様な主張をしているが,その中心的なものは,下記のとおり,控訴人には再任請求権,あるいは再任申請権,再任期特権があるところ,本件通知は,再任請求権を侵害し,あるいは再任申請権に基づく再任申請に対する応答であり,若しくは再任期特権を侵害するものであるから,処分性が認められるというものと解される。
 ア 再任請求権を理由とする処分性
  控訴人が就いた再生研の教授職は再任されるのが原則であり,控訴人には,適法な再任申請を行えば再任されるという再任請求権があるところ,本件通知は控訴人の再任請求権を侵害するものであるから,処分ト生を有する。
 イ 再任申請権期待権(法律上の利益)を理由とする処分性
  控訴人は,控訴人が,本件規程及び本件内規に定められた再任申請の手続及び再任審査手続の定めに基づき行った再任申請に対して判断を受ける権利である再任申請権を有する。そして,京都大学総長(再生研)は控訴人の再任申請に対する応答義務かおるところ,本件通知は,控訴人の再任申請権に基づく再任申請に対する応答であるから,処分院がある。
 ウ 期待権(法律上の利益)を理由とする処分性
  上記のとおり,京都大学総長(再生研)には控訴人の再任申請に対する応答義務があるところ,再任申請を行った控訴人には十分に保護されるべき期待権(法律上の利益)があると解すべきである。そうすると,本件通知は,本件内規に規定された再任申請手続及び所定の審査基準に基づいて再任の可否が決定され,かつ,控訴人の地位を事実上失わせ,再任の期待利益を侵害するものであるから,処分性が認められる。
(2)これに対する被控訴人の主張は,以下のとおりである。
 本件通知には,控訴人が主張する処分性は認められない。すなわち,任期法2条4号は,同号所定の事由ある場合を除き,当該期間の満了により退職すると規定し,任期が満了すれば,当然に退職することを前提としており,控訴入も,任期の満了により,当然に身分を失ったものである。
 したがって,控訴人の再任申請が可とされなかったことをもって,控訴人の権利や利益を侵害したとはいえず,再任拒否は行政処分に当たらない。本件通知は公権力の行使に当たるものではなく,単なる観念の通知であって,処分性は認められない。控訴人の処分性に対する主張は,いずれも失当である。
(3)再任請求権について
 ア 任期法にいう任期とは,国家公務員としての教員等の任用に際して定められた期間であって,国家公務員である教員等にあっては当該教員等が就いていた職若しくは他の国家公務員の職に引き続き任用される場合を除き,当該期間の満了により退職することとなるものをいう(同法2条4号)。また,ここに退職とは,人事院規則8-12「職員の任免」71条5号に定義されているとおり,失職の場合又は懲戒免職の場合を除いて,職員が離職することをいう。
 そして,控訴人は,任期法4条及び本件規程の各規定に従って,その同意の下に,再生研の5年の任期付き教授として,平成10年5月1日付けの本件昇任処分により任用されたものであって,その後,京都大学総長から,再生研教授に再び任用されなかったものである。
 したがって,任期法の規定に従えば,控訴人は,平成15年4月30日の任期の満了により退職したということになり,本件通知は,この観念的な事実を通知したにすぎないものであって,行政処分に当たらないと解せざるを得ない。
イ 控訴人は,上記のとおり,控訴人が就いた再生研の教授職は再任されるのが原則であり,控訴人には再任される権利としての再任請求権があると主張する。
 (ア)しかし,上記のとおり,任期法2条4号は,任期付き教員は,その任期が満了すれば当然に退職すると定めており,同法には,いったん任用された任期付き教員について,再任されるのを原則とするような規定は一切存在しない。再任されるのが原則とすることは,任期を定めて任用することとした任期法の趣旨を否定し,これに相反するものであり,与することができない。そして,任期法2条4号にいう任期の性質は期限であると解するのが相当である。
2  なお,当然のことながら,本件規程や本件内規にも再任を原則とするような規定は存在しない。
  また,任期付き教員の再任とは,当該任期の満了する場合において,それまで就いていた職に引き続き任用されることをいい(省令1条参照),再任の場合でも採用の選考が行われるのであって,期間の満了によりいったん退職することを前提としているものであるというべきである。
  そして,任用(再任)をするか否かは,任命権者の裁量に属するものであるところ,任期法,本件規程及び本件内規の規定から当然に再任請求権があるとすると,この任命権を拘束することとなり,任期制の趣旨自体を没却することとなる。
  さらに,大学教員にあっては,学問の自由の保障の観点から,身分保障の要請が強く求められるものであるが,その身分については既に教育公務員特例法でより強い身分保障制度が設けられていることを考えると,任期付き大学教員のみに,さらに強い身分保障である再任される権利としての再任請求権を認めるべき理由があるとは考え難い。
(イ)以上のとおり,任期法や本件規程,本件内規の文言や趣旨からは,再任される権利としての再任請求権が認められていると解することはできない。
  なお,任期法2条4号の退職するとの規定は,期間満了前に任命権者により,就いていた職等に再び任用された場合は退職しないという当然のことを注意的に規定したにすぎないというべきである。
  また,本件申し合わせで,所定の期限までに再任審査の申請が行われなかった場合や,申請後に申請を取り下げた場合は,「身分は任期の末日をもって終了する。」と定め,本件内規4条で,「所定の期限までに再任の申請がないとき,あるいは所定の書類の提出がない場合は,「任期制教官の身分は任期の末日をもって終了する。」と定めているが,これらの規定も,当該事由ある場合には,再任の審査を行わずに,期間満了により退職することを注意的に明らかにしたものにすぎないものと解される。
  したがって,これらの規定があることから,任期付き教員が,期間満了に際し,当然に再任されることを前提としているということはできず,控訴人に再任される権利としての再任請求権があるとすることはできない。
 (ウ)既に述べたとおり,任期法3条は,大学の学長は評議会(教授会)の議に基づき,教員の任期に関する規則を定めなければならないと規定し,これに基づき,本件規程,本件内規等が制定されて,再任の可否は,協議員会が決定することと定められている。これは,教育公務員特例法3条5項が,教員の採用の選考については,評議会の議により学長が定める基準により,教授会の議に基づき学長が行うと定めていることとも符合するものであって,再任の可否や再任の決定を大学の自主的判断に委ねたものであり,上記制度自体が大学の自治を尊重したものといえる。
  そして,上記任期法3条の趣旨からすると,本件においては,任命権者である京都大学総長は,再生研の協議員会の決定に拘束され,これと異なる決定をすることはできないと解される。 したがって,京都大学総長は,控訴人の再任を認めなかった再生研の協議員会の決定に拘束されるものであり,同決定に反して,控訴人を再任することはできないというべきである。
 なお,再生研の松本事務長が,控訴人から本件昇任処分の任期の同意書を取得する際に述べた説明は,同事務長の単なる個人的な意見を述べたにすぎないもので,京都大学の教授会の正式な議を経た結論を述べたものではないから,松本事務長の上記発言をもって,再任請求権があることの根拠とすることはできない。
  (エ) 以上に述べたとおり,再任請求権があるとする控訴人の主張は,任期法等の趣旨にかんがみ,採用できない。
(4) 再任申請権,期待権(法律上の利益)について
  次に,控訴人は,控訴人には,法令上の再任申請権あるいは期待権(法律上の利益)があると主張する。
ア しかし,上記(3)イで述べたとおり,任期法,本件規程及び本件内規には,再任される権利としての再任請求権を認めていると解される規定はない上,任期法は,再任の可否や再任を可とした場合の再任申請の有無にかかわらず,期間の満了により身分を失うことを前提としていること,教育公務員特例法3条5項は,教員の採用の選考は,評議会の議により学長が定める基準により,教授会の議に基づき学長が行うと定めているところ,本件内規に規定する事項も,これと同様の性質を有するものであって,これは,任命権者の内部意思決定に至るまでの手続を定めたものであるといえること,任用(再任)するか否かは,任命権者の裁量に属し,本件規程や本件内規に定める再任審査申請は,その裁量権の発動を促すにすぎないと考えられることなどからすると,本件規程及び本件内規に再任申請や審査手続等に関する定めがあることから,当然に,再任申請者に,法令上の再任申請権が生じ,任命権者にこれに対する法律上の応答義務があるということはできない。
  控訴人の退職は,あくまでも任期の満了によるものであって,控訴人の再任を可としないとの決定は,単に控訴人を任期満了後は引き続いて任用しないという意味を有するにすぎない。
イ また,以上に述べたところからすると,控訴人に,その主張するような法によって保護されるべき再任に対する法律上の期待権(利益)があるとすることもできないといわざるを得ない。この点につき,以下,控訴人の主張等も考慮した上,少し敷衍して述べる。
  再任審査や再任の可否についての決定が恣意的に運用されてはならないことは,再任手続等についての明文の法律や内規等の有無にかかわらず,当然の要請であるということができる。
 本件においては,再生研の外部評価委員会は,控訴人に対する評価対象事項について,高い水準にあるとの評価をした上,全員一致による再任を可とする旨を付記した本件報告書を山岡所長宛に提出した。
しかし,再生研の協議員会は,控訴人の再任を認めない旨の決定を行った。協議員会のこのような結論は,控訴人からみると,外部評価委員会の報告書(結論)を無視されたものと映り,控訴人が「外部評価委員会の評価に基づく」再任の審査や決定が行われなかったと思ったとしても,あながち無理からぬところであるといえる。
 しかし,例えば,任期付き教員の再任に際し,当該教員に加えて,他の者をも任用対象として(他の者から任用申請がある場合のほか,特定の者と任用交渉をすることを前提としている場合も考えられる。)選考するという場合を考えると,外部評価委員会が再任を可とする意見を述べたとしても,協議員会は,他の候補者との比較検討の上で,当該教員の再任の可否を決定することができるものである。また,当該教員のみが任用対象であっても,協議員会は,外部評価委員会の評価事項以外の事項についても審査することができるといえる。 したがって,外部評価委員会が再任を可とする意見を述べたとしても,協議員会が,これと異なる決定をすることがあり得ることは,その審査の性質上否定できないといわざるを得ない。
 ところで,本件内規は,協議員会は再任の可否を,「外部評価委員会の評価に基づいて」行うと定めている。これは,協議員会が再任の可否を決定するに際し,外郎評価委員会の評価を尊重して審議すべきことを求めている趣旨と解される。しかし,この要請は,任命権者や再任手続に携わる者の職務上の義務であって,再任審査申請をした者との関係での法令上の義務とまでいうことはできない。
 以上に述べたとおり,再任申請者である控訴人に,再任申請権あるいは法律上の期待権(利益)があるということはできない。
(5) 控訴人は,以上の主張の他に,本件通知に処分性があるとして,さらに下記ア,イのように主張する。
ア 京都大学総長は,再任を可としないとの協議員会決定を受けて,公務員の身分を有する控訴人を期間の満了により失職させるか,継続任用するかの判断を行ったものであり,本件通知には,再任拒否により控訴人を失職に追い込むという任命権者の意思が関与しているから,処分性が認められる。
 イ 本件通知は,任期の満了日までに行われる再任審査で再任を否とされれば失職するという失職条件(解除条件)の成就を通知するものであるから,処分性が認められる。
 ウ しかし,既に述べたように,本件通知は,控訴人が平成15年4月30日の任期満了により退職するという観念的な事実を通知したにすぎないものであるから,これをもって任命権者である京都大学総長の意思が関与しているということはできない。
 また,既に述べたとおり,任期法に規定する任期は,期限と解すべきであるから,これを条件と解する控訴人の主張は採り得ない。本件通知が失職条件(解除条件)の成就であると考えることは,任期法の趣旨からみて,妥当とはいえない。
 エ 控訴人は,本件通知に処分裡性があるとして他にも主張するが,いずも採用することはできない。
(6) なお,控訴人は,京都大学の任期制の運用や再任審査手続に瑕疵があると理解できるような主張もしているが,そのような瑕疵があることは認めることはできない。
 6 以上検討してきたところによれば,本件通知に抗告訴訟の対象となる行政処分性を認めることはできないといわざるを得ない。

第4 結論
 以上によれば,本件通知によって,控訴人の教授の地位を喪失させる行政処分があったとも,再任を拒否する行政処分があったともいうことができず,そのような行政処分があったことを前提としてその取消しを求める本件訴訟は不適法といわざるを得ない。
 したがって,控訴人の本件訴えを却下した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第11民事部
裁判長裁判官
裁判官
裁判官
武  田  和  博
松  山  文  彦
鈴  木  和  典
これは正本である。
 平成17年12月28日


投稿者 管理者 : 2006年01月11日 00:08

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