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2006年02月27日

自由法曹団、「新しい自律的な労働時間制度」の導入に反対する声明

自由法曹団
 ∟●「新しい自律的な労働時間制度」の導入に反対する声明(2006/2/22)

「新しい自律的な労働時間制度」の導入に反対する声明

1 厚生労働省の「今後の労働時間制度に関する研究会」は、2006年1月27日、新しい労働時間制度の在り方に関する報告書を発表した。その内容は多岐にわたるが、とりわけ、「新しい自律的な労働時間制度」と称して、一定の労働者を労働時間規制の対象外としている点は到底容認できない。
2 一定の労働者を労働時間規制の対象外とすることは、日本経団連が、いわゆるホワイトカラーエグゼンプションとして、その導入を政府に対して強く要求していたものである。報告書が導入を打ち出した「新しい自律的な労働時間制度」は、こうした財界の要求に基本的に沿ったものであって、企業収益の極大化を図るため、労働者の犠牲のうえに労働力の「効率的」使用を押し進めてきた「労働分野の規制緩和」の一貫をなすものにほかならない。
3 報告書は、「最近、所定外労働を中心とした労働時間の増加が見られ」るとの現状認識のもとに「適切かつ厳正な労働時間管理を徹底させ、長時間にわたる恒常的な所定外労働の削減や、賃金不払残業の解消へ向けた取組を引き続き進める」としながら、一転して「経済のグローバル化の進展に伴う企業間競争の激化等により、従来にも増して技術革新のスピードが加速し、製品開発のスピード・質が求められるようになっており、多様化する消費者ニーズへの対応の必要性」もあるとして、労働時間に関する法規制を適用除外する制度の創設を提言した。
すなわち、「自律的に働き、かつ、労働時間の長短ではなく成果や能力などにより評価されることがふさわしい労働者」の増加に対応するために、「従来の実労働時間の把握を基本とした時間管理とは異なる新たな労働時間管理の在り方」を検討するとして、「労働時間に関する規制を適用除外する制度」の導入を打ち出したのである。
4 しかしながら、報告書自身が現行の裁量労働制について、「業務遂行に当たっての裁量性が確保されていないケースや追加の業務指示等により業務量が過大になっているケースがある」「健康・福祉確保措置や苦情処理措置が適切に実施されていないなどの実態が見られる」と指摘しているように、「自律的な働き方」とか「心身の健康の確保」などというものは、幻想にすぎない。
 裁量労働制の導入にあたっては、国会審議の過程で要件や手続に厳格な絞りがかけられてきたが、その趣旨が全く生かされておらず、労働者の心身の健康を犠牲にした無限定な働かせ方が横行しているというのが実態なのである。企業組織に組み込まれ、「成果や能力などによる評価」という拘束を受ける労働者にとって、自由な裁量によって働くなどということはありえない。「裁量」の名のもとに、労働時間の規制を外すことは、労働者の現状も、国会審議の経過をも無視するものである。

5 導入が検討されている「新しい自律的な労働時間制度」においては、勤務態様要件が設けられているが、きわめて曖昧であって使用者の恣意を許すものとなっている。また、本人同意の要件も、使用者と労働者の間に圧倒的な力の差が現に存在するもとでは歯止めにはなりえない。さらに、健康確保措置についても何ら具体性がなく、これに違反した場合の措置も検討されていない。そればかりか、労働者が同意すれば労働基準法の適用が除外されるというのは、同法が強行法規であることに反するものである。
6 加えて、報告書は、事業場外認定を受けた労働者について、事業場内の労働についての労働時間把握義務を免除することや、管理監督者について、深夜業規制の適用を除外することなども検討している。これらの点もおおいに問題である。
7 そもそも労働基準法は、長時間労働が労働者の心身に悪影響を与えることから、一日8時間・週40時間の原則を明らかにして労働時間を規制し、この規制に違反した使用者に対しては、労働者が承諾していたか否かにかかわらず、処罰をもって臨んでいる。労働を管理すべき立場にある使用者に労働時間の管理義務を負わせているのも、労働者を保護するためである。
 ところが、実際は、このような規制すら無視した長時間過密労働が横行している。2004年度において、精神疾患を理由とする労災認定件数が130件(うち自殺45件)、脳心臓疾患を理由とする同件数が294件(うち死亡150件)にも上っている。労働者の健康破壊を防止するために、いま必要なことは、企業間の競争を口実にますます助長されている長時間過密労働をより厳しく規制し、違法な時間外労働を根絶することである。
8 いま、労働時間規制の適用を除外する制度を創設することは、このような違法な現状を追認するにとどまらず、労働者をいっそうの長時間労働に駆り立てる筋道を作り出すものである。それは、「仕事と生活の調和」という政策目的にも反し、労働者の心身の健康に著しい悪影響を与えるとともに家族生活をはじめとする私生活に重大な支障を来たすことが明らかである。
9 報告書が提案する「新しい自律的な労働時間制度」は、労働者の健康を破壊し仕事と生活の調和を阻害するものであって、自由法曹団は、その導入に断固として反対する。

2006年2月22日

自由法曹団 団長 坂 本 修

投稿者 管理者 : 2006年02月27日 00:00

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