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2006年04月28日

自由法曹団、教育基本法を改悪する法案の国会提出に強く反対する声明

自由法曹団
 ∟●与党協議会の「最終報告」に抗議し、教育基本法を改悪する法案の国会提出に強く反対する声明

与党協議会の「最終報告」に抗議し、教育基本法を改悪する法案の国会提出に強く反対する声明

本年4月13日、与党教育基本法改正に関する協議会は、「教育基本法に盛り込むべき項目と内容」(以下「最終報告」という)を発表した。この最終報告は、憲法及び現行教育基本法の理念に照らして、とうてい容認できない。

 まず、第1に、最終報告は、徹底した平和主義と個人の尊重を基本とする日本国憲法に真っ向から反するものである。
 最終報告は、現行法前文の「(憲法の)理想の実現は、根本において教育の力にまつべきものである」との文言を削除した。これは、教育基本法が平和憲法と一体のものとして、「世界の平和と人類の福祉」への貢献をめざしてきた関係を断ち切るものである。
 また、最終報告は、現行法前文が「真理と平和を希求する人間の育成を期する」としていたのを「真理と正義を希求し、公共の精神を尊び、豊かな人間性と創造性を備えた人間の育成を期する」に変更し、かつ、現行法1条の教育の目的から「個人の価値をたっとび」という文言を削除した。これは、最終報告が「正義」の名のもとに行われる戦争を肯定し、個人の価値よりも公益や国益を重んじる立場にあることを示すものである。

 第2に、最終報告は、教育を国家の望む人材づくりの道具とし、国民の思想・良心の自由を侵害するものである。
 最終報告は、国が求める5項目の「態度を養うこと」を教育の目標として、新たに法定化しようとしている。国が求める「態度」のとれる子どもをつくる教育が行われるということは、法定化された「期待される人間像」に子どもをはめ込もうとすることである。これは子ども一人一人の成長発達権を保障する本来の教育のあり方とは明らかに異なっており、教育を国家の望む人材づくりの場に転換させるものにほかならない。
 しかも、最終報告は、法定化しようとしている5つの態度の中に、「伝統と文化を尊重し」「我が国と郷土を愛する」態度を養うことを明記した(最終報告2条5項)。これは、教育現場において「愛国心」の押し付けを行うことの公式な宣言であり、憲法が保障する国民の内心の自由を侵害するものである。
 このような考え方に立つ最終報告は、有事法制の制定や9条改憲の策動と呼応して、日本を「戦争する国」に作り変える狙いをもつものであることが明らかである。

 第3に、最終報告は、義務教育について「九年間」(現行法4条)という文言を削除し、「別に法律で定めるところにより」(最終報告5条)としている。これは、法律による義務教育の複線化や期間の弾力化に道を開くものであり、義務教育の基本理念である「平等」や「機会均等」を変質させるものである。

 第4に、最終報告は、現行法5条の男女共学を削除するとしているが、これは近年の性教育やジェンダーフリー教育に対する攻撃と軌を一にするものであり、戦前の男女別学、これに伴う男女差別教育への逆行である。

 第5に、最終報告は、現行法10条1項の「教育は国民全体に対し直接の責任をもって行われるべきものである」との文言を削除して、「この法律及び他の法律の定めるところにより行われるべきものである」とした(最終報告16条1項)。そのうえで、最終報告は、国が「教育に関する施策を総合的に策定し、実施」するものと規定している(同条2項)。
 これは教育の主人公を国民から国家に切り替えることを意味し、国家が教育に介入し統制することに道を開くものである。
 さらに、最終報告は、政府及び地方公共団体に対し、教育振興基本計画の策定を義務付けている(最終報告17条)。これは、現行法が教育行政の責務を「諸条件の整備」に限定したのに対し、行政の責務・権限を一気に拡大するものであり、国及び地方公共団体による教育内容の強い統制につながる危険が極めて高い。現行法のもとでも、東京都教育委員会による「日の丸・君が代」の強制に代表されるような教育行政の教育内容への介入・統制が顕著になっているが、このような法改定がなされれば、この傾向に拍車がかかることは目に見えている。すなわち、現行法10条が保障した「教育の独立、中立」は完全に骨抜きにされてしまうのである。

 第6に、この最終報告は、与党検討会という、審議過程も公開されず、参加者に配布した資料さえも回収されるという異常なまでの密室の中で審議された。
 新聞報道等によれば、文部科学省は、この最終報告をもとに教育基本法「改正」法案を作成する予定であるということであるが、広く市民の間で議論も経ないままで「改正」法案が作成されるということ自体が、民主主義の理念に反するものである。
 現在の教育の諸問題の原因は、教育基本法が活かされていないこと、さらに国連子どもの権利委員会が日本政府に対し、1998年及び2004年の2回にわたり、「子ども達が極度に競争的な教育制度によるストレスにさらされ」「子どもが発達障害に陥っている」という趣旨の指摘をしているにもかかわらず、この指摘の本質を踏まえた教育政策の改善がなされていないことにある。
 自由法曹団は、教育基本法を改悪する法案の国会提出に強く反対し、同法の改悪につながるあらゆる作業の即刻中止を求める。

2006年4月25日
自由法曹団団長 坂 本 修


投稿者 管理者 : 2006年04月28日 00:01

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