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2006年05月15日

九州大学教職員組合、新助手・助教への任期制導入に反対します

九州大学教職員組合
 ∟●新助手・助教への任期制導入に反対します(2006.5.10付)

新助手・助教への任期制導入に反対します

1. 九大の助手は教育研究を支えている教員です。
 九大の助手職は、これまでその高い教育研究能力によって、学生と教授・助教授との間をつなぎ、授業はもちろんのこと、様々なプロジェクトや学内行事で重要な役割を果たしてきました。
 今回、教員組織の変更にあたり、この助手職が廃止されて助教職が新設されようとしています。助教は、昇任可能で独立した教育研究職とて助手を位置づけ直そうというもので、その考え方は大変評価できるものです。
 ところがこの助教職の導入に当たり、九大は助教職に一律に任期を付けようとし、再任についても適切な制限を設けるとしています。今回の教員組織変更は、大学設置基準改定要綱に基づいていますが、そこでは、助教への任期制の導入は言及されておらず、助教を任期制とするのは九大の独自の方針であることが分かります。助手は、無条件に任期付きとなる助教に移行するか、教育研究者とはもはや認められない新たな助手職を選ぶしかありません。助教への移行に伴う審査を含め、再任審査の詳細が全く不明なまま、助手は平成19年度から、任期付きポストへの移行を事実上強制されることになります。
 現行の助手に対するこうした大学の取り扱いは、助手をあまりにも軽視していると組合は考えます。

2. 任期制は助教の趣旨に反します。
 助教の導入理念は、教育研究能力の高い現行の助手職を教授の秘書的業務から解放し、独立した教育研究職として位置づけるところにあります。しかしここに任期制が導入されると、こうした理念の実現は困難になるでしょう。
 任期制は、任命者によって雇用の継続が任意に延長される制度です。つまり再任拒否は通常の労働法上の解雇ですらなく、たんに雇用を継続しないという通告でしかないのです。どれほど業績をあげてもそのときの都合で簡単に首を切ることを法的に実現する制度が、教員任期制なのです。
 助教が再任を期待して、どれほど研究に努力し教育に熱心であったとしても、それが報われる保証はどこにもありません。裁判所は、業績をあげてもなお首を切られたある国立大学教員の地位回復の訴えに対し、その請求を「たんに再任を期待したにすぎない」の一言で退けています。すなわち任期制は、再任の可能性が組織の改変や方針変更により大幅に変化する、業績とは別の評価基準を有しています。任期を越えるスパンの研究や外部との提携を計画することが困難であるばかりでなく、研究を必然的に再任審査に有利な方向に向け、自立して研究を行うより既存のプロジェクトや継続が約束されている研究に従属する立場を取らざるを得ません。どうして教育研究の活性化につながるでしょうか。

 また研究以外でも、再任に影響を与える他の教員との関係が常に意識され、人事権を持つ教員への人格的従属を引き起こしかねません。こうした状況を誘起しうる体制は、助教を自立して教育研究を行う者と位置づける導入理念に反するものであると組合は考えます。

3. 助教任期制は九大への貢献を困難にします。
 今回の助教職の導入には多くの問題が残されています。これまで助手が行ってきた事務作業や教育上の補助、研究プロジェクトの補佐などの仕事を誰が負担するかという問題です。最悪の場合、現行の助手の仕事はそのままに、さらに授業・学生指導という重い責任が助教に課せられることも考えられます。十分な措置がとられないかぎり、助教が研究に割ける時間は現行よりはるかに少なくなる可能性があります。
 しかも助教は再任審査にさらされるので、これまで以上に研究業績を上げることに専心しなければなりません。助教が、再任審査に先立他のポストにも移れるよう、自己の研究以外のあらゆる要素を犠牲にする気風が生じれば、それは、九大にとって大きな損失となります。また、こうした状態は、とりわけ女性研究者の出産・育児をきわめて困難にし、男女共同参画の実現を難しくするでしょう。助教は、大学のために積極的な貢献をしたくとも、困難な状況に追い込まれるでしょう。
 こうした精神状態に現行の助手を追い込むことは、自己の直接的利益を超えて初めて維持される大学ののびやかな活動とその発展を著しく阻害することになると組合は考えます。

4. 現行の助手を任期つきポストに移行することは契約法理の原則に反します。
 任期制は教員を雇用継続に関する無権利状態に追い込むものです。それが一方的に適用されるならば、雇用形態の強制的な変更であり、労働者の持つ基本的権利の侵害に当たると組合は考えます。そもそも期限の定めのない労働契約に合意したはずが、一方的に期限の定めのある労働契約に変えられてしまうという事態になります。こうした変更が許されるならば、社会一般の当然の原則である「契約法理の原則」に反することになります。論理的には、教授・準教授にも、同様の手続きで任期制が導入できることになります。一度この任期制導入の論理を認めれば、次からそれに反対することは著しく困難になるでしょう。
 加えて今回、九大は、助教に一律に、そして再任について制限を設け、任期制を適用しようとしています。大規模総合大学としての九大は、部局独自の実情と特色に合った運営がなされ、それが総体として九大の教育研究の発展につながってきました。一律に任期制を適用しようとするならば、混乱が生じることは明らかでしょう。
 今回の助教に対する任期制の導入は、教育研究者全体が保持する基本的な権利の性格にかかわる重大な問題だと組合は考えます。

5. もう一度任期制について考えてみて下さい。
 大学教員はみな、教育研究に情熱と夢を持ちその道へ進んでいます。教員それぞれが挑戦する意欲を持ち続け、その能力を最大限に発揮し、九大の教育研究が発展していくために、全員でこの問題を考えてみることが大切です。

2006年5月10日
九州大学教職員組合


投稿者 管理者 : 2006年05月15日 00:00

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