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2006年05月17日

新潟大学、学長選考会議選考無効確認等請求事件 第2回口頭弁論記録

■「意見広告の会」ニュース341,342より

新潟大学・学長選考会議選考無効確認等請求事件・第2回口頭弁論記録

平成18年(ワ)第32号
原告  山下 威士 外6名
被告  国立大学法人新潟大学
第1準備書面
平成18年4月24日
新潟地方裁判所第2民事部2係 御中

原告代理人弁護士 川 村 正 敏

確認の利益と原告適格につい
上記に関し、以下のリーディング判例がある。

(判旨)
 「思うに、およそ確認の訴におけるいわゆる確認の利益は、判決をもって法律関係の存否を確定することが、その法律関係に関する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位の不安、危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められる。このような法律関係の存否の確定は、右の目的のために最も直接的かつ効果的になされることを要し、通常は、紛争の直接の対象である現在の法律関係について個別にその確認を求めるのが適当であるとともに、それをもって足り、その前提となる法律関係、とくに過去の法律関係に遡ってその存否の確認をもとめることは、その利益を欠くものと解される。しかし、ある基本的な法律関係から生じた法律効果につき現在法律上の紛争が存在し、現在の権利または法律関係の個別的な確定が必ずしも紛争の抜本的解決をもたらさず、かえって、これらの権利または法律関係の基本となる法律関係を確定することが、紛争の直接かつ抜本的な解決のため最も適切かつ必要と認められる場合においては、右の基本的な法律関係の存否の確認を求める訴も、それが現在の法律関係であるか過去のそれであるかを問わず、確認の利益があるものと認めて、これを許容すべきものと解するのが相当である。

 ところで、法人の意思決定機関である会議体の決議は、法人の対内および対外関係における諾般の法律関係の基礎をなすものであるから、その決議の効力に関する疑義が前提となって、右決議から派生した各種の法律関係につき現在紛争が存在するときに、決議自体の効力を既判力をもって確定することが、紛争の解決のために最も有効適切な手段である場合がありうることは、否定しえないところと解される。商法252条は、株式会社における株主総会の決議の内容が法令または定款に違反する場合においては、その決議の無効の確認を請求する訴を提起することができ、決議を無効とする判決は、第三者に効力を及ぼす旨を規定しているが、これは、右のように、決議自体の効力を確定することが、決議を基礎とする諾般の法律関係について存する現在の法律上の紛争を抜本的に解決し、かつ、会社に関する法律関係を明確かつ画一的に決するための手段として、最も適切かつ必要であることに鑑み、かかる訴につき確認の利益を肯定したものと解される。そして、このような紛争の抜本的解決の必要性が株式会社のみに特有の現象であるとして、かかる訴がとくに例外的に認められたというものでないことは、他の若干の法人の意思決定機関の決議につき商法252条を準用する規定の存することによっても、窺い知ることができるのであるが、さらに、実定法上その旨の明文の規定が存在しない法人にあっても、同様の趣旨において、意思決定機関の決議がその本来の効力を生じたかどうかを確定することを求める訴を許容する実益の存する場合があることは否定しがたく、この点につき右の準用規定の存する法人と然らざるものとで截然と区別する実質的な理由は認められないのであって、明文の準用規定を設けていない法人についても、商法252条を類推適用することは必ずしも許されないことではないと解すべきである。

 本件におけるように、学校法人の理事会または評議員会の決議が、理事、理事長、監事の選任ないし互選、それらの者の辞任の承認等を内容とする場合に、右決議の効力に疑義が存するときは、右決議に基づくこれら役員の地位について争いを生じ、ひいては、その後の理事会等の成立、他の役員の資格、役員のした業務執行行為および代表行為の効力等派生する法律関係について連鎖的に種々の紛争が生じうるのであって、このような場合には、基本となる決議自体の効力を確定することが、紛争の抜本的解決のため適切かつ必要な手段であるというべきであり、私立学校法が商法252条を準用する規定を設けていないことを理由に、右決議の効力を争う訴につきその利益を否定することは、相当でないのである。

 したがって、学校法人の理事会または評議員会の決議の無効の確認を求める訴は、現に存する法律上の紛争の解決のため適切かつ必要と認められる場合には、許容されるものと解するのが相当である。これと異なり、前示のような見解のもとに、ただちに、本件各決議の無効確認の訴を不適法として却下した原審の判断は、違法たるを免れないものというべきである。」(最高裁昭和44年(オ)第719号同47年11月9日第1小法廷判決)。

 また以下の同旨判例がある。(最高裁平16(受)1939号、平17・11・8小法廷判決、判例時報1915号19頁)。「確認の利益は、判決をもって法律関係を確定することが、その法律関係に関する法律上の紛争を解決し、当事者の法律上の地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である場合に認められるものである(引用判例として冒頭判例のほか最高裁平成14年(受)第1244号同16年12月24日第2小法廷判決)。

 そこで、上記各判例に依拠して本件を考察する。


学長の権限
 学長は、学校教育法58条3項に規定する職務を行うとともに、国立大学法人を代表し、その業務を総理する。(甲1国立大学法人法11条、甲2新潟大学基本規則7条2)学長は、校務をつかさどり、所属職員を統督する(学校教育法58条3項)。さらに、学長は、役員会の議を経て文部科学大臣に対し、国大法30条3項に定める中期目標についての意見を述べ、年度計画に関する事項を決定し、予算の作成及び執行、並びに決算を決定し、新潟大学、学部、学科その他の重要な組織の設置又は廃止に関する事項を決定する。
 さらに学長は原告らに対する解雇権・懲戒権を有する(職員就業規則25条以下、47条、甲16)。
 以上の明文規定を列挙するまでもなく、学長が被告大学の長として強大な権限を有す
ることはいうに及ばない。

学長の選考と原告らの関係
(1)被告学長の選考は、学長選考会議で選考し、その選考に基づいて被告大学法人が文部科学大臣に任命の申出を行うことにより、大臣から任命されるが(甲1の12条1、2、甲2の8条、1、甲4の2条)、選考会議は、第2次意向投票の結果を参考とし、学長候補者を選考の上、決定するのである(甲4の14条)。そして、原告らがいずれも第2次意向投票の投票権者であることは、訴状記載のとおりである(もちろん第1次意向投票の投票権者でもある)。

(2)上記のとおりであるから、選考会議は必ず第2次意向投票の結果を参考にしなければならない。そして上記の文言が第2次意向投票の結果以外のものを参考資料として記載していないことは、第2次意向投票の結果以外のものを参考にしてはならないとの反対解釈に到達するのであり、百歩を譲って何らかの資料を参考にする余地が残されていても、その参考の程度は第2次意向投票の結果に比し格段に小さいといわねばならない。

 かくして、原告らが投票権をもつ第2次意向投票の結果は、選考会議の選考決定に決定的影響を及ぼすものであり、これを左右するものである。すなわち、被告大学の学長の選定は選考会議の選考という手続は経るものの、その実質は第2次投票権者が選定するのである。

(3)上記のとおり、被告大学の学長の選定は、その実質において第2次投票権者が行うのであり、原告らはその構成員である。しかも原告らはいずれも教育職員として、上記強大な権限を有する被告大学の学長の下にあるのであるから、学長の行為によって(最高裁判例のいう)その地位ないし利益が害される危険があり、学長が適正に選定されることについて法律上の利益がある。
 原告らと被告大学との間には、現在、形式上現学長に任命された長谷川彰が適法に選定された学長であるか否かが争われているが、その争いは、選考会議の決議に対する疑義から出ているものであり、同決議の効力を確定することが原告らの教育職員としての地位ないし利益が害される危険を除去するために必要かつ適切である。

(4)学長の任命は、被告大学(法人)の申出に基づいて文部科学大臣が行うこととされ(甲1の12条)、その申出は選考会議の選考(決議)に基づいて被告大学(法人)が文部科学大臣に行うものとされている(甲2の8条)。換言すれば、規約上は選考会議が学長候補者を選定することになり、その結果に基づいて申出を行い、その申出に基づいて任命が行なわれるのである。
  この手続のなかで、最も基本的な行為が選考(決議)であることはいうまでもない。すなわち、選考(決議)が申出や任命の基礎をなす。したがって、選考(決議)が無効であれば申出も無効となり、申出が無効であれば任命も無効となる。そうであってみれば、原告らが選考(決議)の無効確認をもとめることに確認の利益があることは当然である。

(5)本件での選考会議の選考結果は長谷川彰7票、山本正治3票であった。しかし、仮に鈴木佳秀が山本正治に1票を投じれば結果は7票対4票となり、長谷川彰は甲4の6条に定める、議決に必要な3分の2を獲得できなかったことになる(訴状8頁以下に詳述しているとおりである)。 原告らは上述の結果を度外視したとしても、後述のとおり、投票の結果が公平・適正になされたかを監視する権利と責任をもつものであるが、選考(決議)が上述の結果をもたらしたことを考えるならば、確認を求める利益は一層強いのである。

申出の取消しについて
 前記のとおり、任命に至る一連の行為のなかで、その基礎をなすものは選考(決議)である。しかし、選考(決議)の無効を確認しても申出行為は残る。申出行為は選考(決議)から派生するものではあるが、学長は「国立法人の申出に基づいて」大臣が任命することになっており、それを取消さないでもよいのかという疑義は残らないでもない。そこで請求の趣旨にその取消を求めた。

確認訴訟における訴えの利益と原告適格の相即不離
 確認・訴訟では確認の利益と当事者適格は表裏一体の関係にあり、確認の利益のある限り当事者適格もまた当然肯定されるという関係に立つ(例えば三ヶ月章「民事訴訟法」有斐閣65頁)。
 しかし、なお原告らが当事者適格をもつことについて詳述する。
投票権の権利内容:侵害される利益・権利
(1) 投票を行う者は、自己の投票が公正に評価されることを求める権利をもつ。これは、「投票」についての一般原則である。その一事からしても、原告たちが、本件の学長選考過程において、そのプロセスの公正さを確認する資格を有するというべきである。すなわち、原告には、原告の投票結果が、手続的に公正に、客観的に処理されることを期待する利益(期待権)が存在する。
 その意味で、本件学長選考会議における学長候補者選考決定は、(学長選考会議の裁量を仮に容認したとしても)、みずから定める選考規則に違反し、著しく不公正・恣意的であり、それ故に、同決定は裁量権の範囲を逸脱し、あるいは、裁量権を濫用するものであり、それによって、上記の原告らの利益・期待権を侵害している。
(2) 公職選挙法における選挙無効訴訟の提起権者は、「その選挙に直接利害関係のある、当該選挙区の選挙人または公職の候補者である」(204条)。これは、投票(選挙)についての一般法理を表現したとみるべき条文であり、本件学長選考手続にも当然類推適用できる。したがって、原告ら第二次意向投票権者に、本件の原告適格が認められる。

投票権者の選考過程全体への責任:公職選挙法の選挙無効の争訟の法理
 さらに、投票を行うということは、その投票行動を通じて、学長の選考の全過程を構成する一要素となることにより、選考そのものの公正さを維持すべき責務に任じる。その責務を履行するためにも、第二次意向投票権者に、本件の原告適格が認められる。
 公職選挙法は、202条以下205条において、選挙無効の争訟について規定する。ここで「選挙人」とは、205条4項に例をみるように「選挙の当日投票権を認められた者」のことである。この規定からもうかがわれるように、そもそも選挙(選考)においては、投票(選挙)権者は、ただ自己の一票を投じるだけで足れりとされるのではなく、選挙(選考)そのものの重要な構成要素として、選挙(選考)全体への「監視役」としての職務をもつものである。  (学説ではこれを「選挙争訟は選挙の告示から当選人の決定にいたる集合的行為たる選挙の効力を争うもの」(林田和博『選挙法』有斐閣・1958年・143頁)と表現している)。
 このことからしても、たとえ、今回の学長選考が「選挙」によるのではないにしても、学長選考規則で「第二次意向投票」を学長選考に際しての必須の要件とする限り、今回の投票行動に、この公職選挙法上の選挙無効の提訴権が投票権者に承認されているのと同じ理由で、今回の第二次意向投票の投票権者に学長選考の無効の提訴権が認められて然るべきである。

投票(選挙)行動の公務性
 そのような選考の過程における公正さを維持すべき責務の存在する根拠は、選挙において、選挙(投票)権が当該選挙(投票)者の個人的な権利であるとともに、選挙(投票)という公的任務を担う公務であるということである。
 最高判大判昭和30年2月9日刑集9巻2号217頁、「公職の選挙権が、国民の最も重要な基本的権利の一つであることは、所論のとおりであるが、それだけに選挙の公正は、あくまでの厳粛に保持されなければならない」は、選挙権について、権利性とともに、公務性を認めたものと解されている。
 学説においても、投票(選挙)権は個人の権利であるとともに、「国家機関を形成する権利」とか、「国家目的のための公務」、「公務に参加する基本権」と解されている(参照―辻村みよ子『「権利」としての選挙権』勁草書房・1989年、中村睦男「選挙権の性格」『憲法Ⅰ(注解法律学全集)』青林書院・1994年・334頁以下)。
 このような投票(選挙)の公務性からすれば、投票権者は、一票を投じるという自己の投票行動を終えればその任務を終了するというものではなく、当該選挙においてその目的を達成するまで、すなわち、当選人の確定までの全過程に関係する職務を有するものである。したがって、今回の学長選考において、たとえ表現上は、それが「選挙」ということばを用いていないにしても、今回の学長選考が、従来の学長選挙の延長線上に位置づけられていること、および、投票のもっている一般的な意味からして、上記の選挙についての考えが、そのまま本件学長選考における投票行動にも当てはまる。したがって、この点からも、原告らが学長選考過程の公正さについて裁判所の審理を求める権利を承認することができる。

取締役選任決定の無効の確認の訴えの法理
 会社法(旧商法271条、252条)は、取締役の選任を行う株式総会の決議の無効の確認の訴えを認めているが、大学には株主に該当する者が存在しない。しかし、会社のもっとも重要な役職について裁判所による判定を求める権利を認めた法の趣旨は、上記判例のいうとおり、大学においても適用されるべきものである。その場合、会社における株主に代る者を見出すとすれば、それは、まさに大学内の教育職員をおいて、他に見出しえない。

 投票権者である教育職員こそが、学長選考の公正さを保証する。 もし、第二次意向投票権者である原告らに学長選考の公正さを確認する責務を認めないとすると、そのような選考の公正さを問題にしうる者が、そもそもいないことになる。
 学長選考規則にもとづいて、学長選考会議が学長候補者を決定する。その際に、同選考会議が前提にする「第二次意向投票の結果」は、当然合法のものでなければならない。その合法・違法の判断は、おそらく学長選考会議が行うであろう。また、その学長選考会議の「決定」も、当然合法のものでなければならない。その合法・違法の判断は、誰が行うのであろうか。これほどの重要な決定について、審査機関が存在しないことは、ありえない。しかし学内においてそれが存在しない以上、裁判所が予定されているというほかはない。では、その裁判所に対して、誰が、この学長選考会議の決定の合法性の審査を要求するのであろうか。もちろん、学長選考会議自身ということはありえない。してみれば、大学という高度の自治を保障されている組織において、大学内の教育職員という構成員以外に、このような問題を適正に扱いうる者をみいだすことができないのである。それが、裁判を受ける権利の表現でもある。
 にもかかわらず、もし万が一、大学構成員で、しかも、今回の第二次意向投票の投票権者にすら選考の過程における違法性を問題にすることを許さないとすれば、その「決定」・選考の公正さを保証する者が不在ということになる。民主性と透明性とを根幹とする大学において、このように重大な決定の履行を確認するものが存在しないことなど、ありえない。
 さらに翻って、新潟大学の構成員は、就業規則によって、新潟大学の健全な運営と発展に責任を分担している。そのことは、同規則の職員の義務規定や懲戒規定に明らかであり、そこでは、大学構成員は、「大学の名誉を侵害するような行為を行わないこと」(甲16の35条)と義務づけられている。したがって、新潟大学、あるいは、大学構成員が、他に恥じるような行動を行っている場合、大学構成員として、それを訂正するよう行動する義務が有る。本件のように被告大学に違法の行為がある場合、それを公正な機関によって判定してもらうべく、大学教育職員が行動することは当然の権利である。

 以上の根拠から、大学構成員の内、教育・研究・さらには運営にも、もっとも大きな責任に任じるべき本件の第二次意向投票権者である教育職員が、学長選考という、大学にとってもっとも基本的な制度の公正さを維持するべき任務を引受けるべきことは、対社会的にも自明の理であり、原告らの原告適格を承認できる。


投稿者 管理者 : 2006年05月17日 00:01

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