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2006年09月27日

アメリカの大学教授職における有期雇用の実態

大学教授職の再定義
 ∟●叢書

 この間,アメリカにおける大学教員の雇用形態について調べてみた。日本では有期雇用の専任教員が増加し,一般の民間企業と同じく雇用形態の多様化と呼べる現象が見られるが,アメリカの大学においても同様であった。

 広島大学高等教育研究開発センターが2005年10月に発行した叢書『大学教授職の再定義-第32回(2004年度)『研究員集会』の記録』にある1つの論文、マーティン・フィンケルスタイン「アメリカ大学教授職の変容―日本への示唆―」は,次のような実態を明らかにしている。

 アメリカの大学教員は,1980年から2001年まで全体で68.6万人から111.3万人へと約42.7万人増加しているが,このうちフルタイム教員は16.8人増,これに対してパートタイム教員は25.9万人増であり,後者が大学教員増加の中核をなしている。この傾向は,1990年代以降において著しい。その結果,2001年において,教員全体に占めるパートタイム教員の比率は,45%に達している。

 また,フルタイム教員の中でも,任期付き任用形態が確実に増加を示したようだ。1990年代以降において,フルタイム教員の新規雇用の状況をみれば,テニュアポストは約半数に過ぎない。すなわち,任期付き有期雇用形態は新規に雇用されたフルタイム教員の半数に達している。こうして,アメリカにおいては,2001年現在,「テニュアトラックにないフルタイムの割合は,教員全体の30%近くにのぼるという。

 上記論文は,今後の趨勢として,次のように指摘している。
「現在のテニュア付き教員の4%がこの先20 年間にわたり毎年退職したとすれば(すなわち,現在のテニュア付き教員の80%,これは全フルタイム教員の40% にあたるのだが)全フルタイム教員の20%しかテニュアを持たないことになる。もし彼らがテニュアトラックにある者とテニュアトラックにない者とに二分される,フルタイム教員集団にとって代わられ(すなわち,全フルタイム教員のたった40%が,現在テニュアトラックにある教員である),この先20 年間にわたってこのフルタイム教員の雇用パターン,テニュア教員とノンテニュア教員がそれぞれ半々という採用を続ければ,フルタイムのテニュア教員の割合は30%にまで徐々に縮小されるだろう。」

 こうした変容は,大学教員の多様化と役割の変化を示唆するものである。詳細は,上記論文に譲るとして,日本の場合,正確な実態はどうなっているのだろうか。こうした状況を知るための統計は見たことがない。因みに,有期雇用教員の占める比重が大きいと言われる代表格として,立命館大学の場合を取り上げてみよう。

立命館大学の場合

 有期雇用の教員は,専任教員と兼任教員(いわゆる一般非常勤)に分けることができる。一般非常勤は,別の大学(本務校)で雇われる専任教員とそうでない者とに大別できるが,それを数値で区別できないことから,問題を前者(立命の専任教員でありながら有期雇用者)に限定したい。
 ここで用いる資料は,同大学がHPに掲載し大学基準協会の点検・評価項目に準拠して作成している「大学基礎データ」(2003年度2005年度2006年度)である。このうち,表19(例えば2003年度はこれ)が最もそれを正確に示している。表19は,専任教員数を明記するものであるが,同表には,専任教員でありながら,教授会での決議権,研究条件が専任教員と異なる者として,「特任教員(外数)」という欄がある。立命館大学の場合,この「特任教員(外数)」の内訳表が別表で掲載しているが,これをみると,有期期間の任用をもつ専任教員が全てこの外数に入れていることがわかる。したがって,同表を使って,立命館大学の専任教員のうち,有期雇用の専任教員の比率を計算すると次のような実態となる。

立命館大学における専任教員と有期雇用者比率

  専任 特任(外数) 合計 特任(外数)の比率
2003年 638 134 772 17.4%
2005年 705 207 912 22.7%
2006年 852 278 1130 24.6%

 上記表にある「特任(外数)」の比率が,立命館大学の全専任教員に占める有期雇用専任教員の比率である。2003年度以前のデータはHPに公表していないので不明であるが,同表をみてもわかるように,わずか3年間のうちにもその比率は増加し,2006年度には24.6%(4人に1人の割合)になっていることがわかる。こうしてみると立命館大学もアメリカ並みに近づいたと言えようか(立命館大学における有期雇用に依存する専任教員体制は,その種類の多さとともに若手研究者を対象とするものを内に含んでいる点に特徴をもつ。この点の指摘は別の機会に譲る)。

 因みに,2006年度,「学校教育法施行規則等の一部を改正する省令」により,大学設置基準の一部が改正され,第12条「専任教員」の規定も変更された。すなわち,

旧大学設置基準
「(専任教員)
第十二条  教員は、一の大学に限り、専任教員となるものとする。この場合において、専任教員は、当該大学以外における教育研究活動その他の活動の状況を考慮し、当該大学において教育研究を担当するに支障がないと認められる者でなければならない。 」

新大学設置基準
「第十二条  教員は、一の大学に限り、専任教員となるものとする。
2 専任教員は、専ら前項の大学における教育研究に従事するものとする。
3 前項の規定にかかわらず、大学は、教育研究上特に必要があり、かつ、当該大学における教育研究の遂行に支障がないと認められる場合には、当該大学における教育研究以外の業務に従事する者を、当該大学の専任教員とすることができる。」

 この緩和は,ますます専任教員の多様化と同時に雇用形態の多様化をもたらすことは間違いない。

投稿者 管理者 : 2006年09月27日 00:01

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