個別エントリー別

« 東京私大教連、声明「臨時国会での徹底した逐条審議を通し、『教育基本法案』の廃案を求めます」 | メイン | その他大学関係のニュース(主に大学別) »

2006年09月28日

教育基本法「改正」法案と大学との関わり

 教育基本法改正問題については,憲法改正との関わり,愛国心の是非,現行教育基本法第10条の重要性以外にも,大学人として考慮すべき問題も多い。
 下記は,政府提出の「改正」法案の一部。なぜ,こんな条文が新しく付け加わったのか。その意図するところは何か。

……

(大学)
第七条 大学は、学術の中心として、高い教養と専門的能力を培うとともに、深く真理を探究して新たな知見を創造し、これらの成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与するものとする。
2 大学については、自主性、自律性その他の大学における教育及び研究の特性が尊重されなければならない。

(私立学校)
第八条 私立学校の有する公の性質及び学校教育において果たす重要な役割にかんがみ、国及び地方公共団体は、その自主性を尊重しつつ、助成その他の適当な方法によって私立学校教育の振興に努めなければならない。
……

(教育振興基本計画)
第十七条 政府は、教育の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、教育の振興に関する施策についての基本的な方針及び講ずべき施策その他必要な事項について、基本的な計画を定め、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない。
2 地方公共団体は、前項の計画を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体における教育の振興のための施策に関する基本的な計画を定めるよう努めなければならない。

……

教育基本法「改正」情報センター、声明よりり一部抜粋

□大学における教育・研究の変質を導く第七条「大学」の新設

中間報告では、明確に、教育を「国際競争力の基盤」として位置づけ、その「人材」養成に課題を特化させる視点を表明し、そのために「国民全体の教育水準の一層の向上」を図り、「大学の競争力」を高めなければならない、としています。

今回、いくつかの条文を付け加え、それを新たに教育基本法を制定する理由としていますが、第七条として新設しようとしている「大学」の条文も大きな問題を含んでいます。一見すると、学校教育法の条文と似ており、目新しいものではないように見えますが、学校教育法では、あくまでも専門の学芸の教授研究によって、知的、道徳的及び応用的能力を展開させることを「大学の目的」としているのに対して、今回の法案では、「専門的能力」を培うこと、そして、社会発展に「寄与」することが大学の目的として明記され、大学に対して人材養成、そして、社会貢献をその任務をつきつけているのです。

第7条は、国立大学法人法制定以降、文科省が陰に陽に国立大学法人に強要してきた“社会貢献”“産学連携”に法的根拠を与えるので、大学の変質に拍車をかけるものとなります。

□大学を含む教育への政府の無制約な介入を導く「教育振興基本計画」

さらに大きな問題点は、「教育振興基本計画」が盛り込まれていることです。第7条で大学に関する規定が設けられているので、大学もまた、この計画の対象となるのです。……

全国私立学校教職員組合連合、声明より一部抜粋

教育基本法改悪は、私立学校法からの後退、私学「統制」法ともいうべき内容

このように今回の改悪を歓迎する私学の経営者も一部にいますが、改悪教育基本法は、これまでの憲法・教育基本法・私立学校法・私立学校振興助成法から見ると大きな後退です。

1949年に制定された私立学校法では、「その自主性を重んじ」となっているのに、今回は「その自主性を尊重しつつ」となっており、「つつ」とは、岩波国語辞典によれば、「イ一方の動作と共に他の動作も行われていることを表す。ロにもかかわらず」と解説されているように、私学の自主性が尊重されているわけではありません。

それどころか、私学も「教育の目標が達成されるよう」にしなければなりません。今回の改悪案の中に、「私立学校」が盛り込まれたのも、「教育の自由」を奪い、私立学校を国の教育の統制下におこうとするたくらみでしかありません。これまでも多くの私立学校では、「教育の自由」に基づき、自由な校風と、伝統・文化を育んできました。しかし、こうした私学にも「愛国心」や「公共心」が強制され、私学助成がヒモつき助成として、私学を国の教育の先導校や公立後追いの学校にしようとするものと言わざるをえません。今回の改悪はまさに「教育の自由」・「私学の自由」を奪い、私学の統制法、私学束縛法としかいいようがありません。

改悪教育基本法で私学助成は補助金化し、「ヒモつき助成」に
私学助成に関していえば、戦後私立学校も公教育と位置づけられましたが、残念ながらいっさいの私学助成がありませんでした。私学関係者の努力、そして私学助成を求める私たちの運動、時には2000万を超える私学助成署名によって、国民の合意を取り付けてきたといえます。1970年に地方交付税で高校生一人当たり5000円がついたことをはじめとして、1975年の私立学校振興助成法によって、文部省(当時)の国庫補助が始まり、今日の私学助成に到っています。しかし、与党は、私たちのこうした運動と国民の声を逆手にとり、今回の教育基本法「改正」案の中に「私立学校」を盛り込んで、「改正」への支持を取り付けようとしています。 ……

全大教、声明より一部抜粋

教育、学問、科学技術の目的はこうした方向に歪められ、平和原則に穴が開けられ、産学連携から軍産学協同に進められることは明白である。

第7条で大学についての条文追加があるが、目新しいものではなく、また、これによって課題である大学を含む高等教育、科学研究などの条件整備、財政の確保のきっかけになると考えることはあまりにも浅はかなことである。これはイチジクの葉であると見なければならない。こうした見せかけの条文で教育基本法改定の理由にすることは許されない。また、第16条の教育行政の改定および第17条の教育振興計画の条文の追加は、教育への国家介入を正当化するものであり、教育基本法を「教育国家管理基本法」へ変質、改悪するものである。その意味では教育基本法の充実などではなく、改悪そのものであり、有害で一利もない。 ……

日本私大教連、声明より一部抜粋

「法案」第7条には「大学」条項が新設され、「成果を広く社会に提供することにより、社会の発展に寄与する」ことが明示されましたが、政府がこの間、国際的な経済競争に勝ち抜くために大学の教育・研究成果を動員する政策を推進していることにかんがみれば、この規定が企図するところは明白です。さらに付け加えれば、大学に対する財政支援や諸条件整備については一切規定されておらず、世界で最低水準の高等教育予算に起因する教育・研究条件の貧困、異常な高学費といった問題状況はまったく省みられていません。……

東京私大教連、声明より一部抜粋

法案で新設された条項のなかに、「大学」と「私立学校」があります。「大学」に関する条文は、大学の目的として現行学校教育法にはない「社会の発展への寄与」を新たに規定し、市場原理を至上の価値とする新自由主義的政策を、いっそう容易かつ直接に現場に持ち込むことを可能としています。これは、学問の自由と大学の自治を侵害する重大な問題です。

「私立学校」に関する条文は、私立学校法が私学の自主性を「重んじ」と規定しているものを、法案は「尊重しつつ」と相対的に弱めていることを除けば、私立学校法や私立学校振興助成法と大きく異なるものではなく、法案の問題性を隠蔽し、批判をかわすための作為と断じざるをえません。むしろ、国際人権規約の高等教育無償化条項を留保し、私学助成を著しく低い水準に放置してきた政府がこうした条文を法案に盛り込むことの欺瞞性を指摘せざるをえません。……

[高等教育機関と教育基本法との関わりを示唆する参考文献]
第164回国会 教育基本法改正案の国会審議【大学・高等教育関係】(2006年5月16日~6月8日)
教育基本法「改正」情報センター、声明「大学を国家の僕、財界のための研究機関、人材養成機関につくりかえる教育基本法案に断固反対しましょう」(2006年5月18日)
全国私立学校教職員組合連合、「私学の自由を奪う教育基本法の改悪に反対し、公教育は公費で、教育費無償を実現しよう!」(2006年6月19日)
全大教、声明「改憲への道につながる教育基本法改悪に反対し、国会での廃案を求める」((2006年05月14日)
日本私大教連、声明「教育基本法「改正法案」の徹底審議を通じた廃案を強く求める声明」(2006年5月17日)
東京私大教連、中央執行委員会声明 私大教職員は教育基本法改悪法案の廃案を求めます」(2006年5月19日)

投稿者 管理者 : 2006年09月28日 00:01

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://university.main.jp/cgi4/mt/mt-tb.cgi/2374

コメント