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2006年10月17日

全大教、教育基本法案の廃案を求める共同アピール(声明)

全大教
 ∟●教育基本法案の廃案を求める共同アピール(声明) 2006年10月11日

教育基本法案の廃案を求める共同アピール(声明)

2006 年10 月11 日
日本私立大学教職員組合連合(日本私大教連)中央執行委員会
全国大学高専教職員組合(全大教)中央執行委員会

1.本年4 月28 日、政府が国会に提出した「現行教育基本法の全部を改正する」「教育基本法案」は、5 月24 日から「教育基本法に関する特別委員会」(以下、特別委)において実質的な審議にかけられたものの、同法案の重大性が明らかになるにつれ急速に広がった反対運動と世論により、衆議院を通過できないまま国会会期末を迎え、6 月15 日の特別委において継続審議となった。

2.政府案のもつ重大な問題点を改めて要約すれば、第1 に、現行教育基本法の重要な理念である、教育の有する本来の公共性と自主性、国民に対する直接責任性を否定し、教育への国家的・権力的統制を正当化するものであること。第2 に、「愛国心」に代表される徳目主義的な教育目標を法定化し、国公私、学校内外の別なく、あらゆる教育の領域と場面においてこれを強制するものであること。第3 に、国家的統制の下、“計画・実施・評価・評価に基づく財政配分”サイクルを軸に、競争と格差拡大、選別・淘汰をさらに激化させる教育「改革」を法により正当化・固定化することである。
 これらは現行法の理念・性質を根本的に転換するだけでなく、憲法の精神に反するものであり、断じて容認できるものではない。このような法案を提出すること自体、その責任が厳に追及されるべきである。
 さらに、改正案第7条には大学条項が新設されたが、大学も道徳主義的な教育目標を実行する義務を負わされるとともに、「教育振興基本計画」を軸とする教育行政の統制下に置かれることが明確である。さらには、第7 条で「社会の発展に寄与する」ことが目的として明示されたことで、政府による短期的かつ一面的な経済政策へ大学の教育研究活動を動員する施策がいっそう強化されることになろう。教育基本法「改正」によって、学問の自由と大学の自治の法的保障が危うくなることは明白であり、この点からも私たちは「改正」案を断じて認めることはできない。

3.先の国会での法案審議における最大の問題は、教育基本法をなぜいま全面的に「改正」しなければならないのか、その理由がまったく明らかにならなかったことである。特別委の前半における論戦の焦点は当然に「改正」理由に当てられたが、法案立案過程において教育基本法「改正」推進派がしきりに喧伝していた、さまざまな教育問題・社会問題があたかも教育基本法に起因するかのような議論は完全に鳴りを潜め、政府・文科省は、「教育をめぐる諸情勢の変化の中で教育の根本にさかのぼった改革が求められている」といった極めて抽象的な「公式答弁」を繰り返すばかりで、より具体的・説得的な説明はまったくなされなかった。また多くの委員が、実質的に法案を立案した与党検討会における議論内容の公開を迫ったが、政府は結局これに応じようとはしなかった。
 こうした状況はむしろ、政府が改正理由の本質的な部分を隠蔽しているのではないかとの疑念を深めさせるものである。教育基本法という重要な法律を、不明確な理由で改正するなど到底許されることではない。

4.また審議の際立った特徴として、自民、民主の改正推進派により「GHQ によって抑圧された日本の伝統の復活」のための改正という主張が競うように展開されたことが挙げられる。すなわち、「GHQ の強制によって、(中略)日本人の精神的バックボーンが抜け落ちていたことを、おくればせながら修正しようという点にある」、「教育基本法の『改正』は、憲法の改正と並んで、戦後体制のゆがみを是正して、失われた日本の伝統と美徳を取り戻す、そういった『改正』でなければならない」などといった発言が繰り返された。これらに対し、小坂文科大臣、安倍官房長官(当時)ら閣僚、政府参考人らは、こうした主張を正面から承認する答弁はさすがに行わなかったものの、「昔の日本の伝統・美徳を取り戻す」必要については積極的に共感するとの答弁を繰り返した。
 審議のこうした状況は、結果として、教育基本法「改正」の目的における、現行憲法を敵視する国家主義的側面を浮き彫りにするものである。すなわち、日本国憲法が謳う「理想」の実現を「教育の力にまつ」とした現行教育基本法が内在させている準憲法的性格を、今次改正により解体し抹消することを企図していることは明白である。そもそも、これら戦後憲法・教育基本法体制の否定、戦前の道徳的価値の復権は、一部勢力の政治的要求でしかなく、教育の営みの内からの要請に立脚した議論では決してなく、まさに教育への「不当な支配」以外の何ものでもない。

5.安倍新首相は、総裁選挙にむけた「政権の基本的方向」に「教育の抜本的改革」「『百年の計』の教育再生をスタート」を掲げ、その前提として教育基本法「改正」を臨時国会の最優先課題とすると明言している。また、教育改革を議論する首相直属の諮問会議を新設することや、教員免許の更新制など改革の具体策を反発があっても推進する決意を表明し、大学の入学時期を9 月にずらしてその間を奉仕活動に充てるなど細かな具体案まで提唱している。安倍首相は先の特別委に官房長官としてほとんど出席し、その審議状況が極めて不十分であることを把握していながら、また東大基礎学力開発研究センターが行った調査で、公立小中高の校長66.1 %が政府案に反対しているなど、広範に広がる改正反対の声、改正の必要に対する疑問の声を無視して、教育基本法「改正」を前提とした施策実施に強権的な姿勢を示していることを、私たちは強く批判するものである。

6.東京地方裁判所は9 月21 日、国歌斉唱義務不存在確認等訴訟において、東京都が教職員に「日の丸・君が代」を強制した通達等について、思想・良心の自由を侵害し、教育行政による教育の「不当な支配」に当たるものとして違憲・違法と断じる極めて正当かつ明確な判決を下した。この判決は、政府が特別委で繰り返した、愛国心を態度として教育目標に入れることは内心の自由の侵害にならない、法に定めるところによれば何をしても「不当な支配」に当たらないとする答弁をも否定するものである。
 私たちは、国会において、前通常国会での審議経過、広範な国民世論、そして上記判決を踏まえ、政府案のもつ問題性を徹底的に明らかにし、幅広い共同の取り組みにより、これを廃案とすることをあらためて学内外に呼びかけるものである。


投稿者 管理者 : 2006年10月17日 00:26

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