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2006年11月20日

自由法曹団、教育基本法特別委員会及び衆議院本会議での強行採決に強く抗議する声明

自由法曹団
 ∟●教育基本法特別委員会及び衆議院本会議での強行採決に強く抗議する声明

教育基本法特別委員会及び衆議院本会議での強行採決に強く抗議する声明

 与党は、2006年11月15日教育基本法特別委員会で、引き続き、同月16日衆議院本会議で、野党の全議員が欠席のまま教育基本法「改正」案を強行採決した。これは多くの国民の声を無視した暴挙であり、民主主義に反するものである。同時に教育基本法案には、多くの問題があり、これらについて十分な審議がなされるべきものである。にもかかわらず、与党が政治的力関係だけに頼って強行採決をなしたことに、強く抗議する。

1.世論を捏造する「やらせ質問」の解明をしないまま、教育基本法「改正」法案を採決することは許されない。

 教育基本法は、日本国憲法と密接に関連し、教育法体系の根本理念を定める準憲法的な性格を有する法律である。教育基本法は、教育の根本的目的が子どもの自由かつ独立の人格としての成長にあることを示し、国家に対して、その目的を達成するための教育の実践を命じる立憲主義の精神をもつ基本法である。したがって教育基本法を改正するためには、国民の民意に十分に耳を傾け、その意向が国会審議の進行にも十分反映して進められるべきことは当然のことである。

 政府は、2003年から今年9月までに全国8ヵ所で教育改革タウンミーティングを開き、それをもって「国民的理解を深めてきた」と説明してきた。しかしながら5ヵ所のタウンミーティングで、内閣府を通じて文科省が事前に用意していたいわゆる「やらせ質問」がなされていたことが明らかになっている。更に少なくとも65人のタウンミーティング質問者等に対し5000円の謝礼が支払われていたことを塩崎官房長官が認めるという、ゆゆしき事態となっている。これは明らかに政府が、「国民」は教育基本法「改正」案に賛成しているかのように世論を捏造するものである。国民の「信を失った」文科省・政府は(『毎日新聞』2006年11月12日付社説)、この問題の原因を解明することなく、同法の「改正」を行う資格はない。

2.現行教育基本法を「改正」する必要のないことは、ますます明らかになっている。

 政府は「やらせ質問」を認めた際、その理由について、「教育基本法に関する意見がなかったので、議論を活性化するため」と説明しているのであるが、政府が2006年4月28日通常国会に本法案を提出して以来、国会審議の中で、現行教育基本法「改正」の必要性・立法事実について説得力ある説明ができないことと照らして考慮すれば、法改正の必要性がないことが、ますます明らかになっている。

 国民は、いじめや不登校問題の解決、少人数学級の実施や高校全入制度の実現を含めた、子ども達が安心できる「居場所」のある学校生活の実現、親の経済力によって学力に格差がつけられないようにする施策等を望んでいるが、これらは教育基本法「改正」によって実現できることではない。これらは、現行教育基本法をその理念に基づいて運用することによってこそ実現できるのであり、かつ、そのことが急務となっている。
 これらのことからすれば、今なすべきことは、教育基本法の理念を生かし、これに基づく施策を強化することなのであって、教育基本法を「改正」する理由は全くない。

3.教育基本法「改正」案には、多くの問題点があり、廃案にすべきものである。

 同法は現行法10条1項の改定、「改正」案17条の教育振興基本計画の策定の義務付けなどを通じ、国家権力にとって都合の良い法律と時々の恣意的な政策を持って教育内容への無制限の介入が可能となる。また、愛国心をはじめとする20にも及ぶ徳目教育をなすことを法定化することにより、国家権力によって「あるべき」国民の姿をも作り出そうとしている。

 現在においても、国は、卒業式等における国旗掲揚国歌斉唱の強制、愛国心を評価する通知票の導入を行っており、教育基本法が「改正」された暁には、このような国家による教育への介入が激化していくことは自明である。これらは、国家権力にとって都合の良い「あるべき」国民の姿をつくりだそうとするものである。憲法と一体となり自律的な「人格の完成」を目指すべき教育は、その本質から覆されることになる。

 憲法9条の改悪を中核とする自民党新憲法草案が発表され、我が国の軍事国家化が進められようとしている今、「あるべき国民」をつくりだそうとする教育基本法「改正」は、このような新憲法草案と一体となって、我が国を「戦争する国へ」と導くものであり極めて危険なものである。

 また、法案のもとで進められる国家による教育内容への介入は、教育における「平等」や「機会均等」を変質させ、能力主義の徹底や競争のさらなる激化に道を開くものでもある。法案は義務教育期間「9年間」の定めを削除し、これを弾力化することも認めている。さらに、教育振興基本計画に基づく「成果」による予算配分、教員評価制度などの一連の教育「改革」、全国一斉学力テストの実施などは、国家が子ども・親・教師・学校を巻き込んだ競争・格差を拡大する計画を立案し、それを協力に推し進めることを意味するものである。教育における格差は現在よりも、ますます増大されていくことになる。
 このような問題を持つ教育基本法「改正」案は、本来廃案にすべきものである。

4 教育基本法「改正」案について、この間、「一から議論をやり直す時だ」(『毎日新聞』2006年11月12日付社説)に代表されるマスコミの論調、教育・教育法及び関連する多くの学会声明、元校長・教頭の有志の意見、日本弁護士連合会や40単位弁護士会等の声明、その他多くの団体が法案に反対の意見を表明してきた。また、直近のNHKの世論調査によると、この法案に賛成の人の中でも、66%の人が「今国会に限らず慎重にすべき」と答えている。更に国会前では多くの国民が、法案に反対の態度を連日表明している。
 にもかかわらず与党はこれらの世論をまったく無視して、専ら与党の政治的力関係だけに頼って教育基本法特別委員会並びに衆議院本会議で強行採決をなしたのである。

 私達は、この暴挙に強く抗議し、教育基本法「改正」案の参議院での廃案をめざして全力をあげて今後もたたかうことをここに表明する。

2006年11月16日
自由法曹団団長 松 井 繁 明


投稿者 管理者 : 2006年11月20日 00:02

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